説明

金属合金を含む接着複合体とその製造方法

【課題】熱硬化性樹脂の金属合金類への射出接合を行って、熱硬化性樹脂成形物と金属合金形状物との組み合わせによる耐食性、耐候性、耐熱性に優れた複合体とする。
【解決手段】(1)1〜10μm周期で高低差がその周期の半分程度までの凹凸面,72とし、(2)凹部面の内壁面を10〜500nm周期、最も好ましくは50〜100nm周期の超微細凹凸面とし、(3)表面はセラミック質の硬質相の薄層で覆われたものにするNAT処理を行った金属合金片,61に1液性エポキシ接着剤、フェノール樹脂接着剤または不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を塗布し、この接着剤塗布済み金属合金片を射出成形金型にインサートし、そこへ接着剤と同類の熱硬化性樹脂組成物を射出することにより、接着剤層を介在させて金属合金形状物と熱硬化性樹脂組成物とを一体化した複合体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属合金を含む接着複合体とその製造方法に関し、より詳細には、移動機械、電気機器、医療機器、一般機械その他の製造分野一般において用いられる金属合金を含む接着複合体とその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は、新たな基礎的製造技術に関し、具体的には金属部品と熱硬化性樹脂の射出成形物とをフェノール樹脂系接着剤やエポキシ系接着剤や不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を介し強固に接着一体化した複合体とその製造技術に関し、特に、接着剤塗布済み金属合金部品を射出成形用金型にインサートした後に熱硬化性樹脂を金型内に射出成形することにより一挙に得る、射出接合の手段による金属合金を含む接着複合体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等、あらゆる部品部材製造業から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤がある。例えば常温、または加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使用され、この方法は現在では一般的な接合技術である。
【0003】
一方、接着剤を使用しない接合方法も研究されてきた。マグネシウム、アルミニウムやその合金である軽金属類、また、ステンレスなど鉄合金類に対し、接着剤の介在なしで高強度の熱可塑性のエンジニアリング樹脂と一体化する方法がその例である。例えば、射出等の方法で樹脂成形と同時に接合をなす方法(以下、「射出接合」という)として、アルミニウム合金に対し熱可塑性樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂(以下「PBT」という)またはポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS」という)を射出接合させる製造技術が開発されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
これらは本発明者らによる技術であるが、その後の改良もあってその接合力はせん断破断力で25〜30MPaという高レベルに達している。接合理論も解明され、本発明者らの命名であるが、「NMT(Nano molding technologyの略)」として現在では金属加工業者に知られるものとなっている。加えて、本発明者らはマグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材、亜鉛鍍金鋼板等もNMTで使用するのと同系統の樹脂の使用で射出接合できることを実証した(特許文献3、4、5、6、7、8、15、16参照)。これらはNMTとは異なる別原理に依っており、本発明者らはこの射出接合を「新NMT」と名付けた。
【0005】
新NMT理論のほぼ最終的な条件について述べる。金属合金についてまず述べれば、その金属合金種に見合った化学処理をして以下の(1)〜(3)を備えた表面にすることが基本的な必要条件である。すなわち、
(1)1〜10μm周期で高低差がその周期の半分程度までの凹凸面とする、すなわちミクロンオーダーの粗度を有した表面とすること、
(2)前記の凹部内壁面は10〜500nm周期、最も好ましくは50〜100nm周期、の超微細凹凸面とすること、
(3)表面はセラミック質の硬質相の薄層で覆われたものにすること、具体的には、環境的に安定な金属酸化物や金属リン酸化物の薄層で覆われたものにすること、
である。これらを模式的に図にすると図14のようになる。同図で、70は金属合金の部分、71は金属合金表面の凹凸部、72は樹脂組成物であり、A,Bは超微細凸部の間隔、高さを表し、Cはそれより大きい凹凸の周期を示している。このようにした金属合金に液状の樹脂組成物が侵入したとして侵入後に硬く硬化したとしたら金属合金基材と硬化した樹脂分は非常に強固に接合する、という簡潔な考え方である。
【0006】
一般に射出成形機と言えば熱可塑性樹脂組成物を射出成形する機械を指すが、熱硬化性樹脂組成物を原料として射出成形する射出成形機もある。混同を避けるため「熱硬化性樹脂用射出成形機」と敢えて長名で言われ、その基本構造は一般の射出成形機と逆の温度設定になっている。すなわち、射出温度は70〜100℃と低い温度域に設定され、金型温度は150〜200℃の高温に設定される。そして射出される原料樹脂は熱硬化性樹脂組成物であり、その多くはフェノール樹脂系や不飽和ポリエステル樹脂系の熱硬化型樹脂組成物であり、少数派だがエポキシ樹脂系の熱硬化型樹脂組成物がある。
【0007】
射出成形用の不飽和ポリエステル樹脂組成物の組成は、1)不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂、2)スチレン系モノマー、3)無機充填材、及び4)硬化剤の有機過酸化物、を少なくとも含んだコンパウンドであり、グレードによってはスチレン系モノマー含有量を減らしたもの、ガラス繊維を若干含むもの等がある。有機過酸化物に分解速度の遅いものを選ぶことで、冷蔵保管なら1ヶ月以上保存できるようにしたものである。一方、エポキシ樹脂系の組成物は、エポキシ樹脂と無機充填材及びアミン系またはフェノール樹脂系の硬化剤を含んだコンパウンドであり常温保管できるものが多い。また、フェノール樹脂系の組成物は、通常ノボラック型フェノール樹脂と無機充填材と硬化剤であるヘキサメチレンテトラミン(以下「ヘキサミン」という)を含んだコンパウンドであり、これは常温保管できる。
【0008】
前記した、不飽和ポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系の射出成形用の熱硬化性樹脂組成物類は全て粉体混合物の形で供給されるのが普通である。これら射出成形機用とされているのとは違って、不飽和ポリエステル樹脂とスチレン系モノマーとガラス短繊維と若干の無機充填材、及び硬化剤の有機過酸化物を含んだ塊状成形コンパウンド(Bulk molding compoundの略、以下「BMC」という)というBMC成形機用の熱硬化型樹脂組成物もある。BMCは上記の組成からわかるように射出成形でGFRP材を得ようとしたもので、ガラス短繊維を含む上にスチレン系モノマー含有量も多いのでやや扱い難い原料である。すなわち、原料投入口に強制原料押し込み装置が設置された射出成形機がBMC成形機である。
【0009】
さて、新NMTによる射出接合とは、射出成形金型に新NMT型表面処理をした金属合金をインサートし、この金型に前述した特定組成のPBTやPPS系樹脂を射出することで強固な金属・樹脂の一体化物を得るものであった。本発明者らは新NMTの水平展開として、同様な射出接合を熱可塑性樹脂組成物ではなく熱硬化性樹脂組成物で得られるか否かを同時期に試験した。しかし残念ながら全く接合せず、本発明者らは当時のことだが、熱硬化性樹脂の射出接合は全く不可能と判断した。そのときの状況を詳細に述べてみる。
【0010】
すなわち、本発明者らは前述の特許文献1〜8に従って各種金属合金を表面加工処理し、得られた金属合金片を熱硬化性樹脂用射出成形機に取り付けた金型にインサートし、市販の射出成形用の不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化性樹脂組成物を射出した。しかしながら金型を開くと樹脂成形物と金属片は全く接合しておらずこれらは分かれて落下した。当時、エポキシ樹脂系の熱硬化性樹脂組成物も同様に射出接合試験したが、全く接合しなかった。接合しなかった理由は樹脂成形物の観察から明らかで、一言で結論を言えば、射出物の粘度過多が原因だった。
【0011】
要するに、射出筒は原料樹脂を溶融すべくノズル温度を80〜90℃にしたが、この温度域では市販の射出成形用熱硬化性樹脂組成物はペースト状にはなるものの液状というまでには至らない。高圧でこのペースト状物は通常150〜180℃に加熱された金型内に入るが、高温で粘度が下がろうとするのと高温でのゲル化硬化が同時進行し、金型のキャビティー面やインサート金属合金片表面のミクロンオーダー凹部に侵入するには程遠い粘度しか得られない。要するに、微細凹凸や複雑形状のない言わば鏡面加工した金型へ固化しつつある樹脂組成物を高圧で押し込み、見た目綺麗な表面の形状物を得るのが熱硬化性樹脂射出成形の本来の姿なのだと認識するしかなかった。もちろん、電気部品用のやや精密な形状を実現するための改良コンパウンドもあるが、特許文献3〜8に示したような数μm周期の微細凹凸に対し、これを完全転写させるような流動性はとても持ち得ないことがわかった。そしてこの判断を得てこの方面の研究開発は中断した。
【0012】
同時期、金属合金に熱可塑性樹脂を射出接合する技術である新NMTはその方向を変え大きな発見に至った。すなわち、本発明者らが「NAT(Nano adhesion technologyの略)」と称する技術である。NATの基本は、金属合金同士や金属合金とCFRPを1液性エポキシ系接着剤で接着する技術であり、最高ではせん断破断力や引っ張り破断力で70〜80MPaという強烈な接着力を示す基礎技術である。NATの中身を端的に言えば、金属合金側は特許文献3〜8に示したのとほぼ同じ表面構造とすること、接着剤は塗布時または塗布後に温度を上げて10Pa秒程度以下の液状にした上で減圧加圧操作を加え金属合金上の微細凹部に液状接着剤を染込ます操作を加えること等である。これらに関しては特許文献9〜16に詳細が述べられている。
【0013】
例えばNATの実例につきアルミニウム合金の実験例について簡単に述べてみる。すなわち、NATの要求するところに従いA7075アルミニウム合金片を表面処理する。次いで表面処理された中の必要部分に1液性エポキシ接着剤を塗る。これを50〜70℃に暖めておいたデシケータに入れて接着剤の粘度を下げ、次いで減圧/常圧戻しの圧変動操作を数回繰り返して接着剤をアルミニウム合金表面に染込ます。
【0014】
金属合金同士の接着を行うときは接着剤塗布面同士を合わせたのちクリップやクランプで固定し、120〜180℃の熱風乾燥機で硬化して接着物を得ることができる。金属合金片とCFRPの接着を行うときは、接着剤塗布付き金属合金片とCFRPプリプレグをくっ付けて固定し、同様に高温硬化処理をすればよい。通常、NATは上記の操作を連続して行うが、実際には、金属合金片に1液性エポキシ系接着剤を塗布し染込まし処理をしたものは、ポリ袋等に入れてベタベタ面を露出させないようにしつつ冷蔵庫等に保管すればいつでも使用できる状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−216425号
【特許文献2】WO2004−055248
【特許文献3】特願2006−329410号
【特許文献4】特願2006−281961号
【特許文献5】特願2006−345273号
【特許文献6】特願2006−354636号
【特許文献7】特願2007−185547号
【特許文献8】特願2008−67313号
【特許文献9】特願2007−62736号
【特許文献10】特願2007−106454号
【特許文献11】特願2007−100727号
【特許文献12】特願2007−106455号
【特許文献13】特願2007−114576号
【特許文献14】特願2007−140072号
【特許文献15】特願2007―325736号
【特許文献16】特願2007―336378号
【特許文献17】特願2008―11551号
【特許文献18】特願2008―308019号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
熱硬化性樹脂の射出成形で、その成形品とあらかじめインサートした金属合金片とを強力に接着一体化できれば、工程の合理化、組み立ての容易化、大量生産化に寄与するところが大きいと言える。そのような観点から、過去の情報を集めたが、金属部品を熱硬化性樹脂射出用の射出成形金型にインサートし、熱硬化性樹脂を射出して成形品を得ると同時にその成形品を金属合金部品と強力に接着一体化するという技術は見出せなかった。接合を期待して粗面とした金属部品をインサートし、熱硬化性樹脂を射出して一体化部品を製造する例はあったが、これは金属表面の大きな凹凸面に樹脂をひっかけただけでミクロ的には接着しておらず本発明者らの意図と異なるものであった。
【0017】
金属合金片を射出成形金型にインサートし、熱硬化性樹脂を射出接合して金属合金片と熱硬化性樹脂を一体化することができれば、射出成形機という量産性に優れた生産機械が使用でき、得られる複合体は熱硬化性樹脂を有するものであって、耐熱性耐候性などに優れ、新たな広い分野に金属/樹脂複合体の用途進出が見込まれる。また、BMC成形機用の熱硬化型樹脂組成物についても金属合金片と一体化した複合体を形成することにより耐熱性耐候性などに優れ、新たな広い分野に適用されることが見込まれる。
【0018】
それゆえ、NAT処理した金属合金片に接着剤組成物を塗布し染み込ませ、これを射出成形金型にインサートし、熱硬化性樹脂を射出して樹脂成形品と金属合金部品との一体化物を一挙に得る技術、すなわち、熱硬化性樹脂を使用した射出接合技術を開発せんとした。理論的には本発明者らが長きに渡って獲得してきた前述の基礎技術足し算で可能なはずだが、実際にはうまくいくか否かわからない。市販されている射出用の熱硬化性樹脂組成物やBMCが射出されて金型内で硬化するタイミングと、予め射出成形金型にインサートされた金属合金片上の接着剤組成物の硬化タイミングが上手く合わせられるかが鍵になる。射出用の熱硬化性樹脂組成物は化学各社から比較的安価に多種市販されており、実用面で言えば、このような市販品を使用すべきである。それゆえ、接着剤側の硬化速度の調整でタイミングが合わせられるかがポイントになる。
【0019】
市販の熱硬化性樹脂用の射出成形機を用意し、汎用型として市販されている不飽和ポリエステル樹脂系、フェノール樹脂系、及びエポキシ系の射出成形用熱硬化性樹脂組成物を入手し実証実験を行った。幸い、不飽和ポリエステル樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤の3種ともに、接着剤組成比や金型温度やインサートから射出するまでの保持時間を微調整の範囲で変動させることで強い射出接合力の得られることを確認した。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明の請求項1による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、射出成形で得られたエポキシ樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、がエポキシ系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなるものである。
【0021】
本発明の請求項2による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、射出成形で得られたフェノール樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、がフェノール樹脂系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなるものである。
【0022】
本発明の請求項3による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、射出成形で得られた不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、が、1)不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂と、2)スチレン系モノマーと、3)無機充填材と、4)有機過酸化物とからなる熱硬化性樹脂組成物である不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなるものである。
【0023】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項4による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が10〜100nm径で同等の深さまたは高さの凹部もしくは凸部である超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がナトリウムイオンを含まない厚さ2nm以上の酸化アルミニウム薄層を有しているアルミニウム合金製のものとしたものである。
【0024】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項5による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともにその表面が5〜20nm径で20〜200nm長さの棒状物が無数に錯綜した形の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものとしたものである。
【0025】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項6による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜20nm径で10〜30nm長さの棒状凸部が無数に有する直径80〜100nmの球状物が不規則に積み重なった形状の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものとしたものである。
【0026】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項7による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が20〜40nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものとしたものである。
【0027】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項8による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜150nmである孔開口部または凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものとしたものである。
【0028】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項9による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜200nmである凸部が混在して全面に存在する超微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものとしたものである。
【0029】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項10による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜150nmである粒径物または不定多角形状物が連なり一部融け合って積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものとしたものである。
【0030】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項11による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混在して積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものとしたものである。
【0031】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項12による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ及び幅が10〜350nm、長さが10nm以上の山状または連山状凸部が10〜350nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主としてチタン酸化物の薄層であるチタン合金製のものとしたものである。
【0032】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項13による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによる山谷平均間隔(RSm)が1〜10μm、最大粗さ高さ(Rz)が1〜5μmである粗度があるとともに該表面が10μm角の面積内に円滑なドーム状形状と枯葉状形状の双方が混在する微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主としてチタンとアルミニウムを含む金属酸化物薄層であるα−β型チタン合金のものとしたものである。
【0033】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項14による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が金属酸化物の薄層であるステンレス鋼部品のものとしたものである。
【0034】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項15による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ80〜150nm、奥行き80〜200nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものとしたものである。
【0035】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項16による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ80〜150nm、奥行きが80〜500nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものとしたものである。
【0036】
請求項1ないし3のいずれか1項を引用する本発明の請求項17による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体は、前記金属形状物が、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ50〜100nm、奥行きが80〜200nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものとしたものである。
【0037】
本発明の請求項18による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と、前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmとなる粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と、前記金属合金材に1液性エポキシ系接着剤を塗布する工程と、前記接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と、前記射出成形用金型を装填した射出成形機にてエポキシ系熱硬化性樹脂を射出し金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と、を含むものである。
【0038】
本発明の請求項19による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と;前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmの粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と;前記金属合金材にフェノール樹脂系接着剤を塗布する工程と;前記接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と;前記射出成形用金型を装填した射出成形機にてフェノール樹脂系熱硬化性樹脂を射出し金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と;を含むものである。
【0039】
本発明の請求項20による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と;前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmの粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と;1)不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂と、2)スチレン系モノマーと、3)無機充填材と、4)有機過酸化物とからなる不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作製する工程と;前記金属合金材に前記不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を塗布する工程と;前記不飽和ポリエステル樹脂系接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と;前記金型を装填した射出成形機または塊状成形コンパウンド成形機にて不飽和ポリエステル系熱硬化性樹脂または塊状成形コンパウンドを射出し、金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と;を含むものである。
【0040】
請求項18ないし20のいずれか1項を引用する本発明の請求項21による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法において、前記の金属合金材に接着剤を塗布する工程後に、これを風乾し、さらに風乾後に密閉容器に収納し、容器内を減圧しその後に加圧する操作を繰り返し行う、金属合金表面への樹脂組成物染み込まし工程を付加したものである。
【0041】
請求項19を引用する本発明の請求項22による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、前記の金属合金材に接着剤を塗布する工程後に、これを風乾し、さらに80〜100℃とした熱風乾燥機内に5〜15分入れてフェノール樹脂接着剤を予備硬化させるものである。
【0042】
請求項20を引用する本発明の請求項23による金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法は、前記の不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作成する工程内に、サンドグラインドミルを使用して不飽和ポリエステル樹脂主液に無機充填材等を強制分散させる工程を含むものである。
【発明の効果】
【0043】
本発明の金属合金と熱硬化性樹脂の複合体とその製造方法は、特定処理をした金属合金にエポキシ接着剤を塗布し、それを射出成形金型にインサートし、そこへエポキシ樹脂系熱硬化型樹脂組成物を射出して接着剤成分と射出樹脂成分を同時加熱硬化し強く一体化するものである。同様にフェノール樹脂系接着剤を塗布した金属合金片をインサートしてフェノール樹脂系熱硬化性樹脂組成物を射出接合できる。また、不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作製し、これを塗布した金属合金片を射出成形金型にインサートして不飽和ポリエステル樹脂系の熱硬化性樹脂組成物やBMCを射出接合できる。
【0044】
熱硬化性樹脂の射出成形とその成形品と金属合金片の接着が一挙に行えることから工程の合理化に役立ち、得られる一体化品は寸法安定性や耐熱性に優れる。金属合金をステンレス鋼やチタン合金としこれを部品端部に使用して中心重要部をフィラー入り熱硬化性樹脂部として一体化品を製造すれば、ネジ止め、ボルト止め、溶接ができるGFRP部材状となり組み立て容易な部材になると同時に標準部品化が可能となる。すなわち、安価な大量生産が可能になる。本発明は熱硬化性樹脂に関しても射出接合が可能なことを示したものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、A7075アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液でエッチングし水和ヒドラジン水溶液で微細エッチング等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図2】図2は、A5052アルミニウム合金を苛性ソーダ水溶液でエッチングし水和ヒドラジン水溶液で微細エッチング等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図3】図3は、AZ31Bマグネシウム合金をクエン酸水溶液でエッチングし過マンガン酸カリ水溶液で化成処理等して得たものの2箇所の10万倍電顕写真である。
【図4】図4は、C1100銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液でエッチングし亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図5】図5は、C5191リン青銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液でエッチングし亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図6】図6は、「KFC(神戸製鋼所社製)」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液でエッチングし亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図7】図7は、「KLF5(神戸製鋼所社製)」銅合金を硫酸・過酸化水素水溶液でエッチングし亜塩素酸ソーダ水溶液で表面硬化処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図8】図8は、「KS40(神戸製鋼所社製)」純チタン系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチング等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図9】図9は、「KSTi−9(神戸製鋼所社製)」α−β系チタン合金を1水素2弗化アンモニウム水溶液でエッチング等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図10】図10は、SUS304を硫酸系水溶液でエッチング等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図11】図11は、冷間圧延鋼材SPCCを硫酸水溶液でエッチングし過マンガン酸カリ水溶液で化成処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図12】図12は、冷間圧延鋼材SPHCを硫酸水溶液でエッチングし過マンガン酸カリ水溶液で化成処理等して得たものの1万倍、10万倍電顕写真である。
【図13】図13は、金属片と射出成形による熱硬化性樹脂成形品とが一体化した接着複合体の形状を示す図である。
【図14】図14は、新NMT理論、NAT理論での金属合金表面構造を示す模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、〔1〕本発明における着想、〔2〕金属合金を含む接着複合体とその製造方法の特徴に関して説明し、さらに実施例ついて説明する。
〔1〕本発明における着想
本発明者らは、背景技術において説明した、NATによる金属合金片と樹脂、あるいは金属合金片同士の接着接合の途中工程で得られる接着剤付き金属合金片を射出成形金型にインサートし、そこへ射出成形用に開発された熱硬化性樹脂材を射出するという考えを思いついた。接着剤と射出材料の双方がタイミングよく同時硬化したら両者は必ず接合すると予期したのである。要するに、過去に失敗した熱硬化性樹脂の射出接合を、中間に接着剤を挟むことで可能にできると判断した。既に、金属合金部と接着剤との間は加熱さえすれば60〜70MPaという強烈な接合力が得られることがわかっている。一方、射出樹脂組成物は、150〜180℃の金型内に押し出され、30秒〜1分程度でそれなりの硬化に至る。接着剤の硬化が速すぎなければ必ず成功すると思われた。
【0047】
すなわち、接着剤の硬化タイミングと射出樹脂の硬化タイミングを合わせさえすれば良いはずであり、もし接着剤の硬化タイミングが遅ければインサートして金型を封じてからしばらく待機し(アイドル時間をとり)それからおもむろに射出すればよい。逆に接着剤の硬化が速く、インサートして金型を閉めてからできるだけ早く射出操作に移っても射出樹脂が硬化せんとした時に接着剤側がすでに完全硬化しているケースもあるだろう。このような場合は金型温度をやや下げて調整すればよいだろう。それでも接着剤側の硬化速度が速過ぎるようであれば接着剤自体を調整すればよい。すなわち、市販の接着剤の使用で調整不能な範囲になったとしても接着剤自体を自作する能力があれば対応できると思われた。
【0048】
以上から、本発明者らは、射出樹脂として不飽和ポリエステル樹脂系樹脂組成物、エポキシ樹脂系の樹脂組成物、フェノール樹脂系の樹脂組成物を用意した。これら全ては国内材料メーカーの市販品である。また、接着剤としては、市販品で入手できる1液性エポキシ接着剤、フェノール樹脂接着剤に加え、前述した本発明者らの発明技術(特許文献17)による不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作製し用意した。
【0049】
最初に使用した金属合金片はNAT処理した「A7075アルミニウム合金片であったが、エポキシ樹脂系、フェノール樹脂系、不飽和ポリエステル樹脂系の3系全てで予期した強い射出接合が観察できた。その後、射出接合品のせん断破断力が測定可能な一体化品が成形できる金型を作製し、金属合金種も全種に拡げ、この射出接合技術が一般論で整理できる基礎的技術であることを確認した。この技術は、本発明者らが一般論化したNAT技術を射出成形に転用した形になっているので、本発明者らは「新NAT」と呼称している。
【0050】
本発明者らは安価な不飽和ポリエステル樹脂系の射出成形用熱硬化型樹脂を手元に持っていたゆえに、上述の考えが成立するか否かを単純な試験で直ぐ確認することにした。すなわち、これを射出材料として使用し、一方の金型内にインサートするNAT処理済みA7075アルミニウム合金片上に塗布したのは市販の汎用1液性エポキシ接着剤であった。
【0051】
この実験は、高温下に置かれたエポキシ接着剤がどのような時間軸で硬化するのか(数十秒単位、数分単位、十数分、……)、半硬化した接着剤層に大量の無機充填材を含む射出樹脂が流れ込んだ場合にどの程度の事件が起こるのか等を実際に見るためのものである。射出接合はうまく行かないと思っていた。何故なら射出樹脂の方はラジカル重合であるし、接着剤の方は付加重合である。良いタイミングでゲル同士が混ざり合えば反って互いに干渉し合って接合する可能性も考えられなくもないが、干渉し合って双方とも重合速度が落ちることで悪い結果となる可能性も十分にあると思われたからである。
【0052】
接着剤に市販の1液性エポキシ接着剤を使い、射出樹脂に不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化性樹脂組成物を使った射出接合実験の結果はやはり射出接合せずであった。しかし予期したように以下のことが確認できた。実験では、エポキシ接着剤「EP106NL(セメダイン社製)」を塗布し染込まし処理をしたA7075アルミニウム合金片を180℃とした金型にインサートして金型を閉め、金型閉めの後からの時間を15秒、45秒、75秒、135、195秒というふうにアイドル時間を取って熱硬化型樹脂を射出した。
【0053】
金型を開いて成形品を取り出すとアルミニウム合金片と樹脂硬化物とは接着しているように見えたが、金槌で叩くと全てのケースで剥がれた。剥がれた金属合金片の表面を観察すると、アイドル時間15秒品では塗ったはずの接着剤が流されて消失しており金属表面は綺麗であった。一方、195秒品では接着剤硬化物の層が金属上にしっかり付着していた。そしてこれらの中間の75秒、135秒品では接着剤硬化物の層は金属上にしっかり付着しているものの、表面は削られたようになっていた。
【0054】
使用した1液性エポキシ接着剤「EP106NL(セメダイン社製)」はジシアンジアミド硬化型のものであり、メーカー指示の硬化条件は120℃・40分+150℃・20分とある。これが180℃下では3分もあるとほぼ全硬化に至るものとみられた。そして180℃にされ1〜2分の間には、ゲル化が高速で進んで金属合金表面近傍の成分は比較的しっかり硬化し、その一方で、外気に接している上層の接着剤成分もゲル化が進む。もしそこへ同類の射出樹脂がゲル化を進行させながら運動エネルギーを持って突撃してきたら、これは必ず強い混ざり合いを生むと予想できた。
【0055】
特に、上記の実験で、アイドル時間が15秒のものはアルミニウム合金上に接着剤の欠片らしきものも見当たらぬのに、75秒、135秒のものではアルミニウム合金に接着剤硬化物がしっかりと全面付着しており、その上で硬化した接着剤相の表面全面は明らかに何ものかに削り取られた粗面状となっていたからである。接着剤樹脂と射出樹脂の両樹脂成分が混ざり合って強く干渉し合うことは強い接着に至るので好ましいが、この工程で接着剤のアンカー部分が外れると困るのである。実験結果は、アイドル持間75、135秒のものではアルミニウム合金と接着剤の間の接着力生成に何ら問題のなかったことが示されている。
【0056】
〔2〕金属合金を含む接着複合体とその製造方法の特徴
金属合金を含む接着複合体とその製造方法について、個別の事項に分けて説明する。
(a)金属合金部品
本発明でいう金属合金部品、すなわち前述のNATで被着材として使用する金属合金には理論上特にその種類に制限はない。全金属種としてもよいが、実際に意味を有しているのは硬質で実用的な金属種、合金種である。すなわち、水銀は当然ながら液状だから本発明に関係せず、鉛など軟質金属種も本発明者の考える金属種からは除外されている。当然であるが、化学的には存在するが大気中で活発に反応するアルカリ金属種、アルカリ土類金属種(マグネシウムを除いて)も基本的には除外の対象である。
【0057】
本発明者らは、実質的にNATが役立つ金属合金種として、マグネシウム、アルミニウム、銅、チタン、鉄を主成分とする合金種を考えている。以下、これらについて説明する。しかし、あくまでもNAT理論は金属種を限定していないし、さらに言えば金属であること自体も限定していない。非金属にNATで条件とする粗度や超微細凹凸面、かつ、高硬度の表面層とすることの3条件を同時に備えさせることは容易でない。要するにNATは表面形状とその表面薄層硬度だけを規定してアンカー効果論で接着を論じているので、少なくとも下記した金属合金種に限定されるものではない。
【0058】
特許文献7においてアルミニウム合金に関する記載、特許文献8においてマグネシウム合金に関する記載、特許文献9において銅合金に関する記載、特許文献10においてチタン合金に関する記載、特許文献11においてステンレス鋼に関する記載、特許文献12において一般鋼材に関する記載をそれぞれ行っている。アルミニウム合金から一般鋼材まで並べたこれらの金属合金種に関しては、これら各特許文献の〔金属合金部品〕の項が本発明にも適用されるので、個々の詳細説明は省略する。個々の内容については本発明においても全く同様である。
【0059】
(b)金属合金材の化学エッチング
腐食には全面腐食、孔食、疲労腐食など種類があるが、その金属合金に対して全面腐食を生じる薬品種を選んで試行錯誤し、適当なエッチング剤を選ぶことができる。文献記録(例えば「化学工学便覧(化学工学協会編集)」)によれば、アルミニウム合金は塩基性水溶液、マグネシウム合金は酸性水溶液、ステンレス鋼や一般鋼材全般は、塩酸等ハロゲン化水素酸、亜硫酸、硫酸、これらの塩等の水溶液で全面腐食するとの記録がある。
【0060】
また、耐食性の強い銅合金は、強酸性とした過酸化水素などの酸化剤によって全面腐食させられるし、チタン合金は蓚酸や弗化水素酸系の特殊な酸で全面腐食させられることが専門書や特許文献から散見される。実際に市場で販売されている金属合金類は、純銅系銅合金や純チタン系チタン合金のように純度が99.9%以上で合金とは言い難いものもあるが、これらも本発明には含まれる。実際に世間で使用されているものの大部分は特徴的な物性を求めて多種多用な元素が混合されていて、純金属系のものは少なく、実質的には合金である。
【0061】
すなわち、純金属から合金化した目的の金属のほとんどが、もともとの金属物性を低下させることなく耐食性を上げることにあった。それゆえ、合金では前記したように文献から参照して適用した酸塩基類や特定の化学物質を使っても、目標とする化学エッチングができない場合もよくある。要するに、前記した酸塩基類、特定化学薬品の使用は基本であって、実際には使用する酸塩基水溶液の濃度、液温度、浸漬時間、場合によっては添加物を工夫しつつ試行錯誤して適正な化学エッチングを行うことになる。
【0062】
化学エッチング法について言えば、特許文献7にアルミニウム合金に関する記載、特許文献8にマグネシウム合金に関する記載、特許文献9に銅合金に関する記載、特許文献10にチタン合金に関する記載、特許文献11にステンレス鋼に関する記載、及び、特許文献12に一般鋼材に関する記載をそれぞれ行っている。アルミニウム合金から一般鋼材に関しては、これら各特許文献の〔化学エッチング〕の項を確認するとよい。本発明においても全く同様に適用できる。
【0063】
従って詳細はこれら特許文献を参照すればよい。実際に行う作業として全般的に共通する点を説明すると、金属合金形状物を得たらまず各金属用の市販脱脂剤を溶かした水溶液に浸漬して脱脂し水洗する。この工程は、金属合金形状物を得る工程で付着した機械油や指脂の大部分を除けるので好ましく、常に行うべきである。次いで、薄く希釈した酸塩基水溶液に浸漬して水洗するのが好ましい。
【0064】
これは、本発明者らが予備酸洗浄や予備塩基洗浄と称している工程で、一般鋼材のように酸で腐食するような金属種では、塩基性水溶液に浸漬し水洗し、また、アルミニウム合金のように塩基性水溶液で特に腐食が早い金属種では、希薄酸水溶液に浸漬し水洗することである。これらは、化学エッチングに使用する水溶液と逆性のものを前もって金属合金に付着(吸着)させる工程であり、その後の化学エッチングが誘導期間なしに始まることになって処理の再現性が著しく向上する。それゆえ、予備酸洗浄、予備塩基洗浄工程は本質的なものではないが、実務上、採用することが好ましい。
【0065】
(c)表面硬化処理、微細エッチング
金属合金種によっては前記の化学エッチングを行っただけで同時にナノオーダーの微細エッチングもなされ、さらに合金種によっては表面の自然酸化層が元よりも厚くなって硬化処理も処理済みになっている場合もある。例えば、純チタン系のチタン合金は化学エッチングだけを行うことで微細エッチングもなされる。しかし、多くは化学エッチングによりミクロンオーダーの大きな凹凸面を作った後で微細エッチングや表面硬化処理を行う必要がある。
【0066】
この時でも予測できない化学現象に見舞われることが多い。すなわち、表面硬化処理や表面安定化処理を目的として化学エッチング後の金属合金に酸化剤等を反応させ、あるいは化成処理をした時に得られる表面が偶然ながら超微細凹凸化される例である。マグネシウム合金を過マンガン酸カリ系水溶液で化成処理した場合に生じた酸化マンガンとみられる表面層は10万倍電子顕微鏡でようやく判別がつく5〜10nm直径の棒状結晶が錯綜したものである。この試料をXRD(X線回折計)で分析したが、酸化マンガン類由来の回折線は検出できなかった。表面が酸化マンガンで覆われていることはXPS分析で明らかである。XRDで検出できなかった理由は結晶が検出限界を超えた薄い層であったからとみている。
【0067】
要するに、マグネシウム合金では化成処理が微細エッチング操作を兼ねていたことになった。銅合金でも同様で、塩基性下の酸化で表面を酸化第2銅に変化させる硬化処置をとったところ、純銅系銅合金では、その表面は円形や円が歪んだ形の穴開口部が一面に生じ特有の微細凹凸面になる。純銅系でない銅合金では凹部型でなく10〜150nm径の粒径物や不定多角形状物が連なり、一部融け合って積み重なった形の超微細凹凸形状になったりする。この場合でも表面のほとんどは酸化第2銅で覆われており、硬化と微細凹凸化が同時に生じる。
【0068】
未だ詳細が不明であるのは一般鋼材である。化学エッチング工程だけで微細凹凸も一挙になされることが多く、もともと表層(自然酸化層)が硬いこともあってそのままNAT用として使用できないことはなかった。問題は自然酸化層の耐食性が十分でないために、接着工程までに腐食が始まってしまったり、接着後の環境がきびしいと直ぐ接着力が低下したりすることであった。
【0069】
これらは化成処理によって防ぐことができる可能性はあるが、前例がないので接着物を温度衝撃試験にかける試験、一般環境下に放置する試験、塗装したものを塩水噴霧装置にかける試験、その他を行って接着の耐久性を調べる必要がある。少なくとも4週間という短期間で、化成処理をせずにフェノール樹脂系接着剤で接着した鋼材(実際にはSPCC:冷間圧延鋼材)は接合力が急減した。しかし前記化成処理をした一般鋼材(SPCC)はこの条件では当初の接着力から低下しなかった。
【0070】
また、本発明者らの経験では、化成処理を行って耐食性向上を兼ねた表面処理や超微細凹凸作成処理をした場合、一般に、化成処理層の膜厚が厚いと、接着力が低下することの多いことがわかっている。前記のマグネシウム合金に付着した酸化マンガン薄層のようにXRDで回折線が検出されないような薄層である方が強い接着力が観察される。化成処理層が厚くなった物同士をエポキシ樹脂系接着剤で接着し、破壊試験した場合、破壊面はほとんどが金属相と化成皮膜の間となる。
【0071】
本発明者らの経験では、化成処理で作成した厚い皮膜(化成皮膜)とエポキシ接着剤硬化物との接合力は、その化成皮膜と内部金属合金相との接合力より常に強かった。すなわち、一般鋼材でも化成処理時間をさらに伸ばして化成処理層を厚くすれば接着物の永続性は向上するはずである。しかしながら化成皮膜を厚くすれば接着力自体が低下する。どの程度でバランスを取るかは、おそらく本発明を使用した後の商業化研究開発に委ねられる。
【0072】
(d)エポキシ系接着剤
まずエポキシ系接着剤について述べる。エポキシ系接着剤は通常、1)エポキシ樹脂、2)硬化剤又は硬化剤と硬化助剤、及び3)無機充填材からなるが、NATを使用する本発明ではこの他に、4)超微細無機充填材の混合分散が耐熱性向上に有効であり、射出接合する相手の熱硬化性樹脂組成物の物性次第では、5)エラストマー成分の混合も有効である。
【0073】
市販のエポキシ系接着剤は1),2),3)を含み、種類によっては5)も含む。接着剤としての硬化物性や温度物性に関与するのは1)と2)であり、3),5)は接着剤相に強い破壊の力がかかったときに全体破壊に繋がらないようにするのが役目である。本発明では1),2),3)の組み合わせや、1),2),3),5)の組み合わせによる市販の1液性エポキシ系接着剤が使用できるが、さらに4)超微細無機充填材を加えて良分散させた接着剤も好ましく使用できる。
【0074】
上記した各成分についてやや詳細に述べる。まず1)のエポキシ樹脂であるが、市中にビスフェノール型エポキシ樹脂、多官能ポリフェノール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等が市販されており、エポキシ基が多官能の化合物、例えば複数の水酸基やアミノ基を有する多官能化合物やオリゴマー等と結合した多官能エポキシ樹脂も多種が市販されている。
【0075】
接着剤に使うには最終品が少なくともペースト状であることが必要であり、それゆえに全エポキシ樹脂の内の過半を占めるのは液状で粘度の低いビスフェノール型エポキシ樹脂の単量体型とするのが好ましい。市販の汎用の1液性エポキシ系接着剤でのエポキシ樹脂成分の大部分はこのビスフェノールA型エポキシ樹脂の短量体型であり、他のエポキシ樹脂成分の含量は少ない。通常、接着剤硬化物の迅性を確保するためにビスフェノール型エポキシ樹脂の多量体型を加え、硬化物の強靭性をさらに確保するためにエポキシ基が多官能型の化合物も加えるのが普通だが、そこまでしなくとも常温下の強い接着力が発揮できるのがエポキシ系接着剤の特徴でもある。
【0076】
次いで2)の硬化剤成分であるが、エポキシ樹脂の硬化能力はアミン系化合物、フェノール樹脂、酸無水物等にある。本発明では1液性エポキシ系接着剤が好ましいとしているが、その意味は塗布して染み込まし操作(後述する)までする間に少なくともゲル化が進行すべきでないということである。NATでは被着物の金属合金表面の凹凸はミクロンオーダーであり、かつそのミクロンオーダー凹部の内壁面にある超微細凹凸の凹部径は数十nmのレベルである。それゆえ、ゲル化が始まってしまった高分子液では多少の圧力があってもこの超微細凹部に高分子成分が侵入し難い。
【0077】
例えばアミン系化合物のうちの脂肪族アミンであるが、これを硬化剤として使用するとエポキシ樹脂と混合した直後からゲル化が始まる。この性質は2液性エポキシ接着剤として重要であるが本発明では好ましくない。このような接着剤の場合、硬化剤を混合してからの塗布や染み込まし操作を高速で手際よく行えば接着力の低下は小さく抑えられるものの、手際次第で接着力が変動する。要するに脂肪族アミンを硬化剤とした物は量産方法、基礎的生産法として好ましくない。
【0078】
結論的に言えば、硬化剤としてジシアンジアミドやイミダゾール類や酸無水物類が好ましい。市販の1液性エポキシ系接着剤に使用されている硬化剤はほとんどがジシアンジアミドやイミダゾール類を使用している。また、市販のエポキシ系接着剤には酸無水物類を硬化剤とする物は存在しないが作製はごく容易である。射出樹脂がエポキシ樹脂系の熱硬化型樹脂としても、その硬化系が酸無水物類であれば接着剤側も酸無水物を硬化剤とするものが好ましい。
【0079】
3)の充填材は重要な役目を果たす。すなわち、現在の破壊理論に従えば、物体が破壊に至る前段には応力集中域の中の何処か微少な部分や応力集中域近辺の強度の弱い部分で微小な局所破壊がまず起こり、この局所破壊が隣の微小部分の応力集中を高めて局所破壊の連鎖に進むと考える。この微小破壊の連鎖は拡大し、破壊部の大きさは微小でなくなり大きなヒビとなり、遂にはそれが完全破壊、接着系では被着材同士の剥がれに至るとのメカニズム論である。実際、接着剤硬化物の強度は全てで一様なわけはなくミクロ的には必ず強弱がある。従って、もし破壊が連鎖し易ければ微小破壊は殆ど完全破壊に至り、完全破壊はミクロ的に強度の弱い部分での強度値で決まることになる。それゆえ、最も弱い微小部分の局所破壊が起こってもこれが連鎖せぬようにすれば次に弱い微小部分で局所破壊が起こるまで事件は起こらず、結果的に接着力は向上する。
【0080】
局所破壊が生じてもそれを局所で止める上で無機充填材の存在が効くというのが現行の破壊理論である。市販の1液性エポキシ接着剤には無機充填材が必ず含まれる。具体的には粒径数μm〜数十μmのシリカ、クレー(粘土、カオリン)、タルク、アルミナ等の粉体が無機充填材として通常数%以上含まれている。添加する無機充填材の詳細は接着剤性能を左右するだけに接着剤メーカーの重要企業秘密であるが、どのような無機物粉体であろうと添加があるかないかは接着力に雲泥の差を生じる。
【0081】
本発明はNATに関するものである。しかしながら市販の1液性エポキシ接着剤は、前述したように1)エポキシ樹脂、2)硬化剤成分、3)無機充填材を含むもの、または、1)エポキシ樹脂、2)硬化剤成分、3)無機充填材、5)エラストマー成分を含むものであり、これらは当然ながらNATを全く斟酌していない。本発明者らは、NAT用接着剤として、4)超微細無機充填材の有用性を確認した(特許文献18)。すなわち、4)超微細無機充填材をエポキシ接着剤中にうまく分散させて添加することができれば、NAT処理した金属合金片との高温下での接着力を高めることができる。すなわち、この添加は常温下での接着力向上にほとんど役立たないが、高温下での接着力の急減を抑制する効果がある。
【0082】
(e)フェノール樹脂系接着剤
フェノール樹脂系接着剤は優れたものが市販されている。自作する場合であっても、原材料は市販品から容易に調達できる。フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドの混合物に触媒を加えて付加縮合反応をさせて得たポリマーで、反応時の原料混合比、触媒及び加熱の条件等によってレゾール樹脂とノボラック樹脂という分子構造が異なる2種のフェノール樹脂になる。本発明に関する接着剤原料としてレゾール樹脂もノボラック樹脂も使えるが基本はレゾール樹脂である。
【0083】
具体的には、レゾール樹脂が熱硬化性であり、かつ、ケトンやアルコールなどの有機溶剤に溶けることを利用しており、これら溶剤をレゾール樹脂に加え粘度を下げ接着剤として使用している。市販品はさらにエポキシ接着剤を若干混入して接着物性の向上を図ったものもあり、多いものではエポキシ接着剤の含量を接着剤成分の半分近くまで増やしたものもある。これらはフェノール樹脂を硬化剤としたエポキシ系接着剤であると言えるが、市場ではこれらもフェノール樹脂系接着剤として扱い、呼称として、フェノール樹脂接着剤、熱硬化型フェノール樹脂接着剤、フェノール樹脂系接着剤などと言われる。本発明者等は全てを包含してフェノール樹脂系接着剤とした。
【0084】
共通する特徴は、接着剤自体が大量の溶剤を含む低粘度液体であること、及び、ゲル化や硬化固化の反応に脱水縮合反応が含まれることである。後記した性質、すなわち、ゲル化、固化の間に水蒸気を発生するのは接着剤として全く好ましくない性質であり、汎用接着剤としてフェノール樹脂系接着剤が使われない理由でもある。その一方、接着法を工夫して確実に接合できた場合、接着層はフェノール樹脂自体であり耐熱性、耐水性に優れたものとなる。本発明者らが使用したのは国内で多く使用されている「110(セメダイン社製)」である。これは、若干のエポキシ接着剤が混入されたレゾール型のフェノール樹脂品であり溶剤として40〜50%のメチルエチルケトン(以下、「MEK」という)が使用されている。本発明者らは「110」をフェノール樹脂系接着剤として標準的なものと考え、これを使用して実験を進めた。
【0085】
接着剤成分に無機充填材やエラストマー成分等を添加分散させることは、本発明者らが種々行った過去の接着剤に関する開発経過からみて、好ましいことだし必要なことだと考えていたが、フェノール樹脂系接着剤に関して経験を積み重ねるに従って前記の考え方は必ずしも通じないことがわかってきた。すなわち、フェノール樹脂系接着剤は、使用環境によって無機有機の充填材の添加効果がほとんどなくなるか場合によっては逆効果になることもあるとわかった。これらはフェノール樹脂系接着剤特有のものであり、フェノール樹脂系接着剤においてはその破壊理論がエポキシ接着剤等と異なるのであろう。
【0086】
すなわち、しっかりとフェノール樹脂接着剤が硬化し、かつ、射出側のフェノール樹脂もほぼ同タイミングで硬化した場合に両者は非常に強く接着するであろう。しかしながら、接着剤側のフェノール樹脂はレゾール樹脂であって、射出樹脂が近づいて来つつある場面でもゲル化硬化が進行中で水蒸気を排出しつつあるとする。一方、射出樹脂は、通常、ノボラック樹脂と硬化剤ヘキサメチレンテトラアミン(以下「ヘキサミン」と言う)が樹脂成分であり、このコンパウンドは重合時に水蒸気を排出しない。硬化メカニズムは、140〜150℃になるとヘキサミンの熱分解が始まることから開始するとされており、ヘキサミンの分解生成物がノボラック樹脂の付加重合を進めるとされている。
【0087】
要するに、脱水縮合ではないのでレゾール樹脂のゲル化固化と異なって水蒸気を発生しない。重合機構の異なる2種だが、混ざり合えばヘキサミンの分解生成物がレゾール樹脂の反応も誘って互いに結合するだろう。問題は、レゾール樹脂側の膜厚にあると思われる。すなわち、膜厚が厚いと脱水縮合に因って発生する水蒸気量が多く、発生水蒸気量が多いとこれらは最終的にボイドとなり良い結果を生まない。それでは、接着剤塗布量はごく少なくほとんど厚さのない接着剤塗布層こそが良いのだろうか。おそらくそう単純ではないだろう。すなわち、接着剤層が余りに薄いと脱水縮合反応も早く片付いてしまうと思われる。余りに接着剤相の硬化速度が早いと射出接合させるのは難しい。
【0088】
実験結果から結論的に言えば、接着剤塗布層はかなり薄くてよい。具体的に言えば、単純に1回の筆塗り程度である。50%程度含まれている溶剤が揮発すれば非常に薄い膜厚になると思われるが、接着剤の常識では薄すぎると思われるその程度の薄さで十分に機能を果した。これで溶剤が揮発し、予備加熱によってレゾール樹脂の脱水縮合の過半が進んだとして接着剤層は厚さ0.1mm以下の薄いものになる。充填材を含まないフェノール樹脂接着剤の場合だが、塗布量(厚さ)の薄い箇所、厚い箇所(2度塗りした箇所)で接着力に差異があるように感じられなかった。
【0089】
ところが、充填材を含ませ、かつ、湿式粉砕機の使用で良く分散させたにも拘わらず充填材を含ませたフェノール樹脂接着剤を使用すると、塗布を厚くした箇所で明らかに接着力が落ちた。化学的理由はわからないが、接着剤層が薄いほど良いということと、色々と充填材を添加して接着剤層を複雑化させることとは相反することなのかもしれない。敢えて予想すると、発生する僅かな水分子が大量の射出樹脂の中にまぎれてレゾール樹脂部から消えれば、ボイドなく且つ強度のバラツキの少ない(充填材添加の必要ない)接着剤硬化層になり、これが理想に近いのかもしれない。
【0090】
(f)不飽和ポリエステル樹脂系接着剤
基本的にはガラス繊維強化プラスチック(以下「GFRP(Glass fiber reinforced plasticsの略)」という)用のマトリックス樹脂と同じ組成であり、1)不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂、2)スチレン系モノマー、3)無機充填材、及び4)有機過酸化物からなる。GFRP製造用に市販されているGFRPマトリックス樹脂用主液は、1),2)の混合液である。1)の不飽和ポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂の多くは高粘度液状なので、低粘度液体である2)のスチレンやα−メチルスチレンに溶かし、扱い易い中粘度液状物としている。GFRPは、1),2)と4)有機過酸化物(硬化剤)にガラス繊維が加わったものである。1),2),4)とガラス繊維に、さらに3)無機充填材の加わったGFRPもある。一方、本発明で使用する不飽和ポリエステル樹脂系接着剤であるが、前記したようにガラス繊維は必要とせず、1),2),3),4)が必須成分となる。
【0091】
不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の市販品は存在しない。NAT処理済み金属合金材に塗布して能力を発揮するこの種の接着剤は本発明者らの発明品である(特許文献17)。中身の要点は、1),2)混合液に3)無機充填材を加えた後に、最新型の湿式粉砕機に通して3)無機充填材を主液1),2)中に良く分散させることである。無機充填材に粒径分布の中心が10〜15μm程度のタルクやクレーの微粉を使用し、最新型湿式粉砕機のビーズミル(サンドグラインドミルの1種)を使用して強制分散させれば、微粉含有にも拘わらず透明液となって良い分散液となる。この液100質量部に1質量部程度の低分解速度型の4)有機過酸化物を加えて混合すると、夏季で1時間、その他の季節は数時間以内に使い切る条件が付くが、高性能のNAT用接着剤として使用が可能となる。
【0092】
上記で使用が可能な有機過酸化物として、キックオフ温度(熱分解開始温度)の高いもので、ビス(1−ヒドロキシシクロヘキシル)パーオキサイド、ヒドロヘキシヘプチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーアセナート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシル−パーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が使用できる。これらの中でも、BMCにも硬化剤としてよく配合されるt−ブチル−パーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシル−パーオキシイソプロピルモノカーボネート、またはt−ブチルパーオキシベンゾエート等が本発明においても特に好ましい。
【0093】
(g)接着剤塗布及びその後の処理
前記で得た各種接着剤をNAT処理済みの金属合金片の必要箇所に塗布する。筆塗りでもヘラ塗りでもよい。エポキシ系接着剤は粘度の高いことが多い。この場合、50〜70℃に予め加熱しておいた減圧容器または圧力容器に塗布物を入れ、数分おいてから数十mmHg程度まで減圧して数秒おき、その後空気を入れて常圧に戻すか数気圧や数十気圧の圧力下にするのが好ましい。容器を暖めておくのは、接着剤粘度を十数Pa秒以下にするためである。減圧と昇圧のサイクルは1回ではなく繰り返すのが好ましい。減圧下で接着剤と金属合金間の空気が抜け、常圧戻しで接着剤が金属面上の超微細凹部に侵入し易くなる。
【0094】
フェノール樹脂系接着剤の場合、塗布した後、十数分は放置する。溶剤のケトン(多くはMEKが使用されている)が揮発する。その後の扱いは途中まで前述のエポキシ系接着剤と同じになる。すなわち、50〜70℃に前もって暖めておいた減圧容器等に入れ、減圧/常圧戻し操作を数回繰り返すのが好ましい。60〜70℃になることで溶剤は揮発し切ると同時にレゾールは固体からペースト状になり粘度が低下する。
【0095】
減圧容器等から金属合金片を出し、次はこれらを90〜100℃にセットした熱風乾燥機内に10〜15分入れる。この加熱を予備加熱処理と言うが、フェノール樹脂系接着剤にのみ必要な工程である。予備加熱工程は、レゾール樹脂を90℃程度とすることで脱水縮合反応を進行させゲル化を過半分程度進める目的の工程である。金属合金上の接着剤層は90℃近くまで昇温されると溶解して液状となり、脱水反応も起こって別所温泉泥地獄のように激しく発泡する。
【0096】
しかしこれも10分程度で大人しくなる。そのタイミングで熱風乾燥機から出すのが好ましい。この操作はやや職人的になるが、結果から言えば、多少の時間ズレは接着力にあまり影響がなく、かなり大雑把でも高い接着力が得られた。熱風乾燥機から出して放冷すると塗布された接着剤は再び固体に戻る。ベタベタしていないのがエポキシ系接着剤塗布物との違いである。
【0097】
不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の場合、塗布作業は、前述の1),2)含む主液に3)無機充填材粉体を添加分散させ、その液に4)有機過酸化物を加えて混合した瞬間から始まり、手際良く進めなくてはならない。混合した瞬間から接着剤となるが、同時にゲル化も始まる。もちろん、好ましい有機過酸化物を使用した場合、ゲル化はそれほど高速でないから、冷蔵庫に入れて5℃以下で保管し、使用時だけ小分けすれば半日は使用可能になる。
【0098】
金属合金に塗布した後の扱いはエポキシ系接着剤と似た扱い方で良い。すなわち、前もって50℃程度に暖めておいた減圧容器に塗布物を入れ、減圧/常圧戻しの作業を数回行う。金属合金表面への接着剤の染み込まし処理だが、エポキシ系接着剤の場合と異なるのは、使用する真空ポンプからスチレン等が排出され臭気が出ることである。減圧により接着剤中のスチレン系モノマーの一部が揮発する。同時に、50℃近くのやや暖かい温度下でゲル化がやや進行し、接着剤層は粘性ある液状に変わる。それゆえ、この処理の終了時の姿はエポキシ接着剤の場合に似ていて塗布箇所はベタベタ物となる。
【0099】
(h)接着剤塗布物の保管
これらの接着剤塗布と塗布後の処理を行ったものに関し、エポキシ接着剤とフェノール樹脂接着剤を塗布したものは長期保管が可能である。エポキシ接着物塗布品は接着剤塗布箇所の上にポリエチフィルムをそのまま載せて貼り付け、さらに大きなポリ袋に全体を入れて密封できるのであれば、密封して冷蔵庫に入れておけば1ヶ月以上保管できる。また、フェノール樹脂系接着剤は、塗布面にゴミが付着しないようにさえしておけば、数週間はOKで、全体をポリ袋に入れて密閉できれば、冷蔵庫に入れて数ヶ月は全く問題なく使用できる。
【0100】
保管が難しいのは不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を塗布し、塗布後の処理をした金属合金片であって、これはそのまま数時間内に射出接合工程に進めるべきである。端的に言えば、接着剤を作成した瞬間(有機過酸化物を加えた瞬間)から射出接合工程まで途切らせず順次工程を進めるべきなのが不飽和ポリエステル樹脂系の接着剤を使い同系の射出成形用熱硬化性樹脂組成物を射出する場合である。
【0101】
(i)射出用熱硬化性樹脂組成物
市販されている射出成形用熱硬化性樹脂組成物は基本的に3種類で、一つは不飽和ポリエステル樹脂系のもの、一つはフェノール樹脂系のもの、もう一つはエポキシ樹脂系のものである。これらは各機械メーカーが上市している熱硬化型樹脂用の射出成形機を使用して射出成形できる。これらの射出成形機の基本構造は、射出筒の温度制御が40〜90℃で水冷と電気加熱の双方を備えたものになっており、粉状原料を溶融してペースト状まではするがそれ以上昇温してゲル化が促進される温度域までは上げない、というやや難しい温度制御を行う。一方、金型温度は低くても150℃程度、多くは160〜180℃として金型内で樹脂組成物を硬化固化させる。
【0102】
このような温度条件が通常となっており、逆に樹脂メーカーはこのような温度条件内で成形できるように樹脂組成物を調整している。加えて、製品用途により耐熱性を重視したり、成形時の精密性(流動性)を重視したり、無機充填材を増やして寸法安定性を重視したグレード等がある。ただ、多種ある射出成形用の熱硬化性樹脂組成物も大きく成形条件が異なるわけではないので、本発明に関し全て使用できる。
【0103】
一方、不飽和ポリエステル樹脂系の射出成形用樹脂組成物に近いが、BMCと呼ばれる樹脂材料がある。BMCについてはその概要を背景技術において前述したが、組成は不飽和ポリエステル樹脂、スチレン系モノマー、ガラス短繊維、無機充填材、及び有機過酸化物の混合物である。要するに不飽和ポリエステル樹脂系の射出成形用材料とほとんど同じだが、ガラス短繊維が含まれることが異なる。ガラス繊維を含むので硬化物はGFRPとなる。BMCの成形はBMC成形機に依るが、BMC成形機の基本構造は前記射出成形機と全く同じである。違いは前述したが、BMC成形機にはBMCの強制供給装置が設置されていることである。要するに、BMCも本発明に使用できる。
【0104】
(j)射出接合の操作
熱硬化性樹脂用射出成形機、またはBMC成形機にセットした射出成形用金型に前述の接着剤塗布済み金属合金部品をインサートし、前記の射出成形用樹脂やBMCを射出する。各種樹脂の射出成形条件は射出樹脂メーカーの指示する条件通りで良い。標準的な市販樹脂を使用する場合、射出筒温度は70〜90℃、金型温度は150〜180℃とするのが多いが、これで特に問題はない。
【0105】
1液性エポキシ系接着剤を塗布した金属合金片をインサート物とし、射出樹脂にエポキシ系の熱硬化性樹脂組成物を使用し、上手く射出接合させる作業の手順について述べる。まず、金型に金属合金片をインサートし、一旦金型を閉める。金型は150〜180℃に加熱されているので金型内で接着剤のゲル化が進む。金型を閉めても射出操作に移らず、金型閉めから30秒後に一旦金型を開く。その時に金属合金上の接着剤の様子を見る。針で突っついてもよい。接着剤のゲル化が明らかでまだ軟性がやや残っている程度だとする。この場合、インサート金属合金を新しいものに交換し、金型を閉めて30秒後に樹脂が射出されるようにする。保圧操作を続け、数分後に金型を開いて成形物を離型する。
【0106】
成形された熱硬化性樹脂とインサートしていた金属合金片とが接着剤を介して一体化している。両者間を強引に引き剥がし、金属合金側の接着面を何とか露出させてみると接合の様子がわかる。もし容易に金属片が剥がれて金属合金表面に硬化した接着剤層が存在する場合、これは接着剤の硬化が早過ぎたことを示すからインサートしてからのアイドル時間を次は短くすべきである。一方、金属片表面に薄く樹脂汚れのようなものが全面に付着していると接着状況としては非常に良いと判断する。また、インサートしてからのアイドル時間が短すぎて、樹脂射出時に接着剤のゲル化が進んでいなかった場合、金属表面上の未硬化の接着剤は射出樹脂流れに押し流されて綺麗に清掃された状態となり、金属合金片は磨かれたように綺麗になる。もちろん全く接着しない。
【0107】
従って、ほぼ射出接合しそうなアイドル時間を見つけたら、その後に数個の接着剤塗布と染込まし処理を済ませた金属合金片をインサートし、インサート後から射出するまでの時間を当初時間より短長させて変え、射出接合試験をすればよい。一体化物の破断強度を測定して最適なアイドル時間を明らかにする。実際に試験をするとわかるがそれほど敏感でなく最適条件となるアイドル時間の時間幅は30秒近くある。フェノール樹脂接着剤の場合も前述した1液性エポキシ系接着剤ケースと全く同じである。5個程度の接着剤塗布と染み込まし処理をした金属合金片をインサートし、インサート後から射出するまでの時間を変えながら射出接合試験をすれば最適なアイドル時間が明らかになる。
【0108】
不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の場合、アイドル時間は通常なしとする。しかしながら金属合金片を射出成形金型にインサートし、できるだけ早く射出するとしても金型を閉めてから射出まで10〜15秒かかる。これは熱硬化性樹脂の射出成形では射出筒ノズルは射出時とその数十秒後までの間を除いて金型に接触させないからである。よって金型閉めと射出筒の金型接近をスイッチONしても射出筒ノズルが金型に接触するのに10数秒かかるのが普通である。接着剤の硬化が速過ぎると感じた場合、まず行うべき対策は金型温度を5〜10℃下げてみることである。
【0109】
使用した射出成形用樹脂のメーカーが指定した金型温度条件より若干低く硬化時間が1分〜数分伸びるだろうが、金属合金上の接着剤のゲル化硬化の速度も遅くなり、アイドル時間も伸びるので双方の硬化タイミングを合わすことが容易になる。射出接合するが射出樹脂自体の十分な強度が出ていないと感じた場合、射出接合で得た一体化物を120〜150℃とした熱風乾燥機に1時間程度入れた後硬化させる手がある。
【実施例】
【0110】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって説明する。なお、図13は射出接合で得た金属合金片と熱硬化性樹脂製形状物の接着一体化物を図示したものであり、60は金属合金片と熱硬化性樹脂組成物の射出成形片とを一体化した設置役複合体、61は金属合金片、62は硬化した熱硬化性樹脂組成物の射出成形片、63は接着剤層を示す。
【0111】
(a)X線表面観察(XPS観察)
数μm径の表面を深さ1〜2nmまでの範囲で構成元素を観察する形式のESCA「AXIS−Nova(クラトス/島津製作所社製)」を使用した。
(b)電子顕微鏡観察
SEM型の電子顕微鏡「S−4800(日立製作所社製)」及び「JSM−6700F(日本電子)」を使用し1〜2KVにて観察した。
(c)走査型プローブ顕微鏡観察
「SPM−9600(島津製作所社製)」を使用した。これはダイナミックフォース型の走査型プローブ顕微鏡である。
(d)X線回折分析(XRD分析)
「XRD−6100(島津製作所社製)」を使用した。
(e)複合体の接合強度の測定
引っ張り試験機「AG−10kNX(島津製作所社製)」を使用し、引っ張り速度10mm/分でせん断破断力を測定した。
【0112】
次に接合系の実験例について各金属片の種類毎に説明する。
[実験例1](アルミニウム合金の表面処理)
市販の3mm厚A7075板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を水に投入して60℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記アルミニウム合金板材を7分浸漬しよく水洗した。続いて別の槽に40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、先ほどの合金板材を4分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記合金板材を1分浸漬し水洗した。次いで別の槽に60℃とした一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液を用意し、これに前記合金板材を2分浸漬し、水洗した。次いで5%濃度の過酸化水素水溶液を40℃とし前記合金板材を5分浸漬し水洗した。次いで67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。
【0113】
乾燥後、アルミ箔で前記アルミニウム合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。同じ処理をしたA7075片を電子顕微鏡観察したところ40〜100nm径の凹部で覆われていることがわかった。1万倍、10万倍の電顕写真を図1に示した。また、別の1個を走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによると山谷平均間隔(RSm)は3〜4μm、最大高さ(Rz)は1〜2μmであった。
【0114】
[実験例2](アルミニウム合金の表面処理)
市販の1.6mm厚A5052板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を水に投入して60℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記アルミニウム合金板材を7分浸漬しよく水洗した。続いて別の槽に40℃とした1%濃度の塩酸水溶液を用意し、これに前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、先ほどの合金板材を2分浸漬してよく水洗した。続いて別の槽に40℃とした3%濃度の硝酸水溶液を用意し、これに前記合金板材を1分浸漬し水洗した。次いで別の槽に60℃とした一水和ヒドラジンを3.5%含む水溶液を用意し、これに前記合金板材を2分浸漬し、水洗した。
【0115】
次いで67℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記アルミニウム合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。同じ処理をしたA5052片を電子顕微鏡観察したところ30〜100nm径の凹部で覆われていることがわかった。1万倍、10万倍の電顕写真を図2に示した。また、別の1個を走査型プローブ顕微鏡にかけて粗度データを得た。これによると山谷平均間隔(RSm)は1.8〜2.6μm、最大高さ(Rz)は0.3〜0.5μmであった。
【0116】
[実験例3](マグネシウム合金の表面処理)
市販の1mm厚AZ31B板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のマグネシウム合金用脱脂剤「クリーナー160(メルテックス社製)」を水に投入して65℃、濃度7.5%の水溶液とした。これに前記マグネシウム合金板材を5分浸漬しよく水洗した。続いて別の槽に40℃とした1%濃度の水和クエン酸水溶液を用意し、これに前記の合金板材を6分浸漬してよく水洗した。次いで別の槽に65℃とした1%濃度の炭酸ナトリウムと1%濃度の炭酸水素ナトリウムを含む水溶液を用意し、先ほどの合金板材を5分浸漬してよく水洗した。
【0117】
続いて別の槽に65℃とした15%濃度の苛性ソーダ水溶液を用意し、これに前記合金板材を5分浸漬し水洗した。次いで別の槽に40℃とした0.25%濃度の水和クエン酸水溶液に1分浸漬して水洗した。次いで45℃とした過マンガン酸カリを2%、酢酸を1%、水和酢酸ナトリウムを0.5%含む水溶液に1分浸漬し、15秒水洗し、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記マグネシウム合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0118】
同じ処理をしたAZ31B片を電子顕微鏡観察したところ5〜10nm径の棒状結晶が複雑に絡み合っている箇所やそれらの塊が100nm径程度の集まりとなり、その集まりが面を作っている超微細な凹凸形状で覆われている箇所があった。それら2箇所の10万倍電顕写真を図3に示した。また、別の1個を走査型プローブ顕微鏡で走査して粗度観測を行ったところJISで言う山谷平均間隔、すなわち凹凸周期の平均値(RSm)が2〜3μm、最大粗さ高さ(Rz)が1〜1.5μmであった。
【0119】
[実験例4](銅合金の表面処理)
市販の1mm厚の純銅系銅合金であるタフピッチ銅(C1100)板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%含む水溶液を60℃として5分浸漬して水洗し、次いで40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液に1分浸漬して水洗し予備塩基洗浄した。次いで25℃とした銅合金用エッチング材「CB5002(メック社製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液を用意し、これに前記銅合金片を10分浸漬し水洗した。
【0120】
次いで別の槽に65℃とした苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液を酸化用水溶液として用意し、前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで先ほどのエッチング用槽に1分浸漬して水洗し、そして先ほどの酸化処理用の槽に1分浸漬してよく水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記銅合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0121】
同じ処理をしたC1100片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、JISで言う山谷平均間隔(RSm)は3〜7μm、最大粗さ高さ(Rz)は3〜5μmであった。また、10万倍電子顕微鏡観察したところ、直径または長径短径の平均が10〜150nmの孔開口部または凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。その1万倍、10万倍電顕写真を図4に示した。
【0122】
[実験例5](銅合金の表面処理)
市販の0.8mm厚のリン青銅(C5191)板材を購入し18mm×45mmの長方形片に切断し、金属板1である銅合金片とした。槽に市販のアルミ合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。ここへ前記銅合金板材を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に25℃とした銅合金用エッチング材「CB5002(メック社製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液を用意し、これに前記銅合金片を15分浸漬し水洗した。
【0123】
次いで別の槽に苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液を酸化用水溶液として用意し、65℃としてから前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで再び先ほどのエッチング液に1分浸漬し水洗した。次いで酸化用の水溶液に1分再度浸漬し、水洗した。前記の銅合金片を、90℃にした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。アルミニウム箔に包んで保管した。
【0124】
同じ処理をしたC5191片を1万倍、10万倍電顕写真を図5に示したが、10万倍電子顕微鏡観察で、直径または長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状であり、純銅系であるタフピッチ銅の微細構造とは全く異なった形状であった。また、1個を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、JISで言う山谷平均間隔(RSm)は1〜3μm、最大粗さ高さ(Rz)は0.3〜0.4μmであった。
【0125】
[実験例6](銅合金の表面処理)
市販の1mm厚の鉄含有銅合金「KFC(神戸製鋼所社製)」板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%含む水溶液を60℃として5分浸漬して水洗し、次いで40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液に1分浸漬して水洗し予備塩基洗浄した。次いで25℃とした銅合金用エッチング材「CB5002(メック社製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液を用意し、これに前記銅合金片を8分浸漬し水洗した。
【0126】
次いで別の槽に65℃とした苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液を酸化用水溶液として用意し、前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで先ほどのエッチング用槽に1分浸漬して水洗し、そして先ほどの酸化処理用の槽に1分浸漬してよく水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記銅合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0127】
同じ処理をしたKFC銅合金片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、JISで言う山谷平均間隔(RSm)は1〜3μm、最大粗さ高さ(Rz)は0.3〜0.5μmであった。また、10万倍電子顕微鏡観察したところ、直径または長径短径の平均が10〜200nmの凸部が混ざり合って全面に存在する超微細凹凸形状で全面が覆われていた。1万倍、10万倍電顕写真を図6に示した。
【0128】
[実験例7](銅合金の表面処理)
市販の0.7mm厚の特殊銅合金「KLF5(神戸製鋼所社製)」板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%含む水溶液を60℃として5分浸漬して水洗し、次いで40℃とした1.5%濃度の苛性ソーダ水溶液に1分浸漬して水洗し予備塩基洗浄した。次いで25℃とした銅合金用エッチング材「CB5002(メック社製)」を20%、30%過酸化水素を18%含む水溶液を用意し、これに前記銅合金片を8分浸漬し水洗した。
【0129】
次いで別の槽に65℃とした苛性ソーダを10%、亜塩素酸ナトリウムを5%含む水溶液を酸化用水溶液として用意し、前記の合金板材を1分浸漬してよく水洗した。次いで先ほどのエッチング用槽に1分浸漬して水洗し、そして先ほどの酸化処理用の槽に1分浸漬してよく水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記銅合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0130】
同じ処理をしたKLF5銅合金片を走査型プローブ顕微鏡にかけた。その結果、JISで言う山谷平均間隔(RSm)は1〜3μm、最大粗さ高さ(Rz)は0.3〜0.5μmであった。また、10万倍電子顕微鏡観察したところ、直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混ざり合って積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていた。1万倍、10万倍電顕写真を図7に示す。
【0131】
[実験例8](チタン合金の表面処理)
市販の純チタン型チタン合金JIS1種「KS40(神戸製鋼所社製)」1mm厚板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記チタン合金板材を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。
【0132】
続いて別の槽に60℃とした1水素2弗化アンモニウムを40%含む万能エッチング材「KA−3(金属加工技術研究所社製)」を2%含む水溶液を用意し、これに前記チタン合金片を3分浸漬しイオン交換水でよく水洗した。次いで3%濃度の硝酸水溶液に1分浸漬し水洗した。90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記チタン合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0133】
同じ処理をしたKS40チタン合金片の電子顕微鏡、及び走査型プローブ顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡での観察から、幅と高さが10〜数百nmで長さが数百〜数μmの湾曲した連山状突起が間隔周期10〜数百nmで面上に林立している形状の超微細凹凸面を有していることがわかった。この1万倍、10万倍電顕写真を図8に示した。また、走査型プローブ顕微鏡の観察で、山谷平均間隔(RSm)は1〜3μm、最高粗さ高さ(Rz)は0.8〜1.5μmであった。また、XPSによる分析から表面には酸素とチタンが大量に観察され、少量の炭素が観察された。これらから表層は酸化チタンが主成分であることがわかり、しかも暗色であることから3価のチタンの酸化物と推定された。
【0134】
[実験例9](チタン合金の表面処理)
市販のα−β型チタン合金「KSTi−9(神戸製鋼社製)」の1mm厚板材を切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記チタン合金板材を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。
【0135】
次いで別の槽に40℃とした苛性ソーダ1.5%濃度の水溶液を用意し、1分浸漬して水洗した。次いで別の槽に、市販汎用エッチング試薬「KA−3(金属加工技術研究所社製)」を2質量%溶解した水溶液を60℃にして用意し、これに前記チタン合金片を3分浸漬しイオン交換水でよく水洗した。黒色のスマットが付着していたので40℃とした3%濃度の硝酸水溶液に3分浸漬し、次いで超音波を効かしたイオン交換水に5分浸漬してスマットを落とし、再び3%硝酸水溶液に0.5分浸漬し水洗した。次いで90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。得られたチタン合金片に金属光沢はなく暗褐色であった。乾燥後、アルミ箔で前記チタン合金板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0136】
同じ処理をしたKSTi−9チタン合金片を、電子顕微鏡及び走査型プローブ顕微鏡で観察した。1万倍、10万倍電子顕微鏡で観察した結果を図9に示す。その様子は実験例8の電顕観察写真図8に酷似した部分に加え、表現が難しい枯葉状の部分が多く見られた。また、走査型プローブ顕微鏡による走査解析によると山谷平均間隔RSmは4〜6μm、最大粗さ高さRzは1〜2μmと出た。
【0137】
[実験例10](ステンレス鋼の表面処理)
市販のステンレス鋼SUS304の1mm厚板材を入手し、切断して45mm×18mmの長方形片多数とした。槽に市販のアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」を7.5%含む水溶液を60℃として脱脂用水溶液とした。前記水溶液に前記ステンレス鋼板材を5分浸漬して脱脂し、よく水洗した。続いて別の槽に65℃とした1水素2弗化アンモニウムを1%と98%硫酸を5%含む水溶液を用意し、これに前記ステンレス鋼片を4分浸漬しイオン交換水でよく水洗した。次いで40℃とした3%濃度の硝酸水溶液に3分浸漬して水洗した。90℃とした温風乾燥機に15分入れて乾燥させた。乾燥後、アルミ箔で前記ステンレス鋼板材をまとめて包み、さらにこれをポリ袋に入れて封じ保管した。
【0138】
同じ処理をしたSUS304片の電子顕微鏡、及び走査型プローブ顕微鏡による観察を行った。電子顕微鏡観察から、直径30〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状、言わば溶岩台地斜面ガラ場状、の超微細凹凸形状で覆われていた。1万倍、10万倍電顕写真を図10に示す。走査型プローブ顕微鏡の走査解析で、山谷平均間隔(RSm)は1〜2μmであり、その最大高低差(Rz)は0.3〜0.4μmであった。さらに別の1個をXPS分析にかけた。XPSでは表面の約1nm深さより浅い部分の元素情報が得られる。このXPS分析から表面には酸素と鉄が大量に、また、少量のニッケル、クロム、炭素、ごく少量のモリブデン、珪素が観察された。これらから表層は金属酸化物が主成分であることがわかった。この分析パターンはエッチング前のSUS304とほとんど同じであった。
【0139】
〔実験例11〕(一般鋼材の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの冷間圧延鋼材「SPCC」板材を購入し、多数の大きさ18mm×45mmの長方形片に切断し、鋼材片とした。この鋼材片の端部に穴を開け、十数個に対し塩化ビニルでコートした銅線を通し、鋼材片同士が互いに重ならないように銅線を曲げて加工し、全てを同時にぶら下げられるようにした。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%を含む水溶液を60℃とし、鋼材片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。
【0140】
次いで別の槽に40℃とした1.5%苛性ソーダ水溶液を用意し、これの鋼材片を1分浸漬し水洗した。次いで別の槽に50℃とした98%硫酸を10%含む水溶液を用意し、これに鋼材片を6分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで25℃とした1%濃度のアンモニア水に1分浸漬して水洗し、次いで45℃とした2%濃度の過マンガン酸カリ、1%濃度の酢酸、0.5%濃度の水和酢酸ナトリウムを含む水溶液に1分浸漬して十分に水洗した。これを90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥させた。
【0141】
同じ処理をしたSPCC鋼片の10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜200nmで幅が数百〜数千nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることがわかる。パーライト構造が剥き出しになった様子であり化成処理層はごく薄いことがわかる。1万倍、10万倍電顕写真を図11に示した。一方、走査型プローブ顕微鏡による走査解析では山谷平均間隔RSmが1〜3μm、最大粗さ高さRzが0.3〜1.0μmの粗度が観察された。
【0142】
〔実験例12〕(一般鋼材の表面処理)
市販の厚さ1.6mmの熱間圧延鋼材「SPHC」板材を購入し、多数の大きさ18mm×45mmの長方形片に切断し、鋼材片とした。この鋼材片の端部に穴を開け、十数個に対し塩化ビニルでコートした銅線を通し、鋼材片同士が互いに重ならないように銅線を曲げて加工し、全てを同時にぶら下げられるようにした。槽にアルミニウム合金用脱脂剤「NE−6(メルテックス社製)」7.5%を含む水溶液を60℃とし、鋼材片を5分浸漬して水道水(群馬県太田市)で水洗した。
【0143】
次いで別の槽に40℃とした1.5%苛性ソーダ水溶液を用意し、これの鋼材片を1分浸漬し水洗した。次いで別の槽に65℃とした98%硫酸を10%と1水素2弗化アンモニウム1%を含む水溶液を用意し、これに鋼材片を2分浸漬し、イオン交換水で十分に水洗した。次いで25℃とした1%濃度のアンモニア水に1分浸漬して水洗し、次いで55℃とした80%正リン酸を1.5%、亜鉛華を0.21%、珪弗化ナトリウムを0.16%、塩基性炭酸ニッケルを0.23%含む水溶液に1分浸漬して十分に水洗した。これを90℃とした温風乾燥機内に15分入れて乾燥させた。
【0144】
同じ処理をしたSPHC鋼片の10万倍電子顕微鏡による観察結果から、高さ及び奥行きが80〜500nmで幅が数百〜数万nmの階段が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われていることが分かり、これもやはりパーライト構造であった。1万倍、10万倍電顕写真を図12に示した。一方、走査型プローブ顕微鏡による走査解析では山谷平均間隔RSmが1〜3μm、最大粗さ高さRzが0.3〜1.0μmの粗度が観察された。
【0145】
[実験例13](1液性エポキシ接着剤の塗布からエポキシ系樹脂の射出接合まで)
実験例1と同じ処理をした45mm×18mm×3mm厚のA7075アルミニウム合金の端部に硬化剤をイミダゾール類とする1液性エポキシ接着剤「EP160(セメダイン社製)」を塗布した。予め60℃に暖めておいたデシケータにこのアルミニウム合金片を入れて真空ポンプで減圧し、3分おいてから常圧に戻した。再度真空にして数分おいて常圧に戻し、さらに同じことを繰り返し、結局、減圧/常圧戻し操作を3回繰り返した。これが本発明者らの言う接着剤の染込まし処理である。デシケータから取り出し、接着剤塗布面にはポリエチフィルムを乗せてゴミの付着を防ぐ形とし、そのまま保管した。
【0146】
図13に示した形状の射出成形品が得られる射出成形金型を使用した。金型に前記で得たエポキシ接着剤塗布面付きA7075アルミニウム合金をインサートした。なお、金型温度は180℃とし、射出筒のノズル温度は90℃、使用樹脂はエポキシ系熱硬化型樹脂組成物「KE−4200(京セラケミカル社製)」であった。インサート後、直ぐに金型を閉め、同時に射出筒の接近を開始した。射出ノズルが金型に接触し、樹脂を射出したのは金型を閉じてから15秒後であった。使用した熱硬化性樹脂用の射出成形機は「PN40−2AK(日精樹脂工業社製)」だった。
【0147】
射出1分後に射出筒ノズルを金型から離し、さらに1.5分経って金型を開いて成形物を離型した。成形品は一体化していたが、さらに安定化させるため150℃とした熱風乾燥機内に1時間おいてアニールした。放冷し、翌日に引っ張り試験機でせん断破断力を測定したところ50MPaあった。
【0148】
[実験例14](1液性エポキシ接着剤の塗布からエポキシ系熱硬化型樹脂組成物の射出接合まで)
実験例1と同じ処理をした45mm×18mm×3mm厚のA7075アルミニウム合金の端部に硬化剤をジシアンジアミドとする1液性エポキシ接着剤「EP106NL(セメダイン社製)」を塗布した。予め60℃に暖めておいたデシケータにこのアルミニウム合金片を入れて真空ポンプで減圧し、3分おいてから常圧に戻した。再度真空にして数分おいて常圧に戻し、さらに同じことを繰り返し、結局、減圧/常圧戻し操作を3回繰り返した。これが本発明者らの言う接着剤の染込まし処理である。デシケータから取り出し、接着剤塗布面にはポリエチフィルムを載せてゴミの付着を防ぐ形とし、そのまま保管した。
【0149】
図13に示した形状の射出成形品が得られる射出成形金型を使用した。金型に前記で得たエポキシ接着剤塗布面付きA7075アルミニウム合金をインサートした。なお、金型温度は180℃とし、射出筒のノズル温度は90℃、使用樹脂はエポキシ系熱硬化型樹脂組成物「KE−4200(京セラケミカル社製)」であった。インサート後、直ぐに金型を閉め、1分待ってから射出筒の接近を開始した。それゆえ、射出ノズルが金型に接触し、樹脂を射出したのは金型を閉じてから75秒後であった。
【0150】
射出1分後に射出筒ノズルを金型から離し、さらに1.5分経って金型を開いて成形物を離型した。成形品は一体化していたが、さらに安定化させるため150℃とした熱風乾燥機内に1時間おいてアニールした。放冷し、翌日に引っ張り試験機でせん断破断力を測定したところ53MPaあった。
【0151】
[実験例15](フェノール樹脂接着剤の塗布からフェノール樹脂系熱硬化型樹脂組成物の射出接合まで)
実験例1と同じ処理をした45mm×18mm×3mm厚のA7075アルミニウム合金の端部に溶剤MEKを50%近く含むレゾール樹脂型のフェノール樹脂接着剤「110(セメダイン社製)」を筆塗りした。風乾してMEKを揮発させてから再度接着剤「110」を筆塗りした。10分常温下で放置してから予め60℃に暖めておいたデシケータにこのアルミニウム合金片を入れて真空ポンプで減圧し、3分おいてから常圧に戻した。再度真空にして数分おいて常圧に戻し、さらに同じことを繰り返し、結局、減圧/常圧戻し操作を3回繰り返した。
【0152】
デシケータから取り出し、次は90℃とした熱風乾燥機に10分おいて接着剤塗布層を反応させた。すなわち、この温度でレゾール樹脂は溶融し、かつ、脱水縮合反応を起してゲル化が進んだ。ただ10分経過するころには水蒸気発生によるクレーター状物の生成数は減っていた。熱風乾燥機から出して放冷すると接着剤塗布面は固化した樹脂面となった。アルミ箔で包んだだけでそのまま保管した。
【0153】
図13に示した形状の射出成形品が得られる射出成形金型を使用した。金型に前記で得たフェノール樹脂系接着剤塗布面付きA7075アルミニウム合金をインサートした。なお、金型温度は180℃とし、射出筒のノズル温度は80℃、使用樹脂はフェノール樹脂系熱硬化型樹脂組成物「CY3312(パナソニック電工社製)」であった。インサート後、直ぐに金型を閉め、1分待ってから射出筒の接近を開始した。それゆえ、射出ノズルが金型に接触し、樹脂を射出したのは金型を閉じてから75秒後であった。
【0154】
射出1分後に射出筒ノズルを金型から離し、さらに1.5分経って金型を開いて成形物を離型した。成形品は一体化していたが、さらに安定化させるため150℃とした熱風乾燥機内に1時間おいてアニールした。放冷し、翌日に引っ張り試験機でせん断破断力を測定したところ58MPaあった。
【0155】
[実験例16](不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の作製)
ビニルエステル樹脂とスチレンモノマーからなるFRPマトリックス樹脂用の主液「リポキシR802(昭和高分子社製)」を400gだけ湿式粉砕機であるサンドグラインドミル「ミニツエア(アシザワ・ファインテック社製)」に充填した。ミルの粉砕室にはその80容積%分の0.3mmφの球形ジルコニアビーズを入れておいた。
【0156】
周速11〜12m/秒で湿式粉砕運転を開始し、系に微粉タルク「ハイミクロンHE5(竹原化学工業社製)」を12g、ヒュームドシリカ「アエロジルR805(日本アエロジル社製)」を2g加えて30分間粉砕運転を続け、液をポリ瓶に抜き出した。この液は、本来は懸濁液であると思われたが、湿式粉砕機によって分散が非常に良くなったせいか、液は透明に見えた。かつ、5℃とした冷蔵庫内だが3週間保管しても沈殿物は確認できなかった。
【0157】
一方、有機過酸化物であるt−ブチルパーオキシベンゾエート「パーブチルZ(日油社製)」を入手した。前記の無機充填材入りの主液10gに対して「パーブチルZ」を0.1g加えよく掻き混ぜて接着剤とした。この硬化剤(重合開始剤)の添加は使用直前に行う。実験例14、15の例と異なって、不飽和ポリエステル樹脂系の接着剤は明らかに2液性である。
【0158】
[実験例17](不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の塗布から不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化型樹脂組成物の射出接合まで)
実験例1と同じ処理をした45mm×18mm×3mm厚のA7075アルミニウム合金の端部に実験例16で作った不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を筆塗りした。10分ほど風乾し、デシケータにアルミニウム合金片を入れて真空ポンプで減圧し、3分おいてから常圧に戻した。再度真空にして数分おいて常圧に戻し、さらに同じことを繰り返し、結局、減圧/常圧戻し操作を3回繰り返した。そして常圧下でデシケータ内に保管した。
【0159】
前記の接着剤塗布操作などと平行して図13に示した形状の射出成形品が得られる射出成形金型を熱硬化性樹脂用射出成形機に取り付け、金型温度を150℃としておいた。前記で得た不飽和ポリエステル樹脂系接着剤塗布面付きA7075アルミニウム合金をインサートし、直後に金型を閉じた。射出筒のノズル温度は80℃、使用樹脂は不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化型樹脂組成物「プリミックスAP−700(京セラケミカル社製)」とし、金型を閉め、直後に射出筒の接近を開始した。それゆえ、射出ノズルが金型に接触し、樹脂を射出したのは金型を閉じてから15秒後であった。
【0160】
射出1分後に射出筒ノズルを金型から離し、さらに1.5分経って金型を開いて成形物を離型した。成形品は一体化していたが、さらに安定化させるため150℃とした熱風乾燥機内に1時間おいてアニールした。放冷し、翌日に引っ張り試験機でせん断破断力を測定したところ49MPaあった。
【0161】
[実験例18](1液性エポキシ接着剤の塗布からフェノール樹脂系熱硬化型樹脂組成物の射出接合試験まで:比較例)
実験例14と全く同様にして45mm×18mm×3mm厚のA7075アルミニウム合金の端部に1液性エポキシ接着剤「EP106NL」を塗布し、染み込まし処理をした。
【0162】
図13に示した形状の射出成形品が得られる射出成形金型を使用し、金型に上記のエポキシ接着剤塗布面付きA7075アルミニウム合金をインサートした。なお、金型温度は180℃とし、射出筒のノズル温度は80℃として射出用樹脂はエポキシ系熱硬化型樹脂組成物「KE−4200(京セラケミカル社製)」ではなく、フェノール樹脂系の熱硬化性樹脂組成物「CY3221(パナソニック電工社製)」とした。インサート後、すぐに金型を閉め、1分待ってから射出筒の接近を開始した。それゆえ、射出ノズルが金型に接触し、樹脂を射出したのは金型を閉じてから75秒後であった。
【0163】
射出1分後に射出筒ノズルを金型から離し、さらに1.5分経って金型を開いて成形物を離型した。成形品は一体化しており、さらに安定化させるため150℃とした熱風乾燥機内に1時間おいてアニールした。これを放冷し、翌日に引っ張り試験機でせん断破断力を測定せんとしたところその扱い中に壊れた。アルミニウム合金側に接着剤硬化物層が厚みを持って残っており、接着剤も射出樹脂も硬化したが、ともに混ざり合って接合しながら硬化するということはなかった模様であった。
【0164】
[実験例19〜29](フェノール樹脂系接着剤を塗布した各種金属合金へのフェノール樹脂系熱硬化性樹脂の射出接合)
実験例15と全く同様に実験を進めたが、異なるのは金属合金種である。実験例15では実験例1で得たのと同じ方法のA7075アルミニウム合金を使用したが、実験例19〜30では実験例2〜12に示すアルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金、チタン合金、ステンレス鋼、一般鋼材等を使用した。インサート時に厚みの薄いものはスペーサーを外側に置いて金属合金部の厚さを3mmとした。これらの実験で得た一体化物のせん断破断力を表1に示す。
【0165】
<表1> フェノール樹脂系接着剤「110(セメダイン社製)」塗布済み金属合金片を射出成形金型にインサートし、フェノール樹脂系熱硬化型樹脂組成物「CY3221(パナソニック電工社製)」を射出接合したもののせん断破断力
【表1】

【符号の説明】
【0166】
61…金属合金片
62…硬化した熱硬化性樹脂組成物の射出成形片
63…接着剤層
71…金属合金部分
72…超微細凹凸部
73…樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、
射出成形で得られたエポキシ樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、
がエポキシ系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項2】
表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、
射出成形で得られたフェノール樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、
がフェノール樹脂系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項3】
表面に化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われた形状であり、かつ、該表面が金属酸化物または金属リン酸化物の薄層である金属形状物と、
射出成形で得られた不飽和ポリエステル樹脂系熱硬化性樹脂組成物製の成形物と、
が、1)不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂と、2)スチレン系モノマーと、3)無機充填材と、4)有機過酸化物とからなる熱硬化性樹脂組成物である不飽和ポリエステル樹脂系接着剤の硬化物層を間に挟んで一体化してなることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が10〜100nm径で同等の深さまたは高さの凹部もしくは凸部である超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がナトリウムイオンを含まない厚さ2nm以上の酸化アルミニウム薄層を有しているアルミニウム合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともにその表面が5〜20nm径で20〜200nm長さの棒状物が無数に錯綜した形の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項6】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が5〜20nm径で10〜30nm長さの棒状凸部が無数に有する直径80〜100nmの球状物が不規則に積み重なった形状の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項7】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が20〜40nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状の超微細凹凸面で覆われた形状であり、かつ、該表面がマンガン酸化物の薄層を有しているマグネシウム合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜150nmである孔開口部または凹部が30〜300nmの非定期な間隔で全面に存在する超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項9】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜200nmである凸部が混在して全面に存在する超微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項10】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径または長径短径の平均が10〜150nmである粒径物または不定多角形状物が連なり一部融け合って積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項11】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径10〜20nmの粒径物及び50〜150nm径の不定多角形状物が混在して積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が主として酸化第2銅の薄層である銅合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項12】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ及び幅が10〜350nm、長さが10nm以上の山状または連山状凸部が10〜350nm周期で全面に存在する超微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主としてチタン酸化物の薄層であるチタン合金製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項13】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによる山谷平均間隔(RSm)が1〜10μm、最大粗さ高さ(Rz)が1〜5μmである粗度があるとともに該表面が10μm角の面積内に円滑なドーム状形状と枯葉状形状の双方が混在する微細凹凸形状であり、かつ、該表面が主としてチタンとアルミニウムを含む金属酸化物薄層であるα−β型チタン合金のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項14】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が直径20〜70nmの粒径物や不定多角形状物が積み重なった形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面が金属酸化物の薄層であるステンレス鋼部品のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項15】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ80〜150nm、奥行き80〜200nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものであることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項16】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ80〜150nm、奥行きが80〜500nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものであること を特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項17】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体において、前記金属形状物は、表面が化学エッチングによるミクロンオーダーの粗度があるとともに該表面が高さ50〜100nm、奥行きが80〜200nmで幅が数百〜数千nmの段差が無限に続いた形状の超微細凹凸形状でほぼ全面が覆われており、かつ、該表面がマンガン酸化物、クロム酸化物、亜鉛リン酸化物または亜鉛とカルシウムのリン酸化物の薄層である鋼材製のものであること を特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体。
【請求項18】
金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と、
前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmとなる粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と、
前記金属合金材に1液性エポキシ系接着剤を塗布する工程と、
前記接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と、
前記射出成形用金型を装填した射出成形機にてエポキシ系熱硬化性樹脂を射出し金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と、
を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。
【請求項19】
金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と、
前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmの粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と、
前記金属合金材にフェノール樹脂系接着剤を塗布する工程と、
前記接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と、
前記射出成形用金型を装填した射出成形機にてフェノール樹脂系熱硬化性樹脂を射出し金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と、
を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。
【請求項20】
金属合金材を機械的加工で所定形状に形状化する工程と、
前記形状化された前記金属合金材の表面に5〜500nmの不定期な周期の微細凹凸形状で覆われるとともに該微細凹凸面で構成される大きな凹凸の山谷平均間隔(RSm)が1〜10μmで最大粗さ高さ(Rz)が0.2〜5μmの粗度を与える化学エッチング含む各種液処理を施す表面処理工程と、
1)不飽和ポリエステル樹脂及び/またはビニルエステル樹脂と、2)スチレン系モノマーと、3)無機充填材と、4)有機過酸化物とからなる不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作製する工程と、
前記金属合金材に前記不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を塗布する工程と、
前記不飽和ポリエステル樹脂系接着剤塗布済み金属合金材を射出成形用金型内にインサートする工程と、
前記金型を装填した射出成形機または塊状成形コンパウンド成形機にて不飽和ポリエステル系熱硬化性樹脂または塊状成形コンパウンドを射出し、金型を開いて金属合金材と熱硬化性樹脂成形物の一体化品を離型させる工程と、
を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。
【請求項21】
請求項18ないし20のいずれか1項に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法において、前記の金属合金材に接着剤を塗布する工程後に、これを風乾し、さらに風乾後に密閉容器に収納し、容器内を減圧しその後に加圧する操作を繰り返し行う、金属合金表面への樹脂組成物染み込まし工程を付加したことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。
【請求項22】
請求項19に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法において、
前記の金属合金材に接着剤を塗布する工程後に、これを風乾し、さらに80〜100℃とした熱風乾燥機内に5〜15分入れてフェノール樹脂接着剤を予備硬化させることを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。
【請求項23】
請求項20に記載の金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法において、
前記の不飽和ポリエステル樹脂系接着剤を作成する工程内に、サンドグラインドミルを使用して不飽和ポリエステル樹脂主液に無機充填材等を強制分散させる工程を含むことを特徴とする金属合金と熱硬化性樹脂の接着複合体の製造方法。

【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−66383(P2012−66383A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8380(P2009−8380)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000206141)大成プラス株式会社 (87)
【Fターム(参考)】