説明

防振装置

【課題】 気体ダンパを用いて除振性能が向上した能動型の防振装置を提供する。
【解決手段】 構造物16を支持するエアダンパ43とその内圧を制御するサーボバルブ47とを有する防振装置において、構造物16の速度とエアダンパ43の有効受圧面積A0 とから定まるエアダンパ43の体積変化速度に起因する流量フィードバック部75による共振・反共振を解消するために、位置センサ49で検出される構造物16の位置情報を微分して所定のゲインを乗じて得られる信号をサーボバルブ47の駆動信号に正帰還する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物を支持する際に気体ダンパを用いて振動を抑制する防振技術に関し、例えば半導体デバイスや液晶ディスプレイ等の各種デバイスを製造する際に使用される露光装置等を支持するために好適なものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体デバイスの製造工程の一つであるリソグラフィ工程においては、マスクとしてのレチクル(又はフォトマスク等)に形成されているパターンをフォトレジストが塗布された基板としてのウエハ(又はガラスプレート等)上に転写露光するために、ステッパー等の一括露光型(静止露光型)の投影露光装置やスキャニングステッパー等の走査露光型の投影露光装置(走査型露光装置)などの露光装置が使用されている。
【0003】
露光装置において、レチクルステージやウエハステージの位置決め精度や重ね合わせ精度等の露光精度を向上するためには、振動の影響をできるだけ排除する必要がある。しかしながら、上記の各ステージが移動するときには、その加速時の反力が床に伝わって床が大きく振動することがある。また、露光装置が設置されているデバイス製造工場内の周囲の関連機器の稼働時にも様々な力によって床が振動するため、床は恒常的に或る程度は振動している。そこで、その床の振動が露光装置に伝わって、露光精度が低下するのを防止するため、従来より露光装置と床(設置面)との間には防振台が配置されている。
【0004】
従来の防振台としては、内部の圧力がほぼ一定に維持されるように開ループで空気が供給されるエアダンパでステージ等を支持する機構が広く用いられている。また、ステージ等に配置した加速度センサで検出される振動を抑制するアクチュエータをエアダンパに組み合わせて用いる能動型の防振装置も使用されるようになって来ている。さらに防振性能を向上するために、そのアクチュエータに情報をフィードバックするセンサの種類を増加させるとともに、エアダンパにおいても、ステージに設けた運動センサの検出結果を用いて圧力を制御するようにした能動型の防振装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−175122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近は、半導体デバイス等のパターンが一層微細化しており、それに伴って必要な露光精度も高くなっているため、露光装置においては振動の影響をさらに抑制する必要がある。そのためには、能動型の防振装置においても、床の振動に伴う露光装置の振動をより広い周波数帯域で抑制して除振性能を高める必要がある。
また、エアダンパを備えた能動型の防振装置において、除振性能を高めるために、そのエアダンパ内の空気の圧力を計測し、この計測結果をそのエアダンパ内の圧力を制御する駆動部にフィードバックすることも検討されている。しかしながら、より広い周波数帯域で振動を抑制するために、単にその圧力をフィードバックする際のゲインを上げると、共振特性及び反共振特性も大きくなって、エアダンパ内の圧力が不安定になる恐れがある。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑み、エアダンパ等の気体ダンパを用いる際に、気体ダンパ内の気体の圧力を安定化して除振性能を向上できる能動型の防振技術を提供することを第1の目的とする。
さらに本発明は、気体ダンパを用いる際に、より広い周波数帯域の振動を抑制して除振性能を向上できる能動型の防振技術を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による第1の防振装置は、内部に気体が供給されて設置面(32)上に構造物(36)を支持する気体ダンパ(43)と、第1制御情報(w’)に基づいてその気体ダンパ内の気体の圧力を制御する駆動部(47)とを有する防振装置において、その構造物の位置情報を計測する第1センサ(49)と、その第1センサで計測される位置情報に基づいてその気体ダンパ及びその駆動部の共振特性を補償する第1駆動情報(w1)を生成し、この第1駆動情報をその駆動部に供給する補償部(74)とを備えたものである。
【0008】
本発明によれば、その補償部によってその共振特性が補償されて、その気体ダンパ内の気体の圧力が安定化するため、除振性能が向上する。なお、共振特性を補償する場合には、実質的に反共振特性も補償される。
本発明において、一例として、その補償部は、その第1センサから出力される位置情報を微分する第1演算部(61)と、その第1演算部の出力情報に第1ゲイン(ktun)を乗じて得られるその第1駆動情報をその駆動部に正帰還する第2演算部(62)とを備えたものである。
【0009】
本発明者によれば、その共振特性が生じている部分は、その気体ダンパの有効受圧面積に応じた気体の流量をその駆動部にフィードバックする部分である。また、その位置情報を微分して得られる情報(速度情報)にその第1ゲインを乗じて得られる第1駆動情報は、その気体の流量にほぼ比例する情報である。従って、その第1駆動情報をその駆動部に正帰還することで、その気体の流量のフィードバックの影響が軽減されて、その共振特性が補償される。
【0010】
また、その第2演算部におけるその第1ゲインは、その気体ダンパの有効受圧面積(A0 )及びその駆動部におけるゲイン(Gq )に基づいて定めることができる。一例として、その第1ゲインをその有効受圧面積(A0 )に比例して、その駆動部におけるゲイン(Gq )に反比例するように定めることで、その気体の流量のフィードバックの影響をより軽減できる。
【0011】
また、別の例として、その補償部は、その第1センサから出力される位置情報(w2)にその第1制御情報を加算する加算部(57B)と、その加算部の出力情報に応じた前記気体の流量と前記出力情報に応じた前記気体の流量を微分して得られる流量とを加算して前記気体ダンパに供給する前記駆動部としての流量制御部(47A〜47D)とを備えてもよい。この構成は、例えばサーボバルブ等のハードウェアによって容易に構成可能である。
【0012】
また、その気体ダンパ内の気体の圧力情報を計測する第2センサ(28)と、その第2センサで計測される圧力情報に第2ゲイン(kg )を乗じて得られる第2駆動情報(b2 )を生成する第1フィードバック部(73)と、第2制御情報(b1 )からその第2駆動情報を減算して得られる差分情報(b3)に第3ゲイン(kpi)を乗じてその第1制御情報を生成する第1制御部(56)とをさらに備えることができる。
【0013】
このように気体ダンパ内で計測された圧力情報をフィードバックすることで、その気体ダンパ内の気体の圧力を高精度に目標値に制御できる。また、本発明では上記の共振特性が補償されているため、その第3ゲインを大きくすることができる。従って、その構造物が振動してその気体ダンパ内の気体の圧力が変化した場合に、より広い周波数帯域でその振動を抑制できる。
【0014】
また、その構造物の加速度情報を計測する第3センサ(40)と、その第3センサで計測される加速度情報に第4ゲイン(kacc )を乗じて得られる第3駆動情報(a2)を生成する第2フィードバック部(72)と、第3制御情報(a1)からその第3駆動情報を減算して得られる差分情報(a3)に第5ゲインを乗じてその第2制御情報を生成する第2制御部(54)とをさらに備えることができる。このようにその構造物の加速度情報を直接フィードバックすることで、その構造物の振動をより高速に抑制できる。
【0015】
また、一例として、その第3制御情報は、その構造物の目標位置情報(xp )とその第1センサで計測される位置情報(Δx)との差分情報に基づいて生成される。これによって、その構造物が所定の目標位置に維持されるように、その気体ダンパ内の気体の圧力が制御される。
また、その設置面とその構造物との間にその気体ダンパと並列に、その構造物の変位に応じて電磁力で付勢力を与える電磁ダンパ(50)を配置してもよい。その気体ダンパは応答速度は比較的遅いが高負荷に耐えることができ、その電磁ダンパは応答速度は速いが低負荷で使用される。従って、両者を組み合わせることで、その構造物の重量が大きい場合にも、高い応答速度で防振を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、気体ダンパを用いて能動型の防振を行う際に、その気体ダンパ及び駆動部の共振特性を補償することができるため、その気体ダンパ内の気体の圧力が安定化して除振性能が向上する。
また、本発明において、その気体ダンパ内の気体の圧力情報をフィードバックするフィードバック部(第1フィードバック部)を設けた場合には、共振が生じない範囲で第1制御情報を生成する第1制御部におけるゲインを高くすることができる。従って、振動に伴ってその気体ダンパ内の気体の圧力が変動したときに、広い周波数帯域でその圧力を目標値に戻すことができるため、除振性能がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態の一例につき図面を参照して説明する。本例は、スキャニングステッパーよりなる走査露光型の投影露光装置(走査型露光装置)の除振を行う場合に本発明を適用したものである。
図1は、本例の投影露光装置を構成する各機能ユニットをブロック化して表した図であり、この図1において、投影露光装置を収納するチャンバーは省略されている。図1において、露光用の光源としてKrFエキシマレーザ(波長248nm)又はArFエキシマレーザ(波長193nm)よりなるレーザ光源1が使用されている。その露光用の光源としては、その他のF2 レーザ(波長157nm)のような発振段階で紫外域のレーザ光を放射するもの、固体レーザ光源(YAG又は半導体レーザ等)からの近赤外域のレーザ光を波長変換して得られる真空紫外域の高調波レーザ光を放射するもの、或いはこの種の露光装置でよく使われている水銀放電ランプ等も使用できる。
【0018】
レーザ光源1からの露光ビームとしての露光用の照明光(露光光)ILは、レンズ系とフライアイレンズ系とで構成される均一化光学系2、ビームスプリッタ3、光量調整用の可変減光器4、ミラー5、及びリレーレンズ系6を介してレチクルブラインド機構7を均一な照度分布で照射する。レチクルブラインド7でスリット状又は矩形状に制限された照明光ILは、結像レンズ系8を介してマスクとしてのレチクルR上に照射され、レチクルR上にはレチクルブラインド7の開口の像が結像される。均一化光学系2、ビームスプリッタ3、光量調整用の可変減光器4、ミラー5、リレーレンズ系6、レチクルブラインド機構7、及び結像レンズ系8を含んで照明光学系9が構成されている。
【0019】
レチクルRに形成された回路パターン領域のうち、照明光によって照射される部分の像は、両側テレセントリックで投影倍率βが縮小倍率の投影光学系PLを介して基板(感応基板)としてのフォトレジストが塗布されたウエハW上に結像投影される。一例として、投影光学系PLの投影倍率βは1/4、視野直径は27〜30mm程度である。レチクルR及びウエハWはそれぞれ第1物体及び第2物体とみなすこともできる。以下、投影光学系PLの光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内で図1の紙面に平行な方向にX軸を、図1の紙面に垂直な方向にY軸を取って説明する。本例では、Y軸に沿った方向(Y方向)が、走査露光時のレチクルR及びウエハWの走査方向であり、レチクルR上の照明領域は、非走査方向であるX軸に沿った方向(X方向)に細長い形状である。
【0020】
先ず、投影光学系PLの物体面側に配置されるレチクルRは、走査露光時にレチクルベース(不図示)上をエアベアリングを介して少なくともY方向に定速移動するレチクルステージRSTに保持されている。レチクルステージRSTの移動座標位置(X方向、Y方向の位置、及びZ軸の周りの回転角)は、レチクルステージRSTに固定された移動鏡Mrと、これに対向して配置されたレーザ干渉計システム10とで逐次計測され、その移動はリニアモータや微動アクチュエータ等で構成される駆動系11によって行われる。なお、移動鏡Mr、レーザ干渉計システム10は、実際には少なくともX方向に1軸及びY方向に2軸の3軸のレーザ干渉計を構成している。レーザ干渉計システム10の計測情報はステージ制御ユニット14に供給され、ステージ制御ユニット14はその計測情報及び装置全体の動作を統轄制御するコンピュータよりなる主制御系20からの制御情報(入力情報)に基づいて、駆動系11の動作を制御する。
【0021】
一方、投影光学系PLの像面側に配置されるウエハWは、不図示のウエハホルダを介してウエハステージWST上に保持され、ウエハステージWSTは、走査露光時に少なくともY方向に定速移動できるとともに、X方向及びY方向にステップ移動できるように、エアベアリングを介して不図示のウエハベース上に載置されている。また、ウエハステージWSTの移動座標位置(X方向、Y方向の位置、及びZ軸の周りの回転角)は、投影光学系PLの下部に固定された基準鏡Mfと、ウエハステージWSTに固定された移動鏡Mwと、これに対向して配置されたレーザ干渉計システム12とで逐次計測され、その移動はリニアモータ及びボイスコイルモータ(VCM)等のアクチュエータで構成される駆動系13によって行われる。なお、移動鏡Mw及びレーザ干渉計システム12は、実際には少なくともX方向に1軸及びY方向に2軸の3軸のレーザ干渉計を構成している。レーザ干渉計システム12の計測情報はステージ制御ユニット14に供給され、ステージ制御ユニット14はその計測情報及び主制御系20からの制御情報(入力情報)に基づいて、駆動系13の動作を制御する。
【0022】
また、ウエハステージWSTには、ウエハWのZ方向の位置(フォーカス位置)と、X軸及びY軸の周りの傾斜角を制御するZレベリング機構も備えられている。そして、投影光学系PLの下部側面に、ウエハWの表面の複数の計測点にスリット像を投影する投射光学系23Aと、その表面からの反射光を受光してそれらのスリット像の再結像された像の横ずれ量から各計測点のデフォーカス量の情報を検出して、ステージ制御ユニット14に供給する受光光学系23Bとから構成される斜入射方式の多点のオートフォーカスセンサ(23A,23B)が配置されている。ステージ制御ユニット14は、それら複数の計測点におけるデフォーカス量からウエハWの表面の像面からの平均的なデフォーカス量、並びにX軸及びY軸の周りの傾斜角のずれ量を算出し、走査露光時にはこれらのデフォーカス量及び傾斜角のずれ量が所定の制御精度内に収まるように、オートフォーカス方式でウエハステージWST内のZレベリング機構を駆動する。
【0023】
更に、レーザ光源1がエキシマレーザ光源であるときは、主制御系20の制御のもとにあるレーザ制御ユニット25が設けられ、この制御ユニット25は、レーザ光源1のパルス発振のモード(ワンパルスモード、バーストモード、待機モード等)を制御するとともに、放射されるパルスレーザ光の平均光量を調整するためにレーザ光源1の放電用高電圧を制御する。また、光量制御ユニット27は、ビームスプリッタ3で分割された一部の照明光を受光する光電検出器26(インテグレータセンサ)からの信号に基づいて、適正な露光量が得られるように可変減光器4を制御するとともに、パルス照明光の強度(光量)情報をレーザ制御ユニット25及び主制御系20に送る。
【0024】
そして、図1において、レチクルRへの照明光ILの照射を開始して、レチクルRのパターンの一部の投影光学系PLを介した像をウエハW上の一つのショット領域に投影した状態で、レチクルステージRSTとウエハステージWSTとを投影光学系PLの投影倍率βを速度比としてY方向に同期して移動(同期走査)する走査露光動作によって、そのショット領域にレチクルRのパターン像が転写される。その後、照明光ILの照射を停止して、ウエハステージWSTを介してウエハWをX方向、Y方向にステップ移動する動作と、上記の走査露光動作とを繰り返すことによって、ステップ・アンド・スキャン方式でウエハW上の全部のショット領域にレチクルRのパターン像が転写される。
【0025】
この露光に際しては、予めレチクルRとウエハWとのアライメントを行っておく必要がある。そこで、図1の投影露光装置には、レチクルRを所定位置に設定するためのレチクルアライメント系(RA系)21と、ウエハW上のマークを検出するためのオフアクシス方式のアライメント系22とが設けられている。
次に、例えば半導体デバイスの製造工場内での本例の投影露光装置の設置状態の一例につき説明する。図2は、その投影露光装置の設置状態の一例を示し、この図2において、その製造工場の床FL上に例えばH型鋼よりなる複数(例えば4箇所以上)の支柱31を介して、投影露光装置を設置する際の基礎部材としての厚い平板状のペデスタル32が設置され、ペデスタル32上に投影露光装置を設置するための長方形の薄い平板状のベースプレート33が固定されている。
【0026】
ベースプレート33上に3箇所又は4箇所の支持部材34及び能動型の防振台35(防振装置)を介して第1コラム36が載置され、第1コラム36の中央の開口部に投影光学系PLが保持されている。防振台35は、後述のようにエアダンパ(気体ダンパ)と、ボイスコイルモータ等からなる電磁ダンパとを含み、第1コラム36に設置されている1組の加速度センサ40と1組の位置センサ(不図示)との検出情報に基づいてそのエアダンパ内の空気の圧力(内圧)及び電磁ダンパの推力を制御することで、第1コラム36(及びこれによって支持されている部材)の除振が能動的に行われている。この場合、そのエアダンパによって比較的低周波数域の除振が行われ、その電磁ダンパによって比較的高周波数域の除振が行われる。
【0027】
加速度センサ40としては、圧電素子(ピエゾ素子等)で発生する電圧を検出する圧電型の加速度センサや、例えば歪みの大きさに応じてCMOSコンバータの論理閾値電圧が変化することを利用する半導体式の加速度センサ等を使用できる。位置センサ(又は変位センサ)としては、例えば渦電流変位センサを使用できる。この渦電流変位センサは、例えば絶縁体に巻いたコイルに交流電流を加えておき、そのコイルを導電体からなる測定対象に近付けると、そのコイルによって作られた交流磁界によって導電体に渦電流が発生することを利用する。即ち、その渦電流による磁界は、そのコイルの電流による磁界と逆方向であり、これら2つの磁界が重なり合って、そのコイルに流れる電流の強さ及び位相が変化する。この変化は、測定対象がコイルに近いほど大きくなるので、そのコイルに流れる電流に応じた信号を検出することにより、測定対象の位置又は変位を非接触で検出することができる。この他の位置センサとして、静電容量がセンサの電極と測定対象との距離に反比例することを利用して、非接触で距離を検出する静電容量式非接触変位センサや、測定対象からの光ビームの位置をPSD(半導体式位置検出装置)を用いて検出するようにした光学式センサ等も使用できる。
【0028】
また、第1コラム36の上部にレチクルベース37が固定され、レチクルベース37を覆うように第2コラム38が固定され、第2コラム38の中央部に図1の照明光学系9が収納された照明系サブチャンバ39が固定されている。この場合、図1のレーザ光源1は一例として図2のペデスタル32の外側の床FL上に設置され、レーザ光源1から射出される照明光ILは、不図示のビーム送光系を介して照明光学系9に導かれる。そして、レチクルベース37上にレチクルRを保持するレチクルステージRSTが載置されている。図2において、第1コラム36、レチクルベース37、及び第2コラム38よりコラム構造体CLが構成されている。コラム構造体CLは、ペデスタル32の上面(設置面)上に複数の能動型の防振台35を介して支持された状態で、投影光学系PL、レチクルステージRST(第1ステージ)、及び照明光学系9を保持している。
【0029】
上述の1組の加速度センサ40は、例えばほぼXY平面内の同一直線上にない3箇所でZ方向の加速度を計測する3個のZ軸加速度センサと、Y方向に離れた2箇所でX方向の加速度を計測する2個のX軸加速度センサと、X方向に離れた2箇所でY方向の加速度を計測する2個のY軸加速度センサとから構成されている。その1組の加速度センサ40によって、コラム構造体CLのX方向、Y方向、Z方向の加速度と、X軸、Y軸、Z軸の周りの回転加速度[rad/s2 ]とが計測される。同様に、上記の1組の位置センサ(不図示)によって、コラム構造体CLのX方向、Y方向、Z方向の位置と、X軸、Y軸、Z軸の周りの回転角とが計測される。これらの計測値に基づいて、複数の防振台35内のエアダンパ及び電磁ダンパは、それぞれコラム構造体CLの振動が小さく維持されるように、かつコラム構造体CLの傾斜角及びZ方向の高さが一定に維持されるように作用する。
【0030】
また、ペデスタル32上のベースプレート33上の複数の支持部材34及び能動型の防振台35で囲まれた領域上に、3個又は4個の能動型の防振台41を介してウエハベースWBが支持されている。ウエハベースWB上にはウエハWを保持するウエハステージWSTが移動自在に載置されている。防振台41は、防振台35と同様にエアダンパ及び電磁ダンパを備えており、防振台41がペデスタル32の上面(設置面)にウエハステージWSTを支持している。防振台41は、ウエハベースWB上の加速度センサ及び位置センサ(不図示)の計測情報に基づいて能動的にウエハベースWB42及びウエハステージWSTの振動を抑制する。
【0031】
本例の防振台35及び41とこれらの制御系(後述)とがそれぞれ防振装置を構成している。防振台35及び41とこれらの制御系とを含むシステムは、それぞれ能動型振動分離システムであるAVIS(Active Vibration Isolation System) とも呼ぶことができる。なお、防振台35は、コラム構造体CLを介してレチクルステージRST及び投影光学系PLを支持しているとともに、走査露光時のレチクルステージRSTの走査速度はウエハステージWSTの走査速度に対して投影倍率βの逆数倍(例えば4倍)速くなっている。一方、防振台41はウエハベースWBを介してウエハステージWSTのみを支持しているため、コラム構造体CLの方がウエハベースWBよりも振動が発生し易くなっている。従って、防振台35の除振性能を防振台41の除振性能よりも高く設定することも可能である。この場合一例として、防振台41においては、エアダンパは例えばウエハベースWBのZ方向の位置がほぼ一定になるように圧力を制御するだけでもよい。
【0032】
上述のように、図2の能動型の防振台35及び41はほぼ同様に構成することができる。以下では、代表的に防振台35及びその制御系の構成、並びにその作用につき説明する。また、以下では、投影光学系PLの光軸AXに平行な方向であるZ方向の振動を抑制する機構について説明するが、これはX方向及びY方向の振動を抑制する機構、さらにはX軸、Y軸、Z軸の周りの回転方向の振動を抑制する機構にも同様に適用できる。
【0033】
図3は、図2中の1箇所の防振台35及びその制御系を示し、この図3において、ペデスタル32上のベースプレート33上に支持部材34が設置され、支持部材34上に、底板42、エアダンパ43、及び上板44を介して第1コラム36が載置されている。気体ダンパとしてのエアダンパ43は、可撓性を有する中空の袋内に気体としての空気を圧力が制御できる状態で封入したものである。即ち、エアダンパ43には、空気の流量を制御できるサーボバルブ47が装着された可撓性を有する配管46を介して、所定圧力以上で所定量以上の空気が蓄積されている空気源45が連結されている。空気源45としては、例えばエアコンプレッサと、このエアコンプレッサで加圧された空気が充填されているエアボンベとを組み合わせた装置などが使用できる。また、エアダンパ43の側面には、エアダンパ43の内圧の情報を計測するための圧力センサ28が設けられ、圧力センサ28の計測値(圧力に対応する信号)が防振台制御系48に供給されている。圧力センサ28としては、ダイヤフラムに歪みゲージを固定したセンサやシリコン基板の変形を利用するセンサ等が使用できる。
【0034】
また、支持部材34と第1コラム36との間に、エアダンパ43と並列に電磁ダンパとしてのボイスコイルモータ50が設置されている。ボイスコイルモータ50は、支持部材34の上面に固定されて永久磁石がZ方向に所定ピッチで配列された固定子50bと、第1コラム36の底面に固定されてコイルが装着された可動子50aとから構成されている。また、第1コラム36に加速度センサ40及び位置センサ49が固定され、図3の例では加速度センサ40によって第1コラム36のZ方向への加速度の情報が計測され、位置センサ49によって支持部材34(又は床面)を基準とした第1コラム36のZ方向の相対的な位置、又はZ方向への相対的な変位の情報が計測されている。一例として、加速度センサ40は圧電型の加速度センサであり、位置センサ49は渦電流変位センサである。なお、加速度情報を検出するセンサとして速度センサを用いてもよい。この場合は、速度センサが検出した速度情報を一回微分して加速度情報とすればよい。
【0035】
図3の加速度センサ40は、エアダンパ43及びボイスコイルモータ50が設置されている位置における第1コラム36の加速度を計測するための一つのセンサを表している。加速度センサ40及び位置センサ49の計測値(加速度及び位置に対応する信号)は防振台制御系48に供給されている。防振台制御系48は、位置センサ49(第1センサ)、圧力センサ28(第2センサ)、及び加速度センサ40(第3センサ)の計測値に基づいて、サーボバルブ47内を通過する空気の流量を制御することによって、第1コラム36のZ方向の位置が予め定められている目標位置になるようにエアダンパ43の内圧を制御する。位置センサ49、圧力センサ28、及び加速度センサ40のサンプリングレートは、エアダンパ43の内圧の応答周波数の上限(本例では数10Hz程度)の数倍以上に設定されている。
【0036】
これと並行に防振台制御系48は、加速度センサ40及び位置センサ49の計測値に基づいて、ボイスコイルモータ50の可動子50aのコイルに流れる電流を制御することによって、第1コラム36のZ方向の位置が予め定められている目標位置になるようにボイスコイルモータ50によるZ方向への推力を制御する。
次に、図3の防振台制御系48内でエアダンパ43の内圧を制御するための制御系につき説明する。図4は、図3の防振台35内のエアダンパ43の力学モデルであり、この図4において、設置面15は図3のペデスタル32の表面に対応しており、構造物16は図3の第1コラム36に対応している。より正確には、構造物16には、第1コラム36とともに図2のレチクルベース37、レチクルステージRST、第2コラム38、照明系サブチャンバ39、照明光学系9、及び投影光学系PL等も含まれている。そして、構造物16中でエアダンパ43によって支持される部分の質量をM、エアダンパ43の粘性比例係数をD、ばね定数をKとする。このとき、質量Mは構造物16の加速度に応じた抵抗力(慣性)の係数であり、粘性比例係数Dは構造物16の速度に応じた抵抗力の係数であり、ばね定数Kは構造物16の位置に応じた抵抗力の係数であるとみなすことができる。そして、設置面15のZ方向の位置をx0 として、構造物16のZ方向の位置をxとすると、本例では一例として設置面15に対する構造物16の相対位置(x−x0 )が所定の目標位置xp となるように、図3の防振台35が制御される。また、その相対位置(x−x0 )は、図3の位置センサ49によって構造物16(第1コラム36)の位置情報として計測されている。
【0037】
図5は、図3のエアダンパ43の内圧を制御するための防振台制御系48の構成例を示し、この図5において、防振台35は図4の力学モデルの等価回路としてブロック図で表され、エアダンパ43の内圧を決定する仮想的な流量/圧力変換部43aもその機能を表すようにブロック図で表されている(詳細後述)。また、変数sはラプラス変換の変数であり、周波数をf[Hz]とすると、定常状態ではs=i2πfである。なお、防振台制御系48は基本的にコンピュータのソフトウェア、デジタル回路、又はアナログ回路のいずれでも構成できる。
【0038】
図5において、防振台35中のエアダンパ43の内圧は、駆動部としての流量ゲインがGq のサーボバルブ47によって制御される流量に応じて、流量/圧力変換部43aによって設定される。サーボバルブ47への入力信号(w)は、基本的に可変増幅器52、加速度PI補償器54、及び圧力PI補償器56を含む制御部によって生成されている。また、その制御部に、位置センサ49の検出結果をフィードバックする位置フィードバック部71、加速度センサ40の検出結果をフィードバックする加速度フィードバック部72(第2フィードバック部)、圧力センサ28の検出結果をフィードバックする圧力フィードバック部73(第1フィードバック部)、及び位置センサ49で計測される情報を実質的に微分した情報を正帰還する共振特性補償部74(補償部)が設けられている。
【0039】
この場合、位置センサ49の入力側のブロックB12は、構造物16のZ方向の位置xから設置面のZ方向の位置x0 を減算して相対位置(x−x0 )(=Δxとする)を求める仮想的な演算を示している。位置センサ49が渦電流変位センサである場合には、その相対位置Δxの情報はアナログ信号の形で出力される。位置センサ49で計測された相対位置Δxに対応する信号は、減算器51にフィードバックされている。減算器51から位置フィードバック部71が構成されている。
【0040】
そして、不図示の目標位置設定部から減算器51に構造物16のZ方向の目標位置xp に対応する信号(通常は一定値)が入力され、減算器51はそれらの差分(xp −Δx)に対応する信号をゲインkx の可変増幅器52を介して信号a1として減算器53に供給する。信号a1は、構造物16の相対位置Δxを目標位置xp にするための、構造物16の加速度の目標値に対応している。
【0041】
また、加速度センサ40で計測される構造物16の加速度に対応する信号をDCカットフィルタ64に通して直流成分を除いた信号が、2次バタワースフィルタ65及びゲインkacc の可変増幅器66を介して信号a2として減算器53にフィードバックされている。2次バタワースフィルタ65は、2つの単同調増幅回路を縦続接続して得られる所定帯域で均一ゲインが得られるフィルタである。なお、2次バタワースフィルタ65の代わりに通常のローパスフィルタを用いるか、又は2次バタワースフィルタ65を省略することも可能である。DCカットフィルタ64、2次バタワースフィルタ65、可変増幅器66、及び減算器53から加速度フィードバック部72が構成されている。
【0042】
そして、減算器53は2つの信号の差分(a1−a2)を、構造物16の加速度の制御誤差に対応する信号a3として加速度PI補償器54に供給する。加速度PI補償器54は、入力された信号a3に所定ゲインを乗じて得られる第1信号と、その入力された信号a3を積分した信号に所定ゲインを乗じて得られる第2信号とを加重平均して得られる信号b1を加算器55に入力する。信号b1は、構造物16の加速度を目標値にするためのエアダンパ43の内圧の目標値に対応している。
【0043】
また、エアダンパ43の内圧(空気の圧力)pの情報が圧力センサ28で計測されており、その計測された内圧pに対応する信号が2次バタワースフィルタ68及びゲインkg の増幅器69を介して、信号b2として減算器55にフィードバックされている。2次バタワースフィルタ68、増幅器69、及び減算器55から圧力フィードバック部73が構成されている。減算器55は2つの信号の差分(b1−b2)を、エアダンパ43の内圧の制御誤差に対応する信号b3として圧力PI補償器56に供給する。圧力PI補償器56は、入力された信号b3にゲインkpiを乗じて得られる第1信号と、その入力された信号b3を積分した信号に所定ゲインを乗じて得られる第2信号とを加重平均して得られる信号w’を加算器57に入力する。信号w’は、エアダンパ43の内圧を目標値にするためのサーボバルブ47への入力信号である。
【0044】
さらに本例では、位置センサ49で計測された構造物16の相対位置Δxに対応する信号が、位置感度に対応するゲインkpos の増幅器60、擬似微分器61(第1演算部)、及び調整可能なゲインktun を持つ可変増幅器62(第2演算部)を介して信号w1として加算器57に正帰還されている。増幅器60、擬似微分器61、可変増幅器62、及び加算器57から共振特性補償部74が構成されている。この場合、擬似微分器61は、相対位置Δxの情報を相対速度の情報に変換するために用いられている。従って、擬似微分器61の代わりに微分器又は差分器(デジタル信号の場合)等を使用してもよい。共振特性補償部74の作用については後述する。
【0045】
加算器57は2つの信号の和(w’+w1)を、流量を制御するための信号wとして流量ゲインGq のサーボバルブ47に供給する。この結果、サーボバルブ47からエアダンパ43に供給される空気の流量はw・Gq に設定される。サーボバルブ47が電圧で制御されるものとすると、信号w’,w1,wは電圧として生成される。この結果、防振台35中のエアダンパ43の内圧pは目標値(加速度PI補償器54から出力される信号b1に対応する値)に制御される。これによって、構造物16の加速度が目標値(可変増幅器52から出力される信号a1に対応する値)に制御され、最終的に構造物16の相対位置Δxが目標位置xp に制御される。
【0046】
図5において、信号w’、b1、a1をそれぞれ第1、第2、第3制御情報とみなし、信号w1、b2、a2をそれぞれ第1、第2、第3駆動情報とみなすことができる。なお、図5の構成は、構造物16の相対位置Δxを目標位置に設定するために位置フィードバック部71、加速度フィードバック部72、及び圧力フィードバック部73を設けているが、例えばエアダンパ43の内圧を所定の目標値に制御するだけでよい場合には、位置フィードバック部71及び加速度フィードバック部72を省くことも可能である。
【0047】
次に、本例の共振特性補償部74の作用につき説明する。図5において、サーボバルブ47及び防振台35の機構によって、共振特性補償部74と並列に流量フィードバック部75が仮想的に形成されている。この流量フィードバック部75は、仮想的に構造物16の加速度を積分して得られる速度から、設置面の位置をブロックB13で微分して得られる速度を減算するブロックB14と、ブロックB14の出力にエアダンパ43の有効受圧面積A0 を乗じるブロックB15と、流量/圧力変換部43a内の仮想的な加減算部とから構成されている。即ち、ブロックB15の出力は、エアダンパ43の体積の増加速度に対応するため、サーボバルブ47の流量からそのエアダンパ43の体積の増加速度を差し引いて得られる流量に基づいて、エアダンパ43の圧力が決定される。後述のようにこの流量フィードバック部75が共振及び反共振の原因となるため、これを打ち消すために共振特性補償部74が必要となる。
【0048】
ここで、図6を参照して、図5のサーボバルブ47に入力される信号w’又はwからエアダンパ43の内圧pまでの伝達関数を求める。このため、先ず入力信号w’及びwの単位を電圧[V]、サーボバルブ47における流量ゲインGq の単位を[m3 /(sec・V)]、位置x及びx0 の単位を[m]とする。
図6は、図5中の共振特性補償部74及び圧力フィードバック部73を含む制御系の構成を示し、この図6の防振台35内の仮想的なブロック図において、ブロックB4は有効受圧面積A0[m2]のエアダンパ43、ブロックB5は構造物16に対してZ方向へ作用する力を決定する加減算部、ブロックB6は質量M[kg]の構造物16である。また、ブロックB7及びB8はそれぞれ積分によって構造物16の加速度を速度及び位置に変換する部分、ブロックB9は、粘性比例係数D[N・sec/m]によって速度に応じた抵抗力を発生する部分、ブロックB10は、ばね定数K[N/m]によって位置に応じた抵抗力を発生する部分、ブロックB11は、設置面の位置x0 が変位した場合にZ方向に(Ds+K)に比例する力を発生する部分を表している(図4の力学モデル参照)。
【0049】
また、流量/圧力変換部43a内の仮想的なブロック図において、ブロックB2は、空気の流量を圧力p[pa]に変換する変換部であり、ブロックB2内のβ0 は空気の圧縮率[1/Pa]、vはエアダンパ43の容量[m3 ]である。また、ブロックB3は流量コンダクタンスc[m3/(sec・Pa)]による流量のフィードバックを表し、ブロックB1は、サーボバルブ47で設定される流量からブロックB15及びB3を介して帰還される流量を差し引いた流量をブロックB2に供給する加減算部を表している。この場合、信号wから内圧pまでの伝達関数は、x0 =0とおいて次式となる。
【0050】

(1)式を変形するために、ΔKを次のように定義する。
【0051】

(2)式を用いると(1)式は次のようになる。
【0052】

(3)式より、周波数応答p/wは、「1次遅れ+反共振・共振」特性になることが分かる。
図7は、図6から共振特性補償部74を省いた制御系を示し、この図7において、エアダンパ43における周波数帯域を広くするためには、圧力PI補償器56におけるゲインkpiを大きくすればよい。
【0053】
図8は、図7の圧力PI補償器56におけるゲインkpiを2,4,6と次第に大きくした場合の図7の信号b1から圧力pまでの応答、すなわち、圧力フィードバックをかけたときの閉ループの応答周波数を示す。図8より、ゲインkpiが大きくなるほど帯域が広くなっていくが、反共振・共振も大きくなって、エアダンパ43の内圧pが不安定になることが分かる。
図9は、ゲインkpiが6の場合の図7のエアダンパ43の内圧pの信号wに対する時間応答波形を示し、図9より発振によって内圧pが不安定になることが分かる。このため、図7の構成では、周波数帯域を広くするためにゲインkpiを簡単に大きくすることができない。
【0054】
図6に戻り、反共振・共振特性が生じている原因は、上述のように流量フィードバック部75の部分である。確認のために、流量フィードバック部75のブロックB15のゲインA0 (有効受圧面積)を改めてA0'とおくと、(1)式は次のようになる。
【0055】

仮に、A0'=0とすることができれば、(4)式は次のようになって、反共振・共振特性を解消できる。
【0056】

そこで、A0'=0を実質的に実現するために、本例では図6の共振特性補償部74を導入した。このとき、圧力PI補償器56の出力信号w’からエアダンパ43の内圧pまでの伝達関数は次式となる。
【0057】

ここで、分母多項式に着目し、共振特性補償部74内の可変増幅器62のゲインktun を次のように、エアダンパ43の有効受圧面積A0 に比例し、サーボバルブ47の流量ゲインGq 及び位置センサ49の検出感度kpos に反比例するように選ぶ。
【0058】

このとき、(6)式は次のようになり、反共振・共振が解消できる。
【0059】

実際に図6の制御系を構成して実験した結果を図10に示す。図10は、図6の可変増幅器62のゲインktun を0から25まで次第に大きくした場合のエアダンパ43の周波数応答p/w’を示す。図10より、ゲインktun を0から大きくしていくと、共振周波数が低域にシフトして、反共振・共振の差が次第に解消されていることが分かる。これは(6)式の通りである。従って、共振特性補償部74の正帰還によって流量フィードバック部75の影響が相殺されて、(8)式の状態に漸近できることが確認された。このため、エアダンパ43の内圧が安定になり、除振性能を向上することができる。
【0060】
実際に図6の制御系において圧力PI補償器56のゲインkpiを所定の値に設定した場合の閉ループの周波数応答を計測した結果を図11に示す。図11において、曲線B1及びC1はそれぞれ図6の共振特性補償部74が無い場合(又は可変増幅器62のゲインktun を0にした状態)の周波数応答であり、曲線B2及びC2はそれぞれ図6の共振特性補償部74の可変増幅器62のゲインktun を(7)式の値に設定した場合の周波数応答である。図11から、共振特性補償部74を用いることによって反共振・共振のゲイン差が縮小されてゲインがフラットになっていることが分かる。これによって、圧力PI補償器56のゲインkpiを大きくしても、エアダンパ43の内圧の安定性が維持されるため、エアダンパ43における周波数帯域を広くして除振性能を向上することができる。従って、図1の投影露光装置の位置合わせ精度や重ね合わせ精度等の露光精度を向上できる。また、走査露光時のステージの走査速度を速くして、露光工程のスループットを高めることも可能となる。
【0061】
次に、図6の共振特性補償部74をコンピュータのソフトウェア上で実現した構成例につき図12を参照して説明する。図6に対応する部分に同一符号を付した図12において、位置センサ49の検出信号は検出感度kpos の乗算部60Aを介して信号w2として擬似微分に対応する差分演算を行う差分演算部61Aに供給される。そして、差分演算部61Aの出力信号はゲインktun の乗算部62Aを介して信号w1として加算部57Aに供給される。加算部57Aには圧力PI制御器56の出力信号w’も供給されており、加算部57Aは2つの信号の和w(=w’+w1)をサーボバルブ47に供給する。本例の乗算部60A,62A、差分演算部61A、及び加算部57Aはコンピュータのソフトウェア上の機能で実現されており、乗算部60Aの入力部及び加算部57Aの出力部ではそれぞれアナログ/デジタル変換及びデジタル/アナログ変換が行われている。この他の構成は図6と同様である。この場合のサーボバルブ47の流量はほぼ次のようになる。
【0062】
流量=w・Gq =(w’+w1)Gq =w’・Gq+ktun・dw2/dt・Gq …(10)
また、図6の共振特性補償部74をサーボバルブの微分特性を用いて実現した構成例につき図13を参照して説明する。図6に対応する部分に同一符号を付した図13において、位置センサ49の検出信号は検出感度kpos の増幅器60Bを介して信号w2として加算器57Bに供給され、加算器57Bは、圧力PI制御器56の出力信号w’とその信号w2との和信号をそれぞれ流量ゲインがGp 及びGd のサーボバルブ47A及び47Bに供給する。また、一方のサーボバルブ47Aからの空気は流量加算部47Dに供給され、他方のサーボバルブ47からの空気は微分特性を持つバルブ47Cを介して流量加算部47Dに供給され、流量加算部47Dで設定された流量が、流量/圧力変換部43aを介してエアダンパ43の内圧pに変換されている。サーボバルブ47A〜流量加算部47Dまでの部材が流量制御部(駆動部)に対応している。この他の構成は図6と同様である。
【0063】
なお、本発明は、例えば国際公開(WO)第99/49504号などに開示される液浸型露光装置で能動的に防振を行う場合にも適用することができる。また、本発明は、波長数nm〜100nm程度の極端紫外光(EUV光)を露光ビームとして用いる投影露光装置、及び投影光学系を使用しないプロキシミティ方式やコンタクト方式の露光装置等で防振を行う際にも適用できる。
【0064】
さらに本発明は、露光装置以外の機器、例えば欠陥検査装置、感光材料のコータ・デベロッパ等の防振を行う場合にも適用することができる。このように本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の防振装置によれば、気体ダンパを用いて能動型の防振を行う際の除振性能が向上する。従って、本発明を例えば露光装置の防振装置に適用した場合には、設置面に対する露光装置の除振性能を向上させることができるため、重ね合わせ精度等の露光精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態の投影露光装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の投影露光装置を床上に設置した状態を示す一部を切り欠いた図である。
【図3】図2中の一つの防振台35及びその制御系を示す図である。
【図4】図3の防振台35の力学モデルを示す図である。
【図5】本発明の実施形態の防振台制御系48の構成例を示すブロック図である。
【図6】図5中の共振特性補償部74及び圧力フィードバック部73を含む制御系を示す図である。
【図7】図6から共振特性補償部74を除いた制御系を示す図である。
【図8】図7の制御系による圧力フィードバック部73を動作させた場合の圧力の周波数応答を示す図である。
【図9】図7の制御系によるエアダンパ43の時間応答の一例を示す図である。
【図10】図6の制御系においてゲインktun を変えた場合のエアダンパ43の周波数応答(p/w)の一例を示す図である。
【図11】図6の制御系において圧力フィードバック部73を動作させた場合の圧力の周波数応答を示す図である。
【図12】図6の制御系をコンピュータのソフトウェア上で実現した場合の構成例を示す図である。
【図13】図6の制御系をサーボバルブの微分特性を用いて実現した場合の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
9…照明光学系、R…レチクル、PL…投影光学系、W…ウエハ、RST…レチクルステージ、WST…ウエハステージ、28…圧力センサ、32…ペデスタル、35…防振台、36…第1コラム、CL…コラム構造体、40…加速度センサ、43…エアダンパ(気体ダンパ)、47…サーボバルブ(駆動部)、48…防振台制御系、49…位置センサ、50…ボイスコイルモータ(電磁ダンパ)、51…減算器、52,62,66…可変増幅器、56…圧力PI補償器、61…擬似微分器、69…増幅器、71…位置フィードバック部、72…加速度フィードバック部、73…圧力フィードバック部、74…共振特性補償部、75…流量フィードバック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気体が供給されて設置面上に構造物を支持する気体ダンパと、第1制御情報に基づいて前記気体ダンパ内の気体の圧力を制御する駆動部とを有する防振装置において、
前記構造物の位置情報を計測する第1センサと、
前記第1センサで計測される位置情報に基づいて前記気体ダンパ及び前記駆動部の共振特性を補償する第1駆動情報を生成し、この第1駆動情報を前記駆動部に供給する補償部とを備えたことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記補償部は、
前記第1センサから出力される位置情報を微分する第1演算部と、
前記第1演算部の出力情報に第1ゲインを乗じて得られる前記第1駆動情報を前記駆動部に正帰還する第2演算部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記第2演算部における前記第1ゲインは、前記気体ダンパの有効受圧面積及び前記駆動部におけるゲインに基づいて定められることを特徴とする請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記補償部は、
前記第1センサから出力される位置情報に前記第1制御情報を加算する加算部と、
前記加算部の出力情報に応じた前記気体の流量と、前記加算部の出力情報に応じた前記気体の流量を微分して得られる流量とを加算して前記気体ダンパに供給する前記駆動部としての流量制御部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項5】
前記気体ダンパ内の気体の圧力情報を計測する第2センサと、
前記第2センサで計測される圧力情報に第2ゲインを乗じて得られる第2駆動情報を生成する第1フィードバック部と、
第2制御情報から前記第2駆動情報を減算して得られる差分情報に第3ゲインを乗じて前記第1制御情報を生成する第1制御部とをさらに備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記構造物の加速度情報を計測する第3センサと、
前記第3センサで計測される加速度情報に第4ゲインを乗じて得られる第3駆動情報を生成する第2フィードバック部と、
第3制御情報から前記第3駆動情報を減算して得られる差分情報に第5ゲインを乗じて前記第2制御情報を生成する第2制御部とをさらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記第3制御情報は、前記構造物の目標位置情報と前記第1センサで計測される位置情報との差分情報に基づいて生成されることを特徴とする請求項6に記載の防振装置。
【請求項8】
前記設置面と前記構造物との間に前記気体ダンパと並列に、前記構造物の変位に応じて電磁力で付勢力を与える電磁ダンパを配置したことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−250291(P2006−250291A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69716(P2005−69716)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】