説明

電力変換装置

【課題】電流コラプス現象が発生する半導体デバイスを用いた場合にも、電力変換装置において、より正確にオン電圧補償ができるようにする。
【解決手段】電力変換装置において、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応した、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)を求める電圧降下演算部(52)を設ける。また、オン電圧降下(Vs)に応じ、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)をオン状態にする時間(Ton)を制御する制御部(5)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された電力をスイッチングして所定の電力に変換する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のようにインバータ回路はトランジスタのスイッチング制御により、直流を可変周波数・可変電圧の交流に、高効率変換する回路である。インバータ回路は、例えばモータの回転数やトルクを制御する必要のある家電機器や産業機器に広く応用されている。
【0003】
インバータ回路にてモータを高速、高精度に制御したり、位置センサレスで制御するためには、モータの端子電圧や電流の情報が必要となる。このモータ端子電圧を得る方法として、インバータ回路の電圧指令情報を用いる手法が多く用いられている。
【0004】
しかしながら、この方法においては、インバータのデッドタイムやデバイスの電圧降下などによる誤差が含まれるため、その誤差電圧を補償(以下、オン電圧補償)する手法が種々提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-064948号公報
【特許文献2】国際公開WO2002/084855号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、窒化物系化合物半導体においては、バルク結晶や半導体表面に多量の深い準位(トラップ)が存在している。このため、半導体装置への逆方向電圧印加期間中、又はオフ期間中に、例えば半導体基板の結晶内のトラップにキャリアが捕獲され、その後、半導体装置への順方向電圧印加時又はオンした時に出力電流が低下してしまう、いわゆる電流コラプス現象が発生してしまうという問題がある。
【0007】
電流コラプス現象が発生すると、半導体デバイスに印加される電圧に応じて、オン抵抗(電圧降下)が変動する。そのため、従来のオン電圧補償の方法では、インバータ回路の出力電圧には、電圧指令値に対する誤差が発生し、その結果、出力電流やトルクに歪みが生じてしまう可能性がある。
【0008】
本発明は前記の問題に着目してなされたものであり、電流コラプス現象が発生する半導体デバイスを用いた場合にも、電力変換装置において、より正確にオン電圧補償ができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、第1の発明は、
スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えて、交流電源(6)から供給された交流電力を所定の電圧及び周波数の交流電力に電力変換する電力変換装置であって、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応した、前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)を求める電圧降下演算部(52)と、
前記オン電圧降下(Vs)に応じ、前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)をオン状態にする時間(Ton)を制御する制御部(5)とを備えたことを特徴とする。
【0010】
この構成では、電圧降下演算部(52)が、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応したオン電圧降下(Vs)を求める。そのため、印加電圧に応じてオン抵抗(電圧降下)が変動しても、補償時におけるオン電圧降下(Vs)を正確に把握することができる。
【0011】
また、第2の発明は、
第1の発明の電力変換装置において、
前記電圧降下演算部(52)は、前記印加電圧値(V)と前記オン電圧降下(Vs)の関係を導出するテーブル又は関数を用いて該オン電圧降下(Vs)を求めることを特徴とする。
【0012】
この構成では、テーブルや関数を用いるので、オン電圧降下(Vs,Vf)を容易に求めることができる。
【0013】
また、第3の発明は、
第1又は第2の発明において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、逆導通可能なユニポーラ素子であり、
前記制御部(5)は、電流の還流時に前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流が流れるように該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に同期整流を行わせることを特徴とする。
【0014】
この構成では、同期整流動作によってスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流を流すことで、スイッチング素子やダイオードなどの異なる種類の半導体素子間のオン電圧特性の違いを考慮する必要がなくなる。
【0015】
また、第4の発明は、
第1から第3の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記交流電源(6)の電源電圧(Vac)を全波整流するコンバータ回路(2)と、
前記コンバータ回路(2)の出力に並列接続されたコンデンサ(3a)を有し、脈動する直流電圧(Vdc)を出力する直流リンク部(3)と、
前記直流リンク部(3)の出力をスイッチングして交流に変換し、接続されたモータ(7)に供給するインバータ回路(4)とを備え、
前記制御部(5)は、前記モータ(7)の電流(iu,iv,iw)が、前記電源電圧(Vac)の脈動に同期して脈動するように、前記スイッチングを制御することを特徴とする。
【0016】
この構成では、直流リンク電圧(Vdc)が脈動するのでスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等に印加される電圧が大きく脈動する。この場合にも、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応したオン電圧降下(Vs)を求めるので、オン電圧降下(Vs,Vf)を正確に把握できる。
【0017】
また、第5の発明は、
第1から第3の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、前記交流電源(6)からの交流をスイッチングして所定電圧、所定周波数の交流に変換することを特徴とする。
【0018】
この構成では、電源電圧(Vac)を直接スイッチングして電力変換が行われる。そのため、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等に印加される電圧が大きく脈動する。この場合にも、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応したオン電圧降下(Vs)を求めるので、オン電圧降下(Vs,Vf)を正確に把握できる。
【0019】
また、第6の発明は、
第1から第5の発明のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、ワイドバンドギャップ半導体素子であることを特徴とする。
【0020】
この構成では、ワイドバンドギャップ半導体素子でスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を構成したので、印加電圧に応じてオン電圧降下(オン抵抗)が大きく変化する可能性がある。しかしながら、本発明では、 電圧降下演算部(52)が、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応したオン電圧降下(Vs)を求めるので、してもオン電圧補償を精度を向上できる。
【発明の効果】
【0021】
第1の発明によれば、オン電圧補償時におけるオン電圧降下(Vs)を正確に把握することができるので、より正確にオン電圧補償を行うことが可能になる。すなわち、電力変換装置(1)において、より正確な出力電圧制御が可能となる。
【0022】
また、第2の発明によれば、オン電圧降下(Vs,Vf)を容易に求めることができるので、正確なオン電圧補償を容易に行える。
【0023】
また、第3の発明によれば、スイッチング素子やダイオードなどの異なる種類の半導体素子間のオン電圧特性の違いを考慮する必要がなくなるので、電圧指令(vu*,vv*,vw*)に対するオン電圧補償を精度よく、かつ容易に行うことができる。
【0024】
また、第4の発明によれば、直流リンク電圧(Vdc)が脈動する電力変換装置において、より正確にオン電圧補償を行うことが可能になる。
【0025】
また、第5の発明によれば、電源電圧(Vac)を直接スイッチングして電力変換を行う電力変換装置において、より正確にオン電圧補償を行うことが可能になる。
【0026】
また、第6の発明によれば、ワイドバンドギャップ半導体素子を用いた電力変換装置において、より正確な出力電圧制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、発明の実施形態1に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、スイッチング素子への印加電圧値とオン電圧降下の関係を示す図である。
【図3】図3は、オン電圧降下と素子温度の関係を示す図である。
【図4】図4は、オン電圧降下とオン信号の出力期間の関係を示す図である。
【図5】図5は、インバータ回路のU相に対応したアームを抜き出したものである。
【図6】図6は、オン電圧補償時の動作を説明するタイミングチャートである。
【図7】図7は、発明の実施形態2の電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、発明の実施形態3の電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図9は、還流ダイオード、ユニポーラ素子(例えばMOSFET)、バイポーラ素子(例えばIGBT)のオン電圧降下特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0029】
《発明の実施形態1》
図1は、発明の実施形態1に係る電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。同図に示すように電力変換装置(1)は、コンバータ回路(2)、直流リンク部(3)、インバータ回路(4)、及び制御部(5)を備え、単相の交流電源(6)から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換して、モータ(7)に供給するようになっている。なお、本実施形態のモータ(7)は、三相交流モータであり、空気調和機の冷媒回路に設けられた圧縮機を駆動するためのものである。
【0030】
〈コンバータ回路(2)〉
コンバータ回路(2)は、リアクトル(L)を介して交流電源(6)に接続され、交流電源(6)が出力した交流を直流に全波整流する。この例では、コンバータ回路(2)は、複数(本実施形態では4つ)のダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。これらのダイオード(D1〜D4)は、交流電源(6)の交流電圧を全波整流して、直流電圧に変換する。
【0031】
〈直流リンク部(3)〉
直流リンク部(3)は、コンデンサ(3a)を備えている。コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)の出力に並列接続され、該コンデンサ(3a)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧(Vdc))がインバータ回路(4)の入力ノードに接続されている。コンデンサ(3a)は、例えばフィルムコンデンサによって構成されている。このコンデンサ(3a)は、インバータ回路(4)のスイッチング素子(後述)がスイッチング動作する際に、スイッチング周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)のみを平滑化可能な静電容量を有している。すなわち、コンデンサ(3a)は、コンバータ回路(2)によって整流された電圧の変動(電源電圧に起因する電圧変動)を平滑化するような静電容量を有さない小容量のコンデンサである。そのため、直流リンク部(3)が出力する直流リンク電圧(Vdc)は、その最大値がその最小値の2倍以上となるような大きな脈動を有している。
【0032】
〈インバータ回路(4)〉
インバータ回路(4)は、入力ノードが直流リンク部(3)のコンデンサ(3a)に並列に接続され、直流リンク部(3)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、接続されたモータ(7)に供給するようになっている。本実施形態のインバータ回路(4)は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。このインバータ回路(4)は、三相交流をモータ(7)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(4)は、2つのスイッチング素子を互いに直列接続してなる3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、それぞれモータ(7)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列に接続されている。インバータ回路(4)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(3)から入力された直流リンク電圧(Vdc)をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(7)へ供給する。なお、このオンオフ動作の制御は、制御部(5)が行う。
【0033】
〈制御部(5)〉
制御部(5)は、モータ(7)に流れる電流(モータ電流(iu,iv,iw))が、電源電圧(Vac)の脈動に同期して脈動するように、インバータ回路(4)におけるスイッチング(オンオフ動作)を制御する。すなわち、電力変換装置(1)は、いわゆるコンデンサレスインバータの一例である。図1に示すように、制御部(5)は、電圧検出部(51)、電圧降下演算部(52)、オン電圧補償部(53)、及びスイッチング制御部(54)を備えている。
【0034】
−電圧検出部(51)−
電圧検出部(51)は、直流リンク部(3)に取り付けられたシャント抵抗(図示は省略)を有し、該シャント抵抗に流れる電流(idc)を検出する。電圧検出部(51)は、検出した電流値(idc)を、電圧降下演算部(52)とオン電圧補償部(53)に出力する。また、電圧検出部(51)は、直流リンク電圧(Vdc)を電圧検出器(図示を省略)で検出し、検出値を電圧降下演算部(52)とオン電圧補償部(53)に出力する。なお、交流電源(6)におけるAC電圧を電圧検出器で検出して直流リンク電圧(Vdc)を推定するように、電圧検出部(51)を構成してもよい。
【0035】
−電圧降下演算部(52)−
電圧降下演算部(52)は、印加電圧値(V)に応じたオン電圧降下(Vs,Vf)を、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)及び還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)のそれぞれについて求めるようになっている。精度の良いオン電圧補償を容易に行うためには、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)、及び還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)のオン電圧降下(Vs,Vf)を正確に推定する必要がある。ところが、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)や還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)のオン電圧降下(Vf)は、それらの素子に印加される電圧に応じて、オン抵抗(電圧降下)が変動する。例えば、図2は、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)への印加電圧値(V)とオン電圧降下(Vs)の関係を示す図である。
【0036】
本実施形態では、電圧降下演算部(52)は、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)、及び還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)のオン電圧降下(Vf)を求めるようになっている。具体的には、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)への印加電圧値(V)とオン抵抗(Ron)の関係を示すテーブルを予め作成しておいて、電圧降下演算部(52)にはそのテーブルを格納させておく。また、電圧降下演算部(52)には、直流リンク電圧(Vdc)と電流値(idc)を入力し、これらの値からオン電圧降下(Vs)を算出するように電圧降下演算部(52)を構成する。本実施形態の電圧降下演算部(52)は、印加電圧値(V)に最も近い値を前記テーブルから検索し、検索値に対応したオン抵抗(Ron)を、測定した電流値(idc)におけオン電圧降下(Vs)に換算して出力する。
【0037】
還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)についても、同様のテーブルを予め作成し、電圧降下演算部(52)に格納させておく。そして、本実施形態の電圧降下演算部(52)は、印加電圧値(V)に最も近い値をテーブルから検索し、検索値に対応したオン抵抗(Ron)を、測定した電流値(idc)におけるオン電圧降下(Vf)に換算して出力する。
【0038】
なお、前記テーブルを印加電圧値(V)とオン電圧降下(Vs,Vf)とで構成し、電流(idc)に応じてオン電圧降下(Vs,Vf)の推定値を補正してもよい。また、前記テーブルを電流(idc)とオン電圧降下(Vs,Vf)で構成し、このテーブルと印加電圧値(V)からオン電圧降下(Vs,Vf)の推定値を補正してもよい。こうすることで、オン抵抗(Ron)が電流値に応じて変化する半導体デバイスを用いた場合においても、オン電圧降下を正確に推定できる。また、前記のテーブルに代えて、関数(数式)を電圧降下演算部(52)に記憶させておいて、電圧降下演算部(52)にて、該関数を用いてオン電圧降下(Vs,Vf)を求めるようにしてもよい。
【0039】
また、オン電圧降下(Vs,Vf)或いはオン抵抗(Ron)の推定値は、半導体デバイス(スイッチング素子やダイオード)の温度に応じて補正するようにしてもよい。図3は、オン電圧降下(Vs,Vf)と素子温度の関係を示す図である。素子温度に応じてオン抵抗(Ron)が変化する半導体デバイスの場合には、同図に基づいて前記テーブルを作成し、素子温度に応じてオン電圧降下(Vs,Vf)或いはオン抵抗(Ron)の推定値を補正する。こうすることで、オン抵抗(Ron)が素子温度に応じてに変化する半導体デバイスを用いた場合においても、オン電圧降下を正確に推定できる。
【0040】
また、オン電圧降下(Vs,Vf)或いはオン抵抗(Ron)の推定値は、オン信号(ゲート駆動信号(Gu,Gv,Gw,Gx,Gy,Gz))の出力期間(Ton)(導通期間)に応じて補正するようにしてもよい。図4は、オン電圧降下(Vs,Vf)とオン信号の出力期間(Ton)の関係を示す図である。印加電圧値(V)に応じてオン抵抗(Ron)が時間的に変化する半導体デバイス(スイッチング素子やダイオード)の場合には、同図に基づいて前記テーブルを作成し、オン信号の出力期間(Ton)に応じてオン電圧降下(Vs,Vf)或いはオン抵抗(Ron)の推定値を補正する。こうすることで、オン抵抗(Ron)が時間的に変化する半導体デバイスを用いた場合においても、オン電圧降下を正確に推定できる。
【0041】
−オン電圧補償部(53)−
オン電圧補償部(53)は、電圧降下演算部(52)が求めたオン電圧降下(Vs,Vf)に応じて電圧指令(vu*,vv*,vw*)を生成し、該電圧指令(vu*,vv*,vw*)をスイッチング制御部(54)に出力する。
【0042】
図5は、インバータ回路(4)のU相に対応したアームを抜き出したものである。図5では、コンデンサ(3a)(直流電源とみなせる)と、互いに直列に接続されたスイッチング素子(Su,Sx)と、これらのスイッチング素子(Su,Sx)にそれぞれ逆並列接続した還流ダイオード(Du,Dx)とを示している。また、図6は、オン電圧補償時の動作を説明するタイミングチャートである。
【0043】
例えば、電圧降下演算部(52)から、図6に示すような電圧指令(vu*)が制御部(5)に入力されると、制御部(5)では、スイッチング素子(Su,Sx)に対して電圧指令(vu*)に応じたオン信号(Gu,Gx)(ゲート駆動信号)を出力する。
【0044】
ゲート駆動信号(Gu)をスイッチング素子(Su)に入力して該スイッチング素子(Su)をオンさせると、例えば図5の回路で出力電流(iu)が負荷側へ流れる場合(この場合をiu>0とする)には、スイッチング素子(Su)に電流が流れる。そのため、出力電圧(Vu)(下アームのスイッチング素子(Sx)の被制御端子間の電圧に相当)は、コンデンサ(3a)の電圧(Vdc)からスイッチング素子(Su)のオン電圧降下(Vs)分を引いたVdc−Vsとなる。
【0045】
また、上アームのスイッチング素子(Su)をオフにすると、下アームの還流ダイオード(Dx)に電流が流れる。そのため、出力電圧(Vu)は、還流ダイオード(Dx)のオン電圧降下分に相当する−Vfとなる。
【0046】
一方、i<0の場合(出力電流(i)が図5の回路内へ流れ込む場合)には、下アームのスイッチング素子(Sx)をオンにすると、スイッチング素子(Sx)に電流が流れて、オン電圧降下が生じる。そのため、出力電圧(Vu)はVsとなる。
【0047】
また、下アームのスイッチング素子(Sn)をオフにすると、上アームの還流ダイオード(Du)に電流が流れるため、Vdc+Vfとなる。
【0048】
すなわち、下式(1),(2)に示すように、実際の出力電圧におけるキャリア周期の単位時間(T)当たりの電圧(Vu)は、電圧指令(vu*)における平均電圧に対して、スイッチング素子(Su,Sx)のオン電圧降下(Vs)分、還流ダイオード(Du,Dx)のオン電圧降下(Vf)分だけ誤差が生じる。なお、以下では簡素化のため、Vf=Vs、平均出力電圧(Vu)に対するデッドタイムの影響は無視することにする。なお、図1のオン電圧補償部(53)の出力におけるVo*は、vu*、vv*、vw*の何れかである(以下、他の図でも同様)。
【0049】
iu>0の場合
Vu=(Vdc-Vs)・Tu*/T-Vf・(T-Tu*)/T≒Vu*-Vs …(1)
iu<0の場合
Vu=(Vdc+ Vf)・Tu*/T+Vs・(T-Tu*)/T≒Vu*+Vs …(2)
本実施形態では、電圧指令(vu*)を決定する際に、オン電圧補償部(53)において、スイッチング素子(Su,Sx)のオン電圧降下(Vs)分を考慮し、i>0の場合には、目標とする電圧指令(vu*)から決まるオン信号(Gu)の出力期間(Ton)にVs/Vdc×Tを足して、オン出力設定時間(Tu*)(オン電圧降下を考慮したオン信号の出力時間)が、次の式(2)となるように、電圧指令(vu*)を生成する(式(3)を参照)。
【0050】
Tu*=Ton+T・Vs/Vdc …(3)
このように、電圧指令(vu*)を出力すると、出力電圧(Vu)は式(4)のように表せる。
【0051】
Vu=Vdc・Tu*/T-Vs
=Vdc・(Ton+T・Vs/Vdc)/T-Vs
=Vdc・Ton/T+Vs-Vs=Vdc・Ton/T=Vu* …(4)
同様に、i<0の場合にも、目標とする電圧指令(vu*)から決まるオン信号の出力期間(Ton)からVs/Vdc×Tを引いて、オン出力設定時間(Tu*)を出力する。このような補償によって、実際の平均出力電圧(Vu)を電圧指令(vu*)における平均電圧と一致させることができる。
【0052】
−スイッチング制御部(54)−
スイッチング制御部(54)は、オン電圧補償部(53)が出力した電圧指令(vu*,vv*,vw*)等に基づいて、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作を制御するゲート駆動信号(Gu,Gv,Gw,Gx,Gy,Gz)を生成する。
【0053】
《電力変換装置(1)の動作》
〈動作の概要〉
本実施形態では、直流リンク部(3)に小容量のコンデンサ(3a)を設けているため、直流リンク電圧(Vdc)が大きく脈動する。直流リンク電圧(Vdc)の脈動により、コンバータ回路(2)のダイオード(D1〜D4)の電流導通幅が広くなり、その結果力率が改善する。また、制御部(5)は、モータ電流(iu,iv,iw)が、電源電圧(Vac)の脈動に同期して脈動するように、インバータ回路(4)におけるスイッチングを制御する。
【0054】
〈オン電圧補償〉
前記スイッチングの際に、制御部(5)の電圧検出部(51)は、検出した直流リンク電圧(Vdc)、電流値(idc)を電圧降下演算部(52)及びオン電圧補償部(53)に出力する。電圧降下演算部(52)は、直流リンク電圧(Vdc)、電流値(idc)からオン電圧降下(Vs,Vf)を求める。
【0055】
オン電圧補償部(53)は、オン電圧降下(Vs,Vf)を考慮して、電圧指令(vu*,vv*,vw*)を生成し、スイッチング制御部(54)に出力する。スイッチング制御部(54)は、電圧指令(vu*,vv*,vw*)に基づいて、ゲート駆動信号(Gu,Gv,Gw,Gx,Gy,Gz)を生成し、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を駆動する。
【0056】
〈本実施形態における効果〉
以上のように、本実施形態では、電圧降下演算部(52)が、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応した、前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)を求める。そのため、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)や還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)に、電流コラプス現象が発生する半導体デバイスを用いることによって、印加電圧値(V)に応じてオン抵抗(Ron)(電圧降下)が変動しても、補償時におけるオン電圧降下(Vs)を正確に把握することができる。そのため、電力変換装置(1)では、より正確にオン電圧補償を行うことが可能になる。
【0057】
特に、本実施形態のように、半導体デバイスに印加される電圧が交流電源(6)の電圧に応じて大きく脈動する電力変換装置(1)では、オン電圧補償のより大きな精度向上を期待できる。
【0058】
《発明の実施形態2》
図7は、発明の実施形態2の電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。この電力変換装置(1)は、いわゆるマトリクスコンバータである。この例では、単相の交流電源(6)と接続された6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)で、交流電源(6)から入力された交流をスイッチングしてモータ(7)に三相交流を供給する。この例では、電圧降下演算部(52)、オン電圧補償部(53)には、交流電源(6)の電圧(Vac)、モータ電流(iu,iw)が入力され、これらの値に基づいて、オン電圧降下(Vs)の算出や出力期間(Ton)の設定等を行う。
【0059】
《発明の実施形態3》
図8は、発明の実施形態3の電力変換装置(1)の構成を示すブロック図である。本実施形態は、インバータ回路(4)の構成が実施形態1と異なっている。本実施形態では、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、逆導通可能な素子(ユニポーラ素子)である。また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオードを設けていない。この電力変換装置(1)では、還流ダイオードを設けていないので、制御部(5)は、インバータ回路(4)において同期整流動作を行なわせる。
【0060】
図9は、還流ダイオード、ユニポーラ素子(例えばMOSFET)、バイポーラ素子(例えばIGBT)のオン電圧降下特性を示す図である。図9では、横軸が電圧値、縦軸が出力電流である。図9に示すように、スイッチング素子とダイオードのオン電圧特性は大きく異なっている。
【0061】
本実施形態の電力変換装置(1)では、同期整流動作によってスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流を流すことで、還流ダイオードが不要になる。そのため、スイッチング素子とダイオードのオン電圧特性の違い(図9参照)を考慮する必要がなくなる。したがって、本実施形態では、電圧指令(vu*,vv*,vw*)に対するオン電圧補償を精度よく、かつ容易に行うことができる。
【0062】
《その他の実施形態》
〈1〉なお、直流リンク部(3)のコンデンサ(3a)には、例えば電解コンデンサを用いて、コンバータ回路(2)の出力の電圧変動(電源電圧に起因する電圧変動)を平滑化してもよい。
【0063】
〈2〉また、交流電源(6)として三相の交流電源を採用することも可能である。
【0064】
〈3〉また、制御部(5)において推定したオン電圧降下(Vs,Vf)或いはオン抵抗(Ron)は、インバータ回路(4)の出力電圧(vu,vv,vw)の推定にも使用できる。この場合、出力電圧(vu,vv,vw)をより正確に推定できるので、推定値を例えばモータ(7)の磁極位置推定(センサレスでの磁極位置検出)に使用すれば位置検出の精度が向上する。また、推定値をインバータ回路(4)におけるいわゆるデッドタイム補償に使用すれば、出力電圧(vu,vv,vw)をより正確に制御できる。
【0065】
例えば、モータ(7)の制御で用いる出力電圧演算値(V’)は、電圧指令(vu*,vv*,vw*)におけるオン信号の出力期間(Ton)によって設定されるオン出力設定時間(Tp*)と、キャリア周期(T)とを用いて、Tp*/T×Vdcによって算出される出力電圧演算値に、半導体デバイスがオフ状態で印加されていた電圧値から求めた、半導体デバイスのオン電圧降下(Vs)分を考慮するように構成するとよい。
【0066】
すなわち、出力電圧電圧降下演算部(52)では、下式(5),(6)のように、出力電圧演算値(Tp*/T×Vdc)からオン電圧降下(Vs)分を加減算して、実際の平均出力電圧(Vu)と同じ出力電圧演算値(Vu’)を算出する。
【0067】
iu>0の場合
Vu’=Vdc・Tu*/T-Vs=Vu …(5)
iu<0の場合
Vu’=Vdc・Tu*/T+Vs=Vu …(6)
このように、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の印加電圧値(V)に応じたオン電圧降下(Vs)分で、出力電圧(vu,vv,vw)を補正することで、出力電圧演算値(V’)を精度良く求めることができる。そのため、モータ(7)を精度良く制御することが可能になる。
【0068】
〈4〉また、各実施形態では、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、窒化物系化合物のワイドバンドギャップ半導体素子で構成してもよい。各実施形態では、印加電圧に応じてオン電圧降下(オン抵抗)が大きく変化してもオン電圧補償を精度を向上できるので、印加電圧に応じてオン抵抗が変動するワイドバンドギャップ半導体素子を用いた場合に、より正確な、インバータ回路(4)の出力電圧制御が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、入力された電力をスイッチングして所定の電力に変換する電力変換装置として有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 電力変換装置
2 コンバータ回路
3 直流リンク部
3a コンデンサ
4 インバータ回路
5 制御部
6 交流電源
7 モータ
52 電圧降下演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えて、交流電源(6)から供給された交流電力を所定の電圧及び周波数の交流電力に電力変換する電力変換装置であって、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の非導通時に印加される印加電圧値(V)に対応した、前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン電圧降下(Vs)を求める電圧降下演算部(52)と、
前記オン電圧降下(Vs)に応じ、前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)をオン状態にする時間(Ton)を制御する制御部(5)とを備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置において、
前記電圧降下演算部(52)は、前記印加電圧値(V)と前記オン電圧降下(Vs)の関係を導出するテーブル又は関数を用いて該オン電圧降下(Vs)を求めることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、逆導通可能なユニポーラ素子であり、
前記制御部(5)は、電流の還流時に前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のみに電流が流れるように該スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)に同期整流を行わせることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記交流電源(6)の電源電圧(Vac)を全波整流するコンバータ回路(2)と、
前記コンバータ回路(2)の出力に並列接続されたコンデンサ(3a)を有し、脈動する直流電圧(Vdc)を出力する直流リンク部(3)と、
前記直流リンク部(3)の出力をスイッチングして交流に変換し、接続されたモータ(7)に供給するインバータ回路(4)とを備え、
前記制御部(5)は、前記モータ(7)の電流(iu,iv,iw)が、前記電源電圧(Vac)の脈動に同期して脈動するように、前記スイッチングを制御することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、前記交流電源(6)からの交流をスイッチングして所定電圧、所定周波数の交流に変換することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちの何れか1つの電力変換装置において、
前記スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、ワイドバンドギャップ半導体素子であることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−147516(P2012−147516A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1934(P2011−1934)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】