説明

金型及びインサート樹脂成形方法

【課題】バスバーの端子接触面に樹脂漏れが発生しないインサート成形を行うことができる金型等を提供する。
【解決手段】ボルト挿通孔30aの周囲が端子接触面30bであるバスバー30をキャビティ12にセットし、バスバー30のボルト挿通孔30bにボルト31のネジ部31bを挿入し、バスバー30とボルト31をインサート部品としてキャビティ12に樹脂を注入してインサート樹脂成形を行う金型1であって、ネジ孔20aを有し、ネジ孔20aにボルト31のネジ部31bを螺入した位置がボルト31のセット位置となるボルト受け駒部20と、ボルト受け駒部20をネジ孔20aを中心として回転させるモータMとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバーとボルトをインサート部品としてインサート樹脂成形を行う金型、及び、これを用いたインサート樹脂成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性金属材のバスバーをインサート部品としてインサート成形する樹脂成形品が種々提案されている。この種の樹脂成形品として、バッテリポストに直付けされるヒューズ装置がある。
【0003】
この従来のヒューズ装置が図6に示されている。図6において、ヒューズ装置50は、バスバー51とこのバスバー51の周囲を被う絶縁樹脂部60とを備えている。バスバー51には、バッテリ70より給電を受けたり、負荷側に配電するための複数の端子部52が設けられている。端子部52は、バスバー51に形成されたボルト挿通孔52aと、このボルト挿通孔52aに挿入され、頭部が絶縁樹脂部60で固定されたボルト53とを有し、ボルト挿通孔52aの周囲が端子接触面52bとされている。端子接触面52bは絶縁樹脂部60で被われず、露出される。ボルト53のネジ部に相手端子(図示せず)を通し、上からナット61を螺入して相手端子を締結固定する。これにより、相手端子とバスバー51の端子接触面52bが密着され、良好な電気接触状態が得られる。
【0004】
上記ヒューズ装置50の製造は、金型のキャビティにバスバー51をセットし、バスバー51のボルト挿通孔52aにボルト53のネジ部を挿入し、バスバー51とボルト53をインサート部品としてキャビティに樹脂を注入することによって行われる。ここで、バスバー51とボルト53のキャビティ内でのセットは、バスバー51の端子接触面52bがキャビティ内面に載置され、バスバー51のボルト挿通孔52aに挿入されたボルト53は、そのネジ部がキャビティ内面に開口されたボルト収容孔に挿入された状態とされる。絶縁樹脂部60より露出する箇所は、溶融樹脂が流入しないようにキャビティ内面によって遮蔽される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−108718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂注入時の樹脂圧等に対してバスバー51の端子接触面52bがキャビティ内面に対して浮き上がるのを確実に阻止できない。バスバー51の端子接触面52bがキャビティ内面に対して浮き上がると、樹脂漏れによる絶縁樹脂がバスバー51の端子接触面52bに付着する。バスバー51の端子接触面52bに樹脂漏れが発生すると、相手端子とバスバー51の間の接触面積が小さくなり、良好な電気接触状態が得られない恐れがある。
【0007】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、バスバーの端子接触面に樹脂漏れが発生しないインサート成形を行うことができる金型、及び、これを用いたインサート樹脂成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボルト挿通孔の周囲が端子接触面であるバスバーをキャビティにセットし、前記バスバーの前記ボルト挿通孔にボルトのネジ部を挿入し、前記バスバーと前記ボルトをインサート部品として前記キャビティに樹脂を注入してインサート樹脂成形を行う金型であって、ネジ孔を有し、前記ネジ孔に前記ボルトのネジ部を螺入した位置が前記ボルトのセット位置となるボルト受け駒部と、前記ボルト受け駒部を前記ネジ孔を中心として回転させる駆動手段とを備えたことを特徴とする金型である。
【0009】
他の本発明は、金型は、樹脂を注入するキャビティと、ネジ孔を有し、前記ネジ孔にボルトのネジ部を螺入した位置が前記ボルトのセット位置となるボルト受け駒部と、前記ボルト受け駒部を前記ネジ孔を中心として回転させる駆動手段とを備え、ボルト挿通孔の周囲が端子接触面であるバスバーをキャビティにセットし、且つ、前記バスバーのボルト挿通孔に前記ボルトのネジ部を挿入し、挿入した前記ネジ部の先端を前記ネジ孔に位置合わせした状態に仮セットし、次に、前記ボルト受け駒部を前記駆動手段によってネジ螺入方向に回転し、次に、前記キャビティに樹脂を注入し、注入した樹脂が固化した後に、前記ボルト受け駒部を前記駆動手段によってネジ離脱方向に回転することを特徴とするインサート樹脂成形方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャビティへの樹脂注入時には、ボルト受け駒部に螺入されたボルトの締結力によってバスバーの端子接触面がキャビティ内面に密着されるため、バスバーの端子接触面に樹脂が漏れることがない。以上より、バスバーの端子接触面に樹脂漏れが発生しないインサート成形を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態を示し、金型とインサート部品の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、ボルトがボルト受け駒部に仮セットされた状態の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、ボルトがボルト受け駒部にセットされた状態の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、樹脂で固化されたボルトがボルト受け駒部より押し上げられた状態の断面図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、金型によるインサート成形手順を示すフローチャートである。
【図6】従来のヒューズ装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図5は本発明の一実施形態を示す。図1において、金型1は、従来例とほぼ同様構成のヒューズ装置を作製する。金型1は、バスバー30と複数のボルト31をインサート部品とする。バスバー30は、導電性金属材で、複数のボルト挿通孔30aを有する。ボルト締結用端子とされるボルト挿通孔30aは、その周囲が端子接触面30bとされる。端子接触面30bは、絶縁樹脂部32(図4に示す)によっては被われず、露出される。
【0014】
金型1は、上型2と下型10を有する。上型2と下型10は、互いに離間する型開き位置と、互いの突き合わせ面が密着する型締め位置に変移できる。型締め位置では、上型2の上キャビティ部(図示せず)と下型10の下キャビティ部11によってキャビティ12が構成される。
【0015】
下型10には、図2〜図4に詳しく示すように、各駒収容溝13に収容された4つのボルト受け駒部20とこれらを回転駆動する駆動源であるモータMとを備えている。各ボルト受け駒部20は、円柱形である。各ボルト受け駒部20の中心には、ネジ孔20aが形成されている。各ボルト受け駒部20の上面は、下キャビティ部11の底面であるキャビティ内面と面一である。各ボルト受け駒部20の上面は、キャビティ内面の一部を構成する。各ボルト受け駒部20は、ネジ孔20aにボルト31のネジ部31bを螺入した位置がボルト31のセット位置となる。
【0016】
モータMは、各ボルト受け駒部20をそのネジ孔20aを中心として正逆方向に回転駆動する。
【0017】
次に、金型1によるインサート成形手順を図5のフローに沿って説明する。金型1は型開き状態である。下型10の下キャビティ部11にバスバー30をセットする(ステップS1)。
【0018】
次に、図2に示すように、バスバー30の各ボルト挿通孔30aに各ボルト31のネジ部31bを挿入し、挿入したネジ部31bの先端をボルト受け駒部20のネジ孔20aに位置合わせした状態に仮セットする(ステップS2)。
【0019】
次に、各ボルト31を回り止めしつつモータMを正転方向、つまり、ボルト31のネジ部31bがボルト受け駒部20のネジ孔20aに螺入する方向に駆動する(ステップS3)。モータMの回転で各ボルト受け駒部20が回転する(ステップS4)。これにより、図3に示すように、ボルト31がネジピッチによって徐々にボルト受け駒部20のネジ孔20aに入り込み、最終的にはボルト31の頭部31aがバスバー30に密着する位置まで入り込む。ボルト31の締結力によってバスバー30がボルト受け駒部20に密着する。特に、ボルト31の頭部31aより締結力を直接受けるバスバー30の端子接触面30bがボルト受け駒部20の上面に密着する。
【0020】
次に、型締めを行う(ステップS5)。
【0021】
次に、キャビティ12に溶融樹脂を注入し、インサート成形を行う(ステップS6)。
【0022】
キャビティ12内の樹脂が固化すると、型開きを行う(ステップS7)。
【0023】
次に、下型のイジェクトピン(図示せず)で成形品(図示せず)を押し上げ方向に付勢しつつ(ステップS8)、モータMを逆転方向、つまり、ボルト31のネジ部31bがボルト受け駒部20のネジ孔20aより離脱する方向に駆動する(ステップS9)。モータMの回転でボルト受け駒部20が回転する。ボルト31は、その頭部31aが絶縁樹脂部32(図4に示す)によって固定されているため、ボルト31がネジピッチによってボルト受け駒部20より徐々に押し上げられる。図4に示すように、ボルト31に作用する押し上げ力とイジェクトピン(図示せず)の押し上げ力によって成形品が下型10より離脱する。これで、インサート成形が完了する。
【0024】
以上説明したように、金型1は、ネジ孔20aを有し、ネジ孔20aにボルト31のネジ部31bを螺入した位置がボルト31のセット位置となるボルト受け駒部20と、ボルト受け駒部20をネジ孔20aを中心として回転させるモータMとを備えている。従って、キャビティ12への樹脂注入時には、ボルト受け駒部20に螺入されたボルト31の締結力によってバスバー30の端子接触面30bがキャビティ内面に密着されるため、バスバー30の端子接触面30bに樹脂が漏れることがない。以上より、バスバー30の端子接触面30bに樹脂漏れが発生しないインサート成形を行うことができる。又、ボルト31が樹脂注入時の樹脂圧によって位置ずれするのを確実に防止できる。
【0025】
このようにして成形されたヒューズ装置は、端子接触面30bに樹脂漏れがないため、相手端子(図示せず)とバスバー30の間に十分な接触面積が確保され、良好な電気接触状態が得られる。
【0026】
この実施形態では、金型1がヒューズ装置をインサート成形する場合を示したが、これに限定されるものでない。本発明は、バスバー30とボルト31をインサート部品とし、バスバー30のボルト挿通孔30aの周囲を端子接触面30bとして露出するような成形に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 金型
12 キャビティ
20 ボルト受け駒部
20a ネジ孔
30 バスバー
30a ボルト挿通孔
30b 端子接触面
31 ボルト
31a 頭部
31b ネジ部
M モータ(駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト挿通孔の周囲が端子接触面であるバスバーをキャビティにセットし、前記バスバーの前記ボルト挿通孔にボルトのネジ部を挿入し、前記バスバーと前記ボルトをインサート部品として前記キャビティに樹脂を注入してインサート樹脂成形を行う金型であって、
ネジ孔を有し、前記ネジ孔に前記ボルトのネジ部を螺入した位置が前記ボルトのセット位置となるボルト受け駒部と、前記ボルト受け駒部を前記ネジ孔を中心として回転させる駆動手段とを備えたことを特徴とする金型。
【請求項2】
金型は、樹脂を注入するキャビティと、ネジ孔を有し、前記ネジ孔にボルトのネジ部を螺入した位置が前記ボルトのセット位置となるボルト受け駒部と、前記ボルト受け駒部を前記ネジ孔を中心として回転させる駆動手段とを備え、
ボルト挿通孔の周囲が端子接触面であるバスバーをキャビティにセットし、且つ、前記バスバーのボルト挿通孔に前記ボルトのネジ部を挿入し、挿入した前記ネジ部の先端を前記ネジ孔に位置合わせした状態に仮セットし、
次に、前記ボルト受け駒部を前記駆動手段によってネジ螺入方向に回転し、
次に、前記キャビティに樹脂を注入し、注入した樹脂が固化した後に、前記ボルト受け駒部を前記駆動手段によってネジ離脱方向に回転することを特徴とするインサート樹脂成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35208(P2013−35208A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173015(P2011−173015)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】