説明

金属−セラミックス接合基板およびそれに用いるろう材

【課題】耐ヒートサイクル性に優れた金属−セラミックス接合基板およびその金属−セラミックス接合基板に使用するろう材を提供する。
【解決手段】 0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体をビヒクルに添加して混練することによって作製したペースト状ろう材をセラミックス基板に塗布した後、ろう材の上に金属板を配置して加熱することによって、ろう材を介して金属板をセラミックス基板に接合して金属−セラミックス接合基板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属−セラミックス接合基板およびそれに用いるろう材に関し、特に、ろう材を介して金属板がセラミックス基板に接合された金属−セラミックス接合基板およびそれに用いるろう材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車、電車、工作機械などの大電流を制御するためにパワーモジュールが使用されており、パワーモジュールには、セラミックス基板の両面に金属板が接合した金属−セラミックス接合基板が使用されている。このような金属−セラミックス接合基板の一方の面(裏面、放熱面)には、比較的厚い銅板などの放熱板(ベ−ス板)が半田付けにより固定されており、他方の面(上面)には、半導体チップが半田付けにより固定されている。
【0003】
また、金属−セラミックス接合基板のセラミックス基板として、軽量且つ高硬度で、電気絶縁性、耐熱性、耐食性などに優れた窒化物系セラミックス材料などからなる基板が使用されている。また、銅板などの金属板と窒化アルミニウム(AlN)基板などのセラミックス基板との間に、活性金属を含むろう材を介在させて、加熱処理により金属板とセラミックス基板を接合する方法(活性金属法)(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−177634号公報(第2−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、環境汚染の防止の観点から、従来のPb入り半田(鉛を含む半田)の代わりにPbフリ−半田(実質的に鉛を含まない半田)が使用されており、金属−セラミックス接合基板においても半導体チップを固定するためにPbフリー半田が使用され始めている。しかし、パワーモジュールなどに使用する金属−セラミックス接合基板の裏面(放熱面)に金属ベース板(放熱板)を固定するためにPbフリ−半田を使用すると、金属−セラミックス接合基板(特に銅や銅合金からなる金属板をセラミックス基板に接合した銅−セラミックス接合基板)への熱衝撃時の応力が大きくなって、セラミックス基板にクラックが生じるという問題があり、また、金属−セラミックス接合基板に繰り返しヒートサイクルが加えられた後に半田にクラックが生じるという問題もある。これは、Pbフリ−半田が従来の半田に比べて硬いので、半田の塑性変形による応力緩和の効果が小さいためであると考えられる。そのため、金属−セラミックス接合基板に放熱板を固定する場合にPbフリー半田を使用しても、半田やセラミックス基板にクラックが生じるのを防止することができる金属−セラミックス接合基板が望まれている。
【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、耐ヒートサイクル性に優れた金属−セラミックス接合基板およびその金属−セラミックス接合基板に使用するろう材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ろう材を介して金属板がセラミックス基板に接合された金属−セラミックス接合基板において、金属板をセラミックス基板に接合するためのろう材として、0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体をビヒクルに添加して混練したろう材を使用することにより、耐ヒートサイクル性に優れた金属−セラミックス接合基板を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明による金属−セラミックス接合基板は、ろう材を介して金属板がセラミックス基板に接合された金属−セラミックス接合基板において、金属板をセラミックス基板に接合するためのろう材として、0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体をビヒクルに添加して混練したろう材を使用することを特徴とする。この金属−セラミックス接合基板において、粉体中のCuの量が1〜35質量%、活性金属の量が1〜3質量%、酸化チタンの量が0.2〜1質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜5質量%であるのが好ましく、粉体中のCuの量が5〜30質量%、活性金属の量が1〜2質量%、酸化チタンの量が0.2〜0.9質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜1質量%であるのがさらに好ましい。
【0009】
また、本発明によるろう材は、0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体がビヒクルに添加されて混練されたことを特徴とする。このろう材において、粉体中のCuの量が1〜35質量%、活性金属の量が1〜3質量%、酸化チタンの量が0.2〜1質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜5質量%であるのが好ましく、粉体中のCuの量が5〜30質量%、活性金属の量が1〜2質量%、酸化チタンの量が0.2〜0.9質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜1質量%であるのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐ヒートサイクル性に優れた金属−セラミックス接合基板およびその金属−セラミックス接合基板に使用するろう材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明による金属−セラミックス接合基板の実施の形態は、0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体をビヒクルに添加して混練することによって作製したペースト状ろう材をセラミックス基板に塗布した後、ろう材の上に金属板を配置して加熱することによって、ろう材を介して金属板をセラミックス基板に接合して製造される。
【0012】
ビヒクルに添加される粉体中のAgの量は、60質量%未満であると、AgとCuとの共晶点から大きくはずれて融点が高くなり、エネルギーコストや熱応力が大きくなったり、ろう材中のボイドなどの接合欠陥が増大するおそれがあるので、60〜99質量%であるのが好ましく、70〜95質量%であるのがさらに好ましく、80〜95質量%であるのが最も好ましい。
【0013】
また、粉体中のCuの量は、40質量%を超えると、上述したように、AgとCuとの共晶点から大きくはずれて融点が高くなり、エネルギーコストや熱応力が大きくなったり、ろう材中のボイドなどの接合欠陥が増大するおそれがあるので、0〜40質量%であるのが好ましく、1〜35質量%であるのがさらに好ましく、5〜35質量%であるのが最も好ましい。なお、粉体中にCuを含まない場合や粉体中に含まれるCuの量が少な過ぎる場合にも、AgとCuとの共晶点から大きくはずれてろう材の融点が高くなるが、Agの融点である960℃以下に抑えることができ、また、セラミックス基板に接合する金属板がCuやAlなどの成分を含む場合には、セラミックス基板を金属板に接合する際にろう材がその成分と反応して、ろう材の融点より低い温度で溶融する場合が多いので、そのような場合には上記のような問題はない。
【0014】
また、活性金属としては、Ti、Zr、Hfなどの少なくとも一種の金属またはその水素化合物を使用することができる。粉体中の活性金属の量は、0.5質量%未満では金属板とセラミックス基板の間に生成される窒化物層が少なくなって接着強度が非常に弱くなり、一方、4.5質量%を超えると接着強度が高くなるが接合後に半田やセラミックス基板にクラックが生じ易くなるので、0.5〜4.5質量%であるのが好ましく、1〜3質量%であるのがさらに好ましく、1〜2質量%であるのが最も好ましい。
【0015】
また、酸化チタンの形態は、TiO、Ti、TiOなどのいずれの形態でもよい。粉体中の酸化チタンの量は、2質量%を超えると金属板をセラミックス基板に接合させるのが困難になるので、0〜2質量%であるのが好ましい。また、酸化チタンは結晶質でも非晶質でもよい。なお、ろう材中に酸化チタンと酸化ジルコニウムを共存させると、金属−セラミックス接合基板の金属とセラミックスに発生する熱応力を著しく緩和する作用があるので、0.2〜1重量%の酸化チタンを添加するのがさらに好ましく、0.2〜0.9重量%の酸化チタンを添加するのが最も好ましい。
【0016】
さらに、酸化ジルコニウムの形態は、ZrOやZrOなどのいずれの形態でもよい。粉体中の酸化ジルコニウムの量は、0.1質量%未満では、耐ヒートサイクル性、抗折強度、たわみ量、通炉耐量、絶縁抵抗、部分放電性などの特性に優れた金属−セラミックス接合基板を製造することができず、一方、5質量%を超えると金属板をセラミックス基板に接合させるのが困難になるので、0.1〜5質量%であるのが好ましく、0.2〜5質量%であるのがさらに好ましく、0.2〜1質量%であるのが最も好ましい。この範囲の量の酸化ジルコニウムを含むろう材を使用することによって上記のような特性が向上する理由は明確ではないが、破壊靱性値が高い酸化ジルコニウムがろう材に含まれることにより、金属−セラミックス接合基板に繰り返しヒートサイクルが加えられた時に銅板などの金属板の伸縮時による応力を緩和して、金属−セラミックス接合基板への影響を低減することができるためであると考えられる。また、酸化ジルコニウムは結晶質でも非晶質でもよく、その結晶系は、立方晶、正方晶、斜方晶系のいずれでもよい。
【0017】
なお、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により、ろう材の断面の組成分布観察を行ったところ、ろう材中の酸化ジルコニウムは活性金属と結合して均一に分散されていた。また、ろう材に酸化ジルコニウムを添加していない場合には、活性金属がセラミックス基板の表面付近に層になって濃縮していた。この活性金属の層は脆い層であり、ろう材中に酸化ジルコニウムを添加したり、酸化ジルコニウムと酸化チタンを添加することによって、ろう材中の酸化ジルコニウムと活性金属が結合して、活性金属の脆い層がなくなるか、あるいは薄くなって、耐ヒートサイクル性、抗折強度、たわみ量、通炉耐量などの特性を向上させることができると考えられる。なお、理由は明確ではないが、ろう材中に酸化ジルコニウムを添加したり、酸化ジルコニウムと酸化チタンを添加することによって、絶縁抵抗や部分放電性も向上させることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明による金属−セラミックス接合基板およびそれに用いるろう材の実施例について詳細に説明する。
【0019】
[実施例1]
固形分として、92.0質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のZrO粉とからなる粉体100重量部に、12.2重量部のビヒクル(アクリル系のバインダと溶剤を含むビヒクル)を添加して混練することによって、ペースト状のろう材を作製した。このろう材ペーストを46mm×43mm×0.6mmのAlN基板(セラミックス基板)の両面の全体に塗布した後、このろう材ペーストを介してセラミックス基板の各々の面に厚さ0.3mmの銅板(金属板)を重ねて接合炉に入れ、835℃に加熱して金属板をセラミックス基板に接合した。その後、金属板上に所定の回路パターン形状のエッチングレジストを形成し、薬液で不要な金属およびろう材を除去し、エッチングレジストを除去することにより、所定の回路パターンが形成された金属−セラミックス接合基板を得た。
【0020】
本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、通炉処理(還元雰囲気(水素/窒素=20/80)下において400℃で2分間加熱した後に室温まで冷却する処理)を繰り返し、通炉耐量(通炉回数)により、信頼性を評価した。すなわち、通炉処理後にセラミックス基板にクラックが発生するか否かを拡大鏡で外観検査して、クラックが発生したときの通炉処理の回数の直前の通炉処理の回数を通炉耐量(通炉回数)とし、この通炉耐量によって、金属−セラミックス接合基板の信頼性を評価した。その結果、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルの通炉耐量(通炉回数)は、最小値、最大値およびの平均値がいずれも15回であった。
【0021】
また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板について、負荷速度(クロスヘッドスピード)0.5mm/分、スパン間距離30mmの測定条件で、初期および通炉3回後(還元雰囲気(水素/窒素=20/80)下において370℃で2分間加熱した後に室温まで冷却する処理を3回繰り返した後)の3点曲げ抗折強度を測定した。この通炉後の3点曲げ抗折強度が高い程、金属−セラミックス接合基板の耐ヒートサイクル性が高い。その結果、初期抗折強度は701MPa、通炉3回後の抗折強度は371MPaであった。
【0022】
また、この3点曲げ抗折強度の際に金属−セラミックス接合基板が破壊された時の金属板のたわみ量を測定したところ、初期たわみ量は0.40mm、通炉3回後のたわみ量は0.22mmであった。
【0023】
[比較例]
酸化ジルコニウムの代わりに酸化チタンを使用した以外、すなわち、92.0質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本比較例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は7回、最大値は10回、平均値は7.6回であり、初期抗折強度は707MPa、通炉3回後の抗折強度は307MPa、初期たわみ量は0.40mm、通炉3回後のたわみ量は0.19mmであった。
【0024】
[実施例2]
91.8質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、0.2質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は15回、最大値は35回、平均値は25回であり、初期抗折強度は712MPa、通炉3回後の抗折強度は440MPa、初期たわみ量は0.42mm、通炉3回後のたわみ量は0.25mmであった。
【0025】
[実施例3]
91.5質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、0.5質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は25回、最大値は40回、平均値は34回であり、初期抗折強度は735MPa、通炉3回後の抗折強度は585MPa、初期たわみ量は0.43mm、通炉3回後のたわみ量は0.32mmであった。
【0026】
[実施例4]
91.0質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、1.0質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は25回、最大値は35回、平均値は31回であり、初期抗折強度は670MPa、通炉3回後の抗折強度は584MPa、初期たわみ量は0.40mm、通炉3回後のたわみ量は0.34mmであった。
【0027】
[実施例5]
87.6質量%のAg粉と、5.7質量%のCu粉と、1.4質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、4.8質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は20回、最大値は35回、平均値は27回であり、初期抗折強度は660MPa、通炉3回後の抗折強度は590MPa、初期たわみ量は0.42mm、通炉3回後のたわみ量は0.32mmであった。
【0028】
[実施例6]
81.4質量%のAg粉と、16.1質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、0.5質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は20回、最大値は30回、平均値は25回であり、初期抗折強度は664MPa、通炉3回後の抗折強度は426MPa、初期たわみ量は0.39mm、通炉3回後のたわみ量は0.25mmであった。
【0029】
[実施例7]
70.0質量%のAg粉と、27.0質量%のCu粉と、2.0質量%のTi粉と、0.5質量%のTiO粉と、0.5質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は15回、最大値は25回、平均値は22回であり、初期抗折強度は652MPa、通炉3回後の抗折強度は403MPa、初期たわみ量は0.38mm、通炉3回後のたわみ量は0.22mmであった。
【0030】
[実施例8]
91.1質量%のAg粉と、6.0質量%のCu粉と、1.5質量%のTi粉と、0.9質量%のTiO粉と、0.5質量%のZrO粉とからなる粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属−セラミックス接合基板を得た。また、本実施例で得られた金属−セラミックス接合基板の5つのサンプルについて、実施例1と同様の方法により、通炉耐量(通炉回数)、初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度、初期および通炉3回後のたわみ量を測定したところ、通炉耐量(通炉回数)の最小値は20回、最大値は30回、平均値は26回であり、初期抗折強度は670MPa、通炉3回後の抗折強度は430MPa、初期たわみ量は0.39mm、通炉3回後のたわみ量は0.28mmであった。
【0031】
実施例1〜8および比較例において使用したろう材に添加する粉体の組成および製造した金属−セラミックス接合基板についての試験結果をそれぞれ表1および表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表2からわかるように、実施例1〜8の金属−セラミックス接合基板では、比較例の金属−セラミックス接合基板と比べて、通炉耐量が2〜5倍以上であり、通炉3回後の抗折強度やたわみ量が極めて高くなっている。また、実施例1のように酸化物として酸化チタンを添加せずに酸化ジルコニウムだけを添加した場合でも、比較例のように酸化ジルコニウムを添加せずに酸化チタンを添加した場合と比べて、通炉耐量や通炉3回後の抗折強度とたわみ量を向上させることができるが、実施例2〜8のように酸化チタンと酸化ジルコニウムの両方を添加すると、通炉耐量や通炉3回後の抗折強度とたわみ量をさらに向上させることができる。
【0035】
また、実施例2〜5と比較例の酸化ジルコニウムの添加量に対する初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度と通炉耐量をそれぞれ図1および図2に示す。これらの図に示すように、通炉耐量や通炉3回後の抗折強度とたわみ量は、微量の酸化ジルコニウムを添加することによって向上し、酸化ジルコニウムの添加量が0.5質量%のときにピークに達し、その後は飽和または微減している。特に、0.5質量%以上の酸化ジルコニウムを添加した場合、比較例の金属−セラミックス接合基板と比較して、通炉耐量が3〜5倍になり、通炉3回後の抗折強度が2倍近くまで高くなっている。
【0036】
また、実施例6および7では、Agの量を減らして、Cuの量を増やしているが、比較例と比べて、通炉耐量が3倍以上になり、通炉3回後の抗折強度が100MPa以上高くなっている。
【0037】
[実施例9]
実施例3と比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルについて部分放電測定試験を行った。この部分放電測定試験では、それぞれのサンプルを絶縁油中に配置して交流電圧を印加し、放電電荷10Pcを越えた時点の印加電圧を部分放電開始電圧とした。その結果を図3に示す。図3に示すように、実施例3で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルの部分放電開始電圧は、比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルの部分放電開始電圧の約2倍になっている。
【0038】
[実施例10]
実施例3と比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルをそれぞれ125℃に加熱して絶縁抵抗測定試験を行った。その結果を図4に示す。図4に示すように、実施例3で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルの絶縁抵抗は、比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルの絶縁抵抗の10倍程度に高くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例2〜5と比較例の酸化ジルコニウムの添加量に対する初期および通炉3回後の3点曲げ抗折強度を示すグラフである。
【図2】実施例2〜5と比較例の酸化ジルコニウムの添加量に対する通炉耐量を示すグラフである。
【図3】実施例3と比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルの部分放電開始電圧を示すグラフである。
【図4】実施例3と比較例で得られた金属−セラミックス接合基板のサンプルと同じサンプルを125℃に加熱したときの絶縁抵抗を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろう材を介して金属板がセラミックス基板に接合された金属−セラミックス接合基板において、金属板をセラミックス基板に接合するためのろう材として、0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体をビヒクルに添加して混練したろう材を使用することを特徴とする、金属−セラミックス接合基板。
【請求項2】
前記粉体中のCuの量が1〜35質量%、活性金属の量が1〜3質量%、酸化チタンの量が0.2〜1質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項3】
前記粉体中のCuの量が5〜30質量%、活性金属の量が1〜2質量%、酸化チタンの量が0.2〜0.9質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜1質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の金属−セラミックス接合基板。
【請求項4】
0〜40質量%のCuと、0.5〜4.5質量%の活性金属と、0〜2質量%の酸化チタンと、0.1〜5質量%の酸化ジルコニウムと、残部としてAgを含む粉体がビヒクルに添加されて混練されたことを特徴とする、ろう材。
【請求項5】
前記粉体中のCuの量が1〜35質量%、活性金属の量が1〜3質量%、酸化チタンの量が0.2〜1質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜5質量%であることを特徴とする、請求項4に記載のろう材。
【請求項6】
前記粉体中のCuの量が5〜30質量%、活性金属の量が1〜2質量%、酸化チタンの量が0.2〜0.9質量%、酸化ジルコニウムの量が0.2〜1質量%であることを特徴とする、請求項4に記載のろう材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−208013(P2008−208013A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48793(P2007−48793)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)
【Fターム(参考)】