説明

鋳包み用部材及びその製造方法

【課題】外周面を鋳造材料によって鋳包んだ際の鋳造残留応力や残留歪の低い鋳包み用部材を提供する。
【解決手段】シリンダライナ10の外周面全体に、シリンダブロック20を形成する鋳造材料の熱膨張係数とシリンダライナ本体11の熱膨張係数との中間の値の熱膨張係数を有する単一の被膜層12を形成している。鋳鉄製のシリンダライナ本体11に対して、マグネシウム系材料又はアルミニウム系材料を使用でき、被膜層は銅系材料又はアルミニウム系材料とする。銅系被膜層であれば膜厚30μm以上300μm以下とし、アルミニウム系被膜層であれば膜厚300μm以上2,500μm以下とする。鋳包んだ後は、150℃以上200℃以下で熱処理することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面が鋳造材料によって鋳包まれる筒状体と、該筒状体の外周面に形成された被膜層とを有する鋳包み用部材、特に内燃機関のシリンダブロックによって鋳包まれるシリンダライナと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の内燃機関では、ピストンの摺動面となるシリンダボアを有するシリンダブロックが設けられている。当該シリンダブロックは、円筒形の鋳鉄製シリンダライナの外周面に、鋳造材料を鋳造して鋳包むことで製造される。古くはシリンダブロックも鋳鉄製であったが、近年では燃費の向上や排気ガス低減等のため軽量化が求められており、シリンダブロックをアルミニウム製とすることが多い。また、さらなる軽量化を図るため、実用金属の中でも最も比重の低い部類に属するマグネシウム系材料によってシリンダライナを鋳包んだシリンダブロックも開発されている。
【0003】
しかし、古来の鋳鉄製シリンダブロックの場合は、シリンダライナと鋳造材料とが同系金属であるため大きな問題は生じなかったが、近年のように鋳鉄製のシリンダライナの外周面を、これとは異なる金属によって鋳包む場合は、シリンダライナとシリンダブロックとの界面(接合面)の密着性が問題となる。すなわち、シリンダブロックを鋳造する際、溶湯状態の鋳造材料は収縮しながら凝固するが、シリンダライナを構成する鋳鉄とシリンダブロックを構成するアルミニウムやマグネシウムとでは熱膨張係数(熱膨張率)が異なるため、凝固後に残留応力が生じ、歪が発生するという問題が生じる。特に、マグネシウムはアルミニウムに比べて鋳鉄との熱膨張係数の差が大きいため、上記問題が顕著となる。シリンダブロックに残留応力に伴う歪が生じると、シリンダライナとシリンダブロックとの界面に隙間が生じたり、耐久性の低下や欠損の要因ともなる。シリンダライナとシリンダブロックとの間に隙間が生じていると、熱伝導率の低下によって内燃機関の冷却効果が損なわれる。
【0004】
そこで、このような問題を解決する技術として、例えば下記特許文献1や特許文献2が提案されている。特許文献1では、円筒形の鋳鉄製シリンダライナ本体の外周面全体に、アルミニウム又は銅を含む発熱性被膜と、これとは異なる金属としてアルミニウム、マグネシウム、又は銅からなる溶射被膜とを複数層積層している。具体的には、それぞれ膜厚25.4〜50.8μmの発熱性被膜と溶射被膜とを、5〜20層交互に積層している。そのうえで、当該シリンダライナの外周面にアルミニウム系材料を鋳造することで鋳包んだシリンダブロックを製造している。ここでは、金属間の冶金的結合により密着性を向上している。
【0005】
特許文献2では熱伝導率に着目しており、鋳鉄製シリンダライナ本体の外周面上部に、アルミニウム系材料又は銅系材料からなる高熱伝導被膜層を設ける一方、シリンダライナ本体の外周面下部に、アルミナやジルコニア等のセラミックス材料からなる低熱伝導被膜層を設けており、シリンダライナの軸方向中間部においては、高熱伝導被膜層と低熱伝導被膜層とが積層されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−204828号公報
【特許文献2】特開2007−16737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2では複数種の被膜層を積層しているので、製造工程が増すことで煩雑である。特に、特許文献1では多数積層しているので、製造は極めて煩雑である。また、異なる被膜層を積層すると、各層の間にも界面が存在する。この場合、各層間の界面においても熱伝導率が変化することで、各界面において熱が籠って返って熱伝導率が低下するおそれもある。そもそも、特許文献1や特許文献2では、金属の熱膨張係数差に起因する鋳造残留応力や残留歪に関して直接的に解決するものではない。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであり、外周面を鋳造材料によって鋳包んだ際の鋳造残留応力の低い鋳包み用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段として、本発明は、外周面が鋳造材料によって鋳包まれる筒状体と、該筒状体の外周面に形成された被膜層とを有する鋳包み用部材において、前記筒状体は鋳鉄からなり、前記被膜層は、前記筒状体の熱膨張係数と前記鋳造材料の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する単一層であることを特徴とする。これによれば、被膜層を介して筒状体と鋳造材料との熱膨張係数(熱膨張率)の差が段階的に変化し、各界面における熱膨張係数差が小さくなるので、鋳造後の残留応力延いては残留歪を低減することができる。また、本発明の被膜層は単一層として形成されているので、製造が簡便であり、手間やコストを削減することができる。また、必要以上に界面が増えることもない。
【0010】
前記鋳造材料がマグネシウム系材料又はアルミニウム系材料である場合、前記被膜層としては銅系材料を好適に使用できる。鋳鉄の熱膨張係数は、その種類(組成)にもよるが、10〜13/Kである。一方、マグネシウム系材料の熱膨張係数は25〜27/Kである。また、アルミニウム系材料の熱膨張係数は22〜24/Kである。これに対し、銅系材料の熱膨張係数は16〜18/Kである。このように、鋳鉄とマグネシウム系材料やアルミニウム系材料との熱膨張係数の中間値にある熱膨張係数を有する銅系材料を中間層として介在させておけば、シリンダブロックにおける鋳造後の残留応力延いては残留歪を低減することができる。なお、マグネシウム系材料とは、純マグネシウムやマグネシウム合金を意味する。アルミニウム系材料とは、純アルミニウムやアルミニウム合金を意味する。銅系材料とは、純銅や銅合金を意味する。
【0011】
この場合、前記被膜層の膜厚は30μm以上300μm以下とすることが好ましい。銅系材料からなる被膜層の膜厚をこの範囲としていれば、被膜層の存在によって必要以上に重量が増加することを避けながら、的確に残留歪等を低減できる。
【0012】
また、前記鋳造材料がマグネシウム系材料である場合は、前記被膜層をアルミニウム系材料とすることもできる。上記のように、アルミニウム系材料の熱膨張係数は鋳鉄とマグネシウム系材料の中間値にあるので、アルミニウム系材料を中間層としても、シリンダブロックにおける鋳造後の残留応力延いては残留歪を低減することができる。
【0013】
この場合、前記被膜層の膜厚は300μm以上2,500μm以下とすることが好ましい。アルミニウム系材料からなる被膜層の膜厚をこの範囲としていれば、被膜層の存在によって必要以上に重量が増加することを避けながら、的確に残留歪等を低減できる。
【0014】
前記鋳包み用部材が前記鋳造材料で鋳包まれた際、前記被膜層中に前記鋳造材料が拡散していることが好ましい。これによれば、被膜層と鋳造材料とが冶金的に結合しているので、鋳包み用部材と鋳造材料との密着性及び接合強度を向上することができる。
【0015】
このような前記鋳包み用部材としては、例えば、内燃機関のシリンダブロック用のシリンダライナを挙げることができる。また、当該シリンダライナを備えるシリンダブロックを提供することもできる。
【0016】
このような鋳包み用部材の製造方法では、外周面が鋳造材料によって鋳包まれる鋳鉄製の筒状体の外周面に、前記鋳造材料の熱膨張係数と前記筒状体の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する単一層の被膜層を形成する工程を有する。
【0017】
また、上記製造方法によって製造された鋳包み用部材を、内部に備える鋳包み製品の製造方法では、前記鋳包み用部材の外周面に鋳造材料を鋳造して鋳包んだ後、150℃以上200℃以下で熱処理する工程を有することが好ましい。これによれば、中間層である被膜層中に鋳造材料が拡散することで、界面の接合強度及び密着性をより向上することができる。これにより、鋳造割れも確実に防止することができる。特に、銅とマグネシウムとは親和性が高いので、被膜層を銅系材料とし、鋳造材料をマグネシウム系とした場合に、この効果が高い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋳包み用部材の外周面に、鋳造材料の熱膨張係数と鋳包み用部材の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する被膜層が形成されていることで、外周面に鋳造材料を鋳造することで鋳包んだ際の残留応力や残留歪を低減することができる。また、被膜層は単一層として形成されているので、製造も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シリンダブロック及びシリンダライナの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
鋳包み用部材は円筒形を呈し、その外周面に鋳造材料が鋳造されることで鋳包まれる。このような鋳包み用部材としては、代表的には自動車等の内燃機関のシリンダブロックに鋳包まれているシリンダライナを挙げることができるが、他にピストン用耐摩環やバルブガイド等にも適用可能である。以下には、シリンダライナを例に挙げて詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、円筒形のシリンダライナ10は、これの外周面に鋳造材料を所定形状に鋳造することで、シリンダブロック20の内部に鋳包まれた状態で配されている。シリンダライナ10は、これの基材となるシリンダライナ本体11と、当該シリンダライナ本体11の外周面全体を被覆する単一な被膜層12とから成る。符号21は、ウォータージャケットである。なお、シリンダライナ本体11が本発明の筒状体に相当し、シリンダライナ10が本発明の鋳包み用部材に相当し、シリンダブロック20が本発明の鋳包み製品に相当する。
【0022】
シリンダブロック20を形成する鋳造材料は、シリンダライナ本体11よりも軽量(比重の小さい)金属とする。シリンダブロック20の軽量化を図るためである。且つ、シリンダライナ本体11よりも低融点の金属とする。鋳造時にシリンダライナ本体11が溶解してしまうからである。このような組み合わせとしては、鋳鉄性のシリンダライナ本体11に対して、マグネシウム系材料やアルミニウム系材料を使用できる。マグネシウム系材料としては、好適にはJISH 5303やJIS H 2222に規定されるMDC1B,MDC1D,MDC2B,MDC3B,MDC4,MDC5,MDC6などのダイカスト材を挙げることができる。または、純マグネシウムでもよい。アルミニウム系材料としては、好適にはJISH 2118やJIS H 5302に規定されるADC1,ADC3,ADC5,ADC6,ADC10,ADC10Z,ADC12,ADC12Z、ADC14などのダイカスト材を挙げることができる。または、純アルミニウムでもよい。
【0023】
鋳鉄としては、従来からシリンダライナ用として使用されているものであれば特に限定されない。例えば、炭素を3.2〜4.4wt%、ケイ素を0.8〜2.6wt%、マンガンを0.1〜2.4wt%、硫黄を0.001〜0.2wt%、リンを0.01〜0.6wt%含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる組成の鋳鉄を使用することができる。さらに、クロムを0.01〜0.6wt%、銅を0.01〜1.0wt%、アルミニウムを0.05〜1.0wt%、錫を0.001〜0.3wt%、アンチモンを0.001〜0.2wt%、ホウ素を0.01〜2.0wt%含んでいてもよい。
【0024】
一方、被膜層12用には、鋳造材料の熱膨張係数とシリンダライナ本体11の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する金属を使用する。例えば、鋳鉄製のシリンダライナ本体11に対してマグネシウム系材料を使用する場合は、被膜層12用として銅系材料又はアルミニウム系材料を使用する。鋳鉄製のシリンダライナ本体11に対してアルミニウム系材料を使用する場合は、被膜層12用として銅系材料を使用する。なお、被膜層12は単一層とする。
【0025】
銅系材料としては、純度99.8wt%以上の純銅の他、銅−亜鉛合金、銅−亜鉛−スズ合金、銅−亜鉛−アルミニウム合金、銅−亜鉛−鉄合金、銅−亜鉛−マンガン合金、銅−亜鉛−ニッケル合金、銅−亜鉛−鉄−マンガン−アルミニウム合金、亜鉛−ケイ素合金、亜鉛−ニッケル合金、銅−スズ合金、銅−スズ−亜鉛合金、銅−スズ−リン合金、銅−クロム合金などを挙げることができる。アルミニウム系材料としては、純度99.0wt%以上の純アルミニウムの他、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−マグネシウム−ケイ素合金、アルミニウム−銅−マグネシウム合金、アルミニウム−亜鉛−マグネシウム合金、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−銅−ニッケル合金、アルミニウム−ケイ素合金などを挙げることができる。これらの中でも、純銅や純アルミニウムが好ましい。異種元素が含有されていないため、被膜層12とシリンダブロック20との密着性や接合強度が高くなるからである。
【0026】
次に、シリンダライナ10及びこれを備えるシリンダブロック20の製造方法について説明する。先ず、公知の方法で製造された円筒形のシリンダライナ本体11に対して、その外周面全体に被膜層12を形成することで、シリンダライナ10を製造できる。被膜層12は、好ましくは溶射により形成できるが、他にもめっきや鋳造などによって形成することができる。
【0027】
溶射としては、電気式溶射法であるプラズマ溶射やアーク溶射を使用することができる。プラズマ溶射とは、アルゴンなどの作動ガス中で、アノード陽極とカソード陰極間に直流アーク放電により、10,000℃を超える高速高温のプラズマジェットを発生させ、この中に溶射材料の粉末を投入し、溶融と加速を行い被膜を形成する方法である。プラズマ溶射は、他の溶射法に比して溶射材料の選択自由度が大きく、被膜が高密度で基材への密着性も良いというメリットがある。一方、アーク溶射は、溶射材料を加熱により溶融又は軟化させて微粒子状又は液滴状にして、これを加速させて基材に衝突させ、扁平化して潰れた粒子を凝固、堆積させることで被膜を形成するコーティング法である。更に具体的に言えば、2本の溶射材料であるワイヤーに直流の電流を流し、アーク放電させて溶融し、これをエアー又は他のガスにてアトマイズして基材に付着させる方法である。アーク溶射は、他の溶射法に比して操作が簡単である、エネルギー効率が高い、ランニングコストが安い、溶射被膜の密着力が高い、というメリットがある。または、溶線式溶射を使用することもできる。溶線式溶射は、酸素・燃料ガス炎の熱を用いてワイヤ状の溶射材料を溶融又は軟化させて微粒子又は液滴状にしたうえで、これを加速させて基材に衝突させ、扁平化して潰れた粒子を凝固、堆積させることで被膜を形成するコーティング法である。溶線式溶射は、溶線式フレーム溶射とも言われる。シリンダライナ本体11表面への被膜の形成においては、トータル的にはアーク溶射が好ましい。但し、純銅についてはプラズマ式溶射が、純アルミニウムについては溶線式溶射が好適である。
【0028】
銅系材料によって被膜層12を形成する場合は、その膜厚は30μm以上300μm以下とすることが好ましい。銅系材料からなる被膜層12の膜厚が30μm未満では、被膜層12による作用が殆ど得られず、鋳造後の残留応力や残留歪を的確に低減できない。一方、銅系材料からなる被膜層12の膜厚が300μmを超えても技術的に大きな問題は生じないが、膜厚に対して残留歪等の低減効果が小さくなり、シリンダブロック20の重量が無駄に増加してしまう。銅系材料からなる被膜層12の膜厚は、好ましくは100μm以上300μm以下であり、より好ましくは150μm以上300μm以下である。
【0029】
一方、アルミニウム系材料によって被膜層12を形成する場合は、その膜厚は300μm以上2,500μm以下とすることが好ましい。アルミニウム系材料は銅系材料よりも熱膨張係数が高いと共に、マグネシウム系材料との親和性も低いため、銅系材料によって被膜層12を形成する場合よりも膜厚を大きくしないと、効果的に残留歪等を低減できないからである。したがって、アルミニウム系材料からなる被膜層12の膜厚が300μm未満では、被膜層12による作用が殆ど得られず、鋳造後の残留応力や残留歪を的確に低減できない。アルミニウム系材料からなる被膜層12の膜厚が2,500μmを超えても技術的に大きな問題は生じないが、膜厚に対して残留歪等の低減効果が小さくなり、シリンダブロック20の重量が無駄に増加してしまう。アルミニウム系材料からなる被膜層12の膜厚は、好ましくは500μm以上2,500μm以下であり、より好ましくは1,000μm以上2,500μm以下である。
【0030】
なお、シリンダライナ本体11の外周面には、被膜層12を形成する前に、予め旋盤加工や切削加工等によって凹凸を形成したり、複数本の突起、突条、又は溝を全体的に形成しておくことが好ましい。これにより、当該凹凸形状等によってアンカー効果が得られ、シリンダライナ10と鋳造材料とをより強固に接合することができる。一般的な突起としては、スパイニー状の突起が挙げられる。また、被膜層12を形成する前に、シリンダライナ本体11の外周面全体を、ショットブラスト、ショットピーニング、ウォータージェットなどによって粗面化しておくことも好ましい。これによってもアンカー効果が得られ、シリンダライナ10と鋳造材料とをより強固に接合することができる。
【0031】
このようにして得られたシリンダライナ10に対して、その外周面に所定の鋳造材料を鋳造することで、シリンダライナ10が鋳包まれたシリンダブロック20を得ることができる。鋳造は、高圧鋳造法が好ましい。具体的には、シリンダライナ10を鋳造金型内に予め配置したうえで、鋳造金型とシリンダライナ10との間に形成されたキャビティへ、鋳造材料の溶湯を5,000〜10,000kgf/cmの高圧で鋳込んで冷却凝固させる。これにより、鋳造材料内にシリンダライナ10が鋳包まれて一体化した鋳包み製品である、シリンダブロック20を得ることができる。
【0032】
このとき、鋳鉄製のシリンダライナ本体11とマグネシウム系材料やアルミニウム系材料との間には、比較的大きな熱膨張係数差があるが、その間に中間値の熱膨張係数を有する銅系材料又はアルミニウム系材料からなる被膜層12が中間層として存在していることで熱膨張係数差が緩和され、最終的にシリンダブロック20における残留応力や残留歪が低減する。しかも、被膜層12と鋳造材料とは相互拡散によって冶金的に接合するので、密着性や接合強度も良好となる。而して、鋳造割れが防止されると共に、シリンダブロック20の熱伝導率や耐久性も向上する。
【0033】
なお、このままでも製品としては成り立つが、さらにシリンダブロック20を熱処理(時効処理)することが好ましい。これにより、被膜層12と鋳造材料との相互拡散が促進され、さらに残留応力や残留歪が低減する。このときの熱処理温度は、150℃以上200℃以下が好ましい。150℃未満では、相互拡散が促進されず、さらなる残留歪等の低減効果を得られ難いからである。一方、200℃を超えると、反って残留歪等が上昇する傾向にある。熱処理温度は、好ましくは160℃以上200℃以下であり、より好ましくは170℃以上190℃以下である。また、熱処理は4〜24時間行えばよい。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。鋳鉄性のシリンダライナ本体の外周面全体へ、表1に示す膜厚の純銅(純度99.8%)又は純アルミニウム(純度99.0%)からなる被膜層を、純銅についてはプラズマ溶射、純アルミニウムについては溶線式溶射により形成した。次いで、被膜層を有するシリンダライナを鋳造型内へ配置したうえで、アルミニウムを3wt%以上15wt%以下、カルシウムを0.2wt%以上5wt%以下、マンガンを0wt%より多く0.5wt%以下、ストロンチウムを0wt%より多く1wt%以下含み、残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるマグネシウム系ダイカスト材料を、厚み5mmの円筒形に鋳包んだ試料を作製した。また、その内の一部の試料については、続いて表1に示す温度において6時間時効処理を行った。
【0035】
得られた各試料を軸方向(円周方向に直交する方向)に切断し、切断ラインから1cm離れた左右2箇所に歪みゲージを貼り付け、共和電業社製KFG−4N−120−C1−23の歪測定器によって歪み量を測定した。その結果も表1に示す。なお、各試料とも、左右2箇所での歪み量は同じであった。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果から、被膜層を設けた試料1〜試料14は、いずれも被膜層を設けなかった試料15〜19に比して残留歪が低減していた。これにより、鋳包み用部材本体の外周面に、鋳包み用部材本体と鋳造材料との中間の熱膨張係数を有する被膜層を形成することで、残留歪を低減できることが確認された。
【0038】
個々の試料を詳しく見ると、試料1,2や試料8〜10は、試料15,16,18に対して残留歪の低減量が比較的小さかった。これにより、銅系被膜層においては、少なくとも30μm以上、アルミニウム系被膜層においては少なくとも300μm以上の膜厚が必要であることがわかった。一方、試料3〜6や試料11〜14は、試料15〜18に対して大きく残留歪が低下していた。これにより、銅系被膜層であれば300μm、アルミニウム系被膜層であれば2,500μmの膜厚があれば、充分に残留歪を低減できることがわかった。さらにこの傾向から、銅系被膜層であれば膜厚100μm以上が好ましく、より好ましくは150μm以上であることがわかった。また、アルミニウム系被膜層であれば膜厚500μm以上が好ましく、より好ましくは1,000μm以上であることがわかった。
【0039】
また、熱処理(時効処理)していない試料1,3,8,11に対して、熱処理した試料2,4〜5,9,12〜14は、より残留歪が低減していた。これにより、鋳造後に時効処理を行うことで、より残留歪を低減できることがわかった。しかし、処理温度の高い試料7は反って残留歪が大きく上昇しており、試料6,19は試料18に対する残留歪差が他の試料よりも小さくなっていた。これにより、熱処理温度は200℃が限界であることがわかった。
【符号の説明】
【0040】
10 シリンダライナ
11 シリンダライナ本体
12 被膜層
20 シリンダブロック



【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面が鋳造材料によって鋳包まれる筒状体と、該筒状体の外周面に形成された被膜層とを有する鋳包み用部材において、
前記筒状体は鋳鉄からなり、
前記被膜層は、前記筒状体の熱膨張係数と前記鋳造材料の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する単一層であることを特徴とする、鋳包み用部材。
【請求項2】
前記鋳造材料がマグネシウム系材料又はアルミニウム系材料であり、
前記被膜層が銅系材料からなる、請求項1に記載の鋳包み用部材。
【請求項3】
前記被膜層の膜厚が30μm以上300μm以下である、請求項2に記載の鋳包み用部材。
【請求項4】
前記鋳造材料がマグネシウム系材料であり、
前記被膜層がアルミニウム系材料からなる、請求項1に記載の鋳包み用部材。
【請求項5】
前記被膜層の膜厚が300μm以上2,500μm以下である、請求項4に記載の鋳包み用部材。
【請求項6】
前記鋳包み用部材は前記鋳造材料で鋳包まれ、
前記被膜層の中に前記鋳造材料が拡散している、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の鋳包み用部材。
【請求項7】
前記鋳包み用部材は、内燃機関のシリンダブロック用のシリンダライナである、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の鋳包み用部材。
【請求項8】
請求項7に記載の鋳包み用部材を備える、内燃機関用のシリンダブロック。
【請求項9】
外周面が鋳造材料によって鋳包まれる鋳鉄製の筒状体の外周面に、前記鋳造材料の熱膨張係数と前記筒状体の熱膨張係数との間の値の熱膨張係数を有する単一層の被膜層を形成する工程を有する、鋳包み用部材の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法によって製造された鋳包み用部材を、内部に備える鋳包み製品の製造方法であって、
前記鋳包み用部材の外周面に鋳造材料を鋳造して鋳包んだ後、150℃以上200℃以下で熱処理する工程を有する、鋳包み製品の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2012−202286(P2012−202286A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67376(P2011−67376)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】