説明

金属酸化物半導体の製造方法

本発明の一態様は、アモルファス金属酸化物半導体を製造する方法に関する。実施形態では、薄膜は、混合溶液から出発要素として基板上に塗布される。例えば、混合溶液は、少なくとも溶剤中にInアルコキシドとZnアルコキシドを含む。特に、基板上に塗布された、混合溶液から生成された薄膜は、例えば210℃以上275℃以下の温度範囲において、水蒸気雰囲気中で熱アニールされることで硬化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体に関し、特にアモルファス金属酸化物半導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜トランジスタ(TFTs:Thin Film Transistors)は、半導体層にアモルファス(非晶質)シリコン薄膜及びそれをエキシマレーザ等により多結晶化して形成された多結晶シリコン薄膜などのシリコンを用いたものが主流であった。
【0003】
近年、次世代TFT用の半導体層としてアモルファス金属酸化物半導体が注目を集めている。このような半導体は、その透明性という点から、ディスプレイ及び電子ペーパー等への応用が期待されている。移動度の面でも、このような半導体は、高性能液晶及び有機Electro-Luminescence(EL)などで要求される3〜20cm/Vsを実現し得る材料である。
【0004】
アモルファス金属酸化物半導体の代表的なものとしては、インジウム(In)及び亜鉛(Zn)を含むアモルファスIn−Zn−O酸化物半導体(a−InZnO)、並びにそれにさらにもう一種類の金属成分としてGa(ガリウム)を含むアモルファスIn−Ga−Zn−O酸化物半導体(a−InGaZnO)などが知られている。
【0005】
ところで、半導体層の代表的な成膜方法は、気相から膜形成するスパッタリング法及び溶液から膜形成するゾルゲル法などがある(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。後者は、大面積の基板及び複雑な形状のものに適用できる特徴をもつ。
【0006】
ゾルゲル法は、金属酸化物の各成分金属について、加水分解性の有機化合物である前駆体を含む溶液を用意し、この溶液を加水分解反応及び重縮合反応により流動性を失ったゲルとし、このゲルを熱アニールして金属酸化物の固体を得る方法である。前駆体としては、金属アルコキシド等が挙げられる。前駆体の溶液には、さらに、加水分解反応のための水、並びに加水分解反応及び重縮合反応を制御するための酸及び塩基などの触媒が添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−165529号公報
【特許文献2】特開2003−179242号公報
【特許文献3】特開2005−223231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前駆体の溶液を基板上に塗布して大気中で熱アニールし、ゾルゲル法にてアモルファス金属酸化物半導体の薄膜を形成する場合、以下の課題を有している。
【0009】
まず、塗布前に前駆体の溶液に水を加えた場合、溶液保管中に前駆体と水が反応を開始する。保管容器中での加水分反応解及び重縮合反応を経た後、前駆体の溶液は流動性を失った粘度の高いゲルとなる。したがって、塗布により基板上に薄膜を形成することは困難である。さらに、前駆体の溶液を長期保存する際、重縮合反応がさらに進行して前駆体の溶液中に金属酸化物の固体を生成してしまう。したがって、前駆体の溶液の長期保存は困難である。
【0010】
また、前駆体の溶液に水を加えないで成膜した場合、前駆体の加水分解は大気中に含まれる水分によって行われるが、水の供給量が十分でないため、効率よく行なわれない。前駆体は加熱により分解することも可能であるが、この場合、およそ400℃以上の高温処理が必要となる。このため、プラスチック基板といった比較的耐熱性の低い基板の使用に制約をきたす。
【0011】
そこで、本発明は、かかる問題点に鑑み、金属酸化物半導体の薄膜を低温にて形成することが可能な金属酸化物半導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る金属酸化物半導体の製造方法は、少なくとも2つの前駆体のうちの前記前駆体が金属アルコキシドである混合溶液を基板上に塗布する工程と、水性触媒の存在下で前記基板上に塗布された前記薄膜を硬化して前記混合溶液から金属酸化物半導体を形成する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属酸化物半導体の薄膜を低温にて形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法を模式的に説明するための断面図である。
【図2】図2は、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法においてアモルファス金属酸化物半導体層の形成工程(図1の(d)で示す工程)の詳細を示す断面図である。
【図3A】図3Aは、アモルファス金属酸化物半導体層の深さ方向での炭素及び水素の濃度分布を示す図である。
【図3B】図3Bは、アモルファス金属酸化物半導体層の透過率の波長依存性を示す図である。
【図3C】図3Cは、Inアルコキシド溶液の質量の時間変化(Inガス発生量の時間変化)を示す図である。
【図3D】図3Dは、Znアルコキシド溶液の質量の時間変化(Znガス発生量の時間変化)を示す図である。
【図4A】図4Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図4B】図4Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のドレイン電流のドレイン電圧依存性をゲート電圧毎に示す図である。
【図4C】図4Cは、比較例としての薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図4D】図4Dは、比較例としての薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図4E】図4Eは、比較例としての薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5A】図5Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5B】図5Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5C】図5Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5D】図5Dは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5E】図5Eは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図5F】図5Fは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図6A】図6Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度の熱アニール温度依存性を示す図である。
【図6B】図6Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のヒステリシスの熱アニール温度依存性を示す図である。
【図6C】図6Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のターンオン電圧の熱アニール温度依存性を示す図である。
【図7A】図7Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図7B】図7Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図7C】図7Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図7D】図7Dは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図8】図8は、同実施の形態に係るゾルゲル反応における熱アニール温度の時間変化を示す図である。
【図9A】図9Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図9B】図9Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図9C】図9Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図9D】図9Dは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図9E】図9Eは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図9F】図9Fは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図10】図10は、同実施の形態に係るゾルゲル反応における熱アニール温度の時間変化を示す図である。
【図11A】図11Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図11B】図11Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図11C】図11Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図11D】図11Dは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図11E】図11Eは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図12】図12は、同実施の形態に係るゾルゲル反応における熱アニール温度の時間変化を示す図である。
【図13A】図13Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度のドライアニール時間依存性をアニール温度毎に示す図である。
【図13B】図13Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のヒステリシスのドライアニール時間依存性をアニール温度毎に示す図である。
【図13C】図13Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のターンオン電圧のドライアニール時間依存性をアニール温度毎に示す図である。
【図14A】図14Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図14B】図14Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図14C】図14Cは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図15】図15は、同実施の形態に係るゾルゲル反応における熱アニール温度の時間変化を示す図である。
【図16A】図16Aは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図16B】図16Bは、同実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置のドレイン電流のドレイン電圧依存性をゲート電圧毎に示す図である。
【図17A】図17Aは、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図17B】図17Bは、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図17C】図17Cは、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図18A】図18Aは、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図18B】図18Bは、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【図19】図19は、本発明の第2の変形例に係る薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る金属酸化物半導体の製造方法は、少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体が金属アルコキシドである混合溶液を基板上に塗布する工程と、水性触媒の存在下で前記基板上に塗布された薄膜を硬化して前記混合溶液から金属酸化物半導体を形成する工程とを含む。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係るアモルファス金属酸化物半導体の製造方法は、少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体が例えばInアルコキシド溶液であり少なくとも2つの前駆体のうちの他の前記前駆体が例えばZnアルコキシド溶液である混合溶液を、基板上に塗布する工程と、180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で、前記基板上に塗布された前記混合溶液に対して熱アニールを行って前記混合溶液からアモルファス金属酸化物半導体を形成する熱アニール工程とを含む。
【0017】
本態様では、少なくともInアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液とからなる混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置くことで、混合溶液に積極的に水分を注入させ、混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させることができる。混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させる際、400℃以上の高温で水蒸気を発生させて混合溶液に水分を注入するのではなく、混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置いている。そして、400℃以上の高温にすることなく、積極的に水分を混合溶液からなる薄膜に注入している。混合溶液からなる薄膜に水分を注入した後熱アニールを行うので、あえて400℃以上の高温にして前駆体の熱分解を行う必要がない。180℃以上275℃以下の低温であっても、十分に反応系内の脱離基成分を除去することができる。従って、混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置いて、混合溶液に積極的に水分を注入させ、混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させることによって、混合溶液に対する熱アニール温度を下げることができる。その結果、プラスチック基板といった比較的耐熱性の低い基板でもアモルファス金属酸化物半導体を形成することが可能となる。
【0018】
ここで、前記熱アニール工程は、180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールと(以後、第1工程という)、前記水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールの後、180℃以上275℃以下の温度範囲にて、非水蒸気雰囲気下で行われる熱アニール(以後、第2工程という)とを含む。
【0019】
本態様では、ゲル化と脱離基成分を積極的に除去するための熱アニールとを分離する。まず水蒸気雰囲気下に置くことで混合溶液からなる薄膜を積極的にゲルに変化させ、その上で熱アニールを行う。従って、ゲル化と熱アニールとを分離することによって、混合溶液に対する熱アニール温度を下げることができる。その結果、プラスチック基板といった比較的耐熱性の低い基板も使用が可能となる。
【0020】
ここで、非水蒸気雰囲気下で行われる熱アニール(第2工程)は、水蒸気雰囲気下で行われる熱アニール(第1工程)が終了した後に連続して行われることができる。
【0021】
本態様によると、第1工程と第2工程とを連続して行うことにより、非水蒸気雰囲気下で脱離基成分を除去するとともに十分な酸素を供給しながら金属酸化物の網目構造の形成を良好に行うことができ、残留不純物及び酸素欠損の極めて少ないアモルファス金属酸化物半導体を生成できる。
【0022】
その結果、アモルファス金属酸化物半導体の半導体特性を著しく向上させ、安定させることができる。
【0023】
ここで、水蒸気雰囲気下で行われる熱アニール(第1工程)と非水蒸気雰囲気下で行われる熱アニール(第2工程)とは、同じ温度で行われることができる。
【0024】
本態様によると、第1工程と第2工程とで熱アニールの温度が等しくなるので、工程を簡略化することができる。
【0025】
ここで、前記Inアルコキシドは、第1の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、前記Znアルコキシドは、第2の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、前記第2の温度範囲は前記第1の温度範囲と重複する。
【0026】
本態様によると、Inアルコキシド溶液におけるInアルコキシドの分解温度の温度範囲とZnアルコキシド溶液におけるZnアルコキシドの分解温度の温度範囲とが重複する。これによって、InとZnとが同時期に分解するので、両金属成分の結合が促進される。その結果、アモルファスの状態を安定して形成し、最終生成物としてのアモルファス金属酸化物半導体を安定して生成できる。
【0027】
本態様によると、例えば、InアルコキシドはペンタメリックInアルコキシドクラスタを含み、ZnアルコキシドはZnビスメトキシエトキシドを含み、基板に塗布された薄膜は、水蒸気雰囲気下で210℃以上275℃以下の温度範囲で熱アニールされる。
【0028】
本態様によると、Inアルコキシドは例えばペンタメリックInアルコキシドクラスタを含み、Znアルコキシドは例えばアルキル成分、アリール成分、パーフルオロアルキル成分、パーフルオロアリール成分、または、フルオロハイドロカーボン成分を含む。
【0029】
本態様によると、例えば、ZnアルコキシドはエチルZnプロポキシド、エチルZnブトキシド、エチルZnメトキシエトキシドを含む。
【0030】
本態様によると、前記混合溶液は、さらに、第I族、II族またはIII族の金属アルコキシドの前駆体のグループに含まれる他の金属アルコキシドの前駆体を含む。
【0031】
本態様によると、前記他の金属アルコキシドの前駆体は、例えば、ガリウム、バリウムまたはストロンチウムを含む。
【0032】
本願発明者は、出発物質として金属アルコキシドを用い、ゾルゲル反応を用いて、最終生成物としてアモルファス金属酸化物半導体を生成する。本願発明者は、加水分解反応を示す下記の式1における水の役割および重縮合反応を示す下記の式2または式3に着目した。ゾルゲル反応では、添加した水の量に比例して金属アルコキシドの加水分解反応が進行して式1における一般式M(OR)x−y(OH)で表される中間生成物が生成される。生成された中間生成物の量に比例して式2または式3で表される重縮合反応が進行してアモルファス金属酸化物半導体が生成される。したがって、十分な水分供給がなされる環境下においては、比較的低温の熱アニールでゾルゲル反応を進行させることができる。なお、式1〜式3において、Mは金属を示し、ORはアルキル基を示している。
【0033】
M(OR)+yHO→M(OR)x−y(OH)+(x−y)H−OR (式1)
(RO)M−OH+HO−M(OR)→M−O−M+HO (式2)
(RO)M−OH+RO−M(OR)→M−O−M+R−OH (式3)
【0034】
十分な水分供給がなされる環境下においては、熱アニールは、(i)ゾルゲル反応の副生成物である一般式R-OHで表される有機物、または、(ii)HOを飛散させる(反応系内の脱離基成分を除去して反応の平衡を生成物側に偏らせる)だけの温度であればよく、熱アニールの温度は、加熱のみで前駆体を熱分解する際の温度に比べ、はるかに低温である。本願発明者は、出発物質として、金属アルコキシド溶液に水を加えずに溶液の流動性を保ったまま基板上に塗布して薄膜を容易に塗布形成し、その後、水蒸気雰囲気にさらすことによって金属アルコキシドのゾルゲル反応を進行させて低温にてアモルファス金属酸化物半導体を得ることに想到し、本発明に至った。
【0035】
これにより、本発明は、出発物質として、少なくともInアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液とからなる混合溶液を用い、中間工程として、塗布により基板上に薄膜形成後、210℃以上275℃以下の温度で水蒸気雰囲気下にて熱アニールを行い、最終生成物としてアモルファス金属酸化物半導体を良好な膜質で生成することに成功したものである。
【0036】
例えば、中間工程は、第1工程と第2工程とに分けることができる。第1工程では、水蒸気雰囲気下で、210℃以上275℃以下の温度範囲にて熱アニールを行い、第2工程では、非水蒸気雰囲気下で、210℃以上275℃以下の温度範囲にて熱アニールを行う。
【0037】
ここでの特徴は、
(1)水蒸気雰囲気下で210℃以上275℃以下の温度範囲にて熱アニールを行う点、
(2)水蒸気雰囲気下の第1工程と非水蒸気雰囲気下の第2工程との両者を組合せ、第1工程と第2工程とを連続して行う点、である。
【0038】
特徴(1)により、Inアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液の混合溶液からなる薄膜に対して積極的に水が供給される。これにより、薄膜はゲルに変化し、その状態で連続して熱アニールが行われることになる。
【0039】
この点、従来では、Inアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液の混合溶液からなる薄膜を400℃の高温で熱アニールし、主に熱分解により前駆体の分解を進行させ、ゲルに変化させていた。即ち、高温化を利用して、ゲル化と脱離基成分を積極的に除去するための熱アニールとの双方を行っていたことになる。
【0040】
これに対し、本発明では、混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置くことで、混合溶液に積極的に水分を注入させ、混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させる。
【0041】
この際、従来のように、400℃以上の高温で熱アニールをする過程において、水蒸気が発生し、この水蒸気によって混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させるのではなく、混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置いて、積極的に水分を混合溶液に注入させている。この状態で、熱アニールを行うので、あえて400℃以上の高温にして前駆体の熱分解を行う必要がない。そのため、210℃以上275℃以下の低温であっても、十分にゲル化を進めることができる。即ち、混合溶液を塗布した基板を水蒸気雰囲気下に置いて、積極的に水分を混合溶液に注入させ、混合溶液からなる薄膜をゲルに変化させることによって、混合溶液に対する熱アニール温度を下げることができる。
【0042】
本態様では、ゲル化と脱離基成分を積極的に除去するための熱アニールとを分離する。言い換えれば、まず、水蒸気雰囲気下に置くことで、混合溶液からなる薄膜を積極的にゲルに変化させ、その上で熱アニールを行う。そのため、210℃以上275℃以下の低温であっても、十分に反応系内の脱離基成分を除去することができる。即ち、ゲル化と熱アニールとを分離することによって、混合溶液に対する熱アニール温度を下げることができる。
【0043】
加えて、特徴(2)により、第1工程と第2工程とを連続して行うことにより、非水蒸気雰囲気下で脱離基成分を除去するとともに十分な酸素を供給しながら金属酸化物の網目構造の形成を良好に行うことができ、残留不純物と酸素欠損の極めて少ないアモルファス金属酸化物半導体を生成できる。その結果、移動度及びヒステリシス等の半導体特性も著しく向上させ、安定させることができる。
【0044】
以下、本発明の実施の形態におけるアモルファス金属酸化物半導体の製造方法について、図面を参照しながら説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素は同一の参照符号で示される。
【0045】
図1は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の製造方法を模式的に説明するための断面図である。
【0046】
まず、図1の(a)に示されるように、例えば石英ガラス及びプラスチック等から構成される基板10が準備される。
【0047】
次に、図1の(b)に示されるように、基板10上にゲート電極11が形成される。例えば、基板10上にスパッタ法等によりモリブデンタングステン(MoW)等の金属から構成される金属膜が形成された後、フォトレジストマスク(図示せず)を用いたウェットエッチングが行われ、金属膜が所望の形状にパターニングされる。パターニングされた金属膜はゲート電極11として形成される。
【0048】
次に、図1の(c)に示されるように、ゲート電極11上に酸化シリコン(SiO)、窒化珪素(SiN)及びその積層膜等から構成されるゲート絶縁膜12が形成される。
【0049】
次に、図1の(d)に示されるように、ゲート絶縁膜12上にチャネル層としてのアモルファス金属酸化物半導体層13がゾルゲル法により形成される。アモルファス金属酸化物半導体層13の形成方法の詳細については後述する。
【0050】
次に、図1の(e)に示されるように、アモルファス金属酸化物半導体層13に対してフォトレジストマスク(図示せず)を用いたウェットエッチング等が行われ、アモルファス金属酸化物半導体層13が所望の形状にパターニングされる。
【0051】
次に、図1の(f)に示されるように、アモルファス金属酸化物半導体層13のチャネル方向の両端上に離間してソース電極14及びドレイン電極15がスパッタ法等により形成される。ソース電極14及びドレイン電極15は、それぞれ導電性材料及び合金等の単層構造又は多層構造、例えばアルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銅(Cu)、モリブデンタングステン(MoW)、チタン(Ti)及びクロム(Cr)等により構成される。
【0052】
最後に、図1の(g)に示されるように、薄膜トランジスタ装置の全体を覆うように、パッシベーション膜16が形成される。
【0053】
図2は、上記アモルファス金属酸化物半導体層の形成工程(図1の(d)で示す工程)の詳細を示す断面図である。
【0054】
まず、図2の(a)に示されるように、少なくともInアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液とを含む混合溶液としての金属アルコキシド溶液20が基板10上(厳密には、ゲート絶縁膜12上)に塗布される。
【0055】
次に、図2の(b)に示されるように、基板10に塗布された金属アルコキシド溶液20に対して、水蒸気雰囲気下で210℃以上275℃以下の温度範囲にて熱アニールを行い、金属アルコキシド溶液20に積極的に水分を注入してゾルゲル反応の加水分解反応を進ませる。これにより、加水分解の進んだ薄膜21が形成される。さらに、210℃以上275℃以下の温度で水蒸気雰囲気下にて熱アニールを続けることで、図2の(c)に示されるように、ゾルゲル反応の重縮合反応が進み、重縮合反応の進んだゲル状の薄膜22が形成される。
【0056】
ここで、"水蒸気雰囲気下"とは、金属アルコキシド溶液20に対して積極的に水分が付加(注入)されている状態をいい、例えば、アモルファス金属酸化物半導体層の形成工程が行われる雰囲気中の湿度よりも高い湿度下をいう。このような状態は、アモルファス金属酸化物半導体層13の形成が行われる容器内の湿度を一定に制御して大気中の湿度よりも高くして例えば100%としたり、水蒸気を基板10に塗布された金属アルコキシド溶液20に吹き付けたりすることにより実現される。
【0057】
次に、図2の(d)に示されるように、図2の(b)及び図2の(c)の工程に連続して、ゲル状の薄膜21(基板10上に塗布された金属アルコキシド溶液20)に対して非水蒸気雰囲気下で210℃以上275℃以下の温度範囲にて熱アニールを行う。これにより、有機物及びHO等の脱離基成分が積極的に除去されて重縮合反応がさらに進められ、混合溶液からゾルゲル反応の最終生成物としてのアモルファス金属酸化物半導体層13が生成される。
【0058】
ここで、"非水蒸気雰囲気下"とは、金属アルコキシド溶液20に対して積極的に水分が付加されていない状態をいい、例えばアモルファス金属酸化物半導体層の形成工程が行われる雰囲気中の湿度下をいう。このような状態は、アモルファス金属酸化物半導体層13の形成が行われる容器内の湿度を一定に制御して大気中の湿度としたり、大気中で基板10に塗布された金属アルコキシド溶液20に対して熱アニールを行ったりすることにより実現される。
【0059】
なお、ゾルゲル反応における加水分解反応及び重縮合反応は、図2の(b)及び図2の(c)で示される別々の工程に分けて示した。しかし、ゾルゲル反応において加水分解反応及び重縮合反応は連続して進むため、図2の(b)及び図2の(c)の工程は、210℃以上275℃以下の温度で水蒸気雰囲気下にて、基板10上に塗布された金属アルコキシド溶液20に対して熱アニールするという1つの工程にまとめられてもよい。
【0060】
また、図2の(b)及び図2の(c)に示される工程において、210℃以上275℃以下の温度範囲の熱アニールにより最終生成物としてアモルファス金属酸化物半導体層13が生成される場合には、図2の(d)で示される非水蒸気雰囲気下での熱アニールの工程は行われなくてもよい。従って、以下では、単に熱アニールというときは、図2の(b)及び図2の(c)で示される水蒸気雰囲気下での熱アニール(以下、ウェットアニールと記載する)と図2の(d)で示される非水蒸気雰囲気下での熱アニール(以下、ドライアニールと記載する)とを区別せず、金属アルコキシド溶液20からアモルファス金属酸化物半導体層13を得るための熱アニールを示すものとする。
【0061】
図3Aは、薄膜トランジスタ装置におけるアモルファス金属酸化物半導体層の二次イオン質量分析(SIMS Secondary Ion Mass Spectrometry)により得られた深さ方向(厚さ方向)での炭素(C)及び水素(H)の濃度分布を示す図である。図3Bは、同アモルファス金属酸化物半導体層の透過率の波長依存性を示す図である。
【0062】
なお、図3A及び図3Bにおいて、実線は熱アニールの温度を250℃として図1(a)〜(g)の方法により製造された本実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置における濃度分布を示し、破線は熱アニールの温度を250℃として従来の薄膜トランジスタ装置における濃度分布を示している。
【0063】
また、図3Aにおいて、横軸である時間はアモルファス金属酸化物半導体層の深さに対応するものであり、0minはアモルファス金属酸化物半導体層の表面を示し、300minはゲート絶縁膜との界面を示している。
【0064】
図3Aより、本実施の形態に係るアモルファス金属酸化物半導体層では、従来のアモルファス金属酸化物半導体層と比較してゲート絶縁膜との界面での炭素濃度が低く、不純物濃度が低くなっていることが分かる。また、図3Bより、本実施の形態に係るアモルファス金属酸化物半導体層では、従来のアモルファス金属酸化物半導体層と比較して全体的に透過率が高く、不純物濃度が低くなっていることが分かる。従って、本実施の形態に係るアモルファス金属酸化物半導体層では、高いオン電流が実現可能な構成となっていることが分かる。
【0065】
図3Cは、金属アルコキシド溶液20を構成するInアルコキシド溶液の分解温度を導出するための、10℃/minの時間変化を示す炉内における5mgのInアルコキシド溶液からの発生ガスの質量の相対的な時間変化を示す図である。図3Dは、金属アルコキシド溶液20を構成するZnアルコキシド溶液の分解温度を導出するための、10℃/minの時間変化を示す炉内における5mgのZnアルコキシド溶液からの発生ガスの質量の相対的な時間変化を示す図である。
【0066】
図3Cより、金属アルコキシド溶液20を構成するInアルコキシド溶液については、190℃以上325℃以下でInアルコキシド溶液が分解した際に生じるガスが発生しており、分解温度の範囲が190℃以上325℃以下(第1の温度範囲)のInアルコキシドの脱水アルコール溶液であることが分かる。また、図3Cより、金属アルコキシド溶液20を構成するZnアルコキシド溶液は、190℃以上325℃以下でZnアルコキシド溶液が分解した際に生じるガスが発生しており、分解温度の範囲が第1の温度範囲と重複する190℃以上325℃以下(第2の温度範囲)のZnアルコキシドの脱水アルコール溶液であることが分かる。従って、Inアルコキシド溶液及びZnアルコキシド溶液が類似した反応性を有し、同時期に分解するため、ゾルゲル反応においてInとZnとの結合が促進されると推測される。
【0067】
以下、図1の方法により製造された本実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置の特性評価の結果を図4A〜図4B、図5A〜図5F、図6A〜図6C、図7A〜図7D、図9A〜図9F、図11A〜図11E、図13A〜図13C及び図14A〜図14Cに示す。また、ゾルゲル反応を非水蒸気雰囲気下の高温で進めてアモルファス金属酸化物半導体層を形成した比較例としての薄膜トランジスタ装置の特性評価の結果を図4C〜図4Eに示す。
【0068】
なお、本実施の形態における薄膜トランジスタ装置の特性は、移動度、ヒステリシス、ターンオン電圧のパラメータを用いて表すことができる。前記移動度は、ドレイン電流(I)−ゲート電圧(VGS)特性の傾きから求められる。前記ヒステリシスは、ゲート電圧を負から正に変化させた時のドレイン電流のゲート電圧依存性と、ゲート電圧を正から負に変化させた時のドレイン電流のゲート電圧依存性の両者においてドレイン電流10nAを与える2つのゲート電圧の差である。また、前記ターンオン電圧は、オン特性の立ち上がり電圧を示し、log(I)−VGSの傾きが最大となるゲート電圧として定義される。
【0069】
図4Aは、熱アニールの温度を275℃としたときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図4Aにおいて、移動度(図4AのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図4AのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。図4Bは、同薄膜トランジスタ装置のドレイン電流のドレイン電圧依存性を異なるゲート電圧毎に示す図である。
【0070】
ここで、図4Aに係る薄膜トランジスタ装置の製造においては、熱アニールは水蒸気雰囲気下で行われており、上述したウェットアニールが行われていることになる。なお、図4Aに関し、ターンオン電圧および移動度を上述した定義に基づいて求めた結果、ターンオン電圧Vonが0V、最大の移動度が12.09cm/Vsとなっている。
【0071】
一方、図4C〜図4Eは、図4A、図4Bに対する比較例に該当し、それぞれ熱アニールの温度を275℃、350℃及び450℃としたときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図4C〜図4Eにおいて、移動度(図4C〜図4EのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。ここで、図4C〜図4Eに係る薄膜トランジスタ装置の製造においては、図4Aの場合と異なり、熱アニールは水蒸気雰囲気下で行われておらず、ドライアニールが行われている。このとき、ドライアニール時間は2hrである。
【0072】
なお、図4C〜図4Eに関し、ターンオン電圧および移動度を上述した定義に基づいて求めた結果、図4Cの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−4V、最大の移動度が0.06cm/Vsとなっている。図4Dの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、最大の移動度が1.4cm/Vsとなっている。図4Eの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−12V、最大の移動度が13.8cm/Vsとなっている。
【0073】
図4A、図4Bより、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置では、275℃という低温の熱アニール温度にて、アモルファスシリコンを使った従来の薄膜トランジスタ装置を超える移動度つまり1cm/Vs以上の移動度が実現されていることが分かる。
【0074】
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ装置では、ドライアニール処理のみを用いてゾルゲル法により製造された薄膜トランジスタ装置(図4C〜図4E)と比較して、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の点で良好な特性が実現されていることが分かる。
【0075】
なお、図4A、4Bに係る本実施の形態では、アニール処理としてウェットアニールのみが行われており、そのアニール温度が275℃であったが、ウェットアニール温度としては275℃よりも更に低温度である例えば230℃であっても良い。この実施形態は、後述する図11Aに示す通り、アモルファスシリコンを使った従来の薄膜トランジスタ装置を超える移動度つまり1cm/Vs以上の移動度が実現され、また、図4C〜図4Eと比較して、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の点で良好な特性が実現されていることが分かる。
【0076】
このことより、アニール処理としてウェットアニールのみが行われる形態では、ウェットアニール温度が少なくとも230℃以上275℃以下である場合、良好な特性が得られる。なお、アニール温度の下限値としては、以下に説明する他の実施形態も考慮すると、210℃であれば、良好な特性が得られると考えられる。
【0077】
図5Aは、熱アニールを260℃の温度で2時間行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。同様に、図5B〜図5Fは、それぞれ熱アニールを245℃、230℃、220℃、210℃、及び200℃の温度で2時間行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図5A〜図5Fにおいて、移動度(図5A〜図5FのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図5A〜図5FのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0078】
なお、上述した各特性の定義に基づいて求めた結果、図5Aの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが0.7V、最大の移動度が9.6cm/Vsとなっている。図5Bの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが0.8V、最大の移動度が6.2cm/Vsとなっている。図5Cの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが1.9V、最大の移動度が4.6cm/Vsとなっている。図5Dの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが1V、ヒステリシスが4.1V、最大の移動度が3.9cm/Vsとなっている。図5Eの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが1V、ヒステリシスが2.4V、最大の移動度が4.3cm/Vsとなっている。図5Fの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−2V、ヒステリシスが21V、最大の移動度が0.1cm/Vsとなっている。
【0079】
図6Aの黒い三角("黒塗△")は、図5A〜図5Fより得られた結果をまとめたものであり、移動度の熱アニール温度依存性を示す図である。ここで、図5Fに対応する移動度は、図5A〜5Eに対応する移動度に較べ、極端に小さい値を示し、特性上,好ましくないと考えられる。
【0080】
同様に、図6Bの黒い三角("黒塗△")は、図5A〜図5Fより得られた結果をまとめたものであり、ヒステリシスの熱アニール温度依存性を示す図である。なお、図5Fによれば、ヒステリシスは21Vであり、図外に位置しており、図示していない。
【0081】
また、図6Cの黒い三角("黒塗△")は、図5A〜図5Fより得られた結果をまとめたものであり、ターンオン電圧Vonの熱アニール温度依存性を示す図である。ここで、図6A〜図6Cにおいて、黒い三角"黒塗△"と共に黒丸"●"が図示されているが、黒丸"●"については、図14A〜14Cに基づくデータであり、詳細は後述する。
【0082】
図4A及び図4B、図5A〜図5F並びに図6A〜図6Cより、熱アニールについて、210℃以上275℃以下の温度範囲でオン電流が高く、オンオフ特性に優れた薄膜トランジスタ装置が実現されることが分かる。
【0083】
図7Aは、ウェットアニールを20min行った後でドライアニールを230℃で100min行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ドライアニール温度を230℃として図8の(a)の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【0084】
図7Bは、ウェットアニールを15min行った後でドライアニールを230℃で105min行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ドライアニール温度を230℃として図8の(b)の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【0085】
図7Cは、ウェットアニールを21min行った後でドライアニールを220℃で99min行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ドライアニール温度を220℃として図8の(a)の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。
【0086】
図7Dは、ウェットアニールを15min行った後でドライアニールを220℃で105min行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ドライアニール温度を220℃として図8の(b)の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図7A〜図7Dにおいて、移動度(図7A〜図7DのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図7A〜図7DのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0087】
なお、上述した各特性の定義に基づいて求めた結果、図7Aの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが1.9V、最大の移動度が4.6cm/Vsとなっている。図7Bの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが1V、ヒステリシスが0.9V、最大の移動度が6.5cm/Vsとなっている。図7Cの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが1V、ヒステリシスが4.1V、最大の移動度が3.9cm/Vsとなっている。図7Dの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが1.5V、最大の移動度が9.0cm/Vsとなっている。
【0088】
図7A〜図7Dより、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の観点からウェットアニールの時間は15minが好ましいことが分かる。
【0089】
図9A〜図9Fは、熱アニールを2時間行う上でウェットアニールを230℃、ドライアニールをそれぞれ210℃、230℃、245℃、260℃、190℃及び200℃で行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ウェットアニール温度を230℃、ドライアニール温度を210℃、230℃、245℃、260℃、190℃又は200℃として図10の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。なお、図9A〜図9Fにおいて、移動度(図9A〜図9FのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図9A〜図9FのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0090】
工程の簡略化の観点からウェットアニール温度とドライアニール温度とが同じであることが好ましいが、図9A〜図9Fより、ウェットアニール温度とドライアニール温度とが同じでなくても良好なターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度が得られることが分かる。具体的には、図9A〜図9Fに示すように、ウェットアニール温度230℃において、ドライアニール温度が210℃、230℃、245℃、260℃の場合が、190℃、200℃の場合よりも、良好な特性が得られる。
【0091】
図11A〜図11Eは、230℃の熱アニールを行う上で、ウェットアニールを20min行った後、ドライアニールをそれぞれ0min、5min、15min、30min及び60min行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、図11A〜図11Eは、ドライアニール温度を230℃、ドライアニールの時間を0min、5min、15min、30min又は60minとして図12の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。なお、図11A〜図11Eにおいて、移動度(図11A〜図11EのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図11A〜図11EのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0092】
図13Aは、移動度のドライアニール時間に対する依存性を、ドライアニール温度が210℃、220℃及び230℃の場合それぞれについて示す図である。同様に、図13Bは、ヒステリシスのドライアニール時間に対する依存性を、ドライアニール温度が210℃、220℃及び230℃の場合それぞれについて示す図である。また、図13Cは、ターンオン電圧Vonのドライアニール時間に対する依存性を、ドライアニール温度が210℃、220℃及び230℃の場合それぞれについて示す図である。
【0093】
図11A〜図11E及び図13A〜図13Cより、ウェットアニール温度とドライアニール温度が等しい場合、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の観点から、ウェットアニールの時間が20minにおいては、ドライアニールの時間は30minが好ましいことが分かる。また、図11Aより、ドライアニールが行われず、ウェットアニールのみが行われた場合でも良好なターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度が得られることが分かる。
【0094】
図14A〜図14Cは、ウェットアニールを15min、ドライアニールを30min行う上でウェットアニール温度をそれぞれ230℃、220℃及び210℃としたときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。つまり、ドライアニール温度及びウェットアニール温度を230℃、220℃又は210℃として図15の条件で熱アニールが行われた薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図14A〜図14Cにおいて、移動度(図14A〜図14CのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図14A〜図14CのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0095】
なお、上述した各特性の定義に基づいて求めた結果、図14Aの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが0.9V、最大の移動度が7.7cm/Vsとなっている。図14Bの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが1.6V、最大の移動度が6.5cm/Vsとなっている。図14Cの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが1V、ヒステリシスが1.7V、最大の移動度が6.3cm/Vsとなっている。
【0096】
上述した図6Aの黒丸("●")は、図14A〜図14Cより得られた結果をまとめたものであり、移動度の熱アニール温度依存性を示す図である。同様に、図6Bの黒丸("●")は、図14A〜図14Cより得られた結果をまとめたものであり、ヒステリシスの熱アニール温度依存性を示す図である。また、図6Cの黒丸("●")は、図14A〜図14Cより得られた結果をまとめたものであり、ターンオン電圧Vonの熱アニール温度依存性を示す図である。
【0097】
図6A〜図6C及び図14A〜図14Cより、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の観点から、ウェットアニールおよびドライアニールを連続して行う形態においては、両アニール温度は210℃以上260℃以下が、より好ましい。さらに、両アニール温度は210℃以上230℃以下であり、かつ、ウェットアニール時間は15min、ドライアニール時間は30minであることがさらに好ましいことが分かる。
【0098】
以上のように、本実施の形態の薄膜トランジスタ装置の製造方法によれば、210℃以上275℃以下という低温でゾルゲル反応を進めてアモルファス金属酸化物半導体の薄膜を形成することができる。
【0099】
(変形例1)
次に、本実施の形態の薄膜トランジスタ装置の製造方法の変形例について説明する。本変形例では、本実施の形態と異なる点を中心に説明する。その他の構成等は、本実施の形態と同等であるので、説明を省略する。
【0100】
本実施の形態の薄膜トランジスタ装置の製造方法では、アモルファス金属酸化物半導体層13がInアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液とを含む金属アルコキシド溶液20を用いたゾルゲル法により形成されるとした。本変形例の薄膜トランジスタ装置の製造方法は、アモルファス金属酸化物半導体層13がInアルコキシド溶液とZnアルコキシド溶液とGaアルコキシド溶液とを含む金属アルコキシド溶液20を用いたゾルゲル法により形成される点で本実施の形態の薄膜トランジスタ装置の製造方法と異なる。
【0101】
図16A及び図16Bは、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置の特性評価の結果を示す図である。
【0102】
図16Aは、熱アニールの温度を275℃としたときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図16Bは、同薄膜トランジスタ装置のドレイン電流のドレイン電圧依存性を異なるゲート電圧毎に示す図である。
【0103】
図16A、図16Bより、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置では、275℃という低温の熱アニール温度にて、アモルファスシリコンを使った従来の薄膜トランジスタ装置を超える移動度つまり1cm/Vs以上の移動度が実現されていることが分かる。また、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置では、ドライアニール処理のみを用いてゾルゲル法により製造された薄膜トランジスタ装置(図4C〜図4E)と比較して、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の点で良好な特性が実現されていることが分かる。
【0104】
以上、本発明のアモルファス金属酸化物半導体の製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、この実施の形態の限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲内で当業者が思いつく各種変形を施したものも本発明の範囲内に含まれる。
【0105】
例えば、上記した本実施の形態では、第1工程と第2工程とを連続して行っていたが、この連続という用語は、実施形態のように、時間的な連続性を意味する以外に、第1工程と第2工程をこの順番で行うという処理順番上の連続性を意味してもよく、この処理順番上の連続性を除外するものではない。
【0106】
また、上記した本実施の形態の変形例では、金属アルコキシド溶液はGaアルコキシド溶液を含むとしたが、この代わりに、ストロンチウム又はバリウム等の第I族、II族またはIII族の金属を含む金属アルコキシド溶液を含んでいてもよい。
【0107】
また、上記した本実施の形態では、InZn酸化物(InZnO)及びInGaZn酸化物(InGaZnO)の分子前駆体として表1に示したように、ペンタメリックInアルコキシドクラスタ[In(μ−O)(μ−OPr(μ−OPr(OPr]、Gaトリスイソプロポキシド[Ga(OPr、及びZnビスメトキシエトキシド[Zn(OCOCH]が選択されてもよい。
【0108】
【表1】

【0109】
(変形例2)
本変形例では、上記した実施の形態と異なる点を中心に説明する。その他の構成等は、本実施の形態と同等であるので、説明を省略する。
【0110】
本変形例における薄膜トランジスタ装置の製造方法は、金属アルコキシド溶液20を使用したゾルゲル法により形成される点が上記した実施の形態におけるアモルファス金属酸化物層13における薄膜トランジスタ装置の製造方法と異なっている。ここで、金属アルコキシド溶液20は、前駆体として、アルキル成分、アリール成分、パーフルオロアルキル成分、パーフルオロアリール成分またはフルオロハイドロカーボン成分のうち少なくとも1種類を含む。
【0111】
図17A〜図17Cおよび図18A、図18Bは、それぞれ本変形例に係る薄膜トランジスタ装置の特性評価の結果を示す図である。表2は、アルキルZnアルコキシドの構成を示している。
【0112】
【表2】

【0113】
図17Aは、InアルコキシドとしてのペンタメリックInアルコキシドクラスタ[In(μ−O)(μ−OPr(μ−OPr(OPr]と表2に示されたアルキルZnアルコキシドとしてのエチルZnプロポキシド[PrOZnEt]を用いて熱アニールを230℃の温度で2時間行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。同様に、図17B及び図17Cは、それぞれ、図17BにZnアルコキシドとして挙げられているエチルZnブトキシド[BuOZnEt]と図17CにアルキルZnアルコキシドとして挙げられているエチルZnメトキシエトキシド[MeOCOZnEt]を用いて、熱アニールを230℃の温度で2時間行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図17A〜図17Cにおいて、移動度(図17A〜図17CのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図17A〜図17CのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0114】
図17A〜図17Cに示す薄膜トランジスタ装置に関しては、ターンオン電圧Von、ヒステリシス及び最大の移動度は、上記した実施の形態に示されたそれぞれの特徴の定義に基づいて抽出されている。その結果、図17Aの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが0.9V、最大の移動度が9.0cm/Vsとなっている。また、図17Bの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが1.0V、最大の移動度が4.6cm/Vsとなっている。さらに、図17Cの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが1.1V、最大の移動度が4.8cm/Vsとなっている。
【0115】
図17A〜図17Cより、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置では、230℃という低温の熱アニール温度にて、アモルファスシリコンを使った従来の薄膜トランジスタ装置を超える移動度つまり1cm/Vs以上の移動度が実現されていることが分かる。また、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置では、ドライアニール処理のみを用いてゾルゲル法により製造された薄膜トランジスタ装置(図4C〜図4E)と比較して、ターンオン電圧、ヒステリシス及び移動度の点で良好な特性が実現されていることが分かる。
【0116】
図18Aは、InアルコキシドとしてのペンタメリックInアルコキシドクラスタ[In(μ−O)(μ−OPr(μ−OPr(OPr]とアルキルZnアルコキシドとしてのエチルZnプロポキシド[PrOZnEt]を有する薄膜トランジスタ装置を200℃で2時間熱アニールを行ったときの、薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。同様に、図18Bは、同じ金属アルコキシド溶液を用いて、熱アニールを180℃の温度で2時間行ったときの薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図18A及び図18Bにおいて、移動度(図18A及び図18BのA)は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図18A及び図18BのB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0117】
図18A及び図18Bに示す薄膜トランジスタ装置に関しては、ターンオン電圧Von、ヒステリシス及び最大の移動度は、上記した実施の形態に示されたそれぞれの特徴の定義に基づく。その結果、図18Aの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−2V、ヒステリシスが0.8V、最大の移動度が4.8cm/Vsとなっている。さらに、図18Bの薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが0V、ヒステリシスが2.2V、最大の移動度が1.4cm/Vsとなっている。
【0118】
図18A及び図18Bのように、本変形例の薄膜トランジスタ装置の製造方法によれば、200℃または180℃という低温でゾルゲル反応を進めてアモルファス金属酸化物半導体の薄膜を形成することができる。
【0119】
本変形例によると、上記した実施の形態と比較して低温領域の熱アニールを行った薄膜トランジスタについて、上記した所定の特徴を得ることができる。この要因は、以下のように推論される。
【0120】
具体的には、Znアルコキシドとして、上記した実施形態ではZn(OR)nで表される化学構造を用いたが、本実施例では、RZnOR’で表される化学構造を用いることにより、Znアルコキシドの分解温度が低下でき、その結果として、熱アニール温度を低下させた場合においても、良好な薄膜トランジスタが得られたと推論される。
【0121】
さらに、本変形例に係る薄膜トランジスタの製造方法において、TFTの特性は、金属アルコキシド溶液20からアモルファス金属酸化物半導体層13を得るために水蒸気雰囲気下で行う熱アニール過程における雰囲気中に含まれる酸素濃度をさらに増加させることによって改善される。本態様によると、十分な酸素を供給しながら金属酸化物の網目構造の形成を良好に行うことができるので、酸素欠損の極めて少ないアモルファス金属酸化物半導体を生成できる。このような状態は、例えば、(i)容器中の湿度が大気中の湿度よりも高くなるように、アモルファス金属酸化物半導体層13を形成するための容器中に水蒸気を含むガスを供給する、及び、(ii)同時に、容器中の酸素濃度が大気中の酸素濃度よりも高くなるように、比較的高い酸素濃度のガスを供給する、ことによって実現される。ここで、水蒸気は加熱による水の水蒸気化により得られるが、過酸化水素Hを含む水を用いることも有用である。これは、加熱により、式4に示すような水蒸気と酸素を含むガスが生成される反応に基づいて過酸化水素が水と酸素に分解され、それゆえに水蒸気の供給により同時に酸素を供給することができるためであるからである。
【0122】
2H→2H0+0(式4)
【0123】
図19は、本変形例に係る薄膜トランジスタ装置の特性評価の結果を示す図である。図19は、InアルコキシドとしてのペンタメリックInアルコキシドクラスタ[In(μ−O)(μ−OPr(μ−OPr(OPr]とアルキルZnアルコキシドとしてのエチルZnプロポキシド[PrOZnEt]を有する薄膜トランジスタを、過酸化水素Hを含む水を加熱することにより水蒸気と酸素を含む混合ガス雰囲気中で180℃で2時間熱アニールを行ったときの、薄膜トランジスタ装置の移動度及びドレイン電流のゲート電圧依存性を示す図である。図19において、移動度(図19のA)のゲート電圧依存性は黒及び白の四角("黒塗□"及び"□")を用いて示され、ドレイン電流(図19のB)のゲート電圧依存性は実線を用いて示される。
【0124】
図19に示す薄膜トランジスタ装置に関しては、ターンオン電圧Von、ヒステリシス及び最大の移動度は、上記した実施の形態に示されたそれぞれの特徴の定義に基づく。その結果、図19の薄膜トランジスタ装置では、ターンオン電圧Vonが−1V、ヒステリシスが1.4V、最大の移動度が1.7cm/Vsとなっている。図19のように、本変形例の薄膜トランジスタ装置の製造方法によれば、180℃という低温でゾルゲル反応を進めてアモルファス金属酸化物半導体の薄膜を形成することができる。
【0125】
さらに、上記した実施の形態においては、前駆体として少なくともInアルコキシド及びZnアルコキシドの溶液を含む混合溶液から、基板10の上に薄膜が形成される。しかし、基板10上に、薄膜が、少なくとも1つの前駆体が金属アルコキシドになる少なくとも2つの前駆体の混合溶液から形成されるのであれば、前駆体はInアルコキシド溶液およびZnアルコキシド溶液に限られる必要はない。
【0126】
さらに、上記した実施の形態では、アモルファス金属酸化物半導体が形成されているが、金属酸化物半導体が形成されるのであれば、アモルファスである必要はない。
【0127】
さらに、上記した実施の形態では、金属酸化物半導体は、水蒸気雰囲気中での熱アニールによって、基板上に塗布された混合溶液から形成された薄膜を硬化することによって形成されている。しかし、金属酸化物半導体は、水性触媒の存在下で、基板上に塗布された薄膜を硬化することで形成されてもよい。
【0128】
このとき、金属アルコキシドの前駆体の熱分解温度よりも低い温度で、基板上に塗布された薄膜を熱アニールして硬化することが好ましい。混合溶液が前駆体としてInアルコキシド溶液及びZnアルコキシド溶液を含む場合、Inアルコキシドは第1の温度範囲内に収まる分解温度をもち、Znアルコキシドは第1の温度範囲に重複する第2の温度範囲内に収まる分解温度を持つ。第1の温度範囲は190℃以上325℃以下の全てであり、第2の温度範囲は190℃以上325℃以下の全てである。
【0129】
例えば、基板上に形成された薄膜の熱アニールは、300℃より低い温度で行われる。
【0130】
特に、基板上に塗布された薄膜は、180℃以上275℃以下の全ての温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で熱アニールされることで形成される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、酸化物半導体に利用でき、特に電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)等に利用することができる。
【符号の説明】
【0132】
10 基板
11 ゲート電極
12 ゲート絶縁膜
13 アモルファス金属酸化物半導体層
14 ソース電極
15 ドレイン電極
16 パッシベーション膜
20 金属アルコキシド溶液
21、22 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体が金属アルコキシドである混合溶液を基板上に塗布する工程と、
水性触媒の存在下で前記基板上に塗布された薄膜を硬化して前記混合溶液から金属酸化物半導体を形成する工程とを含む
金属酸化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化する工程は、前記基板上に塗布された前記薄膜を、前記金属アルコキシドの前駆体の熱分解温度よりも低温で熱アニールする工程を有する
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板上に塗布された前記薄膜の前記熱アニールは、300℃より低い温度で行われる
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板上に塗布された前記薄膜の前記熱アニールは、180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で行われる
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アモルファス金属酸化物半導体は、前記塗布された薄膜を熱アニールすることにより、前記塗布された薄膜から形成される
請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体はInアルコキシドであり、前記少なくとも2つの前駆体のうちの他の前記前駆体はZnアルコキシドである
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記Inアルコキシドは、第1の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、
前記Znアルコキシドは、第2の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、前記第2の温度範囲は前記第1の温度範囲と重複する
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の温度範囲は190℃以上325℃以下の温度範囲であり、前記第2の温度範囲は190℃以上325℃以下の温度範囲である
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アモルファス金属酸化物半導体を含むチャネル層を形成する工程を含み、
前記チャネル層を形成する工程は、
少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体が金属アルコキシドである混合溶液を基板上に塗布する工程と、
水性触媒の存在下で前記基板上に塗布された薄膜を硬化して前記混合溶液から金属酸化物半導体を形成する工程とを含む
薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項10】
少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体がInアルコキシド溶液であり少なくとも2つの前駆体のうちの他の前記前駆体がZnアルコキシド溶液である混合溶液を、基板上に塗布する工程と、
180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で、前記基板上に塗布された前記混合溶液に対して熱アニールを行って前記混合溶液から金属酸化物半導体を形成する熱アニール工程とを含む
アモルファス金属酸化物半導体の製造方法。
【請求項11】
前記熱アニール工程は、
180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールと、
前記水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールの後、180℃以上275℃以下の温度範囲にて、非水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールとを含む
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールは、
前記水蒸気雰囲気下で行われる熱アニールが終了した後に連続して行われる
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記水蒸気雰囲気で行われる前記熱アニールと前記非水蒸気雰囲気で行われる前記熱アニールとは、同じ温度で行われる
請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記Inアルコキシドは、第1の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、
前記Znアルコキシドは、第2の温度範囲内に収まる分解温度を持ち、前記第2の温度範囲は前記第1の温度範囲と重複する
請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の温度範囲は190℃以上325℃以下の温度範囲であり、前記第2の温度範囲は、190℃以上325℃以下の温度範囲である
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Inアルコキシドは、ペンタメリックInアルコキシドクラスタを含み、
前記Znアルコキシドは、Znビスメトキシエトキシドを含み、
前記基板上に塗布された前記薄膜は、210℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で熱アニールされる
請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記Inアルコキシドは、ペンタメリックInアルコキシドクラスタを含み、
前記Znアルコキシドは、アルキル成分、アリール成分、パーフルオロアルキル成分、パーフルオロアリール成分、または、フルオロハイドロカーボン成分を含む
請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ZnアルコキシドはエチルZnプロポキシド、エチルZnブトキシド、または、エチルZnメトキシエトキシドを含む
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記混合溶液は、さらに、第I族、II族またはIII族の金属アルコキシドの前駆体に含まれる他の金属アルコキシドの前駆体を含む
請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
他の金属アルコキシドの前駆体は、ガリウム、バリウムまたはストロンチウムを含む
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
アモルファス金属酸化物半導体を含むチャネル層を形成する工程を含み、
前記チャネル層を形成する工程は、
少なくとも2つの前駆体のうちの一の前記前駆体がInアルコキシド溶液であり少なくとも2つの前駆体のうちの他の前記前駆体がZnアルコキシド溶液である混合溶液を、基板上に塗布する工程と、
180℃以上275℃以下の温度範囲にて、水蒸気雰囲気下で、前記基板上に塗布された前記混合溶液に対して熱アニールを行って前記混合溶液からアモルファス金属酸化物半導体を形成する熱アニール工程とを含む
薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【公表番号】特表2013−521643(P2013−521643A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555476(P2012−555476)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【国際出願番号】PCT/GB2010/001730
【国際公開番号】WO2012/035281
【国際公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(501484851)ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
【Fターム(参考)】