説明

重合体の製造方法

【課題】分散剤、セメント混和剤、および、セメント組成物に好適に使用できる分子量分布が制御された重合体の製造方法、ならびに、該製造方法により得られた重合体を使用する分散剤、セメント混和剤、および、セメント組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系の存在下に、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させることを特徴とする。得られる重合体は、分子量分布が狭く、セメントを凝集させる高分子量部分およびセメント分散性能に寄与しない低分子量部分が少なくなっており、セメント分散性能に寄与する分子量部分が多くなっていることからセメント分散性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造方法、ならびに、斯かる製造方法により得られた重合体を用いた分散剤、セメント混和剤、および、セメント組成物に関するものであり、より詳細には、分散剤、セメント混和剤、セメント組成物などに好適に使用される分子量分布が制御された重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、建築物外壁材・建築物構造体などでは、セメントに水を添加したセメントペーストやセメントペーストに細骨材である砂を混合したモルタル、モルタルに粗骨材である小石を混合させたコンクリートなどにセメント混和剤を加えて加工することで、セメント硬化物の強度や耐久性を高めている。上記セメント混和剤には、セメント組成物の含水量を低下させても(減水)充分な分散性・流動性・施工性を確保できると共に、減水によって耐久性や強度を向上できることが要求される。それ以外に、セメント組成物の分散性が経時的に悪化すると作業し難くなることから、セメント混和剤にはセメント組成物の分散性を低下し難くする(保持性に優れている)ことが要求される。セメント混和剤の中でもポリカルボン酸系のセメント混和剤は、ナフタレン系などの他のセメント混和剤と比べてセメント組成物に高い分散性能を付与できることから、好適に用いられている。
【0003】
ポリカルボン酸系のセメント混和剤では、ポリカルボン酸の分子量分布が、セメント組成物の初期分散性や、分散保持性に影響を及ぼすことが知られている。例えば、特許文献1には、GPC測定でのポリマーのメインピークを比較的高分子側に移行させることで、保持性に優れたセメント混和剤が開示されている。
【0004】
ところで、重合体の分子量分布を制御する方法として、リビングラジカル重合が知られている。例えば、特許文献2には、(A)ルテニウムを中心金属に有する金属錯体及び/又は鉄を中心金属に有する金属錯体;(B)有機ハロゲン化合物;からなる重合開始剤の存在下に、成分(D)として非極性オレフィン及び成分(E)として極性オレフィンを共重合させることを特徴とする共重合体の製造方法が開示されている。特許文献3には、クロロインデニルビス(トリアリールホスフィン)ルテニウム及びα−ハロゲノカルボニル化合物又はα−ハロゲノカルボン酸エステルからなるリビング重合開始剤系の存在下で、ラジカル重合性単量体をリビング重合させることを特徴とする重合体の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2003−206169号公報
【特許文献2】特開2004−51934号公報
【特許文献3】特開2000−264914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、分散剤、セメント混和剤、および、セメント組成物に好適に使用できる分子量分布が制御された重合体の製造方法、ならびに、該製造方法により得られた重合体を使用する分散剤、セメント混和剤、および、セメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできた本発明の重合体の製造方法とは、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系の存在下に、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させることを特徴とする。すなわち、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させる際に、重合開始剤系として、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有するものを使用すれば、分子量分布の狭い重合体が得られる。分子量分布を狭くすることによって、セメントを凝集させる高分子量部分およびセメント分散性に寄与しない低分子量部分が少なくなり、セメント分散性が向上するものと考えられる。
【0007】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)としては、例えば、下記化学式(1)で表されるものを用いることが好ましい。
【0008】
【化1】

[式中、R1、R2、およびR3は、同一または異なって水素原子またはメチル基を、AOは、互いに独立して、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上表し、xは0〜2の整数を表し、yは0または1を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、R4は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す]
【0009】
前記不飽和単量体(M)として、さらに下記化学式(2)で表される不飽和単量体(II−M)を含むものを用いることが好ましい。
【0010】
【化2】

[式中、R5、R6およびR7は同一または異なって、水素原子、メチル基または−(CHCOOM(ここで、−(CHCOOMは、−COOMまたはその他の−(CHCOOMと酸無水物を形成していてもよい)を表し、
Zは0〜2の整数を表し、
およびMは同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数3から8の炭化水素基を有するシリル基を表す]
【0011】
前記重合開始剤系として、さらにルイス酸(C)またはアミン(D)を含有するものを用いることが好ましい。
【0012】
本発明には、前記製造方法により得られた重合体を必須成分として含む分散剤含まれる。
【0013】
本発明には、前記分散剤を必須成分として含むセメント混和剤が含まれる。
【0014】
本発明には、前記セメント混和剤を必須成分として含むセメント組成物が含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、分散剤、セメント分散剤、および、セメント組成物に好適に使用できる分子量分布が制御された重合体の製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明のセメント混和剤は、従来のセメント混和剤に比べて少ない添加量で、ほぼ同一のセメント分散性を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の重合体の製造方法は、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系の存在下に、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させることを特徴とする。
【0018】
1.重合開始剤系について
まず、本発明で使用するルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α―ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系について説明する。
【0019】
前記ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)としては、分子の略中心位置に金属成分としてルテニウムを有する錯体であれば、特に限定されず、金属成分としてルテニウムのみを含有する金属錯体が好ましい。
【0020】
前記ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)としては、例えば、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリブチルホスフィン)ルテニウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)ルテニウム、ジクロロベンゼンルテニウム、ジクロロ−p−シメンルテニウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)ルテニウム、シス−ジクロロビス(2,2′−ビピリジン)ルテニウム、ジクロロトリス(1,10−フェナントロリン)ルテニウム、カルボニルクロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロ(2−N,N−ジメチルアミノインデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、エチレンインデニルビストリフェニルホスフィンルテニウム(ペンタフルオロフェニル)ボレート、エチレンインデニルビストリフェニルホスフィンルテニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート等が挙げられ、これらルテニウムを中心金属に有する金属錯体は1種で又は2種以上を併用して使用することができる。これらの中でもジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロペンタメチルシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロ(2−N,N−ジメチルアミノインデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、エチレンインデニルビストリフェニルホスフィンルテニウム(ペンタフルオロフェニル)ボレート、エチレンインデニルビストリフェニルホスフィンルテニウムテトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレートなどが好ましく用いられ、クロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどがより好ましく用いられる。
【0021】
前記α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)に用いられる前記α−ハロゲノカルボニル化合物としては、例えば、α,α−ジクロロアセトフェノン、または、1,1,1−トリクロロアセトンを挙げることができ、α−ハロゲノカルボン酸エステルとしては、1,1,1−トリクロロ酢酸メチル、1,1−ジクロロ酢酸メチル、1−クロロ酢酸メチル、2−クロロプロパン酸メチル、2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチル、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチル、2−ブロモ−プロパン酸エチル、2−ヨード−プロパン酸エチル、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、2−ブロモ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、1,2−ビス(2’−ブロモ−2’−メチルプロピオニルオキシ)エタン、1,2−ビス(2’−ブロモプロピオニルオキシ)エタン、または、2−(2’−ブロモ−2’−メチルプロピオニルオキシ)エチルアルコールなどを挙げることができる。これらは1種または2種以上で使用できる。これらの中でも、具体的には、α,α−ジクロロアセトフェノン、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、2−ブロモ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、2−ブロモ−2−メチルプロパン酸エチル、2−ヨード−2−メチルプロパン酸エチルがより好ましく用いられる。
【0022】
また、前記重合開始剤系として、さらにルイス酸(C)またはアミン(D)を含有するものを用いることも好ましい態様である。ルイス酸(C)またはアミン(D)を併用することによって、重合速度を一層速めることができる。
【0023】
前記ルイス酸(C)としては、例えばアルミニウムトリイソプロポキシドやアルミニウムトリ(t−ブトキシド)等のアルミニウムトリアルコキシド;ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェノキシ)メチルアルミニウム等のビス(置換アリールオキシ)アルキルアルミニウム;トリス(2,6−ジフェニルフェノキシ)アルミニウムなどのトリス(置換アリールオキシ)アルミニウム;チタンテトライソプロポキシド等のチタンテトラアルコキシド等を挙げることができ、好ましくはアルミニウムトリアルコキシドであり、特に好ましくはアルミニウムトリイソプロポキシドである。
【0024】
前記アミン(D)としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン等の脂肪族第一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族第二級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族第三級アミン等の脂肪族アミン;N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン等の脂肪族ポリアミン;アニリン、トルイジンなどの芳香族第一級アミン、ジフェニルアミンなどの芳香族第二級アミン、トリフェニルアミンなどの芳香族第三級アミン等の芳香族アミンなどを挙げることができる。これらの中でも、脂肪族アミンが好ましく、特にブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンなどが好ましい。
【0025】
2.不飽和単量体について
本発明では、前記重合開始剤系の存在下において、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させる。
【0026】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)としては、下記化学式(1)で表されるものが好ましい。
【0027】
【化3】

[式中、R1、R2、およびR3は、同一または異なって水素原子またはメチル基を、AOは、互いに独立して、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上(2種以上の場合はブロック状に付加していてもランダム状に付加していても良い)を表し、xは0〜2の整数を表し、yは0または1を表し、nはオキシアルキレン基の付加モル数を表し、1〜300の数であり、R4は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す]
【0028】
前記AOで表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜18のオキシアルキレン基が好ましく、水を媒体とした無機粉体の分散性能の向上の観点からはオキシアルキレン基の親水性を高める必要があり、炭素数2のオキシアルキレン基であるオキシエチレン基であることが好ましい。このとき、不飽和単量体(I−M)が有するポリオキシアルキレン鎖中のオキシエチレン基の比率としては、モル比で50モル%以上、好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは100モル%である。
【0029】
また、不飽和単量体(I−M)中のポリオキシアルキレン鎖に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入し、ある程度の疎水性を付与することでセメント粒子に若干の構造(ネットワーク)をもたらすことにより、本発明の重合体を用いて製造されたコンクリートの状態を改善する(コンクリートの粘性やこわばりを低減できるなど)こともできる。しかし、炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入しすぎると、得られた重合体の疎水性が高くなりすぎることから、セメントを分散させる性能が低下することがある。不飽和単量体(I−M)が有するポリオキシアルキレン鎖中の炭素数3以上のオキシアルキレン基の比率は、疎水性を付与する観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上であり、また、セメント分散性能の観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下である。
【0030】
炭素数3以上のオキシアルキレン基としては導入のしやすさ、セメントとの親和性の観点から、炭素数3〜8のオキシアルキレン基、さらには炭素数3〜4のオキシプロピレン基やオキシブチレン基が好ましい。
【0031】
ポリオキシアルキレン鎖の平均付加モル数は1〜300モルが好ましく、無機粉体の分散性能向上の観点からは2モル以上が好ましく、さらに好ましくは4モル以上、さらに好ましくは6モル以上、さらに好ましくは10モル以上、さらに好ましくは15モル以上、さらに好ましくは20モル以上である。ポリオキシアルキレン鎖の製造の観点からは、ポリオキシアルキレン鎖の上限は300モルが好ましく、さらに好ましくは250モル、さらに好ましくは200モル、さらに好ましくは150モルである。
【0032】
ポリオキシアルキレン鎖の末端基Rは水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基[炭素数1〜20のアルキル基(脂肪族アルキル基または脂環式アルキル基)、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のフェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基などのベンゼン環を有する芳香族基などが挙げられる]であるが、水を媒体とした無機粉体(セメント組成物等)を分散させる観点から疎水性が低いことが好ましく、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基等が挙げられる)、さらには水素原子または炭素数1〜6の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基等が挙げられる)、さらには水素原子または炭素数1〜3の炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる)が好ましい。
【0033】
I−Mで示される不飽和単量体の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの炭素数1〜20の飽和脂肪族アルコール類、アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、オレイルアルコールなどの炭素数3〜20の不飽和脂肪族アルコール類、シクロヘキサノールなどの炭素数3〜20の脂環式アルコール類、フェノール、フェニルメタノール(ベンジルアルコール)、メチルフェノール(クレゾール)、p−エチルフェノール、ジメチルフェノール(キシレノール)、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールなどの炭素数6〜20の芳香族アルコール類のいずれかに炭素数2〜18のアルキレンオキシドを付加することによって得られるアルコキシポリアルキレングリコール類、または、炭素数2〜18のアルキレンオキシドを重合したポリアルキレングリコール類と(メタ)アクリル酸、クロトン酸とのエステル化物を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸のアルコキシポリアルキレングリコール類のエステルが好ましい。
【0034】
さらにビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、2−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−1−オールなどの不飽和アルコールにアルキレンオキシドを1〜300モル付加した化合物を挙げることができ、これら1種または2種以上を用いることができる。これらの単量体の中でも特に(メタ)アリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オールを用いた化合物が好ましい。なお上記の不飽和エステル類および不飽和エーテル類は、アルキレンオキシドとしては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシドなどの炭素数2〜18のアルキレンオキシドの中から選ばれる任意の1種、あるいは2種以上のアルキレンオキシドを付加させてもよい。2種以上を付加させる場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加などのいずれであってもよい。
【0035】
前記不飽和単量体(M)として、さらに下記化学式(2)で表される不飽和単量体(II−M)を含むものを用いることも好ましい。
【0036】
【化4】

[式中、R5、R6およびR7は同一または異なって、水素原子、メチル基または−(CHCOOM(ここで、−(CHCOOMは、−COOMまたはその他の−(CHCOOMと酸無水物を形成していてもよい)を表し、
Zは0〜2の整数を表し、MおよびMは同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数3から8の炭化水素基を有するシリル基を表す]
【0037】
II−Mで示される不飽和単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのジカルボン酸系単量体、またこれらの無水物もしくはその塩(例えば、一価金属、二価金属、三価金属、アンモニウムまたは有機アミノ酸の塩)、(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体、(メタ)アクリル酸エステルなどのエステル系単量体、(メタ)アクリル酸アルキルシリル等のシリル系単量体等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エステル等のエステル系単量体や(メタ)アクリル酸アルキルシリル等のシリル系単量体が好ましく用いられ、特にメタクリル酸エステル及びメタクリル酸アルキルシリルがより好ましく用いられる。なお、これらは1種単独でまたは2種以上で使用可能である。
【0038】
上記エステル系単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルペンチル、(メタ)アクリル酸ノルマルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ノルマルヘプチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。上記シリル系単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸ターシャリーブチルジメチルシリル、(メタ)アクリル酸トリメチルシリル等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併用して使用できる。
【0039】
不飽和単量体(M)として、前記I−MやII−Mとは異なる成分であり、かつI−MやII−Mと共重合可能な不飽和単量体(III−M)をさらに含有するものを用いることも好ましい態様である。不飽和単量体III−Mとして、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコール、または、炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドもしくはアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレンオキシドとのモノエステル類、ジエステル類;前記不飽和ジカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアミン、または、炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物もしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのモノアミド、ジアミド類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアルコール、炭素数2〜18のグリコールもしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコール、または、炭素数1〜20のアルキルアルコールに炭素数2〜18のアルキレンオキシドもしくはアルキレンオキシドの付加モル数2〜300のアルコキシポリアルキレングリコールとのエステル類;前記不飽和モノカルボン酸類と炭素数1〜20のアルキルアミン、または、炭素数2〜18のグリコールの片末端アミノ化物もしくはこれらのグリコールの付加モル数2〜300のポリアルキレングリコールの片末端アミノ化物とのアミド類;スルホエチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸類、ならびにこれらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩および有機アミン塩;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミドなどの不飽和アミド類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの不飽和アミノ化合物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどの炭素数3〜20のアルキルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;スチレンなどの芳香族ビニル類などを挙げることができ、これら1種または2種以上を用いることができる。
【0040】
3.重合体の製造方法
本発明の重合体の製造方法では、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系の存在下に、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させる。
【0041】
不飽和単量体(I−M)、不飽和単量体(II−M)および不飽和単量体(III−M)を共重合して共重合体を得る場合、これら不飽和単量体の使用割合は、合計量を100質量%として、不飽和単量体(I−M)/不飽和単量体(II−M)/不飽和単量体(III−M)=2〜98質量%/2〜90質量%/0〜50質量%(好ましくは50〜95質量%/5〜80質量%/0〜40質量%、より好ましくは60〜90質量%/7.5〜60質量%/0〜30質量%)で用いることが好ましい。
【0042】
本発明で使用する重合開始剤系は、通常、使用直前に成分(A)のルテニウムを中心金属に有する金属錯体、成分(B)のα−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル、必要に応じて成分(C)のルイス酸、および、成分(D)のアミンを常法により混合することにより製造することができる。また、成分(A)の金属錯体、成分(B)のα−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル、成分(C)のルイス酸、および、成分(D)のアミンをそれぞれ別々に保管しておき、重合反応系の中にそれぞれ別々に添加し、重合反応系の中で混合して重合開始剤系として機能するようにしてもよい。
【0043】
本発明の重合体の製造方法において、重合反応系内のラジカル重合性単量体の初期濃度は、低すぎると反応速度が遅すぎ、高すぎると生成ラジカルのラジカル重合性単量体への連鎖移動反応が増大し、得られる共重合体の分子量分布が広くなるので、好ましくは0.5〜4mol(モル)/L(リットル)の範囲である。その際、成分(B)のα−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステルの濃度は、ラジカル重合性単量体の濃度に応じて差はあるものの、好ましくは1〜30mmol/Lである。また、成分(A)の金属錯体の濃度は、好ましくは0.5〜5mmol/Lである。また、成分(C)のルイス酸の濃度は、好ましくは80mmol/L以下である。また、重合反応系内の不飽和単量体(M)に対する成分(A)の金属錯体の添加率は、不飽和単量体(M)100質量部に対して、0.01〜0.5質量部とすることが好ましい。成分(A)の添加率が0.01質量部未満では反応の制御が困難になるおそれがある。また、0.5質量部を超えると反応の制御が困難になるうえ、経済性を損なうおそれがある。
【0044】
また不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)の重合は、溶媒中での溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0045】
溶液重合では、回分式でも連続式でも行うことができ、その際に使用される溶媒としては、例えば水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサンなどの芳香族或いは脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル化合など;などが挙げられる。
【0046】
重合反応系を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、窒素のような不活性ガス雰囲気下で、トルエン等の有機溶媒、ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)、ルイス酸(C)またはアミン(D)を、重合反応系にそれぞれ別々に添加し、混合することにより調製することができる。重合温度は、用いる溶媒などに応じて適宜定められるが、好ましくは0〜150℃、より好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは50〜100℃でよい。重合時間は、0.5時間〜100時間が好ましく、1時間〜80時間が好ましい。また、重合反応は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また反応終了後、必要に応じて濃度調整を行うこともできる。
【0047】
なお、本発明の製造方法で得られた重合体を、後述するような分散剤として使用する場合には、重合体中にカルボン酸成分を含有させることが好ましく、より好ましくはアクリル酸などのモノカルボン酸成分を含有させることが望ましい。この場合には、不飽和単量体(II−M)に、カルボン酸成分を使用する際、例えばターシャリーブチル基などでアルキルエステル化してカルボキシル基を保護し、重合反応を停止した後、保護基を脱離させアルキルエステルをカルボン酸成分に変更することが望ましい。
【0048】
4.分散剤、セメント混和剤、セメント組成物
≪分散剤≫
本発明の分散剤は、上記本発明の製造方法で得られた重合体を必須成分として含有することを特徴とする。また、本発明の分散剤は、実質上、上記本発明の製造方法で得られた重合体のみから構成されることも好ましい態様である。本発明の分散剤は、分散性能に優れるので、各種粉体の分散剤、例えば、セメント混和剤、有機・無機顔料の分散剤、スケール防止剤、洗剤用ビルダー、古紙再生用脱墨剤、キレート剤、各種染料の分散剤、農薬分散剤、精綿用洗浄剤、石炭用分散剤などとして有用である。ここでは、特にセメント混和剤について、詳しく説明する。
【0049】
≪セメント混和剤≫
本発明のセメント混和剤は、本発明の分散剤(上記本発明の製造方法で得られた重合体を必須成分として含有するもの)を必須成分として含有することを特徴とする。本発明のセメント混和剤における本発明の分散剤の含有量は、所望の分散性能に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記分散剤に含有された本発明の製造方法で得られた重合体の含有率が、セメント混和剤の蒸発残分中20質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上である。
【0050】
本発明のセメント混和剤には、必要に応じて、本発明の分散剤以外に、公知のポリカルボン酸系重合体を配合してもよい。その際、配合量は、本発明の分散剤に含有される本発明の製造方法で得られた重合体成分/ポリカルボン酸系重合体の比率(単位は質量%)で、好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは70/30〜30/70、特に好ましくは60/40〜40/60である。
【0051】
また、本発明のセメント混和剤には、必要に応じて、消泡剤[(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物やジエチレングリコールヘプチルエーテルなど]やポリアルキレンイミン(エチレンイミンやプロピレンイミンなど)などのポリアルキレンイミンアルキレンオキシド付加物などを配合することができる。
【0052】
使用可能な消泡剤としては、具体的には、(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物などのポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、炭素数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物などのポリオキシアルキレンアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オールなどのアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステルなどの(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンステアリルリン酸エステル等のポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物など)、アルキレンオキシドを付加させた硬化牛脂アミン(プロピレンオキシド1〜20モル付加、エチレンオキシド1〜20モル付加物など)などのポリオキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド;などが挙げられる。
【0053】
これらの消泡剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。消泡剤の添加時期は、重合開始前・重合中・重合後のいずれであってもよい。また、消泡剤の配合量は、重合体成分の全質量に対して、好ましくは0.0001質量%以上、20質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上、10質量%以下である。消泡剤の配合量が0.0001質量%未満であると、消泡効果が充分に発揮されないことがある。逆に、消泡剤の配合量が20質量%を超えると、消泡する効果が実質的に飽和することに加え、必要以上に消泡剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
【0054】
本発明のセメント混和剤は、従来公知のセメント混和剤と併用することが可能であり、複数の従来公知のセメント混和剤の併用も可能である。併用する従来公知のセメント混和剤としては、従来公知のポリカルボン酸系混和剤および分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤が好ましい。
【0055】
スルホン酸系混和剤は、主にスルホン酸基によってもたらされる静電的反発によりセメントに対する分散性を発現する混和剤であって、従来公知の各種スルホン酸系混和剤を用いることができるが、分子中に芳香族基を有する化合物であることが好ましい。具体的には、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物などのポリアルキルアリールスルホン酸塩系;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物などのメラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系;アミノアリールスルホン酸−フェノール−ホルムアルデヒド縮合物などの芳香族アミノスルホン酸塩系;リグニンスルホン酸塩、変性リグニンスルホン酸塩などのリグニンスルホン酸塩系;ポリスチレンスルホン酸塩系などの各種スルホン酸系混和剤が挙げられる。水/セメント比が高いコンクリートの場合には、リグニンスルホン酸塩系の混和剤が好適に使用され、一方、より高い分散性能が要求される水/セメント比が中程度のコンクリートの場合には、ポリアルキルアリールスルホン酸塩系、メラミンホルマリン樹脂スルホン酸塩系、芳香族アミノスルホン酸塩系、ポリスチレンスルホン酸塩系などの混和剤が好適に使用される。なお、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤は、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0056】
本発明のセメント混和剤は、上記のスルホン酸系混和剤以外に、オキシカルボン酸系化合物を併用することができる。オキシカルボン酸系化合物を含有させることにより、高温の環境下においても、より高い分散保持性能を発揮することができる。オキシカルボン酸系化合物としては、炭素数4〜10のオキシカルボン酸またはその塩が好ましく、具体的には、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、リンゴ酸、クエン酸や、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミンなどの無機塩または有機塩などが挙げられる。これらのオキシカルボン酸系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのオキシカルボン酸系化合物のうち、グルコン酸またはその塩が特に好適である。特に、貧配合コンクリートの場合には、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤としてリグニンスルホン酸塩系の混和剤を使用し、オキシカルボン酸系化合物としてグルコン酸またはその塩を使用することが好ましい。
【0057】
本発明のセメント混和剤とスルホン酸系混和剤とを併用する場合、本発明のセメント混和剤とスルホン酸系混和剤との配合比率(すなわち、固形分換算による本発明のセメント混和剤/スルホン酸系混和剤:単位は質量%)は、好ましくは1〜99/99〜1、より好ましくは5〜95/95〜5、さらに好ましくは10〜90/90〜10、特に好ましくは20〜80/80〜20である。また、本発明のセメント混和剤とオキシカルボン酸系化合物とを併用する場合、本発明のセメント混和剤とオキシカルボン酸系化合物との配合比率(すなわち、固形分換算における本発明のセメント混和剤/オキシカルボン酸系化合物:単位は質量%)は、好ましくは1〜99/99〜1、より好ましくは5〜95/95〜5、さらに好ましくは10〜90/90〜10、特に好ましくは20〜80/80〜20である。さらに、本発明のセメント混和剤、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤およびオキシカルボン酸系化合物の3成分を併用する場合、本発明のセメント混和剤、分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤およびオキシカルボン酸系化合物の配合比率(すなわち、固形分換算による本発明のセメント混和剤/分子中にスルホン酸基を有するスルホン酸系混和剤/オキシカルボン酸系化合物:単位は質量%)は、好ましくは1〜98/1〜98/1〜98、より好ましくは5〜90/5〜90/5〜90、さらに好ましくは10〜90/5〜85/5〜85、特に好ましくは20〜80/10〜70/10〜70である。
【0058】
また、本発明のセメント混和剤は、必要に応じて、下記の(1)〜(11)に例示するような従来公知のセメント添加剤(材)と併用してもよい。
【0059】
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩などの不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの非イオン性セルロースエーテル類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの多糖類のアルキル化またはヒドロキシアルキル化誘導体の一部または全部のヒドロキシル基の水素原子が、炭素数8〜40の炭化水素鎖を部分構造として有する疎水性置換基と、スルホン酸基またはそれらの塩を部分構造として有するイオン性親水性置換基で置換されてなる多糖誘導体;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナランなど)などの微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸のコポリマーおよびその四級化合物;など。
【0060】
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキルなどの各種ビニル単量体の共重合物など。
【0061】
(3)オキシカルボン酸系化合物以外の硬化遅延剤:グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース、キシロース、アピオース、リボース、異性化糖などの単糖類や、二糖、三糖などのオリゴ糖、またはデキストリンなどのオリゴ糖、またはデキストランなどの多糖類、これらを含む糖蜜などの糖類;ソルビトールなどの糖アルコール;ケイフッ化マグネシウム;リン酸およびその塩またはホウ酸エステル類;アミノカルボン酸およびその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリンなどの多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などのホスホン酸およびその誘導体;など。
【0062】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩;塩化鉄、塩化マグネシウムなどの塩化物;硫酸塩;水酸化カリウム;水酸化ナトリウム;炭酸塩;チオ硫酸塩;ギ酸およびギ酸カルシウムなどのギ酸塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート;など。
【0063】
(5)オキシアルキレン系以外の消泡剤:燈油、流動パラフィンなどの鉱油系消泡剤;動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物などの油脂系消泡剤;オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物などの脂肪酸系消泡剤;グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックスなどの脂肪酸エステル系消泡剤;オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類などのアルコール系消泡剤;アクリレートポリアミンなどのアミド系消泡剤;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェートなどのリン酸エステル系消泡剤;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエートなどの金属石鹸系消泡剤;ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサンなどのポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油などのシリコーン系消泡剤;など。
【0064】
(6)AE剤:樹脂石鹸、飽和もしくは不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステルまたはその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステルまたはその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネートなど。
【0065】
(7)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコールなどの分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコールなどの分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタンなどの分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノールなどの分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミンなどの分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸などの分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基またはアルコキシ基を置換基として有してもよい、スルホン酸基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドなどの各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤;など。
【0066】
(8)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコーン、パラフィン、アスファルト、ワックスなど。
(9)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛など。
(10)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテルなど。
(11)膨張材;エトリンガイト系、石炭系など。
【0067】
その他の従来公知のセメント添加剤(材)としては、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤などを挙げることができる。これらの従来公知のセメント添加剤(材)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0068】
上記セメント組成物において、セメントおよび水以外の成分についての特に好適な実施形態としては、下記の(1)〜(4)が挙げられる。
【0069】
(1)本発明のセメント混和剤とオキシアルキレン系消泡剤との2成分を必須とする組合せ。オキシアルキレン系消泡剤としては、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類などが挙げられる。これらのオキシアルキレン系消泡剤のうち、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。オキシアルキレン系消泡剤の配合量は、本発明のセメント混和剤に含有される重合体成分の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、20質量%以下である。
【0070】
(2)本発明のセメント混和剤と材料分離低減剤との2成分を必須とする組合せ。材料分離低減剤としては、例えば、非イオン性セルロースエーテル類などの各種増粘剤、部分構造として炭素数4〜30の炭化水素鎖からなる疎水性置換基と炭素数2〜18のアルキレンオキシドを平均付加モル数で2〜300付加したポリオキシアルキレン鎖とを有する化合物などが挙げられる。これらの材料分離低減剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。本発明のセメント混和剤と材料分離低減剤との配合比(単位は質量%)としては、好ましくは10/90〜99.99/0.01、より好ましくは50/50〜99.9/0.1である。この組合せのセメント組成物は、高流動コンクリート、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材として好適である。
【0071】
(3)本発明のセメント混和剤と促進剤との2成分を必須とする組合せ。促進剤としては、例えば、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウムなどの可溶性カルシウム塩類;塩化鉄、塩化マグネシウムなどの塩化物類;チオ硫酸塩;ギ酸およびギ酸カルシウムなどのギ酸塩類;などが挙げられる。これらの促進剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。本発明のセメント混和剤と促進剤との配合比率(単位は質量%)は、好ましくは10/90〜99.9/0.1、より好ましくは20/80〜99/1である。
【0072】
(4)本発明のセメント混和剤とオキシアルキレン系消泡剤とAE剤との3成分を必須とする組合せ。オキシアルキレン系消泡剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアセチレンエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類などが挙げられる。これらのオキシアルキレン系消泡剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのオキシアルキレン系消泡剤のうち、ポリオキシアルキレンアルキルアミン類が特に好適である。オキシアルキレン系消泡剤の配合量は、本発明のセメント混和剤に含有される重合体成分の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、20質量%以下である。他方、AE剤の配合量は、セメントの質量に対して、好ましくは0.001質量%以上、2質量%以下である。
【0073】
本発明のセメント混和剤は、水溶液の形態で使用してもよいし、または、反応後にカルシウム、マグネシウムなどの二価金属の水酸化物で中和して多価金属塩とした後に乾燥させたり、シリカ系微粉末などの無機粉体に担持して乾燥させたり、ドラム型乾燥装置、ディスク型乾燥装置またはベルト式乾燥装置を用いて支持体上に薄膜状に乾燥固化させた後に粉砕したり、スプレードライヤーによって乾燥固化させたりすることにより粉体化して使用してもよい。また、粉体化した本発明のセメント混和剤を予めセメント粉末やドライモルタルのような水を含まないセメント組成物に配合して、左官、床仕上げ、グラウトなどに用いるプレミックス製品として使用してもよいし、セメント組成物の混練時に配合してもよい。
【0074】
本発明のセメント混和剤は、各種水硬性材料、すなわち、セメントや石膏などのセメント組成物やそれ以外の水硬性材料に用いることができる。このような水硬性材料と水と本発明のセメント混和剤とを含有し、さらに必要に応じて、細骨材(砂など)や粗骨材(砕石など)を含む水硬性組成物の具体例としては、例えば、セメントペースト、モルタル、コンクリート、プラスターなどが挙げられる。
【0075】
上記水硬性組成物の中では、水硬性材料としてセメントを使用するセメント組成物が最も一般的であり、本発明のセメント組成物は、本発明のセメント混和剤、セメントおよび水を必須成分として含有する。このようなセメント組成物は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0076】
≪セメント組成物≫
本発明のセメント組成物は、本発明のセメント混和剤を必須成分として含有することを特徴とする。セメント組成物に使用されるセメントは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、およびそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)などが挙げられる。さらに、セメント組成物には、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末などの微粉体や石膏などを添加してもよい。また、骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材など以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質などの耐火骨材を使用することができる。
【0077】
上記セメント組成物においては、その1mあたりの単位水量、セメント使用量および水/セメント比(質量比)は、単位水量が好ましくは100kg/m以上、185kg/m以下、より好ましくは120kg/m以上、175kg/m以下であり、使用セメント量が好ましくは200kg/m以上、800kg/m以下、より好ましくは250kg/m以上、800kg/m以下であり、水/セメント比(質量比)が好ましくは0.1以上、0.7以下、より好ましくは0.2以上、0.65以下であり、貧配合から富配合まで幅広く使用可能である。本発明のセメント混和剤は、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)が0.15以上、0.5以下(好ましくは0.15以上、0.4以下)といった水/セメント比の低い領域においても使用可能であり、さらに、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリートや、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0078】
上記セメント組成物において、本発明のセメント混和剤の配合量は、例えば、水硬セメントを用いるモルタルやコンクリートなどに使用する場合には、セメント混和剤に含まれる上記分散剤に含有された本発明の製造方法で得られた重合体が、セメント成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、10.0質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上、5.0質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上、3.0質量部以下、特に好ましくは0.07質量部以上、2.0質量部以下である。このような配合量により、単位水量の低減、強度の増大、耐久性の向上などの各種の好ましい諸効果がもたらされる。本発明のセメント混和剤の配合量が0.01質量部未満であると、分散性能を充分に発揮することができないことがある。逆に、本発明のセメント混和剤の配合量が10.0質量部を超えると、分散性を向上させる効果が実質的に飽和することに加え、必要以上に本発明のセメント混和剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
【0079】
上記セメント組成物は、高減水率領域においても高い分散性と分散保持性能を有し、かつ、低温時においても十分な初期分散性と粘性低減性とを発揮し、優れたワーカビリティを有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり、さらに、中流動コンクリート(スランプ値が22cm以上、25cm以下のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50cm以上、70cm以下のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材などの高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【実施例】
【0080】
<GPC測定>
GPC測定条件は以下の通りである。
使用カラム:東ソー株式会社製
TSK guard column SWXL
TSKgel G4000SWXL
TSKgel G3000SWXL
TSKgel G2000SWXLをこの順で連結させたもの。
溶離液:アセトニトリル6001g、水10999gの溶液に酢酸ナトリウム3水和物115.6gを溶かし、さらに酢酸でpH6.0に調整したものを使用した。
サンプル:重合体(水溶液)を上記溶離液にて重合体濃度が0.5質量%となるように溶解させたものをサンプルとした。
サンプル打ち込み量:100μL
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 Empower Software
検量線作成用標準物質:ポリエチレングリコール[ピークトップ分子量(Mp) 272500、219300、107000、50000、24000、11840、6450、4250、1470]
検量線:上記のポリエチレングリコールのMp値と溶出時間を基にして3次式で作成した。
【0081】
重合体の製造例1
脱水脱気したナス型フラスコに、乾燥窒素ガス雰囲気下でクロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.16gを計り取り密栓後、トルエン39.9mLをシリンジで加え80℃に加温して充分撹拌し溶解させた。室温に冷却した後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)のトルエン溶液(50%)44.3mL、トリブチルアミン(400mMトルエン溶液)5.00mL、メタクリル酸ターシャリーブチル9.10mL、ジクロロアセトフェノン(700mMトルエン溶液)1.28mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で72時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、減圧下でトルエンおよび未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを留去した。得られた試料をジクロロメタン500g中に溶解させ、トリフルオロ酢酸30gを加え、室温にて撹拌48時間還流し脱保護を行い、ターシャリーブチル基を脱離させて、ターシャリーブチルエステルをカルボン酸に変更した。脱保護完了後、減圧下で溶媒を留去することによって重合体1を得た。さらに重合体1をイオン交換水に溶解させることによって重合体1の水溶液を得た。得られた重合体1の重量平均分子量Mw=17500、分子量分布Mw/Mn=1.29であった。
【0082】
重合体の製造例2
ナス型フラスコに、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)11.3g、トリブチルアミン0.19g、トルエン26.9gを仕込み、三方コックを取り付けた後減圧脱気および窒素バブリングを行った。そこへ、メタクリル酸ターシャリーブチル4.2mL、クロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.08gのトルエン溶液7.8mL、ジクロロアセトフェノン0.056mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で48時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、減圧下でトルエンおよび未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを留去した。得られた試料をジクロロメタン500g中に溶解させ、トリフルオロ酢酸30gを加え、室温にて撹拌48時間還流し脱保護を行い、ターシャリーブチル基を脱離させて、ターシャリーブチルエステルをカルボン酸に変更した。脱保護完了後、減圧下で溶媒を留去することによって重合体2を得た。さらに重合体2をイオン交換水に溶解させることによって重合体2の水溶液を得た。得られた重合体2の重量平均分子量Mw=21100、分子量分布Mw/Mn=1.45であった。
【0083】
重合体の製造例3
ナス型フラスコに、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)11.3g、トリブチルアミン0.05g、トルエン29.1gを仕込み、三方コックを取り付けた後減圧脱気および窒素バブリングを行った。そこへ、メタクリル酸ターシャリーブチル4.2mL、クロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.020gのトルエン溶液4.20mL、ジクロロアセトフェノン0.035mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で72時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、減圧下でトルエンおよび未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを留去した。得られた試料をジクロロメタン500g中に溶解させ、トリフルオロ酢酸30gを加え、室温にて撹拌48時間還流し脱保護を行い、ターシャリーブチル基を脱離させて、ターシャリーブチルエステルをカルボン酸に変更した。脱保護完了後、減圧下で溶媒を留去することによって重合体3を得た。さらに重合体3をイオン交換水に溶解させることによって重合体3の水溶液を得た。得られた重合体3の重量平均分子量Mw=31400、分子量分布Mw/Mn=1.45であった。
【0084】
重合体の製造例4
脱水脱気したナス型フラスコに、乾燥窒素ガス雰囲気下でクロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.3105gを計り取り密栓後、トルエン39.14mLをシリンジで加え80℃に加温して充分撹拌し溶解させた。室温に冷却後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)(700mMトルエン溶液)142.86mL、トリブチルアミン(400mMトルエン溶液)10mL、エチル−α−クロロフェニルアセテート(500mMトルエン溶液)8mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で28時間反応させた。反応溶液に、メタクリル酸ターシャリーブチル97.51mLをシリンジで加え均一に撹拌後、さらに3時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、ヘキサンで再沈殿することによって、未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを除去した。得られた試料を1,4−ジオキサンに溶解させ(5質量%)、p−トルエンスルホン酸(5mol%/メタクリル酸ターシャリーブチル)を加えた後、120℃で70時間加熱することによってメタクリル酸ターシャリーブチルの加水分解を完了させた。得られた溶液をジエチルエーテルで再沈殿することによってp−トルエンスルホン酸を除去し、さらにヘキサンで再沈殿することによって未反応メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)を除去することによって重合体4を得た。さらに重合体4をイオン交換水に溶解させることによって重合体4の水溶液を得た。得られた重合体4の重量平均分子量Mw=17200、分子量分布Mw/Mn=1.46であった。
【0085】
重合体の製造例5
脱水脱気したナス型フラスコに、乾燥窒素ガス雰囲気下でクロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.3105gを計り取り密栓後、トルエン39.14mLをシリンジで加え80℃に加温して充分撹拌し溶解させた。室温に冷却後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)(700mMトルエン溶液)142.86mL、トリブチルアミン(400mMトルエン溶液)10mL、エチル−α−クロロフェニルアセテート(500mMトルエン溶液)8mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で28時間反応させた。反応溶液に、メタクリル酸ターシャリーブチル97.51mLをシリンジで加え均一に撹拌後、さらに5時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、ヘキサンで再沈殿することによって、未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを除去した。得られた試料を1,4−ジオキサンに溶解させ(5質量%)、p−トルエンスルホン酸(5mol%/メタクリル酸ターシャリーブチル)を加えた後、120℃で70時間加熱することによってメタクリル酸ターシャリーブチルの加水分解を完了させた。得られた溶液をジエチルエーテルで再沈殿することによってp−トルエンスルホン酸を除去し、さらにヘキサンで再沈殿することによって未反応メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)を除去することによって重合体5を得た。さらに重合体5をイオン交換水に溶解させることによって重合体5の水溶液を得た。得られた重合体5の重量平均分子量Mw=18600、分子量分布Mw/Mn=1.50であった。
【0086】
重合体の製造例6
脱水脱気したナス型フラスコに、乾燥窒素ガス雰囲気下でクロロ(インデニル)ビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)(ジクロロメタン付加物)0.3105gを計り取り密栓後、トルエン39.14mLをシリンジで加え80℃に加温して充分撹拌し溶解させた。室温に冷却後、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)(700mMトルエン溶液)142.86mL、トリブチルアミン(400mMトルエン溶液)10mL、エチル−α−クロロフェニルアセテート(500mMトルエン溶液)8mLをシリンジで注入した。均一に撹拌後、80℃のオイルバス中で28時間反応させた。反応溶液に、メタクリル酸ターシャリーブチル97.51mLをシリンジで加え均一に撹拌後、さらに8.5時間反応させた。反応溶液を0℃に冷却することにより重合反応を停止させた後、ヘキサンで再沈殿することによって、未反応メタクリル酸ターシャリーブチルを除去した。得られた試料を1,4−ジオキサンに溶解させ(5質量%)、p−トルエンスルホン酸(5mol%/メタクリル酸ターシャリーブチル)を加えた後、120℃で70時間加熱することによってメタクリル酸ターシャリーブチルの加水分解を完了させた。得られた溶液をジエチルエーテルで再沈殿することによってp−トルエンスルホン酸を除去し、さらにヘキサンで再沈殿することによって未反応メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数23)を除去することによって重合体6を得た。さらに重合体6をイオン交換水に溶解させることによって重合体6の水溶液を得た。得られた重合体6の重量平均分子量Mw=21700、分子量分布Mw/Mn=1.51であった。
【0087】
重合体の製造例7−9
温度計・撹拌機・滴下装置・窒素導入管・還流冷却器を備えたガラス製反応装置に水126.0gを仕込み、撹拌条件下で反応装置内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数23)139.4gとメタクリル酸22.6gと水40.5gと3−メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)xgを混合して単量体混合物水溶液(I)を調製した。前記単量体混合物水溶液(I)を4時間かけて、5.9質量%過硫酸アンモニウム31.5gを5時間かけて反応装置内に滴下しながら80℃で重合させた。滴下終了後、さらに80℃で1時間維持して重合反応を完結させて重合体7−9の水溶液を得た。3−メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)xgの値、と重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnの値をそれぞれ表1に示した。
【0088】
重合体の製造例10
温度計・撹拌機・滴下装置・窒素導入管・還流冷却器を備えたガラス製反応装置に水140.0gを仕込み、撹拌条件下で反応装置内を窒素置換して窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。次にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリル酸エステル(エチレンオキシドの平均付加モル数23)246.38gとメタクリル酸23.62gと水67.5gと3−メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)1.89gを混合して単量体混合物水溶液(I)を調製した。前記単量体混合物水溶液(I)を4時間かけて、5.9質量%過硫酸アンモニウム35.0gを5時間かけて反応装置内に滴下しながら80℃で重合させた。滴下終了後、さらに80℃で1時間維持して重合反応を完結させて重合体10の水溶液を得た。得られた重合体10の重量平均分子量Mw=20400、分子量分布Mw/Mn=1.73であった。
【0089】
【表1】

【0090】
リビングラジカル重合により得られた重合体1〜6と、従来のラジカル重合で得られた重合体7〜9の分子量分布(Mw/Mn)を比較してみると、重合体1〜6の分子量分布は、1.29〜1.51であるのに対して、重合体7〜9では、1.68〜1.94であった。これら結果より、本発明の製造方法で得られた重合体1〜6は、従来のラジカル重合で得られた重合体に比べて、分子量分布が狭いことが分かった。
【0091】
≪モルタル試験1≫
まず、以下に示すように重合体1〜3および重合体7〜9のいずれかを分散剤として含有するセメント混和剤を作製した。
【0092】
(セメント混和剤作製)
上記重合体1〜3,7〜9の水溶液を、水溶液が含有する重合体成分が所定量となるようにはかり採り、重合体成分100質量部に対して有姿で10質量部になるように、消泡剤(商品名「MA404」;NMB社製)を加え、さらに全量が210gとなるようにイオン交換水を加えた後、十分に均一溶解させてセメント混和剤を作製した。
【0093】
なお、上記重合体1〜3,7〜9の水溶液の重合体成分濃度は、下記の手順で不揮発分を測定し、不揮発物が全て重合体として重合体成分濃度を算出した。不揮発分の測定は、アルミカップに重合体水溶液を約0.5g量り採り、ここにイオン交換水を約1g加えて均一に拡げ、これを窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥し、乾燥前の質量差から求めた。
【0094】
<モルタル調製>
次に、上記のように作製したセメント混和剤を用いて以下のようにしてモルタル1〜8を製造した。各モルタルの調整に使用したセメント混和剤に分散剤として用いた重合体、モルタル中のセメントに対する重合体成分添加量および、以下のようにして測定した初期フロー値及び空気量を表2に示した。
【0095】
(使用した材料)
太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント:600g
豊浦標準砂:600g
セメント混和剤:210g
【0096】
(モルタル試験環境)
実験環境は、温度20℃±1℃、相対湿度60%±10%とした。
【0097】
(フロー値測定)
太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント600g、豊浦標準砂600gをホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)により1速で15秒から練りした後、15秒かけてセメント混和剤210gをから練りしたセメントと砂の混合物に投入した。次いで、2速で30秒混練後、回転を停止させ15秒かけて釜の壁についたモルタルを掻き落とした。さらに45秒間放置した後、2速で90秒間混練してモルタル1〜8を調製した。
【0098】
調製したモルタルを水平な板上に置いたフローコーン(直径55mm、高さ50mmの中空円筒の容器)に半量詰め、つき棒を使って15回突いた。さらにモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、つき棒を使って15回突いた。その後、モルタルを詰めたフローコーンを垂直に引き上げた直後に、モルタルが広がってできた図形の直径を縦横2ヶ所測定しその平均値を初期フロー値とした。ただし、混練開始からフロー値測定までは5分以内に収まるようにした。
【0099】
(モルタル空気量の測定)
上記フロー値測定と同様にモルタル1〜8を調整し、調整したモルタルを500mLガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突いた後容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。さらにモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、重量を測り、重量と各材料の密度から空気量を計算した。
【0100】
【表2】

【0101】
表2に示したように、リビングラジカル重合で得られた重合体1〜3を分散剤として使用したセメント混和剤と、従来のラジカル重合で得られた重合体7〜9を分散剤として使用したセメント混和剤を配合したモルタルのフロー値を比較すると、重合体の添加量0.098質量部の場合、モルタル1〜3が初期フロー値218〜188mmであるのに対して、モルタル4〜6では156〜167mmであった。さらに重合体1を分散剤として使用した場合には、重合体9を分散剤として使用した場合と同等のフロー値を得るための必要添加量は、0.088質量部であり、重合体9の25%減の添加量で良いことが分かった。
【0102】
以上のように、本発明によれば、リビングラジカル重合で得られた重合体の方が、セメント分散性能に優れていることが分かる。これは、本発明の製造方法により得られる重合体は、分子量分布が狭く、セメントを凝集させる高分子量部分およびセメント分散性能に寄与しない低分子量部分が少なくなっており、セメント分散性能に寄与する分子量部分が多くなっていることからセメント分散性能が向上したためだと考えられる。
【0103】
≪モルタル試験2≫
まず、以下に示すように重合体4または10を分散剤として含有するセメント混和剤を作製した。
【0104】
(セメント混和剤作製)
上記重合体4,10の水溶液を、含有する重合体成分が所定量となるようにはかり採り、重合体成分100質量部に対して有姿で10質量部になるように、消泡剤(商品名「MA404」;NMB社製)を加え、さらに全量が220gとなるようにイオン交換水を加えた後、十分に均一溶解させてセメント混和剤を作製した。
【0105】
<モルタル調製>
次に、上記のように作製したセメント混和剤を用いて以下のようにしてモルタル9〜11を製造した。各モルタルの調整に使用したセメント混和剤に分散剤として用いた重合体、モルタル中のセメントに対する重合体成分添加量、および、以下のようにして測定した初期フロー値及び空気量を表3に示した。
【0106】
(使用した材料)
太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント550g
セメント協会製ISO標準砂1350g
上記セメント混和剤9〜11:220g
【0107】
(モルタル実験環境)
実験環境は、温度20℃±1℃、相対湿度60%±10%とした。
【0108】
(フロー値測定)
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、太平洋普通ポルトランドセメント550g、セメント混和剤220g添加し、1速で30秒間混練した。次に、上記ミキサーにISO標準砂1350gを30秒かけて投入し、2速で30秒間混練した後、混練を休止し15秒かけてモルタルミキサー内のモルタルを掻き落とし、75秒間静置した。75秒間静置した後、さらに2速で60秒間混練してモルタル9〜11を調製した。
【0109】
練りあがったモルタルを直ちにスパチュラで左右各10回撹拌した後、モルタルを平滑な板上に置いたフローコーン(SUS304製、内径55mm高さ50mm中空円筒状容器)に半量詰め、つき棒を使って15回突いた。さらにモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰め、つき棒を使って15回突いた。その後、モルタルを充填したフローコーンを垂直に引き上げた直後に、モルタルが広がってできた図形の直径を2ヶ所(縦横)測定しその平均値を初期フロー値とした。ただし、混練開始からフロー値測定までは5分30秒以内に収まるようにした。
【0110】
<モルタル空気量の測定>
上記フロー値測定と同様にモルタル9〜11を調整し、調整したモルタルを500mLガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突いた後容器に振動を加え、粗い気泡を抜いた。さらにモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、重量を測り、重量と各材料の密度から空気量を計算した。
【0111】
【表3】

【0112】
リビングラジカル重合で得られた重合体4を分散剤として使用したセメント混和剤と、従来のラジカル重合で得られた重合体10を分散剤として使用したセメント混和剤を配合したモルタルのフロー値を比較すると、重合体4の添加量が0.3質量部で初期フロー値が196mmであるのに対し、重合体10の添加量が0.3質量部では141mmであった。さらに重合体10を分散剤として使用した場合に、重合体4と同等の初期フロー値を得るための必要添加量は0.7質量部であり、重合体4の添加量は、重合体10の57%減の添加量で良いことが分かった。以上のように、本発明によれば、リビングラジカル重合により得られた重合体の方が、セメント分散性に優れていることが分かった。また、重合体4は、ブロックコポリマーであるのに対し、重合体10は、ランダムコポリマーである。この結果より、ブロックコポリマーは、セメントへの吸着点であるカルボン酸がポリエチレングリコール鎖に埋もれることがないため、同一酸量であれば、ランダムコポリマーよりも分散性が向上するものと考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムを中心金属に有する金属錯体(A)と、α−ハロゲノカルボニル化合物および/またはα−ハロゲノカルボン酸エステル(B)とを含有する重合開始剤系の存在下に、ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)を含む不飽和単量体(M)を重合させることを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体(I−M)として、下記化学式(1)で表されるものを用いる請求項1に記載の重合体の製造方法。
【化1】

[式中、R1、R2、およびR3は、同一または異なって水素原子またはメチル基を、AOは、互いに独立して、炭素数2以上のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、xは0〜2の整数を表し、yは0または1を表し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数であり、R4は水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を表す]
【請求項3】
前記不飽和単量体(M)として、さらに下記化学式(2)で表される不飽和単量体(II−M)を含むものを用いる請求項1または2に記載の重合体の製造方法。
【化2】

[式中、R5、R6およびR7は同一または異なって、水素原子、メチル基または−(CHCOOM(ここで、−(CHCOOMは、−COOMまたはその他の−(CHCOOMと酸無水物を形成していてもよい)を表し、
Zは0〜2の整数を表し、
およびMは同一または異なって、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウム基または有機アミン基、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数3から8の炭化水素基を有するシリル基を表す]
【請求項4】
前記重合開始剤系が、さらにルイス酸(C)またはアミン(D)を含有するものを用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の製造方法により得られた重合体を必須成分として含む分散剤。
【請求項6】
請求項5に記載の分散剤を必須成分として含むセメント混和剤。
【請求項7】
請求項6に記載のセメント混和剤を必須成分として含むセメント組成物。

【公開番号】特開2008−291078(P2008−291078A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136483(P2007−136483)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】