説明

電力変換装置の保護方式

【課題】IGBTなどの電圧駆動型半導体素子を、アーム短絡等による過電流破壊から防止できるようにする。
【解決手段】1段目のゲート駆動回路15には過電流保護回路11と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器19とを接続し、1段目以外のゲート駆動回路16〜18には過電流保護回路12〜14と、電圧検出回路8〜10とをそれぞれ接続して構成し、電流検出器19で検出される電流が過電流の場合は、ゲート駆動回路15に保護信号を出力してIGBT1にゲート電流を流し、その結果IGBT2にもゲート電流を流して両IGBT1,2のゲート電圧を下げ、ソフト遮断動作を開始させ保護を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各アームに電圧駆動型半導体素子を複数個直列接続した電力変換装置の保護に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、各アームに電圧駆動型半導体素子を複数個直列接続した電力変換装置の一般的な例を示す。
図6において、25は三相交流入力電源、26はダイオードブリッジ回路などの整流回路、27は平滑用コンデンサ、28〜33は複数個直列接続された電圧駆動型半導体素子、34はモータ等の負荷である。
【0003】
上記の構成において、アーム短絡などが発生した場合に、電圧駆動型半導体素子を過電流による破壊から保護する従来方式として、電流検出回路によって電圧駆動型半導体素子の過電流状態を検出し、電圧駆動型半導体素子を緩やかにオフさせることで破壊無く遮断する方法(ソフト遮断ともいう)が一般的である。このような保護方式は、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0004】
図7に保護方式の従来例を示す。これは、各アームに電圧駆動型半導体素子を複数個直列接続した電力変換装置の1アーム分を示す。また、電圧駆動型半導体素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)素子を用い、IGBTを4直列接続した例である。
図7において、1〜4(Q1〜Q4)はダイオードが逆並列に接続されたIGBT、11〜14は過電流保護回路、15〜18はソフト遮断機能を有するゲート駆動回路、35〜38は電流検出器である。つまり、この回路では各IGBT1〜4にはそれぞれゲート駆動回路15〜18が接続され、各ゲート駆動回路15〜18には、過電流保護回路11〜14を介して電流検出器35〜38が接続されている。
【0005】
その動作について、IGBTが2直列接続された図8の場合を参照して説明する。
図8において、アーム短絡などによりIGBT1,2に過電流が流れると、電流検出器35,36がそのことを検出し、過電流保護回路11,12に検出信号が入力される。過電流保護回路11,12に検出信号が入力されると、過電流保護回路11,12は過電流かどうかを判別し、過電流と判断すると保護信号をゲート駆動回路15,16に出力するので、ゲート駆動回路15,16はソフト遮断モードに切り替わり、これによってIGBT1,2は破壊すること無く遮断される。
【0006】
【特許文献1】特開平04−079759号公報
【特許文献2】特開平05−308717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような方法によれば、アーム短絡などが発生した場合に直列接続された電圧駆動型半導体素子を、過電流による破壊から保護することができるが、各電流検出器のばらつきなどにより、ソフト遮断時の電圧分担が不平衡となる(図9のゲート電圧Q1,Q2参照)問題があり、最悪の場合には過電圧を印加された電圧駆動型半導体素子が破壊するというおそれがある。
したがって、この発明の課題は、電圧駆動型半導体素子の破壊を回避し得る保護方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するため、請求項1の発明では、最も低圧側に接続された電圧駆動型半導体素子を1段目とし、最も高圧側に接続された電圧駆動型半導体素子をn段目(nは整数)として、各アームに電圧駆動型半導体素子がn個直列接続された電力変換装置に対し、
各電圧駆動型半導体素子には過電流検出時に電圧駆動型半導体素子を緩やかにオフさせる機能を有するゲート駆動回路をそれぞれ設け、電圧駆動型半導体素子とゲート駆動回路を接続するゲート線をそれぞれ互いに磁気結合回路により接続し、m(m=1〜n)段目のゲート駆動回路には、m段目の電圧駆動型半導体素子に流れる電流を検出する電流検出器と、この電流検出器の検出結果に応じて保護信号を出力する過電流保護回路とを接続し、m段目以外のゲート駆動回路には、前記磁気結合回路に基づいて発生する電圧を検出する電圧検出回路と、この電圧検出回路の検出結果に応じて保護信号を出力する過電流保護回路とをそれぞれ接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、各アームに電圧駆動型半導体素子が複数個直列接続された電力変換装置において、過電流遮断時に各電圧駆動型半導体素子の電圧分担に不平衡を発生させることなく同時に緩やかにオフさせる(ソフト遮断させる)ことができるため、アーム短絡などが発生した場合に、電圧駆動型半導体素子を過電流破壊から確実に防ぐことができる。また、1個の電流検出回路で複数個の電圧駆動型半導体素子を保護できるため、保護が低コストに提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1はこの発明の実施の形態を示す回路構成図で、IGBTが4直列接続された場合の例である。図1において、1〜4はダイオードが逆並列に接続されたIGBT、5〜7は磁気結合回路、8〜10は電圧検出回路、11〜14は過電流保護回路、15〜18はソフト遮断機能を有するゲート駆動回路、19は電流検出器である。
【0011】
図1より、各IGBT1〜4にはゲート駆動回路15〜18が接続され、IGBTとゲート駆動回路を接続するゲート線がそれぞれ、互いに磁気結合回路5〜7によって接続されている。そして、1段目のゲート駆動回路15には過電流保護回路11と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器19を接続し、1段目以外のゲート駆動回路16〜18には過電流保護回路12〜14と、電圧検出回路8〜10とを接続して構成する。
【0012】
図1の動作について、図2,図3を参照して説明する。図2は図1を簡略化してIGBTを2直列接続した場合を示し、図3はその各部波形例を示す。
いま、図2のIGBT1,2に過電流が流れると、電流検出器19がそれを検出し、過電流保護回路11に検出信号が入力される。過電流保護回路11に検出信号が入力され、過電流保護回路11が過電流と判別すると、ゲート駆動回路15へ保護信号を出力するので、ゲート駆動回路15がソフト遮断モードに切り替わり、ゲート駆動回路15→IGBT1のエミッタ→IGBT1ゲート→磁気結合回路5→ゲート駆動回路15の経路で、IGBT1のゲート電流が流れる。
【0013】
磁気結合回路5の一次巻線にゲート電流が流れると、磁気結合回路5の二次巻線にもゲート電流が流れる。その結果、IGBT1のゲート電圧VGE(Q1)とIGBT2のゲート電圧VGE(Q2)が下降し、IGBT1とIGBT2がソフト遮断を開始する。これと同時に、電圧検出回路8が磁気結合回路5の二次巻線に発生する電圧VTr2を検出し、その検出結果を受けて過電流保護回路12がゲート駆動回路16に保護信号を出力し、IGBT2がソフト遮断を継続する。
【0014】
このとき、電圧検出回路8に動作遅れΔt2(図3参照)を生じる可能性があるが、磁気結合回路5によってスイッチングタイミングが調整される(IGBT1とIGBT2は既にソフト遮断動作を開始している)ため、問題は無い。なお、このような磁気結合によってスイッチングタイミング調整する方法は、例えば特開2002−204578号公報などにより周知である。このような動作により、過電流検出時にIGBT1とIGBT2を同時にソフト遮断することができる。
以上のように、過電流検出時にIGBT1とIGBT2を同時にソフト遮断できるため、電圧分担が不平衡となる問題を解決することが可能となる。
【0015】
図4に別の実施の形態を示す。
図1では1段目のゲート駆動回路15には過電流保護回路11と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器19を接続し、1段目以外のゲート駆動回路16〜18には過電流保護回路12〜14と、電圧検出回路8〜10を接続したのに対し、図4では4段目のゲート駆動回路18には過電流保護回路14と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器23を接続し、4段目以外のゲート駆動回路15〜17には過電流保護回路11〜13と、電圧検出回路20〜22をそれぞれ接続した他は図1と全く同様であるので、詳細は省略する。
【0016】
図5に別の実施の形態を示す。
図1では1段目のゲート駆動回路15には過電流保護回路11と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器19を接続し、1段目以外のゲート駆動回路16〜18には過電流保護回路12〜14と、電圧検出回路8〜10を接続したのに対し、図5では2段目のゲート駆動回路16には過電流保護回路12と、IGBTに流れる電流を検出する電流検出器24を接続し、2段目以外のゲート駆動回路15,17,18には過電流保護回路11,13,14と、電圧検出回路20,9,10をそれぞれ接続した他は図1と全く同様なので、詳細は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路構成図
【図2】図1を簡略化した構成図
【図3】図2の動作説明図
【図4】図1の変形例を示す回路構成図
【図5】図1の別の変形例を示す回路構成図
【図6】電力変換装置の一般的な例を示す構成図
【図7】過電流保護方式の従来例を示す構成図
【図8】図7を簡略化した構成図
【図9】図8の動作説明図
【符号の説明】
【0018】
1〜4(Q1〜Q4)…IGBT、5〜7…磁気結合回路、8〜10,20〜22…電圧検出回路、11〜14…過電流保護回路、15〜18…ゲート駆動回路、19,24…電流検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も低圧側に接続された電圧駆動型半導体素子を1段目とし、最も高圧側に接続された電圧駆動型半導体素子をn段目(nは整数)として、各アームに電圧駆動型半導体素子がn個直列接続された電力変換装置に対し、
各電圧駆動型半導体素子には過電流検出時に電圧駆動型半導体素子を緩やかにオフさせる機能を有するゲート駆動回路をそれぞれ設け、電圧駆動型半導体素子とゲート駆動回路を接続するゲート線をそれぞれ互いに磁気結合回路により接続し、m(m=1〜n)段目のゲート駆動回路には、m段目の電圧駆動型半導体素子に流れる電流を検出する電流検出器と、この電流検出器の検出結果に応じて保護信号を出力する過電流保護回路とを接続し、m段目以外のゲート駆動回路には、前記磁気結合回路に基づいて発生する電圧を検出する電圧検出回路と、この電圧検出回路の検出結果に応じて保護信号を出力する過電流保護回路とをそれぞれ接続したことを特徴とする電力変換装置の保護方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−259563(P2007−259563A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79111(P2006−79111)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】