説明

銀微粉、銀インクおよび銀塗料ならびにそれらの製造法

【課題】従来よりも焼結温度を大幅に低減しうる保護材で被覆された銀微粉を提供する。
【解決手段】ヘキシルアミン(C613−NH2)を表面に吸着させた平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子からなる銀微粉。この銀微粉は、有機媒体と混合して銀塗料とし、これを塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備える。100℃で焼成しても比抵抗25μΩ・cm以下を示す導電膜が得られる。また、この銀微粉は、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、ヘキシルアミンとを混合したのち、撹拌状態で5〜80℃に保持して沈降粒子を生成させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物質に被覆された銀ナノ粒子からなる銀微粉、その銀微粉を用いた銀インク、銀塗料ならびにそれらの製造法に関する。なお、本明細書において「ナノ粒子」とは粒子径が40nm程度以下の粒子を意味し、「微粉」とはナノ粒子で構成される粉体を意味する。
【背景技術】
【0002】
金属微粉は活性が高く、低温でも焼結が進むため、耐熱性の低い素材に対するパターニング材料として着目されて久しい。特に昨今ではナノテクノロジーの進歩により、シングルナノクラスの粒子の製造も比較的簡便に実施できるようになってきた。
【0003】
特許文献1には酸化銀を出発材料として、アミン化合物を用いて銀ナノ粒子を大量に合成する方法が開示されている。また、特許文献2にはアミンと銀化合物原料を混合し、溶融させることにより銀ナノ粒子を合成する方法が開示されている。非特許文献1には銀ナノ粒子を用いたペーストを作成することが記載されている。特許文献4には液中での分散性が極めて良好な銀ナノ粒子を製造する技術が開示されている。一方、特許文献3には有機保護材Aで保護した金属ナノ粒子が存在する非極性溶媒に、金属粒子との親和性の良いメルカプト基等の官能基を持つ有機保護材Bが溶解した極性溶媒を加えて、撹拌混合することにより、金属ナノ粒子の保護材をAからBに交換する手法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−219693号公報
【特許文献2】国際公開第04/012884号パンフレット
【特許文献3】特開2006−89786号公報
【特許文献4】特開2007−39718号公報
【非特許文献1】中許昌美ほか、「銀ナノ粒子の導電ペーストへの応用」、化学工業、化学工業社、2005年10月号、p.749−754
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属微粉の表面は一般的に有機保護材により被覆されているのが通常である。この保護材は銀粒子合成反応時に粒子同士を隔離する役割を有する。したがって、ある程度分子量の大きいものを選択することが有利である。分子量が小さいと粒子間距離が狭くなり、湿式の合成反応では反応中に焼結が進んでしまう場合がある。そうなると粒子が粗大化し微粉の製造が困難になる。
【0006】
一方、有機保護材で保護された金属微粉を用いて基板上に微細配線を形成するときには、配線を描画した後、金属微粒子同士を焼結させることが必要である。焼結の際には、粒子間に存在する有機保護材が揮発等により除去されなければならない。若干の炭素分が焼結体(配線)の中に残存することが許容される場合もあるが、電気抵抗の上昇を招くので、完全に除去されることが望ましい。
【0007】
ところが、分子量の大きい有機保護材は一般的には加熱しても揮発除去されにくいので、例えば銀微粉の場合250℃以上といった高温に曝さなければ導電性の高い焼結体(配線)を構築することが難しい。このため、適用可能な基板の種類は、例えばポリイミド、ガラス、アラミドなど、耐熱温度の高い一部の素材に限られる。
【0008】
本出願人は、特許文献4に示した手法や、その後に開発した手法を用いて、オレイルアミンなどの不飽和結合を有する1級アミン存在下で銀塩を還元することにより、極めて分散性の良い銀ナノ粒子を合成することに成功した。このような手法で合成された銀粒子は還元反応時に存在させた1級アミンからなる有機保護材に被覆されている。この有機保護材は分子量が200以上と比較的大きいために、金属銀の周囲に付着して、いわゆる「浮き輪(あるいは浮き袋)」の役割を果たし、液状有機媒体中での優れた分散性を担う。また、この有機保護材は分子量が比較的大きいにもかかわらず、当該銀粒子を含有するインクや塗料で描画された薄膜において、金属銀粒子同士の焼結を容易にする作用を呈する。これは、有機保護材の分子中に不飽和結合を持つことにより焼成時に有機保護材自体が酸化・分解を起こしやすく、金属銀粒子からの脱離が比較的容易に起こるためであると考えられ、オレイルアミンの例では180℃程度の低温焼成でも導電膜を形成させることが可能である。
【0009】
しかし、180℃程度まで焼成温度を下げることができたとしても、基板に対する制約は依然として大きい。もし、100〜180℃、好ましくは100〜150℃程度の低い温度で焼結させることのできる金属微粉が簡便な手法で生産可能になれば、その用途は著しく拡大することが必至である。例えば、透明性のポリカーボネートを基板に使用すると、CD、DVD等のメディアや、レンズの表面に直接微細配線を描画することが可能になり、各種機能が付与できる。PET(ポリエチレンテレフタレート)基板上に微細配線を描画した安価なアンテナや、紙を素材にしたICタグなども実現可能と考えられる。さらに、導電性高分子へ直接金属配線を描画することも可能になると考えられ、各種電極材等の用途が広がることが期待される。金属微粉として銀を使用すれば、その抗菌作用を活かすこともできる。その他にも数限りない用途が考えられる。
【0010】
特許文献3には、金属粒子の表面を覆う保護材を、別の保護材に交換する技術が開示されている。しかしながら、この技術では金属ナノ粒子を合成する段階で、金属供給物質と保護材が溶解した溶媒中に後から還元剤を滴下することによって保護材に覆われた金属粒子を得るという手段を採用するものである。このように溶媒中に還元剤を滴下する反応の場合、還元剤自体が溶媒で稀釈されるために強い還元性を有する還元剤を使用する必要があり、液を撹拌するにしても完全に均一な還元力で金属ナノ粒子を析出させることは容易でない。また、還元剤の成分が粒子に混入しやすい。このため、粒径分布を均一化したり、金属粒子中の不純物を少なくしたりする品質管理面のコントロールが難しい。また、特許文献3の発明には粒子合成段階で形成させる保護材として、ナフテン酸やオクチルアミンなど、分子量が100前後と小さい有機化合物を使用した例が示されており、それより大きい有機化合物で保護された金属ナノ粒子を合成する具体的手法は示されていない。保護材の分子量が上記のように小さい金属ナノ粒子は、液状媒体中で凝集して沈降しやすい。現に特許文献3の発明では、合成段階で金属ナノ粒子集合体を沈降させて回収する工程が必須とされている。このような凝集・沈降しやすい粒子は液状媒体中での分散状態を保つことが難しく、洗浄を含めた中間工程での取扱いに手間が掛かり、また保護材を交換する工程では均一な品質を維持する上で強い撹拌混合が不可欠であると考えられる。このように、特許文献3の技術は、均一な還元反応のコントロールが難しい点、粒子が凝集・沈降しやすい(分散性があまり良くない)点などにおいて、工業的に実施化するには更なる改善が望まれる。
【0011】
本発明は、簡便な手法により、従来よりも焼結温度を大幅に低減しうる保護材で被覆された銀微粉およびそれを用いた銀インク、銀塗料を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明では、ヘキシルアミン(C613−NH2)を表面に吸着させた平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子からなる銀微粉が提供される。また、この銀微粉を液状有機媒体Sに分散させた銀インクが提供される。液状有機媒体Sとしては芳香族炭化水素が好適であり、例えばデカリン(C1018)が挙げられる。さらに、この銀微粉を有機媒体と混合してなる銀塗料が提供される。この銀塗料は、これを塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えている。100℃で焼成しても比抵抗25μΩ・cm以下を示す導電膜が得られる。
【0013】
上記の低温焼結性に優れた銀微粉の製造法として、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、ヘキシルアミンとを混合する工程(混合工程)、この混合液を撹拌状態で5〜80℃に保持することにより沈降粒子を生成させる工程(沈降工程)、固液分離操作により前記沈降粒子を固形分として回収する工程(固液分離工程)を有する製造法が提供される。回収されたこの固形分は低温焼結性の銀微粉で構成されるものである。ここで、「沈降粒子」は液の撹拌を止めたときに沈降する粒子であり、沈降工程を実施しているときは液を撹拌しているので多くの沈降粒子は液中を漂っている。前記1級アミンAとしてはオレイルアミン(C918=C917−NH2、分子量約267)が好適な対象として挙げられる。
【0014】
また本発明の銀インクは、前記のようにして回収された固形分(銀微粉)を洗浄する工程(洗浄工程)、洗浄後の固形分を液状有機媒体Sに分散させる工程(インク化工程)を有する手法により製造することができる。さらに本発明の低温焼結性銀塗料は、前記のようにして回収された固形分(銀微粉)を洗浄する工程(洗浄工程)、洗浄後の固形分と有機媒体を混合して塗布可能な性状とする工程(塗料化工程)を有する手法により製造することができる。
【0015】
ところで、銀塗料を塗布した塗膜を大気中120℃あるいは100℃で焼成し、その焼成膜の比抵抗を測定する方法については特に限定されないが、従来一般的な手法を採用することが望ましい。ここでは、被測定試料を大気中200℃で焼成したときに焼成膜の比抵抗が20μΩ・cm以下と評価される条件を120℃焼成あるいは100℃焼成に適用して、120℃焼成膜または100℃焼成膜の導電性を評価する。つまり、塗料の調製、塗布、焼成および測定の条件を、200℃焼成で比抵抗が20μΩ・cm以下となる場合の条件と同じにして(ただし焼成温度のみ120℃または100℃に変える)、120℃焼成膜または100℃焼成膜の比抵抗を測定する。200℃焼成で焼結が生じていることが確認できる手法(公知の一般的な手法)であれば、120℃焼成あるいは100℃焼成に適用しても焼結の有無を判定できる。なお、もともと大気中200℃焼成で比抵抗20μΩ・cm以下の焼成膜が形成される条件が見出せないような銀微粉または銀塗料は、本発明の対象外である。
【0016】
本明細書において「ヘキシルアミンを表面に吸着させた」とは、金属銀の表面が、その表面にヘキシルアミンの分子を吸着させることにより形成された保護材で被覆され、個々の粒子の金属銀どうしが、結合せずに独立した粒子として存在しうる状態を意味する。そのような銀ナノ粒子で構成される銀微粉が、上記のように大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えたものである限り、不純物として他の有機物質(例えばオレイルアミン等のアミンA成分など)が含まれていても構わない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、120℃という低い焼成温度で焼結が可能な銀微粉およびそれを用いた銀インク、銀塗料が実現された。特に、焼成温度が100℃程度まで低下した場合でも焼結不良が生じにくいことから、焼成温度管理の自由度が従来よりも拡大される。また、本発明の銀微粉、銀インクおよび銀塗料は比較的簡便に製造することができ、工業的な実施化が十分可能であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の低温焼結性に優れた銀微粉は、その構成要素である銀粒子が、ヘキシルアミンを吸着させてなる有機保護材に被覆されていることに特徴がある。
【0019】
一般に界面活性剤としての機能を有する有機化合物は疎水基Rと親水基Xを有するR−Xの構造をもつ。疎水基Rとしては炭素骨格に水素が結合したアルキル基が代表的であり、親水基Xとしては種々のものがあるが、脂肪酸では「−COOH」、アミンでは「−NH2」である。このような界面活性剤は、金属銀粒子の活性な最表面を保護する有機保護材としても利用できる。この場合、親水基Xが金属銀の表面と結合し、疎水基Rがこの有機保護材に覆われた粒子の外側に向いて配向していると考えられる。金属ナノ粒子は極めて活性が高いので、通常、粒子の表面は保護材で覆われていなければ安定に存在できない。ただし、銀ナノ粒子の塗料で描画した薄膜に導電性を付与するには、できるだけ低温で銀粒子の金属銀どうしが焼結を起こすことが必要であり、そのためには金属銀の粒子サイズが例えばDTEM20nm以下というように極めて微細であることに加え、粒子表面の保護材が低温焼成時に容易に粒子表面から脱離して揮発除去されなければならない。
【0020】
低温焼成時において粒子からの脱離と揮発を生じやすくするためには、親水基が同じなら、できるだけ分子量の小さい有機化合物を保護材として使用することが有利となる。一方、分子量が概ね同等なら、親水基Xの構造によって脱離と揮発の起こりやすさが変わってくる。発明者らの検討によれば、脂肪酸とアミンを比較すると、アミンの方が低温焼結性には有利であることがわかってきた。金属銀の表面を分子量の小さいアミンで被覆した金属ナノ粒子を得ることができれば、低温焼結性に優れたインクや塗料(ペースト)が作成できると考えられる。
【0021】
ところが、気相からの合成に比べ大量生産に有利な「湿式工程」によって銀ナノ粒子を合成する場合、合成時に直接低分子量のアミンに被覆された銀粒子を製造しようとすると、凝集等により分散性の良好な銀微粉を得ることが難しく、合成反応後に洗浄等の工程を経て塗料を調製する操作に支障をきたしやすい。そこで本発明では、分子量200〜400のアミンAで被覆された分散性の良い銀ナノ粒子を予め得ておき、その後、アミンAを低分子量のアミンBに付け換えることにより、アミンBの有機保護材に被覆された銀ナノ粒子を得る。
【0022】
アミンBとして、本発明ではヘキシルアミン(C613−NH2、分子量101.2)を適用する。後述のデータに示されるように、炭素数が8の1級アミンであるオクチルアミン(C817−NH2)を吸着させた銀ナノ粒子では、120℃の焼成温度で十分に焼結が生じる性質を呈するが、100℃程度になると導電膜の抵抗が急激に上昇する傾向を示す。このため、例えば120℃という低い焼成温度条件を採用するような場合には、温度管理を厳密にしなければ所望の導電膜を安定して得ることが難しい。これに対し、炭素数が6の1級アミンであるヘキシルアミンを吸着させると、100℃でも十分に焼結が生じることが確認された。すなわち、保護材が低分子量のヘキシルアミンにより構成されているため、100℃程度の低温焼成においても保護材の脱離が容易に起こるのである。したがって、焼成温度条件の許容範囲を大幅に拡大することが可能になる。
【0023】
アミンAには不飽和結合を持つ分子量が200〜400の1級アミンを採用する。このような1級アミンは、銀粒子を湿式過程で合成するときに存在させる保護材として好適である。アミンは、銀粒子表面への配位力が弱いため、銀粒子表面からの脱着が比較的怒りやすく、ヘキシルアミンへの付け替えが容易となる。ただし、分子量が過剰に大きいとスムースな脱着に支障をきたしうるので、分子量400以下のものがよい。また、不飽和結合の存在により、分子量が200〜400と多少大きくても、室温付近で液状を呈するので、その後の沈殿工程や固液分離工程で、加熱の必要がなく、工業的に実施しやすいメリットがある。特に、本発明のような低温焼結性粒子では工程中の加熱は粒子同士の焼結を引き起こし、高品質な塗料・インクの製造の阻害要因となる。これまでの調査では、オレイルアミンが、銀粒子合成の容易性とも相俟って非常に好適である。
【0024】
有機保護材に被覆された銀粒子の粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)の画像から測定される平均粒子径DTEMあるいはX線結晶粒径DXによって表すことができる。本発明ではDTEMが3〜20nmである銀粒子、あるいはX線結晶粒径DXが1〜20nmである銀粒子が好ましい対象となる。このような粒径範囲の銀微粉は良好な特性を有するインクや塗料を作る上で有利である。このうち、DTEMが6〜20nm、DXが4〜20nm程度の粒子径の銀粒子は、後述の方法によって合成しやすい。また、DTEMが3〜7nm、DXが1〜5nm程度の極めて微細な銀粒子は、例えばオレイルアミンを溶媒として直接銀化合物を還元する手法などによって合成することができる。なお、合成された金属銀の結晶粒界には不純物が混入しやすく、不純物の量が多くなると、微細配線を焼成する際にポアが生じて良好な導電性が確保できなくなったり、耐マイグレーション性に劣ったりする不都合を生じやすい。種々検討の結果、DTEM/DXで表される単結晶化度が2.5以下である銀粒子であることが望ましく、2.0以下であることが一層好ましい。
【0025】
ヘキシルアミンを保護材とする銀粒子は、分子量が大きい有機保護材に被覆されたものと比べ液状媒体中では沈降しやすいが、種々検討の結果、適切な液状有機媒体Sを使用すれば良好な分散性を呈する「銀インク」が得られることがわかった。そのような液状有機媒体Sとして、芳香族炭化水素が好適である。例えば、シクロヘキサン、トルエン、クメン、ジエチルベンゼン、テトラリン、デカリンなどにおいて良好な分散性が得られることを確認している。ヘキシルアミンを保護材とする銀粒子をデカリン(C1018)に分散させた銀インクについては、100℃で焼結可能な導電塗膜が形成できることを確認した。
【0026】
この低温焼結性に優れた銀微粉は以下のようにして得ることができる。
〔銀粒子の合成〕
本発明で使用する銀ナノ粒子原料は、粒度分布等の粒子性状が安定しており、かつ液状媒体中で凝集・沈降しにくい性質を有していることが重要である。そのような銀粒子の合成法として、ここでは特許文献4に開示した合成法を簡単に説明する。すなわち、この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。この場合、アルコールまたはポリオールは溶媒であるとともに還元剤でもある。還元反応は溶媒液を昇温して、好ましくは還流状態とすることによって進行させることができる。こうした手法をとることにより、不純物の混入を防ぎ、例えば配線材料として使用とした時には抵抗値を小さくすることが可能になる。
【0027】
その還元反応を進行させる際には、溶媒中に保護材として機能する有機化合物を共存させておくことが肝要である。その有機化合物として、ここでは不飽和結合を持つ1級アミンAを使用する。不飽和結合を持たないものでは、表面がそのアミンで保護された銀ナノ粒子を合成することは困難である。発明者らの知見では、このときの不飽和結合の数はアミンAの1分子中に少なくとも1個あれば足りる。ただし、アミンAとしては分子量200〜400のものを使用する。分子量が小さいものでは還元時の液状媒体中において凝集・沈降が生じやすく、均一な還元反応の妨げになる場合がある。そうなると粒径分布を均一化するなどの品質管理面のコントロールが難しくなる。また液状有機媒体中に銀粒子が単分散した状況を作ることが難しくなる。逆に分子量が過剰に大きい有機化合物を用いると、後の工程においてヘキシルアミンに置き換える操作が難しくなることが懸念される。アミンAの具体的な例としては、オレイルアミンが挙げられる。
【0028】
還元反応時に溶媒中に共存させる1級アミンAの量は、銀に対し0.1〜20当量とすることができ、1.0〜15当量とすることがより好ましく、2.0〜10当量が一層好ましい。ここで、1級アミンでは銀1モルに対しアミン1モルが1当量に相当する。1級アミンの使用量が少なすぎると銀粒子表面の保護材の量が不足して、液中での単分散が実現できなくなる。多すぎると後の工程でアミンAをヘキシルアミンに置き換える反応が効率的に行えない恐れがある。
【0029】
還元剤としては、溶媒であるアルコールまたはポリオールを使用する。反応に際しては還流操作を行うことが効率的である。このため、アルコールまたはポリオールの沸点は低い方が好ましく、具体的には80〜300℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃であるのがよい。特許文献4などに開示される種々のものが使用できるが、中でもイソブタノール、n−ブタノールが好適である。
【0030】
還元反応を促進させるためには還元補助剤を添加しても構わない。還元補助剤の具体例は特許文献4に開示されているものから1種以上を選択すれば良いが、これらのうちジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。
【0031】
銀の供給源である銀化合物としては、上記溶媒に溶解し得るものであれば種々のものが適用でき、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などが挙げられるが、工業的観点から硝酸銀が好ましい。還元反応時の液中のAgイオン濃度は0.05モル/L以上、好ましくは0.05〜5.0モル/Lとすることができる。アミンA/Agのモル比については0.05〜5.0の範囲とすることができる。還元補助剤/Agのモル比については0.1〜20の範囲とすることができる。
【0032】
還元反応の温度は、50〜200℃の範囲内とすることが望ましい。50〜150℃とすることがより好ましく、60〜140℃の範囲が一層好ましい。アミンAに覆われた銀粒子(上記還元により合成されたもの)は、銀粒子とアミンAの合計に対するアミンAの存在割合(以下、単に「アミンA割合」という)が0.05〜25質量%に調整されていることが望ましい。アミンA割合が低すぎると粒子の凝集が生じやすい。逆にアミンA割合が高くなると、後の工程でアミンAをアミンBに置き換える反応が効率的に行えない恐れがある。
【0033】
〔銀粒子分散液の作成〕
アミンAに覆われた銀粒子は、例えば上記のような湿式プロセスでの還元反応で合成されたのち、固液分離および洗浄に供される。その後、液状有機媒体と混合して分散液を作る。液状有機媒体としては、アミンAに覆われた銀粒子が良好に分散する物質を選ぶ。例えば、炭化水素系が好適に使用できる。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素が使用できる。ケロシンなどの石油系溶媒を使用しても構わない。これらの物質を1種以上使用して液状有機媒体とすれば良い。
【0034】
ただし、本発明では、アミンAに被覆された銀粒子が単分散している銀粒子分散液を用意することが重要である。ここで、「単分散」とは、液状媒体中に個々の銀粒子が互いに凝集することなく、独立して動ける状態で存在していることをいう。具体的には、銀粒子を含む液を遠心分離による固液分離操作に供したとき、粒子が分散したまま残っている状態の液(上澄み)を、ここでは銀粒子分散液として採用することができる。
【0035】
〔保護材の付け替え〕
アミンAにより被覆されている銀粒子が単分散している液状有機媒体と、ヘキシルアミンを混合すると、個々の粒子の周囲にヘキシルアミンが存在する状態、すなわち粒子が液中でヘキシルアミンの分子に包囲されている状態(以下「ヘキシルアミンによる包囲状態」という)を実現することができる。発明者らは、この状態をしばらく維持すると、アミンAが銀粒子からはずれて、ヘキシルアミンに置き換えられる現象(以下「置き換え反応」ということがある)が生じることを発見した。
【0036】
この置き換え反応が生じるメカニズムについては現時点で未解明の部分が多いが、アミンAとヘキシルアミンの疎水基のサイズが相違することに起因する金属銀とアミンとの親和力の差が、この反応の進行の主たる要因になっているのではないかと考えられる。また、アミンAとして不飽和結合を有するものを採用していることも、アミンAの金属銀からの脱離を容易にし、ヘキシルアミンとの置き換え反応の進行に寄与していると思われる。
【0037】
置き換え反応は概ね5℃以上で進行するが、液温が低い状態で反応させると、アミンAの一部が金属銀表面に吸着したまま残存しやすい。すなわち、ヘキシルアミンの中に不純物のアミンAが多く存在する保護材が形成されやすい。この場合、芳香族有機化合物への分散性が低下し、芳香族有機化合物を分散媒とする安価な液状インクを作成する際には不利となる。そこで、ヘキシルアミンへの付け替えを20℃以上で行うことが好ましく、50℃以上で行うことがより好ましい。ただし、あまり温度を高めると不用意な焼結が生じる恐れがあるので、80℃以下の温度で行うのが良く、70℃以下とすることがより好ましい。
【0038】
銀粒子の表面を覆っている保護材が低分子量のヘキシルアミンに置き換わる反応が進行していくと、分子量の大きいアミンAによる「浮き輪」の効果が徐々に低減し、アミンAがまだ残存している状態でも粒子は沈降するようになる。沈降粒子が反応容器の底に堆積すると、それらの粒子は「ヘキシルアミンによる包囲状態」が得られなくなり、置き換え反応がそれ以上進行しにくくなる。したがって、本発明では置き換え反応に際し、液を撹拌する。ただし、あまり強く撹拌する必要はない。アミンAがまだ付着している粒子を「ヘキシルアミンによる包囲状態」に曝すことができれば十分である。したがって、反応容器の底に沈降粒子が堆積しない程度の撹拌力を与えることが望ましい。
【0039】
「ヘキシルアミンによる包囲状態」を作ると、時間とともにヘキシルアミンによる置換量が増えていくが、1時間以上の置き換え反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても、それ以上の置き換え反応はあまり進行しないので、24時間以内で置き換え反応を終了させるのが実用的である。現実的には1〜7時間の範囲で調整すればよい。
【0040】
混合するヘキシルアミンの量は、「ヘキシルアミンによる包囲状態」が実現できるに足る量を確保する。混合前に保護材として存在するアミンAの量に対しては、モル比にしてかなり多い量を添加することが望ましい。具体的には混合前に銀粒子として存在するAgに対する当量比(ヘキシルアミン/Ag)では、液量にもよるが、1当量以上のヘキシルアミンを混合することが望ましい。これまでの実験では2〜20当量程度のヘキシルアミン/Ag当量比で良好な結果が得られている。なお、Ag;1モルに対し、ヘキシルアミン;1モルが1当量に相当する。
【0041】
置換反応を進行させる液中にアミンAが溶解しやすいアルコールを配合させると、より効率良くヘキシルアミンへの置き換えが進行する。アミンAがオレイルアミンの場合、例えばイソプロパノールを好適に添加することができる。
【0042】
〔固液分離〕
上述のように、置き換え反応が終了した粒子は沈降するので、反応終了後の液を固液分離することによって、置き換え反応(沈降工程)を終えた粒子を固形分として回収することができる。固液分離としては遠心分離が望ましい。得られた固形分は、ヘキシルアミンで構成される有機保護膜で被覆された銀ナノ粒子を主体とするものである。このようにして本発明の銀微粉が得られる。
【0043】
〔洗浄〕
上記の固形分は、アルコールなどの溶媒を用いて洗浄することが望ましい。1回以上の洗浄操作を経て最終的に固液分離されて得られた固形分を塗料に使用する。
【0044】
〔インクの調整〕
上記洗浄後の固形分(保護材をヘキシルアミンに付け替えた銀微粉)と、適当な液状有機媒体Sとを混合して、液状有機媒体S中に銀微粉を分散させることにより、本発明の銀インクが得られる。ヘキシルアミンは低分子量であるため「浮き輪」としての能力が本来小さいが、適切な液状有機媒体Sを使用することにより、良好な分散状態が実現できる。そのような液状有機媒体Sとして、芳香族炭化水素が比較的効果的であり、例えばデカリンが好適な対象として例示できる。
【0045】
〔塗料の調製〕
上記洗浄後の固形分(保護材をヘキシルアミンに付け替えた銀微粉)と、適当な有機媒体とを混合して塗布可能な性状とすることにより、本発明の銀塗料が得られる。ここで混合する有機媒体は、120℃程度の温度で揮発除去しやすいものを選択することが肝要である。
【実施例】
【0046】
《比較例1》
リファレンスとして、特許文献4などに開示のアルコール還元法で合成した銀微粉を用いて銀塗料を調整し、焼成温度200℃および120℃で焼成した焼成膜の比抵抗を調べた。この銀微粉は個々の粒子の表面がアミンA(ここではオレイルアミン)からなる有機保護材に覆われているものである。具体的には以下のようにして実験を行った。
【0047】
〔銀粒子の合成〕
反応媒体兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)96.24g、アミンAとしてオレイルアミン(和光純薬株式会社製、分子量=267)165.5g、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)20.59gを用意し、これらを混合してマグネットスターラーにて撹拌し、硝酸銀を溶解させた。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより撹拌しながら108℃まで昇温した。108℃の温度で5時間の還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンのジエタノールアミン(和光純薬株式会社製、分子量=106)を対Agモル比1.0となるように12.87g添加した。その後、1時間保持した後、反応を終了した。反応終了後のスラリーを遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収した。その後、「固体成分をメタノールと混合したのち遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する」という洗浄操作を2回行った。
【0048】
〔銀粒子分散液の作成〕
液状有機媒体としてテトラデカンを用意した。これに前記洗浄後の固形成分を混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液を回収した。この液にはアミンA(オレイルアミン)に覆われた銀粒子が単分散している。
【0049】
この銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、平均粒径DTEMを求めた。すなわち、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により倍率60万倍で観察される粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。その結果、DTEMは8.5nmであった。本例では後述のように、この銀粒子分散液を銀塗料に用いるので、表1にはこのDTEM値を記載してある。
【0050】
なお、この銀粒子分散液中の銀粒子におけるアミンA(オレイルアミン)の被覆量は、特願2007−235015号で開示した手法による測定の結果、8.0質量%であった。
【0051】
〔保護材のTG−DTA測定〕
上記「銀粒子の合成」に従って得られた洗浄後の固形分(ウエット状態のもの)について昇温速度10℃/分でのTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図1に示す。図1において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
【0052】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
上記「銀粒子の合成」に従って得られた洗浄後の固形分(ウエット状態のもの)を、ガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、Ag(111)面の回折ピークを用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
X=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただしKはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0053】
〔銀塗料の調製〕
ここでは、アミンAからなる保護材に被覆された銀粒子を用いた銀塗料を作成した。前記の銀塗料分散液の粘度を回転式粘度計(東機産業製RE550L)により測定したところ、粘度は5.8mPa・sであった。また、TG−DTA装置を用いた測定によりこの銀粒子分散液中の銀濃度は60質量%であった。この銀粒子分散液はインクとして塗布可能な特性を有していると判断されたので、これをそのまま銀塗料として使用することとした。
【0054】
〔塗膜の形成〕
前記銀塗料をスピンコート法でガラス基板の上にコーティングすることにより塗膜を形成させた。
【0055】
〔焼成膜の形成〕
塗膜を形成した基板を、まず大気中60℃で30分ホットプレート上で予備焼成した後、さらにそのホットプレート上で大気中200℃で1時間保持することにより「200℃焼成膜」を得た。また、同様に60℃の予備焼成後に120℃のホットプレート上で1時間保持することにより「120℃焼成膜」を得た。
【0056】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
表面抵抗測定装置(三菱化学製;Loresta HP)により測定した表面抵抗と、蛍光X線膜厚測定器(SII製;STF9200)で測定した焼成膜の膜厚から、計算により体積抵抗値を求め、これを焼成膜の比抵抗として採用した。
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0057】
表1からわかるように、保護材の構成がアミンAである本例の銀微粉によると、200℃焼成膜の比抵抗が非常に低下していることから、200℃以下の温度で銀の焼結が起こると言える。しかし、120℃焼成膜は導電性を有しているとは認められなかった。したがって、120℃×1時間の条件では導電性を付与するに足るだけの銀粒子の焼結は起こっていないと言える。
【0058】
《比較例2》
比較例1に記載した「銀粒子の合成」に従って銀ナノ粒子を合成し、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子がテトラデカン中に単分散した銀粒子分散液を得た。置換するアミンBとして、比較例2ではオクチルアミンを採用した。
【0059】
〔オクチルアミン置換粒子の生成〕
試薬のオクチルアミン(C817−NH2、和光純薬株式会社製の特級)を107.8g用意した。これは、Agに対して10.0当量となる量である。また、反応を促進する目的でイソプロピルアルコール(和光純薬株式会社製の特級)を100.3g用意し、オクチルアミンとイソプロピルアルコールをガラス容器内で混合した。その後、比較例1の手法で得られた銀粒子分散液(アミンA被覆量は8.0質量%、銀濃度約50質量%)18.0gに、オクチルアミンとイソプロピルアルコールの混合液を添加した。その後、反応容器をウォーターバス中で液温を60℃で、加熱しながら、400rpmで撹拌状態を維持して5時間の置換反応を行った。撹拌を止めると沈降粒子が生成したことが観察された。
【0060】
〔固液分離および洗浄〕
上記の反応液に対してメタノールを452.1g(反応液の質量の2倍相当)添加した。これは、沈降を促進させるために添加した。その液を5分間の遠心分離により固液分離した。得られた固形分を回収し、この固形分にさらにメタノール80.1gを添加して400rpmの撹拌を30分間行い、その後、5分間の遠心分離により固液分離して固形分を回収した。
【0061】
〔保護材のTG−DTA測定〕
洗浄後の固形分について、比較例1と同様にTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図2に示す。置換前(図1)と置換後(図2)の対比から、置換後には図1に見られたピークは消失し、新たなピークが観測された。このことから、保護材は、アミンA(オレイルアミン)から、オクチルアミンに付け替えられたと考えられる。
【0062】
〔平均粒子径DTEMの測定〕
試料粉末(オクチルアミンの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)について、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により観察される銀粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子を無作為に選択して、粒子径(画像上での長径)を計測した。個々の粒子についての粒子径を算術平均することにより平均粒子径DTEMを求めた。
【0063】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
試料粉末(オクチルアミンの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)をガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、比較例1と同様の条件でX線結晶粒径DXを求めた。
【0064】
〔銀塗料の調製〕
上記の洗浄後の固形分に、デカリンを少量加えたのち、混練脱泡器にかけ、50質量%の銀塗料を得た。
【0065】
〔塗膜の形成〕
銀塗料をアプリケーターを用いて比較例1と同様の基板上に塗布することにより塗膜を形成した。
【0066】
〔焼成膜の形成〕
比較例1と同様の方法により行った。
【0067】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
比較例1と同様の方法により行った。ただし、焼成温度100℃とした場合についても測定した。
【0068】
《実施例1》
比較例1に記載した「銀粒子の合成」に従って銀ナノ粒子を合成し、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子がテトラデカン中に単分散した銀粒子分散液を得た。置換するアミンBとして、実施例1ではヘキシルアミンを採用した。ここでは再現性を確認するために以下に示す条件で行った7回の実験結果をn=1〜7として後述の表1に記載した。
【0069】
〔ヘキシルアミン置換粒子の生成〕
アミンBとして試薬のヘキシルアミン(C613−NH2、和光純薬株式会社製の特級)を84.4g用意した。これは、Agに対して10.0当量となる量である。また、反応を促進する目的でイソプロピルアルコール(和光純薬株式会社製の特級)を100.3g用意し、ヘキシルアミンとイソプロピルアルコールを混合した。その後、比較例1の手法で得られた銀粒子分散液(アミンA被覆量は8.0質量%、銀濃度約50質量%)18.0gに、ヘキシルアミンとイソプロピルアルコールの混合液を添加した。その後、反応容器をウォーターバス中で液温を60℃で、加熱しながら、400rpmで撹拌状態を維持して5時間の置換反応を行った。撹拌を止めると沈降粒子が生成したことが観察された。
【0070】
〔固液分離および洗浄〕
上記の反応液に対してメタノールを405.3g(反応液の質量の2倍相当)添加した。これは、沈降を促進させるために添加した。その液を5分間の遠心分離により固液分離した。得られた固形分を回収し、この固形分にさらにメタノール80.1gを添加して超音波分散を30分間行い、その後、5分間の遠心分離により固液分離して固形分を回収した。
【0071】
〔保護材のTG−DTA測定〕
洗浄後の固形分について、比較例1と同様にTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線の代表例(n=6の例)を図3に示す。置換前(図1)と置換後(図3)の対比から、置換後には図1に見られたピークは消失し、新たなピークが観測された。このことから、保護材は、アミンA(オレイルアミン)から、ヘキシルアミンに付け替えられたと考えられる。
【0072】
〔平均粒子径DTEMの測定〕
試料粉末(ヘキシルアミンの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)について、比較例2と同様の手法で平均粒子径DTEMを求めた。
参考のため、図5に実施例1のn=6の例で得られた銀粒子のTEM写真を示す。
【0073】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
比較例2と同様の手法でX線結晶粒径DXを求めた。
【0074】
〔銀塗料の調製〕
比較例2と同様の手法で50質量%の銀塗料を得た。
【0075】
〔塗膜の形成〕
比較例2と同様の手法で塗膜を形成した。
【0076】
〔焼成膜の形成〕
比較例2と同様の方法により行った。
【0077】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
比較例2と同様の方法により行った。
【0078】
《実施例2》
比較例1に記載した「銀粒子の合成」に従って銀ナノ粒子を合成し、アミンA(オレイルアミン)に被覆された銀粒子がテトラデカン中に単分散した銀粒子分散液を得た。置換するアミンBとして、実施例1と同様にヘキシルアミンを採用した。ここでは、ヘキシルアミンBに覆われた銀粒子が分散した銀粒子分散液を用いて、低温焼結性の時間依存性を確認した。
【0079】
〔ヘキシルアミン置換粒子の生成〕
アミンBとして試薬のヘキシルアミン(C613−NH2、和光純薬株式会社製の特級)を42.2g用意した。これは、Agに対して5.0当量となる量である。また、反応を促進する目的でイソプロピルアルコール(和光純薬株式会社製の特級)を50.1g用意し、ヘキシルアミンとイソプロピルアルコールを混合した。その後、比較例1の手法で得られた銀粒子分散液(アミンA被覆量は8.0質量%、銀濃度約50質量%)18.0gに、ヘキシルアミンとイソプロピルアルコールの混合液を添加した。その後、反応容器をウォーターバス中で液温を60℃で、加熱しながら、400rpmで撹拌状態を維持して5時間の置換反応を行った。撹拌を止めると沈降粒子が生成したことが観察された。
【0080】
〔固液分離および洗浄〕
上記の反応液に対してメタノールを220.7g(反応液の質量の2倍相当)添加した。これは、沈降を促進させるために添加した。添加後30分間、液を撹拌混合し、その後12時間静置した。静置後に上澄みを除去することにより固液分離した。得られた沈殿物を回収し、この沈殿物にさらにメタノール80.1gを添加して30分間撹拌混合を行い、その後12時間静置した。静置後に上記と同様に上澄みを除去することにより固液分離した。得られた沈殿物を回収し、この沈殿物にさらにメタノール80.1gを添加して30分間撹拌混合を行い、5分間の遠心分離により固液分離して固形分を回収した。
【0081】
〔銀粒子分散液の作成〕
液状有機媒体としてデカリンを用意した。これに前記洗浄後の固形成分を混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液を回収した。この液にはアミンAに覆われた銀粒子が単分散している。
【0082】
〔保護材のTG−DTA測定〕
洗浄後の固形分について、比較例1と同様にTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図4に示す。置換前(図1)と置換後(図4)の対比から、置換後には図1に見られたピークは消失し、新たなピークが観測された。このことから、保護材は、アミンA(オレイルアミン)から、ヘキシルアミンに付け替えられたと考えられる。また、このときの熱減量は3.3%であった。
【0083】
〔平均粒子径DTEMの測定〕
試料粉末(ヘキシルアミンの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)について、比較例2と同様の手法で平均粒子径DTEMを求めた。
【0084】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
比較例2と同様の手法でX線結晶粒径DXを求めた。
【0085】
〔銀塗料の調製〕
比較例1と同様の手法で67.5質量%の銀塗料を得た。この銀粒子分散液はインクとして塗布可能な特性を有していると判断されたので、これをそのまま銀塗料として使用することとした。
【0086】
〔塗膜の形成〕
比較例1と同様にスピンコート法で塗膜を形成した。
【0087】
〔焼成膜の形成〕
比較例2と同様の方法による実験に加え、本例ではさらに以下の方法で焼成膜を形成した。
塗膜を形成した基板を、ホットプレート上で大気中200℃、120℃、100℃の各温度で焼成を行った。このとき、予備焼成は行わず、焼成時間(上記温度での保持時間)を5、10、30、60分と変化させることにより、各保持時間での「200℃焼成膜」、「120℃焼成膜」および「100℃焼成膜」を得た。
【0088】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
比較例2と同様の方法により測定した。上記焼成膜の形成を比較例2と同様の方法で行った場合の結果は表1中に示してある。上記の各保持時間での焼成膜についての結果は表2に示す。
【0089】
表1からわかるように、比較例2のオクチルアミンを吸着させてなる保護材で被覆された銀ナノ粒子では120℃という低温で十分な焼結が可能であったものの、焼成温度が100℃になると、導電膜の比抵抗が急激に上昇した。これに対して実施例1、2のヘキシルアミンを吸着させてなる保護材で被覆された銀ナノ粒子では焼成温度100℃でも安定して十分に低い比抵抗が維持された。
【0090】
また、表2からわかるように、予備焼成を行うことなく5分という短時間の焼成時間でも、100℃で25μΩ・cm以下の十分に低い比抵抗が得られた。
これらの関係を図6に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】比較例1で銀塗料に使用した粒子の保護材についてのDTA曲線。
【図2】比較例2で銀塗料に使用した粒子の保護材についてのDTA曲線。
【図3】実施例1のn=6の例で銀塗料に使用した粒子の保護材についてのDTA曲線。
【図4】実施例2で銀塗料に使用した粒子の保護材についてのDTA曲線。
【図5】実施例1のn=6の例で得られた銀粒子のTEM写真。
【図6】実施例2で得られた焼成膜について焼成時間と体積抵抗の関係を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキシルアミンを表面に吸着させた平均粒子径DTEM:3〜20nmの銀粒子からなる銀微粉。
【請求項2】
ヘキシルアミンを表面に吸着させたX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子からなる銀微粉。
【請求項3】
当該銀微粉を有機媒体と混合して銀塗料とし、これを塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた請求項1または2に記載の銀微粉。
【請求項4】
当該銀微粉を有機媒体と混合して銀塗料とし、これを塗布した塗膜を大気中100℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた請求項1または2に記載の銀微粉。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の銀微粉を液状有機媒体Sに分散させた銀インク。
【請求項6】
液状有機媒体Sが芳香族炭化水素である請求項5に記載の銀インク。
【請求項7】
液状有機媒体Sがデカリンである請求項5に記載の銀インク。
【請求項8】
ヘキシルアミンを表面に吸着させた平均粒子径DTEM:3〜20nmの銀粒子を成分とする銀塗料であって、この銀塗料を塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた銀塗料。
【請求項9】
ヘキシルアミンを表面に吸着させたX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子を成分とする銀塗料であって、この銀塗料を塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた銀塗料。
【請求項10】
当該銀塗料を塗布した塗膜を大気中100℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備えた請求項8または9に記載の銀塗料。
【請求項11】
不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、ヘキシルアミンとを混合する工程、この混合液を撹拌状態で5〜80℃に保持することにより沈降粒子を生成させる工程、固液分離操作により前記沈降粒子を固形分として回収する工程を有する請求項1〜4のいずれかに記載の銀微粉の製造法。
【請求項12】
1級アミンAはオレイルアミンである請求項11に記載の銀微粉の製造法。
【請求項13】
不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、ヘキシルアミンとを混合する工程、この混合液を撹拌状態で5〜80℃に保持することにより沈降粒子を生成させる工程、固液分離操作により前記沈降粒子を固形分として回収する工程、得られた固形分を洗浄する工程、洗浄後の固形分を液状有機媒体Sに分散させる工程を有する請求項5〜7のいずれかに記載の銀インクの製造法。
【請求項14】
1級アミンAはオレイルアミンである請求項13に記載の銀インクの製造法。
【請求項15】
不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、ヘキシルアミンとを混合する工程、この混合液を撹拌状態で5〜80℃に保持することにより沈降粒子を生成させる工程、固液分離操作により前記沈降粒子を固形分として回収する工程、得られた固形分を洗浄する工程、洗浄後の固形分と有機媒体を混合して塗布可能な性状とする工程を有する請求項8〜10のいずれかに記載の銀塗料の製造法。
【請求項16】
1級アミンAはオレイルアミンである請求項15に記載の銀塗料の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−161808(P2009−161808A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220(P2008−220)
【出願日】平成20年1月6日(2008.1.6)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】