説明

防振マウント装置

【課題】ばね部材の位置ずれを防ぎかつ良好な防振性を確保した防振マウント装置を提供する。
【解決手段】本発明の防振マウント装置は、支持体と被支持体の間に介装され、前記支持体に作用した振動を緩衝させて前記被支持体に伝達する防振マウント装置であって、前記被支持体の荷重支持方向に伸縮するばね部材と、前記ばね部材の伸縮方向に直交する方向の動きを規制するスプリングガイドとを備え、前記スプリングガイドには、前記ばね部材が当接すると、前記ばね部材の径方向断面で前記ばね部材と点接触状態で摺接する摺接部が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振マウント装置に関し、特に建設機械におけるキャブと車体フレームとの間に介装される防振マウント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不整地で作業するブルドーザやパワーショベル等の建設機械は、走行装置が取り付けられる車体フレーム上に運転・操作用のキャブが設けられている。このキャブは、一般の車両に比べて車体フレーム側から伝搬する外力が大きく、それに伴う振動が激しいので、制振装置として機能する防振マウント装置を介在させて車体フレームに装着されている。
【0003】
そして、この防振マウント装置としては、いわゆる液体封入マウントと呼ばれるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の構成では、防振マウント装置は、上方に開口した容器を備えている。この容器の上部には円筒状の弾性体が取り付けられ、弾性体の中央部にはシャフトが上下方向に摺動自在に嵌挿されている。そして、容器とシャフトと弾性体とで液体封入室を形成している。この液体封入室内には、シリコーンオイル等の減衰液と、シャフトの下端部にボルトなどの取付手段で取り付られたダンパ部材と、スプリングコイル等で構成されたばね部材とが封入されている。
【0004】
ダンパ部材は、下方に開口したカップ形状を成しており、ダンパ部材の内側上面と容器の底面との間に前記ばね部材が装着されている。そして、ダンパ部材の内側上面における周縁部には、内方へ向けて突出形成された環状の段差部が設けられている。この段差部の内周面部は、ばね部材の外周縁部と全周で当接し、スプリングガイドとして機能する。このため、ばね部材がその伸縮方向と交差する方向へ横ずれすることが規制される。
【0005】
【特許文献1】特開2002−227910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年、ブルドーザやパワーショベル等の建設機械において、部品点数の削減および製造の簡易化などを目的として、キャブの外側を覆うROPS(Roll-Over Protective Structures)ガードを排する傾向にある。
このようなROPSガードを備えていない建設機械のキャブには当該横転の際にオペレータを保護し得るだけの強度を付与すべく強度部材が付加されている。そのため、当該キャブの重量はROPSガードを備えた建設機械のキャブに比べ著しく増しており、防振マウント装置には激しい動的荷重が加えられることになる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の構成では、ばね部材とダンパ部材の段差部との接触による拘束を考慮して、段差部におけるばね部材の伸縮方向の高さ(ガイド長)を非常に浅くする必要がある。このため、防振マウント装置に対して激しい動的荷重が与えられた際に、段差部がスプリングガイドとして十分に機能することができずに、ばね部材が位置ずれしてしまったり容器内で横倒れしてしまうおそれがある。
また、仮に、段差部におけるばね部材の伸縮方向の高さを高くして、ばね部材が位置ずれ等しない程度の十分なガイド長を確保したとしても、ばね部材とダンパ部材の段差部との接触による拘束の度合いが大きくなり、防振マウント装置の防振性が悪化してしまうおそれがある、という問題が一例として挙げられる。
【0008】
本発明は、上述したような問題点に鑑みて、ばね部材の位置ずれを防ぎかつ良好な防振性を確保した防振マウント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る防振マウント装置は、
支持体と被支持体の間に介装され、前記支持体に作用した振動を緩衝させて前記被支持体に伝達する防振マウント装置であって、
前記被支持体の荷重支持方向に伸縮するばね部材と、
前記ばね部材の伸縮方向に直交する方向の動きを規制するスプリングガイドとを備え、
前記スプリングガイドには、前記ばね部材が当接すると、前記ばね部材の径方向断面で前記ばね部材と点接触状態で摺接する摺接部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る防振マウント装置は、
前記スプリングガイドにおける前記ばね部材の伸縮方向に直交する方向の断面形状は、前記ばね部材の径方向断面形状と異なることを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る防振マウント装置は、
前記スプリングガイドは、前記ばね部材が伸縮方向に直交する方向に変位していない中立状態で、前記摺接部と前記ばね部材との間に隙間が生じる形状に構成されていることを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る防振マウント装置は、
前記ばね部材は、コイルばねであり、
前記スプリングガイドは、前記コイルばねの内周縁で前記摺接部が摺接するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
第5発明に係る防振マウント装置は、
前記支持体側に設けられ、内部に振動減衰用の液体が封入されると共に、前記ばね部材が収納された液体封入部と、
前記液体封入部内に収納され、一端側が前記被支持体側に固定され、他端側が前記ばね部材に当接して、前記ばね部材の伸縮方向に沿って運動するダンパ部材とを備え、
前記ダンパ部材は、前記被支持体側に対して多角形状の頭部を備えた螺合部材によって固定され、
前記スプリングガイドは、前記螺合部材の多角形状の頭部として構成されていることを特徴とする。
【0014】
第6発明に係る防振マウント装置は、
前記ばね部材は、コイルばねであり、
前記スプリングガイドは、前記コイルばねの外周縁で前記摺接部が摺接するように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、スプリングガイドの摺接部とばね部材とは点接触するだけなので、接触による拘束の度合いを小さくすることができる。これにより、スプリングガイドとばね部材との良好な摺動状態を確保でき、かつ、ばね部材の位置ずれを防ぐことができる。
また、スプリングガイドの摺接部とばね部材とは点接触するだけなので充分なスプリングガイドの長さが確保でき、これにより、防振マウント装置に対して激しい動的荷重が加えられた際にも、ばね部材が横倒れすることを確実に防ぐことができる。
したがって、防振マウント装置は、ばね部材の位置ずれを防ぎかつ良好な防振性を確保できる。
なお、点接触状態は、1点で接触する場合に限らず、ばね部材の一部とスプリングガイドの一部との接触面積が小さく、接触による拘束の度合いが小さい状態であれば、線接触や面接触をも含むものであり、ばね部材の形状やサイズ、スプリングガイドの形状やサイズにより異なってくるものである。
【0016】
第2発明によれば、スプリングガイドにおけるばね部材の伸縮方向に直交する方向の断面形状が、ばね部材の径方向断面形状と異なるので、ばね部材とスプリングガイドの摺接部とが当接した際に接触面積が小さなものとなり、接触による拘束の度合いを小さくできる。このため、スプリングガイドとばね部材との良好な摺動状態を確保でき、かつ、ばね部材の位置ずれを防ぐことができる。
【0017】
第3発明によれば、ばね部材が位置ずれを起こさない程度の軽度の動的荷重を受ける際は、ばね部材とスプリングガイドの摺動部とは非接触状態となるので、ばね部材をスムーズに伸縮させることができる。
したがって、防振マウント装置は良好な防振性を確保することができる。
【0018】
第4発明によれば、ばね部材の内側に長いガイド長を有したスプリングガイドを設けることが可能となるので、激しい動的荷重が加えられた際にも、ばね部材が横倒れすることを確実に防ぐことができる。
【0019】
第5発明によれば、被支持体側にダンパ部材を固定するための螺合部材を、スプリングガイドとして兼用しているので、スプリングガイドとして特別な部品を要することなく、製造コストを安価に抑えることができる。そして、螺合部材の頭部の高さを適宜調節すれば好適なガイド長を得ることができ、螺合部材の頭部にて確実にばね部材が横倒れすることを防ぎ、かつ良好な摺動状態を得ることができる。
【0020】
第6発明によれば、ばね部材の外側に長いガイド長を有したスプリングガイドを設けることが可能となるので、激しい動的荷重が加えられた際にも、ばね部材の横倒れを確実に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態では、本発明の防振マウント装置としての液体封入マウントをブルドーザに設けた構成を例示するが、これに限らない。すなわち、本発明の防振マウント装置は、液体封入マウント以外の防振マウント装置としても適用でき、また、本発明の防振マウント装置は支持体からの振動を被支持体に減衰して伝達するいずれの構成に対しても適用できる。
【0022】
〔1〕第1実施形態
(1-1)全体構成
図1には、本発明の第1実施形態に係る液体封入マウントを採用した作業車両としてのブルドーザ1が示されている。このブルドーザ1は、掘削、運土、散土、盛土等の作業を行い、支持体としての車体2、および車体2上に設けられた被支持体としてのキャブ3を備えて構成されている。
なお、このブルドーザ1は、ブルドーザ1が横転した際にもオペレータを保護し得るだけの強度をキャブ3に付与してあるため、キャブ3の外側を覆うROPSガードなどの保護部を備えていない。
【0023】
車体2は、車体フレーム21、走行装置22、作業機23を備えている。
車体フレーム21は、図示しないエンジンが搭載される部分であり、このエンジンの後方側にキャブ3が設けられている。
走行装置22は、車体フレーム21の下部の両側に設けられたクローラ式走行装置であり、履帯221を備えている。走行装置22の後方側には駆動用のスプロケット222が設けられ、前方側にはアイドラ223が設けられ、履帯221がスプロケット222およびアイドラ223に巻回されている。
【0024】
作業機23は、掘削、盛土等の作業を行う部分であり、フレーム231、ブレード232、リフトシリンダ233、およびチルトシリンダ234を備えている。
フレーム231は、走行装置22の両側から走行方向前方に延びるアーム状部材であり、車体フレーム21に対して揺動自在に設けられている。ブレード232は、ブルドーザ1を走行させた際、土砂等が当たる部分であり、フレーム231の先端部分に設けられている。リフトシリンダ233は、ブレード232を上下させるための油圧アクチュエータである。チルトシリンダ234は、ブレード232の幅方向の傾斜を変化させる油圧アクチュエータである。
【0025】
キャブ3は、オペレータが乗車してブルドーザ1を操縦する運転室であり、一般の車両に比べて車体フレーム21側から伝搬する外力が大きく、それに伴う振動が激しいので、緩衝支持するためにもキャブ3と車体フレーム21との間に液体封入マウント4が介装される。
具体的には、キャブ3は、4つの液体封入マウント4を介して車体フレーム21に4点支持されている。すなわち、液体封入マウント4は、ブルドーザ1の走行方向の前方両側(左右両側)に2箇所、走行方向の後方両側(左右両側)に2箇所、合計4箇所に設けられている。前方側に設けられた液体封入マウント4は、互いに左右方向に大きく離れた位置で、車体フレーム21およびキャブ3のフロア板31に固定されている。後方側に設けられた液体封入マウント4は、前方側よりも高い位置(ハイマウント)で、車体フレーム21およびキャブ3のフロア板31に固定されている。
【0026】
(1-2)液体封入マウント4の構成
次に、液体封入マウント4の具体的な構成について、図2および図3に基づいて説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る液体封入マウントを示す側断面図である。図3は、液体封入マウントにおけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。
【0027】
図2において、液体封入マウント4は、車体フレーム21に作用した振動を緩衝させてキャブ3に伝達する。この液体封入マウント4は、シャフト41と、マウントゴム42と、ダストカバー425と、ダンパ部材43と、容器44と、ばね部材45と、固定板46と、を備えている。
これらシャフト41と、マウントゴム42と、容器44と、固定板46とで液体封入室Lとなる密閉空間が形成されている。そして、液体封入室Lの内部には、シリコーンオイルなどの減衰液が充填されており、さらに、ダンパ部材43と、ばね部材45と、が収納されている。
【0028】
(1-2-1)シャフト41の構成
シャフト41は、キャブ3に固定され、キャブ3の動きと共に変位し、液体封入マウント4によって減衰された振動を最終的にキャブ3に伝達する部材である。このシャフト41は、キャブ3の荷重支持方向に延びる中実軸状部材として構成され、雄ねじ部411と、段差部412と、雌ねじ部413とを備えて構成される。
【0029】
雄ねじ部411は、シャフト41の上端側に形成され、この雄ねじ部411に図示しないナットが螺合することにより、シャフト41がキャブ3のフロア板31に対して固定される。
段差部412は、前述の雄ねじ部411の基端側に形成され、雄ねじ部411の径よりも大きくなっている。この段差部412がキャブ3のフロア板31に形成された孔部に嵌合することにより、段差部412にキャブ3の荷重が掛かり、また、キャブ3およびシャフト41間のナットによる締め付け方向に直交する方向の相対的な動きが規制される。
雌ねじ部413は、シャフト41の下端側に形成され、シャフト41の中心軸と同一軸を有したねじ孔である。
【0030】
(1-2-2)マウントゴム42の構成
マウントゴム42は、シャフト41の水平方向の動きを吸収しつつ必要以上に変位が大きくならないようにその動きを規制する部分であり、シャフト41の軸周りに円筒形プレート422および筒状のクッションラバー424を積層して構成される。具体的には、このマウントゴム42は、リテーナ421と、円筒形プレート422と、スリーブ423と、クッションラバー424とを備えている。
【0031】
リテーナ421は、例えば鋼材などにて円筒状に形成され、その内周面下部に嵌挿されているブッシュ421Aにより、シャフト41の外周面を軸方向に摺動自在とされている。このブッシュ421Aは、例えば軸方向に分割した分割ベアリングにて構成されていて、シャフト41の外周面との隙間を閉塞する。
また、リテーナ421の内周面上部には、オイルシール421Bとダストシール421Cとが装着されており、オイルシール421Bはシャフト41の外周面との隙間を閉塞する。
【0032】
円筒形プレート422は、例えば鋼材などにて円筒状に形成され、リテーナ421の外側に同心状に設けられている。
スリーブ423は、例えば鋼材などにて略円筒状に形成され、リテーナ421と同心状に円筒形プレート422の外側に設けられている。このスリーブ423は、固定板46における円筒部463の内周面に一体的に接合されている。
【0033】
クッションラバー424は、リテーナ421と円筒形プレート422との間、円筒形プレート422とスリーブ423との間にそれぞれ設けられたゴム部材であり、例えば加硫接着などにて一体的に固着されている。
以上により、リテーナ421と、円筒形プレート422と、スリーブ423と、クッションラバー424とで一体的な環状の積層構造が構成され、これと、シャフト41と、固定板46とにより液体封入室Lの上部を完全に密閉している。
【0034】
(1-2-3)ダストカバー425の構成
ダストカバー425は、リテーナ421と、円筒形プレート422と、スリーブ423と、クッションラバー424との上部、および、シャフト41の摺動部を覆うゴム製のカバー部材であり、各部への塵の侵入を防ぎ、各部間の摺動性等が損なわれることを防止している。
【0035】
(1-2-4)ダンパ部材43の構成
ダンパ部材43は、ばね部材45の伸縮運動、および、液体封入室L内の減衰液から受ける粘性抵抗により、車体フレーム21からの振動をシャフト41に減衰して伝達する。
すなわち、このダンパ部材43は、例えば鋼材にて、下方に開口する有底円筒状に形成され、前述のように液体封入室L内に収納されている。
ダンパ部材43の一端側、すなわち、ダンパ部材43の底部は、ボルト431がシャフト41の雌ねじ部413に螺合されたことにより、シャフト41に固定されている。一方、ダンパ部材43の底部の内側、すなわち、ダンパ部材43の底部におけるシャフト41が取り付けられる面の反対側の面は、ばね部材45に当接している。
これにより、ダンパ部材43は、ばね部材45の伸縮方向に沿って運動し、ばね部材45にて減衰された振動をシャフト41に伝達する。これと共に、ダンパ部材43は、液体封入室L内での運動において減衰液から粘性抵抗を受けるため、車体フレーム21からの振動をさらに減衰してシャフト41に伝達する。
【0036】
なお、ダンパ部材43の底部は、肉厚に形成されている。これはキャブ3がROPSガードを備えていないことに対応するもので、これにより、ブルドーザ1が横転した際に過大な負荷が液体封入マウント4に掛かったとしても、車体フレーム21からキャブ3が外れないだけの強度を確保できる。
【0037】
ここで、ボルト431の頭部431Aは、本発明におけるスプリングガイドを構成し、ばね部材の伸縮方向に直交する方向の動きを規制する。
具体的には、ボルト431の頭部431Aは、ばね部材45のコイル円形の内部に配設されており、図3に示すように、径方向断面形状が六角形の側面431Bを有している。
側面431Bにおける6つの角部431Cは、本発明における摺接部に相当し、ばね部材45が当接すると、ばね部材45の径方向断面で、ばね部材45の内周縁と点接触状態で摺接する。
すなわち、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に変位していない中立状態(図2および図3に示す状態)では、ばね部材45の内周縁と角部431Cとの間に隙間が形成されている。また、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に大きく変位してばね部材45がボルト431に当接する状態では、角部431Cがばね部材45の内周縁に点接触する。
【0038】
(1-2-5)容器44の構成
容器44は、例えば鋼材にて、上方に開口する有底円筒状に形成された部材である。容器44は、フランジ部441と、固定用孔部442と、ゴムストッパ443とを備えている。
【0039】
フランジ部441は、容器44の円筒部における開口端側に、径方向外側に向けて延出する状態で形成され、その外周縁の形状は略正方形となっている。このフランジ部441の外周縁における各辺の中央部には、それぞれ爪部441Aが設けられており、この爪部441Aを固定板46に対してかしめることにより、容器44と固定板46とが一体的に連結されている。
固定用孔部442は、フランジ部441の4隅に穿設された円状孔であり、車体フレーム21に対して液体封入マウント4全体を固定するための図示しないボルトが挿通される。
【0040】
ゴムストッパ443は、フランジ部441と固定板46とが連結された状態で、容器44の円筒部における開口端側から径方向内側に向けて固定板46の後述する孔部461までの間に亘って設けられたゴム部材である。このゴムストッパ443は、ダンパ部材43が所定ストローク以上にわたって上動したときにダンパ部材43に当接し、ダンパ部材43がそれ以上上動することを防ぐ。
【0041】
(1-2-6)ばね部材45の構成
ばね部材45は、コイルばねであり、キャブ3の荷重支持方向に伸縮し、車体フレーム21側から伝搬する振動を減衰してシャフト41に伝達する。このばね部材45は、ダンパ部材43における底部と、容器44の底部との対向間に介装されている。また、ばね部材45は、容器44の底部にばね受け部材を設け、ダンパ部材43における底部と当該ばね受け部材との対向間に介装してもよい。
なお、ばね部材45の外周縁と、ダンパ部材43の円筒部の内周面とは、互いに離間した状態となっている。これにより、ばね部材45が位置ずれを起こさない程度の軽度の動的荷重を受けた際は、ばね部材45とダンパ部材43とは互いに接触せず、ばね部材45がスムーズに伸縮できるようになっている。
【0042】
(1-2-7)固定板46の構成
固定板46は、車体フレーム21に固定する部分であり、例えば鋼材にて略正方形板状に形成されている。この固定板46は、孔部461,462と、円筒部463とを備えている。
孔部461は、固定板46の中央に穿設された円状の貫通孔であり、シャフト41が挿通される。
孔部462は、固定板46の4隅で容器44の固定用孔部442に対応する位置に穿設された円状の貫通孔である。
【0043】
円筒部463は、孔部461よりも大きな径寸法を有す状態で孔部461と同軸上に設けられており、固定板46のキャブ3と対向する一端面に一体的に形成されている。そして、前述のように、円筒部463の内周面にはマウントゴム42のスリーブ423が一体的に接合されている。
【0044】
なお、この固定板46は、肉厚に形成されている。これはダンパ部材43と同様に、キャブ3がROPSガードを備えていないことに対応するもので、これにより、ブルドーザ1が横転した際に過大な負荷が液体封入マウント4に掛かったとしても、車体フレーム21からキャブ3が外れないだけの強度を確保できる。
【0045】
(1-3)液体封入マウント4の作用
次に、上述の構成の液体封入マウント4の作用について説明する。
キャブ3は液体封入マウント4を介して車体フレーム21に支持されている。すなわち、液体封入マウント4は、シャフト41の一端側がキャブ3のフロア板31にボルトにて固定され、固定板46および容器44のフランジ部441が車体フレーム21に固定されている。
そして、ばね部材45が中立状態にある場合、垂直方向の荷重はばね部材45により支持されている。
【0046】
ここで、キャブ3が水平方向に振動したときには、シャフト41は、これを摺動可能に保持するリテーナ421を介して、リテーナ421に固着された円筒形プレート422、スリーブ423、クッションラバー424により弾性支持される。
【0047】
キャブ3が鉛直方向上下に振動したときには、シャフト41は、軸方向に摺動すると共に、ばね部材45により弾性的に支持される。また、シャフト41と一体となったダンパ部材43が減衰液中を運動する際に減衰液から粘性抵抗を受けて、シャフト41に対して減衰力が作用する。
【0048】
そして、ブルドーザ1の使用時において、キャブ3に対して軽度の動的荷重が加えられた際、ばね部材45が中立状態にあれば、ばね部材45とボルト431の頭部431Aとは非接触状態にあるので、シャフト41はスムーズに摺動することが可能である。
また、ブルドーザ1が斜面を走行する場合など、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に変位する状態となる場合は、ボルト431の頭部431Aがばね部材45の内周縁に当接し、ばね部材45が位置ずれすることを防ぐ。この際、ボルト431における角部431Cとばね部材45の内周部とが接触しても、接触面積が非常に小さいので接触による拘束の度合いが小さくて済み、シャフト41はスムーズに摺動することが可能である。
【0049】
そして、キャブ3に対して激しい動的荷重が加えられた場合でも、ボルト431頭部の側面431Bの高さを適宜調節して好適なガイド長を確保できるので、ばね部材45の内側から、ボルト431の頭部431Aにて確実にばね部材45が横倒れすることを防ぐことができる。
なお、ボルト431頭部の側面431Bの高さを大きくしても、ボルト431における角部431Cとばね部材45の内周縁とは点接触するだけなので、接触による拘束の度合いが大きくならず、液体封入マウント4の防振性が悪化してしまうことはない。
【0050】
〔2〕第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について、図4および図5に基づいて説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る液体封入マウントを示す側断面図である。図5は、液体封入マウントにおけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。
なお、図4および図5に示す第2実施形態は、図1ないし図3に示した第1実施形態と、ダンパ部材においてのみ構成が異なるため、同一の構成要素については同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0051】
(2-1)ダンパ部材47の構成
ダンパ部材47は、例えば鋼材にて、下方に開口する有底円筒状に形成され、前述のように液体封入室L内に収納されている。そして、ダンパ部材47の一端側、すなわち、ダンパ部材47の底部は、ボルト471がシャフト41の雌ねじ部413に螺合されたことにより、シャフト41に固定されている。
【0052】
このボルト471の頭部471Aは、図2および図3に示すボルト431の頭部431Aよりも小さく、ボルト471の頭部471Aの側面とばね部材45の内周部とは互いに離間した状態となっている。これにより、ばね部材45が位置ずれを起こさない程度の軽度の動的荷重を受けた際は、ばね部材45とボルト471の頭部471Aとは互いに接触せず、ばね部材45がスムーズに伸縮できるようになっている。
【0053】
そして、ダンパ部材47における円筒部472は、本発明におけるスプリングガイドを構成し、ばね部材45の伸縮方向に直交する方向の動きを規制する。
具体的には、ダンパ部材47における円筒部472は、ばね部材45のコイル円形の外部に配設されており、図5に示すように、径方向断面形状が六角形の内周面472Aを有している。
内周面472Aにおける各面の略中央部は、本発明における摺接部に相当し、ばね部材45が当接すると、ばね部材45の径方向断面で、ばね部材45の外周縁と点接触状態で摺接する。
すなわち、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に変位していない中立状態(図4および図5に示す状態)では、ばね部材45の外周縁と、内周面472Aにおける各面の略中央部との間に隙間が形成されている。また、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に大きく変位してばね部材45が内周面472Aに当接する状態では、内周面472Aにおける各面の略中央部がばね部材45の外周縁に点接触する。
【0054】
(2-2)液体封入マウント4Aの作用
次に、上述の構成の液体封入マウント4Aの作用について説明する。なお、第1実施形態における液体封入マウント4と同様の作用については説明を省略する。
【0055】
ブルドーザ1の使用時において、キャブ3に対して軽度の動的荷重が加えられた際、ばね部材45が中立状態にあれば、ばね部材45とダンパ部材47の内周面472Aとは非接触状態にあるので、シャフト41はスムーズに摺動することが可能である。
また、ブルドーザ1が斜面を走行する場合など、ばね部材45が伸縮方向に直交する方向に変位する状態となる場合は、ダンパ部材47の内周面472Aがばね部材45の外周縁に当接し、ばね部材45が位置ずれずることを防ぐ。この際、内周面472Aにおける各面の略中央部とばね部材45の外周部とが接触しても、接触面積が非常に小さいので接触による拘束の度合いが小さくて済み、シャフト41はスムーズに摺動することが可能である。
【0056】
そして、キャブ3に対して激しい動的荷重が加えられた場合、ダンパ部材47の内周面472Aの高さを適宜調節して好適なガイド長を確保できるので、ばね部材45の外側から、ダンパ部材47の内周面472Aにて確実にばね部材45が横倒れすることを防ぐことができる。
なお、ダンパ部材47の内周面472Aの高さを大きくしても、ダンパ部材47の内周面472Aの各面における略中央部とばね部材45の外周縁とは点接触するだけなので、接触による拘束の度合いが大きくならず、液体封入マウント4の防振性が悪化してしまうことはない。
【0057】
〔3〕実施形態の変形
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0058】
前記実施形態では、液体封入マウント4,4Aをブルドーザ1に設ける構成を例示したが、これに限らない。すなわち、本発明の防振マウント装置は、例えば、トラックなどの車両の座席などに対しても適用することができる。また、液体封入マウント4,4AをROPSガードを備えていないキャブ3に対して設ける構成を例示したが、ROPSガードを備えたキャブ3に対して設けたとしても何ら問題はない。
【0059】
前記実施形態では、本発明の防振マウント装置として、液体封入室Lに減衰液を充填した液体封入マウント4,4Aを例示したが、これに限らず、減衰液を充填しないスプリングマウントとして利用することもできる。
【0060】
前記第1実施形態では、ボルト431の頭部431Aをスプリングガイドとする構成を例示したが、これに限らない。すなわち、例えば、ボルト頭部の側面から径方向外側へ向けてリブ状に突出する摺動部を設ける構成など、ばね部材45のコイル円形に点接触状態で内接するスプリングガイドを有する構成であればいずれでも構わない。また、スプリングガイドの径方向断面形状も六角形に限らず、いずれの多角形としてもよい。
【0061】
前記第2実施形態では、ダンパ部材47における内周面472Aをスプリングガイドとする構成を例示したが、これに限らず、ばね部材45のコイル円形に点接触状態で外接するスプリングガイドを有する構成であればいずれでも構わない。また、スプリングガイドの径方向断面形状も六角形に限らず、いずれの多角形としてもよい。
【0062】
すなわち、例えば、図6に示すように、ダンパ部材48の径方向断面形状が円形の内周面481に、内方に向けて突出したリブ状の摺接部482を設ける構成としてもよい。なお、図6は、前記第2実施形態の変形例におけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。このような構成でも、図6に示す液体封入マウント4Bは、前記第2実施形態と同様の作用効果を奏する。すなわち、摺接部482がばね部材45の軸直交方向への動きを規制し、かつ、摺接部482にばね部材45が当接する際には点接触状態で摺接するので、ばね部材45の位置ずれを防ぎかつ良好な防振性を確保できる。なお、図6では、ダンパ部材48の内周面481に3つの摺接部482を一体的に設ける構成を例示しているが、摺接部の数は4つ以上でもよい。また摺接部482の断面形状も三角形に限らず、ばね部材の外周に点接触する形状であればいずれの形状でも構わない。
【0063】
前記第2実施形態では、ボルト471の頭部471Aの側面とばね部材45の内周部とは互いに離間した状態となっているとしたが、これに限らない。すなわち、図2および図3に示すような、ばね部材45の内周縁にボルト431の頭部431Aの側面を近接させて設ける構成と、図4および図5に示すような、ばね部材45の外周縁にダンパ部材47の内周面472Aを近接させて設ける構成とを組み合わせてもよい。つまり、前記第1実施形態と前記第2実施形態とを組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、建設機械のキャブに対して利用できる他、支持体からの振動を被支持体に減衰して伝達するいずれの構成に対しても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液体封入マウントを採用したブルドーザを示す外観側面図である。
【図2】前記実施形態に係る液体封入マウントを示す側断面図である。
【図3】前記実施形態におけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る液体封入マウントを示す側断面図である。
【図5】前記実施形態におけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。
【図6】前記実施形態の変形例におけるばね部材およびダンパ部材の位置関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0066】
2…車体(支持体)
3…キャブ(被支持体)
4,4A,4B…液体封入マウント(防振マウント装置)
43…ダンパ部材
431…ボルト(螺合部材)
431A…頭部(スプリングガイド)
431C…角部(摺接部)
45…ばね部材
47…ダンパ部材
472…円筒部(スプリングガイド)
472A…内周面(摺接部)
48…ダンパ部材
481…内周面
482…摺接部
L…液体封入室(液体封入部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と被支持体の間に介装され、前記支持体に作用した振動を緩衝させて前記被支持体に伝達する防振マウント装置であって、
前記被支持体の荷重支持方向に伸縮するばね部材と、
前記ばね部材の伸縮方向に直交する方向の動きを規制するスプリングガイドとを備え、
前記スプリングガイドには、前記ばね部材が当接すると、前記ばね部材の径方向断面で前記ばね部材と点接触状態で摺接する摺接部が形成されていることを特徴とする防振マウント装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防振マウント装置において、
前記スプリングガイドにおける前記ばね部材の伸縮方向に直交する方向の断面形状は、前記ばね部材の径方向断面形状と異なることを特徴とする防振マウント装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防振マウント装置において、
前記スプリングガイドは、前記ばね部材が伸縮方向に直交する方向に変位していない中立状態で、前記摺接部と前記ばね部材との間に隙間が生じる形状に構成されていることを特徴とする防振マウント装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の防振マウント装置において、
前記ばね部材は、コイルばねであり、
前記スプリングガイドは、前記コイルばねの内周縁で前記摺接部が摺接するように構成されていることを特徴とする防振マウント装置。
【請求項5】
請求項4に記載の防振マウント装置において、
前記支持体側に設けられ、内部に振動減衰用の液体が封入されると共に、前記ばね部材が収納された液体封入部と、
前記液体封入部内に収納され、一端側が前記被支持体側に固定され、他端側が前記ばね部材に当接して、前記ばね部材の伸縮方向に沿って運動するダンパ部材とを備え、
前記ダンパ部材は、前記被支持体側に対して多角形状の頭部を備えた螺合部材によって固定され、
前記スプリングガイドは、前記螺合部材の多角形状の頭部として構成されていることを特徴とする防振マウント装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の防振マウント装置において、
前記ばね部材は、コイルばねであり、
前記スプリングガイドは、前記コイルばねの外周縁で前記摺接部が摺接するように構成されていることを特徴とする防振マウント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−278342(P2007−278342A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103078(P2006−103078)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(000136354)株式会社フコク (97)
【Fターム(参考)】