説明

難燃性ポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブル

【課題】ポリエステルの融点低下を伴うことなく高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】難燃成分を含むポリエステル層(A)を少なくとも1層有する難燃性ポリエステルフィルムであって、該難燃成分として窒素含有ポリリン酸化合物を層(A)の重量を基準として5重量%以上40重量%以下の範囲で含有する難燃性ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有するポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルに関するものであり、更に詳しくは、ポリエステルの融点低下を伴うことなく高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムおよびそれからなる難燃性フラットケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルムおよび保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するために樹脂の難燃化が強く要望されている。
従来用いられている有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤は、難燃効果は高いものの、成形・加工時にハロゲンが遊離し、腐食性のハロゲン化水素ガスを発生して、成形・加工機器を腐食させる可能性、また作業環境を悪化させる可能性が指摘されている。また前記難燃剤は、火災などの燃焼に際してハロゲン化水素等のガスを発生する可能性が指摘されている。そのため、近年ハロゲン系難燃剤に替わり、ハロゲンを含まない難燃剤を用いることが強く要望されている。
【0004】
ハロゲンを含まない難燃剤による難燃化方法の1つとして種々のリン系化合物が検討されているが、例えばリン酸エステル化合物を用いた難燃化方法は、多量に添加すると耐ブリードアウト性が低下することがあり、またポリエステルの融点低下を伴うことがあった。
【0005】
また、ポリエステルと共重合可能なリン系化合物として、例えば特許文献1、特許文献2にはポリエステルにカルボキシホスフィン酸を共重合する方法が開示されている。しかしながらこの難燃化手法の場合、難燃性は発現するものの、共重合化に伴うポリエステルの融点低下を伴うことがあった。
このように、ポリエステルフィルムの融点低下を伴うことなく、高い難燃性が付与された非ハロゲン系難燃性ポリエステルフィルムが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭53−13479号公報
【特許文献2】特開2007−9111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、ポリエステルの融点低下を伴うことなく高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムを提供することにある。さらに本発明の他の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、ポリエステルの融点低下およびポリエステルの機械特性の低下を伴うことなく、かつ高い難燃性が付与された難燃性ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の窒素含有リン化合物を用いることにより、ポリエステルの融点を低下させることなく、高い難燃性を有するフィルムを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の目的は、難燃成分を含むポリエステル層(A)を少なくとも1層有する難燃性ポリエステルフィルムであって、該難燃成分として窒素含有ポリリン酸化合物を層(A)の重量を基準として5重量%以上40重量%以下の範囲で含有する難燃性ポリエステルフィルムによって達成される。
【0010】
また本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、ポリエステル層(A)がカルボジイミド化合物を含有してなること、ポリエステル層(A)を構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度が25eq/ton以下であること、ポリエステル層(A)がさらにカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分を層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上10mol%以下の範囲で含有すること、ポリエステル層(A)のポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【0011】
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、フラットケーブルまたはフレキシブルプリント回路基板の基材フィルムに用いることができる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)を有し、層(B)を構成するポリエステルの共重合量が層(A)を構成するポリエステルの全共重合量より多く、かつ層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%未満である態様も好ましい態様の1つとして包含する。
さらに本発明によれば、本発明の難燃性ポリエステルフィルムを基板フィルムとして含むフラットケーブルも包含される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、ポリエステルの融点低下を伴うことなく高い難燃性をすることから、難燃性が求められるフラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板など種々の用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル層(A)>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃成分を含むポリエステル層(A)を少なくとも1層有する難燃性ポリエステルフィルムであり、該難燃成分として窒素含有ポリリン酸化合物を層(A)の重量を基準として5重量%以上40重量%以下の範囲で含有する。かかるポリエステル層(A)を有することにより、高い難燃性を有しつつポリエステルの融点を維持することができ、ポリエステルが有する優れた耐熱性や耐熱寸法安定性などの低下を防ぐことができる。
【0014】
(難燃成分)
ポリエステル層(A)に用いる難燃成分として、窒素含有ポリリン酸化合物が挙げられる。具体的には、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸メレムなどの窒素含有ポリリン酸化合物が挙げられ、特にポリリン酸メラミンが好ましい。かかる窒素含有ポリリン酸化合物を一定量用いることにより、ポリエステルの融点降下を伴うことなく高い難燃性を付与することができる。
【0015】
窒素含有ポリリン酸化合物の含有量は、層(A)の重量を基準として5重量%以上40重量%以下であり、好ましくは5重量%以上35重量%以下、より好ましくは7重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは7重量%以上25重量%以下である。窒素含有ポリリン酸化合物の含有量が下限値に満たない場合、十分な難燃性能が発現しない。また窒素含有ポリリン酸化合物の含有量が上限値を超える場合、窒素含有ポリリン酸化合物が過剰に存在することにより、ポリエステルの加水分解が大きく、樹脂の溶融粘度が低下して製膜が困難となる。
窒素含有ポリリン酸化合物の添加時期は、ポリエステルを製造する後期、またはフィルム製造時のいずれの時期に添加してもよい。また添加方法として、窒素含有ポリリン酸化合物を直接添加する方法、ポリエステル樹脂を用いて予めマスターバッチを作成し、かかるマスターバッチをフィルム製造時に希釈して使用する方法などが挙げられる。
【0016】
(ポリエステル)
本発明のポリエステル層(A)を構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを例示することができ、これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、エチレンナフタレンジカルボキシレートはさらにエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。
【0017】
ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し単位の全モル数を基準として90モル%以上である。また主たる成分の割合は、95モル%以上であることが好ましい。
【0018】
ポリエステルが共重合ポリエステルである場合、共重合量はポリエステルの繰り返し単位の全モル数を基準として10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下である。
かかる共重合成分として、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、例えば蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のごときジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸のごときオキシカルボン酸、あるいはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールのごときジオールを好ましく用いることができる。
【0019】
これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよい。これらの共重合成分の中で、好ましい酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分としては、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。これらの共重合成分は、モノマー成分として共重合化されたものでもよく、また他のポリエステルとのエステル交換反応により共重合化されたものでもよい。
【0020】
また、本発明においては、層(A)を形成するポリエステルの共重合成分として、上述の共重合成分とともに、もしくは上述の共重合成分に代えて、カルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分を用いてもよい。これらのリン系成分を共重合成分として用いる場合、その共重合量は、層(A)を形成するポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上10mol%以下の範囲にとどめることが好ましく、より好ましくは1mol%以上8mol%以下、さらに好ましくは2mol%以上6mol%以下、特に好ましくは2mol%以上4mol%以下である。かかるリン系共重合成分をごく少量用いることにより、ポリエステルの融点の低下を抑えつつ、さらに難燃性を高めることができる。一方、かかるリン系共重合成分を上限値を超えて用いると、ポリエステルの融点低下が大きくなり、耐熱性や機械特性の低下が大きくなることがある。
【0021】
該カルボキシホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(I)で表わされる化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0023】
また、カルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、具体的に下記式(II)で表わされる化合物が挙げられる。
【0024】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基、RおよびRは炭素数1〜18のアルキル基、アリール基、モノヒドロキシアルキル基または水素原子、Xは炭素数1〜18の2価の炭化水素基をそれぞれ表わし、R〜Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい)
【0025】
式(I)で表わされるカルボキシホスフィン酸化合物としては、カルボキシメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシルホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニルホスフィン酸、およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなどが挙げられる。これらの中でも特に好ましい化合物として、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニルホスフィン酸、2−カルボキシエチルメチルホスフィン酸エチレングリコールエステルが挙げられる。これらのカルボキシホスフィン酸化合物は少なくとも1種を用いることが好ましく、2種以上併用してもよい。
【0026】
また、式(II)で表わされるカルボキシ亜ホスフィン酸化合物として、カルボキシメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)トルイル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)2,5−ジメチルフェニル亜ホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)シクロヘキシル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシプロピル)フェニル亜ホスフィン酸、(4−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸、(3−カルボキシフェニル)フェニル亜ホスフィン酸およびそれらの低級アルコールエステル、低級アルコールジエステルなどが挙げられる。
【0027】
本発明のポリエステルは、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、ジオール成分、ジカルボン酸成分および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。また、かかる溶融重合によって得られたポリエステルをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において固相重合することもできる。
また、前記リン系成分を添加する場合は、ポリエステル製造時の任意の時期に添加されるが、より好ましい添加時期は、エステル化反応あるいはエステル交換反応により得られた低重合体を重縮合反応させる時期である。
【0028】
本発明のポリエステル層(A)を構成するポリエステルは、末端カルボキシル基濃度が25eq/ton以下であることが好ましい。ここで、本発明における末端カルボキシル基濃度は、フィルムに製膜した後の状態での末端カルボキシル基濃度を指す。
また、かかる末端カルボキシル基濃度は、より好ましくは5eq/ton以上20eq/ton以下、さらに好ましくは10eq/ton以上18eq/ton以下である。多量の窒素含有ポリリン酸化合物を用いてフィルムを製膜すると、押出時に窒素含有ポリリン酸化合物が分解してポリエステルの加水分解を引き起こし、ポリエステルの固有粘度が低下して末端カルボキシル基濃度が上限値を超える範囲になることがある。末端カルボキシル基濃度が上限値を超えると十分な機械特性を有するフィルムが得られないことがあり、さらにはフィルムへの製膜自体が困難となることがある。
【0029】
(末端封止剤)
フィルム製膜後の層(A)を構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度をかかる範囲に維持させるための方法として、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物などの末端封止剤を重合時またはフィルム製造時に、層(A)の重量を基準として5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下の範囲内で用いる方法が挙げられる。かかる末端封止剤の中でもカルボジイミド化合物が好ましい。
【0030】
かかるカルボジイミド化合物として、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などが挙げられる。これらのカルボジイミド化合物は、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
またエポキシ化合物として、単官能性、二官能性、三官能性または多官能性のエポキシ化合物が例示される。中でも単官能性および二官能性のエポキシ化合物が好ましい。
エポキシ化合物としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル;安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等の脂肪酸グリシジルエステル;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートなどの脂環式ジエポキシ化合物などを例示することができる。
【0032】
(その他成分)
本発明の難燃性ポリステルフィルムを構成する層(A)には、上記のポリエステル以外の樹脂成分が更に含まれていてもよい。例えばポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテルおよびフェノキシ樹脂が挙げられる。かかる樹脂は、層(A)の重量に対して10重量%以下の範囲内で用いることが好ましい。かかる樹脂を上限を超えて用いた場合、ポリエステルが本来有する物理的特性を損なうことがある。
【0033】
<ポリエステル層(B)>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)を有する積層フィルムであってもよい。層(B)を有する場合は、層(B)を構成するポリエステルの共重合量は、層(A)を構成するポリエステルの全共重合量より多く、かつ層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%未満であることが好ましい。
かかる共重合ポリエステル層を有する場合、層(B)は層(A)よりも相対的に融点が低いため、本発明の難燃性ポリエステルフィルムの層(B)面を貼り合せる相手材と対向させ、層(B)の融点以上層(A)の融点より低い温度で熱プレス処理を施すことにより、溶融状態の層(B)を相手材と熱融着させて接着することができ、いわゆるヒートシール層として機能させることができる。
【0034】
層(B)を構成する共重合ポリエステルの主たる成分は、層(A)に記載された種類のポリエステルを用いることができる。中でもエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。層(B)を構成する共重合ポリエステルの主たる成分量は、層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%を超えることが好ましく、さらに好ましく60mol%以上である。
【0035】
また、層(B)を構成する共重合ポリエステルの共重合成分も、層(A)に記載された種類の共重合成分を用いることができる。中でも、好ましいジカルボン酸成分は、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分は、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。
層(B)を構成するポリエステルの共重合量は、層(A)を構成するポリエステルの全共重合量より多く、かつ層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%未満であることが好ましく、さらに好ましい上限値としては40mol%以下である。
【0036】
<他添加剤>
本発明の難燃性ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていてもよい。かかる不活性粒子は、積層構成の場合、層(A)、層(B)のいずれの層に配合されてもよい。不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB 、第IVA 、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、層重量に対して0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明の難燃性ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。これら添加剤はいずれの層に配合されても構わない。
【0037】
<フィルム厚み>
難燃性ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが5〜250μmであることが好ましく、より好ましくは8〜200μm、更に好ましくは10〜150μmの範囲である。
【0038】
<塗膜層>
本発明において、難燃性ポリエステルフィルム表面に各種の機能を付与するため、少なくとも一方の面に塗膜層が形成されてもよい。塗膜層を構成するバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の各種樹脂を使用し得る。たとえば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、およびポリオレフィン、ならびにこれらの共重合体やブレンド物が挙げられる。中でもポリエステル、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタンが好ましく例示される。かかるバインダー樹脂は、更に架橋剤を加えて架橋されたものでも良い。また塗膜層には、構成成分としてさらにポリアルキレンオキサイドなどの界面活性剤や不活性粒子などを含んでいてもよい。
【0039】
塗膜層はコーティングによって形成される方法が好ましく、コーティング塗剤の溶媒として、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンなどの有機溶媒および混合物が使用され、また水を溶媒としてもよい。ポリエステルフィルムの少なくとも片面に前記成分からなる塗膜を形成させる方法として、例えば延伸可能なポリエステルフィルムに塗膜形成成分を含む水溶液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。
【0040】
上記の延伸可能なポリエステルフィルムとは、未延伸ポリエステルフィルム、一軸延伸ポリエステルフィルムまたは二軸延伸ポリエステルフィルムであり、これらの中でもフィルムの押出方向(縦方向または長手方向)に一軸延伸した縦延伸ポリエステルフィルムが特に好ましい。
塗布方法としては、公知の任意の塗布方法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを単独または組み合わせて用いることができる。
【0041】
<その他の層>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、他の機能を付与する目的で片面または両面にさらに他層を積層した積層体としてもよい。ここでいう他の層とは、例えば透明なポリエステルフィルム、金属箔、ハードコート層が挙げられる。
【0042】
<フィルム製造方法>
本発明のポリエステルフィルムを製造する方法として、熱可塑性ポリエステルを溶融押出し、固化成形したシートを少なくとも一方向に延伸するフィルム製造方法が挙げられ、二方向に延伸した二軸配向フィルムであることが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば十分に乾燥させたポリエステルを融点〜(融点+70)℃の温度で溶融押出し、キャスティンクドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次延伸法により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に60〜100℃で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に80〜130℃で2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する方法が挙げられる。
熱固定は、130〜260℃、より好ましくは150〜240℃の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定することが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【0043】
<用途>
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃性と耐熱性が求められる用途に好適に用いることができ、例えば、フラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板などといった用途が例示される。また、これら用途以外に、金属層との貼り合せて用いられる用途にも用いることができる。
【0044】
(フラットケーブル)
本発明の難燃性ポリエステルフィルムはフラットケーブルの被覆材として使用することができる。フラットケーブルは、導電体が電気絶縁性被覆材でサンドイッチ状に被覆されたフラットな形状のケーブルである。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いてフラットケーブルを作成する場合、以下の2つの方法が好ましく例示される。
【0045】
1番目の方法として、本発明の難燃性ポリエステルフィルム上に接着剤を塗布・乾燥して接着層を形成し、この接着フィルム2枚を用いて接着層同士を対向させ、その間に複数本の導体を間隔をあけて平行に配列し、プレスして接着させることによりフラットケーブルを作成することができる。
【0046】
2番目の方法として、本発明における層(B)を積層した難燃性ポリエステルフィルムを2枚用いて層(B)同士を対向させ、その間に複数本の導電体を並列配置して挟みこみ、その後層(B)の融点以上、層(A)の融点未満の温度範囲で層(B)を溶融させてプレスし、熱融着させることにより難燃性のフラットケーブルを作成することができる。
【0047】
導電体としては、フラットケーブルに使用される通常の導電体を使用でき、例えば銅、メッキされた銅、銀などが挙げられる。導電体は箔状や平角状であり、所定の間隔をもって並列に配置される。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いて得られたフラットケーブルは、基材フィルム自体が難燃性に優れるため接着剤中またはヒートシール層中の難燃剤量を少なくしても十分な難燃性を有し、難燃性が必要とされる使途に好適に使用できる。また、フラットケーブル被覆材として用いた際に難燃性層(A)が外層に位置するため、成形体の難燃性についてもフィルムと同レベルの難燃性が発現する。さらに、難燃性層(A)がポリエステル本来の融点を維持しており、耐熱性を維持することができる。
【0048】
(フレキシブルプリント回路基板)
本発明の難燃性ポリエステルフィルムはフレキシブルプリント回路基板用にも使用できる。
かかる用途に用いる場合、難燃性ポリエステルフィルムの一方の面に金属箔が積層され、フレキシブルプリント回路基板として用いられることが好ましい。本発明において用いられる金属箔としては銅箔が例示される。金属箔の接合手段や形状の具体的手段としては特に制限はなく、例えば金属箔を難燃性ポリエステルフィルムに貼り合せた後、金属箔をパターンエッチングするいわゆるサブトラクティブ法、難燃ポリエステルフィルム上に銅などをパターン状にメッキするアディティブ法、パターン状に打ち抜いた金属箔を難燃性ポリエステルフィルムに貼り合せるスタンピングホイルなどを利用することができる。
【0049】
また、層(B)を有する積層フィルムを2枚用いて層(B)同士を対向させ、その間に銅箔などの回路を挟みこみ、その後層(B)の融点以上、層(A)の融点未満の温度範囲で層(B)を溶融状態でプレスして熱融着させることにより、難燃性のフレキシブルプリント回路基板を作成することができる。
【0050】
(その他用途)
また、その他の用途として面状発熱体が挙げられる。面状発熱体は、電気抵抗体の両面をフィルムでラミネートして形成されるものであり、フラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板と同様の使用方法が例示される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0052】
(1)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステル主成分、共重合成分および各成分量を特定した。
【0053】
(2)末端カルボキシル基濃度
フィルムサンプル10mgをHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):重クロロホルム=1:3の混合溶媒0.5mlに溶解してイソプロピルアミンを数滴添加し、H−NMR法(50℃、600MHz)により定量した。フィルムが積層フィルムの場合は層(A)を削り取ってサンプルとした。またフィルム製膜前のポリエステルチップの末端カルボキシル基濃度については、ポリエステルチップ10mgをサンプリングして測定した。
【0054】
(3)燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0055】
(4)フラットケーブルの燃焼性
フィルムの間に幅3mmにカットした35μm厚みの銅箔を並べて配置し挟んでフラットケーブルサンプルを作製した。
単層フィルムの場合は、フィルム上に難燃剤が含まれていないホットメルト接着剤を塗布し、接着剤同士が銅箔を挟んで対向するように配置した。またフィルムが層(B)を有する場合は、層(B)同士が銅箔を挟んで対向するように配置した。
熱融着条件は、ホットメルト接着剤、または低融点側のヒートシール層(B)の主成分がポリエチレンテレフタレートの場合は140℃で行い、また層(B)の主成分がポリエチレンナフタレートの場合は190℃で行った。また圧力は2.8kgf/cm、熱融着時間は2secであった。
作製したフラットケーブルサンプルをUL−94V法に準拠して評価した。サンプルを13mm×125mmにカットし、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、10秒間接炎した。離炎後の自己消火性を評価した。
○: 離炎後10秒以内に消火
×: 離炎後10秒以上燃える
【0056】
(5)融点
セイコーインスツルメント社製DSC SSC5200を使用し、層(A)のサンプル10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、20℃/minの昇温条件でDSC測定を行い、融解ピーク温度を求めてピーク温度を融点とした。
【0057】
(6)ヤング率
サンプルフィルムを幅10mm、長さ150mmに切り出し、チャック間100mmにサンプルを装着し、JIS−C2151に従って引張速度10mm/minの条件で引張試験を行い、得られた荷重―伸び曲線の立ち上り部接線の傾きよりヤング率を計算した。測定は5回行い、平均値を結果とした。測定は温度23±2℃、湿度50±5%に調節された室内において行った。
【0058】
[実施例1]
ポリリン酸メラミンをフィルム重量を基準として10重量%、また1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミドをフィルム重量を基準として1重量%となるようそれぞれ用い、またポリエステルとして固有粘度0.60dl/g、末端カルボキシル基が30eq/tonのポリエチレンテレフタレートを用いて、170℃ドライヤーで3時間乾燥後、溶融温度280℃で溶融してダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを100℃で縦方向(連続製膜方向)に3.3倍延伸し、その後、130℃で横方向(幅方向)に3.5倍に逐次二軸延伸し、さらに230℃で熱固定処理し、さらに200℃で横方向に1%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
ポリリン酸メラミンをフィルム重量を基準として10重量%、また1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミドをフィルム重量を基準として1重量%となるようそれぞれ用い、またポリエステルとして固有粘度0.61dl/g、末端カルボキシル基が30eq/tonのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用いて、180℃ドライヤーで5時間乾燥後、溶融温度300℃で溶融してダイスリットより押出した後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを140℃で縦方向(連続製膜方向)に3.3倍延伸し、その後、135℃で横方向(幅方向)に3.5倍に逐次二軸延伸し、さらに250℃で熱固定処理し、さらに200℃で横方向に1%の弛緩後、均一に除冷して室温まで冷やし、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
ポリリン酸メラミン量を25重量%に、カルボジイミド量を1.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例4]
ポリエステル層(A)として実施例3と同じ組成物を用いて押出機に投入し、280℃で溶融混練した。また、ポリエステル層(B)として、イソフタル酸を18mol%共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートを120℃ドライヤーで8時間乾燥後、別の押出機に投入し、250℃で溶融混練した。
それぞれ溶融した状態で2層に積層し(厚み比率 層(A):層(B)=4:1)、かかる積層構造を維持した状態でダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて2つの層からなる未延伸フィルムを作成した。
その後、実施例3と同様の製膜条件で製膜を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0062】
[実施例5]
ポリリン酸メラミンの含有量を表1に示すとおりに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、75μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0063】
[実施例6]
層(A)を構成するポリエステル原料として末端カルボキシル基濃度が22eq/tonであるポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例7]
カルボジイミドを用いなかった以外は実施例6と同様の操作を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例8]
カルボジイミドを用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本実施例のフィルムはポリリン酸メラミンによるポリエステルの分子量低下により末端カルボキシル基濃度が増加しており、難燃性には優れるものの、ヤング率の若干の低下がみられた。
【0066】
[比較例1]
ポリリン酸メラミン量を3重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み50μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性は表1の通りである。
【0067】
[比較例2]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.4重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。ついで、2−カルボキシエチルフェニルホスフィン酸をポリエステルの全繰り返し単位を基準として2mol%となるよう添加し、三酸化アンチモン0.024重量部を添加して、引き続き高温高真空下で常法にて重縮合反応を行い、固有粘度0.64dl/g、末端カルボキシル基が32eq/tonのポリエステルを得た。
得られたポリエステルに1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミドを1重量%添加して170℃ドライヤーで3時間乾燥後、押出機に投入し、270℃で溶融混練してダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを実施例1と同様の製膜条件で製膜を行い、50μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本比較例のフィルムは、難燃成分としてカルボキシエチルフェニルホスフィン酸由来の成分を含むものの、融点低下が見られた。また融点低下によるポリエチレンテレフタレート本来の耐熱性を損なわないよう、カルボキシエチルフェニルホスフィン酸の添加量を2モル%としたところ、十分な難燃性が得られなかった。
【0068】
[比較例3]
ポリリン酸メラミン量を45重量%に変更した以外は実施例1と同様の操作を行ったが、分子量低下が大きく、フィルム製膜時の製膜性に乏しく、実施例1と同じ延伸条件で二軸延伸フィルムを得ることができなかった。押出後のサンプルを用いて末端カルボキシル基濃度を測定したところ、40eq/tonであった。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、ポリエステルの融点低下を伴うことなく高い難燃性をすることから、難燃性が求められるフラットケーブルやフレキシブルプリント回路基板など種々の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃成分を含むポリエステル層(A)を少なくとも1層有する難燃性ポリエステルフィルムであって、該難燃成分として窒素含有ポリリン酸化合物を層(A)の重量を基準として5重量%以上40重量%以下の範囲で含有することを特徴とする難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステル層(A)を構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度が25eq/ton以下である請求項1に記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステル層(A)がカルボジイミド化合物を含有してなる請求項1または2に記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項4】
ポリエステル層(A)がさらにカルボキシホスフィン酸化合物またはカルボキシ亜ホスフィン酸化合物の少なくともいずれか1種に由来するリン系成分を層(A)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として1mol%以上10mol%以下の範囲で含有する請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステル層(A)のポリエステルの主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項6】
層(A)の片面にさらに共重合ポリエステル層(B)を有し、層(B)を構成するポリエステルの共重合量が層(A)を構成するポリエステルの全共重合量より多く、かつ層(B)のポリエステルの全繰り返し単位を基準として50mol%未満である請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項7】
フラットケーブルまたはフレキシブルプリント回路基板の基材フィルムに用いられる請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項1〜6いずれかに記載の難燃性ポリエステルフィルムを基板フィルムとして含むフラットケーブル。

【公開番号】特開2011−231174(P2011−231174A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100858(P2010−100858)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】