説明

重合体及びその製造方法

【課題】耐熱性が高く、吸湿性が低く、しかも金属触媒を用いずに製造できる重合体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示される脂環式単量体(A)に由来する構成単位を含むことよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が高く、吸湿性が低い、脂環式単量体単位を有する重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメチルメタクリレートに代表されるメタクリル系樹脂は、光学的特性に優れるものの、耐熱性が不十分で、吸湿性が高いことが課題となっている。
一方、ノルボルネンに代表される脂環式単量体が共重合された重合体は、耐熱性が高く、吸湿性が低く、光学的特性に優れることが知られている
従来、脂環式単量体と(メタ)アクリル酸エステルとをラジカル重合によって共重合した共重合体が提案されている(特許文献1)。特許文献1の発明によれば、耐熱性を高め、吸湿性を低くすることが図られている。
【0003】
ところで、脂環式単量体を効率的にラジカル重合するには、アルミニウム化合物等のルイス酸触媒(金属触媒)を重合系内に共存させる必要がある。このため、得られる重合体中に金属触媒の残渣が混入しやすい。金属触媒の残渣が混入すると、得られた重合体の光学的特性(透光性等)等が低下するため、金属触媒を使用することなく、効率的にラジカル重合できる脂環式単量体の開発が望まれている。
【0004】
こうした要望に対し、脂環式単量体のラジカル重合性の向上を目的として、重合性部位にエステル系置換基を有する脂環式単量体及びその共重合体が提案されている(特許文献2)。特許文献2の発明によれば、金属触媒を使用することなくラジカル重合でき、得られた共重合体は、従来のメタクリル系樹脂に比較して耐熱性を高め、吸湿性を低くすることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−242711号公報
【特許文献2】特開2007−186546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、重合体には、より高い耐熱性と、より低い吸湿性とが求められている。
そこで、本発明は、耐熱性が高く、吸湿性が低く、しかも金属触媒を用いずに製造できる重合体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の重合体は、下記一般式(1)で示される脂環式単量体(A)に由来する構成単位を含むことを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
((1)式中、Rは、水素又は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、Rは、単環又は複環を構成する炭素原子数3〜20の炭化水素基である。)
(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)に由来する構成単位を有することが好ましく、前記脂環式単量体(A)又は前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)に重合可能な単量体(C)に由来する構成単位を有していてもよい。
【0010】
本発明の前記重合体の製造方法は、前記脂環式単量体(A)をラジカル重合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合体によれば、高い耐熱性と低い吸湿性とを備え、しかも金属触媒を用いずに製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(重合体)
本発明の重合体は、下記一般式(1)で表される脂環式単量体(A)(単量体(A))に由来する構成単位(構成単位(a))を有するものであり、必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル(B)(単量体(B))に由来する構成単位(構成単位(b))又はその他の単量体(C)(単量体(C))に由来する構成単位(構成単位(c))を有してもよい。
【0013】
【化2】

【0014】
((1)式中、Rは、水素又は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、Rは、単環又は複環を構成する炭素原子数3〜20の炭化水素基である。)
【0015】
本発明の重合体の数平均分子量(Mn)は、例えば、500〜50万が好ましい。上記下限値以上であれば、剛性や曲げ強度等の機械的特性がより良好であり、上記上限値以下であればより容易に加工できる。
【0016】
<構成単位(a)>
構成単位(a)は、上記(1)式で表される単量体(A)に由来するものであり、下記一般式(2)で表される。
【0017】
【化3】

【0018】
構成単位(a)の由来源である単量体(A)は、上記(1)式に示されるように、重合性部位となる炭素−炭素二重結合を形成する炭素上に、エステル基(CO)を有し、かつ、単環又は複環の炭化水素基が置換されていることを特徴とする。このような構造を有することで、炭素−炭素二重結合の重合性、特にラジカル又はイオン重合性が向上し、得られる重合体の耐熱性を高め、吸湿性を低くすることができる。
例えば、ラジカル重合においては、従来の脂環式単量体では、金属触媒を使用しなければ効率的にラジカル重合することが困難であったのに対し、単量体(A)は、金属触媒を使用することなく、効率的にラジカル重合でき、高い重合性を発現できる。
【0019】
(1)式及び(2)式において、Rは、水素又は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、該炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等の芳香族基;メチルフェニル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基等のアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアリールアルキル基等が挙げられる。
は、水素又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であることが好ましい。Rが水素又は炭素原子数1〜10の炭化水素基であれば、得られる重合体の機械的強度が損なわれず、かつ耐熱性がより高まり、吸湿性がより低くなる。
【0020】
が炭化水素基である場合、該炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよい。
また、Rの炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよいが、中でも、耐光性の観点から飽和炭化水素基が好ましい。
【0021】
(1)式及び(2)式において、Rは、単環又は複環を構成する炭素原子数3〜20の炭化水素基である。
は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよいが、中でも、耐光性の観点から、飽和炭化水素基が好ましい。
の炭素原子数は、3〜20であり、3〜10が好ましい。上記下限値以上であれば、得られる重合体の機械的強度がより向上し、上記上限値以下であれば耐熱性がより高まり、吸湿性がより低くなる。
【0022】
単量体(A)の合成方法は、特に限定されず、例えば、「Journal of American Chemical Society、101巻、5283頁、1979年」に記載の方法が挙げられる。
【0023】
構成単位(a)としては、例えば、下記一般式(3)〜(11)で示されるものが挙げられる。中でも、構成単位(a)としては、下記式(A1)〜(A4)で表される単量体に由来する構成単位が好ましい。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

((A1)式中、Meはメチル基を表す。)
【0026】
【化6】

((A2)式中、Meはメチル基を表す。)
【0027】
【化7】

((A3)式中、Meはメチル基を表す。)
【0028】
【化8】

((A4)式中、Meはメチル基を表す。)
【0029】
本発明の重合体は、構成単位(a)を1種単独で有していてもよいし、2種以上を有していてもよい。
【0030】
重合体を構成する全ての構成単位の合計を100モル%とした場合、重合体における構成単位(a)の含有率は、20〜99モル%が好ましく、30〜70モル%が好ましい。上記下限値以上であれば、吸湿性をより低くでき、上記上限値以下であれば、重合体の機械的特性の低下をより低減できる。
【0031】
<構成単位(b)>
本発明の重合体は、単量体(B)に由来する構成単位(b)を有していてもよい。構成単位(b)を有することで、重合体の機械的特性を高められる。
【0032】
単量体(B)は、単量体(A)と重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸トリシクロデカニル、メタクリル酸ジシクロペンタジエニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピル、メタクリル酸ペンタフルオロプロピル、メタクリル酸オクタフルオロペンチル、メタクリル酸2−(ペルフルオロオクチル)エチル等のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、アクリル酸トリシクロデカニル、アクリル酸ジシクロペンタジエニル、アクリル酸アダマンチル等のアクリル酸エステルが挙げられる。中でも、アルキル基の炭素数が1〜4である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
重合体は、これらの単量体(B)に由来する構成単位(b)を1種単独で有していてもよいし、2種以上を有していてもよい。
【0033】
重合体を構成する全ての構成単位の合計を100モル%とした場合、重合体における構成単位(b)の含有率は、1〜80モル%が好ましく、30〜70モル%がより好ましい。上記下限値以上であれば、重合体の機械的特性の低下をより低減でき、上記上限値以下であれば、吸湿性をより低くできる。
【0034】
<構成単位(c)>
重合体は、単量体(C)に由来する構成単位(c)を有していてもよい。構成単位(c)を有することで、重合体の機械的特性を高められる。
【0035】
単量体(C)は、単量体(A)又は単量体(B)と重合可能なものであれば特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の直鎖状又は分岐鎖を有する鎖状オレフィン類;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状オレフィン(シクロアルケン)類;フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物等のα,β−不飽和カルボン酸及びその無水物;フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジシクロヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、シクロへキシルマレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;ブタジエン、イソプレン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン等のジエン類;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン等のモノ又はポリアルキルスチレン等の芳香族ビニル化合物等が挙げられ、重合体に求める機械的特性等を勘案して選択される。
【0036】
重合体を構成する全ての構成単位の合計を100モル%とした場合、重合体における構成単位(c)の含有率は、20モル%以下であることが好ましい。上記上限値以下であれば、耐光性の低下を防止できる。また、下限値は特に限定されないが、1モル%以上が好ましい。上記下限値以上であれば、機械的特性等、構成単位(c)を有することの効果が得られやすい。
【0037】
<任意成分>
本発明の重合体は、単量体(A)〜(C)以外に、必要に応じて任意成分を含有できる。
任意成分は、用途等を勘案して選択され、例えば、架橋剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の劣化防止剤、可塑剤、安定化剤、増粘剤、粘着付与樹脂等が挙げられる。
【0038】
架橋剤としては、1分子中に少なくとも2つ以上のラジカル重合性基を有する架橋剤が挙げられ、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等、公知の架橋剤が挙げられる。架橋剤を用いることで、重合体の強靭性を高めたり、分子量をより高めたりできる。
これらの架橋剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
(製造方法)
本発明の重合体の製造方法は、単量体(A)をラジカル重合するものであり、例えば、単量体(A)と、必要に応じて単量体(B)、(C)及び任意成分とを溶媒中で混合し、この混合物にエネルギー線を照射して重合する方法が挙げられる。
ラジカル重合する方法としては、例えば、熱ラジカル重合方法、光ラジカル重合方法、イオン重合方法、光カチオン重合方法、リビングラジカル重合方法、リビングイオン重合方法等、従来公知の重合方法が挙げられ、中でも、重合反応の効率、工程操作性の点から、熱ラジカル重合方法、光ラジカル重合方法が好ましい。加えて、得られる重合体への金属触媒残渣の混入を回避するため、金属触媒を実質的に用いない熱ラジカル重合方法、光ラジカル重合方法がより好ましい。
【0040】
重合体の製造には、過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾ系ラジカル重合開始剤、光ラジカル重合開始剤、レドックス系ラジカル重合開始剤等、公知のラジカル重合開始剤等を用いることができる。
過酸化物系ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソブチロイルパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、α−クメンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のパーオキシエステル類;1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類;t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート等のパーオキシモノカーボネート類;ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類等が挙げられる。
【0041】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0042】
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合体の製造に用いられる単量体100質量部に対して、0.00001〜10質量部が好ましく、0.0001〜1質量部がより好ましい。
ラジカル重合開始剤の使用量が、上記下限値以上であれば、単量体の反応率が低くならず、上記上限値以下であれば、得られる重合体の分子量が低くならず、機械的特性が低下しない。
なお、ラジカル重合開始剤は、必要に応じて、分割して又は連続的に供給してもよい。
【0043】
本発明の重合体の製造方法には、公知の重合形態を採用することができる。例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、適当な溶媒を使用した溶液重合、及びスラリー重合等を採用することができる。
重合体の製造に溶媒を使用する場合、溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、二塩化エチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶媒;アセトン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0044】
その他、重合体の分子量を調節するために、メルカプタン化合物、α−メチルスチレンダイマー、テルペノイド化合物等、公知の連鎖移動剤を用いてもよい。
【0045】
重合温度は、単量体(A)の種類等を勘案して決定でき、例えば、−50〜200℃が好ましく、0〜150℃がより好ましい。
【0046】
上述の通り、本発明の重合体は、構成単位(a)を有するため、耐熱性が高まり、吸湿性が低くなる。加えて、本発明の重合体は、金属触媒を用いずに製造できる。このため、光学的特性を求められるシート、フィルム等の透明成形材料(特に光学機器に用いられる部品)、フォトレジスト材料に特に好適である。
加えて、本発明の重合体は、構成単位(b)又は構成単位(c)を有することで、機械的特性を高められる。
さらに、本発明の重合体は、金属触媒を用いずに、ラジカル重合で容易に製造できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例を示して説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(使用原料)
<単量体(A)>
「Journal of American Chemical Society、101巻、5283頁、1979年」に記載の方法に従い、単量体(A1)〜(A4)を以下の方法で合成した。
【0049】
単量体(A1):上記式(A1)で表される化合物。
【0050】
≪単量体(A1)の合成≫
3方コックが設けられた200mLフラスコを窒素置換し、プロピオール酸メチル(1.0mL、11mmol)、シクロペンテン(1.2mL、14mmol)を加え0℃に冷却した。ここに二塩化エチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1.04mol/L、5.4mL、5.6mmol)を滴下した。この混合溶液を室温で48時間攪拌した後、1N−HCl水溶液10mLをゆっくり加え、二塩化エチルアルミニウムを加水分解した。ここにエーテル100mLを加えて分液漏斗に移して分液した。分離した有機層を飽和食塩水100mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して得られた溶液からエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、リサイクル分収GPCにより精製して、目的物である単量体(A1)を得た(収率31%、収量0.5g)。得られた単量体(A1)の式量(FW)は152.21であった。
【0051】
単量体(A2):上記式(A2)で表される化合物。
【0052】
≪単量体(A2)の合成≫
3方コックが設けられた300mLフラスコを窒素置換し、トルエン15mL、プロピオール酸メチル(2.0mL、23mmol)、シクロヘキセン(10mL、98.6mmol)を加え0℃に冷却した。ここに二塩化エチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1.04mol/L、13.0mL、13.5mmol)を滴下した。この混合溶液を室温で7日間攪拌した後、1N−HCl水溶液20mLをゆっくり加え、二塩化エチルアルミニウムを加水分解した。ここにエーテル200mLを加えて分液漏斗に移して分液した。分離した有機層を飽和食塩水200mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して得られた溶液からエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、リサイクル分収GPCにより精製して、目的物である単量体(A2)を得た(収率33%、収量1.3g)。得られた単量体(A2)の式量(FW)は166.22であった。
【0053】
単量体(A3):上記式(A3)で表される化合物。
【0054】
≪単量体(A3)の合成≫
3方コックが設けられた200mLフラスコを窒素置換し、トルエン17mLと三塩化アルミニウム(0.75g、5.6mmol)を加え懸濁液とし、これを0℃に冷却した。ここにプロピオール酸メチル(1.0mL、11mmol)、シクロオクテン(1.6mL、12mmol)を加え、この混合溶液を室温で4日間攪拌した。その後、1N−HCl水溶液10mLをゆっくり加え、二塩化エチルアルミニウムを加水分解した。ここにエーテル100mLを加えて分液漏斗に移して分液した。分離した有機層を飽和食塩水100mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して得られた溶液からエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、リサイクル分収GPCにより精製して、目的物である単量体(A3)を得た(収率62%、収量1.3g)。得られた単量体(A3)の式量(FW)は194.27であった。
【0055】
単量体(A4):上記式(A4)で表される化合物。
【0056】
≪単量体(A4)の合成≫
3方コックが設けられた300mLフラスコを窒素置換し、トルエン5mL、プロピオール酸メチル(2.0mL、23mmol)、ノルボルネン(2.53g、26.8mmol)を加え0℃に冷却した。ここに二塩化エチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度1.04mol/L、10.8mL、11.2mmol)を滴下した。この混合溶液を室温で3日間攪拌した後、1N−HCl水溶液20mLをゆっくり加え、二塩化エチルアルミニウムを加水分解した。ここにエーテル200mLを加えて分液漏斗に移して分液した。分離した有機層を飽和食塩水200mLで洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過して得られた溶液からエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、リサイクル分収GPCにより精製して、目的物である単量体(A4)を得た(収率33%、収量1.4g)。得られた単量体(A4)の式量(FW)は178.23であった。
【0057】
<単量体(A’):単量体(A)の比較品>
単量体(A’1):下記式(A’1)で表される化合物(商品名;2−ノルボルネン、東京化成工業株式会社製)。
【0058】
【化9】

【0059】
<単量体(B)>
単量体(B1):メタクリル酸n−ブチル(nBA)
【0060】
(実施例1)単量体(A1)とnBAとの重合体の製造
シュレンクに、重合開始剤の1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)と、単量体(A1)と、nBAとを導入し、減圧脱気した。この際、アゾビスイソブチロニトリル:[単量体(A1)+nBA]=1:200(モル比)、[単量体(A1)]:[nBA]=1:1(モル比)で導入した。その後、窒素雰囲気下で13.5時間、110℃で攪拌してバルク重合を行った。減圧乾燥により未反応のモノマーを除いた後、リサイクルGPCによりポリマーを精製し、溶媒を留去した。回収した重合体を12時間真空乾燥することにより、重合体を得た。
リサイクルGPCによる精製は、未反応の単量体を除くことを目的とするものであり、下記条件により行われた。
≪測定条件≫
測定装置:JAI LC−918R、日本分析工業株式会社製
カラム:JAIGEL−3H,2H,4H、日本分析工業株式会社製
溶媒:クロロホルム
流量:3.8mL/分
温度:25℃
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、重合体中の構成単位(a)の含有率、ΔTg(nBAの単独重合体(Tg=−55℃、後述する比較例2)と本例の重合体とのガラス転移温度の差)、吸水率を表1に示す。
【0061】
(実施例2)単量体(A2)とnBAとの重合体の製造
単量体(A1)を単量体(A2)とした以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、重合体中の構成単位(a)の含有率、ΔTg、吸水率を表1に示す。
【0062】
(実施例3)単量体(A3)とnBAとの重合体の製造
単量体(A1)を単量体(A3)とした以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、重合体中の構成単位(a)の含有率、ΔTg、吸水率を表1に示す。
【0063】
(実施例4)単量体(A4)とnBAとの重合体の製造
単量体(A1)を単量体(A4)とした以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、重合体中の構成単位(a)の含有率、ΔTg、吸水率を表1に示す。
【0064】
(比較例1)単量体(A’1)とnBAとの重合体の製造
単量体(A1)を単量体(A’1)とした以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、重合体中の単量体(A’)に由来する構成単位の含有率(表中、構成単位(a)の含有率として記載)、ΔTg、吸水率を表1に示す。
【0065】
(比較例2)nBAの単独重合体の製造
単量体(A1)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして重合体を得た。
得られた重合体の数平均分子量、Mw/Mn、ΔTg、吸水率を表1に示す。
【0066】
(測定方法)
<構成単位(a)の含有率>
H−NMR(JNM−EX270、日本電子株式会社製)を用いて重合体の重合組成を測定した。H−NMR(溶媒:重クロロホルム)における単量体(A)に由来するピークの積分値(s1、3H)と、nBAに由来するピークの積分値(s2、2H)とから、下記(I)式により構成単位(a)の含有率を求めた。
【0067】
含有率(モル%)=(s1)÷[(s1)+(s2)]×100 ・・・(I)
【0068】
<重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)>
ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとして、ゲルパーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(GPC150C、Waters社製)により測定した。
≪測定条件≫
溶離液:クロロホルム
測定温度:40℃
【0069】
<ガラス転移温度(Tg)>
示差走査熱量計(DSC、株式会社島津製作所製)によって、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で測定した。
【0070】
<吸水率>
重合体の吸湿性の指標として、吸水率を測定した。
各例の重合体のキャストフィルム(厚さ150μm、クロロホルム20質量%溶液から作製)を24時間室温で真空乾燥した。その後、25℃の水中に24時間浸漬して、質量増加分を測定し、下記(II)式によって吸水率を求めた。
吸水率(%)=(吸水による質量増加分/重合体質量)×100 ・・・(II)
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示す通り、本発明を適用した実施例1〜4は、ΔTgが142℃以上であり、比較例2に比べて耐熱性が高かった。加えて、実施例1〜4は、吸水率が1.0質量%以下であり、吸湿性が低かった。
これに対し、単量体(A)を単量体(A’)とした比較例1は、ΔTgが52℃、吸水率が1.3質量%であり、実施例1〜4に比べて耐熱性が低く、吸湿性が高かった。また、単量体(B)の単独重合とした比較例2は、ΔTgが0℃、吸水率が1.6質量%であり、実施例1〜4に比べて耐熱性が低く、吸湿性が高かった。
これらの結果から、本発明を適用することで、耐熱性が高く、吸湿性が低い重合体を金属触媒を用いずに得られることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される脂環式単量体(A)に由来する構成単位を含む重合体。
【化1】

((1)式中、Rは、水素又は炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、Rは、単環又は複環を構成する炭素原子数3〜20の炭化水素基である。)
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)に由来する構成単位を有する、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記脂環式単量体(A)又は前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)に重合可能な単量体(C)に由来する構成単位を有する、請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体の製造方法であって、前記脂環式単量体(A)をラジカル重合することを特徴とする、重合体の製造方法。



【公開番号】特開2012−233137(P2012−233137A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104465(P2011−104465)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】