説明

長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置

【課題】連結された回巻体の切り替え失敗を引き起こすことなく、含浸ダイに対して強化用繊維束を長時間にわたり連続して供給できるようにした、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置を提供すること。
【解決手段】連結された回巻体11,12から順に強化用繊維束Rを取り出し、その際に、非回転式外取り法で繊維束Rを取り出すに際し、回巻体11,12の内側に芯ガイド120を挿入し、回巻体11,12の上方に取出しガイド110を設け、各回巻体11,12について、平面視において取出しガイド110と当該回巻体の軸心点Cとを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点Pと称すると、軸心点Cと最遠点Pとを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、最遠点Pから斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線CLとのなす取り出し角θが45°以下となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回巻体から連続して強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、引抜き法により、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット(以下、単に長繊維強化樹脂ペレットともいう)は、射出成形用の原料として使用されるものである。長繊維強化樹脂ペレットは、ペレット長(例えば3〜10mm程度)がほぼそのまま繊維長となるため、短繊維強化樹脂ペレットに比べて機械的強度に優れている。
【0003】
長繊維強化樹脂ペレットの製造には、強化用繊維束(ロービング)を巻き取ってなる無芯円筒状の回巻体(ロービングパッケージ)が用いられる。前記強化用繊維束は、多数本の単繊維(フィラメント)を束ねたストランドを所定本数撚らずに結合して扁平な紐状にしたものである。
【0004】
そして、長繊維強化樹脂ペレットは、引抜き法を用いて製造される。この引抜き法としては、撚りを行わない引抜き法と、撚りを行う引抜き法とが知られている。撚りを行わない引抜き法を用いるペレット製造方法では、回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ダイの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、ペレタイザー等により前記長繊維強化樹脂ストランドを所定長さに切断して、長繊維強化樹脂ペレットを製造するようにしている。図9は撚りを行わない引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【0005】
また、撚りを行う引抜き法を用いるペレット製造方法では、回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ダイの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから前記引取り機によって撚りがかけられた樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、ペレタイザー等により前記長繊維強化樹脂ストランドを所定長さに切断して、長繊維強化樹脂ペレットを製造するようにしている。この場合、前記引取り機としては、撚りローラなどのように、撚り機としての機能をも兼ね備えたものが用いられる。図8は撚りを行う引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【0006】
ところで、回巻体から取り出される強化用繊維束を使用して、長繊維強化樹脂ペレットを製造する場合、強化用繊維束を長時間にわたり連続して供給できるようにする必要がある。そこで、予め、複数の回巻体についてそれらの強化用繊維束がひとつながりとなるように強化用繊維束端部を順次連結し、この直列に連結された複数の回巻体から連続して順に強化用繊維束を取り出すようにしている。
【0007】
ここで、回巻体から強化用繊維束を取り出す(引き出す)方法としては、(イ)外取り法、(ロ)内取り法、及び(ハ)非回転式外取り法がある。外取り法は、回巻体自体を回転させながら回巻体外周側から強化用繊維束を取り出す(引き出す)方法である。内取り法は、回巻体自体を回転させずに、例えばある物の上に回巻体を起立姿勢で載置した状態で、回巻体内周側から強化用繊維束を取り出す(引き出す)方法である。また、非回転式外取り法は、回巻体自体を回転させずに、例えば回巻体をある物の上に起立姿勢で載置した状態で、回巻体外周側から強化用繊維束を取り出す(引き出す)方法である。
【0008】
連結された複数の回巻体から順に取り出される強化用繊維束を使用して、長繊維強化樹脂ペレットを製造するにあたり、従来は、前記内取り法が広範に採用されており(例えば、特開平7−205317号公報)、前記非回転式外取り法を採用したものについては見当たらない。従来は、非回転式外取り法を採用することにより、内取り法に比べて、回巻体から強化用繊維束を取り出す強化用繊維束繰り出し装置の構成が簡単ですむという利点が考慮されていなかった。
【特許文献1】特開平7−205317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、直列に連結された複数の回巻体から連続して順に非回転式外取り法によって強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、引抜き法により、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造するに際し、強化用繊維束が回巻体上端側の外周縁部にひっかかることなく、回巻体外周側より強化用繊維束をスムーズに取り出すことができ、また、回巻体の最内巻層付近まで強化用繊維束が取り出されて巻層が崩落してしまっても、崩落した巻層の強化用繊維束がもつれることを防ぐことができて、当該回巻体に連結されている次の回巻体への切り替えを失敗無く確実に行うことができるようにした、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
請求項1の発明は、強化用繊維束を円筒状に回巻きしてなる回巻体から連続して強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する方法において、一の回巻体の強化用繊維束の末端と次に強化用繊維束を取り出す回巻体の強化用繊維束の先端とを連結し、前記連結された複数の回巻体から連続して順に強化用繊維束を取り出し、かつその際に、各回巻体自体を回転させないで回巻体外周側より強化用繊維束を取り出すに際し、前記各回巻体の内側に、それぞれ、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイドを挿入し、前記複数の回巻体の上方に、前記順に取り出される強化用繊維束を通過させて下流側へ導く1つの強化用繊維束取出しガイドを設け、前記複数の回巻体の各々について、平面視において前記強化用繊維束取出しガイドと当該回巻体の軸心点とを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点と称すると、前記軸心点と前記最遠点とを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、前記最遠点から内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線とのなす取り出し角が45°以下となるようにして、強化用繊維束の取り出しを行うことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法において、前記複数の回巻体が2つであり、連結を繰り返しながら、2つの回巻体から交互に強化用繊維束を取り出すことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明は、強化用繊維束を円筒状に回巻きしてなる回巻体から連続して強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する装置において、一の回巻体の強化用繊維束の末端と次に強化用繊維束を取り出す回巻体の強化用繊維束の先端とが連結され、前記連結された複数の回巻体から連続して順に強化用繊維束が取り出され、かつその際に、各回巻体自体を回転させないで回巻体外周側より強化用繊維束が取り出される強化用繊維束繰り出し装置を備え、前記強化用繊維束繰り出し装置が、前記各回巻体の内側にそれぞれ挿入され、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイドと、前記複数の回巻体の上方に設けられ、前記順に取り出される強化用繊維束を通過させて下流側へ導く1つの強化用繊維束取出しガイドとを備えるとともに、前記複数の回巻体の各々について、平面視において前記強化用繊維束取出しガイドと当該回巻体の軸心点とを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点と称すると、前記軸心点と前記最遠点とを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、前記最遠点から内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線とのなす取り出し角が45°以下となるようになされたものであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置である。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置において、前記複数の回巻体が2つであり、連結を繰り返しながら、2つの回巻体から交互に強化用繊維束が取り出されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法又は製造装置は、強化用繊維束が直列に連結された複数の回巻体の各々について、平面視において強化用繊維束取出しガイドと当該回巻体の軸心点とを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点と称すると、前記軸心点と前記最遠点とを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、前記最遠点から内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線とのなす取り出し角が45°以下となるようにしている。したがって、非回転式外取り法によって回巻体の外周側より強化用繊維束を取り出すに際し、強化用繊維束が回巻体上端側の外周縁部にひっかかることなく、回巻体外周側より強化用繊維束をスムーズに取り出すことができる。
【0016】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法又は製造装置は、直列に連結された複数の回巻体の各々について、各回巻体の内側に、それぞれ、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイドを挿入している。したがって、回巻体の最内巻層付近まで強化用繊維束が取り出されて巻層が崩落してしまっても、前記芯ガイドにより、巻層した巻層の強化用繊維束がもつれることを防ぐことができて、当該回巻体に連結されている次の回巻体への切り替えを失敗無く確実に行うことができる。
【0017】
よって、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法又は製造装置によれば、強化用繊維束の断線や、回巻体の切り替え失敗を引き起こすことなく、含浸ダイに対して強化用繊維束を長時間にわたり連続して供給できて、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置の全体構成を示す図である。
【0019】
図1において、100は後述する強化用繊維束繰り出し装置である。本実施形態では、3台の強化用繊維束繰り出し装置100が備えられている。
【0020】
図1に示すように、各強化用繊維束繰り出し装置100の回巻体11(12)から引き出された強化用繊維束Rは、それら3本が引き揃えられて、一対の加熱用ローラ22A,22Bを備えた予熱用加熱装置21に導かれる。強化用繊維束Rは、予熱用加熱装置21によって昇温された後、含浸ダイ23内に導かれる。この含浸ダイ23には、スクリュ27を内蔵する押出機26から、溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)28が連続供給される。含浸ダイ23内には、強化用繊維束Rに溶融樹脂28を含浸させるための複数個の含浸ローラ25が配設されている。また、含浸ダイ23の出口には、撚りが付与された樹脂含浸強化用繊維束からなる断面円形状の長繊維強化樹脂ストランドSの線径を定めるダイノズル24が取り付けられている。
【0021】
強化用繊維束Rは、含浸ダイ23を通過しながら溶融樹脂が含浸され、樹脂含浸強化用繊維束となされる。この樹脂含浸強化用繊維束は、含浸ダイ23の下流側に設けられた撚りローラ30A,30Bにより、撚りが付与される。撚りローラ30A,30Bは、撚り機兼引取り機として機能するものである。そして、撚りが付与された樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドSは、撚りローラ30A,30Bにより、含浸ダイ23から連続的に引き取られる。
【0022】
含浸ダイ23のダイノズル24から引き出された高温の長繊維強化樹脂ストランドSは、冷却水槽29によって冷却硬化されて、撚りローラ30A,30Bへと導かれる。そして、撚りローラ30A,30Bの下流側に導かれた長繊維強化樹脂ストランドSは、ペレタイザー31で所定長さに切断されて長繊維強化樹脂ペレットとされる。
【0023】
図2は図1における撚りローラの説明図である。図2に示すように、一対の撚りローラ30A,30Bは、それぞれの回転軸線を平行な平面(水平面)上に保持し、かつ、該回転軸線を交差させた状態で上流側からの長繊維強化樹脂ストランドSを挟むように対向配置されている。すなわち、図2における上側の撚りローラ30Aの回転軸線aと下側の撚りローラ30Bの回転軸線とは、平面視において、長繊維強化樹脂ストランドSの引き取り方向に対して互いに相反する方向に、かつ同一角度をなして所定角度(撚り角度)だけずれた向きに設定されている。
【0024】
次に、前記強化用繊維束繰り出し装置100について説明する。
【0025】
図3は本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置の全体構成を示す正面図、図4は図3に示す強化用繊維束繰り出し装置の要部を示す断面図である。
【0026】
本実施形態では、繊維束取り出し中の回巻体(図3の例では回巻体11)の強化用繊維束Rの末端と次に強化用繊維束Rを取り出す回巻体(図3の例では回巻体12)の強化用繊維束Rの先端とを、予め、当該回巻体(回巻体11)の繊維束取り出しが終了する前に、エアスプライサを使用して人手によって連結し(継ぎ合わせ)、2つの回巻体(回巻体11,12)について、このような連結を繰り返しながら強化用繊維束Rを取り出すことにより、含浸ダイ23に対して強化用繊維束Rを長時間にわたり連続して供給するようにしている。
【0027】
本実施形態における強化用繊維束繰り出し装置100は、2つの回巻体11,12から交互に強化用繊維束Rが取り出され、かつその際に、起立姿勢に保持された各回巻体自体11,12から前記非回転式外取り法によって強化用繊維束Rが取り出されるようにしたものである。
【0028】
図3に示すように、強化用繊維束繰り出し装置100は、無芯円筒状をなす2つの回巻体11,12の各々に対して、当該回巻体が起立姿勢で載置される回巻体載置台130と、回巻体載置台130上に載置された当該回巻体の内側に挿入されて、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイド120とを備えている。
【0029】
また、強化用繊維束繰り出し装置100は、2つの回巻体11,12の上方に設けられ、順に取り出される強化用繊維束Rを通過させて下流側へ導く1つの強化用繊維束取出しガイド110を備えている。強化用繊維束取出しガイド110には、強化用繊維束Rを通過させる貫通孔が設けられている。図3に示す例では、回巻体11(12)から取り出された強化用繊維束Rは、強化用繊維束取出しガイド110を通じて図面奥側へ引き出されるようになっている。
【0030】
前記回巻体載置台130は、図3,図4に示すように、回巻体11(12)の内径とほぼ同じ寸法の内径を有した有底円筒体132と、この有底円筒体132の円形上端面に固着され、回巻体11(12)の内径とほぼ同じ寸法の内径を有し、その上面に回巻体11(12)が載置される円環状をなすテーブル板131とを備えている。テーブル板131には、その裏面に3個乃至4個の支持脚133が取り付けられている。前記回巻体載置台130は、水平に延びる床面上に配置される。
【0031】
また、前記芯ガイド120は、図3,図4に示すように、回巻体11(12)の内径よりわずかに小さい外径寸法を持つ倒立コップ状の胴部121を有しており、この胴部121の先端には、回巻体11(12)に挿入しやすくするための先細り先端部が固着されている。胴部121は、例えば薄肉鋼板で作製されている。胴部121の上面には、取っ手122が取り付けられている。なお、胴部121を塩化ビニールで作製したものでは、軽量であるものの、最内巻層付近で静電気が発生した。
【0032】
次に、強化用繊維束繰り出し装置100における取り出し角θについて説明する。図5は図3に示す強化用繊維束繰り出し装置における取り出し角を説明するための図であって、その(a)は2つの回巻体及び強化用繊維束取出しガイドの配置位置関係を示す平面図、その(b)は図5(a)の各回巻体をそれぞれA矢視方向から見た正面図である。
【0033】
ここで、2つの回巻体11,12は、平面視の図5(a)に示すようにY方向においては互いに位置ずれなく配置されている。また、強化用繊維束取出しガイド110は、正面視の図3に示すように2つの回巻体11,12の上方であって、かつ、平面視の図5(a)に示すようにX方向における2つの回巻体11,12間の中央位置に配置されている。
【0034】
そして、このような位置関係において、この強化用繊維束繰り出し装置100では、2つの回巻体11,12の各々について、平面視において強化用繊維束取出しガイド110と当該回巻体の軸心点CPとを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点Pと称すると(図5(a)参照)、2つの回巻体11,12間の距離及び/又は強化用繊維束取出しガイド110の高さを調整することにより、前記軸心点CPと前記最遠点Pとを含む鉛直面に直交する方向Aから見ての正面視において、前記最遠点Pから内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインPLと当該回巻体の軸心線CLとのなす取り出し角θ(図5(b)参照)が45°以下となるように、なされている。
【0035】
例えば、図3,図5において、回巻体11,12の外径:φ265mm、回巻体11,12の軸心線CL間の距離:800mm、強化用繊維束取出しガイド110の延テーブル板131のレベルよりの高さ:870mmと設定すると、取り出し角θが約44°となる。
【0036】
図6は本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置における取り出し角を説明するための別の図であって、その(a)は2つの回巻体及び強化用繊維束取出しガイドの配置位置関係を示す平面図、その(b)は図6(a)の各回巻体をそれぞれA矢視方向から見た正面図である。
【0037】
ここで、2つの回巻体11,12は、平面視の図6(a)に示すようにY方向においては互いに位置ずれなく配置されている。一方、強化用繊維束取出しガイド110は、2つの回巻体11,12の上方に配置されているが、平面視の図6(a)に示すように、Y方向において回巻体11,12に対して位置ずれして配置され、かつ、X方向において2つの回巻体11,12間の中央位置より回巻体11側へ位置ずれして配置されている。
【0038】
そして、このような位置関係において、この強化用繊維束繰り出し装置100では、2つの回巻体11,12の各々について、平面視において強化用繊維束取出しガイド110と当該回巻体の軸心点CPとを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点Pと称すると(図6(a)参照)、2つの回巻体11,12間の距離及び/又は強化用繊維束取出しガイド110の高さを、回巻体位置調整手段(図示せず)及び/又はガイド高さ調整手段(図示せず)によって調整することにより、前記軸心点CPと前記最遠点Pとを含む鉛直面に直交する方向Aから見ての正面視において、前記最遠点Pから内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインPLと当該回巻体の軸心線CLとのなす取り出し角θ(図6(b)参照)が45°以下となるように、なされている。なお、使用する回巻体が特定されており、取り出し角θを当初設定しておけば以後の調整を行う必要がない繰り出し装置であれば、回巻体位置調整手段やガイド高さ調整手段は設けなくてもよい。また、ガイド高さ調整手段は、回巻体の設置高さを調整する回巻体高さ調整手段に換えてもよい。
【0039】
このように、本実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置は、強化用繊維束繰り出し装置100を備えており、直列に連結される2つの回巻体11,12につい交互に強化用繊維束Rを取り出すに際し、2つの回巻体11,12の各々について、平面視において強化用繊維束取出しガイド110と当該回巻体の軸心点CPとを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点Pと称すると、前記軸心点CPと前記最遠点Pとを含む鉛直面に直交する方向Aから見ての正面視において、前記最遠点Pから内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインPLと当該回巻体の軸心線CLとのなす取り出し角θが45°以下となるようにしている。
【0040】
したがって、非回転式外取り法によって回巻体11,12の外周側より強化用繊維束Rを取り出すに際し、強化用繊維束Rが回巻体上端側の外周縁部にひっかかることなく、回巻体外周側より強化用繊維束Rをスムーズに取り出すことができる。
【0041】
なお、強化用繊維束取出しガイド110をより高く配置することにより、取り出し角θをより小さくすることが可能であるが、これによって装置設置スペースの増大を招くこととなる。また、取り出し角θが大きいほど、強化用繊維束Rにかかる張力が高くなり、さらに、最遠点Pで強化用繊維束Rに毛羽立ちが発生する。これらの点を考慮すると、より好ましくは、取り出し角θは、20〜34°の範囲がよい。
【0042】
また、本実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置は、強化用繊維束繰り出し装置100を備えており、各回巻体11,12の内側に、それぞれ、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイド120を挿入している。したがって、回巻体11,12の最内巻層付近まで強化用繊維束Rが取り出されて巻層が崩落してしまっても、崩落した巻層の強化用繊維束がもつれることを防ぐことができて、当該回巻体に連結されている次の回巻体への切り替えを失敗無く確実に行うことができる。
【0043】
よって、本実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置によれば、強化用繊維束の断線や、回巻体の切り替え失敗を引き起こすことなく、含浸ダイに対して強化用繊維束を長時間にわたり連続して供給できて、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの生産性の向上を図ることができる。
【0044】
図7は本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置の別の全体構成を示す正面図である。傾斜形成板134が付加されている点以外は、図3に示す強化用繊維束繰り出し装置と同一構成である。
【0045】
この強化用繊維束繰り出し装置100’は、図7に示すように、回巻体載置台130に傾斜形成板134が付加されており、軸心線CLが内側へ例えば10°程度傾斜した状態で起立姿勢の回巻体11,12がテーブル板131上に載置されるようになされている。これにより、強化用繊維束繰り出し装置100’の装置高さを低くできるという利点がある。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の実施例について説明する。図1に示す3台の強化用繊維束繰り出し装置を備えた製造装置によって長繊維強化樹脂ペレットの製造実験を行い、図3〜図5に示す強化用繊維束繰り出し装置について評価した。強化用繊維束として、ガラス繊維束を用いた。1本あたりのガラス繊維束の仕様(構成)は、ガラス繊維径(フィラメント径)17μm、重量2400g/kmである。回巻体の寸法は、外径:φ280mm、内径:φ150mm、高さ:330mmである。
【0047】
[実施例1] 実験条件は、強化用繊維束繰り出し装置:3台、取り出し角θ:45°,34°、生産速度(引き取り速度):80m/min、熱可塑性樹脂:ポリプロピレン、繊維含有率:約70%、撚りローラの撚り角度:17.5°とした。
【0048】
その結果、10回の回巻体の切り替えを行い、取り出し角θが45°の場合、34°の場合ともに、回巻体の最内巻層付近までガラス繊維束が取り出されてもガラス繊維束のもつれを発生することがなく、10回とも失敗なく切り替えを行うことができた。ここで、取り出し角θが45°の場合、取り出されるガラス繊維束が回巻体上端側の外周縁部にこすれて、ガラス繊維束に多少の毛羽立ちが発生した。一方、取り出し角θが34°の場合には、毛羽立ちが発生することなくガラス繊維束を良好に取り出すことができた。
【0049】
[比較例1] 芯ガイドを装着しないこと以外は、実施例1と同じ条件で製造実験を行った。その結果、取り出し角θが45°の場合、34°の場合ともに、回巻体の最内巻層付近にてガラス繊維束のもつれが発生し、10回とも回巻体の切り替えに失敗した。
【0050】
[比較例2] 取り出し角θを47°にしたこと以外は、実施例1と同じ条件で製造実験を行った。その結果、取り出そうとするガラス繊維束が回巻体上端側の外周縁部にひっかかることが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1における撚りローラの説明図である。
【図3】本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置の全体構成を示す正面図である。
【図4】図3に示す強化用繊維束繰り出し装置の要部を示す断面図である。
【図5】図3に示す強化用繊維束繰り出し装置における取り出し角を説明するための図であって、その(a)は2つの回巻体及び強化用繊維束取出しガイドの配置位置関係を示す平面図、その(b)は図5(a)の各回巻体をそれぞれA矢視方向から見た正面図である。
【図6】本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置における取り出し角を説明するための別の図であって、その(a)は2つの回巻体及び強化用繊維束取出しガイドの配置位置関係を示す平面図、その(b)は図6(a)の各回巻体をそれぞれA矢視方向から見た正面図である。
【図7】本発明にかかる強化用繊維束繰り出し装置の別の全体構成を示す正面図である。
【図8】撚りを行う引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【図9】撚りを行わない引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
11,12…回巻体、
21…予熱用加熱装置
23…含浸ダイ
24…ダイノズル
26…押出機
25…含浸ローラ
28…溶融樹脂
29…冷却水槽
30A,30B…撚りローラ
31…ペレタイザー
100,100’…強化用繊維束繰り出し装置
110…強化用繊維束取出しガイド
120…芯ガイド
130…回巻体載置台
θ…取り出し角
P…最遠点
L…強化用繊維束パスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化用繊維束を円筒状に回巻きしてなる回巻体から連続して強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する方法において、
一の回巻体の強化用繊維束の末端と次に強化用繊維束を取り出す回巻体の強化用繊維束の先端とを連結し、前記連結された複数の回巻体から連続して順に強化用繊維束を取り出し、かつその際に、各回巻体自体を回転させないで回巻体外周側より強化用繊維束を取り出すに際し、
前記各回巻体の内側に、それぞれ、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイドを挿入し、前記複数の回巻体の上方に、前記順に取り出される強化用繊維束を通過させて下流側へ導く1つの強化用繊維束取出しガイドを設け、
前記複数の回巻体の各々について、平面視において前記強化用繊維束取出しガイドと当該回巻体の軸心点とを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点と称すると、前記軸心点と前記最遠点とを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、前記最遠点から内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線とのなす取り出し角が45°以下となるようにして、強化用繊維束の取り出しを行うことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記複数の回巻体が2つであり、連結を繰り返しながら、2つの回巻体から交互に強化用繊維束を取り出すことを特徴とする請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
強化用繊維束を円筒状に回巻きしてなる回巻体から連続して強化用繊維束を取り出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する装置において、
一の回巻体の強化用繊維束の末端と次に強化用繊維束を取り出す回巻体の強化用繊維束の先端とが連結され、前記連結された複数の回巻体から連続して順に強化用繊維束が取り出され、かつその際に、各回巻体自体を回転させないで回巻体外周側より強化用繊維束が取り出される強化用繊維束繰り出し装置を備え、
前記強化用繊維束繰り出し装置が、前記各回巻体の内側にそれぞれ挿入され、当該回巻体を起立姿勢に保持する芯ガイドと、前記複数の回巻体の上方に設けられ、前記順に取り出される強化用繊維束を通過させて下流側へ導く1つの強化用繊維束取出しガイドとを備えるとともに、前記複数の回巻体の各々について、平面視において前記強化用繊維束取出しガイドと当該回巻体の軸心点とを結ぶ直線の延長線が当該回巻体の外周円と交わる点を最遠点と称すると、前記軸心点と前記最遠点とを含む鉛直面に直交する方向から見ての正面視において、前記最遠点から内側かつ斜め上方へ延びる強化用繊維束パスラインと当該回巻体の軸心線とのなす取り出し角が45°以下となるようになされたものであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置。
【請求項4】
前記複数の回巻体が2つであり、連結を繰り返しながら、2つの回巻体から交互に強化用繊維束が取り出されることを特徴とする請求項3記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−196313(P2009−196313A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43221(P2008−43221)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】