説明

銅被覆ポリイミド基板の製造方法および電気めっき装置

【課題】銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜層の厚み分布の均一性を向上させる銅被覆ポリイミド基板の製造方法を提供する。
【解決手段】シード層付長尺ポリイミドフィルム2を幅方向が略水平方向になるように搬送してシード層の表面に、複数の不溶解性陽極14を用い、搬送方向に対して段階的に電流密度を上昇させる湿式めっき法を用いて銅めっき被膜層を成膜する銅被覆ポリイミド基板2の製造方法で、その複数の不溶解性陽極14の中で印加される電流の電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極14は、その不溶解性陽極14の上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までは、銅被覆ポリイミド基板2の銅めっき被膜層幅の80%〜90%の陽極幅を有し、さらに複数の不溶解性陽極14が、搬送方向において電気的に2群以上に分割され、かつ分割されたそれぞれの不溶解性陽極が、各群毎に独立して電流密度が制御されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル配線基板を製造するための銅被覆ポリイミド基板の製造方法および銅被覆ポリイミド基板の製造に用いる電気めっき装置に関するものである。更に詳しくは均一な銅厚分布を有する銅被覆ポリイミド基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線基板の一例として液晶画面表示用のドライバICチップを実装する手法としてCOF(Chip on Film)が注目されている。このCOFは、従来の実装法であるTCP(Tape Carrier Package)に比べてファインピッチ実装が可能であり、ドライバICチップの小型化やコストダウンを図ることが容易な実装法である。
【0003】
一般的に、COFには高耐熱性、高絶縁性樹脂であるポリイミドフィルムと導電体である金属層を接合させることによって得られる銅被覆ポリイミド基板を使用する。このCOF基板は、銅被覆ポリイミド基板の金属層にフォトリソグラフィー法を用いるサブトラクティブ法によって微細な配線パターンを形成し、さらに所望の箇所にすずめっきおよびソルダーレジストを被覆することによって実装に使用されるものである。
【0004】
ここで、サブトラクティブ法でフレキシブル配線基板を作製する場合の説明をすると、まず、基材の金属層表面にレジスト層を設け、そのレジスト層の上に所定の配線パターンを有するマスクを設け、その上から紫外線を照射して露光し、現像して金属層をエッチングするためのエッチングマスクを得て、次いで露出している金属部をエッチングして除去し、次いで残存するレジスト層を除去し、水洗し、要すれば配線のリード端子部等に所定のめっきを施して作製する。
【0005】
ポリイミドフィルムの表面に金属層を形成する方法には、ポリイミドフィルムと電解銅箔等を接着剤で貼り合わせる3層基板の製造方法とメタライジング法がある。メタライジング法を以下に述べる。
まず、乾式めっき法によってニッケル−クロム系合金等の金属層を形成し、引き続き良好な導電性を付与するために乾式めっき法によって銅等の金属層を形成する。このニッケル−クロム系合金等の金属層と銅等の金属層の積層をシード層という。さらに、ジード層の表面に電気めっき法を用いて、または無電解めっき法と電気めっき法を併用することによって金属層の膜厚を厚くし、所望の膜厚の金属層を形成する。このメタライジング法により製造される銅被覆ポリイミド基板は、3層基板に比べて接着剤の影響を受けず、高温安定性をはじめとするポリイミド本来の特徴を利用した銅被覆ポリイミド基板を得ることができるという利点を有している。
【0006】
このシード層の表面に形成される金属層に銅を選択する場合、通常は電気めっき法を用い、その陽極に溶解性の含リン銅ボールを用いる(特許文献1参照)が、この手法では、陽極の含リン銅ボールが溶解することで、めっき液中に銅イオンを供給している。その際、含リン銅ボール中の不純物が陽極スライムと呼ばれる残渣としてめっき液中に拡散し、めっき液を汚染する。これらの汚染物質がめっき基板に付着することにより、めっき皮膜の表面に凹凸、すなわち陽極スライムに起因するめっきノジュールの発生を引き起こすと考えられている。めっき皮膜の表面に凹凸が存在すると、配線加工時や実装時に断線が発生し、信頼性を大きく低下させる要因となっている。
【0007】
これに対し、原理的に陽極スライムが発生しないめっき法として、不溶解性陽極を用いる手法が提案されている。
この不溶解性陽極は、金属製錬などにおいて余剰の金属や不純物を電解採取する工程で古くから用いられているものである(特許文献2参照)。
【0008】
この不溶解性陽極を用いる手法が、近年電気めっき工程における陽極スライムに起因する問題の解決に利用され、溶解性の金属陽極の代替として、イオン交換膜でめっき液から隔てた陽極室内に不溶解性陽極を設置し、銅めっき処理を行う際に、銅イオンの供給源として酸化銅を充填した専用の槽を設置し、めっき処理を行う槽とこの槽のめっき液を循環させてめっき液中の銅イオン濃度を制御するめっき法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−256891号公報
【特許文献2】特開平10−60678号公報
【特許文献3】特開2004−269955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、不溶解性陽極を用いた銅電気めっき法は、従来からの溶解性の陽極を用いた銅電気めっき法における陽極スライムの発生による配線加工時や実装時の断線の抑制には大きく貢献するが、このような製造時の品質改善に加え、配線のファインピッチ化の進展や銅被覆ポリイミド基板の用途拡大によって、銅めっき被膜層の膜厚分布をより均一にすることが求められている現状では、その効果は十分ではなく銅めっき被膜層の膜厚分布を均一にめっきする方法が希求されている。
【0011】
本発明はこのような状況の中、上記の従来技術の問題点に鑑み、銅厚分布が良好である銅被覆ポリイミド基板の製造方法を提供し、銅被覆ポリイミド基板の銅厚分布の均一性を向上させるものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決するために、銅厚分布が良好である銅被覆ポリイミド基板の製造方法を鋭意検討した結果、電気めっき工程において不溶解性陽極を用いて、さらに陽極の特定領域の電流を遮蔽して銅層をめっきしたところ、目標とする銅厚分布を達成できることを見出したものである。
【0013】
本発明の第1の発明は、長尺ポリイミドフィルムの少なくとも片面に乾式めっき法で導電性のシード層を成膜したシード層付長尺ポリイミドフィルムを幅方向が略水平方向になるように搬送し、前記シード層の表面に複数の不溶解性陽極を用いて搬送方向に対して段階的に電流密度を上昇させる制御による電気めっき法、または無電解めっき法と複数の不溶解性陽極を用いて搬送方向に対して段階的に電流密度を上昇させる制御による電気めっき法の併用とから選択される湿式めっき法を用いて銅めっき被膜層を成膜する銅被覆ポリイミド基板の製造方法であって、その複数の不溶解性陽極の中で印加される電流の電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極は、その不溶解性陽極の上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までは、銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜層幅の80%〜90%の陽極幅を有し、さらに複数の不溶解性陽極が、搬送方向において電気的に2群以上に分割され、かつ分割されたそれぞれの不溶解性陽極が、各群毎に独立して電流密度が制御されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第2の発明は、長尺ポリイミドフィルムの少なくとも片面に乾式めっき法で導電性のシード層を成膜したシード層付長尺ポリイミドフィルムを幅方向が略水平方向になるように搬送し、そのシード層の表面に複数の不溶解性陽極を搬送方向に配して電気めっき法による湿式めっき法で銅めっき被膜層を成膜する銅被覆ポリイミド基板の電気めっき装置であって、その複数の不溶解性陽極の中で印加される電流による電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極は、その上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までは、銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜層幅の80%〜90%の陽極幅を有することを特徴とするものである。
【0015】
また、複数の不溶解性陽極の中で印加される電流による電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極は、その表面を覆うように配置した遮蔽板により、その不溶解性陽極の幅を銅めっき被膜層幅の80%〜90%の幅とするものである。
【0016】
さらに、複数の不溶解性陽極が、搬送方向において電気的に2群以上に分割され、かつ2群以上に分割された不溶解性陽極が、各群毎に独立して電流密度が制御されていることを特徴とするものであり、この複数の不溶解性陽極は、白金または鉛を用いた金属陽極、あるいはチタン製フレームに酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種の導電性を有するセラミック被膜を焼成によりコーティングしたセラミックス系陽極であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、加工精度が高く、ファインピッチ化に有用な銅被覆ポリイミド基板を得ることが可能である。さらに詳しくは、本発明の銅被覆ポリイミド基板は、均一な銅厚分布により加工精度を高めることができる。具体的には470mmの範囲内での銅層の膜厚の最大値と最小値の差が0.5μm以内に抑えることが可能となり、30μmピッチ以下のファインピッチCOFに好適であり、工業的価値が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】銅被覆ポリイミド基板の一般的な製造工程を示すフロー図である。
【図2】本発明の製造方法を用いて製造される銅被覆ポリイミド基板の断面図で、(a)は電気めっき法による銅めっき被膜層のみからなる銅層を備える基板、(b)は無電解めっき法による銅薄膜層と電気めっき法による銅めっき被膜層からなる銅層を備える基板である。
【図3】本発明の銅被覆ポリイミド基板の製造方法に用いる電気めっき装置の側面から見た概略図である。
【図4】電気めっき装置1の電気めっきセルのうち陽極14gおよび陽極14hの配置をより詳細に示した概略図である。
【図5】シード層付長尺ポリイミドフィルム20aの搬送方向に分割された陽極の一例を示す陽極14gの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は銅被覆ポリイミド基板の一般的な製造工程を示している。
銅被覆ポリイミド基板は、原料であるポリイミドフィルム上にスパッタリング処理および電気めっき処理を施し、所望の金属皮膜を形成して製造される。この方法によって製造された銅被覆ポリイミド基板は、接着剤を必要としないため、高耐熱性、高絶縁性などのポリイミド本来の特性を利用することができ、実装時に折り曲げて使用することが可能であるため、デバイスの小型化にも大きく貢献することができる。以下に各工程の詳細を述べる。
【0020】
(1)銅被覆ポリイミド基板
図2は本発明の製造方法を用いて製造される銅被覆ポリイミド基板の断面図である。ポリイミドフィルム2の表面にニッケル−クロム系合金等の下地金属層3と銅薄膜層4と銅めっき被膜層5が積層されている。下地金属層3と銅薄膜層4の積層体をシード層6と称す。また、銅めっき被膜層5は、銅の電気めっき法のみを用いて形成されたもの(図2(a)参照)、あるいは銅の無電解めっき法、次いで銅の電気めっき法により形成されても良い(図2(b)参照)。
【0021】
本発明の銅被覆ポリイミド基板10は、ポリイミドフィルム2の表面に銅層を形成するものであり、まずスパッタリング法によってニッケル−クロム系合金等の下地金属層3を形成する。この下地金属層3の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜50nmが一般的である。続いて、下地金属層3の表面に良好な導電性を付与するために引き続き、乾式めっき法のスパッタリング法によって銅薄膜層4を形成する。この工程によって形成される銅薄膜層4の厚みは50〜500nmが一般的である。
【0022】
さらにシード層6の表面、すなわち銅薄膜層4表面に、湿式めっき法で成膜するのである。図2aについて説明すれば、銅薄膜層4の表面に湿式めっき法の一種である電気めっき法も用いた銅めっき被膜層5が形成されて、銅薄膜層4と銅めっき被膜層5からなる銅層が設けられている。また、図2bおいては、銅薄膜層4の表面に湿式めっき法の一種の無電解めっき法と電気めっき法の併用により、無電解めっき法による銅無電解めっき層5aと電気めっき法による銅めっき被膜層5が形成されて銅薄膜層4と銅無電解めっき層5aと、銅めっき被膜層5からなる銅層を設けて所望の膜厚とする。なお、無電解めっき法と電気めっき法を併用する場合には、シード層の表面に銅を無電解めっきで成膜し、次に無電解めっきによる成膜の表面に電気めっきを行う。
【0023】
銅層の厚みは、例えばサブトラクティブ法によって回路パターンを形成する場合は5〜18μmが一般的である。なお、銅層の形成に電気めっき法を用いる場合には、硫酸と硫酸銅を主成分とする酸性めっき液を用い、その形成が行われる。
【0024】
(2)電気めっき装置
図3は、本発明の銅被覆ポリイミド基板の製造方法に用いる電気めっき装置の側面から見た概略図である。図3において、1は電気めっき装置、11はめっき液槽、12は巻出軸、13は従動ロール、14a〜14hは不溶解性陽極(以下、陽極と称す)、15は巻取軸、16a〜16eは給電ロール、20a、20bはシード層付長尺ポリイミドフィルムである。
【0025】
図3に示す電気めっき装置において、めっき液槽11には硫酸と硫酸銅を主成分とする酸性めっき液が満たされている。シード層付長尺ポリイミドフィルム20aは、幅方向を略水平にして搬送されていて、巻出軸12より巻き出され、給電ロール16aによりめっき液槽11のめっき液中に浸漬するように搬送方向を変えられ、めっき液槽11内の従動ロール13によりめっき液槽11のめっき液面方向へ搬送方向を変えられる。さらに給電ロール16b、従動ロール13、給電ロール16c、従動ロール13、給電ロール16d、従動ロール13、給電ロール16eの順に搬送されることによりめっき液への浸漬が繰り返される。最終的には、シード層付長尺ポリイミドフィルム20b(この状態では電気めっきが完了しているので銅被覆ポリイミド基板となる)は巻取軸15により巻き取られる。
【0026】
ここで、陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hは、それぞれ電気的に独立した電気めっきセルを構成している。そのため、シード層付長尺ポリイミドフィルム20aの金属膜(例えば銅薄膜層等)の表面が給電ロール16a、16b、16c、16d、16eと接触することで、それぞれ陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hとの間に電位差が生じて電気めっきが行われる。
【0027】
また、陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hは、それぞれに電気的に独立した制御用電源(整流器ともいう。図示せず)の正極に接続されている。この制御用電源の負極は、給電ロール16a、16b、16c、16d、16eと接続されている。すなわち、陽極14aは、この陽極14aに接続した制御用電源と、給電ロール16aと、シード層付長尺ポリイミドフィルム20aとにより電気めっき回路を構成するものである。陽極14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hについても同様に電気めっき回路を構成している。
【0028】
さらに、陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hは、巻出軸12側から段階的に電流密度が上昇するように各陽極に接続された制御用電源により電流密度の制御がなされている。この段階的に電流密度が上昇する制御は、銅めっき被膜層の膜厚などを考慮して適宜定める。
また、電気めっき装置1には、シード層付長尺ポリイミドフィルム20aの張力を制御する制御ロール等の長尺ポリイミド(樹脂)フィルムの搬送にもちいる公知の各種装置や、めっき液の攪拌や供給等の公知の各種装置を追加することもできる。
【0029】
(3)陽極
図4は、電気めっき装置1の電気めっきセルのうち陽極14gおよび陽極14hの配置をより詳細に示した概略図である。陽極14gおよび陽極14hは、シード層付長尺ポリイミドフィルム20aの搬送方向に2群に分割されている。図4では、陽極14gは上部陽極14g−1と下部陽極14g−2のように分割され、フレーム21gに設置されている。また、上部陽極14g−1の上端は、めっき液面11bより下にあり、陽極14g全体がめっき液に浸かっている。
【0030】
さらに、電流密度が35mA/cm以上印加される陽極では、銅めっき被膜層幅の80〜90%の陽極幅となっている。より好ましくは、図4に示されるように分割された陽極を用いることで、電流密度分布がより均一なものとなり、より均一な銅厚分布を得ることができる。
【0031】
すなわち、電流密度が高くなると銅めっき被膜の成膜速度も速くなる一方で、電流も流れやすい箇所により集中することとなり、電流密度が不均一になる。電流密度が不均一になると、結果的には、銅めっき被膜層の膜厚分布が広くなる。特に、銅めっき被膜層の端部に電流が集中することとなり、その膜厚が厚くなって膜厚分布を広くするものである。結果的には、銅薄膜層4と銅めっき被膜層5からなる銅層の膜厚分布を広くするのである。
そこで、電流密度が35mA/cm以上印加される陽極の幅を、銅めっき被膜層幅の80〜90%とすることにより、この状態が回避できる。
なお、電流密度35mA/cm未満印加される陽極の幅を、銅めっき被膜層幅の80〜90%とすれば、所望の膜厚の銅めっき被膜層の膜厚分布が大きくなることは無いが、銅めっき被膜層の幅方向の両端の膜厚が薄くなり、所望の膜厚の銅めっき被膜層の幅が狭くなる問題がある。
【0032】
この陽極幅の調整は、図4に示すように不溶解性陽極である陽極14g、14hとシード層付長尺ポリイミドフィルム20aとの間に各々の遮蔽板17g、17hを設けて、陽極の幅が銅めっき被膜層幅の80〜90%になるように調整しても良く、あるいは陽極の幅、そのものを銅めっき被膜層幅の80〜90%となる陽極を用いても良い。
特に遮蔽板を使用すると、陽極幅の調整が容易である。また、遮蔽板は、図4のように陽極と平行に置いても、下側が広がるような側面から見て八の字状に設置されていても良い。
この陽極幅の調整に用いる遮蔽板は、公知の電気的絶縁性を有するプラスチックやセラミック等が用いられる。
【0033】
さらに、陽極の上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置のところまでは、銅めっき被膜層幅の80〜90%の幅となるように幅を調整して用いる。ここで、陽極が完全にめっき液中に浸っていない場合には、少なくともめっき液面の位置から下端方向に40cmの位置まで、陽極の幅は銅めっき被膜層幅の80〜90%とする。
【0034】
陽極の上端から下端に向かって少なくとも40cmのところまで陽極の幅を調整するのは、めっき液面に近いほうが電流密度が高くなり、銅めっき被膜層の膜厚の分布が大きくなるからで、その状態を抑制するために調整している。なお、上端から下端まで銅めっき被膜層幅の80〜90%の幅の陽極であっても構わない。
【0035】
さらに、陽極は搬送方向において電気的に分割されていることが望ましい。
図5は、シード層付長尺ポリイミドフィルム20aの搬送方向に分割された陽極の一例を示す陽極14gの概略図である。
この陽極14gは、電気絶縁性を有するフレーム21gに備えられる上部陽極14g−1と下部陽極14g−2から構成されている。この上部陽極14g−1は、ブスバー24g−1に電気的に接続され、下部陽極14g−2は、ブスバー24g−2に電気的に接続されている。このブスバー24g−2は、フレーム21gの裏面を通るので、上部陽極14g−1に接触することは無い。ブスバー24g−1、24g−2は、めっき浴槽の縁に載置されて、フレーム21gを介して陽極14gが配置されるために、陽極14gは電気めっき装置1への取り付け、取り外しが自在になっている。また、ブスバー24g−1、24g−2はそれぞれ独立した制御用電源に接続される。
【0036】
なお、電気的に分割するとは、分割された陽極の間に電気的な接続がないことである。図5の陽極14gを例にして説明すると、電気絶縁性を有するフレーム21gに、電気的接触が無いように上部陽極14g−1と下部陽極14g−2を配置している。すなわち、図3の電気めっき装置1の電気めっきセルにおいて、陽極は、めっき液の深さ方向で上下に電気的な分割が成されている。
【0037】
このように陽極を搬送方向で電気的に分割することが望ましいのは、分割されたそれぞれの陽極に個々の制御回路を接続して、分割された陽極ごとに電流を制御することにより電流密度の均一化が可能となり、銅めっき被膜層の膜厚分布をさらに均一なものとすることができるからである。
なお、フレーム21gの材質はめっき液中でも電気絶縁性が保持でき、めっき液に侵食されない材質を選択すればよく、公知の電気的絶縁性を有するプラスチックやセラミック等を用いると良い。
【0038】
本発明は、陽極に不溶解性陽極を用いる。この不溶解性陽極を用いると、溶解性の含リン銅の陽極を用いて製造した銅被覆ポリイミド基板と比較して銅めっき被膜層の膜厚分布が良好な銅被覆ポリイミド基板を得ることができる。
【0039】
一般に、溶解性の陽極は、チタン製のかごに含リン銅ボールを充填したものであり、含リン銅ボールが溶解することによってめっき液中に銅イオンを供給している。溶解性の陽極は、その溶解により形状を経時的に変化すると、陰極の電流密度分布も経時的に変化する。また、添加剤等の有機成分が含リン銅ボールの表面に吸着することでボール同士の電気的接触面積を狭くするので、陽極全体での電気抵抗が高くなる。
【0040】
これに対し、不溶解性陽極は、形状の経時的変化が、原理上なく深さ方向、幅方向に均一な構造とすることが可能である。また、溶解性の陽極に比べて電気抵抗が低く、深さ方向、幅方向に均一な電流密度分布を得ることが容易となり、均一な膜厚で膜厚分布が狭い銅被覆ポリイミド基板を得ることが可能となる。
【0041】
不溶解性陽極としては、白金や鉛などの金属陽極や、チタン製のフレームに酸化イリジウム、酸化ロジウム、あるいは酸化ルテニウムなどの導電性を有するセラミックスを焼成してコーティングしたセラミックス系の陽極などが好適に使用できる。好ましくは、チタン製のフレームに酸化イリジウムおよび酸化ロジウムをコーティングしたセラミックス系の不溶解性陽極を採用する。この不溶解性陽極は、セラミックスを用いているために硫酸銅めっき液中でも比較的安定であり、劣化した場合も再度焼成することによって再生可能であるという利点を有している。
【0042】
このような不溶解性陽極を用いる場合には、電気めっき処理中に陽極上で水の電気分解反応が起こり、それに伴って酸素ガスが発生する。酸素ガスが発生することによって、めっき液中の添加剤が異常に消耗し、またガスが激しく発生することによって陽極そのものが劣化するという問題も同時に発生するが、この酸素ガスの発生を抑制するために、めっき液中に鉄イオンを添加することによって酸素ガス発生の低減を図っている。
【0043】
そのため、めっき液中に添加する鉄の濃度は0.1〜10g/Lが好ましい。鉄の濃度が0.1g/L未満では酸素ガスの発生低減の効果が十分でなく、10g/Lを超えると電気めっき工程における電流効率が著しく低下するため好ましくない。電気化学的に、陽極上では鉄イオンの酸化反応が水の電気分解反応に優先して起こるため、酸素ガスの発生を抑制することが可能となる。
【0044】
本発明において、不溶解性陽極を用いる際の銅イオンの供給源としては、酸化銅、炭酸銅、無酸素銅などが好適に用いられる。特に、めっき液中に添加した3価の鉄イオンによって容易に溶解される無酸素銅が好ましい。
【実施例】
【0045】
本発明について、実施例を用いてより詳細に説明する。
【実施例1】
【0046】
長尺ポリイミドフィルムに、東レ・デュポン製のKapton 150EN(厚さ38μm)を用い、このポリイミドフィルムに、真空度を0.01〜0.1Paに保持したチャンバー内で150℃、1分間の熱処理を施した。引き続き、このポリイミドフィルム上にスパッタリング法によってクロムを7重量%含有するニッケル−クロム合金層を厚み7nm形成し、さらに銅層を厚み100nm形成してシード層付長尺ポリイミドフィルムFを得た。スパッタリングにはロール・ツー・ロール方式のスパッタリング装置を用いた。
【0047】
スパッタリング後、図3の電気めっき装置1を用いて電気めっき法によって銅層を膜厚8μmに形成した。このめっき液の基本的な組成は、硫酸濃度180g/L、硫酸銅濃度80g/L、塩素濃度50mg/Lであり、これに銅めっき皮膜の平滑性等を確保する目的で有機系の添加剤を所定量添加した。
電気めっき工程における陽極は分割されていないものを用い、その材質は酸化イリジウム系の不溶解性陽極であるペルメレック電極株式会社の電極を採用した。また、銅イオンの供給源としては無酸素銅ボールを採用し、めっき液中の鉄イオン濃度は7.0g/Lとした。
【0048】
表1に各陽極に印加した電流密度を示す。
また、陽極14f、14g、14hの両端を絶縁性の遮蔽板によって遮蔽し、銅めっき被膜層の幅の90%の幅の陽極となるように調整して、銅被覆ポリイミド基板を作製して膜厚分布を評価した。
【0049】
膜厚分布の計測は、蛍光X線膜厚計を用いて、幅方向に470mmの銅被覆ポリイミド基板の銅厚分布を測定し、その最大値と最小値の差を求めて表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【実施例2】
【0052】
陽極14f、14g、14hの幅を銅めっき被膜層の幅の80%となるように調整した点以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
【実施例3】
【0053】
陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hを、図4に示す電気的に分割された陽極を用いたこと、陽極14f、14g、14hの上部陽極のみ、その幅を銅めっき被膜層幅の90%となるように調整したこと、陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hのそれぞれの上部陽極と下部陽極に独立した制御用電源を備えて電流密度を制御した点以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
なお、陽極14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g、14hの上部陽極および下部陽極の長さ、すなわちシード層付長尺ポリイミドフィルム20aの搬送方向の長さは70cmとした。
【0054】
(比較例1)
陽極への遮蔽を施していない点以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
【0055】
(比較例2)
陽極への遮蔽を施さない点以外は実施例3と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
【0056】
(比較例3)
陽極に対する遮蔽を70%とした以外は、実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
【0057】
(比較例4)
電気めっき工程におけるおける陽極として溶解性の陽極(三菱マテリアル製、リン脱酸素銅)を用いた点、およびめっき液中に鉄イオンを添加しない点以外は実施例1と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を試作し、膜厚分布を評価した。
その結果を表2に示す。
【0058】
(比較例5)
陽極に対する遮蔽をめっき液面から35cm遮蔽した以外は、実施例3と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製し、その膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
【0059】
(参考例)
電流密度が35mA/cm未満である陽極14eに対する遮蔽を80%を追加した以外は、実施例2と同様の条件で銅被覆ポリイミド基板を作製して、膜厚分布を評価した。その結果を表2に示す。
なお、実施例1〜3及び比較例1〜5では、幅方向470mmで銅層の膜厚8μmを確保しているが、参考例では幅方向470mmで膜厚を測定すると、幅両端の10mmにおいて銅層の膜厚8μmを確保できていなかった。そこで、表2には幅方向450mmの膜厚分布の測定結果を示している。
【0060】
表1、2から明らかなように、本発明の製造方法を実施した実施例1、2、3では、銅層の膜厚の最大値と最小値の差が0.4μm以内に抑えることが可能であるのに対し、比較例では0.5μm以内に抑えることができないことがわかる。
また、参考例で示されるように、電流密度の低い陽極にまで過剰に遮蔽をした場合では、幅全体において均一な銅層が得られない。
【符号の説明】
【0061】
1 電気めっき装置
2 ポリイミドフィルム
3 下地金属層
4 銅薄膜層
5 銅めっき被膜層
5a 銅無電解めっき被膜層
6 シード層
10 銅被覆ポリイミド基板
11 めっき液槽
11b めっき液面
12 巻出軸
13 従動ロール
14a〜14h 陽極(不溶解性陽極)
14g−1、14h−1 上部陽極
14g−2、14h−2 下部陽極
15 巻取軸
16a〜16e 給電ロール
17a、17b 遮蔽板
20a、20b シード層付長尺ポリイミドフィルム
21g、21h フレーム
24g−1、24g−2 ブスバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺ポリイミドフィルムの少なくとも片面に乾式めっき法で導電性のシード層を成膜したシード層付長尺ポリイミドフィルムを幅方向が略水平方向になるように搬送し、前記シード層の表面に複数の不溶解性陽極を用いて搬送方向に対して段階的に電流密度を上昇させる制御による電気めっき法、または無電解めっき法と複数の不溶解性陽極を用いて搬送方向に対して段階的に電流密度を上昇させる制御による電気めっき法の併用とから選択される湿式めっき法を用いて銅めっき被膜層を成膜する銅被覆ポリイミド基板の製造方法であって、
前記複数の不溶解性の陽極の中で印加される電流の電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極は、
前記不溶解性陽極の上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までは、前記銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜層幅の80%〜90%の陽極幅を有することを特徴とする銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
【請求項2】
前記複数の不溶解性陽極が、搬送方向において電気的に2群以上に分割され、かつ分割されたそれぞれの不溶解性陽極が、各群毎に独立して電流密度が制御されていることを特徴とする請求項1に記載の銅被覆ポリイミド基板の製造方法。
【請求項3】
長尺ポリイミドフィルムの少なくとも片面に乾式めっき法で導電性のシード層を成膜したシード層付長尺ポリイミドフィルムを幅方向が略水平方向になるように搬送し、前記シード層の表面に、複数の不溶解性陽極を搬送方向に配して電気めっき法による湿式めっき法で銅めっき被膜層を成膜する銅被覆ポリイミド基板の電気めっき装置であって、
前記複数の不溶解性陽極の中で、印加される電流の電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極は、少なくとも前記不溶解性陽極の上端から下端に向かって少なくとも40cmの位置までは、前記銅被覆ポリイミド基板の銅めっき被膜層幅の80%〜90%の陽極幅を有することを特徴とする電気めっき装置。
【請求項4】
前記複数の不溶解性陽極の中で、印加される電流の電流密度が35mA/cm以上となる不溶解性陽極が、前記不溶解性陽極の表面を覆うように配置した遮蔽板により、前記不溶解性陽極の幅を前記銅めっき被膜層幅の80%〜90%の幅となることを特徴とする請求項3に記載の電気めっき装置。
【請求項5】
前記複数の不溶解性陽極が、搬送方向において電気的に2群以上に分割され、かつ前記2群以上に分割された不溶解性陽極が、各群毎に独立して電流密度が制御されていることを特徴とする請求項3または4に記載の電気めっき装置。
【請求項6】
前記複数の不溶解性陽極が、白金または鉛を用いた金属陽極であることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の電気めっき装置。
【請求項7】
前記複数の不溶解性陽極が、チタン製フレームに酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化ルテニウムから選ばれる少なくとも1種の導電性を有するセラミック被膜を焼成によりコーティングしたセラミックス系陽極であることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の電気めっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−58057(P2011−58057A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209829(P2009−209829)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】