説明

鋼板の接合構造

【課題】重ね合わされた鋼板の接合部耐力を高くする。
【解決手段】第1鋼板12は厚さt1の鋼板とされ、第1接合面14には第1凹部16が設けられ、第1凹部16は円柱状で深さがt1aで形成されている。第1鋼板12には貫通孔18が設けられている。第2鋼板22は厚さt2の鋼板とされ、第2接合面24の第1凹部16と一致する位置には、第2凹部26が設けられ、第2凹部26は円柱状で深さがt2aで形成されている。第2鋼板22の第2接合面24には貫通孔28が設けられている。第1接合面14と第2接合面24を重ね合わせたとき、第1凹部16と第2凹部26とで空間が形成され、この空間には第1支圧接合部材20が埋め込まれている。第1支圧接合部材20は鋼材で円柱状に形成され、第1凹部16の深さ又は第2凹部26の深さのいずれか大きい方の寸法以上の高さで、それらを合計した寸法以下の部材長とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造において鉄骨部材の接合は、高力ボルトを用いた摩擦接合が広く利用されている。高力ボルトを用いた摩擦接合は信頼性の高い接合方法であるが、締付作業の省力化等の観点から、高力ボルトの使用本数を減らしたいという要求がある。
【0003】
しかし、摩擦接合では、接合部に要求される接合部耐力を、高力ボルトの締結力で接合面に摩擦力を発生させることで確保しており、高力ボルトの使用本数を減らせば、その分、接合部の締結力が低下する。
【0004】
このため、高力ボルトをより高強度化し、1本当りの締結力を高める技術開発が進められている。しかし、高力ボルトの更なる高強度化は、高力ボルトの遅れ破壊等の新たな問題を生じさせる可能性があり、限界がある。
【0005】
そこで、高力ボルトと補助部材を組み合わせることで、接合部耐力を高める技術が提案されている(特許文献1)。
特許文献1によれば、図9に示すように、母材と高力ボルトにより接合される添板4にボルト孔5が設けられており、このボルト孔5の周囲には溝6が設けられている。この溝6に補助部材1が嵌着されている。
【0006】
ここに、溝6は添板4に作用する応力の作用線と直交する方向に向けられ、少なくとも1本の高力ボルトの締付力が十分に及ぶ範囲に設けられている。
補助部材1は、刃状突起部3を母材側に向けて嵌着部2を溝6に嵌着させている。これにより、母材と添板4を接合したとき、刃状突起部3が母材に食い込み、添板4に作用する応力を補助部材1で受けることができ、母材と補助部材1の接合部耐力を高くできる。
【0007】
しかし、特許文献1では、溝6に嵌着させた刃状突起部3を母材の接合面に適正な量だけ食い込ませる必要があり、そのためには締結力を適正な値に管理しなければならない。現場での締結力の適正な管理は作業員の負担が増し品質管理が困難となる。また、補助部材1は、高力ボルトの締結力が十分に及ぶ範囲に設定しなければならない制約もある。
【特許文献1】特開平10−102596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事実に鑑み、重ね合わされた鋼板の接合部耐力を高くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明に係る鋼板の接合構造は、鋼板を重ね合わせて接合する鋼板の接合構造であって、重ね合わされる第1接合面に第1凹部が設けられた第1鋼板と、前記第1接合面と重ね合わされた第2接合面に前記第1凹部と一致する第2凹部が設けられた第2鋼板と、前記第1凹部と前記第2凹部で形成される空間に埋め込まれた第1支圧接合部材と、前記第1鋼板と前記第2鋼板を拘束して重ね合わせ状態を保持する拘束手段と、を有することを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、第1鋼板と第2鋼板を重ね合わせたとき、第1接合面に設けられた第1凹部と第2接合面に設けられた第2凹部で空間が形成され、この空間には第1支圧接合部材が埋め込まれている。
【0011】
また、拘束手段が、第1鋼板と第2鋼板を拘束して、重ね合わせ状態を保持している。
かかる構成とすることにより、第1鋼板又は第2鋼板が、重ね合わせ面に平行な方向の力Fを受けたとき、第1支圧接合部材にせん断力と支圧力がそれぞれ作用し、第1凹部及び第2凹部の内周面には支圧力が作用する。
【0012】
これらの抵抗力が、加えられた力Fより大きければ、重ね合わせ状態が維持される。
【0013】
ここに、第1鋼板、第2鋼板、及び第1支圧接合部材の材質は予め把握しており、第1支圧接合部材のせん断耐力はせん断面積で決まり、第1支圧接合部材の支圧耐力は、投影側面積と凹部への挿入深さで決まる。また、第1凹部と第2凹部の支圧耐力は、凹部の孔径と深さで決まる。
【0014】
従って、第1支圧接合部材、第1凹部、及び第2凹部を適切に設計することで、最も小さい抵抗力を力Fより大きい値に確保することが可能となり、重ね合わされた鋼板の接合部耐力を高くできる。
【0015】
さらに、第1凹部及び第2凹部はいずれも底面は閉じており、鋼板の板厚方向に非欠損断面部が存在する。この非欠損断面部により穴形状拘束効果が発生し、第1凹部及び第2凹部の支圧耐力を高くできる。
【0016】
なお、第1支圧接合部材による支圧接合は、摩擦接合と異なり、第1鋼板と第2鋼板を強く締結する締結力は不要であり、第1鋼板と第2鋼板が離間しないよう拘束できればよい。
【0017】
即ち、拘束手段は、第1接合面と第2接合面の重ね合わせ状態を保持できればよく、高力ボルト接合とする必要はない。高力ボルト接合若しくはボルト接合とした場合には、使用するボルトの本数を減らすことができ、締付作業の省力化が図れる。
さらに、ボルト孔を減らすことができるので、鋼板の断面損失を低減できる。
【0018】
請求項2に記載の発明に係る、請求項1に記載の鋼板の接合構造は、前記第1凹部と前記第2凹部の開口面積を異ならせ、前記開口面積が小さい方の前記第1凹部に前記第1支圧接合部材を嵌合し、前記開口面積が大きい方の前記第2凹部に充填剤を注入し、前記第1支圧接合部材と前記第2凹部の隙間を埋めたことを特徴としている。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、第1支圧接合部材の一方は開口面積が小さい方の第1凹部と嵌合され、他方は開口面積が大きい方の第2凹部に挿入されている。また、第2凹部と第1支圧接合部材との隙間は充填剤で埋められている。
これにより、鋼板の重ね合わせ作業時の寸法誤差が吸収でき接合作業の省力化が図れる。また、第1支圧接合部材と第2凹部の接合強度が確保される。
【0020】
請求項3に記載の発明に係る鋼板の接合構造は、3枚の鋼板を重ね合わせて接合する鋼板の接合構造であって、重ね合わされる第1接合面に第1凹部が設けられた第1鋼板と、前記第1接合面と重ね合わされ、前記第1凹部と一致する貫通孔が設けられた第3鋼板と、前記第3鋼板と重ね合わされた第2接合面に前記貫通孔と一致する第2凹部が設けられた第2鋼板と、前記第1凹部、前記貫通孔、及び前記第2凹部で形成される空間に埋め込まれた第2支圧接合部材と、前記第1鋼板、前記第2鋼板、及び前記第3鋼板を拘束して重ね合わせ状態を保持する拘束手段と、を有することを特徴としている。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、第1鋼板、第2鋼板、第3鋼板を重ね合わせたとき、第1接合面に設けられた第1凹部と、第3鋼板の貫通孔と、第2接合面に設けられた第2凹部で空間が形成される。この空間には、第2支圧接合部材が埋め込まれている。
【0022】
また、拘束手段が第1鋼板、第2鋼板、及び第3鋼板を拘束して重ね合わせ状態を保持している。
【0023】
かかる構成とすることにより、第1鋼板、第2鋼板、及び第3鋼板が、重ね合わせ面に平行な方向の力Fを受けたとき、第2支圧接合部材にせん断力と支圧力がそれぞれ作用し、第1凹部、第2凹部、及び貫通孔の内周面には支圧力が作用する。
【0024】
これらの抵抗力が、加えられた力Fより大きければ、重ね合わせ状態が維持される。
ここに、第1鋼板、第2鋼板、第3鋼板、及び第2支圧接合部材の材質は予め把握しており、第2支圧接合部材のせん断耐力は、せん断面積で決まり、第2支圧接合部材の支圧耐力は、投影側面積と凹部への挿入深さで決まる。また、第1凹部及び第2凹部の支圧耐力は、凹部の孔径と深さで決まり、貫通孔の支圧耐力は、貫通孔の孔径と板厚で決まる。
【0025】
従って、第2支圧接合部材、第1凹部、第2凹部、及び貫通孔を適切に設計することで、最も小さい抵抗力を力Fより大きい値に確保することが可能となり、重ね合わされた鋼板の接合部耐力を高くできる。
【0026】
なお、第3鋼板には貫通孔が設けられているが、第1鋼板の第1凹部及び第2鋼板の第2凹部はいずれも底面は閉じており、鋼板の板厚方向に非欠損断面部が存在する。この非欠損断面部により穴形状拘束効果が生じ、第1凹部及び第2凹部の支圧耐力を高くできる。
【0027】
また、請求項1の鋼板の接合構造で3枚の鋼板を接合すると、2つの接合面にそれぞれ凹部を形成し、支圧接合部材を埋め込むようになるが、真中の鋼板(第3鋼板)に貫通孔を形成することで、2個必要であった支圧接合部材の数を1つにすることができ、接合作業の手間が減少する。
【0028】
請求項4に記載の発明に係る請求項3に記載の鋼板の接合構造は、前記第1凹部と前記第2凹部の開口面積を異ならせ、前記貫通孔の開口面積を、大きい方の前記第2凹部の開口面積と一致させ、前記開口面積が小さい方の第1凹部に前記第2支圧接合部材を嵌合し、前記第2凹部に充填剤を注入し、前記第2支圧接合部材と前記第2凹部、及び前記第2支圧接合部材と前記貫通孔との隙間を埋めたことを特徴としている。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、第2支圧接合部材の一方は開口面積が小さい方の第1凹部と嵌合され、他方は開口面積が大きい方の貫通孔、及び第2凹部に挿入されている。また、第2支圧接合部材と第2凹部との隙間、及び第2支圧接合部材と貫通孔との隙間は充填剤で埋められている。
【0030】
これにより、鋼板の重ね合わせ作業時の寸法誤差が吸収でき、接合作業の省力化が図れる。また、第2支圧接合部材と第2凹部、及び第2支圧接合部材と貫通孔の接合強度が確保される。
【0031】
請求項5に記載の発明に係る請求項1〜4に記載の鋼板の接合構造は、前記拘束手段が、前記第1鋼板と前記第2鋼板、又は前記第1鋼板、前記第2鋼板、及び前記第3鋼板を貫通する貫通孔と、前記貫通孔へ挿入されるボルトと、前記貫通孔から突出したボルトを締結するナットと、で構成されていることを特徴としている。
【0032】
請求項5に記載の発明によれば、ボルトが第1鋼板、第2鋼板、及び第3鋼板を貫通する貫通孔に挿入され、ナットで締結されている。
これにより、第1鋼板と第2鋼板を拘束できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、上記構成としてあるので、重ね合わされた鋼板の接合部耐力を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造10は、重ね合わされた2枚の鋼板を接合したものである。
【0035】
図1、2に示すように、第1鋼板12は、厚さt1の鋼板とされ、第1接合面14には、破線で示す円形の第1凹部16が設けられている。
第1凹部16は、深さがt1aで形成され、底面には所定の板厚t1bが残されている。また、第1鋼板12には、ボルト接合用の貫通孔18が設けられている。
【0036】
第1鋼板12と接合される第2鋼板22は、厚さt2の鋼板とされ、第2接合面24(網掛け部)の第1凹部16と一致する位置には、円形の第2凹部26が設けられている。
【0037】
第2凹部26は、深さがt2aで形成され、底面には所定の板厚t2bが残されている。また、第2鋼板22には、ボルト接合用の貫通孔28が設けられている。
第1接合面14と第2接合面24を重ね合わせたとき、第1凹部16と第2凹部26とで空間が形成される。この空間には円柱状の第1支圧接合部材20が埋め込まれている。
【0038】
第1支圧接合部材20は、鋼材で形成され、第1凹部16の深さt1a、又は第2凹部26の深さt2aのいずれか大きい方の寸法以上の高さとされ、かつ、深さt1aと深さt2aの合計と同等もしくは小さく設計されている。本実施例の第1支圧接合部材20は、深さt1aと深さt2aの合計長を部材長としている。
【0039】
ここで、第1鋼板12と第2鋼板22の接合手順を説明する。
先ず、第1凹部16に第1支圧接合部材20の一端を嵌合させ、第1支圧接合部材20の他端を第2凹部26に挿入しながら、第1接合面14と第2接合面24を重ね合わせ、貫通孔18と貫通孔28を一致させる。
【0040】
次に、拘束手段であるボルト30を貫通孔18と貫通孔28に挿入し、ボルト30の頭部と第2鋼板22の間、及びナット34と第1鋼板12の間にワッシャ32を挟み、ナット34で締結して、第1鋼板12と第2鋼板22の重ね合わせ状態を保持する。
【0041】
なお、図1、図2では、第1支圧接合部材20を1つ使用する場合について説明したが、必要とされる接合部の耐力に対応して第1凹部16、第2凹部26、及び第1支圧接合部材20を複数個使用すればよい。
【0042】
次に、第1鋼板12と第2鋼板22に、力Fの引張力が作用した場合について説明する。
図2(A)に示すように、力Fを受けたとき、力Fと同一方向に、第1支圧接合部材20の外周面の第1鋼板12側には支圧力f1が作用し、第2鋼板22側には反対方向の支圧力f2が作用する。
【0043】
また、第1支圧接合部材20の支圧力f1と支圧力f2の境界面には、支圧力f1と支圧力f2に基づくせん断力τが作用する。
同時に、図2(B)に示すように、第1凹部16の内周面には支圧力g1が作用し、第2凹部26の内周面には支圧力g2が作用する。
【0044】
これらの抵抗力のいずれもが、加えられた力Fより大きければ、接合部は破断することなく、重ね合わせ状態が維持される。
【0045】
ここに、図2(C)に示すように、第1支圧接合部材20(径:D1、長さ:t1a+t2aのピン)の抵抗力である支圧耐力は、第1支圧接合部材20の材質、投影側面積(D1×t1aとD1×t2aの小さい方)で決まる。
【0046】
また、図2(D)に示すように、第1支圧接合部材20のせん断耐力は、第1支圧接合部材20の材質とせん断面積S1(πD1/4)で決まる。
また、図2(E)に示すように、第1凹部16及び第2凹部26の支圧耐力は、第1鋼板12及び第2鋼板22の材質、及び第1凹部16及び第2凹部26の孔径D1と深さt1a、t2aの積S2(D1×t1aとD1×t2aの小さい方)で決まる。
【0047】
従って、第1支圧接合部材20、第1凹部16、及び第2凹部26を適切に設計することで、いずれの抵抗力も力Fより大きい値に確保することが可能となる。
【0048】
このとき、第1支圧接合部材20のサイズ、使用個数、配置位置を最適に調整することで、重ね合わされた鋼板の接合部耐力を最適値に設定できる。これにより、接合部の過大設計を避けることができ、鋼材の省資源化、高級な高強度鋼材の有効活用ができる。
【0049】
さらに、第1凹部16の底面にはt1bの、第2凹部26の底面にはt2bの板部(非欠損断面部)を残している。この鋼板の板厚方向の非欠損断面部により穴形状拘束効果が発生し、第1凹部16及び第2凹部26の支圧耐力を高くできる。
【0050】
なお、第1支圧接合部材20は、第1支圧接合部材20で力Fを受ける支圧接合であり、摩擦接合と異なり、第1鋼板12と第2鋼板22を強く締結する締結力は不要である。
【0051】
このため、拘束手段は、第1接合面14と第2接合面24の重ね合わせ状態を保持できればよく、高力ボルト接合とする必要はない。また、高力ボルト接合、若しくは一般のボルト接合とした場合においては、使用するボルトの本数を減らすことができ、締付作業の省力化が図れる。
【0052】
さらに、使用するボルトの本数が減らせる結果、ボルト用の貫通孔18、28の数を減らすことができ、鋼板自体の断面損失を低減できる。
【0053】
次に、鋼板の枚数を増やした場合について説明する。
図3に示すように、重ね合わされた3枚の鋼板を、鋼板の接合構造10で接合する場合には、上側の第1鋼板12と中央の第3鋼板38との重ね合わせ面14と、中央の第3鋼板38と下側の第2鋼板22との重ね合わせ面24の2ヶ所に、それぞれ第1支圧接合部材20を、上述の要領で設ければよい。
【0054】
即ち、第1鋼板12と重ね合わされる第3鋼板38の、第1凹部16と一致する位置に円形の第3凹部56を設け、第2凹部26と一致する位置に円形の第4凹部58を設ける。また、第3鋼板38にボルト接合用の貫通孔50を設ける。
【0055】
第1鋼板12、第2鋼板22、及び第3鋼板38の接合手順を説明する。
先ず、第1凹部16に第1支圧接合部材20の一端を嵌合させ、第1支圧接合部材20の他端を第3凹部56に挿入しながら、 第1鋼板12と第3鋼板38を重ね合わせる。このとき、貫通孔18と貫通孔50を一致させる。
【0056】
次に、第4凹部58に第1支圧接合部材20の一端を嵌合させ、第1支圧接合部材20の他端を第2凹部26に挿入しながら、 第2鋼板22と第3鋼板38を重ね合わせる。このとき、貫通孔28と貫通孔50を一致させる。
【0057】
次に、拘束手段であるボルト30を、貫通孔18、貫通孔50、及び貫通孔28に挿入し、ボルト30の頭部と第2鋼板22の間、及びナット34と第1鋼板12の間にワッシャ32を挟み、ナット34で締結して、第1鋼板12と第2鋼板22の重ね合わせ状態を保持する。
【0058】
これにより、3枚の鋼板に力Fが作用しても、上述のように、第1支圧接合部材20の支圧耐力とせん断耐力、及び第1鋼板の第1凹部16、第2鋼板の第2凹部26、第3鋼板の第3凹部56と第4凹部58を適切に設計することで、いずれの抵抗力も力Fより大きい値に確保することができる。
【0059】
このとき、中央の第3鋼板38の板厚に余裕がなく、第3凹部56と第4凹部58を同じ位置に重ねて設けることができない場合には、平面視上で重ならないように離して配置すればよい。
【0060】
このように、第1の実施の形態は、重ね合わされた鋼板の接合面同士を接合する接合構造であり、鋼板枚数が3枚以上に増えても、それぞれの重ね合わせ面に個別に適用できる。
【0061】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態における鋼板の接合構造42は、第1の実施の形態における第1凹部16と第2凹部26の径(開口面積)を異ならせたものである。
【0062】
図4に示すように、第1凹部16の径はD1とされ、第2凹部26の径はD1より大きいD2とされ、第1凹部16と第2凹部26の径(開口面積)が異なる。なお、第1支圧接合部材20の径は小さい方の径D1である。
【0063】
ここで、接合手順を説明すると、開口面積が小さい方の第1凹部16に第1支圧接合部材20の一端を嵌合させ、充填剤36を充填した第2凹部26へ第1支圧接合部材20を挿入し、第1鋼板12と第2鋼板22を重ねる。このように、第2凹部26を大径とすることで、第1支圧接合部材20が挿入しやすく、鋼板の重ね合わせ作業時の寸法誤差が吸収でき、接合作業の省力化が図れる。
【0064】
また、図5(A)に示すように、予め径の大きい方の第2凹部26に、所定量の充填剤36を注入しておくことで、図5(B)に示すように、第1凹部16と第2凹部26を重ね合わせたときに、充填剤36で第1支圧接合部材20と第2凹部26との間の隙間を充填することができる。
【0065】
これにより、充填剤36で、第1支圧接合部材20と第2凹部26を所要の強度で固着でき、第1支圧接合部材20と第2凹部26の隙間による初期すべりを解消できる。
【0066】
(第3の実施の形態)
図6(b)に示すように、第3の実施の形態に係る第1支圧接合部材50は、第1、第2の実施の形態で説明した第1支圧接合部材20(図6(a)参照)の上下端を円錐状としている。
【0067】
第1支圧接合部材50は、径がD1で、高さH(t1a+t2a)の円柱状とされ、第1凹部16と第2凹部の接合部と接する位置に、高さhの円柱部を残し、第1支圧接合部材50の上下の端面は円錐状に形成されている。
【0068】
これにより、第1支圧接合部材50の支圧耐力、せん断耐力を、第1支圧接合部材20に比して低下させることなく、第1凹部16と第2凹部26に挿入される部分を小さくできるので、凹部加工が容易となる。また、第1凹部16と第2凹部26に呼込まれやすい傾斜が形成されているので、第1支圧接合部材50を第1凹部16と第2凹部26に容易に埋め込むことができ、作業性が向上する。
【0069】
第1支圧接合部材50の、第1凹部16と第2凹部26への挿入方法や固定要領は、第1の実施の形態、及び第2の実施の形態で説明したものと同じである。
【0070】
更に、第1支圧接合部材50は、他の形状でもよい。即ち、第1鋼板と第2鋼板に設けられる第1凹部16と第2凹部26の形状に合わせた形状とすることができる。
例えば、図6(c)に示すように、第1支圧接合部材52は、高さ方向に、円柱部の部分をなくし、両端の円錐状の部分を直接に接合させた碁石のような形状でもよい。
【0071】
これにより、第1鋼板及び第2鋼板の板厚が薄い場合にも対応できる。
また、図6(d)に示すように、第1支圧接合部材54は、形状を球としてもよい。これにより、第1支圧接合部材20の方向性がなくなり、作業性が向上する。
【0072】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態に係る鋼板の接合構造44は、3枚の鋼板を重ね合わせて接合する接合構造である。
図7、8に示すように、第1鋼板12は厚さt1の鋼板とされ、第1接合面14には、第1凹部16が設けられている。
【0073】
第1凹部16は深さt1aで形成され、底面には所定の板厚t1bが残されている。また、第1鋼板12には、ボルト接合用の貫通孔18が設けられている。
【0074】
第3鋼板38は厚さt3の鋼板とされ、第1接合面14と重ね合わされ、第1凹部16と一致する位置には、第2支圧接合部材40用の貫通孔46が設けられている。また、第3鋼板38には、ボルト接合用の貫通孔50が設けられている。
【0075】
第2鋼板22は厚さt2の鋼板とされ、第2接合面24には、第2凹部26が設けられている。
第2凹部26は深さt2aで形成され、底面には所定の板厚t2bが残されている。また、第2鋼板22には、ボルト接合用の貫通孔28が設けられている。
【0076】
第1接合面14、第3鋼板38、及び第2接合面24を重ね合わせたときに第1凹部16、貫通孔46、及び第2凹部26で形成される空間には、第2支圧接合部材40が埋め込まれている。
【0077】
第2支圧接合部材40は、鋼材で円柱状に形成され、第1凹部16の深さt1a、又は第2凹部26の深さt2aのいずれか大きい方と、第3鋼板38の板厚t3を合計した寸法以上で、かつ、深さt1a、深さt2a、及び第3鋼板38の板厚t3を合計した寸法以下の部材長とされている。
【0078】
本実施の形態では、深さt1a、深さt2a、及び第3鋼板38の板厚t3の合計長を部材長としている。
【0079】
次に、第1鋼板12、第2鋼板22、及び第3鋼板38に力Fの引張力が作用した場合について説明する。
図8(A)に示すように、第2支圧接合部材40の外周面には、第1鋼板12の位置に支圧力f1が、第2鋼板22の位置に支圧力f2が、第3鋼板38の位置に支圧力f3がそれぞれ作用する。
【0080】
また、第2支圧接合部材40には、支圧力f1と支圧力f3に基づくせん断力τ1と、支圧力f1と支圧力f3に基づくせん断力τ2が作用する。
【0081】
更に、図8(B)に示すように、第1凹部16、第2凹部26、及び貫通孔46の内周面には、支圧力g1、支圧力g2、及び支圧力g3がそれぞれ作用する。
これらの抵抗力のいずれもが、加えられた力Fより大きければ、接合部は破断することなく、重ね合わせ状態が維持される。
【0082】
ここに、図8(C)に示すように、第2支圧接合部材40(径:D1、長さ:t1a+t3+t2aのピン)の抵抗力である支圧耐力は、第2支圧接合部材40の材質、投影側面積(D1×t1a、D1×t3、D1×t2aの1番小さいもの)で決まる。
【0083】
また、図8(D)に示すように、第2支圧接合部材40のせん断耐力は、第2支圧接合部材40の材質とせん断面積S1(πD1/4)で決まる。
【0084】
また、図2(E)に示すように、第1凹部16、貫通孔46、及び第2凹部26の支圧耐力は、第1鋼板12、第3鋼板38、及び第2鋼板22の材質、及び第1凹部16、貫通孔46、及び第2凹部26の孔径D1と深さt1a、t3、t2aの積S2(D1×t1a、D1×t3、及びD1×t2aの1番小さいもの)で決まる。
【0085】
従って、第2支圧接合部材40、第1凹部16、第2凹部26、及び貫通孔46を適切に設計することで、いずれの抵抗力も力Fより大きい値に確保することが可能である。
【0086】
なお、中央に配置された第3鋼板38には貫通孔46が設けられているが、端部の第1鋼板12の第1凹部16には板厚t1bの、第2鋼板22の第2凹部26には肉厚t2bの板部(非欠損断面部)を残している。この非欠損断面部により穴形状拘束効果が生じ、第1凹部16及び第2凹部26の支圧耐力を高くできる。
【0087】
また、第1の実施の形態で示した鋼板の接合構造で3枚の鋼板を接合すると、2つの接合面にそれぞれ凹部を形成し、第1支圧接合部材20を、2つの接合面にそれぞれ埋め込むことになる。
【0088】
しかし、本実施の形態では、真中の鋼板(第3鋼板38)に貫通孔46を形成することで、接合部材を、第2支圧接合部材40の1つに減らすことができ、接合作業の手間が減少する。
【0089】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係る鋼板の接合構造48は、第1凹部16の径D1と第2凹部26の径D2を異ならせている。
【0090】
図9(A)に示すように、第1凹部16の径はD1とされ、第2凹部26の径はD1より大きいD2とされ、第1凹部16の径D1と第2凹部26の径D2を異ならせている。また、第3鋼板38の貫通孔46の径はD2としている。
【0091】
これにより、接合手順として、先ず、小さい方の第1凹部16に第2支圧接合部材40の一端を嵌合し、次いで、貫通孔46と、充填剤36を充填した第2凹部26に第2支圧接合部材40の他端を挿入する。
【0092】
このとき、貫通孔46と第2凹部26は第2支圧接合部材40より大きい径とされており、第1鋼板を、第2鋼板と第3鋼板に重ね合わせる作業において、寸法誤差が吸収できる。
【0093】
また、第2凹部26に、予め所定量の充填剤36を注入しておくことで、第2支圧接合部材40と第2凹部26、及び第2支圧接合部材40と貫通孔46との隙間を充填剤36で埋めることができる。
【0094】
これにより、鋼板接合作業の省力化が図れる。また、第2支圧接合部材40と第2凹部26、及び第2支圧接合部材40と貫通孔46の接合強度が向上し、第2支圧接合部材40と第2凹部26、及び第2支圧接合部材40と貫通孔46の隙間での初期すべりが解消できる。
【0095】
次に、第2支圧接合部材40を埋め込んだ状態で、第1接合面14、第3鋼板38、及び第2接合面24を重ね合わせ、第1鋼板12の貫通孔18、第3鋼板38の貫通孔50、及び第2鋼板22の貫通孔28を一致させ、拘束手段であるボルト30で拘束し、重ね合わせ状態を保持する。
【0096】
なお、図9(B)に示すように、第1凹部16の径をD1とし、第2凹部26の径をD1より大きいD2とし、第3鋼板38の貫通孔46の径をD1としてもよい。
これにより、充填剤36の量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図5】本発明の第1支圧接合部材の基本構成を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る鋼板の接合構造の応用例を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係る鋼板の接合構造の基本構成を示す図である。
【図10】従来例の鋼板の接合構造の基本構成を示す図である
【符号の説明】
【0098】
10 鋼板の接合構造
12 第1鋼板
14 第1接合面
16 第1凹部
18 貫通孔
20 第1支圧接合部材
22 第2鋼板
24 第2接合面
26 第2凹部
28 貫通孔
30 ボルト(拘束手段)
36 充填剤
38 第3鋼板
40 第2支圧接合部材
42 鋼板の接合構造
44 鋼板の接合構造
46 貫通孔
48 鋼板の接合構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を重ね合わせて接合する鋼板の接合構造であって、
重ね合わされる第1接合面に第1凹部が設けられた第1鋼板と、
前記第1接合面と重ね合わされた第2接合面に、前記第1凹部と一致する第2凹部が設けられた第2鋼板と、
前記第1凹部と前記第2凹部で形成される空間に埋め込まれた第1支圧接合部材と、
前記第1鋼板と前記第2鋼板を拘束して重ね合わせ状態を保持する拘束手段と、
を有する鋼板の接合構造。
【請求項2】
前記第1凹部と前記第2凹部の開口面積を異ならせ、前記開口面積が小さい方の前記第1凹部に前記第1支圧接合部材を嵌合し、前記開口面積が大きい方の前記第2凹部に充填剤を注入し、前記第1支圧接合部材と前記第2凹部の隙間を埋めたことを特徴とする請求項1に記載の鋼板の接合構造。
【請求項3】
3枚の鋼板を重ね合わせて接合する鋼板の接合構造であって、
重ね合わされる第1接合面に第1凹部が設けられた第1鋼板と、
前記第1接合面と重ね合わされ、前記第1凹部と一致する貫通孔が設けられた第3鋼板と、
前記第3鋼板と重ね合わされた第2接合面に前記貫通孔と一致する第2凹部が設けられた第2鋼板と、
前記第1凹部、前記貫通孔、及び前記第2凹部で形成される空間に埋め込まれた第2支圧接合部材と、
前記第1鋼板、前記第2鋼板、及び前記第3鋼板を拘束して重ね合わせ状態を保持する拘束手段と、
を有する鋼板の接合構造。
【請求項4】
前記第1凹部と前記第2凹部の開口面積を異ならせ、前記貫通孔の開口面積を、大きい方の前記第2凹部の開口面積と一致させ、前記開口面積が小さい方の前記第1凹部に前記第2支圧接合部材を嵌合し、前記第2凹部に充填剤を注入し、前記第2支圧接合部材と前記第2凹部、及び前記第2支圧接合部材と前記貫通孔との隙間を埋めたことを特徴とする請求項3に記載の鋼板の接合構造。
【請求項5】
前記拘束手段が、前記第1鋼板と前記第2鋼板、又は前記第1鋼板、前記第2鋼板、及び前記第3鋼板を貫通する貫通孔と、
前記貫通孔へ挿入されるボルトと、
前記貫通孔から突出したボルトを締結するナットと、
で構成されていることを特徴とする請求項1〜4に記載の鋼板の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−249887(P2009−249887A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98044(P2008−98044)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】