説明

難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法および絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法

【課題】押出外観に優れる難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法および絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法を提供すること。
【解決手段】オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、成形した後、水架橋する製造方法とする。前記シラングラフトバッチに対する前記難燃剤バッチの重量比は、60/40〜90/10の範囲内にし、前記触媒バッチは、前記シラングラフトバッチと前記難燃剤バッチとを合わせた成分100重量部に対して、3〜10重量部の範囲内にすると良い。また、上記方法により製造された難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂を導体の外周に被覆してなる絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法および絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法に関し、さらに詳しくは、自動車、電気・電子機器等に配線される絶縁電線の被覆材として好適に用いられる難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法および絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂を含有するオレフィン系樹脂組成物への代替が進められている。このオレフィン系樹脂は燃えやすいことから、十分な難燃性を確保するため、オレフィン系樹脂組成物には、難燃剤として、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が添加されている。
【0005】
このような絶縁電線が、例えば、自動車などでの高温雰囲気の環境下で使用される場合には、耐熱性が要求される。絶縁電線の耐熱性を向上させるためには、絶縁電線の絶縁層に架橋処理を施されることが多い。
【0006】
上記架橋処理の方法としては、例えば、電子線照射架橋法、化学架橋法、水架橋法などが知られている。このうち、電子線照射架橋法及び化学架橋法は、高価で大型な特殊架橋設備等が必要であり、コストが増大するといった難点があった。そこで、近年では、このような難点がなく、簡便に架橋することが可能な水架橋法が広く用いられている。
【0007】
例えば、特許文献1には、オレフィン系樹脂に金属水酸化物、シランカップリング剤、架橋剤、シロキサン縮合触媒などを一括混練してコンパウンドを形成して加熱成形する難燃性シラン架橋ポリオレフィン組成物の製造方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたコンパウンドに金属水酸化物を配合してなるA成分と、オレフィン系樹脂に架橋触媒、架橋剤を配合してなるB成分とを混練加熱架橋して成形する難燃性シラン架橋ポリオレフィン組成物の製造方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−1578号公報
【特許文献2】特許第3457560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法は、オレフィン系樹脂に金属水酸化物とシランカップリング剤とを同時に配合したコンパウンドを形成している。そのため、金属水酸化物中の水分がシランカップリング剤と反応してシランカップリング剤が加水分解し、シランカップリング剤のグラフト反応が阻害される。この際、加水分解により生成したゲル状物質が成形品の表面に現れ、凹凸を形成して、外観が悪くなるという問題があった。
【0011】
また、特許文献2の方法では、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたコンパウンドを含むA成分に、金属水酸化物を配合している。このとき、A成分中に金属水酸化物を分散させるためには、これらを加熱混合する。そのため、A成分とB成分とを混練加熱する前において、A成分を調製する際に、金属水酸化物中の水分が、オレフィン系樹脂にグラフトされているシランカップリング剤と反応して、シランカップリング剤が加水分解される。これにより、ゲル状物質が生成して成形品の表面に現れ、凹凸を形成して押出外観が悪くなるという問題があった。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、押出外観に優れる難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法および絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係る難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、成形した後、水架橋することを要旨とするものである。
【0014】
この場合、前記シラングラフトバッチに対する前記難燃剤バッチの重量比は、60/40〜90/10の範囲内にあり、前記触媒バッチは、前記シラングラフトバッチと前記難燃剤バッチとを合わせた成分100重量部に対して、3〜10重量部の範囲内にあることが望ましい。
【0015】
そして、前記シラングラフトバッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、シランカップリング剤0.5〜5重量部と、遊離ラジカル発生剤0.025〜0.1重量部とを加熱混合してなり、前記難燃剤バッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、金属水酸化物100〜500重量部を配合してなり、前記触媒バッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、シラン架橋触媒0.5〜5重量部を配合してなることが望ましい。
【0016】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記方法により製造された難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂を導体の外周に被覆してなることを要旨とするものである。
【0017】
さらに、本発明に係る絶縁電線の製造方法は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、導体の外周に押出被覆した後、水架橋することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法は、難燃剤を含んでいないオレフィン系樹脂にシランカップリング剤を配合してシランカップリング剤をグラフト重合させている。そのため、シランカップリング剤のグラフト反応は十分に進行し、難燃剤に含まれる水分によりシランカップリング剤が加水分解されてグラフト反応が阻害されるのを回避することができる。これにより、シランカップリング剤の加水分解に起因するゲル状物質の発生は抑えられ、成形品の押出外観に優れる。
【0019】
また、成形前にシラングラフトバッチに難燃剤を配合するのではなく、成形の際に、シラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチとを混練するので、成形前にシラングラフトバッチにおいて、オレフィン系樹脂にグラフトされているシランカップリング剤が加水分解されるのを回避することができる。これにより、シランカップリング剤の加水分解に起因するゲル状物質の発生は抑えられ、成形品の押出外観に優れる。
【0020】
この場合、シラングラフトバッチ、難燃剤バッチ、および触媒バッチが、上記組成および配合比よりなると、確実に、押出外観に優れる。
【0021】
また、シラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチの混合重量比が上記範囲内にあると、押出外観に一層優れる。
【0022】
一方、本発明に係る絶縁電線は、上記難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂が、導体の外周に被覆されてなる。そのため、押出外観に優れる。
【0023】
さらに、本発明に係る絶縁電線の製造方法は、上記シラングラフトバッチと、上記難燃剤バッチと、上記触媒バッチとを別々に調製し、調製された各バッチを混練し、導体の外周に押出被覆した後、水架橋するものである。そのため、押出外観に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、成形した後、水架橋するようにしたものである。
【0026】
シラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチは、それぞれ成形前に別々に調製される。調製された各バッチは、それぞれペレット状に押出される。成形前ではシラングラフトバッチと、難燃剤バッチと、触媒バッチの3つの成分に分けておき、成形工程で3成分をはじめて混練する。すなわち、最終の成形工程ではじめて、シラングラフトバッチのシラングラフトオレフィン系樹脂が、難燃剤バッチの金属水酸化物の水分と混練されることになる。
【0027】
3成分を混練するには、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。混練前には、通常のタンブラーなどでドライブレンドすることもできる。混練時の加熱温度は、樹脂が流動する温度であれば良く、通常実施される加熱温度、例えば、100〜250℃の範囲内であれば良い。混練時間は、0.1〜15分間の範囲内で行なわれる。
【0028】
3成分を混練して得られた組成物を、混練後すぐに成形して、成形後に水架橋する。水架橋するには、成形体を水蒸気あるいは水にさらすことにより行なうと良い。このとき、常温〜90℃の温度範囲内で、48時間の範囲内で行なうことが好ましい。より好ましくは、温度が60〜80℃の範囲内であり、12〜24時間の範囲内である。
【0029】
水架橋により得られるオレフィン系樹脂の架橋度は、耐熱性の観点から、50%以上であることが好ましい。すなわち、ゲル分率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは、60%以上である。架橋度は、オレフィン系樹脂へのシランカップリング剤のグラフト量や、シラン架橋触媒の種類や量、水架橋条件(温度や時間)などにより調整することができる。
【0030】
混練において、シラングラフトバッチと難燃剤バッチの混合重量比は、難燃剤バッチ/シラングラフトバッチ比で、60/40〜90/10の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、60/40〜70/30の範囲内である。シラングラフトバッチの量が10重量%未満では、水架橋させたときの架橋度が低くなりやすく、耐熱性が低下しやすい。一方、難燃剤バッチが60重量%未満では、難燃性が低下しやすい。
【0031】
また、触媒バッチの配合量は、シラングラフトバッチと難燃剤バッチとを合わせた成分100重量部に対して、3〜10重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、5〜8重量部の範囲内である。触媒バッチの量が3重量部未満では、水架橋させたときの架橋度が低くなりやすく、耐熱性が低下しやすい。一方、触媒バッチの量が10重量部を超えると、架橋が進みすぎ、ゲル化が起こり製品に凹凸が発生する。
【0032】
シラングラフトバッチは、シラングラフトオレフィン系樹脂よりなり、シラングラフトオレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたものである。シラングラフトオレフィン系樹脂を形成するには、例えば、オレフィン系樹脂にシランカップリング剤と遊離ラジカル発生剤とを添加し、押出機などを用いて加熱混練押出しながら、シランカップリング剤をオレフィン系樹脂にグラフト重合させる。加熱温度は、遊離ラジカル発生剤の分解温度以上にすれば良く、用いる遊離ラジカル発生剤の種類により、適宜定められる。
【0033】
シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体などのプロピレン系共重合体などを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0034】
好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体である。
【0035】
ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、メタロセン超低密度ポリエチレンなどを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。好ましくは、メタロセン超低密度ポリエチレンである。
【0036】
シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂の密度としては、柔軟性に優れる観点から、0.901g/cm以下であることが好ましい。もっとも、密度が低くなるにつれて樹脂の結晶化度が低くなるため、シラングラフト化された樹脂がガソリンに対して膨潤するのを抑え、耐ガソリン性が向上する観点から、0.880g/cm以上であることが好ましい。
【0037】
したがって、シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂としては、密度が0.880〜0.901g/cmの範囲内にあるメタロセン超低密度ポリエチレンが、特に好ましい。このようなメタロセン超低密度ポリエチレンを単独で用いても良いし、このようなメタロセン超低密度ポリエチレンの2種以上を併用しても良い。
【0038】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0039】
シランカップリング剤の配合量は、オレフィン系樹脂100重量部に対して、0.5〜5重量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5重量部未満では、シランカップリング剤のグラフト量が少なく、十分な架橋度が得られにくい。一方、5重量部を超えると、混練時に架橋反応が進みすぎてゲル状物質が発生しやすい。そうすると、製品表面に凹凸が発生しやすく、量産性が悪くなりやすい。また、溶融粘度も高くなりすぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなる。
【0040】
シランカップリング剤のグラフト量は、0.1〜5重量%の範囲内にあることが好ましい。また、架橋度は、50%以上であることが好ましい。
【0041】
遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、tert−ブチルパーベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの有機過酸化物などを例示することができる。
【0042】
より好ましくは、ジクミルパーオキサイド(DCP)である。例えば、遊離ラジカル発生剤にジクミルパーオキサイド(DCP)を用いる場合には、シランカップリング剤をグラフト重合させるために、シラングラフトバッチを調製する温度を200℃以上にすると良い。
【0043】
遊離ラジカル発生剤の配合量は、オレフィン系樹脂100重量部に対して、0.025〜0.1重量部の範囲内であることが好ましい。
【0044】
遊離ラジカル発生剤の量が0.025重量部未満であると、シランカップリング剤のグラフト化反応が十分進行しにくく、所望のゲル分率が得られにくい。一方、遊離ラジカル発生剤の量が0.1重量部を超えると、オレフィン系樹脂の分子を切断する割合が多くなり、目的としない過酸化物架橋が進行しやすい。そうすると、オレフィン系樹脂の架橋反応が進みすぎて、難燃剤バッチや触媒バッチと混練する際に、製品表面に凹凸が発生しやすい。これにより、加工性や外観が悪化しやすくなる。
【0045】
難燃剤バッチは、オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる。難燃剤バッチを形成するには、例えば、オレフィン系樹脂に金属水酸化物を添加し、押出機などを用いて加熱混練する。
【0046】
難燃剤バッチには、必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤、無機充填剤、銅害防止剤などを適宜添加しても良い。酸化防止剤を配合すると、さらに耐熱性が向上する。また、滑剤を配合すると、難燃剤の配合による加工性の低下を改善して、加工性が向上する。
【0047】
難燃剤バッチのオレフィン系樹脂としては、上記シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂の例として示したものと同様のものを用いることができる。好ましくは、上記シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂と同種のものである。難燃剤バッチのオレフィン系樹脂の密度は、0.880〜0.901g/cmの範囲内にあることが好ましい。
【0048】
難燃剤バッチには、耐ガソリン性を向上させる観点から、融点が140℃以上のポリオレフィンを含有させることができる。融点が140℃以上のポリオレフィンとしては、ポリプロピレン系エラストマーなどが挙げられる。
【0049】
融点が140℃以上のポリオレフィンの配合量は、難燃剤バッチの樹脂成分100重量部に対して、5〜20重量部の範囲内にあることが好ましい。配合量が5重量部未満では、耐ガソリン性の向上効果が低下しやすい。一方、配合量が20重量部を超えると、柔軟性が低下しやすい。
【0050】
金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウムなどを例示することができる。より好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムである。
【0051】
金属水酸化物の配合量は、難燃剤バッチの樹脂成分100重量部に対して、100〜500重量部の範囲内にあることが好ましい。100重量部未満では、難燃効果が低下しやすく、一方、500重量部を超えると、伸びが極端に低下する。
【0052】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
【0053】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス[メチレン−3−(3、5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどを例示することができる。
【0054】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオプロピオネート)などを例示することができる。
【0055】
酸化防止剤の配合量は、難燃剤バッチの樹脂成分100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、3〜5重量部の範囲内である。0.1重量部未満では、耐熱性を向上させる効果が低下しやすく、10重量部を超えると、酸化防止剤がブルームしやすくなる。
【0056】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、脂肪酸アミドなどを例示することができる。
【0057】
滑剤の配合量は、難燃剤バッチの樹脂成分100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.5〜3重量部の範囲内である。0.1重量部未満では、滑剤としての導体と絶縁体の密着力低減効果が発揮できない。一方、10重量部を超えると、酸化防止剤がブルームしやすくなる。
【0058】
触媒バッチは、オレフィン系樹脂に、シラングラフトバッチのシラングラフトオレフィン系樹脂を架橋させるシラン架橋触媒を配合してなる。触媒バッチを形成するには、例えば、オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を添加し、押出機などを用いて加熱混練する。
【0059】
触媒バッチのオレフィン系樹脂としては、上記シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂の例として示したものと同様のものを用いることができる。触媒バッチのオレフィン系樹脂の密度は、特に限定されるものではない。上記シラングラフトバッチのオレフィン系樹脂、上記難燃剤バッチのオレフィン系樹脂と混合しやすいオレフィン系樹脂であれば良い。
【0060】
具体的には、触媒バッチのオレフィン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン超低密度ポリエチレンなどを例示することができる。これらは、単独で用いても良いし、併用しても良い。
【0061】
シラン架橋触媒は、シラングラフトバッチのシラングラフトオレフィン系樹脂をシラン架橋させるシラノール縮合触媒である。例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。
【0062】
具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド(ジブチル錫ビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β−メルカプトプロピオン酸塩ポリマーなど)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチドである。
【0063】
シラン架橋触媒の量は、触媒バッチの樹脂成分100重量部に対して、0.5〜5重量部の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、1〜5重量部の範囲内である。0.5重量部未満では、架橋度が低下しやすく、所望の耐熱性が得られにくい。一方、5重量部を超えると、被覆したオレフィン系樹脂の外観が悪くなりやすくなる。
【0064】
次に、本発明に係る絶縁電線およびその製造方法について説明する。
【0065】
本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に上記難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂が被覆されてなる。導体は、その導体径や導体の材質など、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。また、絶縁被覆材の厚さについても、特に制限はなく、導体径などを考慮して適宜定めることができる。
【0066】
本発明に係る絶縁電線において、被覆オレフィン系樹脂の架橋度は、耐熱性の観点から、50%以上であることが好ましい。より好ましくは、60%以上である。架橋度は、オレフィン系樹脂へのシランカップリング剤のグラフト量や、架橋触媒の種類や量、水架橋条件(温度や時間)などにより調整することができる。
【0067】
本発明に係る絶縁電線を製造するには、上記シラングラフトバッチと、上記難燃剤バッチと、上記触媒バッチとを加熱混練し、導体の外周に押出被覆した後、水架橋すると良い。
【0068】
混練工程では、ペレット形状の各バッチをミキサーや押出機などを用いてブレンドする。被覆工程では、通常の押出成形機などを用いて押出被覆などを行なうと良い。そして、被覆工程の後、架橋工程では、導体の外周に樹脂を被覆した電線の被覆樹脂を水蒸気あるいは水にさらすことにより行なうと良い。このとき、常温〜90℃の温度範囲内で、48時間の範囲内で行なうことが好ましい。より好ましくは、温度が60〜80℃の範囲内であり、12〜24時間の範囲内である。
【実施例】
【0069】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0070】
(供試材料および製造元など)
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
【0071】
・ポリエチレン<1>[デュポン ダウ エラストマー ジャパン(株)製、商品名「エンゲージ 8003」]
・ポリエチレン<2>[日本ユニカー(株)製、商品名「DFDJ7540」]
・ポリプロピレン系エラストマー(PP系エラストマー)[日本ポリプロ(株)製、商品名「ニューコムNAR6」]
・水酸化マグネシウム[協和化学(株)製、商品名「キスマ5」]
・シランカップリング剤[東レダウコーニング(株)製、商品名「SZ6300」]
・ジクミルパーオキサイド(DCP)[日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」]
・錫触媒(ジブチル錫ジラウレート)[(株)アデカ製、商品名「Mark BT−1」]
【0072】
(実施例)
(シラングラフトバッチの調製)
表1に示す配合重量比で、A成分を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後ペレット化して、シラングラフトポリエチレンよりなるシラングラフトバッチを調製した。
【0073】
(難燃剤バッチの調製)
表1に示す配合重量比で、B成分を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後ペレット化して、難燃剤バッチを調製した。
【0074】
(触媒バッチの調製)
表1に示す配合重量比で、C成分を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後ペレット化して、触媒バッチを調製した。
【0075】
(絶縁電線の作製)
表1に示すように、シラングラフトバッチ(A成分):難燃剤バッチ(B成分):触媒バッチ(C成分)=30:70:5の配合重量比で、各バッチを押出機のホッパーで混合して押出機の温度を約180℃〜200℃に設定して、押出加工を行なう。外径2.4mmの導体上に厚さ0.7mmの絶縁体として押出被覆した(被覆外径3.8mm)。その後、85℃90%湿度の高湿高温槽で24時間水架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
【0076】
(比較例1〜2)
表1に示す配合重量比で、表1に示す各成分を、一括仕込みで2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後、実施例と同様にして、導体上に押出被覆し、水架橋処理を施して各絶縁電線を作製した。
【0077】
(比較例3)
(シラングラフトバッチの調製)
表1に示す配合重量比で、表1に示すD成分のうち、ポリエチレン<1>と、ポリエチレン<2>と、PP系エラストマーと、シランカップリング剤と、DCPとを2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練してシラングラフトポリエチレンを調製し、これを押出した後、水酸化マグネシウムを加えてミキシングロールにて混練した後ペレット化して、シラングラフトバッチを調製した。
【0078】
(触媒バッチの調製)
表1に示す配合重量比で、E成分を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後ペレット化して、触媒バッチを調製した。
【0079】
(絶縁電線の作製)
表1に示すように、シラングラフトバッチ(D成分):触媒バッチ(E成分)=100:5の配合重量比で、各バッチを2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後、実施例と同様にして、導体上に押出被覆し、水架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
【0080】
得られた各絶縁電線について、押出時の電線表面の外観状態を評価した。また、併せて、得られた各絶縁電線について、製品の特性評価、即ち、引張強度、引張伸び、ゲル分率を測定した。その結果を表1に示す。また、以下に評価、測定方法を示す。
【0081】
(押出外観の評価)
製品がきれいな表面状態のものを「○」とし、製品の表面に凹凸およびザラツキが見られる場合を「×」とした。
【0082】
(特性評価)
(引張強度および引張伸び)
JIS C 3005の引張試験に準拠して、引張強度および引張伸びを測定した。すなわち、絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて絶縁被覆材のみの管状試験片とした後、23±5℃の室温下にて、試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度200mm/分で引っ張り、試験片の破断時の荷重および伸びを測定した。
【0083】
(ゲル分率)
JASO−D608−92に準拠して、ゲル分率を測定した。すなわち、電線の絶縁体試料を約0.1g秤量しこれを試験管に入れ、キシレン20mlを加えて、120℃の恒温油槽中で24時間加熱する。その後試料を取り出し、100℃の乾燥器内で6時間乾燥後、常温になるまで放冷してから、その重量を精秤し、試験前の質量に対する質量百分率をもってゲル分率とした。規格は、50%以上である。なお、ゲル分率は、水架橋の架橋状態を表す指標として架橋電線には一般的に用いられている。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、比較例に係る各絶縁電線は、電線被覆材の押出外観に劣っていることが分かる。これは、比較例1および2では、電線被覆材組成物を調製する際に、組成物を形成する各成分を一括仕込みして加熱混練しており、水酸化マグネシウムとシランカップリング剤とを同時に配合しているためと考えられる。すなわち、水酸化マグネシウム中の水分により容易にシランカップリング剤が加水分解され、ポリエチレンのグラフト反応が阻害され、これにより生成したゲル状物質が被覆材表面に現れて凹凸を形成したためと考えられる。
【0086】
一方、比較例3では、ポリエチレンにシランカップリング剤をグラフトした後、これに水酸化マグネシウムを配合している。しかしながら、水酸化マグネシウムを配合するのは、導体上に組成物を押出被覆する最終成形工程よりも前の段階であり、最終成形工程前にすでに、ポリエチレンにグラフトされたシランカップリング剤が一部加水分解されていると考えられる。そして、これにより、ポリエチレンの架橋反応が阻害され、生成したゲル状物質が被覆材表面に現れて凹凸が形成されたためと考えられる。
【0087】
これに対し、実施例に係る絶縁電線は、電線被覆材の押出外観に優れていることが確認できた。これは、導体上に組成物を押出被覆する最終成形工程で、十分にシラングラフトされたポリエチレンと水酸化マグネシウムとが混練されるため、効率よくポリエチレンの架橋が促進され、被覆材表面の押出外観がきれいに仕上がるためであると考えられる。
【0088】
また、実施例に係る絶縁電線は、特性評価において、引張強度および引張伸びにも優れ、ゲル分率の値より架橋度も良好で、製品品質にも問題がないことが確認できた。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、
オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、
オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、成形した後、水架橋することを特徴とする難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記シラングラフトバッチに対する前記難燃剤バッチの重量比は、60/40〜90/10の範囲内にあり、
前記触媒バッチは、前記シラングラフトバッチと前記難燃剤バッチとを合わせた成分100重量部に対して、3〜10重量部の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記シラングラフトバッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、シランカップリング剤0.5〜5重量部と、遊離ラジカル発生剤0.025〜0.1重量部とを加熱混合してなり、
前記難燃剤バッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、金属水酸化物100〜500重量部を配合してなり、
前記触媒バッチは、オレフィン系樹脂100重量部に、シラン架橋触媒0.5〜5重量部を配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法により製造された難燃性シラン架橋オレフィン系樹脂を導体の外周に被覆してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項5】
オレフィン系樹脂にシランカップリング剤をグラフト重合させたシラングラフトオレフィン系樹脂よりなるシラングラフトバッチと、
オレフィン系樹脂に金属水酸化物よりなる難燃剤を配合してなる難燃剤バッチと、
オレフィン系樹脂にシラン架橋触媒を配合してなる触媒バッチとを混練し、導体の外周に押出被覆した後、水架橋することを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【公開番号】特開2008−297453(P2008−297453A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145520(P2007−145520)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】