説明

防振部品

【課題】粘性流体を利用した従来品に比べ格段に容易に製造することができ、内部から粘性流体が漏れ出すといったトラブルを招くことも無い防振部品を提供すること。
【解決手段】防振部品1は、第一固定部3A,第二固定部3B,ばね部5,エラストマー部7を備え、第一固定部3A及び第二固定部3Bには、貫通孔13が形成されている。エラストマー部7は、制振性のあるスチレン系エラストマーによって形成されるので、製造時に粘性流体の封入作業を行う必要も無く、使用時に粘性流体が漏れ出す心配も無い。また、エラストマー部7には空洞21が形成されている。この空洞21は、エラストマー部7を成形する際に、貫通孔13から芯材を挿入しておくことによって形成でき、その際、挿入量を変更することで、空洞21の大きさを調節し、振動減衰特性を変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二部材間に介装されることにより、いずれか一方の部材から他方の部材へ振動が伝わるのを抑制する防振部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばモーターのような振動源となるデバイスを内蔵する家電製品(例えば、DVDプレーヤーやHDDレコーダなど)、あるいは、車載機器のように外部からの振動が伝わる機器においては、自己振動の抑制、あるいは外部からの振動抑制のために、二部材間に防振部品を介装して、その防振部品で振動を吸収することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−275182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の防振部品は、エラストマー材料で形成された外皮の内部にシリコーンオイルのような粘性流体を封入した構造になっていたため、その封入作業の際に、超音波溶着での封止を行う工程が必要となるなど、生産性の面で多大な手間がかかり、その分だけコスト高になりやすいという問題があった。
【0005】
また、エラストマー材料で形成された外皮を比較的薄肉に形成してあり、一部にはきわめて薄肉になっている部分もあるため、製品製造時の作業中あるいは製品出荷後の段階において、防振部品の外皮に何らかの物が当たって外皮を傷つけるようなことがあると、そこから粘性流体が漏れ出してしまい、製品の汚損や故障を招く原因になることがあった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、粘性流体を利用した従来品に比べ格段に容易に製造することができ、しかも、内部から粘性流体が漏れ出すといったトラブルを招くことも無い防振部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明の防振部品は、請求項1に記載の通り、第一の部材と第二の部材との間に介装されることにより、前記第一の部材と前記第二の部材との間でいずれか一方の部材から他方の部材へ振動が伝わるのを抑制する防振部品であって、第一の部材を取り付け対象として、当該取り付け対象に対して固定される第一固定部と、第二の部材を取り付け対象として、当該取り付け対象に対して固定される第二固定部と、軸方向の一端に前記第一固定部が取り付けられるとともに、前記軸方向の他端に前記第二固定部が取り付けられており、前記第一の部材及び前記第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動するのに伴って前記第一固定部と前記第二固定部が相対的に変位すると弾性変形し、当該弾性変形に伴って生じる復元力にて、前記第一固定部と前記第二固定部を元の位置関係に復帰させる方向へと付勢するばね部と、制振性を有するエラストマー材料で形成され、少なくとも一部が前記第一固定部と前記第二固定部との間に介在する状態になっており、前記第一の部材及び前記第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動するのに伴って前記第一固定部と前記第二固定部が相対的に変位すると弾性変形し、当該弾性変形する部分の粘弾性によって前記振動を減衰させるエラストマー部とを備え、前記第一固定部及び前記第二固定部のうち、少なくとも一方の固定部には、当該一方の固定部を前記軸方向に貫通して前記エラストマー部に到達する貫通孔が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このように構成された防振部品によれば、第一固定部を第一の部材に対して固定するとともに、第二固定部を第二の部材に対して固定することにより、防振部品を第一の部材と第二の部材との間に介装することができる。
【0009】
この状態においては、第一の部材及び第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動して、その一方の部材に固定された固定部(=第一固定部又は第二固定部)が振動したとしても、その振動がばね部及びエラストマー部に伝わると、ばね部及びエラストマー部が弾性変形して、その振動を緩和ないし吸収する。
【0010】
特に、エラストマー部においては、エラストマー部が変形するのに伴い、その変形した部分の粘弾性によって振動を減衰させる。また、ばね部は、弾性変形した際にエラストマー部よりも高い弾性によって元の形状に復帰しようとするので、このようなばね部に追従してエラストマー部も元の形状に復帰することになり、このとき、元の形状に復帰する部分の粘弾性によって振動を減衰させる。つまり、ばね部とエラストマー部の双方が存在するため、ばね部及びエラストマー部が協働して振動を効果的に減衰させることができる。
【0011】
また、エラストマー部が単独で設けられている場合は、エラストマー部自体にある程度の硬さが無いと第一固定部と第二固定部との間隙を適正に維持することが困難となるが、ばね部が設けてあれば、ばね部の弾性によって第一固定部と第二固定部との間隙を適正に維持することができる。したがって、エラストマー部については、比較的柔らかいエラストマー材料を選定しても問題が無く、振動減衰特性に優れたエラストマー材料を任意に採用でき、これにより、防振部品の振動減衰特性を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明においては、第一固定部及び第二固定部のうち、少なくとも一方の固定部に貫通孔が形成されている構造を採用している。この貫通孔は、前記少なくとも一方の固定部を軸方向に貫通してエラストマー部に到達している。
【0013】
このような貫通孔が形成されていれば、エラストマー部を成形するに当たっては、貫通孔に芯材を通して、その芯材をエラストマー部の内部となる領域に到達させておき、その状態でエラストマー部を射出成形(アウトサート成形と呼ばれる成形法)等によって成形した後、貫通孔から芯材を抜くことにより、エラストマー部の内部に空洞を形成することができる。
【0014】
すなわち、請求項2に記載の如く、エラストマー部に、少なくとも一方の固定部に形成された貫通孔に連通する空洞が形成されている構成とすることができる。このような空洞がエラストマー部に形成されていれば、エラストマー部をより柔軟に変形させることができるようになり、振動減衰特性を改善することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の如く、エラストマー部に形成された空洞が、エラストマー部を軸方向に貫通している構造とすることもできる。このような空洞がエラストマー部を貫通していれば、貫通していない空洞が形成されている場合以上に、エラストマー部をより柔軟に変形させることができるようになり、さらに振動減衰特性を改善することができる。
【0016】
また、このような空洞を形成する際、エラストマー部の内部となる領域へ芯材を挿入するに当たっては、その挿入長を変えることで空洞の軸方向長さないし容積を変えることができ、あるいは、芯材の径を変えることで空洞の内径ないし容積を変えることができる。あるいは、あえて芯材を前記少なくとも一方の固定部の貫通孔内のみにとどめることで、エラストマー部には空洞を形成しないようにすることもできる。また、芯材を前記少なくとも一方の固定部の貫通孔の中途位置まで挿し込むことで、エラストマー部の一部が貫通孔内に入り込んでいる構造を形成することもできる。
【0017】
このように空洞の内寸を任意に変えることができるので、エラストマー部が同じ材料で形成されている場合であっても、上記のような手法にて、空洞の有無あるいは空洞の内寸を変えることにより、エラストマー部の振動減衰特性を調節することができる。
【0018】
すなわち、上記のような貫通孔を設けたことにより、第一固定部、第二固定部及びばね部といった構成部品やエラストマー部を形成する材料については何ら変更すること無く、エラストマー部が持つ制振性をコントロールすることができる。
【0019】
なお、以上説明したような防振部品において、第一固定部及び第二固定部は、防振部品を第一の部材及び第二の部材に対して固定するために設けられたものであり、所期の固定を行うことが可能な構造になっていれば、具体的な構造については任意である。
【0020】
具体例を挙げれば、請求項4に記載の如く、前記少なくとも一方の固定部は、前記貫通孔の一端にある開口の周囲から軸方向に突設された一対の逆止突起を有し、前記一対の逆止突起は、前記取り付け対象が有する板状部分を一方の面から他方の面へと貫通する取り付け孔に対して前記一方の面から挿し込まれ、その際、弾性変形した状態で前記取り付け孔内を通過するとともに、前記取り付け孔内を通過した後に弾性変形していた部分が拡開して前記他方の面に係合することにより、前記取り付け孔から引き抜き不能となって前記取り付け対象に対して固定される、といった構造にすることが考えられる。
【0021】
このような構造の固定部によれば、取り付け対象が有する板状部分に取り付け孔を設けておけば、その取り付け孔に固定部を挿し込むだけで対象箇所に前記少なくとも一方の固定部を固定することができるので、相手側との取り付けがねじ留め等となるものに比べ、取り付け作業の効率が良いものとなる。
【0022】
この他には、例えば、いくらか取り付け作業の効率が落ちるとしても、ねじ留めが必要となる箇所であれば、第一の部材側及び第二の部材側こ設けられたねじ孔に螺合させることが可能な固定構造を採用しても良い。また、第一の部材側及び第二の部材側こ設けられた取り付け孔に嵌合して取り付け孔の内側に圧接させることが可能な固定構造などを採用していても良い。
【0023】
また、第一固定部及び第二固定部は、双方が同一構造になっていても良いし、第一固定部と第二固定部とで異なる構造が採用されていても良い。ただし、第一固定部及び第二固定部が同一構造になっていれば、防振部品の製造段階においては、両固定部となる部品を共用できるので、製造コストの面で有利である。また、防振部品の使用時には、いずれが第一固定部でいずれが第二固定部なのかを特に意識すること無く防振部品の取り付け作業を行うことができるので、この点でも有利である。
【0024】
また、第一固定部及び第二固定部は、これらの固定部そのものが制振性を有する材料で形成されていなくても良いので、この種の固定構造を構成可能な一般的な材料を任意に利用できる。具体例を挙げれば、比較的硬質な樹脂材料を任意に利用でき、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)などを利用すると良い。
【0025】
エラストマー部は、振動エネルギーを熱に変えて吸収することができる各種エラストマー材料によって形成することができ、例えば、損失係数が0.3以上程度、硬さがJIS Aで10〜40程度のもので、制振性を有するものを任意に利用できる。
【0026】
具体例としては、例えば、スチレン系、エステル系、アミド系、ウレタン系などの各種熱可塑性エラストマー、並びに、それらの水添、その他による変性物などを挙げることができる。これらは、単独で用いても良いし、相性の良いもの同士であれば、2種以上をブレンドして用いても良い。
【0027】
このようなエラストマー材料を利用すれば、粘性流体を封入した構造の従来品とは異なり、製造時に粘性流体の封入作業を行う必要も無く、使用時に粘性流体が漏れ出す心配も無い。
【0028】
ばね部は、防振部品を上下前後左右に振動させる振動が伝わった場合に、圧縮変形、曲げ変形、捻り変形等、様々な変形が生じ、それに伴って生じる弾性力で元の形状に復帰しようとするものであれば良く、このようなばね部は、例えば、コイルスプリングで構成することができる。
【0029】
また、本発明の防振部品において、前記エラストマー部は、請求項5に記載の通り、前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際に、当該取り付け対象に対して密着する密着面を有するものであると好ましい。
【0030】
このような密着面を備えていれば、エラストマー部を取り付け対象に対して密着させることができるので、エラストマー部と取り付け対象との間に介在物が存在する場合とは異なり、取り付け対象と介在物との間でがたつきが生じる、といった問題をも防止できる。
【0031】
また、上記のような密着面を設ける場合は、請求項6に記載の如く、前記密着面に開口が形成された有底穴を有し、前記密着面が前記取り付け対象に対して密着した際には前記取り付け対象によって前記開口が塞がれることによって前記有底穴が密閉される構造を採用しても良い。
【0032】
このような有底穴を設けておけば、この有底穴に空気が入った状態で密閉されることにより、この有底穴が空気ばねとして作用するので、エラストマー部の振動減衰特性を向上させることができる。
【0033】
また、上記のような密着面を設ける場合は、請求項7に記載の如く、前記少なくとも一方の固定部は、前記軸方向が厚さ方向となるフランジ部を有し、当該フランジ部が前記軸方向両側から前記エラストマー部によって保持されることにより、前記少なくとも一方の固定部が前記エラストマー部に対して固定されており、前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際には、当該取り付け対象と前記フランジ部との間に前記エラストマー部の一部が挟み込まれることにより、前記エラストマー部が前記取り付け対象に対して前記密着面で密着する構造を採用しても良い。
【0034】
このような構造を採用すれば、取り付け対象とフランジ部との間にエラストマー部の一部を挟み込むことにより、エラストマー部の密着面を、取り付け対象に対しより強い接触圧で密着させることができる。
【0035】
さらに、上記のような有底穴及びフランジ部の双方を採用する場合には、請求項8に記載の如き構成を採用しても良い。すなわち、前記密着面に開口が形成された有底穴を有し、前記密着面が前記取り付け対象に対して密着した際には前記取り付け対象によって前記開口が塞がれることによって前記有底穴が密閉され、しかも、前記少なくとも一方の固定部は、前記軸方向が厚さ方向となるフランジ部を有し、当該フランジ部が前記軸方向両側から前記エラストマー部によって保持されることにより、前記少なくとも一方の固定部が前記エラストマー部に対して固定されており、前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際には、当該取り付け対象と前記フランジ部との間に前記エラストマー部の一部が挟み込まれることにより、前記エラストマー部が前記取り付け対象に対して前記密着面で密着し、さらに、前記フランジ部には、前記軸方向に貫通する通路が形成されていて、前記有底穴は、前記密着面に形成された開口から、前記フランジ部に形成された通路を経て、前記フランジ部を挟んで前記密着面とは反対側となる位置まで延在している構造としても良い。
【0036】
このような構成を採用すれば、空気ばねとして機能する有底穴のみが形成されているものとは異なり、有底穴の周囲にあるエラストマー材料の一部が、フランジ部を軸方向に貫通する通路によって拘束されることにより、有底穴の一部において有底穴の膨張変形が抑制されるので、これにより、有底穴のばね特性を調節することができる。
【0037】
また、上記のようなフランジ部を設ける場合は、請求項9に記載の如く構成しても良く、すなわち、前記フランジ部には、軸方向に貫通する連通孔が形成されており、前記エラストマー部は、前記フランジ部の軸方向両側にある部分が前記フランジ部の外周及び前記連通孔の双方を介して連続する一体成形物とされていると良い。
【0038】
このような構造にすれば、エラストマー部は、フランジ部の軸方向両側にある部分がフランジ部の外周及び連通孔の双方を介して連続するので、フランジ部がエラストマー部から外れたり、フランジ部の位置がエラストマー部に対して相対的にずれたりするのを抑制ないし防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態の防振部品を示す図であり、(a)は外観の斜視図、(b)は内部構造を示す斜視図、(c)は一部を縦断面で表した斜視図。
【図2】第1実施形態の防振部品を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はそのA−A線断面図、(e)は内部構造を示す正面図。
【図3】第1実施形態の第一固定部を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はその底面図である。
【図4】第1実施形態の防振部品の使用状態を示す縦断面図。
【図5】(a)〜(c)は、それぞれ空洞の大きさを変更した事例を示す縦断面図。
【図6】第2実施形態の防振部品を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はそのB−B線断面図。
【図7】第3実施形態の防振部品を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はそのC−C線断面図。
【図8】第4実施形態の防振部品を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその右側面図、(d)はそのD−D線断面図。
【図9】第5実施形態の防振部品を示す図であり、(a)は圧縮荷重を受ける前の状態を示す縦断面図、(b)は圧縮荷重を受けた後の状態を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の実施形態について、いくつかの具体的な例を挙げて説明する。
[第1実施形態]
防振部品1は、二部材間に介装されることにより、それら二部材間でいずれか一方の部材から他方の部材へ振動が伝わるのを抑制する部品で、図1(a)〜同図(c)及び図2(a)〜同図(e)に示す通り、第一固定部3A,第二固定部3B,ばね部5,エラストマー部7を備えている。
【0041】
これらのうち、第一固定部3A及び第二固定部3Bは、硬質なプラスチック(例えば、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)など)で形成されている。
【0042】
第一固定部3Aは、図3(a)〜同図(d)に示すように、上端側に筒部11を有し、この筒部11には、図2(d)及び同図(e)などに表れるように、ばね部5が外嵌させてある。また、第一固定部3Aを上端側から下端側へと貫通する貫通孔13が形成されており、この貫通孔13の一部が上記筒部11の内腔となっている。
【0043】
また、第一固定部3Aの下端側には、貫通孔13の下端にある開口の周囲から軸方向下方に向かって、一対の逆止突起15が形成されている。この逆止突起15は、支柱15Aと、この支柱15Aの先端に設けられた弾性逆止片15Bを備える部材で、図4に示すように、取り付け対象となる機器が有する板状部分P1を一方の面S1から他方の面S2へと貫通する取り付け孔H1に対し、一方の面S1から挿し込まれるものである。
【0044】
この逆止突起15を取り付け孔H1に挿し込むと、逆止突起15は、先端にある弾性逆止片15Bが支柱15A側へ接近する方向へ弾性変形した状態で取り付け孔H1内を通過するとともに、取り付け孔H1内を通過した後に弾性逆止片15Bが拡開して他方の面S2に係合する。その結果、逆止突起15は、取り付け孔H1から引き抜き不能となる。
【0045】
また、第一固定部3Aにおいて、逆止突起15よりも上方且つ筒部11よりも下方となる位置には、フランジ部17が形成されている。このフランジ部17は、図1(c)及び図2(d)などに表れるように、エラストマー部7の内部に埋もれた状態となる部分であり、これにより、第一固定部3Aがエラストマー部7から容易には外れない構造になっている。
【0046】
また、このフランジ部17には、フランジ部17を上面側から下面側へと貫通して、その上面側の領域と下面側の領域とを連通させる6つの連通孔19A〜19Fが形成され、エラストマー部7は、フランジ部17を上面側にある部分と下面側にある部分が、連通孔19A〜19Fとフランジ部17の外周の双方を介して連続する一体成形物となっている。
【0047】
これにより、連通孔19A〜19F内に存在するエラストマー部7の一部は、フランジ部17がエラストマー部7から外れるのを阻止するように機能し、また、フランジ部17がエラストマー部7に対して相対的に回転するのも阻止するように機能する。
【0048】
なお、第二固定部3Bは、図2(a)〜同図(e)などに表れるように、第一固定部3Aとは上下が逆転した形状になっているものの、上下を入れ替えれば、第一固定部3Aとまったく同一形状の成形品となっており、第二固定部3Bが備える各部の機能も第一固定部3Aとまったく同等になっている。したがって、図面上においては、第一固定部3Aと第二固定部3Bとで等価な部分に同一の符号を付すことにし、その詳細な説明については省略する。
【0049】
ばね部5は、コイルスプリングによって構成されている。このばね部5の軸方向両端には、すでに説明した通り、第一固定部3A及び第二固定部3Bがそれぞれ取り付けられている。また、このばね部5は、全体がエラストマー部7の内部に埋もれた状態となっている。
【0050】
エラストマー部7は、制振性のあるスチレン系エラストマーによって形成されており、そのようなスチレン系エラストマーとしては、その損失係数が0.3以上、硬さがJIS Aで10〜40程度のものが利用されている。
【0051】
また、すでに説明した通り、第一固定部3A、第二固定部3B及びばね部5は、一部又は全部がエラストマー部7の内部に埋もれた状態になっているが、このような構造とするため、エラストマー部7は、第一固定部3A、第二固定部3B及びばね部5を金型内に配置して、その金型内にエラストマー部7となる熱可塑性樹脂組成物を射出することによって形成されている。
【0052】
また、エラストマー部7の内部には、第一固定部3A及び第二固定部3Bが有する貫通孔13に連通する空洞21が形成され、この空洞21が形成された部分の外周側には、くびれ部23が形成されている。
【0053】
このような空洞21及びくびれ部23が形成されることにより、エラストマー部7の軸方向中央部付近は、きわめて変形しやすい剛性の低い構造になっており、これにより、防振部品1に振動が伝わった際には、この剛性の低い中央部付近においてばね部5及びエラストマー部7が伸縮したり、湾曲したり、捻れたりすることで、振動を減衰させることができる。
【0054】
また、エラストマー部7の軸方向両端にある面は、一部の領域が他の領域よりも僅かに軸方向へ突出しており、この突出した領域が取り付け対象に対して密着する密着面25となっている。この密着面25をなすエラストマー部7の一部は、第一固定部3A及び第二固定部3Bを取り付け対象に固定した際に、取り付け対象とフランジ部17との間に挟み込まれて圧縮され、これにより、取り付け対象へ強い接触圧で密着させ、取り付け対象と各固定部との間にがたつきが発生するのを抑制ないし防止している。
【0055】
また、エラストマー部7には、上述の密着面25に開口する有底穴27が形成されている。この有底穴27は、エラストマー部7をより低剛性で変形しやすい構造とする役割を果たすとともに、密着面25を取り付け対象に密着させた際に、空気が入った状態で密閉されることにより、有底穴27が空気ばねとしても機能するようになっている。
【0056】
しかも、この有底穴27は、フランジ部17に形成された連通孔19B,19Eを通路として、フランジ部17を上下に貫通する位置に延在している。したがって、フランジ部17が存在するにもかかわらず、フランジ部17の片側に形成される有底穴よりも十分に容積を確保することができ、エラストマー部7の剛性を低下させたり、空気ばねとしての機能を向上させたりすることができる。また、このような通路(連通孔19B,19E)に有底穴27が通されることにより、その部分では有底穴27が拘束されて径方向に膨張しなくなるので、これにより、空気ばねとしての特性が改善されている。
【0057】
以上のように構成された防振部品1によれば、図4に示すように、第一固定部3Aを第一の部材が有する板状部分P1に対して固定するとともに、第二固定部3Bを第二の部材が有する板状部分P2に対して固定することにより、防振部品1を第一の部材が有する板状部分P1と第二の部材が有する板状部分P2との間に介装することができる。
【0058】
この状態においては、第一の部材及び第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動して、その一方の部材に固定された固定部(=第一固定部3A又は第二固定部3B)が振動したとしても、その振動がばね部5及びエラストマー部7に伝わると、ばね部5及びエラストマー部7が弾性変形して、その振動を緩和ないし吸収する。
【0059】
特に、エラストマー部7においては、エラストマー部7が変形するのに伴い、その変形した部分の粘弾性によって振動を減衰させる。また、ばね部5は、弾性変形した際にエラストマー部7よりも高い弾性によって元の形状に復帰しようとするので、このようなばね部5に追従してエラストマー部7も元の形状に復帰することになり、このとき、元の形状に復帰する部分の粘弾性によって振動を減衰させる。つまり、ばね部5とエラストマー部7の双方が存在するため、ばね部5及びエラストマー部7が協働して振動を効果的に減衰させることができる。
【0060】
また、ばね部5の弾性によって第一固定部3Aと第二固定部3Bとの間隙を適正に維持することができる。したがって、エラストマー部7については、比較的柔らかいエラストマー材料を選定しても問題が無く、振動減衰特性に優れたエラストマー材料を任意に採用でき、これにより、防振部品1の振動減衰特性を向上させることができる。また、このようなエラストマー部7であれば、粘性流体を封入した構造の従来品とは異なり、製造時に粘性流体の封入作業を行う必要も無く、使用時に粘性流体が漏れ出す心配も無い。
【0061】
さらに、第一固定部3A及び第二固定部3Bには、エラストマー部7に達する貫通孔13が形成されている。したがって、このような貫通孔13が形成されていれば、エラストマー部7を成形する際に、貫通孔13に芯材(例えば、金型内において進退可能なスライダー)を通して、その芯材をエラストマー部7の内部となる領域に到達させておき、その状態でエラストマー部7を射出成形等によって成形した後、(例えば、前記スライダーを用いた場合には離型する前に)貫通孔13から芯材を抜くことにより、エラストマー部7の内部に空洞21を形成することができる。このような空洞21がエラストマー部7に形成されていれば、エラストマー部7をより柔軟に変形させることができるようになり、振動減衰特性を改善することができる。
【0062】
また、図1〜図4においては、エラストマー部7を貫通する空洞21を示したが、この空洞21は、図5(a)〜同図(c)に示すように、貫通していない空洞21A〜21Cであっても良い。特に、貫通していない空洞21A〜21Cであれば、その軸方向長さを図5(a)〜同図(c)に示すように変更することにより、エラストマー部7の剛性に変化が生じるので、これにより、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0063】
なお、このような空洞21をエラストマー部7に設けない構成とすることもでき、あるいは、エラストマー部7の一部が貫通孔13に入り込んでいるような構造とすることもできる。このような構造の変更をしても、エラストマー部7の剛性に変化が生じるので、これにより、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0064】
つまり、第一固定部3A、第二固定部3B及びばね部5を構成する部品や、エラストマー部7を成形するのに必要な金型とは同じであっても、貫通孔13に挿入される芯材の挿入量を調節するだけで、エラストマー部7の剛性を多段階ないし無段階に変化させて、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0065】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態以降の実施形態は、第1実施形態との相違点を中心に詳述し、共通部分に関しては、第1実施形態と同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0066】
第2実施形態として例示する防振部品31は、図6(a)〜同図(d)に示すように、ばね部35が第1実施形態よりも径の大きいコイルスプリングとなっている点、及び、そのばね部35の一部がエラストマー部7のくびれ部23の外周に露出している点で第1実施形態とは相違する。その他の点は、第1実施形態とほぼ同様である。
【0067】
このような構造の防振部品31であれば、ばね部35の特性を第1実施形態とは変えることができるので、第1実施形態と比較すると、防振部品31全体としての制振性にも違いが生じる。したがって、用途によっては、この第2実施形態のような構造を採用しても良く、この場合でも、貫通孔13を利用してエラストマー部7の剛性を多段階ないし無段階に変化させて、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0068】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。
第3実施形態として例示する防振部品41は、図7(a)〜同図(d)に示すように、ばね部45が第1実施形態よりも径の小さいコイルスプリングとなっている点、及び、そのばね部45がエラストマー部7の空洞21内に収納されている点で第1実施形態とは相違する。その他の点は、第1実施形態とほぼ同様である。
【0069】
このような構造の防振部品41であれば、ばね部45の特性を第1実施形態とは変えることができるので、第1実施形態と比較すると、防振部品41全体としての制振性にも違いが生じる。したがって、用途によっては、この第3実施形態のような構造を採用しても良く、この場合でも、貫通孔13を利用してエラストマー部7の剛性を多段階ないし無段階に変化させて、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0070】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。
第4実施形態として例示する防振部品51は、図8(a)〜同図(d)に示すように、第一固定部53A及び第二固定部53Bの備える逆止突起65の具体的形態が、第1実施形態とは相違する。その他の点は、第1実施形態とほぼ同様である。
【0071】
すなわち、第1実施形態では、弾性逆止片15Bが弾性変形する構造となっていたが、第4実施形態では、一対の逆止突起65が相互間の間隔を狭めることで、取り付け孔に挿入できる形態となり、挿入を完了したところで一対の逆止突起65間の間隔が拡大して、逆止突起65が取り付け孔から抜けなくなる構造になっている。
【0072】
このような構造の防振部品51であっても、防振部品51としての性能は第1実施形態とほぼ同様であり、この場合でも、貫通孔13を利用してエラストマー部7の剛性を多段階ないし無段階に変化させて、防振部品1の振動減衰特性を調節することができる。
【0073】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態について説明する。
第5実施形態として例示する防振部品71は、図9(a)及び同図(b)に示すように、エラストマー部7が備える空洞21の内壁に、凸部73が形成されている点で、第1実施形態とは相違する。その他の点は、第1実施形態とほぼ同様である。
【0074】
このような構造の防振部品71の場合、防振部品71が過大な力を受けて、図9(b)に示すように、軸方向に圧縮変形した場合に、空洞21内で凸部73同士が当接する。そのため、凸部73同士が当接する前後で圧縮変形に対する抵抗力に変化が生じ、第1実施形態と比較すると、防振部品71全体としての制振性に特性の違いが生じる。したがって、用途によっては、この第5実施形態のような構造を採用しても良い。
【0075】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0076】
例えば、上記実施形態においては、第一固定部3A及び第二固定部3Bの備える固定構造について特定の具体的形状を例示したが、このような板材に対するスナップ機構は、周知の様々な構造が存在するので、そのような構造を採用しても良い。ただし、本発明においては、第一固定部3A及び第二固定部3Bに貫通孔13が形成され、これにより、エラストマー部7に形成される空洞21の大きさを調節できる点に重要な特徴があるので、このような貫通孔を併設できる構造とすることが重要となる。
【0077】
また、上記実施形態においては、有底穴27を設ける事例を示したが、この有底穴27を設けないようにしても、有底穴27を設けた防振部品とは、特性を変えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1,31,41,51,71・・・防振部品、3A,53A・・・第一固定部、3B,53B・・・第二固定部、5,35,45・・・ばね部、7・・・エラストマー部、11・・・筒部、13・・・貫通孔、15,65・・・逆止突起、15A・・・支柱、15B・・・弾性逆止片、17・・・フランジ部、19A〜19F・・・連通孔、21,21A〜21C・・・空洞、23・・・くびれ部、25・・・密着面、27・・・有底穴、73・・・凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材と第二の部材との間に介装されることにより、前記第一の部材と前記第二の部材との間でいずれか一方の部材から他方の部材へ振動が伝わるのを抑制する防振部品であって、
第一の部材を取り付け対象として、当該取り付け対象に対して固定される第一固定部と、
第二の部材を取り付け対象として、当該取り付け対象に対して固定される第二固定部と、
軸方向の一端に前記第一固定部が取り付けられるとともに、前記軸方向の他端に前記第二固定部が取り付けられており、前記第一の部材及び前記第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動するのに伴って前記第一固定部と前記第二固定部が相対的に変位すると弾性変形し、当該弾性変形に伴って生じる復元力にて、前記第一固定部と前記第二固定部を元の位置関係に復帰させる方向へと付勢するばね部と、
制振性を有するエラストマー材料で形成され、少なくとも一部が前記第一固定部と前記第二固定部との間に介在する状態になっており、前記第一の部材及び前記第二の部材のうち、いずれか一方の部材が振動するのに伴って前記第一固定部と前記第二固定部が相対的に変位すると弾性変形し、当該弾性変形する部分の粘弾性によって前記振動を減衰させるエラストマー部と
を備え、
前記第一固定部及び前記第二固定部のうち、少なくとも一方の固定部には、当該一方の固定部を前記軸方向に貫通して前記エラストマー部に到達する貫通孔が形成されている
ことを特徴とする防振部品。
【請求項2】
前記エラストマー部には、前記少なくとも一方の固定部に形成された前記貫通孔に連通する空洞が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の防振部品。
【請求項3】
前記エラストマー部に形成された前記空洞が、前記エラストマー部を前記軸方向に貫通している
ことを特徴とする請求項2に記載の防振部品。
【請求項4】
前記少なくとも一方の固定部は、前記貫通孔の一端にある開口の周囲から軸方向に突設された一対の逆止突起を有し、
前記一対の逆止突起は、前記取り付け対象が有する板状部分を一方の面から他方の面へと貫通する取り付け孔に対して前記一方の面から挿し込まれ、その際、弾性変形した状態で前記取り付け孔内を通過するとともに、前記取り付け孔内を通過した後に弾性変形していた部分が拡開して前記他方の面に係合することにより、前記取り付け孔から引き抜き不能となって前記取り付け対象に対して固定される
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の防振部品。
【請求項5】
前記エラストマー部は、前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際に、当該取り付け対象に対して密着する密着面を有する
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の防振部品。
【請求項6】
前記密着面に開口が形成された有底穴を有し、前記密着面が前記取り付け対象に対して密着した際には前記取り付け対象によって前記開口が塞がれることによって前記有底穴が密閉される
ことを特徴とする請求項5に記載の防振部品。
【請求項7】
前記少なくとも一方の固定部は、前記軸方向が厚さ方向となるフランジ部を有し、当該フランジ部が前記軸方向両側から前記エラストマー部によって保持されることにより、前記少なくとも一方の固定部が前記エラストマー部に対して固定されており、
前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際には、当該取り付け対象と前記フランジ部との間に前記エラストマー部の一部が挟み込まれることにより、前記エラストマー部が前記取り付け対象に対して前記密着面で密着する
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の防振部品。
【請求項8】
前記密着面に開口が形成された有底穴を有し、前記密着面が前記取り付け対象に対して密着した際には前記取り付け対象によって前記開口が塞がれることによって前記有底穴が密閉され、
しかも、前記少なくとも一方の固定部は、前記軸方向が厚さ方向となるフランジ部を有し、当該フランジ部が前記軸方向両側から前記エラストマー部によって保持されることにより、前記少なくとも一方の固定部が前記エラストマー部に対して固定されており、
前記少なくとも一方の固定部が前記取り付け対象に対して固定された際には、当該取り付け対象と前記フランジ部との間に前記エラストマー部の一部が挟み込まれることにより、前記エラストマー部が前記取り付け対象に対して前記密着面で密着し、
さらに、前記フランジ部には、前記軸方向に貫通する通路が形成されていて、前記有底穴は、前記密着面に形成された開口から、前記フランジ部に形成された通路を経て、前記フランジ部を挟んで前記密着面とは反対側となる位置まで延在している
ことを特徴とする請求項5に記載の防振部品。
【請求項9】
前記フランジ部には、軸方向に貫通する連通孔が形成されており、
前記エラストマー部は、前記フランジ部の軸方向両側にある部分が前記フランジ部の外周及び前記連通孔の双方を介して連続する一体成形物とされている
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の防振部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−94678(P2011−94678A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247970(P2009−247970)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】