説明

集積回路およびその製造方法

【課題】 ポリマー系有機半導体材料を用いたp型FETを用いて実用的集積回路を構成できるようにすること。
【解決手段】 集積回路を構成するトランジスタとしてp型FETのみを用いたものである。基本回路の例として(a)インバーター回路、(b)AND回路、(c)OR回路を示す。同図において、1〜12はp型FETである。p型FETだけで構成し、出力部にもp型FETのみを用いたソースフォロワ回路を用いたアナログアンプも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー系p型有機半導体材料を用いた電界効果トランジスタを用いた集積回路に係り、特にポリマー系有機半導体を用いることで、インクジェット印刷法などの簡便な方法で作製できる有機半導体トランジスタを用いた増幅回路やディジタル回路、さらにそれらを用いた液晶ディスプレイなどの駆動素子などに適用可能な集積回路およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリマーでなくオリゴマーについてはpn両極材料を用いたC型FET(コンプリメンタリ型電界効果トランジスタ)の構成についての特許は数多く出願されている。たとえば、ルーセント テクノロジーズ インコーポレイテッドによって出願された特開2002−324931号公報(特許文献1)などがある。
【0003】
C型FETを構成するあるいはバイポーラトランジスタを構成するために、pn両極性の材料を用いる特許は多数提出されてきている。しかし、pMOSのみで構成するといった内容のものは現在見出せない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−324931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、通常は高速性が追求されているものの、無機系半導体では原理的にpn両チャネルの材料が存在しないわけではなく、高速性に影響のない部分には、速度の遅いpチャネルのFETを用いたりすることはあった。また、高速にするためのチャネルは電子伝導に関わるnチャネルであり、pチャネルのみによる集積回路はなかった。
【0006】
以下、従来技術の問題点と利用可能な技術を箇条書きにする。
(a)ポリマー系有機半導体材料は、溶媒に溶けやすい誘導体を容易に作製できるという材料開発上の自由度が大きい。
(b)したがって、インクジェットや印刷技術などを利用した塗布がしやすい。
【0007】
(c)なお、ポリマーでない有機半導体材料の例として、ペンタセン、アントラセンなどがある。これらは、有機溶媒には比較的溶けにくく、蒸着によって有機半導体層を作製するため、作製は無機系と同様に真空プロセスを必要とし面倒であった。
【0008】
(d)ポリマー系有機半導体材料は、上記のとおり事実上p型半導体のみである(すくなくとも現在のところ)。
(e)今後たとえ、n型のポリマー系有機半導体材料が作製できても、移動度が低いなど必ずしも有用とは限らず、現行のp型だけの回路構成による改善によって、有機半導体によるFETを作製できることは極めて有用である。
【0009】
(f)したがって、pn両型の半導体が必要になるC型FET構成を使わないようにすることが必要である。
(g)このようなことから、p型FETだけで構成される回路が必要であった。
【0010】
(h)特にアナログアンプの場合、電力効率の極めて高いC型FET(図2(b)(ニ)は、図2(a)の(ハ)と対応している)で構成したいが、ポリマー系の有機半導体材料は、p型半導体しかないため、ソースフォロワなどを利用して電圧出力をするようにする。
【0011】
(i)前述のように、高速化のために、無機系半導体(シリコン系、化合物半導体系など)でも片方のnチャネルを多く使用することは特に公知であると思われる。
【0012】
(j)しかし、高速化が対象の場合は、全てのトランジスタをどちらか一方にするというのではなく、多くは、回路の速度に影響する部分にできるだけ多用するといった意味合いが強い。
【0013】
(k)無機系半導体では、実効移動度が数倍程度しか違わないため使い道を選べば、全てを片方の型の半導体でしなければならないことは、必ずしもなかった。
【0014】
(l)また、(直接FETには関係ないが)バイポーラトランジスタを用いた回路で構成する場合も、作製のしやすさから横型のみをもちいてすこしでも高速化するために、キャリア走行距離が長くなるソース側およびコレクタ側をn型とするnpn型を多用することは多く、そういった回路は多用されてきた。
【0015】
(m)しかし、無機系半導体では、わざわざ移動度が遅いpFETのみによって構成される回路を利用することは、従来にはなかった。
【0016】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、ポリマー系有機半導体材料を用いたp型FETで構成した集積回路およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、以下のような構成を採用したことを特徴としている。以下、請求項毎の構成を述べる。
【0018】
a)請求項1記載の発明は、ポリマー系有機材料による有機半導体を用いたトランジスタを含む集積回路であって、前記トランジスタがpチャネル型電界効果トランジスタのみからなることを特徴としている。
【0019】
請求項2記載の発明は、ポリマー系有機材料による有機半導体を用いたトランジスタを含む集積回路であって、出力段の回路にpチャネル型電界効果トランジスタによるソースフォロワ回路を用いたことを特徴としている。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の集積回路の製造方法であって、基板上に導電性ポリマー印刷してソース電極およびドレイン電極を形成するステップと、前記ソース電極とドレイン電極を繋ぐようにp型ポリマー系有機材料を印刷するステップと、前記p型ポリマー系有機材料上に絶縁層を形成するステップと、前記絶縁層上にゲート電極を形成するステップとを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明は上記構成を採用することにより次のような効果を有する。以下、請求項毎の効果を述べる。
【0022】
請求項1記載の発明によれば、p型FETのみによる回路を構成したことで、作製に極めて有利なポリマー形有機半導体による各種集積回路を作製できる。また材料としてn型のポリマー系有機半導体を使わずに、高性能の集積回路が得られる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、ポリマー系有機材料による有機半導体を用いたトランジスタを用いる集積回路において、出力段の回路にp型FETによるソースフォロワ回路を用いることで、ドライブ段に、従来のようにポリマー系有機半導体では作製しにくいnMOS−FETとともに使わなければならないプッシュプル回路あるいはCMOS回路(図2(b)参照)を使わないで、ポリマー系有機半導体アナログ集積回路が実現できる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、簡便な方法で請求項1、2記載の集積回路を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の新規性に関わる部分は、ポリマー系の有機半導体が、ホールドリフトによる場合が多く、ポリマー系でもごく例外としてn型の有機半導体材料もあるが、現状では移動度2桁程度低いため、同一の回路に用いることは極めて困難であることが判明したことに基づくものである。
【0026】
本発明の実施例として取り上げた各種の回路自体の構成は概ね公知である。つまり、無機系(シリコンやGaAsなどの化合物半導体など、pn両極半導体を作製できる材料)においてはすでに知られている回路構成基本にして説明する。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【0028】
図1は、ディジタルロジック回路の典型的な3種類を示す図であり、同図(a)はインバーター回路、同図(b)はAND回路、同図(c)はOR回路を示している。いずれも、p型FETのみで構成されているため、−VDDはアース電位より低い電源である(VDD自体はアース電位より高い電圧)。
【0029】
以下、図1(a)のインバーター回路、図1(b)のAND回路、図1(c)のOR回路の動作の説明をする。本例では、−VDDの電圧(アース電位より低い電圧)を論理「1」、アース電位を論理「0」とする。
【0030】
<図1(a)のインバーター回路の動作の説明>
イ)入力がアース電位(=「0」)のときは、下側のp型FET1の動作は「OFF状態となるため、上側のp型FET2が能動負荷(抵抗)として動作し、出力の電位は、アース電位より低いほぼ−VDD「=1」の電位になる。
【0031】
ロ)反対に、入力が−VDDに近い電位(=「1」)が与えられると、同p型FET1は「ON」状態になるため、出力の電位はほぼアース電位(=「0」)となる。
【0032】
<図1(b)のAND回路の動作の説明>
イ)入力Aと入力Bが同時に「1」(=〜−VDD)のときのみ1段目のp型FET3と4の両方がONとなり、2段目の下のp型FET6が「OFF」となるため、出力は−VDDに近い電位となり出力「1」となる。
【0033】
ロ)入力AおよびBのどちらか一方または両方が「0」(=〜GND)のとき1段目のp型FET3,4のどちらか一方または両方がOFFとなり、1段目の上のp型FET5が能動負荷(抵抗)として動作し、2段目の下のp型FET6に−VDDに近い電位が印加されて「ON」となるため、出力の電位は「0」(=〜GND)となる。
【0034】
<図1(c)のOR回路の動作の説明>
イ)入力AまたはBのいずれか一方または両方が「1」(=〜−VDD)になると、出力段のp型FETのゲート電極にはほぼアース電位(=「0」)が印加されてOFFになるため、出力は「1」(=〜−VDD)となる。
【0035】
ロ)入力AまたはBのいずれか一方または両方が「0」(=〜GND)の場合、出力段のp型FET10のゲート電極にはほぼ−VDD(=「1」)が印加されてONになるため、出力は「0」(=〜GND)となる。
【0036】
このように、p型FETのみで基本的なロジック回路(インバータ(NOT)回路、AND回路、OR回路)を構成でき、これらを組み合わせることにより、増幅回路や各種ディジタル回路、それらを用いた液晶ディスプレイなどの駆動素子などを実現できる。
【0037】
図2は、本発明に係る増幅回路の一例であり、アナログアンプをp型FETだけで構成した回路例を示す図である。
イ)入力段は、ソースを共通としたオペレーショナルアンプ20の構成をとり、共通のソースは、カレントミラー回路21で構成される電流源を通して+VDD側で接続される。
【0038】
ロ)一方、同回路のドレイン側、すなわち出力側には、能動負荷とよばれるカレントミラー回路22を挿入した。
ハ)これらはいずれもp型FETのみで構成され、出力はソースフォロワ回路23を介して、出力段のオペレーショナルアンプ構成の回路に入力される。
【0039】
ニ)出力段も前述の入力段と同様の構成を有している。出力段はソースフォロア回路24を介して出力する。
ホ)この出力電圧を入力に抵抗RFを介して帰還を掛けて、全体としてアナログ動作を実現している。
【0040】
図3(a)は、上記回路に使用したp型FETの構成図である。同p型FET素子は、図4に示したポリマーで分子量109000のものを使った。
【0041】
以下、図3(a)を用いて、本発明に係るp型FETの製造方法を説明する。
イ)基板101上に、導電性ポリマーをインクジェットで印刷し、ソース電極1−2S,ドレイン電極102−Dとした。
【0042】
ロ)次に、p型のポリマー系有機半導体材料103をインクジェットで印刷する。
ハ)その上に、絶縁膜としてポリビニルアルコールによる有機絶縁膜104を塗布する。
ニ)さらにその上に、ポリマー系で導電性ポリマーを塗布しゲート電極102−Gとする。
【0043】
ホ)以上のようにして、本発明に係るp型FETを簡単に製造できる。
ヘ)このp型FETのソースドレイン間にバイアス電圧Vdを掛け、Vgをソースゲート間電圧とすると、電圧−電流特性は図3(b)のようになる。p型FETのバイアスは、ソース電位に対して負側に掛け、またゲート電圧も負側に掛かった時に、アクティブになる。
【0044】
ト)このように、Vgに掛かる電圧によってIdは変化し、ソースドレイン間を電流Idが「On」「OFF」できた。
チ)p型FETでは、電流の流れる方向は、図3(a)に示した矢印の通りである。ポリマー系有機半導体材料103の中では、ドレインからソース方向へ流れる(正孔として見た場合、ソースからドレイン方向へながれる)。
【0045】
図4は、本発明に関わるポリマー有機半導体材料の典型的な構造図である。しかしその他の構造を有するポリマー系有機半導体材料を用いてもp型半導体として動作する。本発明はこれら他の構造を有するポリマー系有機半導体材料を用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るディジタルロジック回路の典型的な3種類を示す図である。
【図2】本発明に係る増幅回路の一例であり、アナログアンプをp型FETだけで構成した回路例を示す図である。
【図3】本発明に係るp型FETの構成図である。
【図4】本発明に関わるポリマー有機半導体材料の典型的な構造図である。
【符号の説明】
【0047】
1〜12:p型FET
20:オペレーショナルアンプ
21,22:カレントミラー回路
23,24:ソースフォロワ回路
101:基板
102−S:ソース電極
102−D:ドレイン電極
102−G:ゲート電極
103:ポリマー系有機半導体材料
104:有機絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー系有機材料による有機半導体を用いたトランジスタを含む集積回路であって、前記トランジスタがpチャネル型電界効果トランジスタのみからなることを特徴とする集積回路。
【請求項2】
ポリマー系有機材料による有機半導体を用いたトランジスタを含む集積回路であって、出力段の回路にpチャネル型電界効果トランジスタによるソースフォロワ回路を用いたことを特徴とする集積回路。
【請求項3】
請求項1または2記載の集積回路の製造方法であって、基板上に導電性ポリマー印刷してソース電極およびドレイン電極を形成するステップと、前記ソース電極とドレイン電極を繋ぐようにp型ポリマー系有機材料を印刷するステップと、前記p型ポリマー系有機材料上に絶縁層を形成するステップと、前記絶縁層上にゲート電極を形成するステップとを有することを特徴とする集積回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−13108(P2006−13108A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187564(P2004−187564)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】