説明

階層材料

【課題】 本発明は、高温で靭性が増強されるように設計された材料に関する。
【解決手段】 材料は、複数の構造要素(100)を含む。構造要素(100)は、一連の増大する構造要素サイズ階級で構成される。一連のサイズ階級は、基本単位サイズ階級(102)と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)とを有し、モジュラーサイズ階級(104)の1つの要素は、一連のサイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含む。基本単位サイズ階級(102)の構造要素は、少なくとも1つのバルク相(103)を含み、これらの構造要素(100)は、界面部(112)において互いに結合される。モジュラーサイズ階級構造要素(104)内で始まる機械的損傷(212)は、モジュラーサイズ階級構造要素(104)内に含まれる複数の構造要素間に分散されて伝播することがエネルギー的に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で使用するための材料に関する。より具体的には、本発明は、高温で靭性が強化されるように設計された材料に関する。本発明はまた、このような材料を作る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高温で適切な特性を維持する能力を有する材料が、例えば、宇宙船、発電所及び航空機エンジン用のタービン装置、並びに金属成形及びガラス吹き込み装置を含む幾つかの広範囲にわたる用途での使用において大いに求められている。例えば、ガスタービンを駆動するのに使用される燃焼ガスの温度が高くなると、タービンが発電可能な電圧効率は一般に高くなる。しかしながら、タービン構成部品を製造するのに使用される合金及び保護被覆は、通常、最新のタービン装置においては温度限界又はその近傍で作動し、このようなタービンの燃焼温度が僅かに上昇しても、例えば強度、耐酸化性、及び耐クリープ性を含む幾つかの特性のいずれかにおいてこれらの材料の性能が低下することになる。
【0003】
多くのセラミック材料は、一定の高温特性において金属類を容易に凌駕し、従って上述の合金類の限界に対する潜在的な解決策を提供する。一般のセラミックスは、高温用合金類よりも強く且つ軽量であり、環境による浸食及びクリープに対してはるかに効率的に耐える。しかしながら、セラミック材料は、損傷に対する許容範囲が狭いことに起因して、多くの工学的構造構成要素での使用は比較的僅かであった。過荷重時、特にセラミックが、亀裂、くぼみ、孔、又は他の不連続部などの形態の機械的損傷を含む状態においては、セラミックスは、脆弱で、急激な突発的破損を起こす傾向にある。セラミックスのような脆性材料は、全く塑性(永久)変形なしに破損することはほとんどない傾向があり、完全破壊を起こすのに要するエネルギー、すなわち当該技術分野において「靭性(タフネス)」と呼ばれることが多い量は比較的低い。他方、金属類及び合金類は、かなり大きな量の塑性変形を起こし、これが亀裂及びくぼみの形成を抑制し、現存する亀裂先端を鈍化し、或いは突発的破壊を事前に防いで損傷に対応するので、一般に破損するまでに比較的大量のエネルギーを必要とする。高い靭性を有する材料は、破損するまでに大量のエネルギーを「吸収」する能力に起因して、脆性材料よりもはるかに大きな程度まで損傷に耐える傾向がある。セラミックスによって提供される利点を利用する材料は、これが有用であるためには、全体的な靭性及び損傷許容性を高める何らかのメカニズムも有する必要がある。
【0004】
セラミックスを組み込んだ材料において必要とされる強度と靭性の均衡を達成するために、最も一般的に使用される方法の1つは、複数の材料がこれらの欠点を最小限にしながら利点を最適化するように結合された複合材料を開発することである。セラミックスを利用して数種の複合材料が開発されてきた。例えば、金属マトリクス複合材料は、アルミニウム又はニッケル合金のような強靭で延性のある金属を含み、これには、柔らかな金属を強化する硬く強いが脆弱なセラミックが含まれる。セラミックを組み込むと、複合材料の強度が高くなり、他方、延性のある金属マトリクスの存在により、必要とされるレベルの靭性と損傷許容性とが維持される。従って、金属マトリクス複合材料においては、応力を吸収することによって靭性を高めるのに使用されるメカニズムは、金属マトリクスの塑性変形である。
【0005】
セラミックマトリクス複合材料は、マトリクス中に強靭な金属相を含まず、従って金属マトリクス複合材料とは異なる強靭化メカニズムを一般に用いている。例えば、ファイバ強化されたセラミックマトリクス複合材料においては、材料の界面層は、ファイバとマトリクスとを含むそれぞれの材料よりも弱く設計される。このような状況においては、応力エネルギーは、モノリシックセラミックスにおいて一般に観察されるような大きな亀裂の形成及び急速で突発的な伝播によってではなく、ファイバ界面部に沿った多数の小さな亀裂の形成及び伝播、マトリクス内のファイバの摩擦滑動、及び他の破損モードにより、吸収して破損を遅らせることができる。従ってセラミックマトリクス複合材料は、より緩慢でより漸増的な破損を可能にする破損メカニズムを組み込むことにより、塑性変形の無い状態で強化することを試みている。
【特許文献1】特表2003−531269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のセラミックマトリクス複合材料(CMC)は、モノリシックセラミック材料よりも優れた靭性及び損傷許容性における改善を示したが、セラミック材料によって提供される利点を十分に利用する能力を損なう問題が依然としてある。複合材料は、一般に混合物中では最低の性能となる成分と同程度の性能しか全体的に発揮しない混合物である。例えば、ファイバ材料における不十分な耐酸化性は複合材料全体の耐酸化性を低下させることになり、これは強化ファイバの優先的劣化が材料全体の特性に対して大きく影響を及ぼすためである。要求された用途に耐えるような高温能力と十分な損傷許容性とを備えた材料の改善に対する必要性があることは明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、上記及び他の必要性に対処するものである。1つの実施形態は、複数の構造要素から構成される材料である。この構造要素は、一連の増大する構造要素サイズ階級で構成される。一連のサイズ階級は、基本単位サイズ階級と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級とを有し、少なくとも1つのモジュラーサイズ階級の1つの要素は、一連のサイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含む。基本単位サイズ階級の構造要素は、少なくとも1つのバルク相を含み、これらの構造要素は、界面部において互いに結合される。モジュラーサイズ階級構造要素内で始まる機械的損傷は、モジュラーサイズ階級構造要素内に含まれる複数の構造要素間に分散されて伝播することがエネルギー的に好ましい。
【0008】
第2の実施形態は、上記の材料から構成される物品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のこれら並びに他の特徴、態様、及び利点は、図面全体を通じて同じ参照符号が同じ要素を示す添付図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことにより、一層よく理解されるであろう。
【0010】
添付図面全体及び特に図1を参照すると、各図は、本発明の例示的な実施形態を説明する目的のものであり、本発明を限定するものではない点が理解されるであろう。図1は、本発明による材料の概略図である。この材料は、増大する一連の構造要素サイズ階級で構成される複数の構造要素100を含む。本発明の実施形態によれば、構造要素は、本発明の材料が構成される構造体の単位であって、これから材料が作られる「建築用ブロック」に例えることができる。本明細書で使用される「サイズ階級」とは、要素の階級を意味し、その階級の各要素が階級全体の平均特性長の約25%以内の特性長を有する。特性長は、例えば、円形断面を有する要素の直径、又は矩形断面を有する要素の縦辺又は横辺の長さなどの、構造要素を特徴付けるために全てのサイズ階級にわたり一貫して適用される構造要素の任意の便宜上の寸法である。
【0011】
この一連の構造要素サイズ階級は、基本単位サイズ階級102と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級104とを有する。基本単位サイズ階級は、材料の最小特性長を有する構造要素を含む。従って、基本単位サイズ階級102の要素は、材料の基本的な構造要素である。種々の構造の内のいずれもが、例示的な実施例として、一般的なコンポジット積層法において使用される種類のファイバ、通常リソグラフィ法で製造されるような堆積材料のバンド、及び分子自己集合プロセスにおいて使用されるタイプの分子の自己集合化階級クラスタを含む、基本単位サイズ階級構造要素として機能するのに好適である。基本単位サイズ階級構造要素は、少なくとも1つのバルク相103を含む。幾つかの実施形態においては、バルク相103は、セラミック、有機材料、及び金属の内の少なくとも1つを含む。幾つかの実施形態においては、バルク相103は、1つのセラミック材料を含み、このセラミック材料は、ホウ化物、窒化物、酸化物、炭化物、ケイ化物、ケイ酸塩、及びそれらの混合物並びに化合物の内の少なくとも1つを含む。適切なセラミック材料の具体的な例としては、限定ではないが、炭化ケイ素、炭化チタニウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭素化モリブデン、炭化タンタルム、窒化ケイ素、酸窒化シリコンアルミニウム、窒化アルミニウム、窒化チタニウム、2ホウ化チタニウム、2ケイ化モリブデン、酸化アルミニウム、及びケイ化アルミニウムが含まれる。
【0012】
少なくとも1つのモジュラーサイズ階級104の要素は、一連の構造要素サイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含む。適切なモジュラーサイズ階級の構造要素の例としては、限定ではないが、複数の共押出し加工ファイバを含むフィラメント、複数の前記フィラメントを含む材料の積層ブロック、フォトリソグラフィ法又は他のパターン形成堆積プロセスを使用して製造される材料の複数のバンドを含む層、複数の前記層を含む材料のブロック、自己集合化分子クラスタの自然発生的集合から生じる円筒状チューブ、及び複数の前記チューブを含むフィラメントが含まれる。従って、本発明の材料は、多レベルの階層的材料であって、この場合、基本単位サイズ階級の構造要素が集合化してより大きなモジュラー階級構造要素を形成し、幾つかの実施形態においては、次いで該モジュラー階級構造要素が集合化して、更に大きなモジュラー階級構造要素を形成し、このプロセスが一連の構造要素サイズ階級において最も大きなサイズ階級に達するまで繰り返される。
【0013】
図1に示す例示的な実施形態においては、複数の構造要素100は、一連のレンガ状要素として断面で示されているが、例えば材料のファイバ又はバンドがそうであるように、各「レンガ」は、実際には図示された断面投影に対して垂直方向で半無限的に広がることができる点は理解されるであろう。最大サイズ階級106の典型的な「レンガ」は、次に小さなサイズ階級108の複数の「レンガ」を含み、このサイズ階級108の「レンガ」は、基本単位サイズ階級110の複数の「レンガ」を含む。従って、例示的な実施形態は、その材料の構造要素が、一連の3つの増大する構造要素サイズ階級で構成されるので、3レベル階層的材料である。これとは対照的に、典型的なレンガ壁は、1つのサイズ階級の構造要素(レンガ)だけを含むので、単一レベルの「階層」と考えることができる。
【0014】
本発明の実施形態においては、一連の漸次的に増大する構造要素サイズ階級において許容されるサイズ階級の数には、選択された製造法によって課せられる実際的な制限が生じる場合もあるが、理論上はどのような上限も存在しないことは、当業者には理解されるであろう。幾つかの実施形態においては、一連のサイズ階級におけるサイズ階級の数は、少なくとも2つであり、特定の実施形態においては、3から5の範囲内である。以下に説明するように、1つより多いサイズ階級を有することは、材料全体への損傷の拡がりを有意に緩慢にし、且つ突発的破壊を事前に防止するのに役立ち、従来のセラミック材料においては通常得られない破壊発生前に損傷を検出する機会を提供する。
【0015】
基本単位サイズ階級構造要素のサイズは、これらの要素を生成するのに使用されるプロセスが許容する制御の程度に依存する。例えば、一般に使用される分子自己集合法は、約10nm程度の平均特性長を有する分子クラスタのような構造要素を製造できるが、従来のファイバ製造法及びリソグラフィ法は、一般にマイクロメートル長程度の最小特性長に限定される。他方、材料中の構造要素の最大サイズ階級は、当該材料から作られる要素の実寸法によってのみ限定される。
【0016】
図1に示すような特定の実施形態においては、実質的に構造要素100の全て、すなわち材料の所与のサンプル内の要素100の約80%よりも多くは、実質的に同様の形状を有するが、こうした条件は、該材料の全般的な動作性には必ずしも必要ではない。構造要素100の形状は、例えば図1に示す要素100の矩形形状のような、断面の幾何形状によって特徴付けられる。本明細書で使用する用語「実質的に同様な形状」とは、構造要素のサイズは異なるが、1つのサイズ階級の要素の全般的な幾何形状が、異なるサイズ階級の要素の幾何形状から異なるものとして当業者がみなす程度までは変わらないことを意味している。例えば図1に示すような要素のレンガ状断面は、例えば、様々なサイズ階級の要素間で厳密な直角からの軽微なずれ及び角部の幾分阿かの丸みが認められたとしても、実質的に同様の矩形として当業者であればみなすであろう。限定ではないが、矩形断面及び円形断面を含む様々な断面形状が、構造要素100としての使用に適している。
【0017】
一連の構造要素サイズ階級内の全てのサイズ階級の構造要素100は、構造要素を互いに結合させるために、例えば機械的に連結された界面部、化学的に結合された界面部、及び機械的連結と化学的結合の組合せを使用する界面部などの界面部112において互いに結合される。界面部112は通常、例えば3つの次元全てにおいて結合させる界面部のように、構造要素100を1つより多い次元において結合する。化学的に結合される界面部は、バルク相103とは異なり、構造要素100を互いに結合させる際の接着剤として作用する少なくとも1つの界面相を含む。幾つかの実施形態においては、構造要素100を互いに結合するのに使用される少なくとも1つの界面相は、セラミック、ガラスセラミック、炭素、及びこれらの組合せから成る群から選択された材料を含む。界面相のための適切なセラミック材料の例としては、限定ではないが、六方晶窒化ホウ素、リン酸ランタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、チタン炭化ケイ素(TiSiC)、シリカ、ジルコニア、及びこれらの材料の内のいずれかの混合物や化合物が含まれる。幾つかの実施形態における界面相は、どのサイズ階級の構造要素が結合されるかに拘わらず、材料全体にわたって同一である。図2に示すような別の実施形態においては、第1のサイズ階級204の構造要素を結合している界面部202は、第2のサイズ階級208の構造要素を結合している界面部206とは異なる材料を含む。本明細書における用語「第1」及び「第2」の使用は、一連の要素サイズ階級におけるサイズ階級の絶対的又は相対的位置を指すものではなく、一連の構造要素サイズ階級におけるこれらの位置に関係なく、あるサイズ階級を他のサイズ階級から区別するために使用されるに過ぎない点は理解されるであろう。特定の実施形態においては、各サイズ階級の構造要素は、そのサイズ階級を結合している界面部に特有の材料を含む界面部によって互いに結合される。例えば、3つのサイズ階級の構造要素を有する材料においては、基本単位サイズ階級要素は、第1の材料を含む界面部によって互いに結合され、これら基本単位サイズ階級要素のみを含むモジュラーサイズ階級要素(すなわち、一連の要素サイズ階級の次のサイズ階級)は、第2の材料を含む界面部によって互いに結合され、最大サイズ階級要素は、第3の界面部材料によって互いに結合され、これら第1、第2、及び第3の界面部材料は互いに異なる。
【0018】
界面相の作製は、例えば被覆法及び浸潤法を含む幾つかの既知の方法のいずれかによっても容易に達成される。被覆法は、界面相としての使用が望まれる材料で構造要素を覆うために使用され、次に被覆された要素が共にパックされ、被覆材料が該パックされた構造要素間の間隙内に配置されるようになる。例えば、モノリシックセラミックファイバは、所望の界面材料で被覆され、次に未完成状態(すなわち、機械的処理を可能にする結合剤及び可塑剤をまだ含有する状態)にある複数の被覆済みファイバが共押出し加工されて、界面相(ファイバ上に被覆された材料)によって互いに結合された複数の基本単位構造要素(モノリシックファイバ)を含むフィラメントが形成される。本発明の実施形態によれば、モジュラーサイズ階級要素であるこのフィラメントは、次に第2の界面相になることが望ましい材料で被覆され、複数のこのようなフィラメントが共押出し加工されて、界面相(第2の界面相)によって互いに結合された複数の構造要素(より小さなフィラメント)を含むより大きなサイズ階級のフィラメントが形成される。別の実施形態においては、界面材料は、リソグラフィ法により所望の材料を選択的に堆積させ、場合によっては、界面材料を受けるための界面領域を生成するため先行して選択的エッチング処理を行うことにより作製される。代替的に、幾つかの実施形態においては、界面材料は、例えばバルク相がメソポーラスセラミック酸化物である場合のように材料全体にわたる多孔性ネットワークに浸潤させることによって所望の位置に堆積され、界面材料は、その酸化物のメソポーラスネットワークに真空浸潤によって浸潤される。被覆法には、限定ではないが、化学蒸着法、物理蒸着法、スプレー法又は浸漬法による施工、ゾル−ゲル処理法、及びこれらに類する方法が含まれる。
【0019】
他方、機械的に連結される界面部は、構造要素の結合を達成するために界面相の存在には依存せず、代わりに、結合を生じ且つ維持するために、構造要素の表面間の機械的相互作用に依存する。幾つかの実施形態においては、機械的に連結される界面部は、一連の滑動及び連結事象を通して非弾性的変形に適応する凸凹として知られる粗い特徴部を有する。材料のバルクにより横方向に規制を受ける界面部での一連の滑動及び連結によって、ひずみ硬化を伴う残留変位が生じる。界面部に沿った滑動プロセスは、応力集中を緩和し、従って主要亀裂の形成を遅らせるが、応力集中作用は、近隣界面部に沿った複数の部位が活性化され、該プロセスに参加することを可能にする。これらの実施形態においては、界面部に沿った凸凹の振幅及び波長は、複数の部位の形成を可能にするのに十分な大きさであるが、応力集中及び当該材料の破壊を引き起こすのに十分な大きさの局所的連結事象を生じるのに十分なほど大きくないように設計される。例えば、0.01乃至0.1の摩擦係数下で界面滑動が生じると、上記諸因子の適正バランスを達成するために、凸凹は、振幅が約20乃至50nm、約50乃至200nmの波長だけ離間する必要があることは当該技術分野において公知である。そのような連結界面部の例は、マザーオブパールとしても知られている、真珠層の構造に見出すことができる。成形された(焼結されてはいない)粉末及び共押出し加工されたファイバ(界面相が加えられていない)は、工学材料内で機械的に連結された界面部により結合された構造要素の例である。
【0020】
階層構造及び特定のバルク相の組合せ並びに界面相材料選択は、モジュラーサイズ階級構造要素内で生じる、例えば亀裂、くぼみ、孔などの機械的損傷が、モジュラーサイズ階級構造要素内に含まれる複数の構造要素間に分散された方式で伝播するのにエネルギー的に優先される状態、すなわちより少ない仕事量しか必要としない有利な条件を本発明の材料内に生成する。本発明の幾つかの実施形態においては、界面部112の特性を操作することにより、この分散破損モードを達成する。図2を参照すると、幾つかの実施形態においては、モジュラーサイズ階級構造要素208を互いに結合する界面部206の靭性は、モジュラーサイズ階級構造要素208内に含まれる複数の構造要素204を互いに結合する界面部202の靭性よりも大きい。上述のように、靭性は、材料の完全破壊を引き起こすのに要する仕事量、すなわちエネルギーを意味する当該技術分野においてよく知られた用語である。従って、材料内で最も容易に破壊され易い、すなわち損傷が最も伝播し易い界面部は、基本単位サイズ階級要素204を結合している界面部であって、これらの界面部は、該界面部によって互いに結合される構造要素のサイズ階級が増大するにつれて、多くの場合は材料を選択することによって漸増的に強靭になるように設計される。加えて、モジュラーサイズ階級構造要素208を互いに結合する界面部206の靭性は、少なくとも1つのバルク相210の靭性よりも小さく、従って、材料の最も強靭な部分、すなわち損傷の伝播が最も起こりにくい区域は、基本単位サイズ階級要素210を含む材料である。このようにして、損傷212は、従来のセラミック材料において一般的な材料を直接通じてではなく、最小サイズ階級構造要素の界面部202によって生成される高度に複雑な通路に沿って伝わることがエネルギー的に優先され、結果として、材料全体の完全破壊を生じさせるためには、より多くのエネルギーが必要とされるようになる。破局的亀裂の伝播は、構造要素間の多数の界面部による亀裂鈍化及び偏位によって抑制され、これによって、材料が損傷時でさえも一体性を保持することができるより分散的な破壊モードを提供する。従って、本発明の材料は、セラミック材料の利点を利用するが、これらの材料が一般に示すよりも有意に高い靭性を有する。
【0021】
界面部112(図1)の靭性などの特性は、この界面部112の化学的組成の操作、物理的構造の操作、或いはこれらの両方を組み合せることにより制御することができる。例えば、窒化ホウ素(BN)を含む界面部は、基本単位サイズ階級要素を互いに結合してモジュラーサイズ階級要素を形成するのに使用される。本発明の実施形態によれば、モジュラーサイズ階級要素は、BNよりも強靭な、酸化アルミニウムとBNとの混合物を含む界面部において互いに結合されて、BN界面部に沿った損傷伝播にとってエネルギー的に有利である材料を形成する。
【0022】
また、界面部の靭性を制御するために界面部の構造を操作することができる。例えば、幾つかの実施形態においては、界面部112は、所定の有孔性レベルを有する材料を含む。特定の実施形態においては、界面部112の有孔性レベルは、この界面部112に対応する構造要素100のサイズ階級の関数として変化する。例えば、幾つかの実施形態においては、化学的に結合される界面部(すなわち、1つの界面相を含む界面部)は、焼結された材料を含む。例えば、焼結の温度、時間、及び出発材料のような焼結パラメータを制御することにより、焼結される材料の有孔性、すなわち本実施形態における界面部の有孔性を所望のレベルに制御することができる点は当業者には理解されるであろう。界面相として使用されることになる材料を構造要素上に配置するのに被覆法又は浸潤法が使用される場合には、有孔性レベルを制御して所望の結果を達成するために公知の関係に従って処理パラメータが操作される。一般に、界面部の有孔性が高いほど、界面部において結合部位を形成する材料が少なくなるので、界面部はより弱く靭性が低下する。
【0023】
本発明の他の実施形態は、本明細書で説明されたような本発明の材料を含む物品を含む。特定の実施形態においては、物品は、限定ではないが、タービンブレード、ベーン、シュラウド、及び燃焼器構成部品を含むガスタービン組立体の構成部品を含む。
【0024】
本発明の実施形態による材料及び物品は、限定ではないが、自己集合法、従来的な積層法、及びリソグラフィ法を含む当業者には公知の様々な方法の内のいずれかを使用して製造される。分子自己集合法は、「ボトムアップ型」の製造方法であって、強い極性を有する化学的前駆材料が自己整列して、前駆材料分子間の静電相互作用により集合した予測可能な周期的構造体になる。前駆材料の選択に応じて、この集合は、自然発生のものとすることができ(自然に生じる相互作用によって)、或いは外部の電界、磁界、又は他の場、すなわち「誘導自己集合」として知られる方法を作用させることにより誘導することができる。幾つかの方法においては、構造体の集合を、例えば、ファイバ、シート、及び球体のような有用な三次元の幾何形状の集合を誘導するために、自然発生的自己集合と誘導自己集合の組合せを使用する。材料が少なくとも1つのバルク相と少なくとも1つの界面相とを含む場合のような、本発明の実施形態と一致する多相構造体は、非限定的な一例として、バルク相を集合させてメソポーラス「フレーム構造」を形成し、次いで上述のように細孔に界面相を浸潤させることによって得ることができる。界面相材料はまた、当該技術分野においてよく知られた多くの好適な方法のいずれかを使用して、少なくとも1つのバルク相を含む粒子又は集合体の表面上に前述のように被覆することができる。処理手順の種々の段階においては、前駆材料を中間又は最終組成物に変えるために、様々な変換段階を使用することができる点は当業者であれば理解されるであろう。変換工程は、熱、他の化合物、電磁放射線、及び化学的組成変化を生じさせるのに好適な他の外的影響に対して暴露することを含む。分子自己集合法の結果として、分子状前駆材料から材料の三次元的階層が構成され、次に、限定ではないが、押出し加工、射出成形、及びこれらに類した方法を含む幾つかの適切な方法のいずれかにより、所望の形状に形成することができる。
【0025】
複合材料を加工するための積層法は、当該技術分野においてよく知られており、本発明の材料の製造に使用するのに適している。非限定的な1つの実施例としては、ファイバ間の間隙に配置された第1の界面材料を有する(例えば、押出し加工に先立ってファイバ又はロッドを界面材料で被覆するなどして)多様な断面形状の内のいずれかの形状のモノリシックセラミックファイバ又はロッドが、共押出し加工されてフィラメントを形成し、ここで各フィラメントは第1の界面材料により互いに結合された複数のファイバを含む。次いで、これらのフィラメントは、互いに積層され、共押出し加工され、或いは、他の処理を施して一連の構造要素の次のレベルの構造要素を形成するときに、フィラメントを互いに結合させる界面材料として働く第2の界面材料の層で被覆される。この第2の界面材料は、フィラメント内に含まれる構造要素間で損傷の分散を促進する(例えば、第1の界面材料によって定められる通路に沿って)ために、上述の本発明の幾つかの実施形態による靭性などの特性を有するように選択される。
【0026】
フォトリソグラフィ法及び他のリソグラフィ法は、本発明の材料の製造に使用するのに適した別の種類の公知の製造法である。これらの方法は、目標とされるエッチングと選択的材料堆積の組合せを使用して基材上に所望のパターンを形成する。このパターンは、二次元又は三次元パターンとすることができ、パターン形成を必要な回数だけ反復することにより所望の厚さにすることができる。公知の選択的堆積及びエッチング法を適切に使用することにより、様々な構造要素及びこれに対応する界面部の製造が可能となる。例えば、バルク相材料の層を基材上に堆積して、次いで選択的エッチング処理を行い一連の近接して離間されたバルク相のストライプが形成される。これらのストライプは、製造されている材料中の基本単位サイズ階級構造要素である。次に第1の界面材料が、ストライプ間の間隙内に選択的に堆積される。第1の界面相と結合されるバルク相のこの層は、モジュラーサイズ階級構造要素である。次いで、この層は、靭性が第1の界面相よりも高いが、バルク相よりも低い第2の界面材料で被覆され、次に前の層と同様に、第2の界面材料の上にバルク相/第1の界面材料の別の層が堆積される。所望の厚さの階層材料を形成するようこの作業パターンが反復される。
【実施例】
【0027】
以下の実施例は、本発明の実施形態を更に記述し且つ明らかにするために提示するものであって、本発明の範囲をどのようにも限定するものとして理解すべきではない。
【0028】
図3を参照すると、コンピュータシミュレーションは、本発明の実施形態による材料500の作用をモデル化するよう設計されている。基本単位サイズ階級502の構造要素は、矩形断面のレンガ状要素であって、これらのレンガ状要素502は、各モジュラーサイズ階級要素504が1段につき6つのレンガ状要素502からなる5段で構成されるように矩形状モジュラーサイズ階級要素504に編成された。レンガ状要素502を互いに結合する第1の界面材料508は、モジュラーサイズ階級要素504を互いに結合する第2の界面材料510の靭性の0.1倍、並びにレンガ状要素502自体の靭性の0.01倍の靭性を有するようにモデル化された。このシミュレーションでモデル化された材料500は、1段につき3つの構造要素504で5段のモジュラーサイズ階級要素504からなるものであった。このモデルは、材料500に印加された一軸応力512をシミュレーションし、この場合、一方の端部のモデル材料の界面は固定され、反対側の端部には一定変位量が加えられ、ある固定変位量ずつ段階的に増大させた。この反対側端部における応答荷重が、各段階で計算され、モデルが材料破壊を示すまで、変位を段階的に増大させた。比較のために図4を参照すると、レンガ状要素602と該レンガ状要素を互いに結合する界面材料のみからなる第2のシミュレーション材料600がモデル化された。この比較材料600は、本発明の材料内に存在するモジュラーサイズ階級構造要素504が無い点を除けば、界面条件は同一であった。従って、第2のシミュレーション材料600は、単一レベル「階層」をモデル化したものであり、第1の材料500は、2レベル材料階層をモデル化したものである。
【0029】
シミュレーションの結果は、本発明の材料が単一レベル階層材料よりも優れていることを明らかに示した。図5は、曲線Aで表す2レベル階層材料500(図3)、及び曲線Bで表す単一レベル材料600(図4)の荷重−変位データを示している。曲線Aは、曲線Bよりも大きな強度(曲線の相対的高さ)及び靭性(曲線の面積)を明示しており、本発明の材料の階層構造及び材料選択によって、一層優れた機械的特性が得られることを証明している。
【0030】
本明細書では様々な実施形態について説明してきたが、これらの実施形態における要素の様々な組合せ、変形、均等物、又は改善を当業者が行うことができ、更に依然として本発明の範囲にあることは、本明細書から理解されるであろう。請求項で使用されている参照符号は、本発明の範囲を狭めるものではなく、本発明の理解を容易にするためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の例示的な実施形態の概略断面図。
【図2】本発明の例示的な実施形態の概略断面図。
【図3】本発明の幾つかの実施形態によるシミュレートされた2レベル階層材料の概略断面図。
【図4】シミュレートされた1レベル階層材料の概略断面図。
【図5】図3及び図4に示す材料に対するコンピュータシミュレーション試験で生成された荷重―変位データを示すグラフ図。
【符号の説明】
【0032】
100 構造要素
102 基本単位サイズ階級
103 バルク相
104 モジュラーサイズ階級
112 界面部
212 機械的損傷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本単位サイズ階級(102)と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)とを有する一連の増大する構造要素サイズ階級で構成された複数の構造要素(100)を備え、
前記少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)の1つの要素が、前記一連のサイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含み、
前記基本単位サイズ階級(102)の構造要素が、少なくとも1つのバルク相(103)を含み、
前記構造要素(100)が界面部(112)において互いに結合され、
前記モジュラーサイズ階級構造要素(104)内で始まる機械的損傷(212)は、前記モジュラーサイズ階級構造要素(104)内に含まれる前記複数の構造要素間に分散されて伝播することがエネルギー的に優先されることを特徴とする材料。
【請求項2】
モジュラーサイズ階級構造要素(208)を互いに結合する前記界面部(206)の靭性が、前記モジュラーサイズ階級構造要素(208)内に含まれる前記複数の構造要素(204)を互いに結合する前記界面部(202)の靭性よりも大きく、
前記モジュラーサイズ階級構造要素(208)を互いに結合する前記界面部(206)の靭性が、少なくとも1つのバルク相(210)の靭性よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記界面部(112)が、機械的に連結された界面部、化学的に結合された界面部、及びこれらの組み合せから成る群から選択される請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記界面部(112)が化学的に結合された界面部を含み、前記界面部(112)が少なくとも1つの界面相を含む請求項3に記載の材料。
【請求項5】
第1のサイズ階級(204)の構造要素を互いに結合する前記界面部(202)が、第2のサイズ階級(208)の構造要素を互いに結合する界面部(206)と異なる材料を含む請求項4に記載の材料。
【請求項6】
前記界面相が、セラミック、ガラスセラミック、炭素、及びこれらの組合せから成る群から選択された材料を含む請求項4に記載の材料。
【請求項7】
前記界面相が、六方晶窒化ホウ素、リン酸ランタン、酸化アルミニウム(アルミナ)、チタン炭化ケイ素(TiSiC)、シリカ、ジルコニア、及びこれらの材料のいずれかの混合物及び化合物の少なくとも1つを含む請求項6に記載の材料。
【請求項8】
前記化学的に結合される界面部が焼結材料を含む請求項3に記載の材料。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバルク相(103)が、セラミック、有機材料、及び金属の内の少なくとも1つを含む請求項1に記載の材料。
【請求項10】
前記セラミックが、窒化物、酸化物、炭化物、ケイ化物、ケイ酸塩、及びこれらの混合物の内の少なくとも1つを含む請求項9に記載の材料。
【請求項11】
前記セラミックが、炭化ケイ素、炭化チタニウム、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭素化モリブデン、炭化タンタルム、窒化ケイ素、酸窒化シリコンアルミニウム、窒化アルミニウム、窒化チタニウム、2ホウ化チタニウム、2ケイ化モリブデン、酸化アルミニウム、及びケイ化アルミニウムを含む請求項10に記載の材料。
【請求項12】
基本単位サイズ階級(102)と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)とを有する一連の増大する構造要素サイズ階級で構成された複数の構造要素(100)を備え、
前記少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)の1つの要素が、前記一連のサイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含み、
前記基本単位サイズ階級(102)の構造要素が、窒化物、酸化物、炭化物、ケイ化物、ケイ酸塩、及びこれらの混合物の内の少なくとも1つから構成される少なくとも1つのバルク相(103)を含み、
前記構造要素(100)が、セラミック、ガラスセラミック、炭素、及びこれらの組合せから構成される少なくとも1つの界面相を含む化学的に結合される界面部(112)において互いに結合され、
モジュラーサイズ階級構造要素(208)を結合する前記界面部(206)の靭性が、前記モジュラーサイズ階級構造要素(208)内に含まれる前記複数の構造要素(204)を互いに結合する前記界面部(202)の靭性よりも大きく、
前記モジュラーサイズ階級構造要素(208)を互いに結合する前記界面部(206)の靭性が、前記少なくとも1つのバルク相(210)の靭性よりも小さいことを特徴とする材料。
【請求項13】
基本単位サイズ階級(102)と少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)とを有する一連の増大する構造要素サイズ階級で構成された複数の構造要素(100)から構成される材料を含み、
前記少なくとも1つのモジュラーサイズ階級(104)の1つの要素が、前記一連のサイズ階級において次に小さなサイズ階級の複数の要素を含み、
前記基本単位サイズ階級(102)の構造要素が、少なくとも1つのバルク相(103)を含み、
前記構造要素(100)が、界面部(112)において互いに結合され、
前記モジュラーサイズ階級構造要素(104)内で始まる機械的損傷(212)にとって、前記モジュラーサイズ階級構造要素(104)内に含まれる前記複数の構造要素間に分散されて伝播することがエネルギー的に好ましいことを特徴とする物品。
【請求項14】
前記物品がガスタービン組立体の構成部品である請求項13に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−342026(P2006−342026A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−170022(P2005−170022)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】