説明

金属ガラス成形体及びその製造方法

【課題】圧粉磁心を構成する、強度を向上させることのできる金属ガラス成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属ガラスを主成分とする基材粒子を加圧しつつ昇温させて、基材粒子の粉粒体の焼結を行う工程を含む金属ガラス成形体の製造方法である。前記焼結の工程は2つの段階に分けることができる。第1段階では、前記金属ガラスのガラス転移温度未満まで前記基材粒子を昇温させる際に、前記粉粒体を構成する基材粒子同士の間の空隙の割合を減少させつつ、前記粉粒体の密度が真密度の90%未満となるように加圧する。これにより、前記粉粒体の密度を向上させる。続いて、第2段階では、前記金属ガラスのTg以上Tx未満の範囲で前記粉粒体をさらに昇温させながら、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が前記第1段階の該歪変化率よりも大きい条件下で加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータの分野においては、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機バインダー及びSiO酸化物微粒子を被覆した圧粉磁心材料を、軟磁性粉末に圧粉成形してなる圧粉磁心が、金属ガラス成形体(焼結体)として広く用いられている。
【0003】
さらに、圧粉磁心の強度向上を目的として、軟磁性粉末とSiO酸化物の微粒子とを混合し、得られた粉末(粒子)を圧粉する。これによって、軟磁性粉末をSiO酸化物微粒子からなる絶縁皮膜で被覆し、粒子同士が接合した圧粉磁心に関する技術が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平9−180924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車用駆動モータに対して、高回転化による小型化が強く要求されている。小型化実現のために、特にロータコアの高強度化が求められている。しかしながら、上記特許文献1に開示された圧粉磁心はこれを充足するものではないという問題があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、強度が向上した金属ガラス成形体(軟磁性材料)及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る金属ガラス成形体は、金属ガラスを主成分とする基材粒子の粉粒体を焼結させてなる金属ガラス成形体である。そして、前記焼結後の粉粒体の界面において、長さ1μm当たり、深さ100nm以上の凹凸が1個以上存在することを特徴とする。また、本発明に係る金属ガラス成形体の製造方法は、金属ガラスを主成分とする基材粒子を加圧しつつ昇温させ、基材粒子の集合体である粉粒体を焼結するプロセスにおいて、前記基材粒子のガラス転移温度(Tg)を境界として2つの全く異なる段階を有する。具体的にいえば、Tgに到達する直前までの第1段階では、前記粉粒体の密度が真密度の90%未満となるように加圧することを特徴とする。また、Tg以上での第2段階における、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が、前記第1段階の該歪変化率よりも大きくなるように、加圧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属ガラス成形体によれば、金属ガラス成形体の密度が向上するため、金属ガラス成形体の強度が向上する。また、本発明の金属ガラス成形体の製造方法によれば、Tgに到達した時点での粉粒体の密度が真密度の90%未満となるように加圧し、かつ、Tgを境に歪変化率(加圧度)を変化させることにより、得られる金属ガラス成形体の密度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付した図面を参照して本発明を適用した最良の実施形態を説明する。
【0009】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る金属ガラス成形体の製造方法は、金属ガラスを主成分とする基材粒子を加圧しつつ昇温させ、前記基材粒子の粉粒体の焼結を行う工程を含み、前記焼結の工程に特徴を有する。したがって、まず、前記焼結の工程について詳細に説明する。
【0010】
本明細書における「粉粒体」とは、焼結の工程中及び前記工程終了後の金属ガラスを主成分とする基材粒子の集合体を全て含むとともに、最終目的物である金属ガラス成形体も含む。即ち、本明細書において「粉粒体」とは、「金属ガラス成形体」と比較して概念的により上位のものを意味する。
【0011】
図1は、本実施形態の金属ガラス成形体の製造方法の原理を定性的に示す概略図である。図1の第1段階終了後の(A)は粉粒体の密度(単位:g/cm)が真密度(単位:g/cm)の90%以上の場合、図1の(B)は本発明の第1実施形態を示す。そして、図1中、Tgより左側(Tgを除く)は、加圧下、Tgに到達するまで(Tgに到達する直前まで)の第1段階に対応する。また、Tgより右側(Tgを含む)は、加圧下、Tg以上での昇温を行う第2段階に対応する。さらに、図1において、1は、金属ガラスを主成分とする基材粒子の粉粒体(以下、単に「粉粒体」ともいう)、2は、金属ガラスを主成分とする基材粒子(以下、単に「基材粒子」ともいう)を示す。
【0012】
従来より、得られる金属ガラス成形体の強度を向上させるために、焼結の開始時、即ちTg未満の温度範囲から、金属ガラスを主成分とする基材粒子の粉粒体1の密度をできるだけ大きくして製造している。しかし、図1の(A)に示すように、Tgへの到達時における、金属ガラスを主成分とする基材粒子2同士が密に接する程、さらに加圧下、Tg以上の範囲で昇温しても、空隙が殆ど存在せず基材粒子2が十分に流動しない。その結果、基材粒子2がガラス性質を有する(物性の変化を生じる)こととなっても、流動できるスペースがない。そのため、十分に流動が起こらず、界面に凹凸が出来ないため界面強度が十分に向上せず、得られる金属ガラス成形体の強度も十分なものとはいえない。
【0013】
これに対し、本発明者らは、上記のような従来技術と全く相違する原理により、得られる金属ガラス成形体の強度を向上させることができることを見出した。概括的にいえば、焼結の工程のうち、昇温し、Tgに到達した時点での粉粒体1の密度を敢えて、ある程度小さくすることにより、得られる金属ガラス成形体の強度を一層向上させることが可能となる。
【0014】
本発明の第1の特徴は、Tgに到達するまでの第1段階において、前記粉粒体を構成する基材粒子同士の間の空隙の割合を減少させつつ、前記粉粒体の密度が真密度の90%未満となるように加圧することである。即ち、第1段階では粉粒体1の密度をある程度の大きさとすることにより、最終的な金属ガラス成形体の密度を向上させることができる。図1の(B)に示すように、第1段階において、Tgの到達時における粉粒体1を構成する基材粒子2同士に一定の空隙を持たせ、基材粒子2同士を十分に離間させておく。これにより、続く第2段階において、Tg以上でさらに加圧下で昇温させた時、基材粒子2が十分に流動することが可能となる。その結果、基材粒子2がガラス性質を有すると、十分な流動が起こり、存在していた空隙を埋め尽くすように粉粒体を構成する基材粒子2同士の界面に凹凸が多く形成され、基材粒子2同士は前記界面で相互に密着する(図1(B)中の点線部分)。ひいては、界面強度が十分に向上するため、得られる金属ガラス成形体の強度も十分なものとなる。即ち、自動車用駆動モータに対して、高回転化による小型化を実現させうるのに十分な圧粉磁心を得ることができる。なお、本明細書における「第1段階」における「Tgに到達するまで」とは、「Tgに到達する直前まで」という意味である。
【0015】
また、本発明の第2の特徴は、Tg以上での第2段階における、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が、前記第1段階の該歪変化率よりも大きくなるように、変位制御を行うことである。即ち、Tgを境にして歪変化率(加圧度)を変化させることにより、第2段階での前記流動度を一層高めることができる。そして、流動度の一層の向上によって、焼結体の界面強度、ひいては得られる金属ガラス成形体の強度を一層向上させることができる。より詳細にいえば、上記のように歪変化率を、Tgを境にして変化させることにより、前記粉粒体を構成する基材粒子の界面において長さ1μmごとに深さ100nm以上の凹凸を1個以上形成することができる(図1(B)中の点線部分)。そして、この凹凸が、前記界面の強度を一層向上させる要因となる。なお、原料としての金属ガラス粉末に由来する凹凸があったとしても、Tgを超えて昇温させた場合、ガラス性質を有するため、融解して平滑な界面となる。したがって、粉粒体(金属ガラス成形体)における凹凸状態は金属ガラス粉末に起因するものでなく、ガラス性質による歪変化に起因するものである。前記粉粒体を構成する基材粒子の界面に存在(発生)する凹凸は、電子顕微鏡(SEMやTEM)により確認することができる。具体的には、後述する実施例において、電子顕微鏡(SEM)写真で示すこととする。
【0016】
なお、本明細書における「歪変化率」とは、粉粒体(金属ガラス成形体)にある荷重を与えた場合に、単位温度(℃)当たり、どの程度、縦(深さ)方向に変化したかの度合を示す指標(歪みの程度)である。三次元(密度)ではなく二次元(厚さ方向)で考慮する。
【0017】
即ち、金型中で変形させようが(多方向からの力を受ける)、フリーで変形しようが(一方向からの力を受ける)、上から圧力をかけられた時の歪み度合のみ(一方向の変化のみ)を考慮する。具体的にいえば、まず、金型を使用して粉粒体を変形させる場合、前記粉粒体は上下方向から圧力で潰されるため、粉粒体は次第に横に膨らんでくる。しかし、金型で拘束されているため、粉粒体の側面が膨らむことができず、横方向からも力を受けることになる。このようにして、粉粒体は多方向(多軸)からの力を受ける。次に、金型を使用せずにフリーで粉粒体を変形させる場合、前記粉粒体は上下方向から圧力で潰されていく。ここで、粉粒体の側面は、金型で拘束されてないため、横に膨らむことができ、横方向から力を受けることがない。このようにして、粉粒体は一方向(一軸)からの力を受ける。より具体的にいえば、第1段階では、Tg未満の温度域で任意に2点をとり、当該2点での粉粒体の変位度(単位:mm)を測定し、単位温度当たりの粉粒体の変位の程度を歪変化率(%/℃)とする。第2段階では、Tg以上Tx未満の温度域で任意に2点をとること以外は、上記第1段階の場合と同様にして歪変化率(%/℃)を算出する。
【0018】
ここで、本実施形態における加圧の条件は、第1段階及び第2段階を通じて、粉粒体の密度(サンプルの密度)及び真密度の関係、並びに歪変化率の関係が上記した条件を充たしている限り、特に制限されることはない。
【0019】
本発明で用いられる基材粒子は、鉄(Fe)を主成分として必須に含む金属ガラス粉末である。金属ガラスは高強度、しなやか(低ヤング率)、高耐食性、優れた電気特性(高透磁率)、優れた成形加工性、優れた鋳造性、表面平滑性などの様々な優れた特徴を有する。金属ガラス粉末におけるFeの含有率は特に制限されることはないが、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%であることが特に好ましく、80質量%以上であることが最も好ましい。なお、前記「鉄を主成分として含む」とは、金属ガラスが強磁性を有するための主要成分という意味であり、本発明では鉄をかかる主要成分とする。また、前記金属ガラスはFe以外の成分として、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、リン(P)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及びモリブデン(Mo)からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0020】
「金属ガラスを主成分とする基材粒子」とは、前記基材粒子中、金属ガラスの割合が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90〜100質量%であることが特に好ましい。上記した範囲内の場合、前記基材粒子は、本実施形態における条件下、Tg以上での加圧、昇温によって、十分に流動し界面に深さ100nm以上の凹凸が形成され、結果として、界面強度、ひいては金属ガラス成形体(焼結体)の強度を向上させることができる。また、前記基材粒子中、金属ガラス以外の成分としては、絶縁皮膜を構成する無機酸化物や、金属ガラス以外の金属原子などが挙げられる。前記無機酸化物については後述する。金属ガラス以外の金属原子として、例えば、Al、Ni、Cu、Mg、Tiなどの延性が高い金属が挙げられ、中でも好ましくはAlである。これらの金属原子を前記基材粒子に含ませることにより、金属ガラス成形体の割れをより確実に防ぐことができる。
【0021】
基材粒子の平均粒径は、本発明の属する技術分野で通常用いられている範囲である限り、特に制限されることはない。基材粒子の平均粒径は1μm以上であることが好ましく、4000μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが特に好ましく、20μmであることが最も好ましい。かかる範囲の場合、密度が大きくなり、強度を向上させることができる。なお、本明細書における平均粒径は、粒度分布測定法により、Pertica(LA−950、HORIBA製)を用いて測定する。
【0022】
以下、本実施形態の製造方法のうち、第1段階と第2段階とについてより詳細に説明する。第1段階では、加圧下、前記金属ガラスのガラス転移温度未満まで前記基材粒子を昇温させる際に、前記粉粒体を構成する基材粒子同士の間の空隙の割合を減少させつつ、得られる金属ガラス成形体の密度を向上させる。しかし、前記空隙の割合を最小限とするのではなく、一定割合の空隙を「意図的に」存在させておく。前記「一定割合の空隙」とは、前記粉粒体の密度を真密度の90%未満とすることである。換言すれば、前記粉粒体における平均の空隙率を10%以上とすることである。前記90%未満の場合、高強度な焼結体を得ることができる。なお、前記「90%未満」は、実用上使用し得る、金属ガラスの材質及び基材粒子の平均粒径の範囲を考慮した範囲である。
【0023】
ここで、第1段階では、前記金属ガラスのTg未満まで前記粉粒体を昇温する際に、前記粉粒体の密度が、真密度100%に対して90%未満、好ましくは50〜80%、より好ましくは80%未満となるように加圧する。なお、本明細書における密度は、電子比重計(型番MD-300S、Alfa Mirage社製)を用いて粉粒体を測定した値である。
【0024】
第2段階では、前記金属ガラスのガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の範囲で前記粉粒体をさらに昇温させる。そして、このように昇温させながら、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が前記第1段階の該歪変化率よりも大きい条件下で加圧する。換言すれば、加圧条件として、単位温度当たりの粉粒体の歪変化率(%/℃)は、前記Tg未満での粉粒体よりも、前記Tg以上での粉粒体の方が大きいことを意味する。なお、Tg未満での粉粒体と、Tg以上での粉粒体との間の前記歪変化率の差は、0.01%/℃以上であることが好ましく、1〜50%/℃であることがより好ましく、1〜3%/℃であることがさらに好ましい。上記の範囲内の場合、粉粒体の界面に深さ100nm以上の凹凸ができ、界面強度が高くなるという効果を奏する。本明細書における「歪変化率」の測定方法は、後述の実施例において具体的に示すが、まず、加熱温度(単位:℃)と変位(単位:mm)とのグラフを作成する。そして、前記グラフより、単位温度当たりの変位の割合を算出し、これを「歪変化率」とする。なお、「歪変化率」、即ち変位の測定は、放電プラズマ焼結装置(SPS−511S、住友石炭鉱業株式会社)を用いた自動測定により行う。
【0025】
一方、焼結温度の条件としては、昇温開始時の温度は特に制限されない。焼結温度の上限値は、基材粒子のガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の範囲である限り、特に制限されない。そして、昇温速度や、インキュベートの有無など、その他の温度条件についても特に制限されない。また、なお、焼結前に熱処理を行ってもよい。熱処理の時間は、数分以上であることが好ましく、数分〜数十分であることがより好ましく、約30分であることがさらに好ましい。一方、熱処理の温度については、基材粒子の材質等、すなわち基材粒子が有するTgの値によって好適な範囲が異なるため、特に制限されない。
【0026】
本実施形態における焼結の工程は、加圧条件としての歪変化率の変化という観点に加えて、金属ガラスのガラス転移温度(Tg)に到達した時点(第1段階終了直後)での粉粒体の最高密度を指標として表現することもできる。ここで、「金属ガラスのTgに到達した時点での粉粒体の最高密度」とは、体積を基にした三次元(密度)で表すことができる。
【0027】
その際、前記焼結の工程を、Tgを境にして第1段階と第2段階とに分けることができる。第1段階では、前記金属ガラスのガラス転移温度(Tg)未満まで前記基材粒子を昇温させる際に、前記粉粒体の密度がガラス転移温度(Tg)に到達した時点(第1段階終了直後)での前記粉粒体の最高密度よりも低くなるように加圧する。
【0028】
第2段階では、前記金属ガラスのガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の範囲で前記粉粒体をさらに昇温させる際に、前記粉粒体の密度が前記第1段階終了後の粉粒体の密度以上となるように加圧する。
【0029】
ここで、第2段階は、前記金属ガラスのガラス転移温度以上であって、前記粉粒体の密度が、好ましくは真密度100%に対して70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上となるように加圧する。前記粉粒体の真密度に対する密度を、第1段階と第2段階とで上記のように変化させる。これにより、上述のように、前記粉粒体の密度を有意に向上させることができるとともに、高強度の焼結体を得ることができる。ここで、本明細書における「真密度」とは、空隙を含まない、基材粒子のみからなる密度をいい、いわば理論値といえる。なお、真密度は、前記粉粒体を最大に加圧した場合の最大密度値を近似値として用いる。
【0030】
前記粉粒体のガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の範囲で昇温する際、単位温度当たりの粉粒体の歪変化率が0.60%/℃以上であることが好ましい。より好ましくは0.60%/℃以上50.59%/℃以下であり、さらに好ましくは0.60%/℃以上3.59%/℃以下である。上記した範囲内の場合、粉粒体における界面強度が強くなるという効果を奏する。
【0031】
また、前記ガラス転移温度(Tg)と前記結晶化開始温度(Tx)との間の温度幅である過冷却温度領域(ΔTx)が20K以上であることが好ましい。また、前記過冷却温度領域ΔTxは高い値であるほどより好ましいため、ΔTxの上限は特に制限されない。かかる場合、オーバーシュートの虞がなく、焼結体(金属ガラス成形体)の結晶化を好適に防止でき、さらには加工性にも一層優れる。
【0032】
焼結の方法としては、以下に制限されることはないが、例えば放電プラズマ焼結法(SPS)、ミリ波焼結法などが挙げられる。焼結温度(例えば金型内で制御する温度)は、金属ガラスのガラス転移温度(Tg)以上結晶化開始温度(Tx)未満の温度範囲内であれば、特に制限されず、金属ガラスの材質によって決まる。一方、焼結時間は、特に制限されることはないが、例えば数分〜数十分でありうる。
【0033】
また、焼結後には、得られた焼結体を冷却する工程を含みうるが、その際の冷却条件(温度、時間等)は特に制限されることなく、従来公知の方法や条件により行うことができる。
【0034】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る金属ガラス成形体は、鉄を主成分とし、ガラス転移点及び結晶化開始点を有する金属ガラスを用い、これを主成分とする基材粒子の粉粒体を焼結させてなるものである。そして、前記焼結後の金属ガラス成形体の界面において、界面の長さ1μm当たり、深さ100nm以上の凹凸が1個以上存在することを特徴とする。上述の通り、前記凹凸が前記界面に存在することにより、界面の強度、ひいては得られる金属ガラス成形体の強度を有意に向上させることができる。
【0035】
ここで、上記図1に示した第2段階では、粉粒体を構成する基材粒子同士の間に存在する(残存する)空隙率は、図1(A)及び(B)間でほぼ同じである。図1(A)及び(B)の第2段階で異なるのは、界面に上述した凹凸が存在するか(図1(B))、存在しないか(図1(A))という点である。
【0036】
また、1μm長の金属ガラス成形体の界面を任意に10か所とった場合に、平均として、深さ100nm以上の凹凸が10個以上存在することが好ましい。かかる場合、深さ100nm以上の凹凸が、金属ガラス成形体の界面全体に亘って、いわば「均一に」存在し、局在していないことを表す。したがって、金属ガラス成形体における界面強度、ひいては金属ガラス成形体全体としての強度を顕著に向上させることができる。
【0037】
また、前記基材粒子の表面に無機酸化物からなる絶縁皮膜がコーティングされてなることが好ましい。前記無機酸化物の原料は、特に制限されることはなく、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、ホウ素(B)などが挙げられる。また、前記絶縁性無機酸化物で覆う方法として、以下に制限されることはないが、例えば湿式コーティング、流動層コーティング、ゾルゲル法、手塗りなどが挙げられる。絶縁皮膜の厚さは、1nm以上であることが好ましく、10nm〜1,000nmであることがより好ましく、50〜100nmであることが特に好ましい。かかる範囲の場合、電気比抵抗が得られ、渦損を少なくすることができる。
【0038】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係るモータは、上記第1実施形態の製造方法により得られる金属ガラス成形体、または上記第2実施形態の金属ガラス成形体を適用する。本発明に係る金属ガラス成形体は、例えば電動モータ用のロータ、ステータなどに適用することができ、高強度で鉄損の少ないコアを実現することができる。同時に、前述の通り、小型モータへの適用可能なレベルの高磁気特性(強磁性化)及び高強度を有する。したがって、本発明に係る金属ガラス成形体を圧粉磁心としてモータに用いた場合、かかる大きな出力トルクを小型モータで実現することができる。
【0039】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る電動駆動車両は、第3実施形態のモータを搭載する。モータの小型化によって、エンジンルームの中の自由度を一層高めることが可能となる。
【実施例】
【0040】
本発明による金属ガラス成形体の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されることはない。
【0041】
<試料の調製>
(実施例1)
Feを主成分とする、平均粒径20μmの金属ガラスの粉粒体 Fe77 Mo2 P10 C4 B4 Si3(Fe:77atom%、Mo:2atom%、P:10atom%、C:4atom%、B:4atom%、Si:3atom%)3gを用意した。溶媒(酢酸3−メチルブチル)に薄めたアルミ酸化物(Alコート剤、高純度化学研究所(株)製)を前記金属ガラスに塗布して湿式コーティングを行った。なお、形成された絶縁皮膜の厚さは50〜100nmであった。上記の金属ガラスは、44Kの過冷却温度領域(ΔTx)を有していることを確認した(Tg:741K(468℃)、Tx:785K(512℃))。
【0042】
上記の粉末を400℃で30分間熱処理した後、大気圧から6Pa以下になるまで真空にし、5t/cm以下の荷重をかけながら、490℃で3分間SPS焼結を行い、厚さ3mm、サイズ口(四方形の縦横)10mmの焼結体を成形した。SPS焼結プロセス中、加熱温度が金属ガラスのガラス転移点Tg未満での昇温に関する第1段階では、粉粒体の密度が真密度の90%(6.7g/cm)より低くなるよう、0.5911%/℃(歪変化率)の条件で加圧した。その際、真密度は7.4g/cm、粉粒体の密度は5.3g/cmであり、真密度100%に対する粉粒体の密度は71.49%であった。その後、Tg以上での昇温に関する第2段階では、前記第1段階より高い歪変化率である1.1728%/℃の条件で加圧を行った。その際、粉粒体(金属ガラス成形体)の密度は7.34g/cmであり、真密度100%に対する粉粒体(金属ガラス成形体)の密度は99.19%であった。
【0043】
(比較例1)
SPS焼結プロセスにおいて、下記の2点以外は、実施例1と同様の方法・条件で焼結を行った。
【0044】
第1の点として、加熱温度が金属ガラスのガラス転移点Tg未満での昇温に関する第1段階では、粉粒体の密度が真密度の90%以上になるように、0.7047%/℃(歪変化率)で加圧した。その際、粉粒体の密度は6.7g/cmであり、真密度100%に対する粉粒体の密度は91.34%であった。
【0045】
第2の点として、その後、Tg以上での昇温に関する第2段階では、前記第1段階より低い歪変化率である0.1961%/℃で加圧を行った。その際、粉粒体の密度は7.32g/cmであり、真密度100%に対する粉粒体の密度は98.92%であった。
【0046】
<評価>
[金属ガラス成形体の強度測定]
金属ガラス成形体(厚さ3mm、サイズ口10mm)の強度を測定するため、焼結体から2×3×10mmサイズのテストピースを切り、強度測定を行った。
【0047】
テストピースの強度測定は、3点曲げによる抗折試験を3回行い、測定値を平均した。装置は、小型デジタル万能試験機 型式5867(Instron社製)を用いた。測定は、負荷容量10kNのロードセール、試験速度0.1mm/分、試験温度23℃、サポートスパン6mmの条件で行った。
【0048】
上記実施例1及び比較例1で得られた金属ガラス成形体の強度の値を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1では、SPS焼結プロセスにおける第1段階、即ち加熱温度がTg未満の場合、粉粒体の密度が真密度の90%より低くなるよう、0.5911%/℃(歪変化率)で加圧した。その際の、真密度100%に対する粉粒体の密度は71.49%であった。その結果、表1に示すように、密度は向上したものの粉粒体を構成する基材粒子同士の間に空隙が相当程度存在していた。その後、SPS焼結プロセス中の第2段階、即ち加熱温度がTg以上の場合、粉粒体の密度が真密度の90%以上になるよう、前記第1段階より高い歪変化率である1.1728%/℃の条件で加圧を行った。前記1.1728%/℃は、0.60%/℃を有意に超える値である。その結果、表1に示すように、基材粒子の流動が十分に生じ、粉粒体の密度が有意に向上した。併せて、焼結体(金属ガラス成形体)中の界面が流動の影響で、いわば「均一な」凹凸状態となったため、界面強度が有意に向上した結果、焼結体全体の強度(表1中の焼結体強度)が約38%も向上した。本発明により得られる金属ガラスの基材粒子を、自動車用の高回転の小型モータに使用した場合、高回転体として実用レベルまで十分耐えうることを本発明者らは確認している。
【0051】
図2は、上記実施例及び比較例の加熱温度に対する変位の度合を表すグラフである。図中、菱形でプロットした点を結んだ線は実施例を示し、丸形でプロットした点を結んだ線は比較例を示す。図の見方としては、変位の絶対値が大きい程、粉粒体の塑性変形度(単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃))が大きいことを意味する。図2を見ると、Tgを境に、実施例の変位度(歪変化率)が比較例の変位度(歪変化率)を逆転していることが分かる。かかる結果より、上記図1に示したように、かつ、上記表1のデータを裏付けるように、本発明(実施例)ではTg以上での塑性変形が従来のもの(比較例)と比較して、有意に生じていることを確認できる。そして、本発明(実施例)では粉粒体における界面強度、ひいては得られる金属ガラス成形体の強度が有意に向上することを見出した。
【0052】
図3は、実施例及び比較例で比較した場合の、金属ガラス成形体3の界面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真、及び前記界面近傍における原子濃度を示すグラフである。図中、(A)は比較例を示し、(B)は実施例を示す。また、図3の(A)及び(B)は、いずれも焼結後、即ち焼結の工程における第2段階終了後の、金属ガラス成形体3中の基材粒子の界面を示す。さらに、写真中、黒色部分は、その大部分が絶縁皮膜5に相当し、特に比較例の方では若干の空隙も存在する。その他の部分は基材粒子4に相当する。一方、原子濃度を示すグラフのうち、黒色部分において原子濃度が減少しているのは鉄(Fe)のチャートであり、反対に、原子濃度が上昇しているのはアルミニウム(Al)及び酸素(O)のチャートである。
【0053】
まず、実施例と比較例との間の、金属ガラス成形体3の界面近傍の電子顕微鏡写真を比較すると、比較例では界面が平滑であるのに対し、実施例では界面に凹凸が多数存在し、密着接合によって顕著に高くなっているといえる。具体的には、実施例では界面に深さ100nm以上の凹凸が、長さ1μm当たり1個以上存在していることを確認した。したがって、図3の結果より、本発明(実施例)では、従来技術(比較例)に比べて、金属ガラス成形体3を構成する基材粒子同士の界面の強度、ひいては得られる金属ガラス成形体の強度を有意に向上させることができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る金属ガラス成形体の製造方法の原理を定性的に示す概略図である((A)は金属ガラス成形体の密度が真密度の90%以上の場合、(B)は本発明を示す)。
【図2】実施例及び比較例の加熱温度に対する変位の度合を表すグラフである。
【図3】実施例及び比較例で比較した場合の、金属ガラス成形体の界面を示す走査型電子顕微鏡写真、及び前記界面近傍における原子濃度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 粉粒体、
2、4 基材粒子、
3 金属ガラス成形体、
5 絶縁皮膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラスを主成分とする基材粒子の粉粒体を焼結させてなる金属ガラス成形体であって、
前記焼結後の粉粒体の界面において、長さ1μm当たり、深さ100nm以上の凹凸が1個以上存在する、金属ガラス成形体。
【請求項2】
前記基材粒子は、表面に無機酸化物からなる絶縁皮膜がコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の金属ガラス成形体。
【請求項3】
前記無機酸化物は、酸化アルミニウムである、請求項2に記載の金属ガラス成形体。
【請求項4】
金属ガラスを主成分とする基材粒子を加圧しつつ昇温させ、基材粒子の粉粒体の焼結を行う工程を含む金属ガラス成形体の製造方法であって、
前記焼結の工程は、
前記基材粒子のガラス転移温度未満まで前記基材粒子を昇温させる際に、前記粉粒体を構成する基材粒子同士の間の空隙の割合を減少させつつ、前記粉粒体の密度が真密度100%に対して90%未満となるように加圧する第1段階と、
前記基材粒子のガラス転移温度以上結晶化開始温度未満の範囲で前記粉粒体をさらに昇温させながら、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が前記第1段階の該歪変化率よりも大きい条件下で加圧する第2段階とからなる、金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記第2段階は、前記粉粒体の密度が真密度100%に対して90%以上となるように加圧することを特徴とする、請求項4に記載の金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第2段階における、単位温度に対する粉粒体の歪変化率(%/℃)が0.60%/℃以上である、請求項4または5に記載の金属ガラス成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ガラス成形体、または請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属ガラス成形体の製造方法により得られる金属ガラス成形体を適用した、モータ。
【請求項8】
請求項7に記載のモータを搭載した、電動駆動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138439(P2010−138439A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314969(P2008−314969)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】