説明

鈴型カプセル構造体及びその製造方法

【課題】 各種防音材料に添加される高耐熱性の鈴型カプセルを提供する。
【解決手段】 焼結収縮率の異なる2種のセラミック材料によりコア及びシェルが形成されており、コアとなるセラミック材料の焼結収縮率がシェルとなるセラミック材料の焼結収縮率より大きく、シェルの空孔(カプセル)中で該コアが該空孔と独立に運動しうることを特徴とする鈴型カプセル構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の材料中に分散された時に、高耐熱性で吸音性及び遮音性を発揮するセラミック製鈴型カプセル構造体及びその製造方法に関する。特に、吸音性及び遮音性が要求される自動車用ガラスや車両エンジンブロックに含有させることが好適な鈴型カプセル構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック材料や金属材料からなる無機粉末を焼結させて無機焼結体を得る方法は、たとえば電子部品の製造の技術分野において広く適用されている。
【0003】
他方、自動車、住宅等の建築材料分野、船舶、航空機等の輸送分野、機械、電気、電子分野等では種々の制振材、防音材が用いられている。これらの制振、防音材料は主にアスファルト系、合成ゴム系、合成樹脂系からなる物である。アスファルト系はアスファルトにゴムや熱可塑性エラストマーを配合したものが主であるが、粘着性が高いことや、耐熱性、アスファルト中にゴムや熱可塑性エラストマーを均一に分散させることが難しい等の問題がある。また、合成ゴム系は複雑な配合や加硫工程を有するため加工性に問題がある。
【0004】
特に、自動車用部品に求められる性能としては、エンジンや車外から伝わる振動・騒音を遮断・吸収する制振性、防音性、吸音性がある。例えば、車両用フードパネル(ボンネット)のエンジンルーム側の面には、エンジン等から発生する騒音の漏出を抑制するためにシート状の防音材が取着されている。この種の防音材としては、例えばグラスウール、フェルト等の多孔性吸音材料からなる防音材が採用されている。この吸音材では騒音、即ち、空気の粗密波が入射されると、その内部に形成された微細な空隙内の空気、或いは材料の繊維が振動し、前記粗密波の有する運動エネルギが最終的に熱エネルギに変換されることにより騒音が吸収される。
【0005】
また、多孔性吸音材料からなる防音材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)や再生綿フェルト等を圧縮成形した繊維構成体が自動車用防音材等として幅広く採用されている。
【0006】
更に、塗装工程を終えた自動車用鋼板の表面に、ポリ塩化ビニル系等のプラスチゾルを使用した防音アンダーコートを塗布、乾燥して、車体保護用塗膜を形成することがおこなわれている。特許文献1には、中空状充填剤を配合した塩化ビニルプラスチゾル組成物が開示され、特許文献2には、加熱により膨張する有機中空充填剤或いは特定量の発泡剤を水系塗料組成物に配合した車両部材用の水系塗料が開示されているが、いずれも、セラミック−セラミック系のカプセル構造体を用いるものではなく耐熱性に劣るため、金属材料やガラス材料に添加することはできなかった。
【特許文献1】特開平4−145174号公報
【特許文献2】特開平7−145331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、各種防音材料に添加される高耐熱性の鈴型カプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定素材のコア−シェル構造を有する鈴型カプセルにより上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、第1に、本発明は耐熱性を有する鈴型カプセル構造体の発明であり、焼結収縮率の異なる2種のセラミック材料によりコア及びシェルが形成されており、コアとなるセラミック材料の焼結収縮率がシェルとなるセラミック材料の焼結収縮率より大きく、シェルの空孔(カプセル)中でコアが空孔と独立に運動しうることを特徴とする。即ち、本発明の鈴型カプセル構造体は、コア材とシェル材の間に空間が形成されており、音の振動エネルギーがコア材の運動エネルギーに変換されることによって、優れた吸音性、遮音性、防音性を発揮する。
【0010】
第2に、本発明は鈴型カプセル構造体の製造方法の発明であり、焼結収縮率の異なる2種の無機粉末とバインダとを含むセラミック材料を用意し、焼結収縮率が大きいセラミック材料でコアを成形し、コアの周囲に焼結収縮率が小さいセラミック材料でシェルを成形する工程と、成形体から該バインダを除去した後、成形体を焼成することによって無機焼結体を得る工程を備えることを特徴とする。これにより、シェルの空孔(カプセル)中でコアが空孔と独立に運動しうる鈴型カプセル構造体が製造される。
【0011】
本発明に用いられるセラミック材料としては、焼結の際の収縮率が異なるものであれば、その組み合わせは限定されない。セラミック材料は1種とは限らず2種以上の混合物であっても良い。具体的には、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、ムライト、コーディエライト、アパタイト、及びシリカより選択される1種以上が好ましく例示される。
【0012】
第3に、本発明は上記の鈴型カプセル構造体の用途に関する発明であり、下記に列挙される。
1)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする防音材料。
2)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする金属材料。
3)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするガラス材料。
4)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするセラミック材料。
5)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする樹脂組成物。
6)上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするセメント材料。
7)上記1)〜6)のいずれかに記載の材料からなる自動車部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鈴型カプセルは、セラミック−セラミック構造であることから優れた耐熱性を発揮するとともに、耐圧性(強度)や取り扱いやすさにも優れている。このため、金属材料、ガラス材料、セラミック材料、樹脂材料、セメント材料等へ容易に添加・分散させることができる。
【0014】
また、本発明の鈴型カプセルは、その優れた吸音性、遮音性及び制振性を生かして各種用途に用いられる。例えば、自動車用部品、構造材及び防音材、航空機用部品、構造材及び防音材、電車用部品、構造材及び防音材、家電製品部品、家電製品匡体用構造材及び防音材、建築物の外壁用構造材及び防音材、内張材用構造材及び防音材、屋根材用構造材及び防音材、或いは高速道路、鉄道路線における防音壁用構造材及び防音材等に好適に用いられる。これらの中で、特に、自動車用部品として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本発明の、コア材とシェル材の間に空間が形成された鈴型カプセル構造体の模式的製造プロセスの拡大断面を示す。
【0016】
図1に示すように、焼結収縮率の異なる2種の無機粉末とバインダとを含むセラミック材料を用意し、焼結収縮率が大きいセラミック材料でコアを成形し、コアの周囲に焼結収縮率が小さいセラミック材料でシェルを成形する。次に、成形体から該バインダを除去した後、成形体を焼成することによって無機焼結体を得る。コアはシェルに比べて焼結収縮率が大きいため、コアとシェルの間に空間が生成する。即ち、シェルの空孔(カプセル)中でコアが空孔と独立に運動しうることになる。このように、本発明の鈴型カプセル構造体は、コア材とシェル材の間に空間が形成されており、音の振動エネルギーがコア材の運動エネルギーに変換されることによって、各種材料中に添加・分散されて、優れた吸音性、遮音性、防音性を発揮する。
【0017】
セラミック材料に含まれる無機粉末としては、アルミナ、ジルコニア等の酸化物セラミック材料、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛等の複合酸化物セラミック材料、窒化アルミニウム、窒化珪素、炭化珪素等の非酸化物系セラミック材料等、種々のセラミック原料およびそれらの2種類以上の混合物からなるもの、あるいは、セラミックと金属との複合材料であるサーメット等からなるもの等、焼結可能な材料からなる無機粉末であれば、いずれを用いてもよい。
【0018】
このような無機粉末の平均粒径は特に限定されない。即ち、マイクロオーダーから数センチメーターまでその用途に最適な平均粒径を広く選択することができる。
【0019】
セラミック材料組成物に含まれるバインダとしては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリル系樹脂等の樹脂、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、蜜蝋等のワックス、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸、あるいは、フタル酸エステル等の可塑剤等、現在、バインダとして知られている種々のものを、適宜、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0020】
上述したような無機粉末とバインダとは、十分に混練される。この混練には、加圧式ニーダのような強力なせん断作用が及ぼされる設備を用い、バインダを融解させた状態で行なうことが望ましい。この操作により、バインダは無機粉末間に均一に分散し、得られた混練物は、バインダの融点以上の高温下で流動性を持つようになる。なお、この混練の際に、無機粉末とバインダとの分散性を高めかつ流動性を向上させるために、高級脂肪酸や高級脂肪酸エステル等からなる分散剤を添加してもよい。
【0021】
また、バインダの添加量は、無機粉末とバインダとの合計に対して、30体積%以上60体積%以下であることが望ましい。その理由は、次のとおりである。バインダの添加量が30体積%未満の場合には、無機粉末とバインダとの混練物の流動性が悪く、目的とする形状に成形できないことがあり、また、成形可能な場合でも、得られた焼結体にウェルドラインやフローマークといった成形に起因する欠陥が発生しやすい。他方、バインダの添加量が60体積%を超える場合には、成形体の密度が低くなるため、脱脂および焼成時における変形やひび割れが発生しやすくなる。
【0022】
上記の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする防音材料、金属材料、ガラス材料、セラミック材料、樹脂組成物、セメント材料にも特に制限はない。例えば、金属材料としては、鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金等の鋳造金属材料が好ましく例示される。また、ガラス材料としても特に制限はない。また、セラミック材料としても特に制限はない。また、樹脂組成物としても特に制限はなく、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、強化繊維添加樹脂組成物等が好ましく例示される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性ポリマー、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアミドビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等の熱硬化性樹脂、及びこれらを2種以上ブレンドした樹脂材料を用いることが可能である。また、セメント材料としても特に制限はなく、コンクリート等用添加剤として用いることもできる。
【0023】
特に、本発明の鈴型カプセル構造体を自動車用の各種部品に適用する場合には、例えば、ウィンドシールド等のガラス中に本発明の鈴型カプセル構造体を添加・分散させ車外、車内の騒音・振動を吸音、遮音、防音する。また、自動車エンジンブロックを本発明の鈴型カプセル構造体を添加・分散させた鋳造品で作製し、騒音・振動を吸音、遮音、防音する。その他、吸音性及び遮音性が要求されるダッシュパネル等の自動車用内装材及び外装材に好適な防音材料となる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0025】
[鈴型カプセル構造体の製造]
収縮率大のジルコニアの粉末をバインダーを用いて0.1〜2.0mmに球状に固め、その外側に収縮率小のアルミナの粉末をバインダーとともに、厚さ0.2〜3.0mmになるように球状に成形した。
【0026】
この球状物を振動・攪拌しながら焼成することによって、中央のコア部にジルコニア球体とシェル部にアルミナ壁を有し、コアとシェルの間に空間を有する鈴型カプセル構造体が得られた。
【0027】
[実施例1]
自動車のトランスミッションカバー製造時に、上記鈴型カプセル構造体を1〜20%含有させた。
【0028】
[実施例2]
ガラス製造時に、上記鈴型カプセル構造体を1〜20%含有させた。
【0029】
[比較例1]
自動車のトランスミッションカバー製造時に、従来タイプのシェルが樹脂からなる鈴型カプセル構造体を1〜20%含有させた。この鈴型カプセル構造体は高温により消滅した。
【0030】
[比較例2]
ガラス製造時に、従来タイプのシェルが樹脂からなる鈴型カプセル構造体を1〜20%含有させた。この鈴型カプセル構造体は高温により消滅した。
【0031】
[評価結果]
実施例及び比較例のサンプルについて、下記の方法にて制振性、遮音性を調べた。評価法は以下の通りである。結果を下記表1に示す。
【0032】
制振性:カバーを紐で吊るし、ハンマー加振部と加速度点における伝達特性を測定。
遮音性:遮音測定器における透過損失を測定。
評価基準:「実施例1」を「比較例1」に対し、「実施例2」を「比較例2」に対し、下記の基準で評価した。
◎:51%以上効果アップ
○:21〜50%以上効果アップ
△:0〜20%以上効果アップ
×:効果ダウン
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果より、本発明のセラミック−セラミック型の鈴型カプセルを鋳造部品及びガラスに添加・分散させた材料は、従来タイプのシェルが樹脂からなる鈴型カプセル構造体を添加した場合と比べて、制振性及び遮音性が向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
従来の鈴型カプセルが耐熱性、耐圧性、取扱い性に難点があったのに対し、本発明の鈴型カプセルはセラミック−セラミック構造であることから優れた耐熱性を発揮するとともに、耐圧性(強度)や取り扱いやすさにも優れている。このため、金属材料、ガラス材料、セラミック材料、樹脂材料、セメント材料等へ容易に添加・分散させることができる。
【0036】
また、本発明の鈴型カプセルは、その優れた吸音性、遮音性及び制振性を生かして各種用途に用いられる。例えば、自動車用部品、構造材及び防音材、航空機用部品、構造材及び防音材、電車用部品、構造材及び防音材、家電製品部品、家電製品匡体用構造材及び防音材、建築物の外壁用構造材及び防音材、内張材用構造材及び防音材、屋根材用構造材及び防音材、或いは高速道路、鉄道路線における防音壁用構造材及び防音材等に好適に用いられる。これらの中で、特に、自動車用部品として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の、コア材とシェル材の間に空間が形成された鈴型カプセル構造体の模式的製造プロセスの拡大断面を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結収縮率の異なる2種のセラミック材料によりコア及びシェルが形成されており、コアとなるセラミック材料の焼結収縮率がシェルとなるセラミック材料の焼結収縮率より大きく、シェルの空孔(カプセル)中で該コアが該空孔と独立に運動しうることを特徴とする鈴型カプセル構造体。
【請求項2】
前記セラミック材料が、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、ムライト、コーディエライト、アパタイト、及びシリカより選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の鈴型カプセル構造体。
【請求項3】
焼結収縮率の異なる2種の無機粉末とバインダとを含むセラミック材料を用意し、焼結収縮率が大きいセラミック材料でコアを成形し、該コアの周囲に焼結収縮率が小さいセラミック材料でシェルを成形する工程と、該成形体から該バインダを除去した後、該成形体を焼成することによって無機焼結体を得る工程を備えることを特徴とする、該シェルの空孔(カプセル)中で該コアが該空孔と独立に運動しうる鈴型カプセル構造体の製造方法。
【請求項4】
前記セラミック材料が、ジルコニア、アルミナ、マグネシア、ムライト、コーディエライト、アパタイト、及びシリカより選択される1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の鈴型カプセル構造体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする防音材料。
【請求項6】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする金属材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするガラス材料。
【請求項8】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするセラミック材料。
【請求項9】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の鈴型カプセル構造体を含有することを特徴とするセメント材料。
【請求項11】
請求項5乃至10のいずれかに記載の材料からなる自動車部品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335611(P2006−335611A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163573(P2005−163573)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】