金属基複合体およびその製造方法
【課題】潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、ピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属基複合体は、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNF・CNT)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る。
【解決手段】金属基複合体は、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNF・CNT)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、ピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンやシリンダライナーの材質として、軽量化を目的にアルミニウム合金が用いられる例も多い。しかしながら、単なるアルミニウム合金では強度・耐摩耗性等が不足することから、セラミックス繊維等との複合材料として用いられる(特許文献1)。
しかし、複合材料として用いられているセラミックス繊維は摺動部品に採用される場合、相手材に対する攻撃性が強く、耐凝着性が不十分で、耐摩耗性のメリットを損なうという問題があった。
【0003】
セラミックス繊維に代わり得る素材として、カーボンナノ材料がある。
特許文献2には、アルミニウム合金とカーボンナノチューブ(CNT)との金属基複合体が紹介されている。
この特許文献2のものでは、カーボンナノチューブ(CNT)をバインダーとともに分散媒に混合してスラリー状にし、フィルターでろ過して分散媒を除去したグリーン体を作製し、このグリーン体を乾燥、焼成してプリフォームとなし、このプリフォームにアルミニウム合金母材を含浸し、金属基複合体とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−46569
【特許文献2】特開2006−249994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カーボンナノチューブは極めて微細なものであるから、上記特許文献2のものでは、ろ過の際にカーボンナノチューブのほとんどがフィルターの目を通過してしまい、プリフォームを形成する事が難しく、所望の特性を有する金属複合体が得られないという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、例えばピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属基複合体は、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る。
金属粉末および溶融金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする。
また、カーボンナノ材料(CNT・CNF)の混入量が0.2〜1.5mass%であることを特徴とする。
ピストンもしくはシリンダライナーとして好適に用いることができる。
【0008】
また、本発明に係る金属基複合体の製造方法は、マトリクス金属中に繊維材とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とが混入された金属基複合体の製造方法において、分散媒中に、多数の繊維材と、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは包含された所要量の金属粉末と、バインダーとを添加し、混合してスラリーを形成する工程と、所要成形型を用い、スラリー中の分散媒をフィルターを介して吸引除去して、スラリーを所要形状に成形する工程と、前記所要形状に成形されたスラリーを乾燥し、次いで焼成してプリフォームを形成する工程と、得られたプリフォームを所要金型内に配置し、加圧鋳造法またはそれに準ずる製造方法によりプリフォーム中に溶融金属を含浸する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
前記プリフォームを、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに形成することを特徴とする。
また、金属材料とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とを振動ボールミルに収容し、振動ボールミルを駆動して、表面にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が付着、もしくは内部にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が包含した金属粉末を形成する工程と含むことを特徴とする。
また、マトリクス金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、例えばピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アルミニウム合金・CNF複合粉末のSEM画像である。
【図2】アルミニウム合金・CNF複合粉末のFE‐SEM画像の拡大図である。
【図3】サクションポンプにより分散媒(水)を吸引して、金型内に、セラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末とを凝集させる状態の説明図である。
【図4】リング状に形成したプリフォームの写真である。
【図5】図4に示すプリフォームの表面の拡大写真である。
【図6】金属基複合体の写真である。
【図7】図6の金属基複合体の断面組織の拡大写真である。
【図8】図7のさらなる拡大写真である。
【図9】各試験片の摩擦試験結果を示すグラフである。
【図10】図9に示す各試験片の耐摩耗試験結果を示すグラフである。
【図11】摩擦摩耗試験機の概略を示す説明図である。
【図12】図9に示す各試験片の耐凝着性試験結果を示すグラフである。
【図13】凝着性試験の試験機の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の好適な実施の形態を具体的な実施例と併せて添付図面に基づいて詳細に説明する。
<金属粉末とCNFの混合方法>
母材となるアルミニウム合金粉末(大きさ40μm程度)を、所定量(アルミニウム合金粉末に対して最大15mass%程度)のCNFと一緒に3軸方向加振型ボールミル((株)トポロジックシステムズ社製TKMAC-1200L)に掛け、粉砕、混合した。なお、CNFはVGCF(昭和電工製)を用いた。
【0013】
同ボールミルによる混合では、アルミニウム合金粉末およびCNFを、金属、例えば一般的に使用されるステンレス鋼、あるいはジルコニアセラミックス容器内に同材質の直径10mm程度のボールとともに装填した後、容器内部を不活性ガスである、例えばArガスで満たして密閉し、上記ボールを強制的に揺動・衝突させる機構を利用して、同容器内に素材原料として充填したアルミニウム合金粉末とCNFを攪拌・混合・粉砕して複合化させる。その際のボールミルの振動数は800rpm、処理時間は5時間程度とした。
【0014】
このボールミルによる混合により、CNFはアルミニウム合金粉末に打ち付けられ、アルミニウム合金粉末がさらに小径の粒状に破砕されていく過程で、生じた金属粉末の表面に強く付着され、あるいは金属粉末中に取り込まれた状態(包含された状態)となる(図1、図2)。図2の拡大図に明らかなように、CNFはアルミニウム粉末の表面に突き刺さったような状態となり、アルミニウム粉末の表面に強く付着している状態となる。
なお、アルミニウム合金粉末に付着あるいは取り込まれるCNFの量には自ずと限界がある。アルミニウム合金粉末に対して15mass%程度が限界である。したがって、当初より、アルミニウム合金粉末に対して10〜15mass%程度のCNFを混合するとよい。なお、最終的に得られる金属基複合体に対しては、CNFの混合割合は母材金属溶湯が高圧鋳造工程で注入される分だけ希釈されるため、CNFは最大約1.5mass%程度の混入率が実際上の限界となる。なお、諸特性の点から、CNFの混入量は、最終金属複合体に対して0.2〜1.0mass%程度が好適である。
【0015】
上記のようにして得られたアルミニウム合金・CNF複合粉末は、例えば、40μm以下の粒子に粉砕されたものである。このアルミニウム合金・CNF複合粉末のサイズは特に限定されないが、後記するプリフォームの、繊維材で囲まれて形成される空間から脱落せずに、該空間内に捕捉される程度の大きさがよい。
【0016】
<プリフォームの形成>
本実施の形態では、CNFをアルミニウム合金粉末の表面へ付着または内部へ包含させ、この粉末と耐磨耗性や耐熱性に優れるセラミックス等の繊維材を混合して作成した中空予成型体(プリフォーム)に基地となる溶融金属を含浸させることによって、CNFが均一に分散し、併せてセラミックス繊維材やCNFにより強化された金属基複合体を得ることができる。
【0017】
プリフォームの形成工程の一例を以下に示す。
1)まず、水等の分散媒中に、アルミナ等のセラミックス繊維材を分散させる(繊維材の濃度1〜3wt%)。なお、具体的には、直径2〜8μm、長さ300〜1500μmのアルミナ繊維を用いた。
2)次に、アニオン系分散剤(例えば、ポリアクリル系樹脂を0.5wt%)を添加した。
3)次に上記のようにして形成したアルミニウム金属・CNF複合粉末を添加する。添加量は、特に限定されないが、セラミックス繊維材の1/100〜同量(容積比)程度とする。
4)さらに、無機バインダー(シリカゾル)を3wt%、カチオン系ゲル剤(アルミナゾル)を2wt%、カチオン系高分子凝集剤(荒川化学社製のポリストロン705を 0.06〜0.1wt%)を添加し、よく攪拌してスラリーを作成した。
5)次に図3に示すように、スラリーが収容された容器10内に金型12を入れ、金型12の底面から下方側にサクションポンプ14により分散媒(水)を吸引して排除することによって、金型12内に、セラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末とを凝集させる。金型12の底面には小孔が形成されて、該底面がフィルターの役目をするようになっている。CNFは、アルミニウム合金粉末に強く付着もしくは包含されているので、小孔から流出してしまうようなことはない。
6)次に、金型12よりセラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末の凝集体をとりだす。凝集体は無機バインダー等によって結着している。
7)この凝集体を120℃×5時間にて乾燥させて水分を除去した。
8)この乾燥した凝集体を、窒素ガス炉において700℃×15分焼成を行い、複合された焼結体の成形体(プリフォーム)を得た。なお、この成形体の表面を適宜NCフライス等で加工し必要な形状とする。図4はリング状に形成したプリフォームの写真、図5は、このプリフォーム表面の拡大写真である。
【0018】
図5から明らかなように、このプリフォームは、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、CNFが表面に付着もしくは内部に包含されたアルミニウム合金が捕捉された状態のプリフォームに形成されている。
【0019】
<金属複合体の製造>
上記のように形成したプリフォームを所要成形型内に配置し、高圧鋳造法にてプリフォームに溶融金属を含浸させることによって、セラミックス繊維によっても強化され、かつそのセラミック繊維の空隙内にCNFが均一に分散した金属基複合体を得る(図6:図6における円弧状の黒っぽい部分が金属基複合体)。図7は、この金属基複合体の断面組織の拡大写真、図8はさらにその拡大写真である。図8から明らかなように、外周部にCNFが包含されたアルミニウム合金粉末がアルミナ繊維材(黒い部分)中に混在しているのがわかる。
なお、鋳造品は、その製品全体に亙ってセラミック繊維およびCNFで強化してもよいし、部分的に強化するのであってもよい。
【0020】
図9は、1.アルミニウム合金品(AC8A)、2.AC8A+アルミナ繊維15mass%品、3.AC8A+アルミナ繊維10mass%+CNF(VGCF)0.5mass%品(実施例品)の摩擦試験結果を示すグラフである。また、図10は、図9に示す各試験片の耐摩耗試験結果を示すグラフである。
【0021】
両試験とも、図11に示す試験機を用いた。
ピンaにシリンダライナー材を用い、プレートbに試験用材料を用いた。ピンaをプレートbに接触させ、ピンaに一定の加重(5N)を加えつつ、ピンaとプレートbとを相対的に往復動させて、ピンaを固定したアームに装着したロードセルによって摩擦係数を測定し、また、プレートbの摩耗量を計測した。
図9より明らかなように、実施例品は他の比較例品に比して摩擦係数が小さく(約13%の低減効果)、潤滑性に優れる。また、図10より明らかなように、実施例品は比較例品に比して耐摩耗性が格段に優れる。
【0022】
図12は、図9に示す各試験片の耐凝着性試験結果を示すグラフである。図13に示す試験機により、試験片(ピストン用アルミ試料)を相手材(ピストンリング)に所要力(10Kg)で複数回ぶつけた際に、相手材に凝着し始めるまでの時間を計測したものである。図12から明らかなように、実施例品が相手材に凝着し始めるまでに約3倍の時間がかかり、実施例品は耐凝着性に優れることがわかる。
【0023】
本実施の形態で得られるアルミニウム金属基複合体は、セラミックス繊維が耐熱性と耐摩耗性の機能を担い、CNF(カーボンナノファイバー)は、潤滑性、耐凝着性(焼き付き性)あるいは熱伝導性を担うという、特徴ある性能を発揮する。
したがって、アルミニウム合金複合材は相手材との耐凝着性、摺動性が改善される効果があり、例えば、これを利用するピストンのリング溝部の耐摩耗性・耐凝着性の向上や、スカート部において、焼き付きが発生するような境界潤滑状態において、カーボンナノファイバー(CNF)の潤滑効果によって焼き付きが防止される。
【0024】
このように金属基複合体は、強度、耐摩耗性、潤滑性、熱伝導性などの改善が期待できることから、エンジンのピストンやシリンダライナーなどにも勿論適用が可能である。さらに、ひろく軸受けなど摺動機能が要求される機械部品にも好適である。
また、本発明の金属基複合体は、アルミニウム合金に限らず、およそ加圧鋳造またはそれに準ずる製造方法が適用できる他の合金、例えばマグネシウム、銅、錫、亜鉛などの合金と繊維材およびカーボンナノ材料(CNT・CNF)との複合体においても適用が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 容器
12 金型
14 サクションポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、ピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンやシリンダライナーの材質として、軽量化を目的にアルミニウム合金が用いられる例も多い。しかしながら、単なるアルミニウム合金では強度・耐摩耗性等が不足することから、セラミックス繊維等との複合材料として用いられる(特許文献1)。
しかし、複合材料として用いられているセラミックス繊維は摺動部品に採用される場合、相手材に対する攻撃性が強く、耐凝着性が不十分で、耐摩耗性のメリットを損なうという問題があった。
【0003】
セラミックス繊維に代わり得る素材として、カーボンナノ材料がある。
特許文献2には、アルミニウム合金とカーボンナノチューブ(CNT)との金属基複合体が紹介されている。
この特許文献2のものでは、カーボンナノチューブ(CNT)をバインダーとともに分散媒に混合してスラリー状にし、フィルターでろ過して分散媒を除去したグリーン体を作製し、このグリーン体を乾燥、焼成してプリフォームとなし、このプリフォームにアルミニウム合金母材を含浸し、金属基複合体とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−46569
【特許文献2】特開2006−249994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カーボンナノチューブは極めて微細なものであるから、上記特許文献2のものでは、ろ過の際にカーボンナノチューブのほとんどがフィルターの目を通過してしまい、プリフォームを形成する事が難しく、所望の特性を有する金属複合体が得られないという課題がある。
【0006】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、例えばピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属基複合体は、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る。
金属粉末および溶融金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする。
また、カーボンナノ材料(CNT・CNF)の混入量が0.2〜1.5mass%であることを特徴とする。
ピストンもしくはシリンダライナーとして好適に用いることができる。
【0008】
また、本発明に係る金属基複合体の製造方法は、マトリクス金属中に繊維材とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とが混入された金属基複合体の製造方法において、分散媒中に、多数の繊維材と、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは包含された所要量の金属粉末と、バインダーとを添加し、混合してスラリーを形成する工程と、所要成形型を用い、スラリー中の分散媒をフィルターを介して吸引除去して、スラリーを所要形状に成形する工程と、前記所要形状に成形されたスラリーを乾燥し、次いで焼成してプリフォームを形成する工程と、得られたプリフォームを所要金型内に配置し、加圧鋳造法またはそれに準ずる製造方法によりプリフォーム中に溶融金属を含浸する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
前記プリフォームを、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに形成することを特徴とする。
また、金属材料とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とを振動ボールミルに収容し、振動ボールミルを駆動して、表面にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が付着、もしくは内部にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が包含した金属粉末を形成する工程と含むことを特徴とする。
また、マトリクス金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、潤滑性、耐凝着性、耐摩耗性、熱伝導性に優れ、例えばピストンやシリンダライナーとして好適な金属基複合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アルミニウム合金・CNF複合粉末のSEM画像である。
【図2】アルミニウム合金・CNF複合粉末のFE‐SEM画像の拡大図である。
【図3】サクションポンプにより分散媒(水)を吸引して、金型内に、セラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末とを凝集させる状態の説明図である。
【図4】リング状に形成したプリフォームの写真である。
【図5】図4に示すプリフォームの表面の拡大写真である。
【図6】金属基複合体の写真である。
【図7】図6の金属基複合体の断面組織の拡大写真である。
【図8】図7のさらなる拡大写真である。
【図9】各試験片の摩擦試験結果を示すグラフである。
【図10】図9に示す各試験片の耐摩耗試験結果を示すグラフである。
【図11】摩擦摩耗試験機の概略を示す説明図である。
【図12】図9に示す各試験片の耐凝着性試験結果を示すグラフである。
【図13】凝着性試験の試験機の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の好適な実施の形態を具体的な実施例と併せて添付図面に基づいて詳細に説明する。
<金属粉末とCNFの混合方法>
母材となるアルミニウム合金粉末(大きさ40μm程度)を、所定量(アルミニウム合金粉末に対して最大15mass%程度)のCNFと一緒に3軸方向加振型ボールミル((株)トポロジックシステムズ社製TKMAC-1200L)に掛け、粉砕、混合した。なお、CNFはVGCF(昭和電工製)を用いた。
【0013】
同ボールミルによる混合では、アルミニウム合金粉末およびCNFを、金属、例えば一般的に使用されるステンレス鋼、あるいはジルコニアセラミックス容器内に同材質の直径10mm程度のボールとともに装填した後、容器内部を不活性ガスである、例えばArガスで満たして密閉し、上記ボールを強制的に揺動・衝突させる機構を利用して、同容器内に素材原料として充填したアルミニウム合金粉末とCNFを攪拌・混合・粉砕して複合化させる。その際のボールミルの振動数は800rpm、処理時間は5時間程度とした。
【0014】
このボールミルによる混合により、CNFはアルミニウム合金粉末に打ち付けられ、アルミニウム合金粉末がさらに小径の粒状に破砕されていく過程で、生じた金属粉末の表面に強く付着され、あるいは金属粉末中に取り込まれた状態(包含された状態)となる(図1、図2)。図2の拡大図に明らかなように、CNFはアルミニウム粉末の表面に突き刺さったような状態となり、アルミニウム粉末の表面に強く付着している状態となる。
なお、アルミニウム合金粉末に付着あるいは取り込まれるCNFの量には自ずと限界がある。アルミニウム合金粉末に対して15mass%程度が限界である。したがって、当初より、アルミニウム合金粉末に対して10〜15mass%程度のCNFを混合するとよい。なお、最終的に得られる金属基複合体に対しては、CNFの混合割合は母材金属溶湯が高圧鋳造工程で注入される分だけ希釈されるため、CNFは最大約1.5mass%程度の混入率が実際上の限界となる。なお、諸特性の点から、CNFの混入量は、最終金属複合体に対して0.2〜1.0mass%程度が好適である。
【0015】
上記のようにして得られたアルミニウム合金・CNF複合粉末は、例えば、40μm以下の粒子に粉砕されたものである。このアルミニウム合金・CNF複合粉末のサイズは特に限定されないが、後記するプリフォームの、繊維材で囲まれて形成される空間から脱落せずに、該空間内に捕捉される程度の大きさがよい。
【0016】
<プリフォームの形成>
本実施の形態では、CNFをアルミニウム合金粉末の表面へ付着または内部へ包含させ、この粉末と耐磨耗性や耐熱性に優れるセラミックス等の繊維材を混合して作成した中空予成型体(プリフォーム)に基地となる溶融金属を含浸させることによって、CNFが均一に分散し、併せてセラミックス繊維材やCNFにより強化された金属基複合体を得ることができる。
【0017】
プリフォームの形成工程の一例を以下に示す。
1)まず、水等の分散媒中に、アルミナ等のセラミックス繊維材を分散させる(繊維材の濃度1〜3wt%)。なお、具体的には、直径2〜8μm、長さ300〜1500μmのアルミナ繊維を用いた。
2)次に、アニオン系分散剤(例えば、ポリアクリル系樹脂を0.5wt%)を添加した。
3)次に上記のようにして形成したアルミニウム金属・CNF複合粉末を添加する。添加量は、特に限定されないが、セラミックス繊維材の1/100〜同量(容積比)程度とする。
4)さらに、無機バインダー(シリカゾル)を3wt%、カチオン系ゲル剤(アルミナゾル)を2wt%、カチオン系高分子凝集剤(荒川化学社製のポリストロン705を 0.06〜0.1wt%)を添加し、よく攪拌してスラリーを作成した。
5)次に図3に示すように、スラリーが収容された容器10内に金型12を入れ、金型12の底面から下方側にサクションポンプ14により分散媒(水)を吸引して排除することによって、金型12内に、セラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末とを凝集させる。金型12の底面には小孔が形成されて、該底面がフィルターの役目をするようになっている。CNFは、アルミニウム合金粉末に強く付着もしくは包含されているので、小孔から流出してしまうようなことはない。
6)次に、金型12よりセラミックス繊維材とアルミニウム合金・CNF複合粉末の凝集体をとりだす。凝集体は無機バインダー等によって結着している。
7)この凝集体を120℃×5時間にて乾燥させて水分を除去した。
8)この乾燥した凝集体を、窒素ガス炉において700℃×15分焼成を行い、複合された焼結体の成形体(プリフォーム)を得た。なお、この成形体の表面を適宜NCフライス等で加工し必要な形状とする。図4はリング状に形成したプリフォームの写真、図5は、このプリフォーム表面の拡大写真である。
【0018】
図5から明らかなように、このプリフォームは、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、CNFが表面に付着もしくは内部に包含されたアルミニウム合金が捕捉された状態のプリフォームに形成されている。
【0019】
<金属複合体の製造>
上記のように形成したプリフォームを所要成形型内に配置し、高圧鋳造法にてプリフォームに溶融金属を含浸させることによって、セラミックス繊維によっても強化され、かつそのセラミック繊維の空隙内にCNFが均一に分散した金属基複合体を得る(図6:図6における円弧状の黒っぽい部分が金属基複合体)。図7は、この金属基複合体の断面組織の拡大写真、図8はさらにその拡大写真である。図8から明らかなように、外周部にCNFが包含されたアルミニウム合金粉末がアルミナ繊維材(黒い部分)中に混在しているのがわかる。
なお、鋳造品は、その製品全体に亙ってセラミック繊維およびCNFで強化してもよいし、部分的に強化するのであってもよい。
【0020】
図9は、1.アルミニウム合金品(AC8A)、2.AC8A+アルミナ繊維15mass%品、3.AC8A+アルミナ繊維10mass%+CNF(VGCF)0.5mass%品(実施例品)の摩擦試験結果を示すグラフである。また、図10は、図9に示す各試験片の耐摩耗試験結果を示すグラフである。
【0021】
両試験とも、図11に示す試験機を用いた。
ピンaにシリンダライナー材を用い、プレートbに試験用材料を用いた。ピンaをプレートbに接触させ、ピンaに一定の加重(5N)を加えつつ、ピンaとプレートbとを相対的に往復動させて、ピンaを固定したアームに装着したロードセルによって摩擦係数を測定し、また、プレートbの摩耗量を計測した。
図9より明らかなように、実施例品は他の比較例品に比して摩擦係数が小さく(約13%の低減効果)、潤滑性に優れる。また、図10より明らかなように、実施例品は比較例品に比して耐摩耗性が格段に優れる。
【0022】
図12は、図9に示す各試験片の耐凝着性試験結果を示すグラフである。図13に示す試験機により、試験片(ピストン用アルミ試料)を相手材(ピストンリング)に所要力(10Kg)で複数回ぶつけた際に、相手材に凝着し始めるまでの時間を計測したものである。図12から明らかなように、実施例品が相手材に凝着し始めるまでに約3倍の時間がかかり、実施例品は耐凝着性に優れることがわかる。
【0023】
本実施の形態で得られるアルミニウム金属基複合体は、セラミックス繊維が耐熱性と耐摩耗性の機能を担い、CNF(カーボンナノファイバー)は、潤滑性、耐凝着性(焼き付き性)あるいは熱伝導性を担うという、特徴ある性能を発揮する。
したがって、アルミニウム合金複合材は相手材との耐凝着性、摺動性が改善される効果があり、例えば、これを利用するピストンのリング溝部の耐摩耗性・耐凝着性の向上や、スカート部において、焼き付きが発生するような境界潤滑状態において、カーボンナノファイバー(CNF)の潤滑効果によって焼き付きが防止される。
【0024】
このように金属基複合体は、強度、耐摩耗性、潤滑性、熱伝導性などの改善が期待できることから、エンジンのピストンやシリンダライナーなどにも勿論適用が可能である。さらに、ひろく軸受けなど摺動機能が要求される機械部品にも好適である。
また、本発明の金属基複合体は、アルミニウム合金に限らず、およそ加圧鋳造またはそれに準ずる製造方法が適用できる他の合金、例えばマグネシウム、銅、錫、亜鉛などの合金と繊維材およびカーボンナノ材料(CNT・CNF)との複合体においても適用が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 容器
12 金型
14 サクションポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る金属基複合体。
【請求項2】
金属粉末および溶融金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする請求項1記載の金属基複合体。
【請求項3】
カーボンナノ材料(CNT・CNF)の混入量が0.2〜1.5mass%であることを特徴とする請求項1または2記載の金属基複合体。
【請求項4】
ピストンもしくはシリンダライナーであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の金属基複合体。
【請求項5】
マトリクス金属中に繊維材とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とが混入された金属基複合体の製造方法において、
分散媒中に、多数の繊維材と、カーボンナノ材料(CNT・CNF) が表面に付着もしくは内部に包含された所要量の金属粉末と、バインダーとを添加し、混合してスラリーを形成する工程と、
所要成形型を用い、スラリー中の分散媒をフィルターを介して吸引除去して、スラリーを所要形状に成形する工程と、
前記所要形状に成形されたスラリーを乾燥し、次いで焼成してプリフォームを形成する工程と、
得られたプリフォームを所要金型内に配置し、加圧鋳造法またはそれに準ずる製造方法によりプリフォーム中に溶融金属を含浸する工程と
を含むことを特徴とする金属基複合体の製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームを、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに形成することを特徴とする請求項5記載の金属基複合体の製造方法。
【請求項7】
金属材料とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とを振動ボールミルに収容し、振動ボールミルを駆動して、表面にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が付着、もしくは内部に包含した金属粉末を形成する工程と含むことを特徴とする請求項5または6記載の金属基複合体の製造方法。
【請求項8】
マトリクス金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする請求項5〜7いずれか1項記載の金属基複合体の製造方法。
【請求項1】
多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに、溶融金属が含浸され、固化されて成る金属基複合体。
【請求項2】
金属粉末および溶融金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする請求項1記載の金属基複合体。
【請求項3】
カーボンナノ材料(CNT・CNF)の混入量が0.2〜1.5mass%であることを特徴とする請求項1または2記載の金属基複合体。
【請求項4】
ピストンもしくはシリンダライナーであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の金属基複合体。
【請求項5】
マトリクス金属中に繊維材とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とが混入された金属基複合体の製造方法において、
分散媒中に、多数の繊維材と、カーボンナノ材料(CNT・CNF) が表面に付着もしくは内部に包含された所要量の金属粉末と、バインダーとを添加し、混合してスラリーを形成する工程と、
所要成形型を用い、スラリー中の分散媒をフィルターを介して吸引除去して、スラリーを所要形状に成形する工程と、
前記所要形状に成形されたスラリーを乾燥し、次いで焼成してプリフォームを形成する工程と、
得られたプリフォームを所要金型内に配置し、加圧鋳造法またはそれに準ずる製造方法によりプリフォーム中に溶融金属を含浸する工程と
を含むことを特徴とする金属基複合体の製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームを、多数の繊維材が三次元空間内で絡まり、該繊維材で囲まれる空間内に、カーボンナノ材料(CNT・CNF)が表面に付着もしくは内部に包含された金属粉末が捕捉された状態のプリフォームに形成することを特徴とする請求項5記載の金属基複合体の製造方法。
【請求項7】
金属材料とカーボンナノ材料(CNT・CNF)とを振動ボールミルに収容し、振動ボールミルを駆動して、表面にカーボンナノ材料(CNT・CNF)が付着、もしくは内部に包含した金属粉末を形成する工程と含むことを特徴とする請求項5または6記載の金属基複合体の製造方法。
【請求項8】
マトリクス金属がアルミニウム合金またはマグネシウム合金などの軽合金であることを特徴とする請求項5〜7いずれか1項記載の金属基複合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−196098(P2010−196098A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40709(P2009−40709)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(390008822)アート金属工業株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
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