説明

銅被覆ポリイミド基板とその製造方法

【課題】耐折曲げ性に優れ、特に、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成し、さらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成してなる銅被覆ポリイミド基板であって、該銅めっき皮膜は、ダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が1000カウント以下であることを特徴とする。また、電気めっき法で、不溶解性陽極を用い、かつ全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lを含有する銅めっき液を用いるとともに、さらに、分解分の補充として添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.005〜0.1mgに制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅被覆ポリイミド基板とその製造方法に関し、さらに詳しくは、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、信頼性と耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属被覆ポリイミド基板は、液晶画面に画像を表示するための駆動用半導体を実装するための半導体実装用の基板として汎用されている。ポリイミドフィルムは、優れた耐熱性を有し、しかも機械的、電気的及び化学的特性においても他のプラスティック材料に比べ遜色のないことから、例えば、プリント配線板(PWB)、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ自動ボンディング用テープ(TAB)、チップオンフィルム(COF)等の電子部品用の絶縁基板材料として多用されている。
【0003】
この中で、液晶画面表示用のドライバICチップを実装する手法として、COF(Chip on Film)が注目されている。COFは、従来の実装法であったTCP(Tape Carrier Package)に比べて、ファインピッチ実装が可能であり、かつドライバICチップの小型化及びコストダウンを図ることが容易な実装法である。
一般的に、COFには高耐熱性、高絶縁性樹脂であるポリイミドフィルムと導電体である金属層を接合させることによって得られる金属被覆ポリイミド基板を使用する。この金属被覆ポリイミド基板の金属層にフォトリソグラフィー法によって微細な配線パターンを形成し、さらに所望の箇所にすずめっきおよびソルダーレジストを被覆することによって実装に使用される。
【0004】
上記金属被覆ポリイミド基板の製造方法として、例えば、ポリイミドフィルムの表面に、まずスパッタリング法によってニッケル−クロム系合金等の金属層を形成し、引き続き良好な導電性を付与するために同様の方法によって銅等の金属層を形成する。さらに、電気めっき法、或いは電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で金属層の厚膜化を行い、所望の厚さ金属層を形成する方法が実用化されている。このような方法により製造される金属被覆ポリイミド基板は、接着剤を用いないためその影響を受けないため、高温安定性をはじめとするポリイミド本来の特徴を利用した金属被覆ポリイミド基板を得ることができるという利点を有している。
【0005】
上記金属層として銅を選択する場合、電気めっき法における陽極として、通常は、溶解性の含りん銅ボールが用いられる(例えば、特許文献1参照。)。この手法では、陽極である含りん銅ボールが溶解することでめっき液中に銅イオンを供給している。その際、含りん銅ボール中の不純物が陽極スライムと呼ばれる残渣としてめっき液中に拡散し、めっき液を汚染する。これらの汚染物質がめっき基板に付着することにより、めっき皮膜の表面に凹凸、すなわち陽極スライムに起因するめっきノジュールの発生を引き起こすと考えられている。めっき皮膜の表面に凹凸が存在すると、配線加工時や実装時に断線が発生し、信頼性が大きく低下する。
【0006】
これに対し、原理的に陽極スライムが発生しないめっき法として、不溶解性の陽極を用いる手法も存在する。不溶解性陽極は、金属製錬などにおいて余剰の金属や不純物元素を電解採取する工程で古くから用いられている(例えば、特許文献2参照。)ものである。
近年、電気めっき工程における陽極スライムに起因する問題を解決するため、溶解性の金属陽極の代替として、イオン交換膜でめっき液から隔てた陽極室内に不溶解性陽極を設置し、銅めっき処理を行う際に、銅イオンの供給源として酸化銅を充填した専用の槽を設置し、この槽のめっき液をめっき処理を行う槽と循環させてめっき液中の銅イオン濃度を制御するめっき法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この方法では、通常、電気めっき処理中に陽極上で水の電気分解反応が起こり、それに伴って酸素ガスが発生する。したがって、酸素ガスが発生することによって、めっき液中の添加剤が異常に消耗すること、酸素ガスが激しく発生することによって、陽極そのものが劣化すること等の問題が発生していた。
【0007】
ところで、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用の銅被覆ポリイミド基板に対しては、上記したような品質上の信頼性の向上に加えて、配線のファインピッチ化の進展、さらには銅被覆ポリイミド基板の用途拡大によって、銅被覆ポリイミド基板自体の耐折り曲げ性の向上が求められていた。これらの対策として、銅被覆ポリイミド基板の表面の凹凸、及び耐折り曲げ性の改善のため、不溶解性陽極の使用に加えて、めっき液にFeイオンを添加し、Feイオンの酸化還元反応を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。この方法では、不溶解性陽極の使用とめっき液へのFeイオンの添加とにより、銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜の平均結晶粒径を大きくすることにより、耐折り曲げ性が向上されている。
しかしながら、この方法においても、連続電気めっき装置において製造される銅被覆ポリイミド基板の耐折り曲げ性は、安定性に欠け、バラツキがあり、さらなる向上策により、信頼性を高めることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−256891号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開平10−60678号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2004−269955号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献4】特開2008−130585号公報(第1頁、第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、耐折曲げ性に優れ、特に、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、信頼性と耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成し、さらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成してなる銅被覆ポリイミド基板について、鋭意研究を重ねた結果、銅被覆ポリイミド基板の銅めっき皮膜のダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が、特定値であるようにしたところ、耐折曲げ性に優れ、特に、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、信頼性と耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板が得られること、また、その製造方法として、電気めっき法において、特定の要件を満足するように実施したところ、上記のように耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成し、さらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成してなる銅被覆ポリイミド基板であって、
前記銅めっき皮膜は、ダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が1000カウント以下であることを特徴とする銅被覆ポリイミド基板が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成する工程、及びさらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成する工程を含む、第1の発明の銅被覆ポリイミド基板の製造方法であって、
前記電気めっき法において、下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法が提供される。
(イ)陽極は、不溶解性陽極である。
(ロ)銅めっき液は、全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lと、銅イオンと、光沢剤とを含有する。
(ハ)分解分の補充として銅めっき液に添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.005〜0.1mgであるように制御する。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記銅めっき液は、光沢剤を、そのイオウ濃度で、0.01〜0.1mg/L含有することを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第2の発明において、前記銅めっき液の銅イオンは、銅めっき液の排液に無酸素銅を溶解することにより供給することを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第2の発明において、前記不溶解性陽極は、白金又は鉛からなる金属陽極であることを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第2の発明において、前記不溶解性陽極は、チタン製のフレームに、酸化イリジウム、酸化ロジウム、又は酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種の導電性を有するセラミックを焼成してコーティングしたセラミックス系陽極であることを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の銅被覆ポリイミド基板とその製造方法は、耐折曲げ性に優れ、特に、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、信頼性と耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板とその製造方法であるので、その工業的価値は極めて大きい。これにより、30μmピッチ以下のファインピッチのCOFを折り曲げて実装する際にも、リードが断線しにくい、折曲げに対する耐久性に優れた半導体実装用の銅被覆ポリイミド基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の銅被覆ポリイミド基板とその製造方法を詳細に説明する。
1.銅被覆ポリイミド基板
本発明の銅被覆ポリイミド基板は、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成し、さらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成してなる銅被覆ポリイミド基板であって、該銅めっき皮膜は、ダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が1000カウント以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明において、電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で形成される銅めっき皮膜中のイオウ量を、ダイナミックSIMS法によるイオウ(S)の相対二次イオン強度が1000カウント以下となるようにすることが重要である。これによって、例えば、チップオンフィルム(COF)の折り曲げ実装時に求められる耐屈曲性において、耐折り曲げ性の指標であるMIT耐折性試験(JIS C 5016)おいて、150回以上、好ましくは200回以上の折曲げ性が得られ、折曲げに対する耐久性に優れた銅被覆ポリイミド基板が得られる。
【0020】
本発明の銅被覆ポリイミド基板を構成する銅めっき皮膜のダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度としては、1000カウント以下であり、600カウント以下であることが好ましい。なお、ダイナミックSIMS法は、高感度であり、銅被覆ポリイミド基板の銅めっき皮膜中のイオウ量が、微量であっても、容易に分析することができる。
すなわち、上記イオウの相対二次イオン強度を1000カウント以下とすることにより、銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性が大幅に改善される。この理由の詳細は不明であるが、イオウの相対二次イオン強度、すなわち、銅めっき皮膜中のイオウ量を、微量に制御することにより、銅めっき皮膜中の粒界等に析出するイオウ化合物が少なくなるので、転位の移動が容易に行われ、銅めっき皮膜の変形が容易となり、これにより耐折曲げ性が改善されるものと考えられる。一方、銅めっき皮膜のダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度の下限としては、特に限定されるものではなく、低いほど好ましいが、イオウ量の制御には限度があり、200カウント程度である。
【0021】
上記銅被覆ポリイミド基板としては、その断面は、ポリイミドフィルムの表面上に、スパッタリング法により形成された金属シード層、その上に同じくスパッタリング法又は蒸着法により形成された銅層、及びその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で形成された銅めっき皮膜が、順次積層された構造になっている。
【0022】
上記金属シード層としては、特に限定されるものではないが、ニッケル層、クロム層、又はニッケル、クロム及び銅のいずれか2種以上を含む合金層から選ばれる少なくとも1種が好ましく、この中で、特に、ニッケル層、クロム層、又はニッケル−クロム系合金層がより好ましく、ニッケル−クロム系合金層がさらに好ましい。ここで、ニッケル−クロム系合金層の合金組成としては、特に限定されるものではないが、合金層中のクロム品位は5〜30質量%が好ましい。
上記金属シード層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、5〜50nmが好ましい。
【0023】
上記銅層としては、良好な導電性を付与するためのものであり、通常は銅が用いられるが、特性改善のために添加元素を加えた銅合金を用いることもできる。上記銅層の厚さとしては、特に限定されるものではないが、50〜500nmが好ましい。
上記銅めっき皮膜の厚さとしては、特に限定されるものではなく、例えば、サブトラクティブ法によって回路パターンを形成する場合は5〜18μmであることが好ましい。
【0024】
2.銅被覆ポリイミド基板の製造方法
本発明の銅被覆ポリイミド基板の製造方法は、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成する工程、及びさらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成する工程を含む、上記銅被覆ポリイミド基板の製造方法であって、前記電気めっき法において、下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することを特徴とする。
(イ)陽極は、不溶解性陽極である。
(ロ)銅めっき液は、全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lと、銅イオンと、光沢剤とを含有する。
(ハ)分解分の補充として銅めっき液に添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.005〜0.1mgであるように制御する。
【0025】
上記製造方法によって製造された銅被覆ポリイミド基板は、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法等によって金属シード層とその上に銅層を形成する工程、及びさらにその上に電気めっき法等で銅めっき皮膜を形成する工程を含む方法で得られるので、積層のために接着剤を必要としないため、高耐熱性、高絶縁性などのポリイミド本来の特性を利用することができ、実装時に折り曲げて使用することが可能であるため、デバイスの小型化にも大きく貢献することができることが知られている。
【0026】
上記製造方法では、まず、スパッタリング法又は蒸着法による工程で、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層を形成し、次いでその上にスパッタリング法又は蒸着法によって銅層を形成する。ここで用いるスパッタリング法又は蒸着法としては、特に限定されるものではなく、ポリイミドフィルム上に金属層を形成する際に用いられる通常の方法が用いられる。
なお、上記金属シード層又は銅層としては、本発明の銅被覆ポリイミド基板の説明において前述した通りである。
【0027】
次いで、その上に、電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅層の厚膜化を行い、所望の厚さの銅めっき皮膜を形成する。ここで、無電解めっき法としては、通常の銅の無電解条件で行なわれるが、生産性に課題があるため、銅めっき皮膜の形成の主体は、電気めっき法により行なわれる。
なお、上記銅めっき皮膜としては、本発明の銅被覆ポリイミド基板の説明において前述した通りである。
【0028】
上記製造方法において、電気めっき法で、上記(イ)〜(ハ)の要件を満足することが重要である。
まず、(ハ)の要件を満足することにより、すなわち、分解分の補充として銅めっき液に添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.005〜0.1mgであるように制御することにより、連続電気めっき装置においても、形成される銅めっき皮膜中に取り込まれるイオウ量が安定して低下するように制御し、安定した耐折曲げ性の向上が達成されるように改善することができる。ここで、前記イオウ量が0.005mg未満では、銅めっき皮膜の表面平滑性が低下する。一方、前記イオウ量が0.1mgを超えると、銅めっき皮膜中のイオウ量が増加し、耐折曲げ性が低下する。
【0029】
このような銅めっき皮膜中のイオウ量と銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性の変動は、次のように説明される。
すなわち、上記銅めっき液としては、銅めっき皮膜の表面平滑性を改善するため、光沢剤を添加したものが用いられる。ここで、前記光沢剤としては、ビスジスルファイド(SPS)等のイオウを含有する有機物を主成分として含む添加剤が用いられる。ところが、このような銅めっき液を用いる電気めっき法においては、陽極上で水の電気分解反応が起こり酸素ガスが発生し、この酸素ガスにより光沢剤中のイオウを含有する有機物が分解される。これにより、めっきの進行に伴い、銅めっき液中にイオウを含有する分解生成物が蓄積され、さらに、このイオウを含有する分解生成物は、光沢剤に比べて銅めっき皮膜中に取り込まれやすいので、銅めっき皮膜中のイオウ量を増加させる大きな要因となる。
したがって、銅めっき皮膜中のイオウ量を低減させ、それにより銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性を改善する手段としては、光沢剤の分解を抑制して、銅めっき液中のイオウを含有する分解生成物量を低減するため、分解される光沢剤の補充として銅めっき液へ添加する光沢剤量を適切に制御することが肝要である。分解される光沢剤量は、銅めっき液中の光沢剤の濃度と鉄イオンの濃度によって影響を受けるため、光沢剤および鉄イオンの濃度を適切に設定することで制御することができる。
【0030】
なお、このため、銅めっき液中の分解生成物に由来するイオウ量を分析して管理してもよいが、分解生成物に由来するイオウと分解されない有機物のイオウとを分離して分析することは困難である。通常、光沢剤の補充としては、分解による補充とめっき液の持ち出し等による補充とがおこなわれるが、持ち出し等による補充は容易に求めることができるので、光沢剤の全補充量と持ち出し等による補充量の差から、分解による補充量を求めることができる。
【0031】
さらに、光沢剤は、前述したように陽極上で起こる水の電気分解反応により発生する酸素ガスによって分解されるので、光沢剤の分解を抑制するためには、酸素ガスの発生を抑制することが有効である。このため、上記電気めっき法で、(イ)及び(ロ)の要件を満足すること、すなわち、不溶解性陽極を用い、かつ銅めっき液中に鉄イオンを添加することが有用である。したがって、上記電気めっき法では、不溶解性陽極を用い、かつ、全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lと、銅イオンと、光沢剤とを含有する銅めっき液を用いることによって、光沢剤の酸化分解を抑制する。
【0032】
ここで、不溶解性陽極は、溶解性の陽極に比べて、硫酸銅めっき液中でも比較的安定であるが、その一方で、不溶解性陽極を用いる場合には、前述したように、一般的には、電気めっき処理中に酸素ガスが発生し、これに伴う問題が発生するとともに、形成される銅めっき皮膜の平均結晶粒径は細かいことも相俟って、銅被覆ポリイミド基板の耐屈曲性が十分でないという課題があった。これに対して、本発明の方法では、不溶解性陽極を用いた場合においても、銅めっき液中に所定量の鉄イオンを添加することによって酸素ガスの発生の抑制と形成される銅めっき皮膜の平均結晶粒径の上昇を図ることができる。
【0033】
上記電気めっき法で用いる銅めっき液としては、硫酸と硫酸銅を主成分とする通常用いられるの酸性めっき液に鉄イオンと光沢剤を添加したものである。
上記銅めっき液中の鉄イオンの濃度としては、0.1〜10g/Lである。すなわち、鉄イオンの濃度が0.1g/L未満では、酸素ガスの発生低減の効果が十分でない。一方、鉄イオンの濃度が10g/Lを超えると、電気めっきの際の電流効率が著しく低下するので経済的でない。ここで、電気化学的に、陽極上では鉄イオンの酸化反応が水の電気分解反応に優先して起こるため、酸素ガスの発生を抑制することが可能となる。
上記鉄イオンの添加は、例えば、硫酸鉄を所定の濃度になるように溶解し、銅めっき液に添加することにより調製される。
【0034】
上記銅めっき液中の光沢剤の濃度としては、特に限定されるものではないが、形成される銅めっき皮膜中に取り込まれるイオウ量に関係するので、例えば、光沢剤を、そのイオウ濃度で、0.01〜0.1mg/L含有することが好ましい。すなわち、形成される銅めっき皮膜中に取り込まれるイオウは、前述したように分解生成物に由来するイオウによるものが多いが、光沢剤としても一部が取り込まれる。ここで、銅めっき液中の光沢剤が、そのイオウ濃度で0.1mg/Lを超えると、銅めっき皮膜中に光沢剤として取り込まれる量が増加するとともに、分解される光沢剤の量が増加するため、銅めっき皮膜中のイオウ量が増加して、銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性が低下する。一方、銅めっき液中の光沢剤が、そのイオウ濃度で0.01mg/L未満では、銅めっき液中の光沢剤の量が少なく、銅めっき皮膜の平滑性が十分に得られない。
【0035】
上記不溶解性陽極としては、白金又は鉛からなる金属陽極、或いはチタン製のフレームに、酸化イリジウム、酸化ロジウム、又は酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種の導電性を有するセラミックを焼成してコーティングしたセラミックス系陽極が好適に用いられるが、特に、チタン製のフレームに、酸化イリジウム又は酸化ロジウムを焼成してコーティングしたセラミックス系陽極は、セラミックスを用いているために前記酸性めっき液中でも比較的安定であり、劣化した場合も再度焼成することによって再生可能であるという利点を有している。
【0036】
上記製造方法で用いる銅めっき液中の銅イオンの供給源としては、通常の不溶解性陽極を用いる際の銅イオンの供給と同様に、銅めっき液の排液に酸化銅、炭酸銅、無酸素銅などを溶解することにより供給される。この中で、めっき液中に添加した3価の鉄イオンによって容易に溶解される無酸素銅がより好ましい。
【0037】
上記製造方法で用いる電気めっき装置としては、特に限定されるものでなく、金属シード層及びその上に銅層を形成させたポリイミドフィルムを、銅めっき液を充填しためっき槽中を浸漬して搬送する連続電気めっき装置が用いられるが、例えば、イオン交換膜で銅めっき液から隔てた陽極室内に不溶解性陽極を設け、さらに、銅イオンの供給源専用の槽が設置されている装置が用いられる。ここで、銅めっき液中の銅イオンは、めっき槽からの銅めっき液の排液を循環させ、上記供給源を溶解することで供給される。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析、銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性の評価、及び銅めっき皮膜中のイオウ濃度の評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)銅被覆ポリイミド基板の耐折曲げ性の評価方法:JIS C 5016 MIT耐折性試験方法によって、折れ曲げに至るまでの折曲げ回数を求めた。
(3)銅めっき皮膜中のイオウ濃度の評価:ダイナミックSIMS(CAMECA、imf5f)によって、銅めっき皮膜中のイオウの相対二次イオン強度を測定した。なお、最大カウント数は、カウント数が安定する銅めっき皮膜表面から2〜6μmの間での最大値である。
【0039】
(実施例1)
ポリイミドフィルムとして、東レ・デュポン製のKapton 150EN(厚さ38μm)を用いた。
まず、このフィルムに、真空度を0.01〜0.1Paに保持したチャンバー内で、150℃で1分間の熱処理を施した。引き続き、このフィルム上にスパッタリング法によって、クロムを7質量%含有するニッケル−クロム合金層を7nmの厚さで形成し、さらにその上に銅層を100nmの厚さで形成した。
次いで、上記スパッタリング法でニッケル−クロム合金層及び銅層を形成したフィルムを使用して、上記連続電気めっき装置により、フィルム上の銅層の上に銅めっき皮膜を8μmの厚さで形成した。ここで、めっき液の基本的な組成は、硫酸濃度180g/L、硫酸銅濃度80g/L、及び塩素濃度50mg/Lであり、これに、銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で、有機系の光沢剤を、光沢剤中のイオウ量が、銅めっき液の全量に対し0.05mg/Lの濃度となるように添加した。また、陽極としては、酸化イリジウム系の不溶解性陽極であるペルメレック電極株式会社の電極を採用した。また、銅イオンの供給源としては無酸素銅ボールを採用し、かつ硫酸鉄溶液を添加してめっき液中の鉄イオン濃度は6.0g/Lとした。
また、銅めっき液に添加する光沢剤の添加量は、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり、補充総量として0.05mgであり、分解分の補充として0.01mgであるように制御した。
その後、得られた銅被覆ポリイミド基板について、その折曲げ回数と、その銅めっき皮膜中のイオウ濃度を評価した。
その結果、イオウの相対二次イオン強度は、最大カウント数で565であった。また、MIT耐折性試験方法による折れ曲げに至るまでの折曲げ回数は、230回であった。
【0040】
(比較例1)
銅めっき液中の鉄イオンの濃度を0.05g/Lとしたこと、及び、銅めっき液に添加する光沢剤の添加量としては、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり、補充総量として1.16mgであり、分解分の補充として1.10mgであったこと以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を試作し評価した。
その結果、イオウの相対二次イオン強度は、最大カウント数で1550であった。また、MIT耐折性試験方法による折れ曲げに至るまでの折曲げ回数は、105回であった。
【0041】
(比較例2)
陽極として溶解性陽極(三菱マテリアル製、りん脱酸素銅)を用いたこと、銅めっき液中に鉄イオンを添加しなかったこと、及び、銅めっき液に添加する光沢剤の添加量としては、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり、補充総量として3.34mgであり、分解分の補充として3.30mgであったこと以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を試作し評価した。
その結果、イオウの相対二次イオン強度は、最大カウント数で1920であった。また、MIT耐折性試験方法による折れ曲げに至るまでの折曲げ回数は、106回であった。
【0042】
以上より、実施例1では、電気めっき法において、不溶解性陽極を用い、かつ全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lと、銅イオンと、光沢剤とを含有する銅めっき液を用いるとともに、さらに、銅めっき液に分解分の補充として添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.1mg以下であるように制御することにより、本発明の方法に従って行われたので、ダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が1000カウント以下であり、耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板が得られることが分かる。
これに対して、比較例1、2では、電気めっき法がこれらの条件に合わないので、耐折曲げ性によって満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上より明らかなように、本発明の銅被覆ポリイミド基板とその製造方法は、耐折曲げ性に優れ、特に、液晶画面駆動用半導体を実装するための半導体実装用として、信頼性と耐折曲げ性に優れる銅被覆ポリイミド基板とその製造方法であり、30μmピッチ以下のファインピッチCOF等の半導体実装用銅被覆ポリイミド基板とその製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成し、さらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成してなる銅被覆ポリイミド基板であって、
前記銅めっき皮膜は、ダイナミックSIMS法によるイオウの相対二次イオン強度が1000カウント以下であることを特徴とする銅被覆ポリイミド基板。
【請求項2】
ポリイミドフィルムの少なくとも片面に、スパッタリング法又は蒸着法によって金属シード層及びその上に銅層を形成する工程、及びさらにその上に電気めっき法、又は電気めっき法と無電解めっき法を併用する方法で銅めっき皮膜を形成する工程を含む、請求項1に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法であって、
前記電気めっき法において、下記の(イ)〜(ハ)の要件を満足することを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
(イ)陽極は、不溶解性陽極である。
(ロ)銅めっき液は、全量に対して鉄イオンを0.1〜10g/Lと、銅イオンと、光沢剤とを含有する。
(ハ)分解分の補充として銅めっき液に添加する光沢剤の添加量を、そのイオウ量で、銅めっき液1mかつ1時間当たり0.005〜0.1mgであるように制御する。
【請求項3】
前記銅めっき液は、光沢剤を、そのイオウ濃度で、0.01〜0.1mg/L含有することを特徴とする請求項2に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
【請求項4】
前記銅めっき液の銅イオンは、銅めっき液の排液に無酸素銅を溶解することにより供給することを特徴とする請求項2に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
【請求項5】
前記不溶解性陽極は、白金又は鉛からなる金属陽極であることを特徴とする請求項2に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
【請求項6】
前記不溶解性陽極は、チタン製のフレームに、酸化イリジウム、酸化ロジウム、又は酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種の導電性を有するセラミックを焼成してコーティングしたセラミックス系陽極であることを特徴とする請求項2に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法。

【公開番号】特開2010−232283(P2010−232283A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76078(P2009−76078)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】