説明

防炎性薄型積層体、ブラインド用スラットおよびそれを備えたブラインド

【課題】 本願発明は、防炎製品として認定可能な横型・縦型木製ブラインドのスラットに使用可能な防炎性薄型積層体を提供することにある。
【解決手段】 芯材20となる不燃あるいは難燃樹脂材の両面に、防炎処理の施された吸水性を有する天然繊維又は/及び人工繊維を接着用基材30として接着剤40を使いた接着層50を介して、単板あるいは紙・布・不織布・炭素繊維から選ばれた化粧材60を貼り合わせたものに吸水防炎処理して積層加工した積層体10を加熱加圧成形し、その積層体10の外側を防炎塗装したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、防炎性(防火認定基準)を有する薄型積層体およびその薄型積層体を使用した防炎性ブラインド用スラット・ブラインドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、本願発明に関連する先行技術文献としては、特許文献1〜6に挙げるようなものが存在する。
(1)特許文献1は、エチレンポリマーを含むホットメルト接着剤組成物に関するものである。そして、同文献において「本ホットメルト接着剤は、少なくとも1つの基材に容易に塗布される。(中略)少なくとも1つの基材は、織布もしくは不編布、金属、ポリマー、ガラスならびに木材および木材製品、紙、および板紙などのセルロース系材料からなる群から選択されてもよい。」と開示されている(同文献明細書[0087])。
(2)特許文献2は、不燃性化粧板に関するものである。そして、同文献において「難燃性基材の一方の面に、シーラー層、接着剤層、化粧シート層が順に積層された不燃性化粧板」と開示されている(同文献請求項1その他)。
(3)特許文献3は、難燃性木目化粧シートに関するものである。そして、同文献において「紙または不織布の上面に、接着剤層、集成材突き板、透明接着剤層、木目模様印刷層、及び表面に凹凸が形成された透明塩化ビニル樹脂層がこの順に積層されてなる木目化粧シートであって、難燃剤が紙または不織布、接着剤層、透明接着剤層及び透明塩化ビニル樹脂層に含有されている」と開示されている(同文献請求項1その他)。
(4)特許文献4は、木材を防火処理加工する防火木質材の加工方法に関するものである。そして、同文献において「硼酸塩を木材質に含浸させて乾燥させる工程と、前記乾燥した木材質上面にフェノール樹脂等の接着剤を塗布する工程と、前記木材質に含浸した硼酸塩と前記接着剤との架橋を完全にするため、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アミノ基、メチル基等を反応させシランカップリング剤とし、このシランカップリング剤を硼酸(HBO)溶液に混合して加水分解反応させた溶液もしくはイソピルアルコ−ル、エタノール等のアルコール系溶媒に混合した溶液とし、この溶液を前記接着剤を塗布した木材質接着面にプライマーとして塗布し、前記木材質に含浸した硼酸塩の溶脱防止を行う工程と、からなることを特徴とする防火木質材の加工方法」と開示されている(同文献請求項1その他)。
(5)特許文献5は、防燃性銘木化粧シートに関するものである。そして、同文献において「防燃性銘木化粧シートは、上から順に、銘木単板:接着剤層:紙または不織布:難燃剤が混入された第1の接着性樹脂層(特にEAA);ガラス繊維不織布、ガラス繊維紙もしくはガラス繊維織布またはこれらの組合せ;難燃剤が混入された第2の接着性樹脂層(特にEAA):紙または不織布が積層され、一体に圧着成形されてなり、そして必要により、塗料膜が銘木単板の上に形成されている」と開示されている(同文献請求項1その他)。
(6)特許文献6は、公的機関で規定した難燃性能を達成可能とする木質材の難燃化処理に関するものである。そして、同文献において「エーテル類とアルコール類とを含む水溶液中に難燃化物質が混入され、その難燃化物質濃度において略30〜50%程度の混合液とした上、60℃以下への温度低下を来さないよう温度制御した混合液を、常態下に置いた木質材に直接噴射し、乾燥段階における重量比で、処理前の重量の約20〜30%前後の重量増が達せられるようにした浸透処理工程をした後、適宜乾燥処理工程を経て難燃化を達成する木質材の難燃化処理方法」と開示されている(同文献請求項1その他)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−522413号公報
【特許文献2】特開2009−160908号公報
【特許文献3】特開2001−205744号公報
【特許文献4】特開2005−288956号公報
【特許文献5】特開平11−042737号公報
【特許文献6】特開平08−300311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、超極薄木単板を用いた横型・縦型ブラインドを開発しており、これまでにブラインドの実用化を単板と和紙の構成で進めてきた。しかし、単なる単板と和紙のみの積層体だけでは十分な防炎性能を得ることができなかった。そこで、鋭意試験・研究を行い、単板/不燃あるいは難燃性の芯材/単板を基本構成とする薄型の積層体で十分な防炎性能を得るに至った。そして、上記した先行技術文献と比較するに当該積層体が新規な技術思想に基づくものであることを認識し、本件特許出願に及んだものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、芯材となる不燃あるいは難燃樹脂材の両面に、防炎処理の施された吸水性を有する天然繊維又は/及び人工繊維を接着用基材とした接着剤を使い、単板あるいは紙・布・不織布・炭素繊維から選ばれた化粧材を貼り合わせたものに吸水防炎処理して積層加工した積層体を加熱加圧成形し、その積層体の外層を防炎塗装したことを特徴とする総厚0.6mm〜2.0mmの防炎性薄型積層体である。
ここで、芯材(不燃・難燃樹脂材)の具体例としては、ポリ塩化ビニル(塩ビ)が挙げられるが、これに限定されることなく不燃・難燃性の樹脂材が使用される。
「天然繊維」とは、楮・三椏・セルロース等をいい、「人工繊維」とは、レイヨン等をいう。
「単板」の材質には、黒檀、紫檀、欅、樫、柘植、桐、檜、杉、松、胡桃、桜、ブナ、オーク、白樺、ウォールナット、バルサ、などがあるが、これらに限定されることなく、様々な材質のものを使用できる。
「防炎性薄型積層体」の総厚は、0.6mm〜2.0mmの「薄型」であるが、好ましくは、0.8mm〜1.2mmである。
第2の発明は、芯材を0.3mm以下の圧縮成形性あるいは加熱圧縮成形性を有する樹脂板としたことを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
ここで、圧縮成形性を有する芯材としては、樹脂材の他に、紙(樹脂含有)、キャンバス布、鉄板、非鉄金属板等などを使用することができる。
また、加熱圧縮成形性を有する芯材としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の難燃性の合成樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂に難燃剤を添加し不燃・難燃化したもの等であれば何でも使用できる。
第3の発明は、繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材に、防炎剤をディッピング加工あるいはコーティング加工し防炎処理を施したことを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
ここで、「繊維密度が低くて広い繊維空間を有する接着用基材」とは、同基材を2枚重ねた時の透気度が「10±3」であるような接着用基材をいう(以下、その他の請求項においても同じ)。具体的には、主な成分としてパルプ75%、レーヨン25%、PVA(バインダー繊維)5%のものを使用する。
「防炎剤」としては、例えば、カルバミンリン酸塩その他46%、水54%(ホウ素1
%、ホウ酸ナトリウム3〜6%)のものを使用するが、その他に、一般的に使用される防炎剤としての、リン酸塩、ホウ酸塩、ホウ砂、ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、リン酸アンモニア、リン酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、硫酸アンモニア、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム等を所定の配合率で組み合わせて使用する。
また、防炎剤の含浸量としては、例えば、坪量25g/mの和紙であれば、5g/m以上必要であり、さらに多い方が好ましい。
第4の発明は、繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材の両面に、高融点ホットメルトを均一塗布したことを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
第5の発明は、両面に高融点ホットメルトの塗布された接着用基材を加圧成形の過程で熱圧プレスすることで、接着用基材の両面に塗布した高融点ホットメルトを接着用基材中心部まで溶かし込ませることを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
第5の発明は、層間剥離を防止する構造となっている。そのメカニズムとは次の通りである。単に両面に接着剤を塗布した接着用基材を使用して積層体を形成した場合、面と面の接着は有効であるが、引張強度試験(ピール強度試験)において接着用基材部分で層間剥離を起こす可能性がある(接着用基材両面部に比較して同基材中心部は密度が粗いため強度が弱く、剥離を発生させてしまう)。しかし、接着用基材が広い繊維空間を有するため両面に塗布した高融点ホットメルトを基材中心部まで浸透することができ、接着用基材と高融点ホットメルトが一体不可分の関係になり、接着用基材部分での層間剥離を防止できる。
第6の発明は、可燃性高融点ホットメルトに防炎機能を持たせるために、繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材を防炎処理し、この防炎処理の施された接着用基材に両面に塗布した可燃性ホットメルトを溶融浸透させることで可燃性ホットメルトの延焼を防止させることを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
ここで、高融点ホットメルトの塗布量は、多すぎると防炎にできなくなり、少ないと層間剥離の原因になるので、最適範囲は広めに考えると和紙mあたり5〜100g/m、好ましくは10〜50g/mくらいである。
第6の発明は、可燃性高融点ホットメルトを防炎化する構造となっている。そのメカニズムとは次の通りである。高融点ホットメルトには不燃性のものもあるが、作業上・コスト上等の理由から可燃性のものを使用することになる。しかし、可燃性の高融点ホットメルトは、そのままでは防炎製品に使用できない。そこで、繊維製の接着用基材中に含浸(浸透)させることで、防炎処理された繊維が隔壁となり高融点ホットメルトを防炎化できる。
第7の発明は、芯材とその両面に積層する、接着用基材・化粧板を加圧成形する際、化粧板を同時加熱することで、化粧板を損傷させない温度領域で化粧板内の水分を強制除去し、強制除去した水分を防炎処理水溶液で補給含浸させたことを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
第7の発明は、化粧板を防炎化する構造となっている。そのメカニズムとは次の通りである。化粧板が木材の場合、一度乾燥した木材はヒステリシス現象によって元の含水率には戻らなくなる。従って、化粧板に十分な防炎剤を含浸させることは困難である。しかし、積層体を加圧成形する工程で、外側の化粧板の水分が蒸発させて、強制的に絶乾状態にする。そして、この絶乾状態の化粧板を防炎水溶液中に浸水させることで、効果的に防炎剤を含浸させることができる。
第8の発明は、湿度による含水率の変形を受ける化粧材の表面および木口を、有色または無色の塗料でコーティングしたことを特徴とする同防炎性薄型積層体である。
ここで、「塗料」の具体例としては、ウレタン塗料の塗布やシリカ系無機質塗料の塗布等が挙げられる。また、難燃性の塗料を用いる方が好ましい。
第9の発明は、第1の発明から第8の発明に係る防炎性薄型積層体からなるブラインド用スラットである。
第10の発明は、第9の発明に係るブラインド用スラットを備えたブラインドである。
【発明の効果】
【0006】
本願発明によれば、以下のような効果を有する。
(1)本願発明の化粧板/接着層(接着剤/接着用基材/接着剤)/芯材/接着層(接着剤/接着用基材/接着剤)/化粧板の5層(接着層を3層とすれば計9層)からなるものであれば、防炎性能を十分に兼ね備えた薄型積層体を提供できる。
(2)芯材に圧縮成形性あるいは加熱圧縮成形性を有する樹脂材を用いることで、後工程での加熱加圧成形時の形状記憶および形状安定性に優れたものとなる。
(3)接着用基材に防炎処理を施すことで、当該積層体の防炎性能に寄与するものとなる。
(4)接着用基材の両面に高融点ホットメルトを均一塗布することで、接着剤の密着率を向上させることができる。
(5)接着用基材の両面に塗布した高融点ホットメルトを接着用基材中心部まで溶け込ませることで、当該積層体の層間剥離を防止できる。
(6)可燃性の高融点ホットメルトを防炎処理の施した接着用基材に含浸させることで、防炎処理された繊維が隔壁となり可燃性の高融点ホットメルトを防炎化できる。
(7)吸水性能を有する化粧材(特に2mm以下の薄手化粧材)は、真空高圧釜を使うことなく、容易に化粧材内中心部まで防炎剤を浸透させることができる。また、化粧材のみを本願発明手法で水分を浸透させると歪み変形を発生させるが、本願発明による芯材と接着させて浸透させることで、化粧材を歪み変形させることなく、加工することができる。
(8)化粧材の表面および木口を塗料でコーティングすることで、化粧材表面の美化と化粧材(単板)の湿度変形を防止できる。また、難燃性の塗料を用いることで、防炎性能を寄与するものとなる。さらに、塗料を着色することで、化粧材の退色・日焼け変色の防止となる。
(9)本願発明に係る防炎性薄型積層体からなるブラインド用スラットであれば、十分な防炎性能を備えたブラインド用スラットを提供できる。
(10)本願発明に係るブラインド用スラットを備えたブラインドであれば、十分な防炎性能を備えたブラインドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本願発明に係る防炎性薄型積層体の基本構造を示す説明図。
【図2】同防炎性薄型積層体の接着層を示す説明図。
【図3】同防炎性薄型積層体の層間剥離防止のメカニズムを示す説明図。
【図4】同防炎性薄型積層体の可燃性高融点ホットメルト防炎化のメカニズムを示す説明図。
【図5】同防炎性薄型積層体の化粧板防炎化のメカニズムを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明に係る防炎性薄型積層体の基本構造を示す説明図である。
図1に示す防炎性薄型積層体10は、芯材20の両面に接着層50を介して化粧板60を備えるとともに、その化粧板60の表面に塗料・塗装による塗膜70を備える積層構造である。
ここで、芯材20は、ポリ塩化ビニル(塩ビ)などの不燃あるいは難燃性の樹脂材を使用する。この不燃・難燃性樹脂材を芯材とすることで炎の貫通を防ぐ効果がある。そして、この芯材20と化粧板60を接着層50で接着固定している。
【0009】
接着層50は、防炎処理の施された吸水性を有する天然繊維又は/及び人工繊維31を接着用基材30として接着剤(高融点ホットメルト)40を使ったものである。芯材20と化粧板60を接着固定する接着層50については、後述する。
化粧板60は、単板あるいは紙・布・不織布・炭素繊維等から選ばれた化粧材からなるものである。化粧板60には防炎剤を添加し、吸水防炎処理が施されている。この場合に防炎剤の添加量が少ないと防炎効果が低く、多すぎると化粧板表面に粉状の析出が発生するので、化粧板60に防炎剤をたっぷりと塗り込み(飽和含浸量)、余分の防炎剤をローラー加圧により除去するなどの方法がとられる。なお、化粧板60に単板を使用した場合に、単板を焼成炭化させて「黒色遠赤外線効果」を生じるようにしてもよい。
塗膜70は、ウレタン樹脂系表面塗装やシリカ系無機質塗料などを用いるとよい(但し、化粧板60に用いる防炎剤の種類によっては、難燃性の塗料が必要な場合もある)。
【0010】
なお、本願発明による化粧板60としての単板の防炎加工は、単板(木材細胞内)への加熱絶乾状態にした防炎処理法での防炎効果で、単板片面を樹脂接着しているので、単板片面およびその木口から、単板の中心部を含む単板樹脂接着面まで防炎剤が片面から浸透する厚さから、含浸効果としては積層体10の総厚で0.6mm(min)〜2.0mm(max)、防炎加工時間から0.8mm〜1.2mmが好ましい(0.6mm以下は、単板を防炎処理しても可燃性高融点ホットメルトの延焼を防止することができない)。このような積層体10であれば、単に単板を防炎処理したのではなく、単板と芯材20(樹脂板)を接着させ、その単板の防炎処理は片面側からしか防炎剤が浸透しない。そして、従来より薄型の単板の防炎処理は公知であり、単板のみでは歪み変形を起こしてしまうが、単板と芯材20(樹脂板)を接着させることで、歪み変形を防止させて、そこに総厚最大2mmの積層体10の薄型単板片面(非接着側)から単板底部までを防炎処理させ、防炎認定性能を有する薄型積層体としている。
【0011】
図2は、本願発明に係る防炎性薄型積層体の接着層を示す説明図である。
接着層50を構成する接着用基材30は、紙・不織布・和紙などの吸水性を有する天然繊維又は人工繊維あるいはこれらの組み合わせ(以下「繊維31」)からなるものである(図2上図)。この繊維31は、繊維密度が低くて広い繊維空間を有するとともに(図2上図拡大図)、この繊維31に防炎剤を含浸させて防炎処理を施したものである。
そして、防炎処理の施された吸水性を有する繊維31の両面に高融点ホットメルト40を接着剤として塗布したもの(図2下図)が、芯材20や化粧板60と積層されて図1に示す接着層50に変化する。
【0012】
図3は、本願発明に係る防炎性薄型積層体の層間剥離防止のメカニズムを示す説明図であり、図3(a)〜(c)は比較例を示し、図3(A)(B)は実施例を示す。
まず、図3(a)〜(c)に示す比較例は、繊維密度が高く狭い繊維空間を有する繊維を使用した接着用基材30とその両面に接着剤として高融点ホットメルト40を塗布したものである(図3(a))。この比較例を芯材20と化粧板60の間に積層して加熱加圧成形すると、図3(b)に示すように両面の高融点ホットメルト40が溶融して接着用基材30に浸透する。しかし、接着用基材30は繊維密度が高く狭い繊維空間を有するものなので、粘度の高い高融点ホットメルト40は接着用基材30の中心部まで溶け込むことができない(図3(b))。このため、図3(c)に示すように高融点ホットメルト40の浸透していない接着用基材30の中心部は繊維のみで形成されるため強度が弱く、積層体10に相反する応力がかかった場合に、接着層50の中心部で層間剥離の起きる危険性が極めて高い。
【0013】
これに対して、図3(A)(B)に示す実施例は、繊維密度が低くて広い繊維空間を有する繊維を使用した接着用基材30とその両面に接着剤として高融点ホットメルト40を塗布したものである(図3(A))。この実施例を芯材20と化粧板60の間に積層して加熱加圧成形すると、図3(B)に示すように両面の高融点ホットメルト40が溶融して接着用基材30に浸透する。この時、接着用基材30は繊維密度が低くて広い繊維空間を有するものなので、粘度の高い高融点ホットメルト40は接着用基材30全体に(中心部まで)溶け込むことができて、接着用基材30と高融点ホットメルト40が一体不可分となった強固な接着層50を得ることができる。その結果、積層体10に相反する応力がかかった場合でも、接着層50で層間剥離の起きる危険性は極めて低くなる。
【0014】
図4は、本願発明に係る防炎性薄型積層体の可燃性高融点ホットメルト防炎化のメカニズムを示す説明図である。
本願発明では、作業上・コスト上等の理由から可燃性高融点ホットメルト40を接着剤として使用している。しかしながら、防炎性薄型積層体を得るためにはこの可燃性高融点ホットメルト40を防炎化させる必要がある。これに対して、本願発明では可燃性高融点ホットメルト40の浸透する接着用基材30に予め防炎処理を施すことで、可燃性高融点ホットメルト40の延焼を防止している。すなわち、接着用基材30の防炎処理として接着用基材30に防炎剤をディッピング加工あるいはコーティング加工することで、図4(A)に示すように繊維31が防炎剤80で被膜される。そして、この防炎剤80で被膜された繊維31の間に可燃性高融点ホットメルト40が存在することになるが(図4)、防炎剤80で被膜された繊維31が隔壁となり可燃性高融点ホットメルト40の延焼防止を実現できる。
【0015】
また、図4(B)に示すように、可燃性高融点ホットメルト40の存在する接着層50の片面に防炎効果の付与された化粧板60、もう一つの面には、不燃・難燃樹脂材からなる芯材20(塩ビ板等)に挟まれているので、可燃性高融点ホットメルト40はその上下に挟まれる。そして、水平方向には図4(A)に示すように隔壁となる接着用基材30に挟まれているので、可燃性高融点ホットメルト40の延焼を抑制できるとともに、酸素の供給も遮断されるので、その延焼を確実に防止できる。
【0016】
図5は、本願発明に係る防炎性薄型積層体の化粧板防炎化のメカニズムを示す説明図である。
本願発明では、化粧板60として単板(木材)を使用する場合がある。しかし、一度乾燥した単板(木材)はヒステリシス現象によって元の含水率には戻らなくなる。従って、化粧板としての単板に十分な防炎剤を含浸させることは困難である。これに対して、本願発明では、積層体10の製造過程でこの問題を解消している。すなわち、積層体10を加熱加圧成形する工程で、外側の単板60の水分が蒸発させて、強制的に絶乾状態にする。そして、この絶乾状態の単板60を防炎水溶液中に浸水させることで、効果的に防炎剤を含浸させることができるのである。
【0017】
ここで、積層体10の加熱加圧成形工程を紹介しながら、上記化粧板防炎化のメカニズムをさらに詳しく説明する。
図5(a)は、加熱加圧成形する前の積層体10を示すものである。積層体10は、不燃・難燃性樹脂材からなる芯材20の両面に、高融点ホットメルト40を両面に塗布した接着用基材30を介して化粧板(単板)60を積層させている。
図5(b)は、図5(a)に示す積層体10を熱圧プレスで加熱した状態を示すものである(温度125度、圧力10kg/cm2、加圧時間12秒)。これにより、高融点ホットメルト40を両面に塗布した接着用基材30は、図3(B)に示す接着層50になるとともに、化粧板60としての単板からは水分が蒸発して「絶乾状態」となる。
【0018】
図5(c)は、図5(b)に示す積層体10に防炎剤を含浸させた状態を示すものである。単板60は絶乾状態(乾燥状態)になっているので、木材質特有のヒステリシス現象にも関わらず、単板60の防炎剤吸水効果を上げることができる。なお、一般的に水分を吸収した単板は歪み変形(反り,曲がり等)を発生させるが、単板60は芯材20に接着固定されているので歪み変形を起こすことなく防炎剤吸水前の形状を維持できる。
図5(d)は、図5(c)に示す積層体10を冷却プレスで成形した状態を示すものである(温度12〜15度、圧力4kg/cm2、加圧時間12秒)。これにより、積層体10は所望の形状に成形できるとともに、樹脂材の芯材20を備えることで成形した形状を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本願発明に係る防炎性薄型積層体は、以下のようなものに利用できる。
(1)ブラインド(横型ブラインド,縦型ブラインドを含む)のスラット
(2)簾
(3)パーテーション(間仕切り壁)
(4)照明カバー
(5)成型壁面材
(6)その他
【符号の説明】
【0020】
10 積層体
20 芯材
30 基材(和紙その他)
31 繊維
40 接着剤(高融点ホットメルト)
50 接着層(基材+接着剤)
60 化粧板(単板その他)
70 塗膜
80 防炎剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材となる不燃あるいは難燃樹脂材の両面に、防炎処理の施された吸水性を有する天然繊維又は/及び人工繊維を接着用基材とした接着剤を使い、単板あるいは紙・布・不織布・炭素繊維から選ばれた化粧材を貼り合わせたものに吸水防炎処理して積層加工した積層体を加熱加圧成形し、その積層体の外層を防炎塗装したことを特徴とする総厚0.6mm〜2.0mmの防炎性薄型積層体。
【請求項2】
芯材を0.3mm以下の圧縮成形性あるいは加熱圧縮成形性を有する樹脂板としたことを特徴とする請求項1記載の防炎性薄型積層体。
【請求項3】
繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材に、防炎剤をディッピング加工あるいはコーティング加工し防炎処理を施したことを特徴とする請求項1又は2記載の防炎性薄型積層体。
【請求項4】
繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材の両面に、高融点ホットメルトを均一塗布したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の防炎性薄型積層体。
【請求項5】
両面に高融点ホットメルトの塗布された接着用基材を加圧成形の過程で熱圧プレスすることで、接着用基材の両面に塗布した高融点ホットメルトを接着用基材中心部まで溶かし込ませることを特徴とする請求項4記載の防炎性薄型積層体。
【請求項6】
可燃性高融点ホットメルトに防炎機能を持たせるために、繊維密度が低くて広い繊維空間を有する紙・不織布・和紙から選ばれた接着用基材を防炎処理し、この防炎処理の施された接着用基材に両面に塗布した可燃性ホットメルトを溶融浸透させることで可燃性ホットメルトの延焼を防止させることを特徴とする請求項4又は5記載の防炎性薄型積層体。
【請求項7】
芯材とその両面に積層する、接着用基材・化粧板を加圧成形する際、化粧板を同時加熱することで、化粧板を損傷させない温度領域で化粧板内の水分を強制除去し、強制除去した水分を防炎処理水溶液で補給含浸させたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の防炎性薄型積層体。
【請求項8】
湿度による含水率の変形を受ける化粧材の表面および木口を、有色または無色の塗料でコーティングしたことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の防炎性薄型積層体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の防炎性薄型積層体からなるブラインド用スラット。
【請求項10】
請求項9記載のブラインド用スラットを備えたブラインド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−140116(P2011−140116A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−354(P2010−354)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(506172034)空知単板工業株式会社 (6)
【出願人】(310010575)地方独立行政法人北海道立総合研究機構 (51)
【Fターム(参考)】