説明

酸素化ガスが注入された膜、およびその製造方法

基材と酸素化ガスが注入された被覆層とを有する物体が開示される。本発明の被覆層によって、従来の被覆と比較して改善された物理的耐久性、耐薬品性、光透過性、およびアブレーション性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜に関し、特に、酸素化ガスで活性化された炭素膜に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素膜は、種々の商業的に重要な用途において使用されている。炭素は、その低コスト、耐食性、比較的化学的に不活性、抵抗特性、および取り扱いの容易さのために魅力的である。
【0003】
炭素皮膜抵抗器は、電子デバイス中に一般に使用されている。これらの抵抗器は、炭素膜で被覆されたセラミック棒を有する。この膜は、炭素粉末とセラミック粉末(典型的にはアルミナ)とが種々の比率で混合された複合材料である。棒の間で所望の抵抗が得られるように、炭素膜は機械によって「らせん状に除去」される。金属リード線およびエンドキャップを取り付け、抵抗器を絶縁被覆で覆う。炭素粉末とセラミック粉末の比率、および”らせん”の程度を変動させることによって、種々の抵抗値を得ることができる。
【0004】
炭素膜は、金属エッチングのパターンマスクとしても使用されている。たとえば、米国特許第6,939,808号明細書(2005年9月6日発行)には、フォトレジスト層を非晶質炭素層と組み合わせて使用して金属層にパターンを形成することが提案されている。
【0005】
炭素膜は、生体分子の検出および定量化のためのプローブとしても使用されている。たとえば、炭素皮膜抵抗電極が、オキシダーゼ系酵素のバイオセンサー中の電極変換器として使用されている(DeLuca,S.et al.,Talanta,68(2):171-178(1995))。
【0006】
炭素膜は、ドープしたケイ素上への電子ビーム蒸着による薄膜電極の製造においても使用されている(Blackstock,J.J.et al.,Anal.Chem.76(9):2544−2552(2004))。炭素膜電極を製造するための、ポリ塩化ビニリデンおよびポリ塩化ビニルコポリマーの熱劣化も報告されている(米国特許第5,993,969号明細書;1999年11月30日発行)。
【0007】
炭素膜は、航空機着陸装置、フラップトラック、及びその他の疲労しやすい部品中の鋼およびチタン合金の有用な被覆となることが報告されている(Sundaram,V.S.,Surface and Coatings Tech.201(6):2707−2711(2006))。炭素が、これらの航空機部品の硬質クロムめっきの代わりに好都合に使用できることが分かった。炭素膜は、改善された摩耗および疲労特性を付与し、より環境的に、そして作業場の安全性において魅力的であった。
【0008】
炭素膜は、眼鏡のコーティングとしても記載されている。米国特許第5,125,808号明細書(1992年8月4日発行)および第5,268,217号明細書(1993年12月7日発行)では、基材をコーティングするために、ダイヤモンド状炭素層および中間の「中間層」の使用を議論している。背景技術の項では、親基材に対するコーティングの接着性が優れている場合にのみ、ダイヤモンド状炭素コーティングが改善された耐摩耗性を基材に付与すると言及している。背景技術ではさらに、「ガラス基材をコーティングするための最も明らかで一般的な方法は、清浄なガラス表面上にDLCコーティングを直接塗布することである。しかし、この方法では、不十分な接着性、したがって不十分な耐摩耗性を示すDLCコーティングが得られることが多い。DLCコーティングは典型的には大きな縮応力下にある」と言及している。この特許では、接着性を改善するために、DLC層と基材との間に少なくとも1つの中間層を使用することを検討している。
【0009】
炭素のみを含有する膜は、硬質で脆くなる傾向にある。亀裂を最小限にするために、膜の物理的性質を調節するための添加剤が使用されている。
【0010】
国際公開第2006/011279号パンフレット(2006年2月2日公開)では、基材からの膜の剥離を最小限にするために、水素含有炭素膜の使用が提案されている。
【0011】
米国特許第4,647,947号明細書(1987年3月3日発行)では、基材および電磁エネルギー吸収層が記載されている。この層は、テルル、アンチモン、スズ、ビスマス、亜鉛、または鉛などの低融点金属を含有することができる。この層は、あらかじめ決定された温度未満の温度で気体状態である元素を含有することもできる。エネルギーを加えることによって、この記録層が盛り上がって、突起を形成する。
【0012】
米国特許第5,045,165号明細書(1991年9月3発行)では、水素の存在下での磁気ディスク上への炭素膜のスパッタリングが提案されている。この結果得られる膜は、耐摩耗性が向上する。
【0013】
米国特許第 6,528,115B1号明細書(2003年3月4日発行)では、基材上の硬質炭素薄膜が提案されている。この膜は、膜内のSP炭素−炭素結合対SP炭素−炭素結合の比率が、基材界面から薄膜表面に向かうその厚さ方向で減少する段階的構造を有する。炭素薄膜を製造するために、真空チャンバー中でアルゴン、メタン、および水素ガスが使用される。
【0014】
米国特許第6,753,042B1号明細書(2004年6月22日発行)では、耐摩耗性で低摩擦の硬質非晶質ダイヤモンド状炭素被覆を、磁気記録媒体センサーの外面上に直接塗布することが提案されいる。この被覆は、真空パルスアーク炭素スパッタリングおよびイオンビーム表面処理を使用して塗布される。
【0015】
米国特許出願公開第2007/0098993A1号明細書(2007年5月3日公開)では、多層積層ダイヤモンド状膜が提案されている。各層は、炭素、水素、および金属を含有する。これらの層は、水素ガス、メタンまたはエタン、ならびに希ガスを使用した同時スパッタリング法によって製造された。
【0016】
米国特許出願公開第2008/0053819A1号明細書(2008年3月6日公開)では、薄膜エレクトロルミネッセンスデバイスの電極として使用するための炭素薄膜が提案されている。この膜は、低温におけるクローズドフィールドアンバランスマグネトロンスパッタリング法によって製造された。スパッタリングはアルゴンガスを使用して行われ、それによって水素を含有しない膜を製造できた。水素は炭素膜に絶縁性を付与すると記載されており、そのため水素の混入が回避される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
現在までの努力にもかかわらず、従来の炭素膜と比較して向上した性質または異なる性質を示す新規な炭素膜材料が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
少なくとも1種類の注入された酸素化ガスを含有する炭素膜は、酸素化ガスを含有しない炭素膜よりも改善された耐久性および光学的性質を示す。ガスの濃度を調節することによって、所望の性質を容易に実現することができる。
【0019】
以下の図面は、本明細書の一部を構成しており、本発明の特定の態様をさらに示すために含まれている。本発明は、これらの図面の1つ以上と、本明細書において提供される特定の実施形態の詳細な説明とを組み合わせて参照することによって、より十分に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】酸素化ガスの二酸化炭素の濃度を増加させつつ製造した炭素膜の光学濃度の低下(または光透過性の増加)を示している。x軸は、nmの単位での波長である。y軸は、単位厚さ当たりの吸光度(1/nm)である。正方形の記号とともに示される線は、1%(v/v)二酸化炭素を表している。菱形の記号とともに示される線は2%(v/v)二酸化炭素を表している。円形の記号とともに示される線は4%(v/v)二酸化炭素を表している。
【図2】石英(上、比較的平坦なプロット)および注入された炭素層で被覆された石英(下、傾斜したプロット)の波長(単位nm、x軸)に対する透過率(y軸)のプロットを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
組成物および方法は、種々の成分またはステップを含む(comprising)という言葉で説明されるが(「含むが、それらに限定されるものではない」(including,but not limited to)を意味すると解釈される)、それらの組成物および方法は、種々の成分およびステップから「実質的になる」(consist essentially of)または「からなる」(consist of)こともでき、このような用語は、実質的に閉じた要素の群を定義するものと解釈すべきである。
【0022】
材料
本発明の一実施形態は、少なくとも1つの基材と少なくとも1つの被覆層とを含む被覆された物体に関する。基材と被覆層とは直接接触していてもよいし、基材と被覆層との間の1つ以上の介在層が存在してもよい。
【0023】
基材は、一般に任意の材料および形状であってよい。基材は典型的には固体であるが、ゲルまたはその他の半固体材料であってもよい。基材は、金属、ポリマー、無機物、セラミック、またはその他の材料であってよい。基材は、平坦、湾曲、円形、或いはその他の規則的または不規則な形状であってよい。
【0024】
基材は、任意の大きさおよび形状のものであってよい。基材は非常に薄くてもよいし(たとえば1または数ミリメートル)、非常に厚くてもよい(数メートル以上の厚さ)。基本的には、被覆層が塗布される任意の基材を使用することができる。基材の具体例としては、コンデンサ、抵抗器、電極、航空機着陸装置、航空機フラップトラック、航空機部品、およびポリカーボネートディスクが挙げられる。基材の別の例としては、時計の文字盤、電池、眼鏡、レンズ、かみそりの刃、ナイフの刃、歯科用器具、医療移植片、手術器具、ステント、骨鋸、台所用品、宝石類、ドアの取っ手、釘、ねじ、ボルト、ナット、ドリルビット、鋸刃、一般的な家庭用金物、電気絶縁体、ボートのプロペラ、ボートのプロペラシャフト、ボートおよび船舶用製品、エンジン、車両部品、車台部品、人工衛星、ならびに人工衛星部品が挙げられる。
【0025】
被覆層は、基材を完全に取り囲むこともできるし、基材の一部を覆うこともできる。被覆層の厚さは均一の場合も変動する場合もあるが、均一な層が多くの場合好ましい。被覆層の厚さは、基材の全体または一部にわたって薄くから厚くまでの勾配を有することができる。
【0026】
被覆層は、元素状炭素(C)、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、ケイ素、非晶質ケイ素、ゲルマニウム、非晶質ゲルマニウム、またはそれらの組み合わせを含むことができる。本発明では、被覆層は非晶質炭素を含むことが好ましい。非晶質炭素は、光学的性質を変化させるために大量の活性化エネルギーを必要とする安定な物質である。この特徴のため、非晶質炭素は典型的な熱的および化学動力学的な老化過程による影響を受けない。非晶質炭素は、優れた耐薬品性、および高い比率の黒鉛(SP)型炭素をも有する。
【0027】
被覆層は、構造中に注入された少なくとも1種類の酸素化ガスをも含む。用語「注入した」は、非晶質炭素またはその他の材料の中または上に共有結合したり、取り込まれたり、または吸着されたりした少なくとも1種類のガスを意味する。注入されたガスによって、被覆層の接着性が改善する。注入されたガスによって、化学的により緩和した状態で被覆層が堆積し、そのため、被覆層の亀裂または基材からの剥離の可能性が減少する。
【0028】
適切なエネルギー源で処理すると、処理された被覆層は分解してガスを放出することができる。この放出されたガスは膨張して、隆起またはアブレーション部位を形成することができ、それによって処理された箇所と未処理の箇所との間で検出可能な光学コントラストを形成することができる。被覆層には、1種類のガスを注入することもできるし、2種類以上の異なるガスを注入することもできる。
【0029】
用語「酸素化ガス」は、その分子式が少なくとも1つの酸素原子を含むガスを意味する。このようなガスの例としては、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、分子酸素(O)、オゾン(O)、酸化窒素類(NO)、酸化硫黄類(SO)、およびそれらの混合物が挙げられる。酸素は、極端な温度に加熱したときの被覆層の揮発性を増加させると考えられる。さらに酸素は、通常条件下で被覆層を安定化させ、特に炭素膜中の残留応力に関して安定化させると考えられる。この安定化は、酸素が炭素に共有結合すると、炭素を酸化して非常に非反応性の化合物を生成するためであると考えられる。被覆層には、1種類の酸素化ガスを注入することもできるし、2種類以上の異なる酸素化ガスを注入することもできる。
【0030】
被覆層の透明性(または不透明性)は、被覆層の製造に使用されるガスの濃度を調節することによって変化させることができる。本発明者らによって、ガスが高濃度であると、被覆層の透明性が高くなることが分かった。混入されるガスは、XPSなどの方法を使用して検出し定量化することができる。結果として得られる被覆層は、製造中にガスが加えられないことを除けば同じ方法で製造した場合よりも、高濃度の酸素化ガスを有する。
【0031】
ガスは、被覆層のアブレーションを促進することが分かった。被覆層を使用して製造した光ディスクにおけるアブレーションを増強させると現在考えられている機構について、以下に議論する。厳密な機構が、本発明の実施形態を限定するものとは見なされない。書き込み処理中、書き込みレーザーによって発生する過度の熱によって、ガスと炭素原子との間の通常は強く安定な共有結合が破壊される。ガスが加熱され分離する過程によって爆発が生じ、ガスと非晶質炭素との両方が被覆層から放出される。ガスが除去されることによって、被覆層が光ディスクからアブレーションされるか、あるいは、被覆層の書き込まれていない領域よりも被覆層の書き込まれた部分の方が、システム設計に依存して、読み取りレーザーに対して有意により不透明またはより透明のいずれかに永久的に変化するかの複合効果が得られる。被覆層の書き込まれた部分と書き込まれていない部分との両方は、非反応性であり(典型的な熱的および化学動力学的な老化過程による影響を受けない)、光学的に区別できる。さらに、ガスが注入された状態からガスの少ない状態に変化するためには、大きな活性化エネルギーが必要であるため、自然の化学動力学的な老化によって生じる変化が防止される。
【0032】
同様の方法で、レーザーまたは別のエネルギーの使用によって別の基材から炭素膜をアブレーションすることができる。膜のアブレーションは、他の目的で基材にさらなる材料の塗布を案内するマスクを形成するために使用することができ、炭素膜の一部のパターン化または除去によってこの役割を果たすことができる。
【0033】
被覆層は、一般に任意の厚さであってよい。被覆層による基材の被覆は、被覆層がないことを除けば同じ基材と比較して、光吸収性、改善された化学的防護、および改善された物理的防護を付与することができる。化学的防護としては、プラスチックを溶解させたり外観を変化させたりする溶媒などの種々の物質による化学攻撃に対して基材を保護することを挙げることができる。たとえば、ポリカーボネートは、アルデヒド類に対する抵抗性が限定されており、濃酸類、塩基類、ジエチルエーテル、エステル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ベンゼン、ハロゲン化炭化水素類、ケトン類(アセトンなど)、および酸化剤に対する抵抗性が不十分であることが知られている。
【0034】
光吸収性を付与する目的の場合、厚さの下限を約10nmまたは約20nmとすることができる。厚さの上限は、被覆層を変化させるために必要なエネルギーによって決定することができ、選択された材料に依存して変動する。上限の一例は約100nmである。代表的な厚さは、約10nm、約20nm、約30nm、約40nm、約50nm、約60nm、約70nm、約80nm、約90nm、約100nm、およびこれらの値の任意の2つの間の範囲である。厚さの値はλ/2nとして理論的に計算することができ、式中、λは読み取り波長であり、nは層の屈折率である。物理的防護を付与する目的の場合、被覆層の厚さは、光吸収性を付与する場合以上の厚さとすることができる。たとえば、厚さの上限は、約100nm、約1,000nm、約10,000nm、約100,000nm、または約1,000,000nm(1mm)とすることができる。厚さの例は、約100nm、約500nm、約1,000nm、約5,000nm、約10,000nm、約50,000nm、約100,000nm、約500,000nm、約1,000,000nm、およびこれらの値の任意の2つの間の範囲である。
【0035】
本開示の炭素膜の別の利点は、高表面エネルギーを有する炭素表面が形成されることである。このことは、酸素化された膜に独特の利点であると考えられる。たとえば、一般に使用される水素(H)を使用する炭素堆積方法では、高表面エネルギー膜は形成されない。この高表面エネルギーは非常に好都合に使用することができる。たとえば、次に堆積される膜に対する良好な接着性を得ることができる。このことは、ガスが注入されずに炭素膜が製造され、接着性を改善するために炭素層と基材との間に「中間層」を必要とする米国特許第5,125,808号明細書および第5,268,217号明細書において得られる不十分な接着性とは全く対照的である。あるいは、注入されたガスを含有する炭素膜は、触媒として使用することができ、表面界面で化学反応を生じさせることができる。
【0036】
被覆された物体は、物体にさらなる性質を付与するために1つ以上の追加層をさらに含むことができる。層によって、耐擦傷性、耐摩耗性、色、微光、反射性、または多種多様なその他の表面特性を付与することができる。
【0037】
最も単純な一実施形態においては、被覆された物体は基材と被覆層とを含み、被覆層は基材と面接触している。
【0038】
別の一実施形態においては、被覆された物体は、基材と、少なくとも1つの介在層と、被覆層とを含み、基材は介在層と面接触し、被覆層は介在層と面接触している。被覆された物体の断面は、被覆層、次に少なくとも1つの介在層、そして次に基材と交差する。
【0039】
追加層を本発明の被覆された物体に加えることができる。本発明の被覆された物体は、アブレーション捕捉層をさらに含むことができる。アブレーション捕捉層は、基材または表面から除去される炭素およびその他の材料を保持するために使用することができる。アブレーション捕捉層は、アブレーションされた材料を捕捉するために被覆層を覆うことができる。アブレーション捕捉層に好適な材料としては、エアロゲル、または薄い金属層が挙げられる。他の好適な材料としては、アルミニウム、クロム、チタン、銀、金、白金、ロジウム、ケイ素、ゲルマニウム、パラジウム、イリジウム、スズ、インジウム、その他の金属、セラミック、SiO、Al、それらの合金、およびそれらの混合物が挙げられる。アブレーション捕捉層は被覆層に面接触することができる。基材と被覆層とは互いに面接触することができる。
【0040】
製造方法
本発明のさらなる一実施形態は、被覆された物体の製造方法に関する。一般に、この方法は、基材を提供するステップと、1つ以上の追加層を塗布して被覆された物体を製造するステップとを含むことができる。
【0041】
被覆された物体に望まれる個別の層形成に依存して、種々の層を種々の順序で塗布することができる。これらの層のすべてを、基材の一方の側に塗布して、一方の外面上に基材を有する最終製品を得ることができる。あるいは、層を基材の両(またはすべての)側に塗布して、最終製品の外面とならないように基材が配置された最終製品を得ることができる(すなわち基材が完全に被覆される)。
【0042】
最も単純な一実施形態においては、本発明の方法は、基材を提供するステップと、基材と被覆層とが互いに面接触するように、少なくとも1種類の酸素化ガスが注入された少なくとも1つの被覆層を基材の少なくとも1つの面上に塗布するステップとを含むことができる。基材は、前述の基材のいずれであってもよい。被覆層および酸素化ガスは、前述したもののいずれであってもよい。
【0043】
本発明の方法は、塗布ステップの前に基材を真空に曝露するステップをさらに含むことができる。
【0044】
被覆層およびその他の層を塗布する塗布ステップにおいてスパッタリングを使用することができる。被覆層を形成するためのスパッタリングは、前駆体材料および少なくとも1種類の酸素化ガスを提供するステップと、前駆体材料にエネルギーを与えて前駆体材料を気化させるステップと、酸素化ガスが被覆層中に注入されるように、気化した前駆体材料およびガスを基材上に堆積するステップとを含むことができる。アルゴン、クリプトン、窒素、ヘリウム、およびネオンなどの追加の非酸素化ガスがスパッタリング中に存在することができる。これらのガスは不活性スパッタリング用キャリアガスとして一般に使用されている。
【0045】
スパッタリング中の酸素化ガスの濃度は、約0.01%(v/v)〜約25%(v/v)とすることができる。具体的な濃度は、約0.01%(v/v)、約0.05%(v/v)、約0.1%(v/v)、約0.5%(v/v)、約1%(v/v)、約2%(v/v)、約3%(v/v)、約4%(v/v)、約5%(v/v)、約10%(v/v)、約15%(v/v)、約20%(v/v)、約25%(v/v)、およびこれらの値の任意の2つの間の範囲であってよい。これらの値は、不活性スパッタリング用キャリアガス(典型的にはアルゴン)に対する体積/体積である。結果として得られる被覆層は、塗布ステップ中に酸素化ガスが存在しないことを除けば同じ方法で作成した被覆層よりも、注入された酸素化ガスを高濃度で含有する。
【0046】
被覆層およびその他の層を塗布するためにスパッタリング以外の方法を使用することができる。たとえば、プラズマ重合、電子ビーム蒸着、化学蒸着、分子線エピタキシー、および蒸着を使用することができる。
【0047】
少なくとも1種類の酸素化ガスが注入された少なくとも1つの被覆層を塗布するステップは、1つのステップとして行うことができる。あるいは、この塗布ステップは、注入されるガスを使用せずに被覆を塗布する第1のステップと、得られたデータ層にガスを注入するステップとの2つのステップとして行うことができる。
【0048】
より複雑な実施形態においては、1つ以上の追加層を基材に塗布することができる。たとえば、被覆された物体の製造方法は、基材を提供するステップと、少なくとも1つの介在層を塗布するステップと、少なくとも1種類の酸素化ガスが注入された少なくとも1つの被覆層を塗布するステップとを含むことができる。被覆された物体の断面の1つは、被覆層、次に少なくとも1つの介在層、そして次に基材と交差する。
【0049】
本発明の方法は、アブレーション捕捉層と被覆層とが互いに面接触するようにアブレーション捕捉層を塗布するステップをさらに含むことができる。
【0050】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれている。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において十分機能するように本発明者(ら)が発見した技術を示しており、したがって本発明の実施の好ましい形態を構成していると考えることができることが当業者には理解されよう。しかし、本開示を考慮すれば、開示される特定の実施形態において多くの変更を行うことができ、それによって依然として本発明の範囲から逸脱しない同様または類似の結果が得られることは当業者には理解されよう。
【実施例】
【0051】
実施例1:反応性スパッタリングに使用される一般的方法
PVD 75装置(Kurt J.Lesker Company;Pittsburgh,PA)を使用してRFスパッタリングを行った。このシステムは、1つのRF電源、3インチ(7.62cm)のターゲットを保持できる3つのマグネトロンガン、および2種類のスパッタガス用の設備とともに構成された。ターゲットは、スパッタアップ構成で配置した。シャッターが3つのターゲットのそれぞれを覆う。基材を、200℃まで加熱可能な回転プラテン上に搭載した。回転プラテンはターゲットの上方に配置した。ほとんどの実験は、プラテンを積極的に加熱することなく行った。積極的に加熱しなくても、400wにおいてスパッタリング時間を増加させると、温度が最高約60℃〜70℃に到達するまでプラテンの温度が徐々に上昇した。約3時間後に最高温度に到達する。スパッタリング前のチャンバー内の初期温度は、通常約27℃であった。以下の実施例に記載されるように時間、ターゲット、およびスパッタリング源を変更した。
【0052】
使用した基材は、典型的にはシリコン(Si)ウエハ、または約300nmにおけるUVカットオフを有する顕微鏡のガラススライドであった。プラズマ洗浄した基材をプラテン上に搭載した。シリコン基材の一部は、スパッタリング堆積速度を測定しやすくするために、アクリル接着剤を有するテープ片でマスクした。プラテンを所定の位置に配置し、圧力が2.3×10−5torr未満となるまでスパッタリングチャンバーを減圧した。次に、チャンバー内の圧力が約12mtorrとなるように、指定の比率のアルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO)をチャンバー内に導入した。Capman圧力を13mtorrに維持した(Capman圧力はPVD 75装置の装置設定の1つである)。次に、プラズマを炭素黒鉛ターゲット(99.999%;Kurt J.Lesker Company、部品番号EJTCXXX503A4)の上に照射する。出力を400wのRFまでゆっくりと上昇させ、チャンバーの圧力を約2.3mtorr(Capman 圧力は3mtorrである)まで低下させ、その間ずっとAr対COを指定の比率に維持する。次に、黒鉛ターゲット上のシャッターを開き、基材をスパッタリングターゲットに所定の長さの時間曝露する。その時間の終了後、ターゲット上のシャッターを閉じ、出力を低下させる。次にスパッタリングした材料を有する基材を、分析またはさらなる処理のために装置から取り出す。
【0053】
実施例2:AFM厚さ測定の一般的方法
Veeco Dimension 3100装置(Veeco;(Plainview,NY))を使用して原子間力顕微鏡法(AFM)を行い、タッピングモードで画像を取得した。
【0054】
AFMによるステップ高さ測定用の被覆したシリコンウエハを以下のように作製した。表面の一部をマスクしたテープを取り外した。表面をアセトンでぬらし、アセトンを浸した綿棒で拭き取って、残留接着剤と、ウエハの露出部分およびマスクされた部分との間の界面で遊離した材料とを除去した。Siウエハの界面のステップ高さをAFMによって測定した。Siウエハ上の膜の一部をXPSによって調べた。被覆された顕微鏡のガラススライドは、UV−VIS分光法によって分析した。
【0055】
実施例3:UV−VIS測定の一般的測定
ガラススライド上の膜のUV/VIS分光法は、Agilent 8453 UV/VIS分光計(Agilent;(Santa Clara,CA))を使用して行った。分光法測定のため、分光計からの光線が、最初にスライドの空気−ガラス界面を通過し、次にガラス−膜界面を通過するような向きにガラススライドを配置した。各スキャンは、未処理の被覆されていないガラススライドのスキャンとともに行った。被覆されたガラススライドの吸光度スペクトルから未処理のガラススライドの吸光度スペクトルを減じることによって、薄膜の吸光度スペクトルを求めた。本発明者らは、未処理のガラススライドのガラス−空気界面の反射率が被覆されたガラススライド上の膜−空気界面の反射率が同じであると仮定し、膜−ガラス界面の反射率は無視できると仮定している。被覆されたガラススライドのスキャンを行うとき、スパッタリング堆積中、プラテンの中央から2.2cmとなるガラススライドの部分に分光計の光線が通過するように、スライドを配置した。
【0056】
実施例4:光学濃度測定の一般的方法
UV/VIS吸光度を膜の厚さで割ることによって、薄膜の光学濃度を求めた。特定の波長における材料の光学濃度が高いほど、その波長における透明性が低くなる。2つの試料および2回の測定を使用して、光学濃度が求められる。2つの試料は、被覆されマスクされたシリコンウエハおよび被覆されたガラススライドである。これら2つの試料上の膜は、理想的には同時に作製する。被覆されたガラススライドのUV/VIS吸光度スペクトルを求める。Siウエハのマスクされた部分と露出部分との界面のAFM画像を取得し、ステップ高さ測定を行って膜の厚さを求める。次に、吸光度スペクトルのすべての点に沿った吸光度値を膜の厚さで割ることによって、膜の光学濃度スペクトルを求める。
【0057】
実施例5:酸素化ガスが注入された被覆層を有さないディスクの製造
上に被覆を全く有さないポリカーボネート光ディスクを、PVD 75装置のプラテン上に、ディスク上の光学トラックがターゲットに向かうように搭載した。アルゴンをスパッタガスとして使用し、Capman圧力3mtorrにおいて400wのRFのマグネトロン出力を使用して、炭素黒鉛ターゲットを1時間スパッタリングした。これによって、光ディスクの表面上に厚さ約31nmの炭素膜が形成された。次にクロム層を堆積した。
【0058】
実施例6:二酸化炭素が注入された被覆層を有するディスクの製造
上に被覆を全く有さないポリカーボネート光ディスクを、PVD 75装置のプラテン上に、ディスク上の光学トラックがターゲットに向かうように搭載した。ArおよびCOをスパッタガスとして使用し、COを指定の濃度であり、3mtorrのCapman圧力において400wのRFのマグネトロン出力を使用して、炭素黒鉛ターゲットを1時間スパッタリングする。次に、アルミニウムまたはクロムなどの金属層を炭素膜の上に堆積した。
【0059】
実施例7:クロム反射層の塗布
通常は炭素層の堆積後に、スパッタ堆積によってクロム層を光ディスクに塗布した。通常、チャンバーは、炭素層とクロム層との塗布の間は減圧下に維持される。Arをスパッタガスとして使用し、Capman圧力4mtorrにおいて、400wのRFのマグネトロン出力を使用して、クロムターゲットを15分間スパッタリングした。これによって、光ディスクの表面上に厚さ約138nmのクロム膜が形成された。
【0060】
実施例8:スパッタリング時間を変化させることによる膜成長速度の測定
膜の厚さを求めるためにAFMを使用した。前述したように、スパッタリング中は膜をテープでマスクした。スパッタリング後、テープを取り外して表面を洗浄した。次にAFMによってステップ高さを測定した。400wのRFマグネトロンの出力および4mtorrのCapman圧力の条件下でスパッタリングしたクロムは、0.154nm/sの速度で成長することが分かった。これは、5つのデータ点の較正曲線の傾きから求めた。400wのRFマグネトロン出力および3mtorrのCapman圧力の条件下でスパッタリングしたアルミニウムは、0.141nm/sの速度で成長することが分かった。これは、3つのデータ点の較正曲線の傾きから求めた。
【0061】
実施例9:ガス濃度を変化させることによる膜成長速度の測定
炭素膜の成長速度は、スパッタガス中の二酸化炭素のパーセント値に依存することが分かった。全ての実験で実験条件は一定であり、400wのRFマグネトロン出力、およびCapman=3mtorrである。実験を行ったアルゴンの量のパーセント値としてのプロセスガス中の二酸化炭素の量は、0%(v/v)、1%(v/v)、2%(v/v)、および4%(v/v)であった。これらの膜の成長速度を以下の表に示しており、これらはAFMによって測定した膜の厚さをスパッタ時間で割ることによって求めた。
【0062】
【表1】

【0063】
これらの成長速度は、二酸化炭素濃度が増加すると、スパッタリング堆積速度が遅くなることを明確に示している。
【0064】
実施例10:ガス濃度を変化させることによる膜光学濃度(透明性)の測定
スパッタガス中1%〜4%(v/v)の範囲にわたって二酸化炭素スパッタリング濃度を増加させると、炭素膜の光学濃度が低下することが分かった。この実施例では、400wのRFマグネトロン出力および3mtorrのCapman圧力において、4時間炭素黒鉛をスパッタリングすることによって膜を形成した。これらの膜の650nmの光学濃度を以下の表に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
300nm〜1100nmのスペクトルにわたる光学濃度を測定し、それらを図1に示している。これらの結果は、二酸化炭素濃度が増加すると、形成される膜の光学濃度が低下することを明確に示している。言い換えると、二酸化炭素濃度が増加すると、形成された膜の透明性が増加する。
【0067】
実施例11:二酸化炭素を注入した炭素膜のX線光電子分光法
SSX−100装置(Surface Physicsによって維持されるSurface Science;(Bend,OR))を使用して、X線光電子分光法(XPS)を行った。XPSによって、材料の上部約10nmの元素組成が求められる。XPSより、スパッタガス中の二酸化炭素のパーセント値が増加すると膜の酸素含有率が一様に増加することが示された。結果を以下の表に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
さらに、C1sナロースキャンの高エネルギー側のショルダーは、スパッタガス中の二酸化炭素濃度が増加すると、主C1sピークに対して大きさが増加した。これは、スパッタガス中の二酸化炭素のパーセント値が増加すると、酸素に共有結合した炭素の量が増加したことを示している。
【0070】
実施例12:炭素膜の層間剥離の測定
スパッタリングによって堆積した炭素膜は、内部応力および大気中の分解によって劣化する場合があることが知られている。無傷の炭素膜と激しく劣化した炭素膜との間には、外観および性質において明確な目に見える差が存在する。激しく劣化した炭素膜は、曇った外観を有し、色が薄く、基材から容易に拭き取ったり洗い落としたりすることが可能になる。対照的に、無傷の膜は反射性であり、基材から除去することは困難である。
【0071】
以下の実験は、黒鉛膜中に二酸化炭素が注入されることで、膜の安定性が改善されることを明確に示している。分析用に、顕微鏡のガラススライド上に種々の膜を作製した。黒鉛ターゲットを400wにおいて3mtorrのCapman圧力を使用してスパッタリングすることによって形成した膜の場合、膜の目視による劣化の傾向は、スパッタ時間が増加するにつれて増加する。たとえば、二酸化炭素を加えずに黒鉛を1時間スパッタリングすることによって形成した対照膜は、目視による劣化の兆候は見られなかったが、1.5時間の膜では目視による劣化の兆候が見られた。スパッタガス中に二酸化炭素を注入することで、不安定な膜が形成されるまでに膜をスパッタリングできる時間が増加する。たとえば、1%(v/v)の二酸化炭素をスパッタガス中に混入して黒鉛を3時間スパッタリングすることによって作製した膜は劣化が観察されなかったが、4時間の膜では劣化の兆候が示された。2%(v/v)の二酸化炭素をスパッタガス中に混入して黒鉛を4時間スパッタリングすることによって作製した膜は、劣化の兆候が示されなかった。これらの結果を以下の表に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
この表は、二酸化炭素を膜に注入することによって、膜の機械的安定性が改善されたことを示している。
【0074】
実施例13:炭素膜の耐久性の測定
耐久性を測定するための簡単な試験として、沸騰水中に48時間の試料の浸漬、およびテープ引張接着試験が挙げられる。
【0075】
実施例14:読書用眼鏡の耐擦傷性被覆
1組のガラスレンズ読書用眼鏡(K−mart、Provo、UT、i−Design(商標)、Value Pack Designer Readers、+1.50)をレンズの前面がカソードに向かうように、PVD 75のプラテン上に搭載した。堆積中はプラテンを回転させた。炭素層を以下のようにして堆積した:厚さ1/4インチ(6.35mm)の黒鉛ターゲット(Plasmaterials,Livermore,CA、ロット番号PLA489556)をスパッタリングし;出力は400WのDCであり、capman圧力は7mtorrであり;スパッタガス中の主成分はアルゴンであり;スパッタガス中の二酸化炭素濃度は2%(v/v)であり;堆積は44:22分間行った。ガラス上の膜の厚さは約44nmであった。膜によって、レンズの反射率が増加した。被覆されたレンズは淡褐色であり、サングラスとして十分機能した。より厚い被覆を塗布することによって、より暗い色を容易に実現できた。被覆されたレンズは、指の爪によるひっかきに対して抵抗性であった。
【0076】
実施例15:炭素膜の吸収の測定
石英スライド、および二酸化炭素が注入された炭素膜で被覆された石英スライドの透過率を測定した。堆積条件は、前実施例中の読書用眼鏡の被覆に使用した条件と同じであった。図2は、石英(上の線)が200nm〜1000nmの広い波長範囲にわたって高い透過率を有することを示している。注入された炭素膜を加えると(下の線)、被覆された物体を透過する光の透過率が顕著に減少する。図2は、波長に対する透過率のプロットである。透過率は、紫外範囲(400nmよりも短い波長)において特に減少している。被覆していない石英基材の透過率に対して、紫外線A(320〜400nm)では約48%減少し、紫外線B(280nm〜320nm)では約53%減少し、紫外線C(100nm〜280nm)の200nm〜280nmの部分では約56%減少している。注入された炭素膜の厚さが比較的薄い44nmからより厚い厚さまで増加させると、これらのUV保護パーセント値を増加させることができる。
【0077】
実施例16:宝石類の被覆
直径約1インチ(2.54cm)のカットされた透明プラスチックのビーズ(Greenbrier International,(Chesapeake,VA)、品目番号954446 92)を、レンズの前面がカソードに向かうように、PVD 75のプラテン上に搭載した。堆積条件は、前の実施例中の読書用眼鏡の被覆に使用した条件と同じであった。被覆されたビーズは、肉眼では淡褐色であり、被覆されていない対照ビーズよりも反射が大きかった。
【0078】
実施例17:プラスチック台所用品の耐擦傷性被覆
長さ約7インチ(17.78cm)のバター皿の透明プラスチックの底部(Greenbrier International、品目858616 93)を、皿の底部がカソードに向かうように、PVD 75のプラテン上に搭載した。堆積条件は、前の実施例中の読書用眼鏡の被覆に使用した条件と同じであった。被覆されたバター皿は、肉眼では淡褐色であり、被覆されていないバター皿よりも反射が大きかった。バター皿の被覆されていない内面は指の爪で容易にひっかくことができた。バター皿の被覆された外面は、指の爪によるひっかきに対して抵抗性であった。
【0079】
実施例18:かみそりの刃の耐食性被覆
厚さ0.009インチ(0.23mm)の片刃のかみそりの刃(Famous Smith(登録商標) Brand、品目番号67−0238)を、刃の一方の面がカソードに向かうように、プラテン上に寝かせて搭載した。前の実施例中の読書用眼鏡の被覆に使用した条件と同じ堆積条件を使用して、かみそりの刃の一方の面を被覆した。かみそりの刃の被覆された面は均一な褐色となった。
【0080】
8枚のかみそりの刃を、種々の時間のあいだ50℃の塩水浴中に沈めた。この塩水浴は、3%の塩溶液が得られるのに十分な比率で塩化ナトリウムを水に加えることによって作製した。
【0081】
かみそりの刃#1および#2は26時間浸漬し;#3および#4は15時間浸漬し;#5および#6は2時間浸漬し;#7および#8は対照のかみそりの刃であり、これらは塩水浴中に浸漬しなかった。
【0082】
塩水浴から刃を注意深く取り出し、風乾した。次に炭素被覆側とおよび非被覆側との写真を撮影した。被覆側は非被覆側よりもさび(赤色および黒色の両方)が顕著に少ないことから、炭素被覆によって、ある程度の防食性が得られたことが目視により明らかである。
【0083】
実施例19:炭素膜によって溶媒から保護される
二酸化炭素を注入した炭素膜で、ポリカーボネートディスクを被覆した。被覆されたディスクは、アセトンですすいだ後に変色したり曇り始めたりすることはなかった。被覆していないポリカーボネートディスクは、アセトンと接触すると直ちに曇り始めた。同様に、テルル金属で被覆したポリカーボネートディスクも、アセトンと接触すると直ちに曇り始めた。ポリカーボネートディスクを被覆しても(たとえテルル金属であっても)、アセトンによる攻撃に対して保護されなかった。
【0084】
本明細書において開示され特許の範囲が請求されるすべての材料および/または方法および/またはプロセスおよび/または装置は、本開示を考慮すれば過度の実験を行うことなく製造し実行することができる。本発明の組成物および方法を、好ましい実施形態に関して説明しているが、本明細書に記載の方法の材料および/または方法および/または装置および/またはプロセス、ならびにステップまたは一連のステップにおける変更を、本発明の概念および範囲から逸脱することなく行えることは、当業者には明らかであろう。特に、化学的および光学的の両方で関連するある種の材料を、本明細書に記載の材料の代わりに使用することができ、同じまたは類似の結果が得られることは、明らかであろう。当業者には明らかなこのようなすべての類似の置換および修正は、本発明の特許請求の範囲および概念の範囲内と見なされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基材と、
酸素化ガスが注入された少なくとも1つの被覆層と、
を含む、被覆された物体。
【請求項2】
前記基材が前記被覆層と面接触する、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項3】
前記基材がポリカーボネートまたはガラスを含む、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項4】
前記基材が、コンデンサ、抵抗器、電極、航空機着陸装置、航空機フラップトラック、航空機部品、ポリカーボネートディスク、時計の文字盤、電池、眼鏡、レンズ、かみそりの刃、ナイフの刃、歯科用器具、医療移植片、手術器具、ステント、骨鋸、台所用品、宝石類、ドアの取っ手、釘、ねじ、ボルト、ナット、ドリルビット、鋸刃、一般的な家庭用金物、電気絶縁体、ボートのプロペラ、ボートのプロペラシャフト、ボートおよび船舶用製品、エンジン、車両部品、車台部品、人工衛星、あるいは人工衛星部品を含む、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項5】
前記被覆層が、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、非晶質ケイ素、または非晶質ゲルマニウムを含む、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項6】
前記被覆層が元素状炭素(C)を含む、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項7】
前記被覆層が非晶質炭素を含む、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項8】
前記酸素化ガスが、一酸化炭素、二酸化炭素、分子酸素、オゾン、酸化窒素類、酸化硫黄類、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項9】
前記酸素化ガスが二酸化炭素である、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項10】
前記酸素化ガスが前記被覆層中に共有結合している、請求項1に記載の被覆された物体。
【請求項11】
ポリカーボネートまたはガラスの基材と、
二酸化炭素が注入された元素状炭素被覆層と、
を含む、被覆された物体。
【請求項12】
被覆された物体の製造方法であって、
基材を提供するステップと、
酸素化ガスを注入した被覆層を塗布して被覆された物体を製造するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記基材と前記被覆層とが互いに面接触している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被覆層を塗布するステップが、前駆体材料と少なくとも1種類の酸素化ガスとをスパッタリングするステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記被覆層を塗布するステップが、前駆体材料と少なくとも1種類の酸素化ガスとをスパッタリングするステップを含み、前記酸素化ガスが約0.01%(v/v)〜約25%(v/v)の濃度で使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記被覆層が、非晶質炭素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、非晶質ケイ素、または非晶質ゲルマニウムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記被覆層が元素状炭素(C)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記被覆層が非晶質炭素を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記酸素化ガスが、一酸化炭素、二酸化炭素、分子酸素、オゾン、酸化窒素類、酸化硫黄類、またはそれらの混合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記酸素化ガスが二酸化炭素である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502188(P2012−502188A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526877(P2011−526877)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045355
【国際公開番号】WO2010/030419
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(592087647)ブリガム・ヤング・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】BRIGHAM YOUNG UNIVERSITY
【Fターム(参考)】