説明

金属マトリックス複合材の製造方法

少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックス(201,211)と、該金属マトリックス(201,211)内に配置される少なくとも1つの補強成分(202)とを含んだ金属マトリックス複合材(200,210)の製造方法において、前記成分の少なくとも1つを熱噴射方法により基板(5)上に噴射し、その際少なくとも1つの補強成分として、ナノチューブ(202)、ナノファイバー、グラフェン、フラーレン、フレーク、またはダイヤモンドの形態の炭素を使用することを提案する。さらに、対応する材料、特に被膜の形態の材料、および、この種の材料の使用方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックスと、該金属マトリックス内に配置される少なくとも1つの補強成分とを含んだ金属マトリックス複合材の製造方法、これに対応する材料、特に被膜の形態の材料、およびこの種の材料の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気および電子の分野で塗布を行う際、並びに、技術的な支持部材を製造する際の、小型化が増加している傾向、材料コストの上昇に伴うコストアップ、ますます厳しくなる要求は、新たな材料とコーティングとを必要としている。
【0003】
金属マトリックス複合材またはメタルマトリックスコンポジット(Metal Matrix Composites, MMC)は、セラミックスまたは金属のみの材料に比べて際立った特性の組み合わせを有している。この理由から、本来は航空および宇宙飛行並びに軍事技術のために開発されたMMCを一連の応用技術に使用することに大きな関心が寄せられている。
【0004】
MMCという名称はもっぱら適当に補強したアルミニウムに関わることが多く、特殊なケースでは、補強したマグネシウム材料および銅材料とも呼ばれる。MMCの金属成分は元素金属として存在し、或いは、合金の形態で存在している。補強相または補強成分としては、通常、粒子(補強粒子)(直径0.01〜150μm)、短繊維(直径1〜6μm、長さ50〜200μm)、無端繊維(直径5〜150μm)、または開放気孔率をもった発泡材が使用される。発泡材は、通常、セラミック材(SiC、Al、BC、SiO)或いは繊維またはグラファイトの形態のプラスチックから成っている(これに関しては非特許文献1をも参照)。
【0005】
MMCばら材を製造するため、技術水準からは主に3つの方法プロセスが知られており、すなわちセラミック粒子を金属溶融物の中に混入する方法、溶浸法、粉末冶金法が知られている。MMC被膜を製造するには、技術水準からは電解析出が知られている。
【0006】
前記混入方法においては、金属溶融物と粒子との間に不足している湿潤性を克服しなければならず、両相の間の反応が制限されることが多い。粒子の体積成分は、粘性上の理由から最大で30%に制限されている。
【0007】
溶浸法では、補強成分を多孔性プレフォーム("Preform")に加工し、次に加圧してまたは加圧せずにプレフォームに金属溶融物を溶浸させる。このケースでは、補強材として粒子以外に、非常に高い補強体積成分(約80%まで)をもった繊維または発泡材をも使用することができる。負荷が最も高い領域での局所補強が可能である。しかしながら、当該方法は高コストである。
【0008】
MMCの粉末冶金(PM)が通常使用されるPM方法と異なるのは、金属粉の代わりに、セラミック成分または補強成分と金属粒子とから成る混合粉を使用する点にすぎない。PMは、基本的には、細かい粒子(粒径0.5〜20μm)に対してのみ適しているにすぎない。さらに、押し出し、鍛造、または圧延による、得られたMMCの追加成形性が保証されていなければならず、よって補強粒子の最大体積含有量は約40%に限定されている。
【0009】
拡散層の電解析出法では、粒子を電解質の中で細かく分布するように浮遊状態で保持し、マトリックスと同時に析出させて均質な層を得るという問題がある。粒子とマトリックスとを同時に析出することは、多くのケースではそれらのポテンシャルが異なっているために不可能である。
【0010】
炭素・ナノチューブ(Carbon Nanotubus, CNT)は優れた特性を有している。たとえばその機械的引張り強度はほぼ40GPaであり、その剛度は1TPa(鋼の20倍または5倍)である。導電特性をもったCNTおよび半導体特性をもったCNTもある。CNTはフラーレンのファミリーに属するもので、1nmないし数100nmの直径を有している。その層はフラーレンの層またはグラファイトの面と同様に炭素のみから成っている。特にCNTと他の成分との混合物は、特性が著しく改善された複合材および被膜を期待させる。
【0011】
CNTを従来のプラスチックと混合させて、その機械的特性および電気的特性を改善することが知られている。たとえば特許文献1で取り扱われているような金属をベースにしたCNT複合材は、たとえばFe、Al、Ni、Cuまたはこれに対応する合金のような金属マトリックスと炭素ナノチューブとを補強成分としてマトリックスの中に含んでいる。金属とCNTとの間で密度が異なっており、これによって強い分離傾向が生じるとともに、金属によるCNTの湿潤性に不足しているために、溶融金属学に適用して適当な金属・CNT複合材を製造するには問題がある。それ故前記特許文献1は、析出すべき金属マトリックスの金属カチオンと炭素ナノチューブとを含有するメッキ溶液を使用することで、基板上にメッキ被着させた複合被膜を析出させることを提案している。この場合、複合被膜は、金属マトリックスと、該マトリックス内に配置される炭素ナノチューブとを含み、これにより被膜の機械的特性および摩擦学的特性が改善される。しかしながら、メッキ被着は多くの分野で実施することは不可能であり、或いは、実施が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007001412A1号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Dr. O. Beffort著「金属マトリックス複合材:特性、応用、加工」、第6回国際IWFセミナー、2002年4月18/19日、スイス エガーキンゲン)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、金属マトリックス複合材、特に補強成分としてCNTを含んだ金属マトリックス複合材の製造方法において、使用する成分を技術的に簡単に可能な限り均一に分布させることを可能にし、その際特に補強成分がその物理学的・化学的特性の点で可能な限り変化せずに、金属マトリックス複合材の中に可能な限り高いパーセンテージで含まれているような前記方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、独立請求項の構成を備えた、金属マトリックス複合材の製造方法および工作物としてまたは工作物の被膜として或いは工作物を製造するための材料として使用できる金属マトリックス複合材によって解決される。有利な構成はそれぞれの従属項に記載されている。
【0016】
本発明は、少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックスと、該金属マトリックス内に配置される少なくとも1つの補強成分とを含んだ、電気構成要素、電子素子または冷却体用の金属マトリックス複合材の製造方法において、前記成分の少なくとも1つを熱噴射方法により基板上に噴射し、その際少なくとも1つの補強成分として、ナノチューブ、ナノファイバー、グラフェン、フラーレン、フレーク、またはダイヤモンドの形態の炭素を使用するという技術的教義を含んでいる。
【0017】
長さが0.2ないし1000μmで、好ましくは0.5ないし500μmで、束サイズが5ないし1200nm、好ましくは40ないし900nmの単層または複層のCNT(Single Walled/Multi Walled CNT、略してSW-/MW-CNT)のようなコンポジット粒子は、特に有利であることが明らかになった。SW-CNT冷ガス噴射粒子またはMW-CNT冷ガス噴射粒子は、その特性を改善するため、予め化学的方法を介してCuまたはNiのような金属で囲うまたは被覆することができる。他の有利な変形実施態様は、金属粉をCNT分散懸濁液と混合させ、乾燥させることを含んでおり、その結果金属粉粒子がCNTで囲われる。キャリアガス内または粉末流内でのSW−CNTまたはMW−CNTの成分はたとえば0.1ないし30%、好ましくは0.2ないし10%に達する。
【0018】
前記噴射方法の一つを用いて、単層または複層のCNTを金属マトリックスに結合させることが可能である。このようにして製造した少なくとも0.3%のSW−CNTまたはMW−CNTを含んだMMC被膜または対応するMMCバンドは、本出願人の実験によれば、従来公知の比較しうる金属層の値よりもはるかに低い摩擦係数または接触抵抗値を示す。特に、補強成分として、ナノチューブ、フラーレン、グラフェン、フレーク、ナノファイバー、ダイヤモンドまたはダイヤモンドに類似した構造物の形態の炭素を使用するのが有利である。この場合、長さが0.2ないし1000μmで、好ましくは0.5ないし500μmで、束サイズが5ないし1200nm、好ましくは40ないし900nmの単層または複層のCNT(Single Walled/Multi Walled CNT、略してSW-/MW-CNT)のようなコンポジット粒子は、特に有利であることが明らかになった。SW-CNT冷ガス噴射粒子またはMW-CNT冷ガス噴射粒子は、その特性を改善するため、予め化学的方法を介してCuまたはNiのような金属で囲うまたは被覆することができる。他の有利な変形実施態様は、金属粉をCNT分散懸濁液と混合させ、乾燥させることを含んでおり、その結果金属粉粒子がCNTで囲われる。キャリアガス内または粉末流内でのSW−CNTまたはMW−CNTの成分はたとえば0.1ないし30%、好ましくは0.2ないし10%に達する。
【0019】
前記噴射方法の一つを用いて、単層または複層のCNTを金属マトリックスに結合させることが可能である。このようにして製造した少なくとも0.3%のSW−CNTまたはMW−CNTを含んだMMC被膜または対応するMMCバンドは、本出願人の実験によれば、従来公知の比較しうる金属層の値よりもはるかに低い摩擦係数または接触抵抗値を示す。
【0020】
適当な噴射方法により、予めたとえばCNT或いはセラミック補強成分と混合させた金属粉を使用することができる。キャリアガス内での金属粒子の成分はたとえば0.1ないし50%の範囲内にある。
【0021】
フレーム溶射、プラズマ噴射、冷ガス噴射のような噴射方法は、被膜を形成するための技術水準から知られている。フレーム溶射では、粉末状、ひも状、ロッド状、またはワイヤー状の被膜材を燃焼ガス炎内で加熱し、補助的なキャリアガス、たとえば圧縮空気を供給しながら高速で基材に対し噴射させる。プラズマ噴射では、プラズマジェット内に粉末が噴射され、該粉末をプラズマ高温度によって溶融する。プラズマ流は粉末粒子を破砕し、これをコーティングすべき工作物に対し投擲する。
【0022】
たとえば欧州特許第0484533B1号明細書に記載されているような冷ガス噴射の場合は、噴射粒子を比較的冷えたキャリアガス内で高速度に加速する。キャリアガスの温度は数百℃であり、低溶融噴射成分の溶融温度以下である。被膜は、粒子を高運動エネルギーを備えたメタルバンドまたは部材に対し衝突させることで形成され、その際に冷えたキャリアガス内で溶融しない粒子は衝突の際に密な固着性の層を形成する。この場合、塑性変形とこれから生じる局所的な放熱とは、噴射層を工作物上に非常に好適に粘着、付着させる用を成す。比較的低温であり、キャリアガスとしてアルゴンまたは他の不活性ガスを使用できるので、冷ガス噴射の際のコーティング材の酸化および/または相転移を回避できる。噴射粒子には、粉体として、通常は1ないし100μmの粒径をもった粉体を添加する。中細ノズル内でキャリアガスが弛緩する際に噴射粒子は高運動エネルギーを得る。
【0023】
本発明では、有利には、冷ガス噴射、フレーム溶射、特に高速フレーム溶射(HVOF)および/またはプラズマ噴射によって少なくとも1つの成分を噴射する。特に冷ガス噴射の場合には、室内温度またはそれ以下の温度のキャリアガスを使用することも考慮され、これによって噴射成分の、特に補強成分の熱負荷を確実に回避することができる。温度は最低溶融成分の溶融温度のたとえば10%まで達することがある。粉末粒子の酸化を阻止し、従って後の導電性等の層特性または材料特性への影響を少なくするには、キャリアガスは同時に不活性雰囲気またはいわゆる還元性雰囲気を提供する必要がある。特に、2つの噴射方法の組み合わせを使用してもよい。適当な複数の成分をコーティング個所で混合させる2つの噴射ノズルの使用も可能である。
【0024】
上記処置により、これによって製造される被膜および材料の著しく改善された特性を得ることができる。当該製品は耐摩耗性が増し、滑り挙動が改善され、フレッチング腐食耐性がより高くなる。この場合、摩擦係数をそれぞれの純金属の値のほぼ十分の一まで減少させることができる。さらに、材料の導電性と硬度が向上する。
【0025】
本発明は、特に汎用性があって適正価格の方法を提供する。というのは、たとえば所定の噴射方法によって導電路、リードフレーム、押し抜き格子を製造する場合、圧延、押し抜きまたは焼きなましのような事前製造ステップが必要ないからである。
【0026】
本発明による方法では、基板として、フォイルまたは粉末ジェットによって湿潤できない土台を用いることができ、このことは噴射された金属マトリックス複合材を基板から切り離すことを可能にする。これによりたとえばバンドの形態の部材或いは純粋材料を得ることができ、これをその後適当に後処理することができる。
【0027】
しかしながら、バンド材、および、電子機械の構成要素、冷却体、軸受、ブッシュのような部品を、タイコーティングすることも合目的であり、これらのバンド材および部品は金属マトリックス複合材によって改善された特性を有する。この発明の意味でコーティングするため、好ましくは、メタルバンドまたは電子機械部品は、好ましくはセラミックス、チタン、銅、アルミニウムおよび/または鉄およびこれらの合金から成る工作物として使用される。半製品または相互接続成形デバイス(MID)のような3D構造物もコーティングのために使用される。
【0028】
本方法は、特に有利な実施態様に対応し、少なくとも1つの表面処理ステップを含んでいる。この場合、メタルバンドまたは金属材料から成る部品上に活性剤、定着層および/または拡散防止層を被着させることができ、その後その上にMMCを噴射する。タイコートを得ようとするのではなく、前述したように純粋な金属マトリックス複合材を得る場合には、定着層の代わりにアンチタイコート材を被着することができる。
【0029】
対応するMMCバンドまたは被膜は、表面を滑らかにするために、平滑化のような補助処理またはリフローイング/熱処理を追加的に行ってもよい。成形のため、たとえば軟焼きなましステップをたとえばマトリックスメタルの溶融温度の約0.4倍程度で追加的に行ってもよい。材料を圧縮するため、および/または、表面の有孔性を減少させるため、材料をたとえば0.1ないし10%の変形率で追加的に圧延してよい。
【0030】
対応する方法では、有利には、少なくとも1つの金属成分および/または少なくとも1つの補強成分を粒子形状で供給する。粒子の構造、配向、サイズ、形状およびその量を適宜選定することにより、マトリックス材の材料特性に好影響を与えることができる。場合によっては、適当な境界条件により、ひげ結晶の形成を促進または阻止することもできる。
【0031】
特に有利には、第1の成分を、噴射前に、少なくとも1つの他の成分と混合させてもよい。たとえば冷ガス噴射粒子のソフトな混合は、補強粒子を含んでいる分散液または懸濁液で粒子を取り囲み、次に乾燥することによって行うことができる。ボールミルまたは磨砕機内で保護ガスのもとに少なくとも2つの異なる成分から混合すると、粒子の硬度によっては、粒子形状が破壊され、よって粒子の流動挙動に悪影響を与えることがある。
【0032】
この種の方法では、有利な構成の範囲内で、少なくとも1つの有機補強成分および/または少なくとも1つのセラミックス補強成分を使用することができる。これらは噴射混合物の中にあってよく、或いは、添加噴射または同時噴射してもよい。
【0033】
1つの有利な方法は、少なくとも1つの他の補強成分を使用し、該少なくとも1つの他の補強成分がタングステン、タングステンカーバイド、タングステンカーバイド・コバルト、コバルト、ホウ素、炭化ホウ素、インバー、コバール、ニオブ、モリブデン、クロム、ニッケル、窒化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化銀、窒化珪素、炭化珪素、酸化珪素、ジルコニウムタングステン、酸化ジルコニウムのグループから選択されている。
【0034】
この場合、1つの補強成分を他の少なくとも1つの他の補強成分と一緒に使用してもよく、および/または、適宜添加噴射または混ぜ合わせてもよい。公知のセラミックス成分を使用することにより、他の補強成分の特性に加えて該セラミックス成分の有利な特性を活用することができる。ホウ素、コバルト、タングステン、ニオブ、モリブデンおよびその合金並びにインバーまたはコバーを使用することにより、複合材の熱膨張係数に好影響を与えることができる。
【0035】
有利には、錫、銅、銀、金、ニッケル、亜鉛、プラチナ、パラジウム、鉄、チタン、アルミニウムのグループから選択した少なくと1つの金属および/または金属の合金を有している金属マトリックスを備えた金属マトリックス複合材または被膜を使用することができる。これにより、たとえば特に有利な耐摩耗性、耐食性および/または格別な導電性または伝熱性および適合した膨張係数を提供することができる。
【0036】
本発明による方法によって製造された、少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックスと該金属マトリックス内に配置される少なくとも1つの補強成分とを含む金属マトリックス複合材も、同様に本発明の対象である。
【0037】
この場合、補強成分として0.1ないし20%、好ましくは0.1ないし5%、好ましくは0.2ないし5%の成分の炭素・ナノチューブを有している金属マトリックス複合材が特に有利と見なされる。上記成分は、上述したように、実際に特に有利であることが明らかになった。
【0038】
有利な特性を備えた対応する金属マトリックス複合材は、たとえば補強成分に対し0.2ないし20%の残空隙率および/または金属成分に対する0.2ないし10%の残空隙率を有している。このような残空隙率を備えたMMCは、有利には、たとえば軸受または滑り面のように特に優れた耐摩耗性が必要な場合、或いは、たとえば導電路のように高い導電性が必要な場合に使用することができる。
【0039】
本発明による金属マトリックス複合材は、特に工作物のコーティングに適している。被膜はたとえば軸受および滑り要素、冷却体、プラグソケットコネクタ、押し抜き格子および導電路、特に加熱要素として使用される導電路上に被着させることができる。この種のMMC被膜は、たとえばSn、Cu、Ag、Au、Ni、Zn、Pt、Pd、Fe、Ti、Wおよび/またはAl並びに蝋材のようなこれらの合金、特に0.1ないし20%、好ましくは0.2ないし5%のSW−CNTまたはMW−CNTの成分を備えた合金から成っていてよい。
【0040】
特に、プラグソケットコネクタ、ばね、たとえばリレー用の接続接点のような電子機械の構成要素で使用するためのコーティングバンド、押し抜き格子および加熱要素または冷却体および冷却要素における導電路が対象である。金属バンドは、好ましくは、0.01ないし5mmの厚さ、特に有利には0.06ないし3.5mmの厚さを有している。金属マトリックス複合材のみから成るバンドを製造するため、前述したように、成分をたとえばPEEK、ポリアミドまたはテフロンから成るフォイルのような湿潤不能な土台上に被着させることもできる。対応的に製造された押し抜き格子、導電路、加熱要素およびバンドはCu、Al、Ni、Feおよびこれらの合金を有していてよい。
【0041】
上述のようにした製造した少なくとも1つの金属マトリックス複合材を有する導電路は、プラチナ、たとえばLSDSまたは他の熱可塑性プラスチックから成るMID構造物(Moulded Interconnection Devices)の上に局部的にたとえば型板を介して噴射させてよく、或いは、平坦な被膜の形態で設けてよく、被膜は後でたとえば適当なフォトリソグラフィー方法によってさらに処理される。
【0042】
MMCバンドまたは導電路は、有利には、Cu、Ag、Al、Niおよび/またはSnおよび0.1ないし20%の、好ましくは0.1ないし5%のSW−CNTまたはMW−CNT成分を含んだこれらの合金から成っていてよい。
【0043】
他の構成および利点に関しては、本発明による製造方法に係る実施形態を参照されたい。本発明による方法に対応して製造された金属マトリックス複合材は、特に工作物を製造する際に、特に電子機械の構成要素を製造する際に使用するために特に適している。このような使用方法は、工作物全体を金属マトリックス複合材から製造するか、或いは、このような材料でコーティングを行うかのいずれかの態様を含むことができる。
【0044】
次に、本発明と本発明の利点並びに他の構成を、図面に図示した実施形態を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の特に有利な実施形態による方法を実施するために適した冷ガス噴射装置の図である。
【図2】本発明の特に有利な実施形態による方法によって製造された金属マトリックス複合材の組織の顕微鏡カット写真と表面の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の特に有利な実施形態による方法を実施するために適した冷ガス噴射装置が図1に図示されている。この装置は真空室4を有し、該真空室内にはたとえばコーティングすべき基板5を冷ガス噴射ピストル3のノズル前方に配置することができる。なお、この種の噴射方法は大気圧でも行うことができ、このためには真空室は必要ない。冷ガス噴射ピストン3前方への工作物5の配置は、たとえば、図1ではわかりやすくするために図示していない保持部を用いて行われる。好ましくは、基板5が可動に配置され、すなわち移動可能で且つ回転可能に配置され、その結果コーティングは複数の個所で特に帯状または平面状に行うことができる。これとは択一的に、または、これに加えて、冷ガス噴射ピストル3をも可動に配置してよい。
【0047】
基板5のコーティングを実施するため、真空室4を排気し、冷ガス噴射ピストル3を用いてガスジェットを生じさせる。ガスジェットには、工作物5をコーティングするための粒子が供給される。
【0048】
この場合、主ガスジェットは、たとえばほぼ40体積%のヘリウムを含んだヘリウム・窒素混合物は、ガス供給管1を介して真空室4内に到達する。金属粒子は、たとえばCNTを添加した金属粉は、供給管2を介して補助ガスジェットでほぼ40mbarの圧力が支配する真空室4内に到達し、そこで冷ガス噴射ピストル3内に到達する。このため、供給管1,2は、冷ガス噴射ピストル3と基板5の双方がある真空室4内へ挿入されている。噴射すべき複数の成分を複数の補助ガスジェットを介して供給するようにしてもよい。従って、冷ガス噴射プロセス全体は真空室4内で行われる。前記粒子は、該粒子の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されることにより、コーティングすべき工作物5の表面上での該粒子の付着が達成されるような強さで、冷ガスジェットによって加速される。これに加えて、粒子は前記最大温度まで加熱することができる。
【0049】
冷ガス噴射の際に噴射粒子とともに噴射ピストル3から出て噴射粒子を工作物5まで担持するキャリアガスは、噴射プロセスの後に真空室4内に到達する。使用したキャリアガスは、ガス管6を介して真空室4から真空ポンプ8を用いて除去される。真空室4と真空ポンプ8との間にはたとえば粒子フィルタ7が接続されており、該粒子フィルタは、噴射粒子がポンプ8を損傷させないようにするため、使用したキャリアガスから自由な噴射粒子を除去する。
【0050】
図2の部分図2Aないし2Cには、個々の実験の結果が図示されている。これらの実験ではそれぞれ補強成分を添加した金属粉を噴射した。これらの図は、カット面の画像と、これによって得られる層の表面を走査電子顕微鏡で撮影したものを示している。実験の範囲内で、製造者のAhwahnee(P/N ATI-BMWCNT-002)の適当なMW−CNTとともに、市販のCu粉、SnAg粉、Sn粉を使用した。
【0051】
図2Aは、1.5%のMW−CNTとともに純銅を噴射することによって得られた層200の組織を、カット面を1000倍に拡大して示したもので、層200は、銅マトリックス201と、この中に不連続に分布しているCNT202とを含んでいる。さらに、被膜200には、MWCNTとの混合過程で完全には回避できないCu粉の酸化により形成されたいわゆる酸化皮膜230がCu粒子上に認められる。層は、Nガスのもとで、600℃のノズル出口温度と38barの圧力で噴射した。層の密度は99.5%で、その厚さは280μm、層硬度は1200N/mmである。この層は摩擦特性に優れているので、軸受とブッシュの摺動面として適している。280μm厚の層をキャリア材から剥離させた後にバンドが存在し、このバンドは押し抜き格子における導電路として、または、電子機械の構成要素として使用できる。
【0052】
図2Bは、2.1%のMW−CNTとともに純錫を噴射することによって得られた層210を300倍に拡大して示したもので、この層は錫マトリックスとこの中に不連続に分布しているCNTとを含んでいる。図2Cは図2Bの詳細図で、10000倍に拡大したものである。層210はSn球体213を有し、その間にCNT202が分布している。層の密度は99.4%程度である。硬度は368N/mmで、摩耗テストでは0.5の摩擦係数を有している。Nガスのもとで32barの圧力と350℃のノズル出口温度でこの層を噴射した場合、5μmの層厚が得られた。ノズル出口温度と処理速度と圧力とを変化させることにより、層厚、層硬度、CNTを含有している粉末との組み合わせでは摩擦係数を著しく変化(減少)させることができる。このようにして製造した層をレべリングまたは再溶融(リフローイング処理)のような後処理によってその表面構造をその都度の使用例に合わせてさらに最適化することができる。これらの層をCu合金バンド上に部分的にまたは全面に被着させることで、プラグソケットコネクタのような電気機械の構成要素では差し込み力および引張り力を低減させるために用いることができ、或いは、滑り軸受およびブッシュでは適当なレべリングおよびリフローイングステップを行ったあとで摩耗特性を改善するために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックス(201,211)と、該金属マトリックス(201,211)内に配置される少なくとも1つの補強成分(202)とを含んだ、電気構成要素、電子素子または冷却体用の金属マトリックス複合材(200,210)の製造方法において、
前記成分の少なくとも1つを熱噴射方法により基板(5)上に噴射すること、少なくとも1つの補強成分として、ナノチューブ(202)、ナノファイバー、グラフェン、フラーレン、フレーク、またはダイヤモンドの形態の炭素を使用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記噴射方法として冷ガス噴射、フレーム溶射、および/またはプラズマ噴射を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板(5)として、フォイルまたは湿潤不能な表面を備えた基板、または、コーティングすべき工作物、半製品および/または3D構造を使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板(5)および/または前記金属マトリックス複合材(200,210)の少なくとも1つの表面を処理することを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの金属成分および/または少なくとも1つの補強成分(202)を粒子形状で供給することを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
第1の成分を、噴射前に、少なくとも1つの他の成分と混合させることを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの有機補強成分および/または少なくとも1つのセラミックス補強成分(202)を使用することを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの他の補強成分を使用し、該少なくとも1つの他の補強成分がタングステン、タングステンカーバイド、タングステンカーバイド・コバルト、コバルト、酸化銅、酸化銀、窒化チタン、クロム、ニッケル、ホウ素、炭化ホウ素、インバー、コバール、ニオブ、モリブデン、酸化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素、酸化珪素、ジルコニウムタングステン、酸化ジルコニウムのグループから選択されていることを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
金属マトリックス成分を使用し、該金属マトリックス成分が少なくと1つの金属および/または金属の合金を有し、該金属が錫、銅、銀、金、ニッケル、亜鉛、プラチナ、パラジウム、鉄、チタン、アルミニウムのグループから選択されていることを特徴とする、上記請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの金属成分を有する金属マトリックス(201,211)と、該金属マトリックス(201,211)内に配置される少なくとも1つの補強成分(202)とを含む金属マトリックス複合材(200,210)において、該金属マトリックス複合材(200,210)が上記請求項のいずれか一つに記載の方法によって製造されている金属マトリックス複合材(200,210)。
【請求項11】
補強成分として0.1ないし20%、好ましくは0.1ないし5%、好ましくは0.2ないし5%の成分の炭素・ナノチューブ(202)を有している金属マトリックス複合材(200,210)、特に請求項10に記載の金属マトリックス複合材(200,210)。
【請求項12】
前記補強成分に対し0.2ないし20%の残空隙率および/または前記金属成分に対する0.2ないし10%の残空隙率を有している、請求項10または11に記載の金属マトリックス複合材(200,210)。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか一つに記載の金属マトリックス複合材を、工作物の製造のために使用する使用方法において、工作物を前記金属マトリックス複合材によってコーティングし、および/または、前記金属マトリックス複合材から形成させるようにした前記使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−528934(P2012−528934A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513495(P2012−513495)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003242
【国際公開番号】WO2010/139423
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592179160)ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】WIELAND−WERKE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】