説明

陸屋根建物の日射利用装置設置構造

【課題】 本発明は、陸屋根面に日射利用装置を設置しても耐震性が低下せず、屋上の防水層の劣化が防止でき、メンテナンスや改修も容易であり、日射利用装置の位置の変更や他の用途への変更も容易な陸屋根建物の日射利用装置設置構造を提供することを目的としている。
【解決手段】 防水層2が形成された陸屋根1a面上に設置された制振部材を構成する弾性部材3及び減衰部材4と、該制振部材を介して支持されて陸屋根1a面の全面を覆う床部材5と、該床部材5上に載置して固定された日射利用装置6とを有して構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陸屋根建物の日射利用装置設置構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、陸屋根(屋上)を有する鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物の屋根面を利用して、太陽光発電装置、太陽熱温水器等の日射利用装置を設置することが行われてきた。特に、陸屋根を軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」という)からなる屋根パネルを敷設して構成した鉄骨ALC造建物の場合、屋根面には軟質塩化ビニル防水シートにて防水層を形成するのが一般的であるが、この場合、防水層保護の為、支持部材を屋根面から突出させ、該支持部材を利用して日射利用装置を取り付けるのが好ましい(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、屋上庭園を設置する際に、アイソレータや減衰手段などの制振装置を介在させることで、地震や風による建物の振動を抑制する制振建築構造物がある(特許文献2、3、等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−260642号公報
【特許文献2】実開平06−078541号公報
【特許文献3】特開2002−070359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、重量のある日射利用装置を陸屋根に設置した場合、建物の耐震性が低下するため、耐震性を保つ為の補強が必要になるという問題があった。また、防水層は日射や雨に晒されるので劣化し易いが、日射利用装置が存在する場合、防水層のメンテナンスや改修が行いにくいという問題や、ひとたび日射利用装置用の架台を設置すると日射利用装置の位置の変更や他の用途への変更が行い難いという問題があった。
【0006】
また、特許文献2、3には、防水層の劣化防止やメンテナンス等に関する対策は施されていなかった。
【0007】
本発明は、陸屋根面に日射利用装置を設置しても耐震性が低下せず、屋上の防水層の劣化が防止でき、メンテナンスや改修も容易であり、日射利用装置の位置の変更や他の用途への変更も容易な陸屋根建物の日射利用装置設置構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造の第1の構成は、防水層が形成された陸屋根面上に設置された制振部材と、前記制振部材を介して支持されて前記陸屋根面の全面を覆う床部材と、前記床部材上に載置して固定された日射利用装置とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造の第2の構成は、前記第1の構成において、前記陸屋根建物は、鉄骨の軸組に軽量気泡コンクリートからなる屋根パネルを敷設して構成した鉄骨軽量気泡コンクリート造であり、前記防水層は、軟質塩化ビニル防水シートからなり、前記制振部材は、前記屋根パネルを支持する梁上に起立して前記屋根パネル上面から突出した支持部材にて支持されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造の第1の構成によれば、制振部材で支持され、防水層が形成された陸屋根とは別体で、陸屋根面の全面を覆い、日射利用装置を載置して固定する床部材を有するので、床部材と日射利用装置を付加質量とする慣性質量制振効果が発揮され、耐震性が向上する。また、建物の防水性能には影響しない床部材上で日射利用装置を自由にレイアウトでき、用途の変更も容易である。また、陸屋根面の全面を覆う床部材によって防止層が保護され防水層の耐久性を向上することができる。なおここで、慣性質量制振効果とは、建物本体の屋根面で付加質量を低剛性の支承部材を介して支持することで、建物系の1次固有周期を長周期化させ、地震の入力エネルギーが低減して刺激関数(建物本体各層の揺れの分布を説明する関数)が変化し、建物本体の層間変形や床応答加速度を低減させる効果のことをいう。
【0011】
本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造の第2の構成によれば、床部材や制振部材は屋根パネル上面から突出した支持部材にて支持されているので、床部材や制振部材と、防水層とは縁が切れている。従って、屋根パネル上面と床部材との間の空間を利用して防水シートのメンテナンスや改修を容易に行うことができる。また、制振部材のメンテナンスや交換の際に防水層の補修をする必要もない。
【0012】
また、特に鉄骨軽量気泡コンクリート(ALC)造建物においては、鉄筋コンクリート造建物に比べて屋根の強度や地震時の層間変形の点で不利であるので、上記構成とすることによって日射利用装置の配置の自由度向上や耐震性向上の効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造を示す断面説明図である。
【図3】弾性部材の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図により本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造の一実施形態を具体的に説明する。図1は本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造を示す断面模式図、図2は本発明に係る陸屋根建物の日射利用装置設置構造を示す断面説明図、図3は弾性部材及び剛性可変装置の一例を示す図である。
【0015】
図1及び図2において、1は陸屋根建物であり、該陸屋根建物1の陸屋根1a面上には防水シートからなる防水層2が形成されている。更に陸屋根1a面上には該陸屋根1a面の全面を覆う床部材5が配置され、該床部材5は制振部材を構成する弾性部材(屋根建物1の有する剛性に比べて低剛性の支承部材)3を介して陸屋根建物1に対して水平方向に移動可能に支持されている。また、陸屋根1aと床部材5との間には制振部材を構成する減衰部材4が設置されている。床部材5の端部5aは陸屋根建物1の外壁面1cよりも外側に突出して配置される。これにより、陸屋根建物1の陸屋根1a面上に敷設された防水層2が風雨や紫外線から保護される。
【0016】
陸屋根1aと床部材5との間には、図3に示すように、天然ゴム系積層ゴム3aと、剛性可変装置3bとを併用した弾性部材3と、オイルダンパー等からなる減衰部材4とが介在して設けられている。
【0017】
弾性部材3及び減衰部材4は、陸屋根建物1の耐震構造特性に応じて剛性及び減衰性が調整可能とされる。剛性可変装置3bは、図3に示すように、陸屋根建物1の陸屋根1aに設けられた摩擦板3b1に当接接触して移動可能に構成されたピストンロッド3b2が床部材5の下面側に設けられており、ピストンロッド3b2に油圧をかけて先端部を摩擦板3b1に押付けたり緩めたりして摩擦力を可変させることで、床部材5の陸屋根建物1に対する水平方向の移動後の復元力特性を変更して弾性部材3の剛性を調整可能として構成されている。また、減衰部材4はオイルダンパーの電磁式アクチュエーターを駆動して該オイルダンパー内のオリフィス(通油口)を大小に変化させることで減衰力を可変させて減衰部材4の減衰性を調整可能としている。尚、減衰部材としては、オイルダンパーの他にMR(Magneto- Rheological Fluid;磁気粘性流体)ダンパーを採用することも出来る。MRダンパーは該MRダンパー内の磁気粘性流体に磁場をかけると減衰装置内の磁気粘粒性体の粘度が変わって減衰力が変わる。
【0018】
床部材5上には日射利用装置6が載置して固定される。日射利用装置6の一例としては、屋上庭園設備、太陽光発電装置、太陽熱給湯装置等が適用可能である。床部材5は各種日射利用装置6が全面に設置されることを前提として強度計算されており、これにより日射利用装置6を任意の位置、向き、角度で設置することが出来る。
【0019】
本実施形態の陸屋根建物1は、鉄骨の軸組に軽量気泡コンクリート(ALC)からなる屋根パネル1bを敷設して構成した鉄骨軽量気泡コンクリート造であり、防水層2は、軟質塩化ビニル防水シートからなり、制振部材となる弾性部材3及び減衰部材4は、屋根パネル1bを支持する梁1d上に起立して該屋根パネル1b上面から突出した支持部材7にて支持されている。支持部材7は胴部7aが屋根パネル1b、断熱材1f及び防水シートからなる防水層2を貫通して突出し、該胴部7aの上端部にフランジ7bが固定されており、該フランジ7b上に弾性部材3の天然ゴム系積層ゴム3aが取り付けられている。
【0020】
図1に示す陸屋根建物1は陸屋根1aを有する2階建ての鉄骨ALC造の工業化住宅であり、所定の平面モジュールを有する。そして、梁勝ち工法の軸組みと耐震要素からなる架構に対して、ALCからなる床パネル、屋根パネル1b、壁パネル1eを取り付けて構成されている。
【0021】
梁1dは、モジュールに対応した長さを有し、上下フランジ1d1,1d2にはモジュールに対応したピッチでボルト孔が穿設されている。屋根パネル1bは、モジュールに対応した幅と長さを有し、短辺側の2辺が梁1dの上フランジ1d1で支持される。
【0022】
壁パネル1eは、階高に対応した長さとモジュールに対応した幅を有し、外周部の梁1dに所定の取付部材を用いて取り付けられている。
【0023】
陸屋根1aの層構成は、下から順に、H型鋼からなる梁1dの上フランジ1d1に載置された屋根パネル1b、発泡系成形断熱材1f、絶縁工法にて敷設された軟質塩化ビニル防水シートからなる防水層2となっている。
【0024】
屋根パネル1b上面の所定の位置からは支持部材7が突出している。支持部材7は梁1dの上フランジ1d1に固定されている。円筒形の胴部7aの上に制振部材となる弾性部材3の天然ゴム系積層ゴム3aが載置される板状のフランジ7bが設けられている。
【0025】
制振部材には床部材5を支持し、地震時に該床部材5を揺動させる弾性部材3と、床部材5の揺動を減衰させる減衰部材4とがある。弾性部材3として減衰部材4の機能を兼ね備えた高減衰ゴムを使用することで、減衰部材4を省略することも可能である。
【0026】
床部材5は複数のPC(プレキャストコンクリート)板からなり、陸屋根1aの外郭線から平面的に突出するように、すなわち屋根面全面を覆うように配置されている。床部材5は日射利用装置6とともに付加質量として機能する。日射利用装置6は床部材5に対してホールインアンカー等で固定される。日射利用装置6は日射を受ける方向や角度に応じて床部材5上の任意の位置に固定ができる。
【0027】
なお、制振部材となる弾性部材3の剛性や減衰部材4の減衰性能は、陸屋根建物1、床部材5及び日射利用装置6の重量、陸屋根建物1の剛性などを踏まえたうえで制振効果が充分発揮されるように設定されている。より具体的には、床部材5や日射利用装置6による付加質量は陸屋根建物1の質量の凡そ20%〜60%とし、これを陸屋根建物1本体の剛性に比較して低剛性の弾性部材3を介して支持して建物系の1次固有周期が長周期化(2秒程度以上)するように設定されている。これによって地震の入力エネルギーが低減し刺激関数が変化して、建物本体の層間変形や床応答加速度を低減させることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の活用例として、陸屋根建物の日射利用装置設置構造に適用出来、建物の振動抑制、防水層の保護、太陽光発電の普及に寄与し得るものである。
【符号の説明】
【0029】
1…陸屋根建物
1a …陸屋根
1b …屋根パネル
1c …外壁面
1d …梁
1d1,1d2 …上下フランジ
1e …壁パネル
1f …断熱材
2 …防水層
3 …弾性部材
3a …天然ゴム系積層ゴム
3b …剛性可変装置
3b1 …摩擦板
3b2 …ピストンロッド
4 …減衰部材
5 …床部材
5a …端部
6 …日射利用装置
7 …支持部材
7a …胴部
7b …フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水層が形成された陸屋根面上に設置された制振部材と、
前記制振部材を介して支持されて前記陸屋根面の全面を覆う床部材と、
前記床部材上に載置して固定された日射利用装置と、
を有することを特徴とする陸屋根建物の日射利用装置設置構造。
【請求項2】
前記陸屋根建物は、鉄骨の軸組に軽量気泡コンクリートからなる屋根パネルを敷設して構成した鉄骨軽量気泡コンクリート造であり、
前記防水層は、軟質塩化ビニル防水シートからなり、
前記制振部材は、前記屋根パネルを支持する梁上に起立して前記屋根パネル上面から突出した支持部材にて支持されたことを特徴とする請求項1に記載した陸屋根建物の日射利用装置設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−203057(P2010−203057A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46647(P2009−46647)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】