金属‐炭素複合材料
【課題】 スパッタリングのターゲットとして用いられた場合に、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑制することにより、DLC膜の諸特性を飛躍的に向上させることができる金属‐炭素複合材料を提供することを目的としている。
【解決手段】 炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、更に、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程を有することを特徴としている。
【解決手段】 炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、更に、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程を有することを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属‐炭素複合材料に関し、特に、スパッタリングのターゲット等に用いられる金属‐炭素複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛をターゲット材として用い、スパッタリング法、真空アーク放電法により、硬質DLC(diamond―like carbon)膜を形成する技術が知られている。また、黒鉛と金属とを同時にターゲット材として用い、硬質かつ高機能な金属ドープDLC膜を形成する技術も知られている。具体的に、上記金属ドープDLC膜を形成する際には、スパッタリングターゲットとして、金属と炭素とをそれぞれ別々に用意し、金属および炭素の両方を蒸発させることにより形成していた。しかしながら、当該方法では、金属の蒸発と炭素の蒸発とをそれぞれ制御する必要があるが、当該制御は困難であるということから、DLC膜中の金属濃度をコントロールすることは容易ではない。
また、ケイ素及び炭素の各粉末を含む混合物の焼結体からなる焼結ターゲット(複合ターゲット)を用いて金属ドープDLC膜形成する提案がされている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−1972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、その焼結ターゲットの特徴や製造方法の詳細について記載されていない。また、DLC膜の特性向上(特に、硬度の向上)にはターゲット中の水分等の不純物を除去し、更にターゲットが空気中に曝された場合に水分等の不純物が付着するのを防止することが効果的である。しかし、上記特許文献1では、水分等の除去や水分等の付着防止については考慮されていない。このため、DLC膜を形成する際、スパッタリング装置内に水分等が含まれるようになる結果、良好なDLC膜を形成できないという課題を有していた。水分等の不純物は、真空装置内等の雰囲気において除去することが望まれており、不純物を含まない、取り込みにくい、あるいは放出しにくい材料が求められていた。
【0005】
そこで本発明は、雰囲気に悪影響を及ぼす水分を取り込みにくい金属−炭素複合材料、特にスパッタリングのターゲットとして用いられた場合に、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑制することにより、DLC膜の諸特性を飛躍的に向上させることができる金属‐炭素複合材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程、を有することを特徴とする。
上記の如く、成形体を1300℃以上で熱処理することにより、ターゲット中の水分等の不純物を除去し、且つ、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを抑制することができる。したがって、DLC膜を形成する場合等において、金属‐炭素複合材料からの脱ガスを抑制することができるので、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑えることができる。この結果、本発明の金属‐炭素複合材料をスパッタリングのターゲットとして用いた場合には、良好なDLC膜を形成できる。
また、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを防止することができるので、水分等の脱離に起因する真空劣化を抑制できる。したがって、真空引きが短時間で終了するので、生産効率を向上させることができる。
【0007】
上記熱処理する工程における熱処理温度が1600℃以上であることが望ましい。
このような方法であれば、ターゲット中の水分等の不純物を除去する機能と、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを抑制する機能が一層発揮されるので、上記作用効果がより発揮される。
【0008】
上記熱処理する工程における熱処理温度が2000℃以下であることが望ましい。
熱処理温度を2000℃以下に抑えることによって、金属の蒸発を抑制することができる。
【0009】
上記成形体の熱処理の前に、成形体を焼成する工程を有することが望ましい。
成形体を焼成することにより、形状を安定化させることができ、金属−炭素複合材における割れ等が生じるのを抑制することができる。
上記焼成する工程における焼成温度が1000℃以下であることが望ましい。
焼成温度を1000℃以下にすることによって、割れ等をより防止することができる。また、焼成する工程の後により高温で熱処理するため、1000℃を越える温度での焼成は不要であり、コストを抑制することができる。
また、未焼成の成型体は熱的安定性や機械的安定性が乏しい。そのため、多量の揮発分や分解ガスを発生し収縮する1000℃以下での焼成工程では比較的ゆっくりした昇温が望ましい。一方、それより高温度で熱処理する工程では比較的迅速な昇温が可能であるが、高温での熱処理は比較的高コストである。したがって、1000℃以下の焼成により熱的安定性や機械的安定性を付与した後に所望の製品形状に加工し、体積を減少させた後により高温で熱処理すれば、熱処理炉の炉詰め効率を向上できコストを抑制することもできる。
【0010】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、4族元素、6族元素、鉄族元素から選択される少なくとも1種を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.10重量%以下であることを特徴とする。
上記4族元素としては、入手の容易さ、水等の不純物の吸収性の面からチタン、ジルコニウム、ハフニウムが好ましい。
上記6族元素としては、入手の容易さ、水等の不純物の吸収性の面からクロム、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデン、タングステンが特に好ましい。
上記鉄族元素としては、鉄、ニッケル、コバルトが挙げられる。
また、上記金属元素としては、チタン、ジルコニウム、鉄、ハフニウム、タングステン、モリブデン、マグネシウム、コバルトとニッケルとの混合物、又は、ニッケルとイットリウムとの混合物から成ることが好ましい。
【0011】
また、少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、ケイ素、またはアルミニウムを含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.08重量%以下であることを特徴とする。
上記金属元素としては、ケイ素、又は、ニッケルとイットリウムとアルミニウムとの混合物から成ることが好ましい。
【0012】
更に、少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、3族元素を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.20重量%以下であることを特徴とする。
また、3族元素としては、イットリウム、ランタノイドが好ましく、特にホルミウム、又は、イットリウムが好ましい。
【0013】
上記の如く、所定条件(大気中に近い条件)で保管したときに、重量増加率が一定の割合以下となるように規制されていれば、この材料をスパッタリングのターゲット等として使用した場合に、装置内等に水分等の不純物が混入するのを抑制できる。したがって、金属‐炭素複合材料の保管条件が緩和されるので、当該材料の保管が容易となる。
【0014】
金属‐炭素複合材料はダイヤモンドライクカーボン膜製造用のスパッタリングターゲットとして用いられることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属‐炭素複合材料中の水分等の不純物を除去し、且つ、金属‐炭素複合材料が空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを防止することができる。したがって、金属‐炭素複合材料からの脱ガスを抑制することができるので、例えば、DLC膜形成時のターゲットとして用いられた場合に、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑えることができるので、DLC膜の諸特性を飛躍的に向上させることができる。また、水分等の脱離に起因する真空劣化を抑制できるので、真空引きが短時間で終了し、生産効率を向上させることができる。加えて、金属‐炭素複合材料の保管条件が緩和されるので、当該材料の保管が容易となるといった優れた効果を奏する。
また、本発明の金属−炭素複合材料では、金属が炭素中にほぼ均一に分散されているため、スパッタリングターゲットとして用いた場合に形成されるDLCにほぼ均一に金属を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TG−MSの測定結果を示すグラフである。
【図2】本発明材料A1、A2及び比較材料Z1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明材料A1、A2及び比較材料Z1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図4】本発明材料A3、A4及び比較材料Z2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明材料A3、A4及び比較材料Z2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図6】本発明材料A5、A6及び比較材料Z3における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図7】本発明材料A5、A6及び比較材料Z3を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図8】本発明材料A7、A8及び比較材料Z4における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図9】本発明材料A7、A8及び比較材料Z4を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図10】本発明材料A9、A10及び比較材料Z5における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図11】本発明材料A9、A10及び比較材料Z5を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図12】本発明材料A11、A12及び比較材料Z6における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図13】本発明材料A11、A12及び比較材料Z6を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図14】本発明材料A13、A14及び比較材料Z7における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図15】本発明材料A13、A14及び比較材料Z7を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図16】本発明材料A15及び比較材料Z8における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図17】本発明材料A15及び比較材料Z8を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図18】本発明材料A16及び比較材料Z9における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図19】本発明材料A16及び比較材料Z9を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図20】本発明材料B1、B2及び比較材料Y1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図21】本発明材料B1、B2及び比較材料Y1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図22】本発明材料B3、B4及び比較材料Y2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図23】本発明材料B3、B4及び比較材料Y2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図24】本発明材料C1、C2及び比較材料X1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図25】本発明材料C1、C2及び比較材料X1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図26】本発明材料C3及び比較材料X2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図27】本発明材料C3及び比較材料X2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
炭素骨材として人造黒鉛と、バインダーとしてのフェノール樹脂と、添加物としてのTiC(平均粒径:5μm)とを混合した後、オープンロールにて混練した。次に、成形可能な粒度まで粉砕した後、粉砕物を成形し、更に、還元雰囲気下にて900℃にて焼成した。最後に、上記焼成物を1300℃で熱処理することにより、金属‐炭素複合材料(スパッタリングのターゲット)を作製した。尚、金属−炭素複合材料の総量に対するTiの割合が21.5at%となるように、上記TiCを添加した。
【0018】
ここで、上記炭素骨材となる炭素材料としては、人造黒鉛に限定するものではなく、天然黒鉛やキッシュ黒鉛などの黒鉛質、あるいはコークス、ガラス状炭素、カーボンブラックなどの炭素質等を用いることも可能である。また、炭素骨材となる炭素材料は粉末状であることが望ましく、その平均粒径は100μm以下のであることが好ましい。特に、1μm以上100μm以下であることが好ましく、その中でも5μm以上50μm以下であることが望ましい。これは、1μmを下回る炭素材料はカーボンブラックを除いては入手が困難であり、5μmを下回ると凝集により金属との均一な分散が困難となり、更に100μmを上回ると粒子離脱を生じて好ましくないという理由によるものである。
上記バインダーとしては、上記フェノール樹脂に限定するものではなく、ピッチ、タール、フルフリルアルコール、フラン樹脂、イミド系樹脂ワニス等を使用することができる。
【0019】
金属又は金属化合物となる上記添加物は、粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上100μm以下であることが好ましく、特に5μm以上50μm以下であることが望ましい。これは、平均粒径が1μmを下回る金属は入手が困難かコスト高となる一方、平均粒径が5μmを下回ると凝集を生じてしまい炭素原料との均一な分散が困難となり、更に平均粒径が100μmを上回る塊状の場合は炭素への金属の均一な分散が困難となるからである。
【0020】
上記添加物は、上記金属元素の純金属からなっていても、上記金属元素を含む化合物からなっていてもよい。この金属元素を含む化合物としては、例えば、酸化物、炭化物、有機酸との塩等が挙げられる。
また、金属−炭素複合材における金属原子の割合としては、30at%以下が好ましく、25at%以下がより好ましい。金属原子の割合を30at%以下にすることにより、空気中の水分等の不純物を取り込みにくくすることができる。
【0021】
〔予備実験〕
金属‐炭素複合材料の脱ガス成分を調査する目的で、TG−MS(熱重量分析法−質量分析法)にて、室温〜1300℃まで昇温させ、発生したガスの成分分析を行ったので、その結果を図1に示す。尚、金属‐炭素複合材料としては、添加物としてTiCの代わりにSiC(金属‐炭素複合材料の総量に対するSiの割合が15.5at%)を用いた以外は上記と同様にして作製した金属‐炭素複合材料を用いた。また、昇温速度は10℃/分とした。
【0022】
図1から明らかなように、200℃付近(20分経過後)で質量数18の物質(水分)が離脱していることが認められ、1200℃付近(120分経過後)で質量数40の物質(二酸化炭素)が離脱していることが認められる。但し、200℃付近での金属‐炭素複合材料の重量減少量は、1200℃付近での金属‐炭素複合材料の重量減少量に比べて、格段に大きくなっている。したがって、金属‐炭素複合材料からの主たる脱ガス成分は水分であることがわかる。
【0023】
上記金属‐炭素複合材料から放出された水分は、スパッタリング時にDLC膜中に取り込まれて不純物となり、DLC膜質を軟化させる要因となる。特に、DLC膜中へ水素が混入すると、DLC膜の硬度を低下させる主要因となるため、水素の混入を抑止する必要があり、このような観点から、スパッタリング時の吸着水の脱離を回避する必要がある。
【0024】
一般的には、金属‐炭素複合材料(ターゲット)の前処理として、加熱することによる脱ガスが行われるが、この方法では、脱ガス成分がスパッタリング装置の炉内を汚染したり、ガス成分により真空度が低下する。このため、真空ポンプの作動時間が短いと、上述したようにDLC膜の硬度が低下する一方、真空ポンプの作動時間が長いと、このような不都合をある程度回避できるものの、DLC膜の形成サイクルを遅延させることとなって、DLC膜の製造コストが高騰する。
【0025】
そこで、発明者らは金属−炭素複合材料の吸湿を抑止する方法について鋭意研究したので、その内容について下記実施例に示す。
【実施例】
【0026】
〔第1実施例〕
(実施例1)
上記発明を実施するための形態で示した方法と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。尚、当該材料の大きさは、10mm×10mm×60mmとした。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A1と称する。
【0027】
(実施例2)
上記焼成物の熱処理温度を1600℃とした以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A2と称する。
【0028】
(実施例3、4)
添加物としてTiCの代わりにZr2O3(金属成分はZr)を用い、且つ、金属‐炭素複合材料の総量(以下、複合材料の総量と称することがある)に対するZrの割合が0.4at%となるようにZr2O3を添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A3、A4と称する。
【0029】
(実施例5、6)
添加物としてTiCの代わりにFe(Fe単体)を用い、且つ、複合材料の総量に対するFeの割合が1.0at%となるようにFeを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A5、A6と称する。
【0030】
(実施例7、8)
添加物としてTiCの代わりにHfO2(金属成分はHf)を用い、且つ、複合材料の総量に対するHfの割合が0.8at%となるようにHfO2を添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A7、A8と称する。
【0031】
(実施例9、10)
添加物としてTiCの代わりにW(W単体)を用い、且つ、複合材料の総量に対するWの割合が0.5at%となるようにWを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A9、A10と称する。
【0032】
(実施例11、12)
添加物としてTiCの代わりにCo(Co単体)とNi(Ni単体)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するCoの割合が0.6at%、複合材料の総量に対するNiの割合が0.6at%となるようにCoとNiとを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A11、A12と称する。
【0033】
(実施例13、14)
添加物としてTiCの代わりにNi(Ni単体)とY2O3(金属成分はY)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するNiの割合が4.2at%、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%となるようにNiとY2O3とを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A13、A14と称する。
【0034】
(実施例15)
添加物としてTiCの代わりにMoO3(金属成分はMo)を用い、且つ、複合材料の総量に対するMoの割合が1.4at%となるようにMoO3を添加したこと以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A15と称する。
【0035】
(実施例16)
添加物としてTiCの代わりにMgO(金属成分はMg)を用い、且つ、複合材料の総量に対するMgの割合が0.3at%となるようにMgOを添加したこと以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A16と称する。
【0036】
(比較例1〜9)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3、5、7、9、11、13、15、16と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料Z1〜Z9と称する。
【0037】
(実験)
本発明材料A1〜A16及び比較材料Z1〜Z9を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表1〜表10、図2〜図19に示す。
【0038】
尚、表1及び図2は、本発明材料A1、A2、比較材料Z1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表2及び図4は、本発明材料A3、A4、比較材料Z2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表3及び図6は、本発明材料A5、A6、比較材料Z3における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表4及び図8は、本発明材料A7、A8、比較材料Z4における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表5及び図10は、本発明材料A9、A10、比較材料Z5における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表6及び図12は、本発明材料A11、A12、比較材料Z6における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表7及び図14は、本発明材料A13、A14、比較材料Z7における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表8及び図16は、本発明材料A15、比較材料Z8における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表9及び図18は、本発明材料A16、比較材料Z9における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
【0039】
また、表10は、本発明材料A1〜A16及び比較材料Z1〜Z9を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図3は、本発明材料A1、A2及び比較材料Z1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図5は、本発明材料A3、A4及び比較材料Z2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図7は、本発明材料A5、A6及び比較材料Z3を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図9は、本発明材料A7、A8及び比較材料Z4を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図11は、本発明材料A9、A10及び比較材料Z5を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図13は、本発明材料A11、A12及び比較材料Z6を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図15は、本発明材料A13、A14及び比較材料Z7を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図17は、本発明材料A15及び比較材料Z8を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図19は、本発明材料A16及び比較材料Z9を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
【表9】
【表10】
【0049】
表1〜表10、図2〜図19から明らかなように、本発明材料A1〜A16は比較材料Z1〜Z9に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Z1〜Z9では全て0.1重量%を超えているのに対して、本発明材料A1〜A16では全て0.1重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料A2、A4、A6、A8、A10、A12、A14では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Z1〜Z9では非常に高くなっているのに対して、本発明材料A1〜A16では非常に低くなっていることが認められる。
【0050】
〔第2実施例〕
(実施例1、2)
添加物としてTiCの代わりにSiC(金属成分はSi)を用い、且つ、複合材料の総量に対するSiの割合が15.5at%となるようにSiCを添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料B1、B2と称する。
【0051】
(実施例3、4)
添加物としてTiCの代わりにNi(Ni単体)とY2O3(金属成分はY)とAl2O3(金属成分はAl)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するNiの割合が4.2at%、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%、複合材料の総量に対するAlの割合が1.0at%、となるようにNiとY2O3とAl2O3とを添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料B3、B4と称する。
【0052】
(比較例1、2)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料Y1、Y2と称する。
【0053】
(実験1)
本発明材料B1〜B4及び比較材料Y1、Y2を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表11〜表13、図20〜図23に示す。
【0054】
尚、表11及び図20は、本発明材料B1、B2、比較材料Y1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表12及び図22は、本発明材料B3、B4、比較材料Y2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
また、表13は、本発明材料B1〜B4及び比較材料Y1、Y2を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図21は、本発明材料B1、B2及び比較材料Y1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図23は、本発明材料B3、B4及び比較材料Y2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
表11〜表13、図20〜図23から明らかなように、本発明材料B1〜B4は比較材料Y1、Y2に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Y1、Y2では全て0.08重量%を超えているのに対して、本発明材料B1〜B4では全て0.08重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料B2、B4では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Y1、Y2では非常に高くなっているのに対して、本発明材料B1〜B4では非常に低くなっていることが認められる。
【0059】
(実験2)
上記本発明材料B2と比較材料Y1とについて、下記(1)〜(5)に示す工程にて、UBMS(アンバランスドマグネトロンスパッタリング)でのターゲット材として用い、各材料を評価した。
【0060】
A.比較材料Y1を用いたときの評価
(1)前処理工程
スパッタリング装置内にターゲットのみを配置した状態〔ワーク(被処理物)は配置しない状態〕で、スパッタリング装置内にArガスを導入した後、Ar+でターゲットのスパッタリングを行った。これにより、ターゲット表面の酸化物等が除去されると共に、ターゲットが加熱されるのでターゲットに吸着した成分も一部除去されることになる。
【0061】
(2)ワーク配置工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内にワークを配置した。この際、ターゲットに水分が吸着した。その後、500℃のヒーター(ワークの表面温度は100℃程度となるように)を用いてワークを加熱し、更に、アルゴンボンバードにより炉内、ターゲット、ワークを洗浄した。上記加熱時に、ターゲットは加熱されないので、ターゲットに吸着した水分は残存した。
【0062】
(3)第1成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行ってワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生で炉内が汚染された。
【0063】
(4)ワーク取り替え工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内のワークを新たなワークと取り替えた。この際、ターゲットに水分が吸着した。その後、500℃のヒーター(ワークの表面温度は100℃程度となるように)を用いてワークを加熱し、更に、アルゴンボンバードにより炉内、ターゲット、ワークを洗浄した。上記加熱時に、ターゲットは加熱されないので、ターゲットに吸着した水分は残存した。
【0064】
(5)第2成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行って、ワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生で炉内が汚染された。
(6)対策
上記の如く、成膜時(第1成膜工程及び第2成膜工程)にターゲットから水分が脱離して、真空劣化が生じたため、電子源であるタングステンフィラメントの異常消耗が懸念される。そこで、これを抑制するため、長時間の真空引きを行った。但し、長時間の真空引きを行うことにより、成膜サイクルが長くなって、生産効率の低下を招来した。
【0065】
B.本発明材料B2を用いたときの評価
(1)前処理工程
比較材料Y1を用いたときと同じ。
【0066】
(2)ワーク配置工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内にワークを配置した際に、ターゲットには水分が殆ど吸着しなかった。また、ワークを加熱し、更に、炉内、ターゲット、ワークを洗浄した際にも、ターゲットには水分が殆ど吸着していないので、問題はなかった。
【0067】
(3)第1成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行ってワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生が殆ど生じないので、炉内が汚染されなかった。
【0068】
(4)ワーク取り替え工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内のワークを新たなワークと取り替えた際、ターゲットには水分が殆ど吸着しなかった。また、ワークを加熱し、更に、炉内、ターゲット、ワークを洗浄した際にも、ターゲットには水分が殆ど吸着していないので、問題はなかった。
【0069】
(5)第2成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行って、ワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生が殆ど生じないので、炉内が汚染されなかった。
(6)対策
上記の如く、成膜時にターゲットから水分が殆ど脱理せず、真空劣化が生じないため、電子源であるタングステンフィラメントの異常消耗を考慮しなくても良い。したがって、長時間の真空引きが不要となるので、成膜サイクルが短くなって、生産効率が向上した。
【0070】
〔第3実施例〕
(実施例1、2)
添加物としてTiCの代わりにY2O3(金属成分はY)を用い、且つ、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%となるようにY2O3を添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料C1、C2と称する。
【0071】
(実施例3)
添加物としてTiCの代わりにHo2O3(金属成分はHo)を用い、且つ、複合材料の総量に対するHoの割合が1.0at%となるようにHo2O3を添加したこと以外は、前記第1実施例の実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料C3と称する。
【0072】
(比較例1、2)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料X1、X2と称する。
【0073】
(実験1)
本発明材料C1〜C3及び比較材料X1、X2を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表14〜表16、図24〜図27に示す。
【0074】
尚、表14及び図24は、本発明材料C1、C2、比較材料X1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表15及び図26は、本発明材料C3、比較材料X2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
また、表15は、本発明材料C1〜C3及び比較材料X1、X2を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図25は、本発明材料C1、C2及び比較材料X1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図27は、本発明材料C3及び比較材料X2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0075】
【表14】
【0076】
【表15】
【0077】
【表16】
【0078】
表14〜表16、図24〜図27から明らかなように、本発明材料C1〜C3は比較材料X1、X2に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料X1、X2では全て0.20重量%を超えているのに対して、本発明材料C1〜C3では全て0.20重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料C2では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料X1、X2では非常に高くなっているのに対して、本発明材料C1〜C3では非常に低くなっていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、スパッタリングのターゲット等に用いることができる。
また、金属-炭素複合材料を真空チャンバー内に設置したうえで、真空排気工程を有する用途、もしくは金属-炭素複合材料を真空チャンバー内に設置したうえで、金属-炭素複合材料が加熱や発熱を伴う工程を有する用途、たとえば、アーク放電法やレーザー蒸発法による金属内包フラーレンや単層カーボンナノチューブなどのナノカーボン類の合成における蒸発源に用いる事もできる。更に、金属-炭素複合材料を蒸発源ではなく、ワーク(非処理物)として用いる場合の脱ガス抑止の前処理として施し、脱ガス成分の少ないコーティング基材として用いる事もできるし、炉内パーツとして用いる際には、脱ガス成分の少ない炉内パーツとして用いる事もできる。
【技術分野】
【0001】
本発明は金属‐炭素複合材料に関し、特に、スパッタリングのターゲット等に用いられる金属‐炭素複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛をターゲット材として用い、スパッタリング法、真空アーク放電法により、硬質DLC(diamond―like carbon)膜を形成する技術が知られている。また、黒鉛と金属とを同時にターゲット材として用い、硬質かつ高機能な金属ドープDLC膜を形成する技術も知られている。具体的に、上記金属ドープDLC膜を形成する際には、スパッタリングターゲットとして、金属と炭素とをそれぞれ別々に用意し、金属および炭素の両方を蒸発させることにより形成していた。しかしながら、当該方法では、金属の蒸発と炭素の蒸発とをそれぞれ制御する必要があるが、当該制御は困難であるということから、DLC膜中の金属濃度をコントロールすることは容易ではない。
また、ケイ素及び炭素の各粉末を含む混合物の焼結体からなる焼結ターゲット(複合ターゲット)を用いて金属ドープDLC膜形成する提案がされている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−1972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1では、その焼結ターゲットの特徴や製造方法の詳細について記載されていない。また、DLC膜の特性向上(特に、硬度の向上)にはターゲット中の水分等の不純物を除去し、更にターゲットが空気中に曝された場合に水分等の不純物が付着するのを防止することが効果的である。しかし、上記特許文献1では、水分等の除去や水分等の付着防止については考慮されていない。このため、DLC膜を形成する際、スパッタリング装置内に水分等が含まれるようになる結果、良好なDLC膜を形成できないという課題を有していた。水分等の不純物は、真空装置内等の雰囲気において除去することが望まれており、不純物を含まない、取り込みにくい、あるいは放出しにくい材料が求められていた。
【0005】
そこで本発明は、雰囲気に悪影響を及ぼす水分を取り込みにくい金属−炭素複合材料、特にスパッタリングのターゲットとして用いられた場合に、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑制することにより、DLC膜の諸特性を飛躍的に向上させることができる金属‐炭素複合材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程、を有することを特徴とする。
上記の如く、成形体を1300℃以上で熱処理することにより、ターゲット中の水分等の不純物を除去し、且つ、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを抑制することができる。したがって、DLC膜を形成する場合等において、金属‐炭素複合材料からの脱ガスを抑制することができるので、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑えることができる。この結果、本発明の金属‐炭素複合材料をスパッタリングのターゲットとして用いた場合には、良好なDLC膜を形成できる。
また、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを防止することができるので、水分等の脱離に起因する真空劣化を抑制できる。したがって、真空引きが短時間で終了するので、生産効率を向上させることができる。
【0007】
上記熱処理する工程における熱処理温度が1600℃以上であることが望ましい。
このような方法であれば、ターゲット中の水分等の不純物を除去する機能と、ターゲットが空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを抑制する機能が一層発揮されるので、上記作用効果がより発揮される。
【0008】
上記熱処理する工程における熱処理温度が2000℃以下であることが望ましい。
熱処理温度を2000℃以下に抑えることによって、金属の蒸発を抑制することができる。
【0009】
上記成形体の熱処理の前に、成形体を焼成する工程を有することが望ましい。
成形体を焼成することにより、形状を安定化させることができ、金属−炭素複合材における割れ等が生じるのを抑制することができる。
上記焼成する工程における焼成温度が1000℃以下であることが望ましい。
焼成温度を1000℃以下にすることによって、割れ等をより防止することができる。また、焼成する工程の後により高温で熱処理するため、1000℃を越える温度での焼成は不要であり、コストを抑制することができる。
また、未焼成の成型体は熱的安定性や機械的安定性が乏しい。そのため、多量の揮発分や分解ガスを発生し収縮する1000℃以下での焼成工程では比較的ゆっくりした昇温が望ましい。一方、それより高温度で熱処理する工程では比較的迅速な昇温が可能であるが、高温での熱処理は比較的高コストである。したがって、1000℃以下の焼成により熱的安定性や機械的安定性を付与した後に所望の製品形状に加工し、体積を減少させた後により高温で熱処理すれば、熱処理炉の炉詰め効率を向上できコストを抑制することもできる。
【0010】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、4族元素、6族元素、鉄族元素から選択される少なくとも1種を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.10重量%以下であることを特徴とする。
上記4族元素としては、入手の容易さ、水等の不純物の吸収性の面からチタン、ジルコニウム、ハフニウムが好ましい。
上記6族元素としては、入手の容易さ、水等の不純物の吸収性の面からクロム、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデン、タングステンが特に好ましい。
上記鉄族元素としては、鉄、ニッケル、コバルトが挙げられる。
また、上記金属元素としては、チタン、ジルコニウム、鉄、ハフニウム、タングステン、モリブデン、マグネシウム、コバルトとニッケルとの混合物、又は、ニッケルとイットリウムとの混合物から成ることが好ましい。
【0011】
また、少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、ケイ素、またはアルミニウムを含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.08重量%以下であることを特徴とする。
上記金属元素としては、ケイ素、又は、ニッケルとイットリウムとアルミニウムとの混合物から成ることが好ましい。
【0012】
更に、少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、上記金属は、3族元素を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.20重量%以下であることを特徴とする。
また、3族元素としては、イットリウム、ランタノイドが好ましく、特にホルミウム、又は、イットリウムが好ましい。
【0013】
上記の如く、所定条件(大気中に近い条件)で保管したときに、重量増加率が一定の割合以下となるように規制されていれば、この材料をスパッタリングのターゲット等として使用した場合に、装置内等に水分等の不純物が混入するのを抑制できる。したがって、金属‐炭素複合材料の保管条件が緩和されるので、当該材料の保管が容易となる。
【0014】
金属‐炭素複合材料はダイヤモンドライクカーボン膜製造用のスパッタリングターゲットとして用いられることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属‐炭素複合材料中の水分等の不純物を除去し、且つ、金属‐炭素複合材料が空気中等に曝された場合に、水分等の不純物が付着するのを防止することができる。したがって、金属‐炭素複合材料からの脱ガスを抑制することができるので、例えば、DLC膜形成時のターゲットとして用いられた場合に、スパッタリング装置内に水分等が含まれるのを抑えることができるので、DLC膜の諸特性を飛躍的に向上させることができる。また、水分等の脱離に起因する真空劣化を抑制できるので、真空引きが短時間で終了し、生産効率を向上させることができる。加えて、金属‐炭素複合材料の保管条件が緩和されるので、当該材料の保管が容易となるといった優れた効果を奏する。
また、本発明の金属−炭素複合材料では、金属が炭素中にほぼ均一に分散されているため、スパッタリングターゲットとして用いた場合に形成されるDLCにほぼ均一に金属を分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】TG−MSの測定結果を示すグラフである。
【図2】本発明材料A1、A2及び比較材料Z1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明材料A1、A2及び比較材料Z1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図4】本発明材料A3、A4及び比較材料Z2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図5】本発明材料A3、A4及び比較材料Z2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図6】本発明材料A5、A6及び比較材料Z3における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図7】本発明材料A5、A6及び比較材料Z3を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図8】本発明材料A7、A8及び比較材料Z4における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図9】本発明材料A7、A8及び比較材料Z4を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図10】本発明材料A9、A10及び比較材料Z5における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図11】本発明材料A9、A10及び比較材料Z5を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図12】本発明材料A11、A12及び比較材料Z6における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図13】本発明材料A11、A12及び比較材料Z6を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図14】本発明材料A13、A14及び比較材料Z7における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図15】本発明材料A13、A14及び比較材料Z7を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図16】本発明材料A15及び比較材料Z8における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図17】本発明材料A15及び比較材料Z8を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図18】本発明材料A16及び比較材料Z9における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図19】本発明材料A16及び比較材料Z9を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図20】本発明材料B1、B2及び比較材料Y1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図21】本発明材料B1、B2及び比較材料Y1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図22】本発明材料B3、B4及び比較材料Y2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図23】本発明材料B3、B4及び比較材料Y2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図24】本発明材料C1、C2及び比較材料X1における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図25】本発明材料C1、C2及び比較材料X1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【図26】本発明材料C3及び比較材料X2における時間と重量増加率との関係を示すグラフである。
【図27】本発明材料C3及び比較材料X2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
炭素骨材として人造黒鉛と、バインダーとしてのフェノール樹脂と、添加物としてのTiC(平均粒径:5μm)とを混合した後、オープンロールにて混練した。次に、成形可能な粒度まで粉砕した後、粉砕物を成形し、更に、還元雰囲気下にて900℃にて焼成した。最後に、上記焼成物を1300℃で熱処理することにより、金属‐炭素複合材料(スパッタリングのターゲット)を作製した。尚、金属−炭素複合材料の総量に対するTiの割合が21.5at%となるように、上記TiCを添加した。
【0018】
ここで、上記炭素骨材となる炭素材料としては、人造黒鉛に限定するものではなく、天然黒鉛やキッシュ黒鉛などの黒鉛質、あるいはコークス、ガラス状炭素、カーボンブラックなどの炭素質等を用いることも可能である。また、炭素骨材となる炭素材料は粉末状であることが望ましく、その平均粒径は100μm以下のであることが好ましい。特に、1μm以上100μm以下であることが好ましく、その中でも5μm以上50μm以下であることが望ましい。これは、1μmを下回る炭素材料はカーボンブラックを除いては入手が困難であり、5μmを下回ると凝集により金属との均一な分散が困難となり、更に100μmを上回ると粒子離脱を生じて好ましくないという理由によるものである。
上記バインダーとしては、上記フェノール樹脂に限定するものではなく、ピッチ、タール、フルフリルアルコール、フラン樹脂、イミド系樹脂ワニス等を使用することができる。
【0019】
金属又は金属化合物となる上記添加物は、粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上100μm以下であることが好ましく、特に5μm以上50μm以下であることが望ましい。これは、平均粒径が1μmを下回る金属は入手が困難かコスト高となる一方、平均粒径が5μmを下回ると凝集を生じてしまい炭素原料との均一な分散が困難となり、更に平均粒径が100μmを上回る塊状の場合は炭素への金属の均一な分散が困難となるからである。
【0020】
上記添加物は、上記金属元素の純金属からなっていても、上記金属元素を含む化合物からなっていてもよい。この金属元素を含む化合物としては、例えば、酸化物、炭化物、有機酸との塩等が挙げられる。
また、金属−炭素複合材における金属原子の割合としては、30at%以下が好ましく、25at%以下がより好ましい。金属原子の割合を30at%以下にすることにより、空気中の水分等の不純物を取り込みにくくすることができる。
【0021】
〔予備実験〕
金属‐炭素複合材料の脱ガス成分を調査する目的で、TG−MS(熱重量分析法−質量分析法)にて、室温〜1300℃まで昇温させ、発生したガスの成分分析を行ったので、その結果を図1に示す。尚、金属‐炭素複合材料としては、添加物としてTiCの代わりにSiC(金属‐炭素複合材料の総量に対するSiの割合が15.5at%)を用いた以外は上記と同様にして作製した金属‐炭素複合材料を用いた。また、昇温速度は10℃/分とした。
【0022】
図1から明らかなように、200℃付近(20分経過後)で質量数18の物質(水分)が離脱していることが認められ、1200℃付近(120分経過後)で質量数40の物質(二酸化炭素)が離脱していることが認められる。但し、200℃付近での金属‐炭素複合材料の重量減少量は、1200℃付近での金属‐炭素複合材料の重量減少量に比べて、格段に大きくなっている。したがって、金属‐炭素複合材料からの主たる脱ガス成分は水分であることがわかる。
【0023】
上記金属‐炭素複合材料から放出された水分は、スパッタリング時にDLC膜中に取り込まれて不純物となり、DLC膜質を軟化させる要因となる。特に、DLC膜中へ水素が混入すると、DLC膜の硬度を低下させる主要因となるため、水素の混入を抑止する必要があり、このような観点から、スパッタリング時の吸着水の脱離を回避する必要がある。
【0024】
一般的には、金属‐炭素複合材料(ターゲット)の前処理として、加熱することによる脱ガスが行われるが、この方法では、脱ガス成分がスパッタリング装置の炉内を汚染したり、ガス成分により真空度が低下する。このため、真空ポンプの作動時間が短いと、上述したようにDLC膜の硬度が低下する一方、真空ポンプの作動時間が長いと、このような不都合をある程度回避できるものの、DLC膜の形成サイクルを遅延させることとなって、DLC膜の製造コストが高騰する。
【0025】
そこで、発明者らは金属−炭素複合材料の吸湿を抑止する方法について鋭意研究したので、その内容について下記実施例に示す。
【実施例】
【0026】
〔第1実施例〕
(実施例1)
上記発明を実施するための形態で示した方法と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。尚、当該材料の大きさは、10mm×10mm×60mmとした。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A1と称する。
【0027】
(実施例2)
上記焼成物の熱処理温度を1600℃とした以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A2と称する。
【0028】
(実施例3、4)
添加物としてTiCの代わりにZr2O3(金属成分はZr)を用い、且つ、金属‐炭素複合材料の総量(以下、複合材料の総量と称することがある)に対するZrの割合が0.4at%となるようにZr2O3を添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A3、A4と称する。
【0029】
(実施例5、6)
添加物としてTiCの代わりにFe(Fe単体)を用い、且つ、複合材料の総量に対するFeの割合が1.0at%となるようにFeを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A5、A6と称する。
【0030】
(実施例7、8)
添加物としてTiCの代わりにHfO2(金属成分はHf)を用い、且つ、複合材料の総量に対するHfの割合が0.8at%となるようにHfO2を添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A7、A8と称する。
【0031】
(実施例9、10)
添加物としてTiCの代わりにW(W単体)を用い、且つ、複合材料の総量に対するWの割合が0.5at%となるようにWを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A9、A10と称する。
【0032】
(実施例11、12)
添加物としてTiCの代わりにCo(Co単体)とNi(Ni単体)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するCoの割合が0.6at%、複合材料の総量に対するNiの割合が0.6at%となるようにCoとNiとを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A11、A12と称する。
【0033】
(実施例13、14)
添加物としてTiCの代わりにNi(Ni単体)とY2O3(金属成分はY)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するNiの割合が4.2at%、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%となるようにNiとY2O3とを添加したこと以外は、それぞれ、上記実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料A13、A14と称する。
【0034】
(実施例15)
添加物としてTiCの代わりにMoO3(金属成分はMo)を用い、且つ、複合材料の総量に対するMoの割合が1.4at%となるようにMoO3を添加したこと以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A15と称する。
【0035】
(実施例16)
添加物としてTiCの代わりにMgO(金属成分はMg)を用い、且つ、複合材料の総量に対するMgの割合が0.3at%となるようにMgOを添加したこと以外は、上記実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料A16と称する。
【0036】
(比較例1〜9)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3、5、7、9、11、13、15、16と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料Z1〜Z9と称する。
【0037】
(実験)
本発明材料A1〜A16及び比較材料Z1〜Z9を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表1〜表10、図2〜図19に示す。
【0038】
尚、表1及び図2は、本発明材料A1、A2、比較材料Z1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表2及び図4は、本発明材料A3、A4、比較材料Z2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表3及び図6は、本発明材料A5、A6、比較材料Z3における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表4及び図8は、本発明材料A7、A8、比較材料Z4における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表5及び図10は、本発明材料A9、A10、比較材料Z5における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表6及び図12は、本発明材料A11、A12、比較材料Z6における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表7及び図14は、本発明材料A13、A14、比較材料Z7における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表8及び図16は、本発明材料A15、比較材料Z8における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表9及び図18は、本発明材料A16、比較材料Z9における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
【0039】
また、表10は、本発明材料A1〜A16及び比較材料Z1〜Z9を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図3は、本発明材料A1、A2及び比較材料Z1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図5は、本発明材料A3、A4及び比較材料Z2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図7は、本発明材料A5、A6及び比較材料Z3を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図9は、本発明材料A7、A8及び比較材料Z4を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図11は、本発明材料A9、A10及び比較材料Z5を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図13は、本発明材料A11、A12及び比較材料Z6を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図15は、本発明材料A13、A14及び比較材料Z7を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図17は、本発明材料A15及び比較材料Z8を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図19は、本発明材料A16及び比較材料Z9を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
【表8】
【0048】
【表9】
【表10】
【0049】
表1〜表10、図2〜図19から明らかなように、本発明材料A1〜A16は比較材料Z1〜Z9に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Z1〜Z9では全て0.1重量%を超えているのに対して、本発明材料A1〜A16では全て0.1重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料A2、A4、A6、A8、A10、A12、A14では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Z1〜Z9では非常に高くなっているのに対して、本発明材料A1〜A16では非常に低くなっていることが認められる。
【0050】
〔第2実施例〕
(実施例1、2)
添加物としてTiCの代わりにSiC(金属成分はSi)を用い、且つ、複合材料の総量に対するSiの割合が15.5at%となるようにSiCを添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料B1、B2と称する。
【0051】
(実施例3、4)
添加物としてTiCの代わりにNi(Ni単体)とY2O3(金属成分はY)とAl2O3(金属成分はAl)との混合物を用い、且つ、複合材料の総量に対するNiの割合が4.2at%、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%、複合材料の総量に対するAlの割合が1.0at%、となるようにNiとY2O3とAl2O3とを添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料B3、B4と称する。
【0052】
(比較例1、2)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料Y1、Y2と称する。
【0053】
(実験1)
本発明材料B1〜B4及び比較材料Y1、Y2を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表11〜表13、図20〜図23に示す。
【0054】
尚、表11及び図20は、本発明材料B1、B2、比較材料Y1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表12及び図22は、本発明材料B3、B4、比較材料Y2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
また、表13は、本発明材料B1〜B4及び比較材料Y1、Y2を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図21は、本発明材料B1、B2及び比較材料Y1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図23は、本発明材料B3、B4及び比較材料Y2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0055】
【表11】
【0056】
【表12】
【0057】
【表13】
【0058】
表11〜表13、図20〜図23から明らかなように、本発明材料B1〜B4は比較材料Y1、Y2に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Y1、Y2では全て0.08重量%を超えているのに対して、本発明材料B1〜B4では全て0.08重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料B2、B4では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料Y1、Y2では非常に高くなっているのに対して、本発明材料B1〜B4では非常に低くなっていることが認められる。
【0059】
(実験2)
上記本発明材料B2と比較材料Y1とについて、下記(1)〜(5)に示す工程にて、UBMS(アンバランスドマグネトロンスパッタリング)でのターゲット材として用い、各材料を評価した。
【0060】
A.比較材料Y1を用いたときの評価
(1)前処理工程
スパッタリング装置内にターゲットのみを配置した状態〔ワーク(被処理物)は配置しない状態〕で、スパッタリング装置内にArガスを導入した後、Ar+でターゲットのスパッタリングを行った。これにより、ターゲット表面の酸化物等が除去されると共に、ターゲットが加熱されるのでターゲットに吸着した成分も一部除去されることになる。
【0061】
(2)ワーク配置工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内にワークを配置した。この際、ターゲットに水分が吸着した。その後、500℃のヒーター(ワークの表面温度は100℃程度となるように)を用いてワークを加熱し、更に、アルゴンボンバードにより炉内、ターゲット、ワークを洗浄した。上記加熱時に、ターゲットは加熱されないので、ターゲットに吸着した水分は残存した。
【0062】
(3)第1成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行ってワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生で炉内が汚染された。
【0063】
(4)ワーク取り替え工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内のワークを新たなワークと取り替えた。この際、ターゲットに水分が吸着した。その後、500℃のヒーター(ワークの表面温度は100℃程度となるように)を用いてワークを加熱し、更に、アルゴンボンバードにより炉内、ターゲット、ワークを洗浄した。上記加熱時に、ターゲットは加熱されないので、ターゲットに吸着した水分は残存した。
【0064】
(5)第2成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行って、ワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生で炉内が汚染された。
(6)対策
上記の如く、成膜時(第1成膜工程及び第2成膜工程)にターゲットから水分が脱離して、真空劣化が生じたため、電子源であるタングステンフィラメントの異常消耗が懸念される。そこで、これを抑制するため、長時間の真空引きを行った。但し、長時間の真空引きを行うことにより、成膜サイクルが長くなって、生産効率の低下を招来した。
【0065】
B.本発明材料B2を用いたときの評価
(1)前処理工程
比較材料Y1を用いたときと同じ。
【0066】
(2)ワーク配置工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内にワークを配置した際に、ターゲットには水分が殆ど吸着しなかった。また、ワークを加熱し、更に、炉内、ターゲット、ワークを洗浄した際にも、ターゲットには水分が殆ど吸着していないので、問題はなかった。
【0067】
(3)第1成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行ってワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生が殆ど生じないので、炉内が汚染されなかった。
【0068】
(4)ワーク取り替え工程
スパッタリング装置の炉を開放した後、スパッタリング装置内のワークを新たなワークと取り替えた際、ターゲットには水分が殆ど吸着しなかった。また、ワークを加熱し、更に、炉内、ターゲット、ワークを洗浄した際にも、ターゲットには水分が殆ど吸着していないので、問題はなかった。
【0069】
(5)第2成膜工程
Ar+でターゲットのスパッタリングを行って、ワークに成膜した。この際、ターゲット由来の水分の発生が殆ど生じないので、炉内が汚染されなかった。
(6)対策
上記の如く、成膜時にターゲットから水分が殆ど脱理せず、真空劣化が生じないため、電子源であるタングステンフィラメントの異常消耗を考慮しなくても良い。したがって、長時間の真空引きが不要となるので、成膜サイクルが短くなって、生産効率が向上した。
【0070】
〔第3実施例〕
(実施例1、2)
添加物としてTiCの代わりにY2O3(金属成分はY)を用い、且つ、複合材料の総量に対するYの割合が1.0at%となるようにY2O3を添加したこと以外は、それぞれ、前記第1実施例の実施例1、2と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、本発明材料C1、C2と称する。
【0071】
(実施例3)
添加物としてTiCの代わりにHo2O3(金属成分はHo)を用い、且つ、複合材料の総量に対するHoの割合が1.0at%となるようにHo2O3を添加したこと以外は、前記第1実施例の実施例1と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下、本発明材料C3と称する。
【0072】
(比較例1、2)
焼成物を熱処理しなかった以外は、それぞれ、上記実施例1、3と同様にして金属‐炭素複合材料を作製した。
このようにして作製した金属‐炭素複合材料を、以下それぞれ、比較材料X1、X2と称する。
【0073】
(実験1)
本発明材料C1〜C3及び比較材料X1、X2を、温度20℃、湿度30%に保った室内にて、47.5時間まで保管したときの重量増加率を調べたので、その結果を表14〜表16、図24〜図27に示す。
【0074】
尚、表14及び図24は、本発明材料C1、C2、比較材料X1における時間(保管時間)と重量増加率との関係を示す表及びグラフであり、表15及び図26は、本発明材料C3、比較材料X2における時間と重量増加率との関係を示す表及びグラフである。
また、表15は、本発明材料C1〜C3及び比較材料X1、X2を、23.5時間及び47.5時間保管したときの表である。更に、図25は、本発明材料C1、C2及び比較材料X1を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフであり、図27は、本発明材料C3及び比較材料X2を47.5時間保管したときの重量増加率を示すグラフである。
【0075】
【表14】
【0076】
【表15】
【0077】
【表16】
【0078】
表14〜表16、図24〜図27から明らかなように、本発明材料C1〜C3は比較材料X1、X2に比べて重量増加率が低くなっている。具体的には、23.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料X1、X2では全て0.20重量%を超えているのに対して、本発明材料C1〜C3では全て0.20重量%以下であることが認められる。特に、1600℃で熱処理を行った本発明材料C2では、重量増加率が極めて低くなっていることが認められる。更に、47.5時間保管したときの重量増加率について、比較材料X1、X2では非常に高くなっているのに対して、本発明材料C1〜C3では非常に低くなっていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、スパッタリングのターゲット等に用いることができる。
また、金属-炭素複合材料を真空チャンバー内に設置したうえで、真空排気工程を有する用途、もしくは金属-炭素複合材料を真空チャンバー内に設置したうえで、金属-炭素複合材料が加熱や発熱を伴う工程を有する用途、たとえば、アーク放電法やレーザー蒸発法による金属内包フラーレンや単層カーボンナノチューブなどのナノカーボン類の合成における蒸発源に用いる事もできる。更に、金属-炭素複合材料を蒸発源ではなく、ワーク(非処理物)として用いる場合の脱ガス抑止の前処理として施し、脱ガス成分の少ないコーティング基材として用いる事もできるし、炉内パーツとして用いる際には、脱ガス成分の少ない炉内パーツとして用いる事もできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程、
を有することを特徴とする金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項2】
上記熱処理する工程における熱処理温度が1600℃以上である、請求項1に記載の金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項3】
上記熱処理する工程における熱処理温度が2000℃以下である、請求項1又は2に記載の金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項4】
上記成形体の熱処理の前に、成形体を焼成する工程を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の金属−炭素複合材料の製造方法。
【請求項5】
上記焼成する工程における焼成温度が1000℃以下である、請求項4に記載の金属−炭素複合材料の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、上記金属又は上記金属化合物における金属は、4族元素、6族元素、鉄族元素から選択される少なくとも1種を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.10重量%以下であることを特徴とする金属−炭素複合材料。
【請求項7】
前記金属は、チタン、ジルコニウム、鉄、ハフニウム、タングステン、モリブデン、マグネシウム、コバルトとニッケルとの混合物、又は、ニッケルとイットリウムとの混合物から成る、請求項6に記載の金属‐炭素複合材料。
【請求項8】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、ケイ素、又は、アルミニウムを含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.08重量%以下であることを特徴とする金属‐炭素複合材料。
【請求項9】
前記金属は、ケイ素、又は、ニッケルとイットリウムとアルミニウムとの混合物から成る、請求項8に記載の金属‐炭素複合材料。
【請求項10】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、3族元素を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.20重量%以下であることを特徴とする金属−炭素複合材料。
【請求項11】
前記金属は、ホルミウム、又は、イットリウムから成る、請求項10に記載の金属−炭素複合材料。
【請求項12】
ダイヤモンドライクカーボン膜製造用のスパッタリングターゲットである、請求項6〜11の何れか1項に記載の金属−炭素複合材料。
【請求項1】
炭素、バインダー、及び、金属又は金属化合物を混練、粉砕した後、粉砕物を成形して成形体を作製し、この成形体を1300℃以上で熱処理する工程、
を有することを特徴とする金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項2】
上記熱処理する工程における熱処理温度が1600℃以上である、請求項1に記載の金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項3】
上記熱処理する工程における熱処理温度が2000℃以下である、請求項1又は2に記載の金属‐炭素複合材料の製造方法。
【請求項4】
上記成形体の熱処理の前に、成形体を焼成する工程を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の金属−炭素複合材料の製造方法。
【請求項5】
上記焼成する工程における焼成温度が1000℃以下である、請求項4に記載の金属−炭素複合材料の製造方法。
【請求項6】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、上記金属又は上記金属化合物における金属は、4族元素、6族元素、鉄族元素から選択される少なくとも1種を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.10重量%以下であることを特徴とする金属−炭素複合材料。
【請求項7】
前記金属は、チタン、ジルコニウム、鉄、ハフニウム、タングステン、モリブデン、マグネシウム、コバルトとニッケルとの混合物、又は、ニッケルとイットリウムとの混合物から成る、請求項6に記載の金属‐炭素複合材料。
【請求項8】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、ケイ素、又は、アルミニウムを含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.08重量%以下であることを特徴とする金属‐炭素複合材料。
【請求項9】
前記金属は、ケイ素、又は、ニッケルとイットリウムとアルミニウムとの混合物から成る、請求項8に記載の金属‐炭素複合材料。
【請求項10】
少なくとも、炭素と、金属又は金属化合物とを含む金属‐炭素複合材料であって、
上記金属又は上記金属化合物における金属は、3族元素を含み、且つ、温度20℃、湿度30%で23.5時間保管した場合の重量増加率が、0.20重量%以下であることを特徴とする金属−炭素複合材料。
【請求項11】
前記金属は、ホルミウム、又は、イットリウムから成る、請求項10に記載の金属−炭素複合材料。
【請求項12】
ダイヤモンドライクカーボン膜製造用のスパッタリングターゲットである、請求項6〜11の何れか1項に記載の金属−炭素複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2012−25632(P2012−25632A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166835(P2010−166835)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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