説明

電力増幅装置

【課題】 平均電力に対するピーク電力の比が大きい信号を増幅する際の電力変換効率を向上させると共に、広帯域信号にも適用可能な電力増幅装置を提供する。
【解決手段】 互いに異なる電力レベルの信号を入力して飽和に近い状態でそれぞれ増幅する複数の増幅器16〜18と、各増幅器出力のスプリアス成分を低減するバンドパスフィルタ19〜21と、各バンドパスフィルタの出力信号を空間に放射するアンテナ22〜24と、各増幅器に飽和に近い状態で動作する最適なドレイン電圧を供給するDC−DCコンバータ30と、入力信号の電力レベルを検出し、検出された電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器に入力信号を出力する信号分配部12とを備えた電力増幅装置であり、また、変調信号を周波数分割して信号分配部に入力する周波数分割回路41を備えた電力増幅装置としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力増幅装置に係り、特に電力変換効率を向上させることができる電力増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
無線機に用いられる送信用電力増幅装置は、高周波信号を所要の送信電力に増幅するものであり、ほとんどの無線機において最も多くの電力を消費する部分である。
電力増幅装置が消費する電力は、高周波出力に変換されるだけでなく、内部損失となる熱として放出される。そのため、消費電力の低減や信頼性の向上を図るために、電力増幅装置の電力変換効率を上げて、無駄な内部損失を抑えることが要求されている。
【0003】
ところで、CDMA(Code Division Multiple Access)や、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)等のように、平均電力に対するピーク電力が高い信号を増幅するには、増幅器の平均出力電力より増幅器の飽和レベルを高くする(バックオフを取る)必要がある。しかし、バックオフを取って使用すると、増幅器の効率は低下してしまう。
【0004】
例えば、単純なB級増幅器では、飽和動作時には理論的な最大効率は78%であるが、バックオフ10dBでの動作時における最大理論効率は26%となる。
CDMAやOFDM等の無線機では、ピーク電力比の大きな信号を低歪みで増幅する必要があるため、バックオフを大きく取らなければならず、効率が低くなってしまう。
【0005】
[関連技術]
効率を向上させる増幅装置に関する先行技術としては、特開2009−55515号公報(出願人:株式会社日立国際電気、特許文献1)がある。
特許文献1には、複数のピーク増幅器を備えたドハティ増幅器において、各増幅器からの出力を線路上で合成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】2009−55515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の電力増幅装置では、CDMAやOFDMのように、平均電力に対するピーク電力が高い信号を増幅する場合にはバックオフを大きく取らなければならず、電力変換効率が低くなってしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、ピーク電力比が高い信号を増幅する際の電力変換効率を向上させることができる電力増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、電力増幅装置において、互いに異なる電力レベルの信号を入力し、入力された信号を飽和に近い状態でそれぞれ増幅する複数の増幅器と、各増幅器により増幅された信号を空間に放射する複数のアンテナと、各増幅器がそれぞれ飽和に近い状態で動作する最適なドレイン電圧を各増幅器に対して供給するDC−DCコンバータと、入力信号の電力レベルを検出し、複数の増幅器の内、検出された電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器に入力信号を出力する信号分配部とを備えたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明は、上記電力増幅装置において、入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して周波数分割信号を出力する周波数分割回路を備え、周波数分割信号を信号分配部の入力信号とすることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、上記電力増幅装置において、複数の増幅器の出力段に、各増幅器の出力信号のスプリアス成分を低減するバンドパスフィルタを設けたことを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、上記電力増幅装置において、複数のアンテナが、同一の特性を備え、各アンテナからの出力が電磁界干渉を起こさず、且つ位相差が予め設定された許容範囲内となる距離に配置されていることを特徴としている。
特徴としている。
【0013】
また、本発明は、電力増幅方法において、信号分配部が、入力信号の電力レベルを検出し、当該検出された電力レベルに応じて信号を複数に分配し、分配された信号毎に当該信号の電力レベルで飽和に近い状態で動作する電力増幅器が、それぞれ分配された信号を増幅して出力し、各増幅器からの出力信号が合成されることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記電力増幅方法において、周波数分割回路が、入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して、当該周波数分割された信号を、信号分配部の入力信号とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、互いに異なる電力レベルの信号を入力し、入力された信号を飽和に近い状態でそれぞれ増幅する複数の増幅器と、各増幅器により増幅された信号を空間に放射する複数のアンテナと、各増幅器がそれぞれ飽和に近い状態で動作する最適なドレイン電圧を各増幅器に対して供給するDC−DCコンバータと、入力信号の電力レベルを検出し、複数の増幅器の内、検出された電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器に入力信号を出力する信号分配部とを備えた電力増幅装置としているので、入力信号の電力レベルが大きく変動しても、当該電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器で増幅動作を行うことができ、平均電力に対するピーク電力の比が大きい信号を増幅する場合でもバックオフを大きく取る必要がなく、電力変換効率を向上させることができ、また、空間合成により合成損失を低減して、増幅装置全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0016】
また、本発明によれば、入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して周波数分割信号を出力する周波数分割回路を備え、周波数分割信号を信号分配部の入力信号とする上記電力増幅装置としているので、歪を増大させることなく広帯域の変調信号に適用することができる効果がある。
【0017】
また、本発明によれば、複数のアンテナが、同一の特性を備え、各アンテナからの出力が電磁界干渉を起こさず、且つ位相差が予め設定された許容範囲内となる距離に配置されている上記電力増幅装置としているので、合成された増幅器出力信号の特性を良好にすることができる効果がある。
【0018】
また、本発明によれば、信号分配部が、入力信号の電力レベルを検出し、当該検出された電力レベルに応じて信号を複数に分配し、分配された信号毎に当該信号の電力レベルで飽和に近い状態で動作する電力増幅器が、それぞれ分配された信号を増幅して出力し、各増幅器からの出力信号が合成される電力増幅方法としているので、入力信号の電力レベルが大きく変動しても、当該電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器で増幅動作を行うため、平均電力に対するピーク電力の比が大きい信号を増幅する場合でもバックオフを大きく取る必要がなく、電力変換効率を向上させることができる効果がある。
【0019】
また、本発明によれば、周波数分割回路が、入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して、当該周波数分割された信号を、信号分配部の入力信号とする上記電力増幅方法としているので、歪を増大させることなく広帯域の変調信号に適用することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力増幅装置の概略構成を示す構成ブロック図である。
【図2】本増幅装置の実施例を示す説明図である。
【図3】アナログ回路で構成した信号分配部12の構成例を示す回路図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る電力増幅装置の概略構成を示す構成ブロック図である。
【図5】別の電力増幅装置の実施例の構成を示す説明図である。
【図6】分割変調波生成回路410の構成ブロック図である。
【図7】別の電力増幅装置における時間波形回路42の構成例を示す回路図である。
【図8】別の電力増幅装置における増幅回路43の構成例を示す構成ブロック図である。
【図9】別の電力増幅装置における波形の例を示す模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る電力増幅装置は、入力信号を入力レベルに応じて出力先を振り分ける信号分配部と、分配された各信号の位相及び振幅を調整する複数の位相振幅調整回路と、予め設定された特定の入力レベルにおいて飽和に近い状態で動作し、各位相振幅調整回路の出力信号を増幅する複数の増幅器と、各増幅器の出力信号のスプリアス成分を低減する複数のバンドパスフィルタと、各バンドパスフィルタの出力信号を空間に放射する複数のアンテナと、各増幅器が当該増幅器に分配された入力レベルの信号を飽和に近い状態で増幅するよう、最適なドレイン電圧を各増幅器に供給するDC−DCコンバータとを備え、信号分配部が、検出された入力レベルにおいて最も高効率で動作する増幅器の経路に入力信号を出力するものであり、入力レベルに応じて振り分けられた入力信号を各増幅器が飽和に近い状態で増幅することにより、平均電力に対するピーク電力が高い信号を効率的に増幅できると共に、開空間合成によって合成損失を低減でき、増幅装置全体の効率を向上させることができるものである。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る電力増幅装置は、上記電力増幅装置において、周波数分割回路が、変調信号の周波数帯域を複数に分割し、信号分配部が、得られた周波数分割信号について、信号レベルに応じて出力先を振り分け、増幅器が、予め設定された特定の入力レベルにおいて飽和に近い状態で動作して振り分けられた信号を増幅するものであり、増幅装置全体の効率を向上させると共に、広帯域信号に適用した場合にも、歪の発生を抑制して、良好な特性の出力信号を得ることができるものである。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る電力増幅装置は、複数のアンテナが同一の特性を備え、アンテナ間の設置距離を、電磁界干渉を起こさず、且つ開空間合成時の位相差が使用信号の規格を満足する距離としており、合成された増幅器出力信号の特性を良好に保つことができるものである。
【0024】
[実施の形態に係る電力増幅装置の構成:図1]
図1は、本発明の実施の形態に係る電力増幅装置の概略構成を示す構成ブロック図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る電力増幅装置(本増幅装置)は、入力端子1と、信号分配部2と、複数の増幅アンテナ部4-1、4-2、...4-nと、DC(Direct-Current)−DCコンバータ30とを備えている。
【0025】
更に、各増幅アンテナ部4は、増幅器5と、バンドパスフィルタ6と、アンテナ7とを備えている。
増幅アンテナ部4の数nは、適宜決定される。その際に、各増幅アンテナ部4の増幅器5は同一特性のものであってもよいし、異なる特性のものであってもよく、アンテナ5は、同一の特性を備えたものとする。
【0026】
各構成部分について説明する。
信号分配部2は、入力レベル(電力レベル)に応じて、入力信号をn個の増幅アンテナ部の内、当該入力レベルで最も高効率で増幅する増幅アンテナ部4に出力するものである。
増幅アンテナ部4の増幅器5は、FET(Field Effect Transistor)等で構成され、信号分配部2で分配された信号を入力して増幅する。本増幅装置の特徴として、各増幅器5は常に飽和に近い状態で動作するものであり、入力信号の入力レベルに応じて増幅器の特性やバイアス電圧及びドレイン電圧が予め適宜選択/設定されており、最適な効率が得られるようにしている。
これにより、増幅装置全体の効率向上を図るものである。
【0027】
バンドパスフィルタ6は、増幅器5で増幅された信号を帯域制限して、スプリアスを低減する。
アンテナ7は、増幅された高周波信号を空間に放出する。その際に、各アンテナにおいて位相差及び電力差が生じないよう、分配部2から出力された信号の位相及び電力を予め調整しておく。開空間で合成することにより、合成損失を理想的にはゼロにすることができ、一層の効率向上を図るものである。
また、各アンテナ7間の距離は、電磁界干渉が発生せず、位相差が許容範囲となる程度の距離としている。電磁界干渉及び位相差については後述する。
DC−DCコンバータ30は、各増幅器5に対して、それぞれ飽和に近い状態で動作可能とする最適なドレイン電圧を供給する。
【0028】
[本増幅装置の実施例:図2]
次に、本増幅装置の実施例について図2を用いて説明する。図2は、本増幅装置の実施例の構成を示す説明図である。
本増幅装置の実施例は、信号分配部12が入力レベルに応じて入力信号を分配するものである。図2の例は、図1に示した増幅アンテナ部4を3組備え、各アンテナ増幅部の入力段に位相振幅調整回路を備えた構成である。
具体的には、本実施例は、図2に示すように、入力端子11と、信号分配部12と、位相振幅調整回路35,36,37と、増幅器16,17,18と、バンドパスフィルタ19,20,21と、アンテナ22,23,24と、DC−DCコンバータ30とを備えている。
【0029】
各構成部分について説明する。
信号分配部12は、アナログ回路又はデジタル回路で構成され、入力信号260の入力レベルを検出し、入力レベルに応じた出力先に入力信号を出力する。具体的には、入力レベルが大きい場合には分配出力端子13に出力し、入力レベルが中程度の場合には分配出力端子14に出力し、入力レベルが小さい場合には分配出力端子15に出力する。信号分配部12は、入力信号を時間毎の信号レベルに基づいて、時間軸で分配する時間波形分割回路である。
【0030】
信号分配部12には、入力レベルの大きさを判別するための2種類のしきい値th1,th2(th1<th2)が設定されており、検出された入力レベルに応じて、入力信号が増幅器16,17,18の内の当該入力レベルで最も効率よく動作する最適な増幅器で増幅されるように、入力信号を分配端子13,14,15のいずれかに出力する。信号分配部12の構成及び動作については後述する。
【0031】
デジタル回路を用いる場合には、信号分配部12はDSP等で構成し、信号分配部12の入力段にA/D変換器を備え、出力段にD/A変換器を備えた構成とすれば、他の部分はアナログ回路の場合と同様に構成可能である。
【0032】
位相振幅調整回路35,36,37は、アンテナから出力された信号が空間合成される際に、位相差及び利得差が生じないよう、各分配信号の位相及び振幅を調整するものである。
具体的には、位相振幅調整回路35は、分配信号270(電力レベル大)を入力して位相及び振幅を調整し、位相振幅調整回路36は、分配信号280(電力レベル中)を入力して位相及び振幅を調整し、位相振幅調整回路37は、分配信号290(電力レベル小)を入力して位相及び振幅を調整する。
【0033】
増幅器16,17,18は、互いに異なる特定範囲の入力レベルの信号を入力して、それぞれ当該入力レベルにおいて飽和に近い状態で増幅するものであり、増幅器の特性(種類)やバイアス電圧及びドレイン電圧が適宜選択/設定されている。増幅器16,17,18は常に飽和に近い動作を行うため、いずれも高効率で動作する。
【0034】
本実施例では、増幅器16は、B〜C級にバイアスされており、位相及び振幅が調整された分配信号(電力レベル大)を飽和に近い動作で増幅する。増幅器16はピーク電力付近の入力信号を増幅する。
増幅器17は、B〜C級にバイアスされ、位相及び振幅が調整された分配信号(電力レベル中)を飽和に近い動作で増幅する。増幅器17は、平均電力付近の入力信号を増幅する。
増幅器18は、AB級にバイアスされ、位相及び振幅が調整された分配信号(電力レベル小)を飽和に近い動作で増幅する。増幅器18は小電力の入力信号を増幅する。
【0035】
つまり、本増幅装置では、平均電力に比べてピーク電力が高い信号を増幅する際に、1つの増幅器でピーク電力を考慮してバックオフを大きく取るのではなく、異なる入力レベルの信号をそれぞれ効率よく増幅する複数の増幅器を備え、入力信号を入力レベルに応じて適切な増幅器に振り分けて増幅する構成とし、各増幅器がそれぞれの入力レベルにおいて飽和に近い動作を行うことにより、増幅器全体の効率向上を図るものである。
【0036】
バンドパスフィルタ19,20,21は、それぞれ増幅器16,17,18から出力された増幅信号を帯域制限してスプリアスを抑制する。
アンテナ22,23,24は、バンドパスフィルタ19,20,21から出力された信号を空中に放出する。
【0037】
DC−DCコンバータ30は、増幅器16,17,18が、各増幅器に入力される入力レベルの信号を飽和に近い状態で増幅動作するよう、ぞれぞれの増幅器にとって最適なドレイン電圧を各増幅器に供給する。ドレイン電圧は、増幅器によって異なる場合もあるし、同じとなる場合もある。
具体的には、DC−DCコンバータ30は、ドレイン電圧供給端子31から最適なドレイン電圧を増幅器16に供給する。ドレイン電圧供給端子31から出力されるドレイン電圧は、増幅器16が入力レベルの大きい信号を飽和に近い状態で増幅するよう設定された電圧である。
同様に、DC−DCコンバータ30は、ドレイン電圧供給端子32から、増幅器17に平均電力付近の信号を飽和に近い状態で増幅するよう設定されたドレイン電圧を供給し、ドレイン電圧供給端子33から、増幅器18に小電力の信号を飽和に近い状態で増幅するよう設定されたドレイン電圧を供給する。
【0038】
[本実施例の動作:図2]
次に、本実施例における動作について図2を用いて簡単に説明する。
入力端子11から入力された入力信号260は、信号分配部12で入力レベルが検出され、検出された入力レベルに応じて出力先が選択され、分配出力端子13,14,15のいずれかから出力される。
図2の例では、入力レベルが高レベルの場合は、入力信号は分配出力端子13から出力され、入力レベルが中レベルの場合は分配出力端子14から出力され、入力レベルが小レベルの場合は分配出力端子15から出力される。
【0039】
分配された信号270,280,290は、それぞれ位相振幅調整回路35,36,37で、アンテナ出力時に位相差と利得差が生じないように位相と振幅が調整され、増幅器16,17,18で増幅される。
更に、バンドパスフィルタ19,20,21でスプリアスが抑制されて、アンテナ22,23,24から放出され、位相差と利得差が生じることなく開空間合成されて出力信号250が得られる。
【0040】
[アンテナ間の距離について:図2]
空間合成を行う場合、アンテナ間の距離を電磁界干渉が起こらない距離に設定する必要がある。また、最も離れたアンテナ同士の距離は、許容できる位相差によって決定される。
まず、各アンテナ間で電磁界干渉が起こらない距離について説明する。
アンテナ22,23,24で電磁界干渉が起こらない距離をΔlとし、搬送波波長をλgとすると、Δlは、
Δl>>λg/2π (式1)
で表される。
【0041】
また、最も離れているアンテナ22とアンテナ24との距離Δtは、空間合成する際の位相差の許容範囲として表すことができる。許容位相差を1度とし、変調帯域幅をλとすると、
Δt<<λ/360 (式2)
で表される。
【0042】
仮に、変調度100%のAM変調で、搬送波として2.14GHzを使用し、変調帯域幅を15MHzとした場合、(式1)より、 Δl>>2.23[cm] となり、(式2)より、 Δt<<5.56[cm] となる。
【0043】
また、図2より、Δt=2Δl とすると、Δlの許容範囲は、
2.23[cm]<<Δl<<2.78[cm] となる。
すなわち、Δlが上記範囲内であれば、電磁界干渉を起こさず、空間合成した際にも1度以下の位相差で合成することができるものである。
このように、許容位相差が1度以下という厳しい設定にもかかわらず、変調帯域幅を15MHz取ることができるため、広帯域な信号にも十分使用可能となるものである。
【0044】
[信号分配部12の構成例:図3]
次に、図2に示した信号分配部12の構成例について図3を用いて説明する。図3は、アナログ回路で構成した信号分配部12の構成例を示す回路図である。
図3に示すように、信号分配部12は、入力端子11と、ディバイダ100と、検波器110と、コンパレータ101,102,103,104と、AND回路105と、スイッチ106,107,108と、分配出力端子13,14,15とを備えている。
図2と同じ部分については同一の符号を付している。
【0045】
ディバイダ100は入力信号を2つに分岐する。
検波器110は、分岐された一方の入力信号を検波して入力レベル(a)を検出する。検出された入力レベルは、コンパレータ101,102,103,104に入力される。
【0046】
そして、本実施例では、コンパレータ101〜104によって、入力レベルaをしきい値th1、th2と比較して、その大小に基づいてスイッチ106,107,108のいずれかをオンとして、入力信号を分配出力端子13,14,15のいずれかに出力する。
【0047】
コンパレータ101には、+端子に第1のしきい値th1が設定されており、−端子から入力される入力レベルaがth1より小さい(a<th1)場合に、出力信号がHレベルとなる。すなわち、信号波形(b)のときにスイッチ106がオンとなり、他のスイッチ107,108はオフとなる。
【0048】
コンパレータ102は、−端子に第1のしきい値th1が設定されており、+端子から入力される入力レベルaがth1より大きい(a>th1)場合に、Hレベル信号が出力される。
また、コンパレータ103には、+端子に第2のしきい値th2が設定されており、−端子から入力される入力レベルaがth2より小さい(a<th2)場合に、Hレベル信号が出力される。
【0049】
そして、コンパレータ102とコンパレータ103からの出力が両方ともHレベルの場合(th1<a<th2)のみに、AND回路105からの出力がHレベルとなる。つまり、信号波形(c)のときにスイッチ107がオンとなり、他のスイッチ106,108はオフとなる。
【0050】
コンパレータ104は、−端子に第2のしきい値th2が設定されており、+端子から入力される入力レベルaがth2より大きい(a>th2)場合に、出力信号がHレベルとなる。つまり、信号波形(d)のときにスイッチ108がオンとなり、他のスイッチ106,107はオフとなる。
【0051】
スイッチ106は、コンパレータ101からの出力がHレベルの場合にオンとなり、ディバイダ100で分岐された入力信号を出力端子15に出力する。
スイッチ107は、AND回路105からの出力がHレベルの場合にオンとなり、入力信号を出力端子14に出力する。
スイッチ108は、コンパレータ104からの出力がHレベルの場合にオンとなり、入力信号を出力端子13に出力する。
【0052】
上記構成の信号分配部12の動作について説明する。
入力端子11から入力された信号は、ディバイダ100で2つに分岐されて、一方の分岐信号は、検波器110で検波されて入力レベル(a)が検出される。
入力レベルaがth1より小さい場合には(a<th1,信号波形b)、コンパレータ101の出力のみがHレベルとなり、スイッチ106がオンとなって、ディバイダ100で分岐された他方の入力信号は分配出力端子15から出力位相振幅調整回路37に出力される。
【0053】
また、入力レベルaがth1とth2の間(th1<a<th2,信号波形c)の場合には、コンパレータ102,103がHレベルとなり、スイッチ107がオンとなって入力信号は分配出力端子14から出力位相振幅調整回路36に出力される。
入力レベルaがth2より大きい(a>th2,信号波形d)場合には、コンパレータ104がHレベルとなり、スイッチ108がオンとなって入力信号は分配出力端子13から出力位相振幅調整回路35に出力される。
分配出力端子13,14,15以降の動作は、図2の場合と同様である。
このようにして、本実施例では、入力信号が入力レベルに応じて最適な増幅器の経路に分配され、図2に示した増幅器16,17,18のいずれかにおいて飽和に近い状態で効率よく増幅されるものである。
【0054】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器によれば、入力信号の入力レベルを検出し、検出された入力レベルに応じて選択した出力先に入力信号を出力する時間波形分割回路としての信号分配部12と、分配された入力信号の位相及び振幅を調整する位相振幅調整回路37,36,35と、入力レベルが第1のしきい値よりも小さい入力信号を飽和に近い状態で増幅する第1の増幅器18と、入力レベルが第1のしきい値と第2のしきい値との間である入力信号を飽和に近い状態で増幅する第2の増幅器17と、入力レベルが第2のしきい値よりも大きい入力信号を飽和に近い状態で増幅する増幅器16と、増幅器18,17,16で増幅された信号についてそれぞれスプリアスを低減するバンドパスフィルタ21,20,19と、バンドパスフィルタ21,20,19の出力をそれぞれ空間放射するアンテナ24,23,22と、増幅器18,17,16がそれぞれの増幅器に入力される入力信号の入力レベルで飽和に近い状態で動作するよう、各増幅器18,17,16に最適なドレイン電圧を供給するDC−DCコンバータ30を備え、信号分配部12が、検出された入力レベルにおいて飽和に近い動作を行う増幅器を含む経路に入力信号を出力する電力増幅装置としているので、入力信号の入力レベルの変動が大きくても、各入力レベルにおいてそれぞれ飽和状態で増幅動作を行う増幅器で増幅することで電力変換効率を向上させ、特に平均電力に対するピーク電力が高い信号の増幅において効率を向上させることができ、また、開空間合成することにより、合成損失を低減して増幅器全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0055】
また、本電力増幅装置によれば、複数のアンテナの特性を同一とし、アンテナ間の距離を、電磁界干渉を起こさず、位相差がシステムの許容範囲となる距離となるよう各アンテナを設置しているので、空間合成された増幅器出力の特性を良好に保つことができる効果がある。
尚、本実施の形態では、一層の効率向上を図るために増幅された信号を複数のアンテナから出力することにより開空間で合成する構成について記載したが、開空間に限らず、有線上で合成する閉空間(線路上)の構成としてもよい。
【0056】
[別の実施の形態]
次に、本発明の別の実施の形態に係る電力増幅装置(別の電力増幅装置)について説明する。
上述した実施の形態に係る電力増幅装置のように信号レベルに応じて時間分配された信号を増幅して送信する場合、広帯域信号に適用すると、時間波形分割回路(信号分配部)のコンパレータやスイッチの応答特性に限界があるため、分割した信号の歪が大きくなって、空間で合成した信号の品質が劣化してしまうことがある。
【0057】
そこで、別の電力増幅装置では、信号を周波数領域で分割し、分割された信号について時間波形分割することにより、効率を向上させると共に、広帯域信号でも歪の発生を抑え、空間で合成した信号の品質を良好にするようにしている。
【0058】
[別の電力増幅装置の構成:図4]
別の電力増幅装置の構成について図4を用いて説明する。図4は、本発明の別の実施の形態に係る電力増幅装置の概略構成を示す構成ブロック図である。
図4に示すように、別の電力増幅装置は、変調波源回路40と、周波数分割回路41と、複数の時間波形分割回路42と、複数の増幅回路43と、複数のバンドパスフィルタ44と、複数のアンテナ45とを備えている。
【0059】
変調波源回路40は、特定の変調方式で変調して変調信号を出力する。
周波数分割回路41は、別の電力増幅装置の特徴部分であり、入力された変調信号310を周波数軸に沿って特定の帯域幅の複数の周波数分割信号に分割する。ここでは、周波数分割信号310a、310b、...310nのn個の周波数分割信号に分割している。
【0060】
時間波形分割回路42は、図3に示した信号分配部12と同様の構成及び動作であるが、別の電力増幅装置では、特定帯域に周波数分割された信号を入力して、入力信号のレベルに応じてm個の出力端子に分配し、後述する増幅回路43のm個の増幅器の内、最適な増幅器に出力する。
【0061】
増幅回路43は、m個の増幅器を備え、各増幅器は、入力された特定レベルの信号を飽和に近い状態で増幅する。各増幅器は、上述した実施の形態における増幅器16,17,18と同様に、入力される信号レベルで飽和に近い状態で増幅動作を行うために適切なドレイン電圧が印加されている。
【0062】
つまり、時間波形分割回路42と増幅回路43の数は、周波数分割回路41において分割される帯域の数(n)に対応しており、各増幅回路43を構成する増幅器の数は、時間波形分割回路32で分割される信号レベル範囲の数(m)に対応している。
【0063】
このように、別の電力増幅装置では、周波数分割回路41で狭い帯域に分割された信号について、上述した実施の形態の電力増幅装置と同様に時間波形分割することにより、時間波形分割回路42における歪の発生を抑え、効率を向上させると共に信号品質を向上させることができるものである。
【0064】
周波数分割される周波数分割信号の数(n)及び時間波形分割回路42でレベルに応じて分割される信号の数(m)は、システムに応じて任意に設定可能であり、それに対応して時間波形分割回路42と増幅回路43の数、及び各増幅回路43内の増幅器の数を決めればよい。
【0065】
ハンドパスフィルタ44は、増幅回路43で増幅された信号を帯域制限して、スプリアスを低減する。
アンテナ45は、図1及び図2に示したものと同様に、増幅された高周波信号を空間に放出するものであり、各アンテナ45の特性は同一としている。また、アンテナ45間の距離は、電磁界干渉を起こさず、位相差がシステムの許容範囲となる距離としている。
【0066】
[別の電力増幅装置の動作:図4]
上記構成の別の電力増幅装置における動作について図4を用いて簡単に説明する。
変調波源回路40で変調された変調信号310は、周波数分割回路41で、複数の周波数分割信号310a、310b、...310nに分割され、各周波数分割信号は、時間波形分割回路42で信号レベルに応じて更に時間分割される。
【0067】
そして、時間分割された信号は、増幅回路43において、各信号レベルに応じて飽和動作する増幅器で増幅され、バンドパスフィルタ44で帯域制限され、アンテナ45から放出され、開空間合成されて、合成信号320が得られる。開空間で合成されることにより、理想的には合成損失を無くすことができるものである。
【0068】
[別の電力増幅装置の実施例:図5]
次に、別の電力増幅装置の実施例について図5を用いて説明する。図5は、別の電力増幅装置の実施例の構成を示す説明図である。
図5に示す実施例(別の実施例)は、OFDM信号に適用した例を示しており、変調信号の帯域を3つの周波数帯域に分割し、更に、各分割周波数帯域の信号を3つに時間波形分割して増幅するようにしている。
図5に示すように、別の実施例の電力増幅装置は、分割変調波生成回路410と、時間波形分割回路42と、増幅回路43と、バンドパスフィルタ44と、アンテナ45とを備えている。
【0069】
ここで、別の実施例の分割変調生成回路410は、サブキャリアを生成した後、複数個のサブキャリアを合成して所望の帯域幅の周波数分割信号を生成する構成としているが、他に複数のバンドパスフィルタを備えて変調信号を分割する構成も可能である。分割変調波生成回路410については後で説明する。
【0070】
時間波形分割回路42は、3つに周波数分割された各周波数分割信号を、信号レベルに応じて例えばレベル大、中、小の3つに分けて、接続された増幅回路43の複数の増幅器の内、当該入力レベルの信号の増幅を飽和に近い状態で行う最適な増幅器に出力する。時間波形分割回路42については後で説明する。
OFDMのような広帯域信号に適用した場合でも、各時間波形分割回路42は、周波数分割された狭い帯域の信号を時間波形分割すればよいので、歪の発生を抑えることができるものである。
【0071】
[別の実施例の動作:図5]
分割変調波生成回路41において、生成された変調信号は3つの帯域に分割され、各周波数分割信号は、出力端子41a、41b、41cから出力されて、時間波形分割回路42の入力端子42aに入力される。
そして、各周波数分割信号は、時間波形分割回路42で時間軸で信号レベルに応じて分割され、分割された信号は、出力端子42b、42c、43dのいずれかから増幅回路43の対応する入力端子43a、43b、43cに入力される。
【0072】
増幅回路43では、周波数分割且つ時間波形分割された信号が信号レベルに応じて高効率で増幅され、出力端子43d、43e、43fから対応するバンドパスフィルタ44に出力されて、アンテナ45から放射され、開空間で合成される。
【0073】
ここで、アンテナ45間の距離について説明する。
アンテナ45間で電磁界干渉が起こらない距離をΔlとし、同一の増幅回路44からの信号を放出するアンテナ45の内、最も離れているアンテナ45間で位相差が許容範囲(1度)となる距離をΔtとし、上述した搬送波及び変調帯域幅15MHzの条件とすると、上述した実施の形態の電力増幅装置と同様に、Δlの許容範囲は、2.23[cm]<<Δl<<2.78[cm]となる。
これにより、広帯域信号に十分適用可能であることがわかる。
【0074】
[分割変調波生成回路410:図6]
次に、図5に示した分割変調波生成回路410について図6を用いて説明する。図6は、分割変調波生成回路410の構成ブロック図である。
分割変調波生成回路410は、別の電力増幅装置の特徴部分であり、図6に示すように、直列並列変換部50と、サブキャリア合成回路52とを備えている。
直列並列変換部50は、送信データを直列並列変換し、複素変調により複数のサブキャリアに分割し、複数のサブキャリア信号51を出力する。
【0075】
サブキャリア合成回路52は、生成された複数のサブキャリア信号51から、変調信号の帯域を3つに分割した周波数分割信号を生成する。具体的には、サブキャリア合成回路52a、52b、52cは、複数のサブキャリア信号51から周波数順に、N個ずつのサブキャリア信号51を合成して、予め設定された帯域幅の周波数分割信号を生成し、出力する。
【0076】
例えば、サブキャリア合成回路52aは、最も周波数の低い帯域のサブキャリアをN個合成して、出力端子41aから時間波形回路42に出力し、サブキャリア合成回路52bは、中間の帯域のサブキャリアを合成し、サブキャリア合成回路52cは、最も周波数の高い帯域のサブキャリアを合成して、それぞれ出力端子41b、41cから時間波形回路42に出力する。
これにより、3つの周波数分割信号が得られる。
【0077】
[時間波形分割回路42:図7]
次に、図4,5に示した時間波形分割回路42について図7を用いて説明する。図7は、別の電力増幅装置における時間波形回路42の構成例を示す回路図である。
図7に示すように、時間波形分割回路42は、入力端子42aと、ディバイダ301と、検波器302と、コンパレータ303,304,305,306と、AND回路307と、スイッチ307,308,309と、分配出力端子42b,42c,42dとを備えている。
【0078】
時間波形回路42は、図3に示した信号分配部12と構成及び動作は同じであるため、ここでは簡単に説明する。
ディバイダ301は、入力信号120を2つに分岐し、一方をスイッチ307,308,309に出力し、他方を検波器302に出力する。
検波器302は、分岐された一方の信号を検波して、検波波形120aを入力レベルとして出力する。
【0079】
コンパレータ303には、+端子に第1のしきい値th1が設定されており、−端子から入力される入力レベル120aがth1より小さい(120a<th1)場合に、出力信号がHレベルとなる。すなわち、信号波形120bのときにスイッチ307がオンとなり、ディバイダ301からの信号が分配出力端子42dから増幅回路43に出力される。
【0080】
コンパレータ304は、−端子に第1のしきい値th1が設定されており、+端子から入力される入力レベル120aがth1より大きい(120a>th1)場合に、Hレベル信号を出力する。
また、コンパレータ305には、+端子に第2のしきい値th2が設定されており、−端子から入力される入力レベル120aがth2より小さい(120a<th2)場合に、Hレベル信号を出力する。
【0081】
そして、コンパレータ304とコンパレータ305からの出力が両方ともHレベルの場合(th1<120a<th2)のみに、AND回路307からの出力がHレベルとなる。つまり、信号波形120cのときにスイッチ308がオンとなり、ディバイダ301からの信号が分配出力端子42cから増幅回路43に出力される。
【0082】
コンパレータ306は、−端子に第2のしきい値th2が設定されており、+端子から入力される入力レベル120aがth2より大きい(a>th2)場合に、出力信号がHレベルとなる。つまり、信号波形120dのときにスイッチ309がオンとなり、ディバイダ301からの信号が分配出力端子42cから増幅回路43に出力される。
【0083】
これにより、別の電力増幅装置では、入力信号が入力レベルに応じて最適な増幅器の経路に分配され、後述する増幅回路43の増幅器のいずれかにおいて飽和に近い状態で効率よく増幅されるものである。
【0084】
[増幅回路43:図8]
次に、図4,5に示した増幅回路43の構成について図8を用いて説明する。図8は、別の電力増幅装置における増幅回路43の構成例を示す構成ブロック図である。
図8に示すように、増幅回路43は、位相振幅調整回路46a,46b,46cと、増幅器47a,47b,47cと、DC−DCコンバータ48とを備えている。
各構成部分は、図2に示した位相振幅調整回路37、増幅器16〜18、DC−DCコンバータ30と同様の構成及び動作である。
位相振幅調整回路46と増幅器47の数は、時間波形分割回路42において分割される信号レベルの数に対応しており、任意に設定可能である。ここでは3個としている。
【0085】
そして、上記増幅回路43においては、時間波形分割回路42において信号レベルに応じて分割された信号は、増幅回路43のいずれかの位相振幅調整回路46に入力されて、アンテナ出力時に位相差と利得差が生じないように位相と振幅が調整され、増幅器47で飽和に近い状態で増幅される。
具体的には、時間波形分割回路42の出力端子42bから出力されたレベル大の信号は、増幅回路43の入力端子43aに入力されて、位相振幅回路46aで位相及び振幅が調整され、増幅器47aで増幅される。
【0086】
また、時間波形分割回路42の出力端子42cから出力されたレベル中の信号は、増幅回路43の入力端子43bに入力されて、位相振幅回路46bで位相及び振幅が調整され、増幅器47bで増幅される。
【0087】
同様に、時間波形分割回路42の出力端子42dから出力されたレベル小の信号は、増幅回路43の入力端子43cに入力されて、位相振幅回路46cで位相及び振幅が調整され、増幅器47cで増幅される。
【0088】
各増幅器47a,47b,47cには、入力信号のレベルに対応して、飽和状態に近い動作が行われるよう、DC−DCコンバータ48の端子49a,49b,49cから適切なドレイン電圧が供給される。
【0089】
[波形の例:図9]
次に、別の電力増幅装置の実施例における波形の例について図9を用いて説明する。図9は、別の電力増幅装置における波形の例を示す模式説明図である。
図9に示すように、分割変調波生成回路410の直列並列変換部50で生成される変調信号波形60は、変調帯域幅Δfcの波形である(横軸は周波数)。
【0090】
この信号をサブキャリア合成回路52により、所定の帯域幅に分割して、周波数分割信号を得る(横軸は周波数)。周波数分割信号の波形は、分割変調波形61で表され、ここでは変調帯域幅Δfcを3つに分割している。各波形は、帯域の中心周波数が異なっている。
周波数分割信号(分割変調波形61)の帯域幅をΔfsとすると、
Δfs=Δfc/M で表される。Mは分割数であり、ここでは3である。
【0091】
そして、各周波数分割信号は、更に時間波形分割回路42によって、包絡線の電圧レベルに応じて時間分割され、ここでは9つの時間分割波形62が得られる(横軸は時間)。
そして、各時間分割波形62は、それぞれ対応する増幅器で増幅された後、アンテナ45から空間放射されて、開空間で合成され、合成変調信号波形63が得られるものである。
【0092】
[別の実施の形態の効果]
本発明の別の実施の形態に係る電力増幅装置によれば、周波数分割回路41が、変調信号の変調帯域を複数に分割して周波数分割信号を生成し、複数の時間波形分割回路42が、各周波数分割信号について入力レベルに応じて選択した出力先に入力信号を出力し、増幅回路43の各位相振幅調整回路46が、分配された入力信号の位相及び振幅を調整し、各増幅器47が、入力された信号を飽和に近い状態で増幅し、バンドパスフィルタ44が、増幅された信号を帯域制限してスプリアスを低減し、アンテナ45が空間放射し、DC−DCコンバータ48が、各増幅器47に所定の入力レベルで飽和に近い状態で高効率動作を行う適切なドレイン電圧を印加する電力増幅装置としているので、増幅器全体の効率を向上させると共に、OFDM信号のような広帯域信号についても、歪の発生を抑えて増幅器出力の品質を良好にすることができる効果がある。
【0093】
また、別の電力増幅装置によれば、複数のアンテナ45の特性を同一とし、アンテナ45間の距離を、電磁界干渉を起こさず、位相差がシステムの許容範囲となる距離となるよう各アンテナ45を設置しているので、空間合成された増幅器出力の特性を良好に保つことができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、電力変換効率を向上させる増幅器に適しており、特に平均電力に対するピーク電力の比が大きい信号を増幅する際の効率を向上させ、広帯域信号にも適用可能な電力増幅装置に適している。
【符号の説明】
【0095】
1,11...入力端子、 2,12...信号分配部、 4...増幅アンテナ部、 5,16,17,18,47...増幅器、 6...バンドパスフィルタ、 7...アンテナ、 13,14,15...分配出力端子、 19,20,21,44...バンドパスフィルタ、 22,23,24,45...アンテナ、 250,320...出力信号、 260,310,120...入力信号、 270,280,290...分配信号、 310a,310b,310c...周波数分割信号、 30,48...DC−DCコンバータ、 31,32,33...ドレイン電圧供給端子、 35,36,37,46...位相振幅調整回路、 50...直列並列変換部、 51...サブキャリア、 52サブキャリア合成回路、 100,301...ディバイダ、 110,302...検波器、 101,102,103,104,303,304,305,306...コンパレータ、105,307...AND回路、 106,107,108,307,308,309...スイッチ、 40...変調波源回路、 41...周波数分割回路、 42...時間波形分割回路、 43...増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる電力レベルの信号を入力し、前記入力された信号を飽和に近い状態でそれぞれ増幅する複数の増幅器と、
前記各増幅器により増幅された信号を空間に放射する複数のアンテナと、
前記各増幅器がそれぞれ飽和に近い状態で動作する最適なドレイン電圧を前記各増幅器に対して供給するDC−DCコンバータと、
入力信号の電力レベルを検出し、前記複数の増幅器の内、前記検出された電力レベルにおいて飽和に近い状態で動作する増幅器に前記入力信号を出力する信号分配部とを備えたことを特徴とする電力増幅装置。
【請求項2】
入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して周波数分割信号を出力する周波数分割回路を備え、
前記周波数分割信号を前記信号分配部の入力信号とすることを特徴とする請求項1記載の電力増幅装置。
【請求項3】
前記複数の増幅器の出力段に、前記各増幅器の出力信号のスプリアス成分を低減するバンドパスフィルタを設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の電力増幅装置。
【請求項4】
前記複数のアンテナが、同一の特性を備え、前記各アンテナからの出力が電磁界干渉を起こさず、且つ位相差が予め設定された許容範囲内となる距離に配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の電力増幅装置。
【請求項5】
信号分配部が、入力信号の電力レベルを検出し、当該検出された電力レベルに応じて信号を複数に分配し、
前記分配された信号毎に当該信号の電力レベルで飽和に近い状態で動作する電力増幅器が、それぞれ前記分配された信号を増幅して出力し、
前記各増幅器からの出力信号が合成されることを特徴とする電力増幅方法。
【請求項6】
周波数分割回路が、入力された変調信号を複数の帯域に周波数分割して、当該周波数分割された信号を、信号分配部の入力信号とすることを特徴とする請求項5記載の電力増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−75081(P2012−75081A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108315(P2011−108315)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】