説明

鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法およびその電子部品とプリント基板

【課題】 鉛フリーはんだによるはんだ付けについて塑性ひずみを低減でき、温度サイクル等の疲労に対して耐久性が高くて経時劣化を抑制でき、信頼性が高く得られる鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法を提供すること
【解決手段】 電子部品は略方形状の本体1の端面に端面電極2を設け、当該電極は接面側から見た端面高さの2/3以下に形成する。プリント基板3のパッド部4は、端面電極2の位置からの領域を、端面高さhの2倍以下に形成する。電子部品側では端面電極2は端面高さの2/3以下に制限して設け、プリント基板3側ではパッド部4の領域を端面高さhの2倍以下に形成するので、はんだ付けにおいて、はんだの濡れ上がりと肉厚とをともに適切に制御でき、鉛フリーはんだを用いる場合でも従来と同様にはんだ付けすればよく、はんだフィレット5を理想的な形状に形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法およびその電子部品とプリント基板に関するもので、より具体的には、電子部品(チップ部品)をプリント基板へはんだ付けする実装において、はんだフィレットを適切に形成するため、チップ部品の端面電極とプリント基板のパッド部との取り合い関係の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板に対して電子部品を実装するには、錫,鉛による共晶はんだ(Sn−Pbはんだ)を使用してはんだ付けする方法を採ることが多い。
【0003】
Sn−Pbはんだはよく知られるように、融点が低く、柔らかくて伸びと強度のバランスがとれており、プリント基板と電子部品との間の熱膨張係数のミスマッチによるストレスを吸収することから、はんだ接合について高い信頼性を得ることができ、広く用いられている。
【0004】
しかし、鉛は人体に有害であり自然環境に対する悪影響も強いことから、鉛を含有しない鉛フリーはんだの開発,普及が進められている。鉛フリーはんだは組成金属の種類により数種類あり、3元系の錫−銀−銅の合金や錫−ビスマスの合金などが知られている。例えば組成として、Sn−3.5Ag−0.7Cu,Sn−3.0Ag−0.5Cuなど、また3元系のSn−Ag−Bi,Sn−Cu−Ni(Niは微量添加物),4元系のSn−Ag−Cu−Bi,5元系のSn−Ag−Cu−Bi−Geなど、多くの種類で開発,実用化が進んでいる。鉛フリーはんだは、従来と比べて融点が高くなるため熱破壊や劣化の危険性が高くなるなど、いくつかの問題がある。このため、電子部品の実装に使用する際に適切に対応する必要があり、例えば特許文献1などには、鉛フリーはんだの問題点の指摘と、その対策技術の開示がある。
【0005】
また、プリント基板へはんだ付けする電子部品は、いわゆるチップ部品を想定している。これは、例えば特許文献2,3などに見られるように、チップ状の本体の端面に端面電極を有し、両端に電極を配置した構成を採る。
【特許文献1】特開2002−368362号公報
【特許文献2】特開2002−222702号公報
【0006】
【特許文献3】特開2006−156851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、鉛フリーはんだは多くの種類で開発,実用化が進んでいるが、問題点の一つに、プリント基板と電子部品との間でのストレスの吸収作用が小さいということがある。つまり、電子部品の実装が完了し、完成したプリント基板では、通電時の温度上昇において、プリント基板と電子部品との熱膨張率が異なるために生じるストレスを十分に吸収することができず、微小な塑性ひずみが蓄積されてしまう問題がある。そして、そうしたストレスおよび塑性ひずみがあると、劣化により粒界が粗大化していく強度低下が起きたときに、はんだが耐えることができなくなる。
【0008】
したがって、鉛フリーはんだを使用したプリント基板では、通電の度に塑性ひずみが蓄積されてゆき、ある時点ではんだ接合部(はんだフィレット)の内部にクラックが発生する。さらに使用を続けていくとクラックは成長してはんだ接合部の断裂を起こし、電気的な接続が保てなくなる。
【0009】
また、鉛フリーはんだは、従来のSn−Pbはんだに比べて疲労試験のデータ蓄積量が少なく、使用寿命を予測することが困難である。このため、鉛フリーはんだを用いた製品は経時劣化について信頼性を保証できないという問題が起きる。
【0010】
この発明は上述した課題を解決するもので、その目的は、鉛フリーはんだを用いたはんだ付けについて塑性ひずみを低減でき、温度サイクル等の疲労に対して耐久性が高くて経時劣化を抑制することができ、信頼性が高く得られる鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法およびその電子部品とプリント基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明に係る鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法は、チップ状の本体の端面に端面電極を有する電子部品を、鉛フリーはんだを用いてプリント基板のパッド部へはんだ付けする方法であって、電子部品はプリント基板に搭載した際に端面電極がパッド部に対して垂直となる形状とし、端面電極およびパッド部との間に合金化反応により接合するはんだフィレットが、端面電極側では当該端面高さの1/3から2/3以下となり、パッド部側は端面電極との接合領域よりも広い接合領域となる設定によりはんだ接合を行う(請求項1)。
【0012】
また、はんだフィレットが、端面電極側から略直線的に下る傾斜面を持つ盛り付けとなり、より好ましくは端面電極側からはいくぶん凸状にふくらんだ傾斜面を持つ盛り付けとなる設定によりはんだ接合を行う(請求項2,3)。
【0013】
また、電子部品は、チップ状の本体の端面に端面電極を有し、鉛フリーはんだを用いてプリント基板のパッド部へはんだ付けするものであって、本体は端面が隣接面と直角に取り合う方形状とし、端面電極は、本体の接面側から見た端面高さの2/3以下に形成する(請求項4)。
【0014】
また、端面電極には端面の高さ方向の中央に溝部を設け、当該溝部は本体の接面に沿う方向に延ばして形成して端面電極の天地での分断部位となる形態としたり(請求項5)、あるいは端面電極には端面の高さ方向の中央に凸部を設け、当該凸部は本体の接面に沿う方向に延ばして形成して端面電極の天地での区分部位となる形態とする(請求項6)。
【0015】
また、電子部品は本体の高さサイズが3cm以下とすることがよく(請求項7)、電子部品としては本体内に抵抗素子を有するチップ抵抗器がある(請求項8)。
【0016】
また、鉛フリーはんだによるはんだ接合のためのパッド部を有するプリント基板としては、電子部品を所定に載せた位置関係において、パッド部は端面電極の位置からの領域を、端面高さの2倍以下に形成する(請求項9)。
【0017】
(作用と原理)
図1は、はんだ接合部(はんだフィレット)におけるストレスを説明する断面図であり、チップ状の電子部品,プリント基板は従来の一般的な構成のものである。チップ状の電子部品は本体1の端面に端面電極を有し、プリント基板3上のパッド部に対して所定に搭載してはんだ付けを行い、端面電極とパッド部との間にはんだフィレット5を形成させている。同図に示すプリント基板3には温度サイクルが加わっており、ストレスの様子を矢印により模式的に示している。
【0018】
温度範囲が−60℃〜150℃程度の場合、温度サイクルを加えることでの疲労破壊は、電子部品とプリント基板3との熱膨張率が相違することに起因し、ストレスによるプリント基板3の反りが破壊へ進行する。
【0019】
電子部品が、例えばチップ抵抗器などでは、本体1は一般にフェライト焼結体とするので弾性係数が100〜200GPa程度,熱膨張率は5〜10×−6 /℃程度の特性となる。これに対して、プリント基板3はアルミナを基材としたものや、ガラスをベースにして樹脂含浸したもの、紙をベースに樹脂含浸したものなど、多くの種類があるが、ほとんどは弾性係数が5〜25GPa程度,熱膨張率は15〜25×10−6 /℃程度の特性となっている。
【0020】
したがって、高温または低温に移行すると、電子部品とプリント基板3の熱膨張率の差からストレスが発生する。そして、プリント基板3の弾性係数は電子部品のそれと比べて明らかに小さく柔らかいため、電子部品の変形に比べてプリント基板3の変形量が著しく大きくなり、結果としてプリント基板3が反った形状になる。プリント基板3が反った状態になると、はんだフィレット5内の電子部品の角部の近辺に応力の集中が生じ、局所的に大きなストレスが発生する。
【0021】
鉛フリーはんだでは、前述したように、ストレスの緩和能力が従来の鉛を含むはんだに比べて小さく、塑性ひずみを蓄積する特性がある。蓄積した塑性ひずみはクラックに進行し、さらに温度サイクルの度に拡大して最終的にはんだフィレット5の表層に達する。このように、局所的であっても高い応力が発生する場合は、はんだフィレット5全体の断裂に繋がってしまう。
【0022】
そこで、はんだフィレット5の破壊を防止し、耐疲労性を高めるには、使用時に応力集中部へ蓄積する塑性ひずみの量を小さくすればよい。塑性ひずみは、はんだフィレット5の電子部品側での高さ(濡れ上がり高さ)が、電子部品の端面高さの1/2程度であると小さくなり、はんだフィレット5の肉厚が厚くなることで小さくなる。逆に、はんだフィレット5の断面が凹型で肉厚が薄いと、塑性ひずみは増大しやすい。
【0023】
塑性ひずみの特性は、プリント基板3の反りによって発生する曲げ応力を考えると整合よく説明できる。つまり、はんだフィレット5において濡れ上がり高さが高くなると曲げモーメントが増大し、その曲げモーメントの作用点に当たる応力集中部に生じる応力が増加する。一方、はんだフィレット5において肉厚が減少すると、曲げ応力に抵抗する体積が減少して応力集中部への負担が増加するようになる。また、はんだフィレット5の濡れ上がり高さが、電子部品の端面高さの1/2以下に減少していくと、電子部品とはんだフィレット5との接触面積が減少するので応力集中部への負担が高くなり、全体として応力集中部における塑性ひずみは増加してしまう。これらの傾向は電子部品およびプリント基板3の材料が相違しても変わりはなく、はんだフィレット5の濡れ上がり高さが、電子部品の端面高さの1/2程度であって、はんだフィレット5の表面が平面あるいは凸型となる十分な肉厚のある形態であるとき、塑性ひずみの減少効果を良好に得ることができる。この条件を満たすはんだフィレットが、本発明に係るはんだフィレットであり、後述するように図3に示すはんだフィレット5がそれである。
【0024】
しかし、はんだフィレット5を上述した形態に形成することは容易ではない。はんだは溶融時に電子部品の電極表面を濡れ上がり、溶融はんだと電極表面との親和性(濡れ性)と、はんだ自身の持つ自重や表面張力との釣り合いによりはんだフィレット5を形成する。この溶融はんだは、凝固する直前の融液形状を保って固体化するが、このとき溶融はんだと電極表面との濡れ性は、含有するフラックスの状態,溶融時の温度などの環境条件,電極表面の状態,はんだ自身の不純物量など、多くの要因から影響があり、電子部品の端面全域を覆う従来の一般的な端面電極では、端面高さの1/2程度に濡れ上がりを制御することが難しく、融液形状を理想的なはんだフィレット5に制御することが極めて困難であることが分かっている。
【0025】
濡れ上がりのばらつきを抑えて、はんだフィレット5の形成を制御する方法の一つに、溶融はんだと電極表面との濡れ性を十分高く保ちつつ、供給するはんだ量を少なく設定する方法がある。これは、不安定要因による濡れ性の変化を相対的に小さくして、所望の濡れ上がり高さを確保しようとするものであるが、この場合、はんだ量が少ないため、はんだフィレット5の肉厚を保つことができず、はんだ量を増すと濡れ上がり高さが増加してしまうため、目的のはんだフィレット5を得ることはできない。つまり、はんだ量を増減することでは、はんだフィレット5の形成は図2に点線でそれぞれ示すパターンのようになり、理想的な形状に形成することは難しい。
【0026】
また、はんだフィレット5が凝固した後に、再度はんだを供給して所望のはんだフィレット5を得るようにする、”追いはんだ”と呼ばれる方法もあるが、この場合は作業効率を著しく低下させて製造コストの増加を招いてしまう。
【0027】
このように、溶融はんだの濡れ上がりの高さと肉厚を個別に制御することは難しく、電極表面の1/2程度の濡れ上がりと肉厚を保ったはんだフィレット5を安定して製造することは困難である。
【0028】
本発明にあっては、電子部品の端面の端面電極を端面高さの2/3以下に制限して設けている。このため、溶融はんだの濡れ上がりは端面電極の上縁までしか到達せず、適切に制御することができる。そして、プリント基板のパッド部側でも同様であり、当該パッド部の端縁までしか濡れ広がらないので、はんだの供給量を適切に増やすことで濡れ上がりと肉厚とをともに制御でき、はんだフィレットを理想的な形状に形成することができる。
【0029】
また、端面電極の形態を、端面の高さ方向の中央に溝部を設けて天地での分断部位となる形態としたり、あるいは端面高さ方向の中央に凸部を設けて天地での区分部位となる形態とすることでは、プリント基板へ搭載する際に電子部品の天地をチェックする必要がない。この場合、パッド部に対して天地の何れを接面としてもはんだが濡れ上がり、溝部あるいは凸部に達した時点で濡れ上がりが止まる。はんだの濡れ上がりは、溝部あるいは凸部に達した時点で作用力が上がる方向から広がる方向へ切り替わってしまい、その結果、はんだの濡れ上がりが停止することになる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に係る鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法では、電子部品の端面電極と、プリント基板のパッド部との取り合い関係を適切にしているので、はんだフィレットを理想的な形状に形成することができる。これにより、鉛フリーはんだを用いたはんだ付けについて塑性ひずみを低減でき、温度サイクル等の疲労に対して耐久性が高くなり経時劣化を抑制することができる。その結果、はんだ接合の信頼性を高めることができる。
【0031】
この場合、鉛フリーはんだによる電子部品の実装について、特別な調整等の作業は必要なく、従来と同様の作業により、はんだフィレットを、疲労破壊が起き難い形状で安定して製造することができ、その結果、低コストで信頼性の高い製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図3は本発明の第1の実施の形態を示している。本形態において、電子部品は、チップ状の本体1の端面に端面電極2を有し、鉛フリーはんだを用いてプリント基板3のパッド部4へはんだ付けするようになっている。
【0033】
本体1は端面が隣接面と略直角に取り合う略方形状とし、端面電極2は、本体1の接面側から見た端面高さの2/3以下に形成している。
【0034】
電子部品としては、例えば本体1内に抵抗素子を有するチップ抵抗器などがある。また、電子部品は本体1の高さサイズが最大でも3cm以下とすることがよい。プリント基板3では、上記電子部品を所定に載せた位置関係において、パッド部4は端面電極2の位置からの領域を、最大でも端面高さhの2倍以下に形成している。
【0035】
そして、本発明に係る実装方法としては、上記電子部品はプリント基板3に搭載した際に端面電極2がパッド部4に対して略垂直となる形状とし、端面電極2およびパッド部4との間に合金化反応により接合するはんだフィレット5が、端面電極2側では当該端面高さの1/3から2/3以下となり、パッド部4側は端面電極2との接合領域よりも広い接合領域となる設定によりはんだ接合を行うことになる。
【0036】
また、はんだフィレット5が、端面電極2側から略直線的に下る傾斜面を持つ盛り付けとなり、より好ましくは端面電極2側からはいくぶん凸状にふくらんだ傾斜面を持つ盛り付けとなる設定によりはんだ接合を行うようにする。
【0037】
はんだフィレット5は、図10に示すように、端面電極2側では当該端面高さの1/2程度で当該端面電極2側からはいくぶん凸状にふくらんだ傾斜面を持つ盛り付けとなることが好ましい。これは後述するモデル解析から分かるように、従来の一般的な形状の端面電極とパッド部との取り合い関係では形成が困難であるが、上述した本発明に係る端面電極2の設定を採ることにより容易に形成することができる。
【0038】
はんだフィレット5は、表面が平面または凸状であると塑性ひずみの減少効果が高いことがモデル解析から分かっている。塑性ひずみの減少は、はんだフィレット5の濡れ上がり高さが、端面電極2側で端面高さhに対して1/2程度がほぼ最良ではあるが、2/3程度までであっても減少効果は十分に得ることができる。
【0039】
はんだフィレット5に対する曲げ応力へ対応するには、盛り付け量を十分とし、ある程度の肉厚が必要となる。はんだフィレット5について肉厚を確保するには、パッド部4側に広がりが必要となり、電子部品側つまり端面電極2の高さと同程度以上に濡れ広がりの領域をプリント基板3の表面上に確保することが好ましい。しかし、はんだフィレット5の肉厚を増すことでは、塑性ひずみの減少効果がやがて飽和するので、パッド部4についての濡れ広がり領域の設定は、濡れ上がり高さの2〜4倍程度にすることがよく、十分と言える。
【0040】
本発明にあっては、電子部品の端面電極2と、プリント基板3のパッド部4との取り合い関係を適切にしているので、はんだフィレット5を理想的な形状に形成することができる。これにより、鉛フリーはんだを用いたはんだ付けについて塑性ひずみを低減でき、温度サイクル等の疲労に対して耐久性が高くなり経時劣化を抑制することができる。その結果、はんだ接合の信頼性を高めることができる。
【0041】
この場合、鉛フリーはんだによる電子部品の実装について、特別な調整等の作業は必要なく、従来と同様の作業により、はんだフィレット5を、疲労破壊が起き難い形状で安定して製造することができ、その結果、低コストで信頼性の高い製品が得られる。
【0042】
本発明は、いわゆるチップ部品に適用することが好ましく、本体1が概ね直方体であるチップ抵抗器など、チップ状の電子部品に対して有効に適用できる。特に、電子部品は本体1が20mmよりも長いもの、そして温度サイクルにおけるプリント基板3の反りが大きい条件となる製品への適用において、高い信頼性を得ることができ、効果が大きいと言える。
【0043】
図4は本発明の第2の実施の形態を示している。本形態において、電子部品は、端面電極2には端面高さhについて中央に溝部6を設け、当該溝部6は本体1の接面に沿う方向に延ばして形成して端面電極2の天地での分断部位となる形態となっている。第1の実施形態と同様な構成には同一符号を付してあり、その説明を省略する。
【0044】
この場合は、はんだ付けに際しては、溝部6がはんだの濡れ上がりを阻止するので、端面電極2には接面側のみにはんだフィレット5が形成する。このため、電子部品は天地の何れも接面にすることができ、部品実装が容易に行えるメリットがある。
【0045】
図5は本発明の第3の実施の形態を示している。本形態において、電子部品は、端面電極2には端面高さhについて中央に凸部7を設け、当該凸部7は本体1の接面に沿う方向に延ばして形成して端面電極2の天地での区分部位となる形態となっている。第1,第2の実施形態と同様な構成には同一符号を付してあり、その説明を省略する。
【0046】
この場合も、はんだ付けに際しては、凸部7がはんだの濡れ上がりを阻止するので、端面電極2には接面側のみにはんだフィレット5が形成する。このため、電子部品は天地の何れも接面にすることができ、部品実装が容易に行えるメリットがある。
【0047】
第1の実施形態のような端面電極2は本体1の端面で接面側に偏った形態なので、電子部品は天地について方向性を持つことになり、反転状態で供給したものに対してはんだ付けができず、プリント基板3へ搭載する際は、電子部品の天地をチェックして端面電極2がパッド部4側となる姿勢にそろえる必要がある。その点、図4に示す第2の実施形態、および図5に示す第3の実施形態の場合、電子部品の天地をチェックする必要がない。パッド部4に対して天地の何れを接面としてもはんだが濡れ上がり、溝部6あるいは凸部7に達した時点で濡れ上がりが止まる。はんだの濡れ上がりは、溝部6あるいは凸部7に達した時点で作用力が上がる方向から広がる方向へ切り替わってしまい、その結果、はんだの濡れ上がりが停止することになる。
【0048】
(はんだフィレットのモデル解析)
はんだフィレット5の形成についてモデル解析を行った。モデル解析は、いわゆる自由表面流体解析であり、はんだ接合におけるはんだフィレット5を予測している。この場合、はんだの濡れ性による表面張力と、はんだの自重や粘性との釣り合いを計算しており、溶融したはんだがはんだフィレット5を形成し、平衡状態に達するまでの挙動を調査することができる。
【0049】
モデル解析に適用したはんだの物性値は、Sn−3.0Ag−0.5Cuのものを用い、濡れ性は溶融はんだと銅についての値を用いた。粘性の値は溶融したフラックスが混入している時の値を用いた。電子部品の寸法は3216チップ抵抗器の標準的な値を採用しており、条件は以下のようにした。
(1)はんだ付けは温度260℃で時間を5秒間とした。
(2)はんだの物性値は、密度8400kg/m3,表面張力0.52N/m,接触角45°,粘性2Pa/secとした。
(3)電子部品は長さ3.2mm,厚さ0.6mmのものとし、プリント基板3との間隔を0.07mmとした。
(4)プリント基板3のパッド部4は、長さ1.4mmで他方のパッド部との間隔を1.6mmとし、はんだはパッド部4上に塗布して塗布の厚さは0.15mmとした。接触角は、はんだと接触面との親和性の度合いを示すもので、低いほどはんだの濡れが容易であることを示す。
【0050】
図6(a)〜(c)は、表面張力をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、表面張力は(a)0.3N/m、(b)0.5N/m、(c)0.7N/mである。図6から明らかなように、表面張力については、はんだ材料の差異や接合温度の差異などから予想し得る変動範囲では、はんだフィレット5に及ぼす影響は小さいことが分かった。
【0051】
図7(a)〜(e)は、接触角をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、接触角は(a)10°、(b)30°、(c)45°、(d)60°、(e)120°である。接触角についても、はんだの濡れが十分に良好な状態(接触角10°)から、はんだの濡れが悪くはんだがはじかれてしまう状態(接触角120°)までモデル解析を行ったところ、接触角が大きくなるほどはんだの濡れ上がりが低下し、表面の肉厚は増加して凸状になることが分かった。そして、接触角が大きくなるほど、はんだの濡れ広がりも減少してしまうことが分かった。
【0052】
はんだの濡れ上がり高さは、接触角60°以上で濡れ広がりが極端に悪い状態になって初めて減少してゆき、濡れ上がり高さを制限できる濡れ広がりの状態では接合性が著しく劣化してしまう。このため、濡れ上がり高さを制御することは難しいということが分かった。つまり、濡れ上がり高さを低減するとともに、濡れ広がりを良好に保持したはんだフィレット5を、歩留まりよく安定に形成することは非常に困難であると言える。
【0053】
はんだの濡れ上がりを制御できるパラメータとして、はんだの盛り付け量がある。図8(a)〜(d)は、盛り付け量をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、盛り付け量は(a)から(d)へ順次に増量している。モデル解析の結果、はんだの盛り付け量を低減することで、はんだの濡れ上がりを抑制できることが分かった。しかし、はんだの濡れ上がりの低下が始まる前に、はんだフィレット5の肉厚がまず先に減少し、濡れ広がりも減少していく傾向にある。
【0054】
図9(a),(b)は、パッド部の長さを2倍に延長した条件で盛り付け量をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、盛り付け量は(a)よりも(b)が増量している。ここでは、濡れの広がりと肉厚を保持し易くするため、パッド部4の長さを2倍に延長し(長さ2.8mm)、モデル解析を行ったが、はんだフィレット5の肉厚を保持したままで濡れ上がりを抑制することはできなかった。
【0055】
以上の結果から、はんだの濡れ性や塗布量およびパッド部4の位置を可変することでは、はんだフィレット5の形成は図2に点線でそれぞれ示すパターンのようになる。そもそも、濡れ上がりの減少と濡れ広がりの減少、そして濡れ上がりの減少と肉厚の減少は連動して起きるものであり、従来の電極構造では、はんだ接合の条件やはんだの材料組成をどのように変更しても、濡れ上がりの抑制と、濡れ広がりの保持つまり肉厚を凸形状に保持することとを、同時にかつ安定して実現することは極めて難しいと言える。
【0056】
そこで、本発明に係る端面電極2とパッド部4との取り合い関係についてモデル解析を行ったところ、図10に示すように結果を得た。これは、電子部品の端面について上部では濡れ性が極端に悪くなると仮定して計算を行っている。同図から明らかなように、はんだの濡れ上がりが、電子部品の端面高さhの1/2程度に抑制できる。そしてはんだの濡れ広がりが濡れ上がり高さの2倍以上となり、盛り付けが凸形状であるという条件が実現できていることが分かる。
【0057】
したがって、本発明に係る実装方法によれば、はんだの濡れ性や供給量について特別な工夫をすることなく、はんだ接合を通常に行うことで濡れ上がりの高さを制御することができ、その結果、鉛フリーはんだを使用した際に、接合性を良好に保つことができ、安定したはんだ接合を行うことができる。
【0058】
また、チップサイズが大きい条件により同様のモデル解析を行ったところ、標準的な濡れ性では濡れ上がり高さが2〜5cmに達すると、はんだが自重に耐えられなくなり濡れ上がりが止まることが分かった。つまり、電子部品の端面高さhが3cm以上あるものでは、必然的にはんだの濡れ上がりが制限されてしまい、このため本発明を適用するメリットはない。
【0059】
電子部品の端面高さhが3cm以下では、はんだの濡れ上がりが途中で止まっている状態は濡れ上がりに必要なだけの塗布量がない状態であることがほとんどなので、前述したモデル解析において確認できたように、はんだの塗布量の調整により濡れ上がりを抑制しつつ肉厚および濡れ広がりを増加させることはできない。したがって、本発明に係る実装方法を適用することが疲労寿命の改善に有効になる。
【0060】
(電子部品の製造工程)
電子部品の製造は、例えばチップ抵抗器の製造は以下の工程により行う。なお、本発明に係る電子部品はチップ抵抗器には限らなく、コンデンサ等のチップ部品や他の電子素子など、適宜に適用し得ることはもちろんである。
【0061】
チップ抵抗器の製造では、まず無垢のアルミナ基板を用意し、裏面には一次スリット,二次スリットの並び列をx,y方向で交差する網目状に形成しておき、当該裏面に電子部品の下面電極を形成する。これには電極用の導体ペースト、例えば銀系メタルグレーズ等の銀系ペーストを印刷し、乾燥させた後に焼成を行う。
【0062】
一次,二次スリットによる網目状の1区画がチップ抵抗器の単体をなし、下面電極の形成はアルミナ基板の裏面全域に対して行い、配列する全体へ一括して形成を行う。つまり、電極は1区画では両端に形成するが、アルミナ基板は複数を配列した形態なので全体では一次,二次スリットの該当部分に帯状に形成することになる。
【0063】
次に、アルミナ基板の上面に抵抗体を形成する。これには抵抗体ペーストを所定領域へ印刷し、乾燥させた後に焼成を行う。抵抗体ペーストとしては、酸化ルテニウム系ぺースト、例えば酸化ルテニウム系メタルグレーズなどが好ましい。抵抗体ぺーストの印刷は、1区画で見て両端の下面電極間へ渡して積層し、そして少なくとも抵抗体を覆うように保護膜を形成する。保護膜は樹脂ペーストから形成し、樹脂ペーストは、アルミナ基板の全体では抵抗体の並び列を一連に覆う向きで帯状に印刷することができ、乾燥させた後に硬化させる。
【0064】
保護膜が硬化した後に、まず一次スリットの並び列を分割する。これは単に一次スリットを基線にして折り曲げることで分割することができ、したがって、一次スリットに沿う区画が直列に連なる帯板状のピースを多数得ることになる。この帯板状ピースには端面電極を形成する。これには電極用の導体ぺーストを側面部位へ印刷し、乾燥させた後に硬化させる。あるいは電極用の導体ペーストを側面部位へ印刷し、乾燥させた後に焼成することでもよい。導体ペーストの印刷は帯板状ピースの側面高さの1/2程度とし、領域を所定に制限した印刷を行うことで端面電極を適宜な位置に得ることができる。
【0065】
次に、帯板状ピースは二次スリットの部位で分割し、単体ピースつまり個別のチップにする。チップそれぞれにはニッケルメッキを形成し、これにはバレルメッキ装置を使用する。
【0066】
バレルメッキ装置は、メッキ浴を入れるメッキ槽,メッキ槽内のメッキ浴に浸漬させる陽極板,メッキ槽内で回転動作を行うメッキ用バレルなどを備え、陽極板はニッケル製とし、メッキ用バレルには金属製の陰極棒を設けている。メッキ用バレル内には被メッキ素体,導電性媒体,撹拌補助材を入れる。被メッキ素体はつまりはメッキ処理前のチップであり、導電性媒体は金属製の小球とし、撹拌補助材はセラミックボールである。つまり、バレルメッキ装置によるニッケルメッキ処理では、陽極板をニッケル製とし、そしてメッキ槽内のメッキ浴もニッケルを主成分とし、被メッキ素体(単体チップ),導電性媒体,撹拌補助材を投入したメッキ用バレルをメッキ浴内で回転させ、このとき陽極板と陰極棒との間に通電することから、被メッキ素体に対してニッケルメッキを施すことができ、単体チップの下面電極,端面電極の表面にニッケル薄膜を形成できる。
【0067】
次の工程において、例えば金メッキなどを施すには、バレルメッキ装置では陽極板等を対応する材質のものへ変更して、同様にバレルメッキを行うことでよい。
【0068】
以上の工程により端面電極2をチップ本体1の適切な位置に形成でき、鉛フリーはんだによるはんだ付けに対応した電子部品を得ることができる。
【0069】
(チップ抵抗器の実装工程)
チップ抵抗器は以下の工程によりプリント基板3へ実装する。プリント基板3は、例えばガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸した積層板を基材とし、その基材の表裏に銅箔をプレスしてなる両面銅張積層板を用いることができる。この両面銅張積層板に対して、パターニングレジストにより所定位置をコートしてエッチングし、配線回路パターンを所定に形成したプリント基板3を得る。
【0070】
チップ抵抗器は、鉛フリーはんだによりプリント基板3上のパッド部4へはんだ付けし、電気的に接続するとともに機械的に固定する。はんだ付け方法として代表的なものにリフロー工法がある。リフロー工法では、プリント基板3上のパッド部4へ予めはんだペーストを印刷しておき、チップ抵抗器を該当パッド部4に対して配置した後に、加熱炉ではんだを溶融させてはんだ接合を行う。
【0071】
ここで、はんだフィレット5が、十分な盛り付けとなりプリント基板3の表面に沿う濡れ性も十分に長くなるようにするため、はんだペーストの印刷位置を調整し、印刷の分量も適切にする必要があるが、本発明にあっては、鉛フリーはんだに対応させて、端面電極2とパッド部4との取り合い関係を適正に調整しているので、印刷位置,印刷量について特別な調整は必要なく、従来と同様な一般的な設定を採ることができる。その結果、高い信頼性で電子部品の実装が行えて、耐久性に優れたプリント基板3を安定に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】はんだ接合部(はんだフィレット)におけるストレスを説明する断面図である。
【図2】従来の電子部品によるはんだフィレットを説明する断面図である。
【図3】本発明に係る電子部品の第1の実施の形態であり、端面電極によるはんだフィレットを示す断面図である。
【図4】本発明に係る電子部品の第2の実施の形態であり、端面電極によるはんだフィレットを示す断面図である。
【図5】本発明に係る電子部品の第3の実施の形態であり、端面電極によるはんだフィレットを示す断面図である。
【図6】表面張力をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、表面張力は(a)0.3N/m、(b)0.5N/m、(c)0.7N/mである。
【図7】接触角をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、接触角は(a)10°、(b)30°、(c)45°、(d)60°、(e)120°である。
【図8】盛り付け量をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、盛り付け量は(a)から(d)へ順次に増量している。
【図9】パッド部の長さを2倍に延長した条件で盛り付け量をパラメータとしたモデル解析の断面図であり、盛り付け量は(a)よりも(b)が増量している。
【図10】本発明に係るはんだフィレットのモデル解析の断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 本体
2 端面電極
3 プリント基板
4 パッド部
5 はんだフィレット
6 溝部
7 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ状の本体の端面に端面電極を有する電子部品を、鉛フリーはんだを用いてプリント基板のパッド部へはんだ付けする鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法であって、
前記電子部品は前記プリント基板に搭載した際に前記端面電極が前記パッド部に対して垂直となる形状とし、前記端面電極および前記パッド部との間に合金化反応により接合するはんだフィレットが、前記端面電極側では当該端面高さの1/3から2/3以下となり、前記パッド部側は前記端面電極との接合領域よりも広い接合領域となる設定によりはんだ接合を行うことを特徴とする鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法。
【請求項2】
前記はんだフィレットが、前記端面電極側から直線的に下る傾斜面を持つ盛り付けとなるようにはんだ接合を行うことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法。
【請求項3】
前記はんだフィレットが、前記端面電極側からはいくぶん凸状にふくらんだ傾斜面を持つ盛り付けとなる設定によりはんだ接合を行うことを特徴とする請求項1に記載の鉛フリーはんだによる電子部品の実装方法。
【請求項4】
チップ状の本体の端面に端面電極を有し、鉛フリーはんだを用いてプリント基板のパッド部へはんだ付けする電子部品であって、
前記本体は前記端面が隣接面と直角に取り合う形状とし、前記端面電極は、前記本体の接面側から見た前記端面高さの2/3以下に形成することを特徴とする電子部品。
【請求項5】
前記端面電極には前記端面の高さ方向中央部位に溝部を設け、当該溝部は前記本体の接面に沿う方向に延ばして形成して前記端面電極の天地での分断部位となる形態とすることを特徴とする請求項4に記載の電子部品。
【請求項6】
前記端面電極には前記端面の高さ方向中央部位に凸部を設け、当該凸部は前記本体の接面に沿う方向に延ばして形成して前記端面電極の天地での区分部位となる形態とすることを特徴とする請求項4に記載の電子部品。
【請求項7】
前記電子部品は前記本体の高さサイズが3cm以下であることを特徴とする請求項4から6の何れか1項に記載の電子部品。
【請求項8】
前記電子部品は前記本体内に抵抗素子を有するチップ抵抗器であることを特徴とする請求項4から7の何れか1項に記載の電子部品。
【請求項9】
鉛フリーはんだによるはんだ接合のためのパッド部を有するプリント基板であって、
請求項4から8の何れか1項に記載の電子部品を載せた状態において、前記パッド部は前記端面電極の位置からの領域を、前記端面高さの2倍以下に形成することを特徴とするプリント基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−4490(P2009−4490A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162564(P2007−162564)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】