説明

陽極酸化アルミナ膜の発光体及びその発光体を有する発光装置。

【課題】 発光輝度の高い発光体を提供する。
【解決手段】 陽極酸化アルミナ膜5のナノホール1内に少なくとも紫外光又は青色光で励起して発光する発光物質7を充填し、封止部材8で発光物質7をナノホール1内に封止して、陽極酸化アルミナ膜の発光体10を形成する。そして、紫外光または青色光を陽極酸化アルミナ膜の発光体10に照射する。また、陽極酸化アルミナ膜5の厚みtを0.5〜30μm、ナノホールの孔径aを20〜300nm、ナノホールの孔のピッチpを50〜500nmの範囲に抑える。また、発光物質7は蛍光体又は燐光体の少なくとも1種から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力を可能とする陽極酸化アルミナ膜の発光体と、その発光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子を用いた発光ダイオード(以下、LEDという)は、携帯電話などの液晶パネルのバックライト光源などに広く用いられている。特に、近年では高出力化が進み、懐中電灯や室内照明などの各種照明機器への応用も実用化されてきている。
【0003】
バックライト光源や照明光源として用いられる光源の光源色は、一般に、白色光が用いられるが、白色光を得る構成にはさまざまな構成が提案されている。(例えば、特許文献1参照)
【0004】
特許文献1に示された従来技術を図4を用いて説明する。図4は説明しやすいようにその主旨を逸脱しないように書き直しした実装型LEDランプの要部断面図を示したものである。
図4において、200はLEDランプである。201はフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されたコーティング部、202は発光素子(LEDチップ)、203は導電性ワイヤー、204は凹部を有する筐体である。また、205は筐体204に埋め込まれた端子金属である。
LEDランプ200は、筐体204の凹部にAgを含有させたエポキシ樹脂などを介して発光素子202を固定し、発光素子202のn側電極とp側電極とをそれぞれ導電性ワイヤー203でもって端子金属205に接続し、そして、発光素子202を被うようにして筐体204の凹部にコーティング部201を設けた構成をなしている。
【0005】
また、引用文献1においては、発光素子202は青色系の発光が可能な窒化ガリウム系化合物半導体素子を用い、フォトルミネッセンス蛍光体は黄色系の発光が可能なYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体を用いることで、発光素子202からの青色系の光と、発光素子202からの青色系の波長に励起されて発光するYAG蛍光体からの黄色系の光との混色により白色系の発光を可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−208815号公報(第5頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、LEDランプは消費電力が小さいというメリットはあるが、反面、冷陰極管や白熱灯などと比較すると輝度が低いという問題を有する。そのため、LEDランプの数を増すとか、あるいはまた、高いパルス電流を印加するとかの方法をとって輝度を高める試みがなされている。
【0008】
引用文献1に記載されたLEDランプ200の構成は、発光素子202と導電性ワイヤーを被うようにしてコーティング部201を設けた構成をとり、また、コーティング部201は樹脂などのコーティング材に蛍光体を分散した構成をとっている。
【0009】
このような構成においては、蛍光体を分散したコーティング部201の厚みも厚くなり、また、光の取出し面積もコーティング部201の上面側だけとなって限定される。
そのため、発光素子202の青色系の光、及び蛍光体の黄色系の光は、コーティング部201内の走査を繰り返してコーティング部201の上面から出射する過程の中で、厚みのある樹脂などのコーティング材に吸収されて滅光する光量も多く現れる。
そして、発光効率の低下や光の取出し効率の低下をまねき、全体的に明るさが低下する。
また、発光素子202に高いパルス電流を印加した場合には発熱温度が高くなるが、それがコーティング部201に熱伝導し、蛍光体の性能を劣化させると言う問題も現れる。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、発光効率、光の取出し効率を高めて輝度が高く、明るい発光体を得ると共に、発光体の性能劣化を抑制して長寿命化を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための手段として、本発明の発光体は、陽極酸化アルミナ膜を用いた発光体であって、陽極酸化アルミナ膜のナノホール内に少なくとも紫外光又は青色光で励起して発光する発光物質を充填し、封止部材で発光物質をナノホール内に封止したことを特徴とするものである。
【0011】
陽極酸化アルミナ膜は、アルミニウムを陽極で電解処理(アルマイト処理)して人工的に多孔質の酸化被膜を生成したもので、直径が数nm〜数100nmの円筒状の微細孔なるナノホールが、数10nm〜数100nmのピッチ間隔に配列して形成された多孔質のAlからなる膜である。相隣り合うナノホールに挟まれた部分の柱状の隔壁部(以降、隔壁部をアルミナ層と言う)は透明で光透過率が非常に高い。
【0012】
このような構造をなす陽極酸化アルミナ膜のナノホール内に紫外光又は青色光で励起して発光する発光物質を充填し、封止部材で封止して形成した発光体に紫外光、あるいは、青色光を照射すると発光物質が発光する。
発光物質から発光した光は、ナノホールの壁面から外に、つまり、ナノホールからアルミナ層に出射し、そして、アルミナ層から外部に出射される。勿論、発光物質を充填したナノホールからも外部に出射する。
陽極酸化アルミナ膜のナノホールは無数にあるので、ナノホールの壁面の総面積は非常に広い面積を占める。このため、ナノホールの壁面からの光の取出し面積は非常に広いものとなって、ナノホールの壁面からの出射光量は著しく増加する。そして、アルミナ層を透過して外部に出射する。これは、発光物質からの発光した光の取出し効率が各段と高められて、輝度が著しくアップする。
また、紫外光、あるいは、青色光が、アルミナ層を透過して発光物質にも入射するので発光効率を高めることができる。
このことによって、発光効率、光の取出し効率が各段と向上し、発光体の発光輝度を著しく高める効果を生む。
【0013】
また、本発明の発光体は、陽極酸化アルミナ膜の厚みが0.5〜30μmであり、ナノホールの孔径が20〜300nm、孔のピッチが50〜500nmであることを特徴とするものである。
【0014】
陽極酸化アルミナ膜の厚みは0.5〜30μmの範囲が好適である。厚みが0.5μmより小さいと紫外光や青色光の励起光の出射光量が多くなり、発光物質による発光した光の出射光量が相対的に少なくなり、明るさや発光色の色合いなどが変化してしまう。例えば、励起光に青色光を選択し、発光物質に後述するYAG系蛍光体を選択して組み合わせた場合に、青色光が強く現れて青っぽい白色光となってしまう。また、発光光量も少なくなって明るさも低下する。
また、厚みが30μmより大きいと、滅光する光量も多くなり、また、発光物質に紫外光や青色光の励起光が十分届かない部分も現れたりして、発光輝度が低下するようになる。また、陽極酸化処理の時間も長く要するのでコストアップも招く。
【0015】
ナノホールの孔径は20〜300nmの範囲が好適である。孔径は陽極酸化の酸濃度、電圧、時間などの条件で決まってくるが、20nmより小さくするのは製作上難しい。また、孔径を300nmより大きくすると、隔壁部の厚み(以降、アルミナ層の幅と言う)が細くなってアルミナ層の機械的な強度が弱くなる。つまり、膜としての強度が保持できなくなる。
【0016】
ナノホールのピッチは50〜500nmが好適である。ピッチはナノホールの孔径との関係において設定されるが、ピッチを50nmより小さくするとアルミナ層の幅が小さくなり、アルミナ層の機械的強度が得られない。また、500nmより大きくすると、光のムラが、つまり、発光色のムラが肉眼で見えるようになる。
【0017】
陽極酸化アルミナ膜の厚みやナノホールの孔径、孔のピッチは相互に関係し合って発光輝度や発光色などに影響を及ぼす。陽極酸化アルミナ膜の厚み、ナノホールの孔径、孔のピッチは、発光輝度や発光色を考慮して、上記の数値範囲の中で適宜に設定するのが望ましい。
【0018】
また、本発明の発光体は、発光物質が蛍光体又は燐光体の少なくとも1種からなることを特徴とするものである。
【0019】
紫外光又は青色光で励起して長波長の光を発光する蛍光体や燐光体が好ましい。このような蛍光体や燐光体は波長変換効率も優れているので発光光量を増すことができる。また、さまざまな発光色を得ることができる。
【0020】
また、本発明の発光体は、蛍光体がYAG系蛍光体であることを特徴とするものである。
【0021】
YAG系蛍光体は青色系の光に励起して黄色系の光を発光する。そして、青色系の光と黄色系の光が混色して白色系の光が得られる。
【0022】
また、本発明の発光装置は、上記で述べた陽極酸化アルミナ膜の発光体と紫外光又は青色光を出射する光源を有することを特徴とするものである。
【0023】
このような構成をとることにより、発光輝度の高い発光装置が得られると共に、さまざまな発光色が得られる発光装置を得ることができる。また、陽極酸化アルミナ膜の発光体と光源との一体化により、取扱いの容易さなどの効果を生む。
【0024】
また、本発明の発光装置は、光源の光出射側に陽極酸化アルミナ膜の発光体を配置することを特徴とするものである。
【0025】
この構成の下では、光源の光が直接的に、そして、多くの光量が陽極酸化アルミナ膜の発光体に入射する。そのため、光源光の利用効率も高められ、発光体の波長変換効率も高められて、輝度の高い発光装置を得ることができる。
【0026】
また、本発明の発光装置は、光源と陽極酸化アルミナ膜の発光体との間に空気層を有することを特徴とするものである。
【0027】
空気層を有することで、光源の発熱温度の発光体への熱伝導を低く抑えることができる。そして、発光物質の性能劣化を抑制することができる。長寿命化の効果を生む。
【0028】
また、本発明の発光装置は、光源がLEDであることを特徴とするものである。
【0029】
LEDを用いることで、輝度の高い、小型の発光装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の下では、明るく、輝度の高い発光体、並びに、発光装置を得ることができる。また、発光物質の性能劣化を抑制して長寿命化の効果を得る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る陽極酸化アルミナ膜の発光体を模式的に示した部分的な斜視図と断面図である。
【図2】図1に示す陽極酸化アルミナ膜の発光体の作用効果を説明する模式的に示した説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る陽極酸化アルミナ膜の発光体を用いた発光装置の模式的に示した要部断面図である。
【図4】特許文献1に記載された実装型LEDランプの要部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。
[第1実施形態]
最初に、第1実施形態に係る陽極酸化アルミナ膜の発光体について、図1、図2を用いて説明する。なお、図1は本発明の第1実施形態に係る陽極酸化アルミナ膜の発光体を模式的に示した部分的な斜視図と断面図で、図1(a)がその斜視図、図1(b)が断面図である。また、図2は図1に示す陽極酸化アルミナ膜の発光体の作用効果を説明する模式的に示した説明図である。
【0033】
図1において、1はAl材を陽極酸化(アルマイト)処理を行って形成した円筒状の微細孔なるナノホールである。2はナノホール1の外周に形成されたAlからなるアルミナ層である。アルミナ層2は透明性を有して光透過率が高い。5は陽極酸化アルミナ膜である。6はナノホール1内に充填された発光層、7は発光層6内の発光物質である。8はナノホール1の両側を封口する封止部材で、ナノホール1の両側、つまり、陽極酸化アルミナ膜5の上下面側に設けていて、発光物質7を含有した発光層6をナノホール1内に封止している。10は陽極酸化アルミナ膜の発光体である。
【0034】
陽極酸化アルミナ膜5は、複数のナノホール1と、このナノホール1の外周に形成されたAlからなるアルミナ層2から構成される。
また、陽極酸化アルミナ膜の発光体10は、陽極酸化アルミナ膜5のナノホール1内に発光物質7を含有した発光層6を充填して、陽極酸化アルミナ膜の上下面に封止部材8を設けて発光層6を封止した構成をなしている。
【0035】
陽極酸化アルミナ膜5は、純度の高いAl板を硫酸、シュウ酸、リン酸などの酸性電解溶液中で陽極酸化することでナノホール1とアルミナ層2が生成される。そして、生成後において、ナノホール1の下部にはバリア層と呼ばれる底部層が残るが、その底部層をエッチングで除去することで、図1に示す貫通孔なるナノホール1が形成された陽極酸化アルミナ膜5が得られる。
ナノホール1の孔径a、ピッチp、ナノホール1の深さ(ナノホール1の深さは陽極酸化アルミナ膜5の厚みtに相当する)は、陽極酸化に用いる酸性電解溶液の濃度、温度、並びに、陽極酸化電圧の印加方法や電圧値、時間などの処理条件によって制御が可能で、これらの処理条件を規制化することで、所要の孔径a、ピッチp、深さ(厚みt)、配列構造を得ることができる。
【0036】
また、孔径aはボアワイド処理を行うことで孔径を大きくすることが可能で、例えば、リン酸溶液に浸漬することで孔径に大きくすることができる。従って、浸漬時間などを管理することによって広げられる所望の孔径の大きさに制御することができる。
【0037】
また、ナノホール1の配列はハニカム状(ハチの巣状または正六角形状)に配列するのが好ましく、相隣り合うナノホール1のピッチpがみな等しくなり、また、相隣り合うナノホール1の間にあるアルミナ層2の幅もみな均一になる。
第1実施形態においては、ナノホール1の孔径aはみな同じ孔径にし、ナノホール1の配列はハニカム状に配列して相隣り合うナノホール1のピッチpの間隔は同じ間隔に配列している。
【0038】
ここで、ナノホール1の孔径は20〜300nmの範囲に、ピッチpは50〜500nmの範囲に、陽極酸化アルミナ膜5の厚みtは0.5〜30μmの範囲に抑えるのが好ましい。
【0039】
ナノホール1の孔径は20〜300nmの範囲が好適である。孔径は陽極酸化の酸濃度、電圧、時間などの条件で決まってくるが、20nmより小さくするのは製作上難しい。また、孔径を300nmより大きくすると、アルミナ層の幅が小さく(細く)なってアルミナ層の機械的な強度が弱くなる。つまり、膜としての強度が保持できなくなる。
【0040】
ナノホール1のピッチは50〜500nmが好適である。ピッチはナノホール1の孔径との関係において設定されるが、ピッチを50nmより小さくするとアルミナ層の幅が小さくなり、アルミナ層の機械的強度が得られない。また、500nmより大きくすると、光のムラ、つまり、発光色のムラが肉眼で見えるようになる。
【0041】
陽極酸化アルミナ膜5の厚みは0.5〜30μmの範囲が好適である。厚みが0.5μmより小さいと紫外光や青色光の励起光の出射光量が多くなり、発光物質による発光した光の出射光量が相対的に少なくなり、明るさや発光色の色合いなどが変化してしまう。例えば、励起光に青色光を選択し、発光物質に後述するYAG系蛍光体を選択して組み合わせた場合に、青色光が強く現れて青っぽい白色光となってしまう。また、発光光量も少なくなって明るさも低下する。
また、厚みが30μmより大きいと、滅光する光量も多くなり、また、発光物質に紫外光や青色光の励起光が十分届かない部分も現れたりして、発光効率が悪くなって発光輝度が低下するようになる。
【0042】
ナノホール1の孔径や孔のピッチ、陽極酸化アルミナ膜の厚みは相互に関係し合って発光輝度や発光色などに影響を及ぼす。ナノホールの孔径、孔のピッチ、陽極酸化アルミナ膜の厚みは発光輝度や発光色を考慮して、上記の数値範囲の中で適宜に設定するのが望ましい。
【0043】
次に、陽極酸化アルミナ膜の発光体10の発光層6を構成する発光物質7には、紫外光や青色光などの短波長で励起して長波長光を発光する蛍光体や燐光体が用いられる。
このような蛍光体物質としては、アルミン酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、ケイ酸塩蛍光体などの無機蛍光体や、ペリレン系蛍光体、アリルスルホンアミド・メラミンホルムアルデヒド共縮合染色物などの有機蛍光体などが挙げられる。
【0044】
この中でも、長期間使用可能な点から、無機蛍光体ではYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体であるアルミン酸塩蛍光体が好適である。
YAG系蛍光体は、イットリウム(Y)とアルミニウム(Al)を含み、セリウム(Se)で附活(附活剤)したものからなり、YAl12の化学式を持つ。このYAG系蛍光体は青色光に励起されてピーク波長560nmの黄緑色に発光する。そして、この黄緑色と青色光との混色によって白色光を得ることができる。
また、有機蛍光体ではペリレン系蛍光体が好適なものとして挙げられる。
【0045】
また、蛍光体物質の発光色としては、赤色蛍光体、緑色蛍光体、橙色蛍光体、青色蛍光体などさまざまな発光色の蛍光体があるので、仕様に応じて適宜な発光色の蛍光体を選択するのが好ましい。
【0046】
発光物質7は発光層6を構成して微細孔なるナノホール1内に充填される。そのために、発光物質7に無機蛍光体を用いる場合は、ナノホール1内に十分充填できる範囲でのナノ微粒子粉末にして用いられる。
【0047】
ナノホール1への発光物質7の充填方法の一方法としては、低沸点の溶媒にナノ微粒子粉末を混ぜ合わせた溶液に陽極酸化アルミナ膜5を浸漬し、ナノホール1内にナノ微粒子粉末入り溶液を充填する。その後に、加熱処理して溶媒を蒸発させることでナノホール1内に発光物質7を充填することができる。
この方法をとった場合は、発光層6はナノ微粒子粉末の蛍光体なる発光物質7のみで構成される。
【0048】
上記の充填方法の中で、透明な硬化性樹脂を加えることも可能である。例えば、熱硬化性樹脂、ナノ微粒子粉末、溶媒を混ぜ合わせた溶液に陽極酸化アルミナ膜5を浸漬してナノホール1内に充填し、加熱処理を施して溶媒を蒸発させると共に樹脂を硬化させることで、樹脂の中に分散した発光物質7が充填される。
この場合は、発光層6は樹脂と発光物質7とで構成される。
【0049】
発光物質7の充填方法で、浸漬して充填する方法以外の方法としては、電着方法、CVD法などの方法が挙げられる。
【0050】
なお、発光層6には、発光物質7以外に光拡散剤を含有させることも可能である。拡散剤としては、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化チタン(TiO)、アルミナ(Al)、酸化ケイ素(SiO)などが挙げられる。これらの拡散剤はいずれも微粒子粉末にして含有させる。
発光層6に拡散剤を含有させることで、発光物質7から発光した光が発光層6内で拡散され、ナノホール1の壁面からアルミナ層2に出射する光量が増すようになる。
【0051】
また、発光層6に着色剤を含有させることも可能である。着色剤としては様々な着色顔料があるので、求める仕様に応じて適宜な顔料を用いると良い。
着色剤を含有させることで所望の発光色に調整することができる。
【0052】
次に、封止部材8は、透明で絶縁性の樹脂膜や透明で絶縁性の金属酸化(例えば、SiO)膜などで形成する。
樹脂膜はスピンコート法、ロールコータ法、塗布方法などの方法で形成することができ、金属酸化膜は真空蒸着法、スパッタリング法などの方法で形成することができる。
【0053】
なお、発光層6を、上記で述べたように、硬化した樹脂と発光物質7とで構成した場合には、硬化した樹脂そのものが封止部材としての役割を果たすことができるので、新たに封止部材を設けなくても良く、樹脂が封止部材の代替え役割をなす。勿論、新たに封止部材を設けても何ら支障はないものである。
【0054】
次に、図2を用いて、第1本実施形態の陽極酸化アルミナ膜の発光体10の作用、効果を説明する。
図2において、Pは紫外光や青色光なる励起光で、矢印の方向、つまり、陽極酸化アルミナ膜の発光体10に向かって照射している。Qは無機蛍光体なる発光物質7が励起光Pによって励起されて波長変換を起こして発光した光を表している。見易くするために、代表して3つの光の線にのみ符合している。
【0055】
ナノホール1内の発光層6で、励起光Pによって発光物質7が励起して発光した光Qは四方、八方に放射する。ナノホール1がナノ単位の微細孔であるために発光層6内で滅光する光量は少なく、発光した多くの光量はナノホール1の壁面を透過してアルミナ層2に入射する。
アルミナ層2は透明で光透過率が非常に高いので、アルミナ層2内で滅光する光量は非常に少ない。そのため、アルミナ層2に入射した多くの発光光量はアルミナ層2を透過して外部(図2中において、陽極酸化アルミナ膜の発光体10の上面側の外部)へ、光Qとなって出射するようになる。勿論、隣り合う他のナノホール1に入射する光も現れるが、それらの光もナノホール1内を通過してやがてアルミナ層2に入射するようになる。
また、発光した光Qで、アルミナ層2に入射せずに発光層6を通過して外部に出射する光も現れる。
【0056】
図2に示すように、発光層6の発光物質7に入射する励起光Pは、陽極酸化アルミナ膜厚の発光体10の下面側から直接発光層6に入射する励起光Pと、下面側からアルミナ層2を透過して発光層6に入射する励起光Pがある。
アルミナ層2はナノホール1の発光層6の外周一周にわたって有しているので、アルミナ層2を透過して発光層6に入射する励起光Pの光量も多く、しかも、奥の方(ここでの奥の方とは、図中において、発光体10の下面の入射部位から見て、遠まった奥を指しており、上面に近い部位を指している)の発光層6にも入射するので、発光層6の厚み全体にわたって励起光Pが発光層6に入射する。そして、発光物質7を励起させる。
このため、発光層6に含有する多くの発光物質7が励起されるようになって発光する。これによって、発光効率は著しく高められ、そして、アルミナ層2や発光層6を通って外部に発光した光が出射するようになる。
【0057】
また、励起光Pで、そのままアルミナ層2を透過して外部に出射するのも現れる。そして、アルミナ層2内と外部で励起光Pと発光した光Qとが混ざり合う。
【0058】
ここで、ナノホール1の壁面の面積は発光した光Qの取出し光量に大きく影響し、発光の輝度を大きく左右する。ナノホール1の壁面の面積は、ナノホールの孔径a×π×陽極酸化アルミナ膜の厚みtで表されるが、壁面の面積が小さいと発光光量も少なく、かつ、発光した光の取出し光量も少なくなり、発光輝度は低くなる。逆に、面積が大きいと取出し光量は多くなり、発光輝度は高められる。
本発明においては、陽極酸化アルミナ膜の厚みtは0.5〜30μmの範囲に設定し、厚みtの最小値は0.5μmに制限する。これは、ナノホール1の壁面面積が小さいと、発光物質による発光した光Qの出射光量、即ち、発光した光Qの取出し光量が少なくなり、発光輝度が低くなるからである。また同時に、励起光の出射光量が多くなって、発光色の色合いが変化してしまうからである。
【0059】
壁面の面積を大きくする方法としては、ナノホールの孔径aを大きくする方法と陽極酸化アルミナ膜の厚みtを厚くする方法があるが、本発明においては、孔径aを20〜300nmの範囲に規制する中で、陽極酸化アルミナ膜の厚みtを0.5〜30μmと、孔径aの100倍近く厚く設定して、壁面の面積を大きくしている。
そして、厚みtの最大値を30μmに制限している。その理由は、厚みtが30μmより大きくなると、陽極酸化アルミナ膜の発光体10の上面側にある部位の発光物質7に励起光Pが十分行き届かなくなり、発光効率の低下などの問題が生じて発光輝度の低下が起きるからである。そのため、厚みtについては、max30μmを限度としている。
【0060】
陽極酸化アルミナ膜の厚みtを孔径aの約100倍近く大きく設定することで、発光した光の取出し光量が各段と増えて、高い発光輝度が得られるようにしている。
なお、ナノホールの孔径aを大きくする方法は、発光層6内で滅光する光も多く現れて、発光効率としては必ずしも良くならない。
【0061】
更に、ナノホール1はハニカム状に配列し、相隣り合うナノホール1のピッチpの間隔はみな等しい間隔に設定している。これによって、それぞれのナノホール1の周囲のアルミナ層2の幅はみな同じ幅で、均一な幅をなす。
このため、それぞれのアルミナ層2から外部に出射する出射光量に偏りがなく、均一な出射光量が得られる。このことは、励起光Pと発光した光Qとの混ざり合った光がそれぞれのアルミナ層2から均一光量の下で出射されるようになり、出射光量にムラが無くなり、輝度ムラが抑制される。
【0062】
また、励起光Pと発光した光Qとの混ぜ合わせで混色の発光色を得るような場合でも、混色した発光色の色むらが抑制される。
【0063】
例えば、励起光Pに青色光を用い、発光物質7に青色光に励起されてピーク波長560nmの黄緑色を発光するYAG系蛍光体を用いた場合、青色光と黄緑光との混色によって白色光が得られる。
YAG系蛍光体を用いて陽極酸化アルミナ膜の発光体10を構成することにより、色むらのない白色光が得られ、かつ、輝度の高い白色光が得られる。
【0064】
以上述べたように、発光効率のアップ、光の取出し効率のアップによって、従来技術で述べた構成と比較すると、発光輝度は2〜3倍のアップ効果が得られるようになった。また、発光色のムラも抑制する効果も得られる。
また、ナノホール1の孔径aをmax300nm、孔のピッチpをmin50nmに制限することで陽極酸化アルミナ膜5の機械的な強度も確保できる効果が得られる。
また、更なる効果として、薄型にできるという効果である。薄いシート化が可能になって、用途に応じて所要の大きさに切断して使用することができるようになり、利便性が非常に高められる。
【0065】
なお、図1に示した陽極酸化アルミナ膜の発光体10は、上下面の両方の面を封止部材8で封止した構造をとったが、片方の面はバリア層を残したままの状態に形成し、他方のナノホール1の開口側の面を封止部材8で封止する構造にしても良い。
バリア層は透明で光透過率も高いので、図1に示したい構造と同様の効果を奏する。また、この構造は、封止部材は片面のみの形成で良いので、製作コストも安くできる。
【0066】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態として、陽極酸化アルミナ膜の発光体を用いた発光装置について図3を用いて説明する。なお、図3は本発明の第2実施形態に係る陽極酸化アルミナ膜の発光体を用いた発光装置の模式的に示した要部断面図である。なお、前述の第1実施形態での構成部品と同一仕様をなす構成部品は同一符号を付与して説明する。
【0067】
図3において、1は陽極酸化アルミナ膜のナノホール、2は陽極酸化アルミナ膜のアルミナ層、5は陽極酸化アルミナ膜である。また、6は陽極酸化アルミナ膜5のナノホール1内に充填された発光層で、7は発光層6に含有する発光物質、8は発光層6を封止する封止部材である。10は陽極酸化アルミナ膜の発光体である。陽極酸化アルミナ膜の発光体10の構成は、前述の第1実施形態の構成部品と同じ構成部品を用いているので、その詳細説明は省略する。
【0068】
次に、21は基台、22、23は電極で、電流を供給して光源を点灯させる役割をなす。25は光源、24は光源25と電極22、23を接続する接合部材である。27は枠、28は空気層、30は発光装置である。
【0069】
発光装置30は、一対の電極22、23を設けた基台21上に接合部材24を介して光源25を取付け、光源25の外周域を枠27で囲い、枠27上に陽極酸化アルミナ膜の発光体10を配設した構造をなしている。そして、光源25の照射光が陽極酸化アルミナ膜の発光体10に向かって照射される構造をなしている。
【0070】
以下、第2実施形態の発光装置の仕様について説明する。第2実施形態の発光装置30は、光源25として青色発光のLEDを用いている。また、陽極酸化アルミナ膜の発光体10の発光物質7にはYAG系蛍光体を用いたものからなる。
【0071】
青色発光のLEDの代表的なものとしては、pn接合した窒化ガリウム(GaN)系化合物半導体が挙げられる。これは、発光波長が430nm付近でピーク波長を持ち、更に、370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。
また、YAG系蛍光体はイットリウム(Y)とアルミニウム(Al)を含み、セリウム(Se)で附活(附活剤)したものからなり、青色光に励起されてピーク波長560nmの黄緑色に発光する。そして、この黄緑色の光とLEDからの青色の光が混ざり合うことによって白色光が得られる。
【0072】
基台21は絶縁性を有した樹脂、セラミックなどからなる。光源25を搭載することから強度的に強固さを有する。
また、一対の電極22、23は導電性の良い銅や金などの金属から形成している。
なお、図3に示した一対の電極22、23はコの字型をした形状をなしているが、これは、実装型のランプユニットにしてマザーボードに取付けるための形状にしたものである。しかしながら、基台21と一対の電極22、23は、マザーボードそのものであっても良く、また他の形状をなしたものでも構わない。
【0073】
接合部材24は導電性の良い部材が用いられる。金や鉛などの融点の低い金属材料や導電性接着剤などが用いられる。
図3に示すLEDなる光源25と電極22、23との接続構造はフリップチップ構造をとっているものであるが、特にフリップチップ構造に限るものではなく、例えば、従来技術で用いられた導電性ワイヤーで接続する構造をとっても何ら支障はないものである。
【0074】
枠27は光源25の光が図中左右の横方向に逃げないようにするために設けており、枠27の内壁面または外壁面は反射手段を有して反射機能をもつ。樹脂やセラミックなどから形成している。
内壁面または外壁面に反射手段を持つことから、光源25の光で、枠27に入射する光は陽極酸化アルミナ膜の発光体10に向かって反射されるようになる。
また、枠27の上面には陽極酸化アルミナ膜の発光体10を接着剤を介して固定している。
なお、図3においては、枠27の形状は、内壁面が垂直に起立する形状としたが、内壁面を傾斜面を持った形状にして、枠27の傾斜面からの反射光が直接的に陽極酸化アルミナ膜の発光体10に入射し易いようにしても良い。
【0075】
空気層28は光源25から発する熱が直接陽極酸化アルミナ膜の発光体10に伝導するのを抑制するために設けている。空気層28を設けることで、陽極酸化アルミナ膜の発光体10の温度上昇を抑制し、発光物質7の性能劣化を防止している。
なお、光源25の発熱が低い状態で使用する場合には、特別に空気層28を設けなくても良いもので、枠27の内部に透明樹脂を埋め込んだ構造にしても構わない。
【0076】
第2実施形態においては、光源25には青色発光のLEDを用い、発光物質7にはYAG系蛍光体を用いて白色発光の発光装置を構成したものであるが、光源25は青色発光のLEDに限らず、紫外光や青色光を発するランプが用いられる。このようなランプとしては水銀ランプやLEDランプなどが挙げられる。また、エレクトロルミネッセンスを光源として用いることも可能である。
また、発光物質7はYAG系蛍光体に限るものではなく、紫外光や青色光で励起されて発光する蛍光体などが用いられる。得ようとする発光色の仕様に応じて適宜な蛍光体を選択すると良い。
【0077】
以上の構成をなした発光装置30は、陽極酸化アルミナ膜の発光体10と光源25とが一体になった発光装置を得る。従って、発光装置の取扱いも容易になり、また、機器への組立てにおける作業の容易さなどの効果を得る。
また、前述の第1実施形態で詳しく説明したことではあるが、陽極酸化アルミナ膜の発光体の働きによって輝度の高い発光装置が得られる。
また、発熱の高い光源を用いた場合でも、陽極酸化アルミナ膜の発光体への熱伝導を抑制して発光物質の性能劣化を防止し、発光装置30の寿命を延ばす効果を得る。
【符号の説明】
【0078】
1 ナノホール
2 アルミナ層
5 陽極酸化アルミナ膜
6 発光層
7 発光物質
8 封止部材
10 陽極酸化アルミナ膜の発光体
21 基台
22、23 電極
24 接合部材
25 光源
27 枠
28 空気層
30 発光装置
a 孔径
p ピッチ
t 厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化アルミナ膜を用いた発光体であって、前記陽極酸化アルミナ膜のナノホール内に少なくとも紫外光又は青色光で励起して発光する発光物質を充填し、封止部材で前記発光物質を前記ナノホール内に封止したことを特徴とする陽極酸化アルミナ膜の発光体。
【請求項2】
前記陽極酸化アルミナ膜の厚みは0.5〜30μmであり、前記ナノホールの孔径は20〜300nm、ピッチは50〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化アルミナ膜の発光体。
【請求項3】
前記発光物質は蛍光体又は燐光体の少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化アルミナ膜の発光体。
【請求項4】
前記蛍光体はYAG系蛍光体であることを特徴とする請求項3に記載の陽極酸化アルミナ膜の発光体。
【請求項5】
前記請求項1から4のいずれかに記載の陽極酸化アルミナ膜の発光体と紫外光又は青色光を出射する光源を有することを特徴とする発光装置。
【請求項6】
前記光源の光出射側に前記陽極酸化アルミナ膜の発光体を配置することを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
前記光源と前記陽極酸化アルミナ膜の発光体との間に空気層を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の発光装置。
【請求項8】
前記光源はLEDであることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−9450(P2011−9450A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151277(P2009−151277)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000131430)シチズン電子株式会社 (798)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】