説明

鋼製ナット及びその製造方法

【課題】 一般構造用圧延鋼を用いて安定した組織や硬さが得られるようにした鋼製ナットを提供する。
【解決手段】 一般構造用圧延鋼(SS400)製の棒材を1200°C以上1300°C以下の範囲内の温度に加熱して固溶熱処理を行い、このオーステナイト状態においてナットブランクに熱間鍛造するとともに、鍛造終止時のナットブランクの表面温度を760°C以上900°C以下の範囲内の温度にコントロールし、次いで、50°C以下の温度に水冷することによりHRC32〜44の硬さに焼入れし、その後の焼戻しを行って調質することによりJIS B1181附属書2に規定する強度分布5T〜10Tの硬さを有するナットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼製ナット及びその製造方法に関し、特に一般構造用圧延鋼を用いて安定した組織や硬さが得られるようにしたナット及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
部材を締結する場合、部材をボルトの頭部とナットによって挟み、ボルト・ナットを相対的に螺進させて締め付ける方式が広く採用されている。
【0003】
通常、ナットには炭素鋼、ステンレス鋼、低合金鋼などの各種の材料が用いられるが、高い機械的強度を要求される用途には機械構造用炭素鋼又は機械構造用合金鋼を
調質したり冷間圧造されたブランク、あるいは冷間引抜した六角鋼材から削り出したステ
ンレス鋼製のナットを用いることが多い(特許文献1)。
【0004】
ところで、引張強さ400N/mm2以上510N/mm2以下の一般構造用圧延鋼材(SS400)は市場に大量に流通しており、入手が容易な点にその特徴がある。
【0005】
この一般構造用圧延鋼(SS400)は焼入れしても焼入れ性が不足するため、必要な組織や硬さを安定して得ることができない。そのため、焼入れ焼戻しを行って使用される部品にはJIS G4051に規定される機械構造用炭素鋼が使用されており、一般構造用圧延鋼(SS400)を焼入れ焼戻しして使用することはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本件発明者らは入手が容易な一般構造用圧延鋼(SS400)を用いて安定した組織や硬さのナットを製造することができれば、機械的性質の安定した安価なナットを製造できることを着目するに至った。
【0008】
本発明はかかる点に鑑み、一般構造用圧延鋼を用いて安定した組織や硬さが得られるようにした鋼製ナット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明に係る鋼製ナットの製造方法は、引張強さ400N/mm2以上510N/mm2以下の一般構造用圧延鋼製の棒材を1200°C以上1300°C以下の範囲内の温度に加熱して固溶熱処理を行い、このオーステナイト状態においてナットブランクに熱間鍛造するとともに、鍛造終止時のナットブランクの表面温度を760°C以上900°C以下の範囲内の温度にコントロールし、次いで、ナットブランクを50°C以下の温度に水冷することによりHRC32〜44の硬さに焼入れし、その後の焼戻しを行って調質することによりJIS B1181附属書2に規定する強度区分5T〜10Tの硬さ(最大硬さ5T、6T、8T:30HRC 10T:36HRC 最小の硬さ5T、6T、8T:規定なし 10T:18HRC)のナットを製造するようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明の特徴の1つは一般構造用圧延鋼材を使用する点にある。
JIS G3101では、圧延された製品サイズにより、降伏点(耐力)や引張り強さが規定されており、製鋼メーカではその規定を満足すべく化学成分をコントロールしている。その意味で一般構造用圧延鋼材も焼入れ性がコントロールされていると言える。
このため、鍛造加熱前のオーステナイト化温度、オーステナイト状態での塑性変形、塑性加工終止温度、冷却方法といった加工熱処理条件をコントロールすることにより,塑性加工を伴わない通常の焼入れでは得られない安定した焼入れ硬さを得ることができる。
【0011】
第2の特徴は鍛造加熱の温度を1200°C以上1300°C以下とした点にある。適正な熱間加工性を確保し、結晶粒度の粗大化を防止し、オーバーヒートのない適正な金属組織を得るためである。
【0012】
第3の特徴はオーステナイト状態において熱間鍛造することによってナットブランクを製造するようにした点にある。素材の低い焼入れ性を補うための加工熱処理である。
【0013】
第4の特徴は鍛造終止時のナット表面温度を760°C以上900°C以下にコントロールするようにした点にある。終止温度が760°C未満になると、オーステナイト化が不十分になって十分な焼入れ硬さが得られず、終止温度が900°Cを超えると、結晶粒が粗大化するからである。
【0014】
第5の特徴は水冷とした点にある。一般構造用圧延鋼材は焼入れ性が低く、焼き割れの心配がないので、水冷とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
C:0.15%、Mn:0.50%を含むSS400のφ22鋼材を1230°Cに加熱して2面間幅30mm、内径17.5mm、高さ16mmのナットブランクを熱間鍛造し、水冷直前の温度800〜850°Cから水温19°Cに水冷した。ナットブランク(試料No.1〜試料No.5)について3箇所の焼入れ硬さを測定した。その結果を表1に示す。この処理により、焼入れ硬さHRC42〜43が安定して得られた。その後、570°Cで焼戻し、HRC20〜25の製品硬さが得られた。
【0017】
【表1】

【実施例2】
【0018】
C:0.14%、Mn:0.61%を含むSS400のφ28鋼材を1230°Cに加熱して2面間幅36mm、内径21mm、高さ19mmのナットブランクに熱間鍛造し、水冷直前の温度850〜900°Cから水冷した。このナットブランク(試料No.1〜試料No.5)について3箇所の焼入れ硬さを測定した結果を表2に示す。この処理により、焼入れ硬さHRC41.6〜42.2が安定して得られた。その後、500°Cで焼戻し、HRC25〜28の製品硬さが得られた。
【0019】
【表2】

【比較例】
【0020】
比較のため、実施例2と同一の鋼材丸棒を10mm厚さに切断し、920°Cに40分間加熱し、水冷し、直径方向の7箇所の焼入れ硬さを測定した。その結果を表3に示す。加工熱処理を行わなかったときには焼入れ硬さがHRC21.2〜38.4になり、硬さのばらつきが大きかった。この状態では不完全焼入れ状態になっており、安定した品質確保が難しい。
【0021】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強さ400N/mm2以上510N/mm2以下の一般構造用圧延鋼製の棒材を1200°C以上1300°C以下の範囲内の温度に加熱して固溶熱処理を行い、このオーステナイト状態においてナットブランクに熱間鍛造するとともに、鍛造終止時のナットブランクの表面温度を760°C以上900°C以下の範囲内の温度にコントロールし、次いで、50°C以下の温度に水冷することによりHRC32〜44の硬さに焼入れし、その後の焼戻しを行って調質することによりJIS B1181附属書2に規定する強度区分5T〜10Tの硬さを有するナットを製造するようにしたことを特徴とする鋼製ナットの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法によって製造されたことを特徴とする鋼製ナット。


【公開番号】特開2011−195918(P2011−195918A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65500(P2010−65500)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(591209246)濱中ナット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】