電力変換装置
【課題】コンデンサのリップル電流を低減しつつ、スイッチング素子間の熱損失の偏りを低減する電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、第1インバータ部20および第2インバータ部30と、コンデンサ50と、マイコン51と、を備える。マイコン51は、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態と、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態と、をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替える。これにより、コンデンサ50のリップル電流を低減しつつ、MOS21〜26、31〜36間の熱損失の偏りを低減することができる。
【解決手段】電力変換装置1は、第1インバータ部20および第2インバータ部30と、コンデンサ50と、マイコン51と、を備える。マイコン51は、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態と、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態と、をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替える。これにより、コンデンサ50のリップル電流を低減しつつ、MOS21〜26、31〜36間の熱損失の偏りを低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置に用いられる電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多相回転電機の駆動に係る電流をパルス幅変調(以下、「PWM」という。)によって制御する技術が公知である。例えば、多相回転電機が三相モータである場合、3相の巻線のそれぞれに印加される電圧に係る電圧基準信号と三角波等のキャリア波であるPWM基準信号を比較し、インバータを構成するスイッチング素子のオンおよびオフの切り替えを行うことにより、三相モータに流れる電流を制御している。
【0003】
ところで、インバータとコンデンサとが接続されている場合、インバータ側に電流が流れていないとき、コンデンサには電源から電流が流れ込むことにより充電される。一方、インバータ側に電流が流れているとき、コンデンサはインバータ側へ電流が流れ出すことにより放電する。PWM制御を行う場合、PWM1周期の間にコンデンサでは充電と放電とが繰り返されるため、コンデンサ電流が脈動する。コンデンサ電流が脈動すると、ノイズが発生したり、コンデンサが発熱したりする。また、インバータの印加電圧の変動に伴うインバータ電流制御性が悪化するという問題点があった。なお、以下、コンデンサに流れる電流の脈動を、適宜「リップル電流」という。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、2組のブリッジ回路の間で予め記憶されたマップデータに基づいてスイッチング素子のスイッチングタイミングに位相差をつけることにより、合計したコンデンサ電流の波形を平滑波形に近づけることで、リップル電流を低減している。また、特許文献2では、PWMアンプにおいて、接続される軸数が2軸の場合、一方の電圧指令値をVcc/4(Vccは電源電圧)バイアスし、他方の電圧指令値を−Vcc/4バイアスすることにより、リップル電流を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−197779号公報
【特許文献2】特開2007−306705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、変調率と力率とに応じてスイッチングタイミングに位相差をつけて出力するための遅延回路が必要であった。また、短い間隔で複数の系統の電流を検出する必要があり、演算負荷が大きいという問題点があった。
また、特許文献2では、例えばインバータが2系統の場合、一方の系統では電圧指令値を電源電圧の1/4分上側にバイアスしている。電圧指令値を上側にバイアスすると、低電位側に設けられる低電位側スイッチング素子よりも高電位側に設けられる高電位側スイッチング素子がオンされている時間が長くなる。また、他方の系統では電圧指令値を電源電圧の1/4分下側にバイアスしている。電圧指令値を下側にバイアスすると、高電位側スイッチング素子よりも低電位側スイッチング素子がオンされている時間が長くなる。高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とでオンされている時間が異なると、通電量が異なることに伴い、熱損失に偏りが生じる。スイッチング素子間で熱損失に偏りが生じると、余裕をもった熱設計や非対称な放熱設計が必要となる。或いは、スイッチング素子ごとに異なる素子を用いる必要がある。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンデンサのリップル電流を低減しつつ、スイッチング素子間の熱損失の偏りを低減する電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置の回転電機の各相に対応する巻線から構成される2つの巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置である。電力変換装置は、インバータ部と、コンデンサと、制御部と、を備える。巻線組ごとに設けられるインバータ部は、巻線の各相に対応するスイッチング素子を有する。コンデンサは、インバータ部に接続される。制御部は、一方の巻線組に印加される電圧に係る第1の電圧指令信号および他方の巻線組に印加される電圧に係る第2の電圧指令信号に基づいてスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。これにより、回転電機の巻線組に供給される電力が制御されることにより、回転電機の駆動が制御される。
また、制御部は、第1の電圧指令信号の中心値が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値よりも下側にシフトされ、第2の電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも上側にシフトされる第1状態と、第1の電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも上側にシフトされ、第2電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも下側にシフトされる第2状態と、を操舵部材の操舵状態に応じて切り替える。
【0008】
本発明では、一方の電圧指令信号を下側にシフトし、他方の電圧指令信号を上側にシフトしている。これにより、一方のインバータ部によるコンデンサの充電および放電のタイミングと、他方のインバータ部によるコンデンサの充電および放電のタイミングとをずらすことができるので、コンデンサのリップル電流を低減することができる。
また、それぞれのインバータ部の駆動に係る電圧指令信号のシフト方向を操舵部材の操舵状態に応じて切り替えているので、スイッチング素子ごとのオン時間の差を小さくすることができ、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0009】
特に、本発明では、電力変換装置を電動パワーステアリング装置に適用している。操舵部材は、左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものは右に戻す操作が行われる。特に、通電量が多くなる車庫入れ等の据え切り作動時においては、操舵部材が右に操舵される時間と左に操舵される時間とが略等しくなる。本発明では、このような電動パワーステアリング装置の使われ方を考慮し、操舵部材の操舵状態に応じて電圧指令信号のシフト方向を切り替えている。これにより、電圧指令信号が上側にシフトされる時間と下側にシフトされる時間との差を小さくすることができるので、スイッチング素子ごとのオン時間の差が小さくなり、熱損失の偏りを低減することができる。なお、操舵部材の操舵状態を示すパラメータとしては、操舵トルク、操舵方向、操舵部材の転舵位置、等が挙げられる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出する。また、制御部は、電流指令値に基づいて巻線組に通電された実電流値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。スイッチング素子での発熱量は、通電量に応じて変化するので、操舵トルクに基づく値である実電流値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えることにより、スイッチング素子における熱損失の偏りを適切に低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出する。また、制御部は、電流指令値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。また、実電流に替えて、電流指令値を用いることにより、検出ノイズ等の影響を受けることなく、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づいて駆動される回転電機の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。回転電機の回転方向は、操舵部材の操舵トルクの方向と略一致するので、回転電機の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。なお、回転電機の回転方向は、レゾルバ等の回転角センサのセンサ値に基づいて検出してもよいし、回転角センサを設けず推定回転数演算の演算結果に基づいて検出してもよい。
【0014】
請求項6に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出する。また、制御部は、操舵角度に基づき、操舵部材が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0015】
請求項7に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出する。また、制御部は、操舵角度に基づき、操舵部材の転舵位置が中心から右側にある場合と左側にある場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0016】
操舵部材の操舵角度は、以下のように算出することができる。
請求項8に記載の発明では、制御部は、回転電機の回転角度を取得し、取得された回転角度に基づいて前記操舵角度を算出する。これにより、操舵角度を検出するためのセンサ等を省略することができるので、部品点数を低減することができる。
請求項9に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵角度に応じた操舵角信号を検出する操舵角センサにより検出される操舵角信号に基づいて操舵角度を算出する。これにより、操舵角度を直接的に算出することができる。
【0017】
請求項10に記載の発明では、制御部は、第1状態または第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合、第1状態または第2状態の他方から一方への切り替えを行わない。これにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0018】
請求項11に記載の発明では、第2状態から第1状態への切り替えに係る第1の閾値と、第1状態から第2状態への切り替えに係る第2の閾値とは、異なる値である。第1状態と第2状態との切り替えに係り、第1の閾値と第2の閾値とを異なる値とすることにより、所謂ヒステリシスを設けているので、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0019】
請求項12に記載の発明では、第1の電圧指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量は、第1の電圧指令信号の振幅に応じて可変であり、第2の電圧指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量は、第2の電圧指令信号の振幅に応じて可変である。これにより、スイッチング素子ごとのオン時間の差を小さくし、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態によるステアリングシステムの全体構成を説明する模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態による電動パワーステアリング装置を説明するブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態による電力変換装置の回路構成を説明する回路図である。
【図4】本発明の第1実施形態のマイコンの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるデューティ算出部を説明する説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるデューティ指令信号シフト処理を説明する説明図である。
【図7】デューティ指令信号をシフトした場合のコンデンサ電流を説明する説明図である。
【図8】デューティ指令信号をシフトした場合のスイッチング素子のオン/オフ時間を説明する説明図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるシフト方向特定処理を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態によるシフト方向特定処理を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の第3実施形態によるシフト方向特定処理を説明する説明図である。
【図12】本発明の第4実施形態によるシフト方向特定処理を説明する説明図である。
【図13】本発明の電流検出部の設置箇所の変形例を説明する説明図である。
【図14】本発明の変形例における回転電機が複数ある場合を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。
なお、以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による電力変換装置は、電動パワーステアリング装置に適用される。電動パワーステアリング装置を図1〜図3に示す。
【0022】
図1〜図3に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ステアリングシステム90に用いられる。ステアリングシステム90は、ステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラックギア97、およびタイヤ(ホイール)98等から構成される。ステアリングホイール91は、運転者によって操舵される。ステアリングシャフト92は、ステアリングホイール91に連結され、ステアリングホイール91の操舵に伴って回転する。ステアリングシャフト92のステアリングホイール91と反対側の先端には、ラックギア97と噛み合うピニオンギア96が設けられる。ラックギア97の両端には、タイロッド等を介して一対のタイヤ98がそれぞれ連結されている。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96およびラックギア97によって直線運動に変換され、ラックギア97の直線運動変位に応じて左右のタイヤ98が転舵される。
【0023】
電動パワーステアリング装置100は、電力変換装置1、モータ10、減速機89等を備える。
モータ10は、減速機89を正逆回転させるモータであって、本実施形態では三相ブラシレスモータであるが、どのようなモータを用いてもよい。減速機89は、モータ10の回転を減速してモータ10の回転により生じるトルクをステアリングシャフト92に伝達する。すなわち、モータ10は、運転者によるステアリングホイール91を操舵するための操舵トルクを軽減するための補助トルクを発生し、補助トルクをステアリングホイール91に付与するものである。
【0024】
モータ10は、いずれも図示しないロータおよびステータを有している。ロータは、円板状の部材であり、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。ステータは、ロータを内部に収容するとともに、回転可能に支持している。ステータは、径内方向へ所定角度毎に突出する突出部を有し、この突出部に図3に示すU1コイル11、V1コイル12、W1コイル13、U2コイル14、V2コイル15、および、W2コイル16が巻回されている。U1コイル11、V1コイル12、および、W1コイル13は、第1巻線組18を構成している。また、U2コイル14、V2コイル15、および、W2コイル13は、第2巻線組19を構成している。第1巻線組18および第2巻線組19が、「2つの巻線組」に対応している。
また、モータ10には、モータ10の回転角度θeを検出するためのレゾルバ55が設けられる。制御部としてのマイコン(CPU)51は、レゾルバ55により検出された回転角信号を取得し、モータ10の回転角度θeを算出する。
【0025】
図1および図2に示すように、電動パワーステアリング装置100は、トルクセンサ94および操舵角センサ95を備える。トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92に設けられ、運転者がステアリングホイール91を操舵することにより生じる操舵トルクに応じたトルク信号を検出し、マイコン51に出力する。マイコン51では、トルク信号に基づいて操舵トルクを算出する。
また、操舵角センサ95は、ステアリングシャフト92に設けられ、ステアリングホイール91の操舵角度に応じた操舵角信号を検出し、マイコン51に出力する。マイコン51では、操舵角センサ95により検出された操舵角信号に基づき、ステアリングホイール91の操舵角度θsを算出する。なお、操舵角度θsは、ステアリングホイール91が中心にあるときを0度とし、中心から右方向に操舵された場合を正の値、中心から左方向に操舵された場合を負の値とする。
【0026】
電力変換装置1は、第1インバータ部20、第2インバータ部30、電流検出部40、コンデンサ50、マイコン51、電流検出回路52、および、駆動回路54等を備えている。本実施形態では、第1インバータ部20および第2インバータ部30が「インバータ部」に対応している。
【0027】
図3に示すように、第1インバータ部20は、3相インバータであり、第1巻線組18のU1コイル11、V1コイル12、W1コイル13のそれぞれへの通電を切り換えるべく、6つのスイッチング素子21〜26がブリッジ接続されている。スイッチング素子21〜26は、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)であるが、MOSFET以外の素子を用いてもよい。以下、スイッチング素子21〜26をMOS21〜26という。
【0028】
3つのMOS21〜23は、ドレインがバッテリ70の正極側に接続されている。また、MOS21〜23のソースが、それぞれMOS24〜26のドレインに接続されている。MOS24〜26のソースは、バッテリ70の負極側に接続されている。
対になっているMOS21とMOS24との接続点は、U1コイル11の一端に接続している。また、対になっているMOS22MOS25との接続点は、V1コイル12の一端に接続している。さらにまた、対になっているMOS23とMOS26との接続点は、W1コイル13の一端に接続している。
【0029】
第2インバータ部30は、第1インバータ部20と同様、3相インバータであり、第2巻線組19のU2コイル14、V2コイル15、W2コイル16のそれぞれへの通電を切り換えるべく、6つのスイッチング素子31〜36がブリッジ接続されている。スイッチング素子31〜36は、スイッチング素子21〜26と同様、MOSFETであるが、MOSFET以外の素子を用いてもよい。以下、スイッチング素子31〜36を、MOS31〜36という。
【0030】
3つのMOS31〜33は、ドレインがバッテリ70の正極側に接続されている。また、MOS31〜33のソースが、それぞれMOS34〜36のドレインに接続されている。MOS34〜36のソースは、バッテリ70の負極側に接続されている。
対になっているMOS31とMOS34との接続点は、U2コイル14の一端に接続している。また、対になっているMOS32とMOS35との接続点は、V2コイル15の一端に接続している。さらにまた、対になっているMOS33とMOS36との接続点は、W2コイル16の一端に接続している。
【0031】
以下、適宜、高電位側スイッチング素子であるMOS21〜23およびMOS31〜33を「上MOS」、低電位側スイッチング素子であるMOS24〜26およびMOS34〜36を「下MOS」という。また、必要に応じて「U1上MOS21」といった具合に、対応する相およびインバータ部を併せて記載する。
【0032】
電流検出部40は、U1電流検出部41、V1電流検出部42、W1電流検出部43、U2電流検出部44、V2電流検出部45、および、W2電流検出部46から構成されている。U1電流検出部41は、U1下MOS24とグランドとの間に設けられ、U1コイル11に流れる電流を検出する。V1電流検出部42は、V1下MOS25とグランドとの間に設けられ、V1コイル12に流れる電流を検出する。W1電流検出部43は、W1下MOS26とグランドとの間に設けられ、W1コイル13に流れる電流を検出する。また、U2電流検出部44は、U2下MOS34とグランドとの間に設けられ、U2コイル14に流れる電流を検出する。V2電流検出部45は、V2下MOS35とグランドとの間に設けられ、V2コイル15に流れる電流を検出する。W2電流検出部46は、W2下MOS36とグランドとの間に設けられ、W2コイル16に流れる電流を検出する。
【0033】
本実施形態では、電流検出部41〜46は、シャント抵抗により構成される。電流検出部41〜46によって検出された検出値(以下、「AD値」という。)は、図示しないレジスタに記憶される。なお、レジスタによるAD値の取得は、電流検出部41〜46について同時に行われる。このとき同時に、レゾルバ55により検出されるモータ10の回転角信号も取得される。なお、図3において、電流検出部40からの制御線は、煩雑になることを避けるため省略した。
【0034】
コンデンサ50は、バッテリ70、第1インバータ部20および第2インバータ部30と接続され、電荷を蓄えることで、MOS21〜26、31〜36への電力供給を補助したり、サージ電流などのノイズ成分を抑制したりする。
【0035】
マイコン51では、各種演算処理が行われる。電流検出回路52(図2参照)では、電流検出部40からセンサ値を取得し、電流検出値を算出する。具体的には、U1電流検出部41のAD値に基づいてU1コイル11に通電される電流値である電流検出値Iu1を算出し、V1電流検出部42のAD値に基づいてV1コイル12に通電される電流値である電流検出値Iv1を算出し、W1電流検出部43のAD値に基づいてW1コイル13に通電される電流値である電流検出値Iw1を算出する。また、U2電流検出部44のAD値に基づいてU2コイル14に通電される電流値である電流検出値Iu2を算出し、V2電流検出部45のAD値に基づいてV2コイル15に通電される電流値である電流検出値Iv2を算出し、W2電流検出部46のAD値に基づいてW2コイル16に通電される電流値である電流検出値Iw2を算出する。
【0036】
マイコン51では、電流検出回路52により算出される電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、およびIw2、レゾルバ55により検出された回転角信号に基づいて算出されるモータ10の回転角度θe等に基づいてフィードバック演算を行い、モータ10の駆動に係る電流指令値を算出する。そして、算出された電流指令値に基づき、駆動回路54を介して第1インバータ部20のMOS21〜26および第2インバータ部30のMOS31〜36のオンおよびオフの切り替えを制御する。これにより、コイル11〜16への通電が制御されることにより、モータ10の駆動が制御される。
【0037】
マイコン51の機能ブロック図を図4および図5に示す。図4に示すように、マイコン51は、三相二相変換部62、制御器63、二相三相変換部64、デューティ算出部65、三角波比較部66、および、シフト方向特定部67等を有している。
【0038】
図4および図5に基づき、マイコン51における制御処理を説明する。
三相二相変換部62は、電流検出回路52にて算出された電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ10の回転角度θeを読み込み、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqを算出する。
【0039】
制御器63では、操舵トルクに基づいて算出されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとから、電流フィードバック制御演算を行い、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を算出する。より詳細には、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとの電流偏差ΔId、および、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとの電流偏差ΔIqを算出し、電流指令値Id*、Iq*に追従させるべく、電流偏差ΔId、ΔIqが0に収束するように電圧指令値Vd*およびVq*を算出する。
二相三相変換部64では、制御器63で算出された電圧指令値Vd*、Vq*、および、モータ10の回転角度θeに基づき、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。
【0040】
デューティ算出部65では、図5に示すように、振幅算出部651にて、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅が算出される。シフト量算出部652では、振幅算出部651にて算出された三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅に基づいて、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のシフト量が算出される。そして、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*、シフト量算出部652にて算出されたシフト量、シフト方向特定部67にてセットされる切替フラグ、および、コンデンサ電圧Vcに基づき、第1インバータ部20の駆動に係るU相デューティDu1、V相デューティDv1、W相デューティDw1、および、第2インバータ部30の駆動に係るU相デューティDu2、V相デューティDv2、W相デューティDw2を算出し、各相デューティDu1、Dv1、Dw1、Du2、Dv2、Dw2をレジスタに書き込む。なお、各相デューティDu1、Dv1、Dw1、Du2、Dv2、Dw2の算出については、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*をデューティに変換した後にシフト量の算出を行ってもよい。
シフト方向特定部67におけるシフト方向特定処理については後述する。
【0041】
そして三角波比較部66では、算出された第1インバータ部20の駆動に係るU相デューティDu1、V相デューティDv1、W相デューティDw1と、PWM基準信号Pとを比較することにより、MOS21〜26のオン/オフ信号を算出する。
詳細には、U相デューティDu1とPWM基準信号Pとを比較し、U相デューティDu1がPWM基準信号P以上のとき、U1上MOS21がオンされ、U1下MOS24がオフされる。U相デューティDu1がPWM基準信号P未満のとき、U1上MOS21がオフされ、U1下MOS24がオンされる。また、V相デューティDv1とPWM基準信号Pとを比較し、V相デューティDv1がPWM基準信号P以上のとき、V1上MOS22がオンされ、V1下MOS25がオフされる。U相デューティDv1がPWM基準信号P未満のとき、V1上MOS22がオフされ、V1下MOS25がオンされる。さらにまた、W相デューティDw1とPWM基準信号Pとを比較し、W相デューティDw1がPWM基準信号P以上のとき、W1上MOS23がオンされ、W1下MOS26がオフされる。W相デューティDw1がPWM基準信号P未満のとき、W1上MOS23がオフされ、W1下MOS26がオンされる。
【0042】
また、算出された第2インバータ部30の駆動に係るU相デューティDu2、V相デューティDv2、W相デューティDw2と、PWM基準信号Pとを比較することにより、MOS31〜36のオン/オフ信号を算出する。
詳細には、U相デューティDu2とPWM基準信号Pとを比較し、U相デューティDu2がPWM基準信号P以上のとき、U2上MOS31がオンされ、U2下MOS34がオフされる。U相デューティDu2がPWM基準信号P未満のとき、U2上MOS31がオフされ、U2下MOS34がオンされる。また、V相デューティDv2とPWM基準信号Pとを比較し、V相デューティDv2がPWM基準信号P以上のとき、V2上MOS32がオンされ、V2下MOS35がオフされる。V相デューティDv2がPWM基準信号P未満のとき、V2上MOS32がオフされ、V2下MOS35がオンされる。さらにまた、W相デューティDw2とPWM基準信号Pとを比較し、W相デューティDw2がPWM基準信号P以上のとき、W2上MOS33がオンされ、W2下MOS36がオフされる。W相デューティDw2がPWM基準信号P未満のとき、W2上MOS33がオフされ、W2下MOS36がオンされる。
【0043】
なお、本実施形態では、三角波比較部66の処理はマイコン51内の電気回路で処理されている。この処理は、ソフトウェアによる処理であっても、ハードウェアによる処理であってもどちらでもよい。
【0044】
第1インバータ部20の駆動に係る第1の電圧指令信号としての第1デューティ指令信号D1は、U1コイル11に印加される電圧に係るU相デューティDu1、V1コイル12に印加される電圧に係るV相デューティDv1、およびW1コイル13に印加される電圧に係るW相デューティDw1の3つの正弦波信号から構成される。第2インバータ部30の駆動に係る第2の電圧指令信号としての第2デューティ指令信号D2は、U2コイル14に印加される電圧に係るU相デューティDu2、V1コイル15に印加される電圧に係るV相デューティDv2、およびW2コイル16に印加される電圧に係るW相デューティDw2の3つの正弦波信号から構成される(図6参照)。
【0045】
本実施形態では、第1デューティ指令信号D1の中心値Dc1(以下、適宜「第1デューティ中心値Dc1」という。)および第2デューティ指令信号D2の中心値Dc2(以下、適宜「第2デューティ中心値Dc2」という。)の一方を出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcよりも下側にシフトし、他方を出力中心値Rcよりも上側にシフトすることにより、コンデンサ50のリップル電流を低減している。また、本実施形態では、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の振幅に応じて、出力中心値Rcからのシフト量を可変としている。
【0046】
ここで、第1デューティ中心値Dc1を出力中心値Rcよりも下側にシフトし、第2デューティ中心値Dc2を出力中心値Rcよりも上側にシフトする場合を図6に基づいて説明する。
本実施形態では、出力可能なデューティ範囲は、電源電圧の0%〜100%であり、出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcは、50%である。なお、本実施形態では、バッテリ70の電圧は12Vであり、出力可能なデューティ範囲を電圧に換算すると、0V〜12Vまで出力可能であり、出力中心値Rcは6Vに対応している。また、PWM基準信号Pの周波数は20kHzである。なお、第1インバータ部20の駆動に係るPWM基準信号Pと第2インバータ部30の駆動に係るPWM基準信号Pは、同一のまたは位相の等しい三角波信号を用いる。また、第1デューティ指令信号D1の振幅と第2デューティ指令信号D2の振幅とは等しい。なお、ここでは第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2は、いずれも正弦波信号(すなわちAsinδ+Bで表される。)であるので、振幅は各指令信号の最大値から最小値を減じた値を2で除した値(すなわちA)が振幅である。
【0047】
図6(a)に示すように、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下である場合、すなわち第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトしたときの第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rmin以上である場合、第1デューティ指令信号D1は、最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように、第1デューティ中心値Dc1を出力中心値Rcから下側にシフトする。
【0048】
一方、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下である場合、すなわち第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトしたときの第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmax以下である場合、第2デューティ指令信号D2は、最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように、第2デューティ中心値Dc2を出力中心値Rcから上側にシフトする。
【0049】
図6(b)に示すように、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%である場合、第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトすると、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1は、出力可能なデューティ範囲の下限値Rminと一致する。このとき、第1デューティ中心値Dc1は、出力中心値Rcを基準として、出力可能なデューティ範囲の25%分下側にシフトしている。すなわち、このときの第1デューティ中心値Dc1は、Rc−25=25%である。
【0050】
また、第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトすると、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2は、出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxと一致する。このとき、第2デューティ中心値Dc2は、出力中心値Rcを基準として、出力可能なデューティ範囲の25%分上側にシフトしている。このとき、第2デューティ中心値Dc2は、Rc+25=75%である。
【0051】
図6(c)に示すように、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトすると、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminより小さくなる。第1デューティ指令信号D1が出力可能なデューティ範囲を超えると、出力電圧に歪みが発生する。そこで、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、すなわち第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1をシフトしたときの第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminより小さくなる場合、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminと一致するように、第1デューティ中心値Dc1をシフトする。
【0052】
また、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトすると、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2は、出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxより大きくなる。デューティ指令信号D2が出力可能なデューティ範囲を超えると、出力電圧に歪みが発生する。そこで、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、すなわち第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2をシフトしたときの第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxより大きくなる場合、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxと一致するように、第2デューティ中心値Dc2をシフトする。
【0053】
第1デューティ指令信号D1では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下の場合、第1デューティ中心値Dc1は、振幅が大きくなるに従って出力中心値Rcから下方向に離れるようにシフトされる。また第1デューティ指令信号D1では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第1デューティ中心値Dc1は、振幅が大きくなるに従って、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%のときの第1デューティ中心値Dc1から出力中心値Rcに近づく方向にシフトされる。
【0054】
第2デューティ指令信号D2では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下の場合、第2デューティ中心値Dc2は、振幅が大きくなるに従って出力中心値Rcから上方向に離れるようにシフトされる。また第2デューティ指令信号D2では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第2デューティ中心値Dc2は、振幅が大きくなるに従って、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%のときの第2デューティ中心値Dc2から出力中心値Rcに近づく方向にシフトされる。
【0055】
すなわち本実施形態では、デューティ指令信号D1、D2の振幅に応じて、第1デューティ中心値Dc1のシフト量(図10中に記号「M1」で示した。)および第2デューティ中心値Dc2のシフト量(図10中に記号「M2」で示した。)を可変にしている。このような構成は、デューティ指令信号D1、D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下のときに特に有効である。
【0056】
ここで、第1デューティ指令信号D1を出力中心値Rcから下側にシフトし、第2デューティ指令信号D2を出力中心値Rcから上側にシフトした場合のコンデンサ電流を図7に基づいて説明する。なお、図7(a)は第1インバータ部20とコンデンサ50との関係を示し、図7(b)は第2インバータ部30とコンデンサ50との関係を示している。また、図7中においては、出力中心値Rcの記載は省略した。
【0057】
図7(a)に示すように、PWM基準信号Pが全ての相の第1デューティ指令信号D1を上回っている期間または下回っている期間において、コンデンサ50は充電される。一方、PWM基準信号Pが第1デューティ指令信号D1の間に位置する期間において、コンデンサ50は放電する。
また、第1デューティ指令信号D1を下側にシフトした場合、PWM基準信号Pの山側におけるコンデンサ50の充電期間が比較的長く、コンデンサ50の放電期間はPWM1周期の谷側に寄っている。
【0058】
図7(b)に示すように、PWM基準信号Pが全ての相の第2デューティ指令信号D2を上回っている期間または下回っている期間において、コンデンサ50は充電される。一方、PWM基準信号Pが第2デューティ指令信号D2の間に位置する期間において、コンデンサ50は放電する。
また、第2デューティ指令信号D2を上側にシフトした場合、PWM基準信号Pの山側におけるコンデンサ50の充電期間が比較的短く、コンデンサ50の放電期間が比較的中央に寄っている。また、PWM基準信号の谷側における充電期間が比較的長い。
【0059】
すなわち、デューティ指令信号を下側にシフトした場合と上側にシフトした場合とでは、有効電圧ベクトルおよびゼロ電圧ベクトルの発生タイミングが異なっているため、コンデンサ50が充電される期間と放電する期間とにずれが生じる。そのため、PWM基準信号Pに位相差がない場合、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下側にシフトし、他方を上側にシフトすることにより、コンデンサ50の充電タイミングと放電タイミングとにずれが生じるので、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。なお、デューティ指令信号D1、D2の振幅が小さいとき、第1デューティ指令信号D1と第2デューティ指令信号D2とが重ならないようにシフトすれば、コンデンサ50は、一方のインバータ部により放電されているとき、他方のインバータ部により充電される。
なお、デューティ指令信号D1、D2を上側または下側にシフトしたとしても、線間電圧が変わらなければ、巻線組18、19に印加される電圧は変わらない。
【0060】
ところで、第1デューティ指令信号D1、D2の中心値を出力中心値Rcから上側または下側にシフトした場合、上MOSがオンされる時間と下MOSがオンされる時間とが異なる。
図8(a)に示すように、第1デューティ指令信号D1を下側にシフトすると、例えばW1下MOS26は、W1上MOS23と比較して、オンされている時間が長くなる。U1下MOS24とU1上MOS21、V1下MOS25とV1上MOS22についても同様である。
一方、図8(b)に示すように、第2デューティ指令信号D2を上側にシフトすると、例えばU2上MOS31は、U2下MOS34と比較してオンされている時間が長くなる。V2上MOS32とV2下MOS35、W2上MOS33とW2下MOS36についても同様である。
【0061】
出力可能なデューティ範囲の中心からのデューティ指令信号D1、D2のシフト量が大きくなるにしたがって、上MOSがオンされている時間と下MOSがオンされている時間との差は大きくなる。対になる上MOSと下MOSとでオンされている時間が異なると、電流積算値が変わるため、上MOSと下MOSとで熱損失に偏りが生じる。
そこで、上MOSと下MOSとの電流積算値が同じになるように、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向を適宜入れ替えることが好ましい。
【0062】
本実施形態では、電力変換装置1を電動パワーステアリング装置100に適用している。ステアリングホイール91は左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものは右に戻す操作が行われる。なお、車両直進中には、巻線組18、19への通電はほとんど行われないが、車庫入れ等の据え切り作動時においては通電量が多くなる。また、据え切り作動時においては、ステアリングホイール91を右に操舵する時間と左に操舵する時間とが略等しくなる。
そこで本実施形態では、通電量が多くなる据え切り作動時においてステアリングホイール91を右に操舵する時間と左に操舵する時間とが略同じになる特性を利用し、ステアリングホイール91の操舵状態に応じて第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向を切り替え、上MOSと下MOSとの通電量を略同じにすることによりMOS21〜26、31〜36ごとの熱損失の偏りを低減している。
【0063】
本実施形態によるシフト方向特定処理を図9に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、図9に示すシフト方向特定処理は、図4および図5中のシフト方向特定部67にて実行される処理である。
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、デフォルトとして切替フラグ=1をセットする。切替フラグ=1であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態であるものとする。なお、切替フラグ=0であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態であるものとする。
また、切替カウンタをリセットする。なお、切替カウンタは、q軸電流Iqの正負が入れ替わってからの時間を計時するためのものである。本実施形態ではカウンタを用いているが、タイマ等によって計時してもよい。
【0064】
S102では、U1コイル11の電流検出値Iu1、V1コイル12の電流検出値Iv1、およびW1コイル13の電流検出値Iw1を読み込む。また、U2コイル14の電流検出値Iu2、V2コイル15の電流検出値Iv2、およびW2コイル16の電流検出値Iw2を読み込む。さらにまた、モータ10の回転角度θeを読み込む。
【0065】
S103では、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づき、実電流値としてのq軸電流Iqを算出する。q軸電流Iqは、以下の式(1)にて算出される。
Iu=Iu1+Iu2
Iv=Iv1+Iv2
Iw=Iw1+Iw2
【数1】
【0066】
S104では、q軸電流Iqが0以上か否かを判断する。q軸電流Iqが0未満であると判断された場合(S104:NO)、すなわちq軸電流Iqが負である場合、S109へ移行する。q軸電流Iqが0以上であると判断された場合(S104:YES)、すなわちq軸電流が正である場合、S105へ移行する。
【0067】
S105では、切替フラグ=1か否かを判断する。切替フラグ=1であると判断された場合(S105:YES)、S108へ移行する。切替フラグ=1でないと判断された場合(S105:NO)、すなわち切替フラグ=0である場合、S106へ移行する。
S106では、切替カウンタをインクリメントする。
【0068】
S107では、切替カウンタのカウント値が所定値以上か否かを判断する。本実施形態では、所定値は10とする。ここでの判断処理は、q軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過したか否かを判断している。切替カウンタのカウント値が所定値未満であると判断された場合(S107:NO)、すなわちq軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過していない場合、S102へ戻る。切替カウンタのカウント値が所定値以上であると判断された場合(S107:YES)、すなわちq軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過した場合、S108へ移行する。
【0069】
S108では、切替フラグ=1とする。また、切替カウンタをリセットし、S102へ戻る。なお、q軸電流Iqが正、かつ、切替フラグ=1(S104:YES、かつ、S105:YES)の後に移行した場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態が継続される。また、q軸電流が正、切替フラグ=0、かつ、切替カウンタのカウント値が所定値以上(S104:YES、S105:NO、かつ、S107:YES)の後に移行した場合、q軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過しているので、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態へ切り替えるべく、切替フラグ=1とする。
【0070】
q軸電流Iqが0未満であると判断された場合(S104:NO)に移行するS109では、切替フラグ=0か否かを判断する。切替フラグ=0であると判断された場合(S109:YES)、S112へ移行する。切替フラグ=0でないと判断された場合(S109:NO)、すなわち切替フラグ=1である場合、S110へ移行する。
S110では、切替カウンタをインクリメントする。
【0071】
S111では、切替カウンタのカウント値が所定値以上か否かを判断する。本実施形態では、所定値は10とする。ここでの判断処理は、q軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過したか否かを判断している。切替カウンタのカウント値が所定値未満であると判断された場合(S111:NO)、すなわちq軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過していない場合、S102へ戻る。切替カウンタのカウント値が所定値以上であると判断された場合(S111:YES)、すなわちq軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過した場合、S112へ移行する。
【0072】
S112では、切替フラグ=0とする。また、切替カウンタをリセットし、S102へ戻る。なお、q軸電流Iqが負、かつ、切替フラグ=0(S104:NO、かつ、S109:YES)の後に以降した場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態が継続される。また、q軸電流が負、切替フラグ=1、かつ、切替カウンタのカウント値が所定値以上(S104:NO、S109:NO、S111:YES)の後に以降した場合、q軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過しているので、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態へ切り替えるべく、切替フラグ=0とする。
【0073】
すなわち、本実施形態では、q軸電流Iqが正のとき第1状態、q軸電流Iqが負のとき第2状態としている。なお、q軸電流Iqは、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づいて算出されているため、各センサの検出ノイズ等の影響を受ける。本実施形態では、q軸電流Iqが0付近であるときに検出ノイズ等の影響を受けてq軸電流Iqの正負が頻繁に入れ替わることにより、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向の切り替えが頻繁に起こるのを避けるため、q軸電流Iqが正から負、または、負から正に切り替わってから所定時間経過後に、シフト方向を切り替えている。これにより、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0074】
ここで、車庫入れ動作を模擬し、ハンドルエンド位置である右端または左端に当てた状態、すなわち巻線組18、19に最大電流が通電された状態でモータ10の回転を停止させた状態と、ステアリングホイール91を右端から左端へ操舵する据え切り作動とを繰り返す試験(以下、「発熱試験」という。)について述べる。約150秒の発熱試験では、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下方向にシフトし、他方を上方向にシフトした状態を継続した場合、MOS21〜26、31〜36の最高温度と最低温度との差が20〜30℃程度であった。一方、本実施形態のように、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行った場合、上MOS21〜23、31〜33と、下MOS24〜26、34〜36との温度差がほとんどなかった。また、本実施形態のように、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行った場合、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下方向にシフトし、他方を上方向にシフトした状態を継続した場合と比較して、最も温度の高かったMOSの温度が約10℃低くなった。
【0075】
これにより、MOS21〜26、31〜36の発熱を放熱するための放熱部材(例えばヒートシンク等)を小型化することができ、装置全体を軽量化することができる。また、MOS21〜26、31〜36での発熱量は、抵抗値に比例する。また、抵抗値はチップ面積に反比例する。本実施形態のように第1状態と第2状態との切り替えを行い、第1状態と第2状態との切り替えを行わない場合と同等の温度上昇を許容するとすれば、MOS21〜26、31〜36のチップ面積を小さくすることが可能であり、コストを低減することができる。
【0076】
以上詳述したように、本実施形態の電力変換装置1は、ステアリングホイール91に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置100のモータ10の各相に対応するコイル11〜13から構成される第1巻線組18およびコイル14〜16から構成される第2巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置である。電力変換装置1は、第1インバータ部20および第2インバータ部30と、コンデンサ50と、マイコン51と、を備える。第1巻線組18に対応して設けられる第1インバータ部20は、コイル11〜13の各相に対応するMOS21〜26を有する。また、第2巻線組19に対応して設けられる第2インバータ部30は、コイル14〜16の各相に対応するMOS31〜36を有する。コンデンサ50は、第1インバータ部20および第2インバータ部30に接続される。マイコン51は、第1巻線組18に印加される電圧に係る第1デューティ指令信号D1および第2巻線組19に印加される電圧に係る第2デューティ指令信号D2に基づいてMOS21〜26、31〜36のオンおよびオフを制御する。これにより、モータ10の巻線組18、19に供給される電力が制御されることにより、モータ10の駆動が制御される。
【0077】
また、マイコン51は、第1デューティ中心値Dc1が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態と、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態と、をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替える。
【0078】
本実施形態では、デューティ指令信号D1、D2の一方を出力中心値Rcの下側にシフトし、他方を出力中心値Rcの上側にシフトしている。これにより、第1インバータ部20および第2インバータ部30の一方によるコンデンサ50の充電および放電のタイミングと、他方によるコンデンサ50の充電および放電のタイミングとをずらすことができるので、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。
また、それぞれのインバータ部20、30の駆動に係るデューティ指令信号D1、D2のシフト方向をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替えているので、MOS21〜26、31〜36ごとのオン時間の差を小さくすることでき、MOS21〜26、31〜36ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0079】
特に、本実施形態では、電力変換装置1を、電動パワーステアリング装置100に適用している。ステアリングホイール91は、左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものを右に戻す操作が行われる。特に、通電量が多くなる車庫入れ等の据え切り作動時においては、ステアリングホイール91が右方向に操舵される時間と左方向に操舵される時間とが略等しくなる。本実施形態では、このような電動パワーステアリング装置100の使われ方を考慮し、ステアリングホイール91の操舵状態に応じてデューティ指令信号D1、D2のシフト方向を切り替えている。これにより、デューティ指令信号D1、D2が上側にシフトされる時間と下側にシフトされる時間との差を小さくすることができるので、MOS21〜26、31〜36におけるオン時間の差が小さくなり、熱損失の偏りを低減することができる。
【0080】
また、本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組18、19に通電される電流に係る電流指令値Id*、Iq*を算出する。また、マイコン51では、電流指令値Id*、Iq*に基づいて巻線組18、19に通電された実電流値であるq軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。すなわち、第1状態と第2状態とは、操舵トルクに基づく値であるq軸電流に基づいて切り替えられている、といえる。MOS21〜26、31〜36での発熱量は、通電量に応じて変化するので、操舵トルクに基づく値であるq軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替えることにより、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを適切に低減することができる。また、本実施形態では、MOS21〜26、31〜36に実際に通電された電流積算値を算出することなく、MOS21〜26、31〜36における発熱を略均等にすることができるので、演算負荷を低減することができる。また、高価なマイコン等を用いる必要がないので、コストを低減することができる。
【0081】
また、マイコン51では、第1状態または第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(図9中のS107:NO、または、S111:NO)、第1状態または第2状態の他方から一方への切り替えを行わない。すなわち、第1状態から第2状態への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(S107:NO)、第2状態から第1状態への切り替えを行わない。また、第2状態から第1状態への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(S111:NO)、第1状態から第2状態への切り替えを行わない。すなわち、本実施形態では、第1状態および第2実施形態の一方から他方への切り替えに係る時間的な不感帯を有している、といえる。これにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0082】
さらにまた、本実施形態では、第1デューティ中心値Dc1の出力中心値Rcからのシフト量M1は、第1デューティ指令信号D1の振幅に応じて可変であり、第2デューティ中心値Dc2の出力中心値Rcからのシフト量M2は、第2デューティ指令信号D2の振幅に応じて可変である。これにより、MOS21〜26、31〜36ごとのオン時間の差を小さくし、適切に熱損失の偏りを低減することができる。
なお、本実施形態では、q軸電流Iqが正のとき第1状態、負のとき第2状態としたが、q軸電流Iqが正のとき第2状態、負のとき第1状態としてもよい。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態による電力変換装置は、シフト方向特定処理が第1実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。
本実施形態によるシフト方向特定処理を図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
S201では、デフォルトとして切替フラグ=1をセットする。第1実施形態と同様、切替フラグ=1であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態であり、切替フラグ=0であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態であるものとする。
【0084】
S202では、図9中のS102と同様、U1コイル11の電流検出値Iu1、V1コイル12の電流検出値Iv1、およびW1コイル13の電流検出値Iw1を読み込む。また、U2コイル14の電流検出値Iu2、V2コイル15の電流検出値Iv2、およびW2コイル16の電流検出値Iw2を読み込む。さらにまた、モータ10の回転角度θeを読み込む。
【0085】
S203では、図9中のS103と同様、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づき、実電流値としてのq軸電流Iqを算出する。q軸電流Iqは、上記の式(1)にて算出される。
【0086】
S204では、q軸電流Iqが第1の閾値以上か否かを判断する。本実施形態では、第1の閾値は1[A]とする。q軸電流Iqが第1の閾値未満であると判断された場合(S204:NO)、S206へ移行する。q軸電流Iqが第1の閾値以上であると判断された場合(S204:YES)、S205へ移行する。
【0087】
S205では、切替フラグ=1とし、S202へ戻る。すなわち、切替フラグ=1が既にセットされている場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態を継続する。また、切替フラグ=0であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態へ切り替えるべく、切替フラグ=1とする。
【0088】
q軸電流Iqが第1の閾値未満であると判断された場合(S204:NO)に移行するS206では、q軸電流Iqが第1の閾値未満である第2の閾値以下か否かを判断する。本実施形態では、第2の閾値は−1[A]とする。q軸電流Iqが第2の閾値より大きいと判断された場合(S206:NO)、S202へ戻る。q軸電流Iqが第2の閾値以下であると判断された場合(S206:YES)、S207へ移行する。
【0089】
S207では、切替フラグ=0とし、S202へ戻る。すなわち、切替フラグ=0であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態が継続される。また、切替フラグ=1であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態へ切り替えるべく、切替フラグ=0とする。
【0090】
本実施形態では、q軸電流Iqが第1の閾値である1A以上のとき第1状態、q軸電流Iqが第2の閾値である−1A以下のとき第2状態としている。また、q軸電流Iqが−1Aより大きく1A未満である場合、直前の第1状態または第2状態を継続し、第1状態および第2状態の一方から他方への切り替えを行わない。これにより、各センサの検出ノイズ等の影響を受けてq軸電流Iqがばたついたとしても、第1の閾値と第2の閾値とを異なる値として所謂ヒステリシスを設けることにより、実質的に不感帯を有しているのと同じ効果が得られ、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。これにより、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、q軸電流Iqが第1の閾値以上のとき第1状態、第2の閾値以下のとき第2状態としたが、q軸電流Iqが第1の閾値以上のとき第2状態、第2の閾値以下のとき第1状態としてもよい。
【0091】
(第3実施形態)
第3実施形態による電力変換装置では、シフト方向特定処理が上記実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。本実施形態では、q軸電流Iqに替えて、ステアリングホイール91の操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が右方向に操舵されているとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態とし、ステアリングホイール91が左方向に操舵されているとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態とする。
【0092】
ステアリングホイール91の操舵方向に基づくデューティ指令信号D1、D2のシフト方向の切り替えについて、図11に基づいて説明する。なお、図11(c)中においては、第1状態を「+1」、第2状態を「−1」として示した。
ここでは、運転者によりステアリングホイール91が操舵され、操舵角度θsが図11(a)の如く推移したものとする。
【0093】
期間A1、A2、A3において、図11(a)に示すように、操舵角度θsが増加しているとき、図11(b)に示すように、ステアリングホイール91は、運転者により右方向に操舵されることにより、右方向に回転している。このとき、図11(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態としている。
【0094】
一方、期間B1、B2において、図11(a)に示すように、操舵角度θsが減少しているとき、図11(b)に示すように、ステアリングホイール91は、運転者により左方向に操舵されることにより、左方向に回転している。このとき、図11(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態としている。
【0095】
本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵角度θsを算出している。また、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えている。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを適切に低減することができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、ステアリングホイール91が右方向に操舵されているときに第1状態とし、左方向に操舵されているときに第2状態としたが、左方向に操舵されているときに第2状態とし、右方向に操舵されているときに第1状態としてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵角度θsに応じた操舵角信号を取得する操舵角センサ95により検出される操舵角信号に基づいて操舵角度θsを算出している。これにより、操舵角度θsを直接的に算出することができる。
【0097】
(第4実施形態)
第4実施形態による電力変換装置では、シフト方向特定処理が上記実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。
本実施形態では、ステアリングホイール91の操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側である場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態とし、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より左側である場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ指令信号Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態とする。
【0098】
ステアリングホイール91の転舵位置に基づくデューティ指令信号D1、D2のシフト方向の切り替えについて、図12に基づいて説明する。なお、図12(c)中においては、第1状態を「+1」、第2状態を「−1」として示した。
ここでは、運転者によりステアリングホイール91が操舵され、操舵角度θsが図12(a)の如く推移したものとする。
【0099】
期間A11において、図12(a)に示すように、操舵角度θsが0以上であるとき、図12(b)に示すように、ステアリングホイール91の転舵位置は中心より右側である。このとき、図12(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態としている。
【0100】
一方、期間B11において、図12(a)に示すように、操舵角度θsが0未満であるとき、図12(b)に示すように、ステアリングホイール91の転舵位置は中心より左側である。このとき、図12(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ指令信号Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態としている。
【0101】
本実施形態では、マイコン51は、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵角度θsを算出する。また、マイコン51では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心から右側にある場合と左側にある状態とで第1状態と第2状態とを切り替える。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを低減することができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側であるときに第1状態とし、左側であるときに第2状態としたが、右側であるときに第2状態とし、左側であるときに第1状態としてもよい。
【0102】
(他の実施形態)
(ア)電流指令値に基づくシフト方向の切り替え
上記第1実施形態および第2実施形態では、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替えたが、他の実施形態では、q軸電流Iqに替えて、巻線組18、19に通電される電流に係る電流指令値、例えばq軸電流指令値Iq*に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えてもよい。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。また、電流指令値は、一般的に操舵トルク0Nm付近に対してアシスト電流の不感帯を有しているので、各センサの検出ノイズ等の影響を受けることなく、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0103】
(イ)操舵トルクの方向に基づくシフト方向の切り替え
また、他の実施形態では、操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えるようにしてもよい。例えば、右方向の操舵トルクが検出された場合に第1状態とし、左方向の操舵トルクが検出された場合に第2状態とする。また、右方向の操舵トルクが検出された場合に第2状態とし、左方向の操舵トルクが検出された場合に第1状態としてもよい。このようにしても、上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。
【0104】
(ウ)回転電機の回転方向に基づくシフト方向の切り替え
また、他の実施形態では、操舵トルクに基づいて駆動されるモータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えてもよい。モータ10の回転方向は、操舵トルクの方向と略一致するので、モータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行っても、上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。
なお、モータ10の回転方向は、上記実施形態のようにレゾルバ55のセンサ値により検出することができる。レゾルバ以外の回転角センサを用いてもよい。また、回転角センサを設けず、所謂センサレスの構成とし、マイコン51における推定回転数演算により検出してもよい。
【0105】
なお、モータ10の回転方向は、操舵トルクの方向と一致しない場合がある。例えば走行中の左折時に左方向にステアリングホイール91を切って旋回し、左折が終了してステアリングホイール91を中央に戻す場合、車両の旋回軌道を調整するべく、運転者がステアリングホイール91をゆっくり戻すことがあり、このような場合にはモータ10の回転方向と操舵トルクの方向とが一致しない。ただし、このような動作は、時間的に数秒程度と短いこと、走行中の上記のような動作時のアシスト電流は、停止時のアシスト電流の約1/3と小さいことから、MOS21〜26、31〜26の発熱量に及ぼす影響は僅かであるので、問題視する必要がない。
【0106】
(エ)シフト方向特定処理
上記第3実施形態では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が右方向に操舵されている場合と左方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えていた。他の実施形態では、第1実施形態のように、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよい。また例えば操舵方向を操舵角速度に基づいて判断するように構成し、第2実施形態のように、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
【0107】
また、上記第4実施形態では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側である場合と左側である場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えていた。他の実施形態では、第1実施形態のように、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよい。また、第2実施形態のように、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
【0108】
さらにまた、電流指令値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合、操舵トルクに基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合、または、モータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合についても同様に、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよいし、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
このように構成することにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0109】
なお、図9中のS105〜S107の処理を省略し、S104にて肯定判断された場合、S108へ移行するようにしてもよい。また、S109〜S111の処理を省略し、S104にて否定判断された場合、S112へ移行するようにしてもよい。
また、図10中のS206の処理を省略し、S204にて否定判断された場合、S207へ移行するようにしてもよい。
さらにまた、上記実施形態では、デューティ指令信号の振幅に応じてシフト量を可変としたが、他の実施形態では、デューティ指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量を可変とせず、所定量(例えば出力可能なデューティ範囲の25%)としてもよい。
【0110】
(オ)回転角センサ
上記実施形態では、回転角センサとしてレゾルバを用いていたが、他の実施形態ではレゾルバ以外の回転角センサとしてもよい。また、回転角センサを設けず、所謂センサレスの構成とし、マイコン51にて推定回転数演算を行ってもよい。
(カ)操舵角センサ
上記実施形態では、操舵角センサのセンサ値に基づいて操舵角度θsを算出した。他の実施形態では、操舵角センサを設けず、マイコンにてモータの回転角度を取得し、取得されたモータの回転角度に基づいて操舵角度を算出するようにしてもよい。これにより、操舵角度を検出するためのセンサ等を省略することができるので、部品点数を低減することができる。
【0111】
(キ)変調処理
上記実施形態では、デューティ指令信号は、正弦波信号であったが、電圧利用率を向上すべく、2相変調処理または3相変調処理を行うことにより、中性点電圧操作を行ってもよい。例えば、以下のような変調処理を行ってもよい。
(i)最も小さい相のデューティが所定の下限値となるように、最も小さい相のデューティから所定の下限値を差し引いた値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(ii)最も大きい相のデューティが所定の上限値となるように、最も大きい相のデューティから所定の上限値を差し引いた値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(iii)全ての相のデューティに3次高調波を加算してもよい。
(iv)最も大きい相のデューティと最も小さい相のデューティとの平均値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(v)所定の下限値を下回るデューティを所定の下限値から差し引いた値、または、所定の上限値を上回るデューティから所定の上限値を差し引いた値を、全ての相のデューティから減算してもよい。
【0112】
このような変調処理を行うことにより、電圧利用率を向上することができる。また、一方のインバータ部において上記(i)の変調処理を行い、他方のインバータ部において上記(ii)の変調処理を行う、といった具合に、それぞれのインバータ部において異なる変調処理を行ってもよい。特に、一方のインバータ部において上記(i)の変調処理を行い、他方のインバータ部において上記(ii)の変調処理を行うことにより、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。
また、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において変調処理を行った後にデューティに変換してもよいし、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*をデューティに変換した後に変調処理を行ってもよい。
【0113】
(ク)電流検出部の位置
電流検出部の位置の例を図13に示す。なお、図13中においては、第1インバータ部20のMOS21〜26および第1巻線組18のみを示し、第2インバータ部および第2巻線組等の構成は省略している。また、図13(a)は、図3と対応している。
【0114】
図13(a)に示すように、電流検出部41〜43は、下MOS24〜26のグランド側に設けることができる。また、図13(b)に示すように、W下MOS26とグランドとの間の電流検出部43を省略してもよい。この例のように、n相のうちの1相の電流検出部を省いても電源電流との差分により全ての相の電流を検出することができる。すなわち、3相であれば2ヶ所、5相であれば4ヶ所、といった具合である。また、電流検出部を省く相は、いずれの相であってもよい。
また、図13(c)に示すように、電流検出部41〜43は、上MOS21〜23の電源側に設けることができる。また、図13(d)に示すように、W上MOS23と電源との間の電流検出部43を省略してもよい。n相のうちの1相の電流検出部を省く点については、図13(b)にて説明したのと同様である。
【0115】
図13(e)に示すように、電流検出部41〜43は、上MOS21〜23と下MOS24〜26のそれぞれの接続点と、対応するコイル11〜13との間に設けることができる。また、図13(f)に示すように、W上MOS23とコイル13との間の電流検出部43を省略してもよい。n相のうちの1相の電流検出部を省く点については、図13(b)にて説明したのと同様である。
また、図13(g)に示すように、第1インバータ部20のバッテリ70の正極側のブリッジ回路分岐点とバッテリ70の正極との間に1つの電流検出部47を設けてもよい。この場合、電流検出部47では、図13(c)のように上MOS側に設けられた電流検出部41〜43による電流検出値の合計値を検出する。
さらにまた、図13(h)に示すように、第1インバータ部20のグランド側のブリッジ回路分岐点とグランドとの間に1つの電流検出部48を設けてもよい。この場合、電流検出部48では、図13(a)の電流検出部41〜43による電流検出値の合計値を検出する。
【0116】
(ケ)電流検出部の種類
上記実施形態では、電流検出部としてシャント抵抗を用いたが、他の実施形態では、ホール素子等を用いてもよい。特に、図13(e)、(f)に示す位置に電流検出部を設ける場合、シャント抵抗に替えてホール素子を用いることが好ましい。
【0117】
ところで、図13(a)、(b)の位置に電流検出部としてシャント抵抗を設ける場合、PWM基準信号の山側において、全ての下MOS24〜26がオンとなっているときに電流検出部41〜43に通電される電流(以下、「山側電流」という。)は、第1巻線組18に通電される電流と一致するので、この山側電流を巻線電流として検出する。一方、PWM基準信号の谷側において、全ての下MOS24〜26がオフになったときに電流検出部41〜43に通電される電流(以下、「谷側電流」という。)は、シャント抵抗やアンプ回路の温度変化による巻線電流の補正に用いられる。
【0118】
すなわち、電流検出部としてシャント抵抗を用いる場合、PWM基準信号の山側または谷側において、全ての下MOS24〜26がオンになる期間または全ての下MOS24〜26がオフになる期間を確保する必要がある。また、シャント抵抗によって電流を検出する場合、リギングが収束する時間(例えば、4.5μ秒)、MOS21〜26のオン/オフの切り替えを行わないホールド時間を確保する必要がある。そこで、電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づき、出力可能なデューティ範囲を決定してもよい。すなわち、上記実施形態では、0%〜100%を出力可能なデューティ範囲としていたが、他の実施形態では、例えば7%〜93%を出力可能なデューティ範囲としてもよい。また、例えば0%〜93%を出力可能なデューティ範囲とするといった具合に、巻線電流の補正が不要である場合には、出力可能なデューティ範囲の上限値のみを電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づいて決定してもよい。
【0119】
また、図13(c)、(d)の位置に電流検出部としてシャント抵抗を設ける場合、PWM基準信号の谷側において、全ての上MOS21〜23がオンとなっているときに電流検出部41〜43に流れる谷側電流が第1巻線組18に流れる電流と一致するので、谷側電流を巻線電流として検出する。一方、PWM基準信号の山側において、全ての上MOS21〜23がオフとなっているときに電流検出部41〜43を流れる山側電流は、シャント抵抗やアンプ回路の温度変化による巻線電流の補正に用いられる。
【0120】
そこで、PWM基準信号の山側または谷側において、全ての上MOS21〜23がオンになる期間または全ての上MOS21〜23がオフになる期間を確保すべく、電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づき、出力可能なデューティ範囲を決定してもよい。例えば、7%〜93%を出力可能なデューティ範囲としてもよい。また例えば、7%〜100%を出力可能なデューティ範囲とするといった具合に、巻線電流の補正が不要である場合には、出力可能なデューティ範囲の下限値のみを電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づいて決定してもよい。
これにより、電流検出部により巻線組に通電される電流を適切に検出することができる。
【0121】
さらに、ブートストラップ方式のゲート駆動回路では、所定周期毎に全ての下MOS24〜26をオンする必要がある。そのため、出力可能なデューティ範囲の上限値を100%にすることができない。そこで、ゲート駆動回路構成に基づいて出力可能なデューティ範囲の上限値を決定してもよい。
なお、第1インバータ部20および第1巻線組18の電流検出について説明したが、第2インバータ部30および第2巻線組19の電流検出についても同様である。
【0122】
(ク)モータの構成
上記実施形態では、図14(a)に模式的に示すように、2系統のインバータ部が1つのモータ10を駆動していた。他の実施形態では、図14(b)に模式的に示すように、2系統のインバータ部がそれぞれ別のモータを駆動するように構成してもよい。すなわち、電力変換装置3では、第1インバータ部120が第1モータ110を駆動し、第2インバータ部130が第2モータ111を駆動する、といった具合である。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0123】
1・・・電力変換装置
10・・・モータ(回転電機)
11〜16・・・コイル(巻線)
18・・・第1巻線組(巻線組)
19・・・第2巻線組(巻線組)
20・・・第1インバータ部(インバータ部)
21〜26・・・MOS(スイッチング素子)
30・・・第2インバータ部(インバータ部)
31〜36・・・MOS(スイッチング素子)
40・・・電流検出部
50・・・コンデンサ
51・・・マイコン(制御部)
55・・・レゾルバ
70・・・バッテリ
90・・・ステアリングシステム
91・・・ステアリングホイール(操舵部材)
92・・・ステアリングシャフト
94・・・トルクセンサ
95・・・操舵角センサ
96・・・ピニオンギア
97・・・ラックギア
98・・・タイヤ
100・・・電動パワーステアリング装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置に用いられる電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多相回転電機の駆動に係る電流をパルス幅変調(以下、「PWM」という。)によって制御する技術が公知である。例えば、多相回転電機が三相モータである場合、3相の巻線のそれぞれに印加される電圧に係る電圧基準信号と三角波等のキャリア波であるPWM基準信号を比較し、インバータを構成するスイッチング素子のオンおよびオフの切り替えを行うことにより、三相モータに流れる電流を制御している。
【0003】
ところで、インバータとコンデンサとが接続されている場合、インバータ側に電流が流れていないとき、コンデンサには電源から電流が流れ込むことにより充電される。一方、インバータ側に電流が流れているとき、コンデンサはインバータ側へ電流が流れ出すことにより放電する。PWM制御を行う場合、PWM1周期の間にコンデンサでは充電と放電とが繰り返されるため、コンデンサ電流が脈動する。コンデンサ電流が脈動すると、ノイズが発生したり、コンデンサが発熱したりする。また、インバータの印加電圧の変動に伴うインバータ電流制御性が悪化するという問題点があった。なお、以下、コンデンサに流れる電流の脈動を、適宜「リップル電流」という。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、2組のブリッジ回路の間で予め記憶されたマップデータに基づいてスイッチング素子のスイッチングタイミングに位相差をつけることにより、合計したコンデンサ電流の波形を平滑波形に近づけることで、リップル電流を低減している。また、特許文献2では、PWMアンプにおいて、接続される軸数が2軸の場合、一方の電圧指令値をVcc/4(Vccは電源電圧)バイアスし、他方の電圧指令値を−Vcc/4バイアスすることにより、リップル電流を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−197779号公報
【特許文献2】特開2007−306705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1では、変調率と力率とに応じてスイッチングタイミングに位相差をつけて出力するための遅延回路が必要であった。また、短い間隔で複数の系統の電流を検出する必要があり、演算負荷が大きいという問題点があった。
また、特許文献2では、例えばインバータが2系統の場合、一方の系統では電圧指令値を電源電圧の1/4分上側にバイアスしている。電圧指令値を上側にバイアスすると、低電位側に設けられる低電位側スイッチング素子よりも高電位側に設けられる高電位側スイッチング素子がオンされている時間が長くなる。また、他方の系統では電圧指令値を電源電圧の1/4分下側にバイアスしている。電圧指令値を下側にバイアスすると、高電位側スイッチング素子よりも低電位側スイッチング素子がオンされている時間が長くなる。高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子とでオンされている時間が異なると、通電量が異なることに伴い、熱損失に偏りが生じる。スイッチング素子間で熱損失に偏りが生じると、余裕をもった熱設計や非対称な放熱設計が必要となる。或いは、スイッチング素子ごとに異なる素子を用いる必要がある。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンデンサのリップル電流を低減しつつ、スイッチング素子間の熱損失の偏りを低減する電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置の回転電機の各相に対応する巻線から構成される2つの巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置である。電力変換装置は、インバータ部と、コンデンサと、制御部と、を備える。巻線組ごとに設けられるインバータ部は、巻線の各相に対応するスイッチング素子を有する。コンデンサは、インバータ部に接続される。制御部は、一方の巻線組に印加される電圧に係る第1の電圧指令信号および他方の巻線組に印加される電圧に係る第2の電圧指令信号に基づいてスイッチング素子のオンおよびオフを制御する。これにより、回転電機の巻線組に供給される電力が制御されることにより、回転電機の駆動が制御される。
また、制御部は、第1の電圧指令信号の中心値が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値よりも下側にシフトされ、第2の電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも上側にシフトされる第1状態と、第1の電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも上側にシフトされ、第2電圧指令信号の中心値が出力中心値よりも下側にシフトされる第2状態と、を操舵部材の操舵状態に応じて切り替える。
【0008】
本発明では、一方の電圧指令信号を下側にシフトし、他方の電圧指令信号を上側にシフトしている。これにより、一方のインバータ部によるコンデンサの充電および放電のタイミングと、他方のインバータ部によるコンデンサの充電および放電のタイミングとをずらすことができるので、コンデンサのリップル電流を低減することができる。
また、それぞれのインバータ部の駆動に係る電圧指令信号のシフト方向を操舵部材の操舵状態に応じて切り替えているので、スイッチング素子ごとのオン時間の差を小さくすることができ、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0009】
特に、本発明では、電力変換装置を電動パワーステアリング装置に適用している。操舵部材は、左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものは右に戻す操作が行われる。特に、通電量が多くなる車庫入れ等の据え切り作動時においては、操舵部材が右に操舵される時間と左に操舵される時間とが略等しくなる。本発明では、このような電動パワーステアリング装置の使われ方を考慮し、操舵部材の操舵状態に応じて電圧指令信号のシフト方向を切り替えている。これにより、電圧指令信号が上側にシフトされる時間と下側にシフトされる時間との差を小さくすることができるので、スイッチング素子ごとのオン時間の差が小さくなり、熱損失の偏りを低減することができる。なお、操舵部材の操舵状態を示すパラメータとしては、操舵トルク、操舵方向、操舵部材の転舵位置、等が挙げられる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出する。また、制御部は、電流指令値に基づいて巻線組に通電された実電流値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。スイッチング素子での発熱量は、通電量に応じて変化するので、操舵トルクに基づく値である実電流値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えることにより、スイッチング素子における熱損失の偏りを適切に低減することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出する。また、制御部は、電流指令値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。また、実電流に替えて、電流指令値を用いることにより、検出ノイズ等の影響を受けることなく、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づいて駆動される回転電機の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。回転電機の回転方向は、操舵部材の操舵トルクの方向と略一致するので、回転電機の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。なお、回転電機の回転方向は、レゾルバ等の回転角センサのセンサ値に基づいて検出してもよいし、回転角センサを設けず推定回転数演算の演算結果に基づいて検出してもよい。
【0014】
請求項6に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出する。また、制御部は、操舵角度に基づき、操舵部材が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0015】
請求項7に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出する。また、制御部は、操舵角度に基づき、操舵部材の転舵位置が中心から右側にある場合と左側にある場合とで、第1状態と第2状態とを切り替える。このように構成しても、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0016】
操舵部材の操舵角度は、以下のように算出することができる。
請求項8に記載の発明では、制御部は、回転電機の回転角度を取得し、取得された回転角度に基づいて前記操舵角度を算出する。これにより、操舵角度を検出するためのセンサ等を省略することができるので、部品点数を低減することができる。
請求項9に記載の発明では、制御部は、操舵部材の操舵角度に応じた操舵角信号を検出する操舵角センサにより検出される操舵角信号に基づいて操舵角度を算出する。これにより、操舵角度を直接的に算出することができる。
【0017】
請求項10に記載の発明では、制御部は、第1状態または第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合、第1状態または第2状態の他方から一方への切り替えを行わない。これにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0018】
請求項11に記載の発明では、第2状態から第1状態への切り替えに係る第1の閾値と、第1状態から第2状態への切り替えに係る第2の閾値とは、異なる値である。第1状態と第2状態との切り替えに係り、第1の閾値と第2の閾値とを異なる値とすることにより、所謂ヒステリシスを設けているので、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0019】
請求項12に記載の発明では、第1の電圧指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量は、第1の電圧指令信号の振幅に応じて可変であり、第2の電圧指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量は、第2の電圧指令信号の振幅に応じて可変である。これにより、スイッチング素子ごとのオン時間の差を小さくし、スイッチング素子ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態によるステアリングシステムの全体構成を説明する模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態による電動パワーステアリング装置を説明するブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態による電力変換装置の回路構成を説明する回路図である。
【図4】本発明の第1実施形態のマイコンの構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるデューティ算出部を説明する説明図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるデューティ指令信号シフト処理を説明する説明図である。
【図7】デューティ指令信号をシフトした場合のコンデンサ電流を説明する説明図である。
【図8】デューティ指令信号をシフトした場合のスイッチング素子のオン/オフ時間を説明する説明図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるシフト方向特定処理を説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態によるシフト方向特定処理を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の第3実施形態によるシフト方向特定処理を説明する説明図である。
【図12】本発明の第4実施形態によるシフト方向特定処理を説明する説明図である。
【図13】本発明の電流検出部の設置箇所の変形例を説明する説明図である。
【図14】本発明の変形例における回転電機が複数ある場合を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。
なお、以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による電力変換装置は、電動パワーステアリング装置に適用される。電動パワーステアリング装置を図1〜図3に示す。
【0022】
図1〜図3に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ステアリングシステム90に用いられる。ステアリングシステム90は、ステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラックギア97、およびタイヤ(ホイール)98等から構成される。ステアリングホイール91は、運転者によって操舵される。ステアリングシャフト92は、ステアリングホイール91に連結され、ステアリングホイール91の操舵に伴って回転する。ステアリングシャフト92のステアリングホイール91と反対側の先端には、ラックギア97と噛み合うピニオンギア96が設けられる。ラックギア97の両端には、タイロッド等を介して一対のタイヤ98がそれぞれ連結されている。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96およびラックギア97によって直線運動に変換され、ラックギア97の直線運動変位に応じて左右のタイヤ98が転舵される。
【0023】
電動パワーステアリング装置100は、電力変換装置1、モータ10、減速機89等を備える。
モータ10は、減速機89を正逆回転させるモータであって、本実施形態では三相ブラシレスモータであるが、どのようなモータを用いてもよい。減速機89は、モータ10の回転を減速してモータ10の回転により生じるトルクをステアリングシャフト92に伝達する。すなわち、モータ10は、運転者によるステアリングホイール91を操舵するための操舵トルクを軽減するための補助トルクを発生し、補助トルクをステアリングホイール91に付与するものである。
【0024】
モータ10は、いずれも図示しないロータおよびステータを有している。ロータは、円板状の部材であり、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。ステータは、ロータを内部に収容するとともに、回転可能に支持している。ステータは、径内方向へ所定角度毎に突出する突出部を有し、この突出部に図3に示すU1コイル11、V1コイル12、W1コイル13、U2コイル14、V2コイル15、および、W2コイル16が巻回されている。U1コイル11、V1コイル12、および、W1コイル13は、第1巻線組18を構成している。また、U2コイル14、V2コイル15、および、W2コイル13は、第2巻線組19を構成している。第1巻線組18および第2巻線組19が、「2つの巻線組」に対応している。
また、モータ10には、モータ10の回転角度θeを検出するためのレゾルバ55が設けられる。制御部としてのマイコン(CPU)51は、レゾルバ55により検出された回転角信号を取得し、モータ10の回転角度θeを算出する。
【0025】
図1および図2に示すように、電動パワーステアリング装置100は、トルクセンサ94および操舵角センサ95を備える。トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92に設けられ、運転者がステアリングホイール91を操舵することにより生じる操舵トルクに応じたトルク信号を検出し、マイコン51に出力する。マイコン51では、トルク信号に基づいて操舵トルクを算出する。
また、操舵角センサ95は、ステアリングシャフト92に設けられ、ステアリングホイール91の操舵角度に応じた操舵角信号を検出し、マイコン51に出力する。マイコン51では、操舵角センサ95により検出された操舵角信号に基づき、ステアリングホイール91の操舵角度θsを算出する。なお、操舵角度θsは、ステアリングホイール91が中心にあるときを0度とし、中心から右方向に操舵された場合を正の値、中心から左方向に操舵された場合を負の値とする。
【0026】
電力変換装置1は、第1インバータ部20、第2インバータ部30、電流検出部40、コンデンサ50、マイコン51、電流検出回路52、および、駆動回路54等を備えている。本実施形態では、第1インバータ部20および第2インバータ部30が「インバータ部」に対応している。
【0027】
図3に示すように、第1インバータ部20は、3相インバータであり、第1巻線組18のU1コイル11、V1コイル12、W1コイル13のそれぞれへの通電を切り換えるべく、6つのスイッチング素子21〜26がブリッジ接続されている。スイッチング素子21〜26は、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)であるが、MOSFET以外の素子を用いてもよい。以下、スイッチング素子21〜26をMOS21〜26という。
【0028】
3つのMOS21〜23は、ドレインがバッテリ70の正極側に接続されている。また、MOS21〜23のソースが、それぞれMOS24〜26のドレインに接続されている。MOS24〜26のソースは、バッテリ70の負極側に接続されている。
対になっているMOS21とMOS24との接続点は、U1コイル11の一端に接続している。また、対になっているMOS22MOS25との接続点は、V1コイル12の一端に接続している。さらにまた、対になっているMOS23とMOS26との接続点は、W1コイル13の一端に接続している。
【0029】
第2インバータ部30は、第1インバータ部20と同様、3相インバータであり、第2巻線組19のU2コイル14、V2コイル15、W2コイル16のそれぞれへの通電を切り換えるべく、6つのスイッチング素子31〜36がブリッジ接続されている。スイッチング素子31〜36は、スイッチング素子21〜26と同様、MOSFETであるが、MOSFET以外の素子を用いてもよい。以下、スイッチング素子31〜36を、MOS31〜36という。
【0030】
3つのMOS31〜33は、ドレインがバッテリ70の正極側に接続されている。また、MOS31〜33のソースが、それぞれMOS34〜36のドレインに接続されている。MOS34〜36のソースは、バッテリ70の負極側に接続されている。
対になっているMOS31とMOS34との接続点は、U2コイル14の一端に接続している。また、対になっているMOS32とMOS35との接続点は、V2コイル15の一端に接続している。さらにまた、対になっているMOS33とMOS36との接続点は、W2コイル16の一端に接続している。
【0031】
以下、適宜、高電位側スイッチング素子であるMOS21〜23およびMOS31〜33を「上MOS」、低電位側スイッチング素子であるMOS24〜26およびMOS34〜36を「下MOS」という。また、必要に応じて「U1上MOS21」といった具合に、対応する相およびインバータ部を併せて記載する。
【0032】
電流検出部40は、U1電流検出部41、V1電流検出部42、W1電流検出部43、U2電流検出部44、V2電流検出部45、および、W2電流検出部46から構成されている。U1電流検出部41は、U1下MOS24とグランドとの間に設けられ、U1コイル11に流れる電流を検出する。V1電流検出部42は、V1下MOS25とグランドとの間に設けられ、V1コイル12に流れる電流を検出する。W1電流検出部43は、W1下MOS26とグランドとの間に設けられ、W1コイル13に流れる電流を検出する。また、U2電流検出部44は、U2下MOS34とグランドとの間に設けられ、U2コイル14に流れる電流を検出する。V2電流検出部45は、V2下MOS35とグランドとの間に設けられ、V2コイル15に流れる電流を検出する。W2電流検出部46は、W2下MOS36とグランドとの間に設けられ、W2コイル16に流れる電流を検出する。
【0033】
本実施形態では、電流検出部41〜46は、シャント抵抗により構成される。電流検出部41〜46によって検出された検出値(以下、「AD値」という。)は、図示しないレジスタに記憶される。なお、レジスタによるAD値の取得は、電流検出部41〜46について同時に行われる。このとき同時に、レゾルバ55により検出されるモータ10の回転角信号も取得される。なお、図3において、電流検出部40からの制御線は、煩雑になることを避けるため省略した。
【0034】
コンデンサ50は、バッテリ70、第1インバータ部20および第2インバータ部30と接続され、電荷を蓄えることで、MOS21〜26、31〜36への電力供給を補助したり、サージ電流などのノイズ成分を抑制したりする。
【0035】
マイコン51では、各種演算処理が行われる。電流検出回路52(図2参照)では、電流検出部40からセンサ値を取得し、電流検出値を算出する。具体的には、U1電流検出部41のAD値に基づいてU1コイル11に通電される電流値である電流検出値Iu1を算出し、V1電流検出部42のAD値に基づいてV1コイル12に通電される電流値である電流検出値Iv1を算出し、W1電流検出部43のAD値に基づいてW1コイル13に通電される電流値である電流検出値Iw1を算出する。また、U2電流検出部44のAD値に基づいてU2コイル14に通電される電流値である電流検出値Iu2を算出し、V2電流検出部45のAD値に基づいてV2コイル15に通電される電流値である電流検出値Iv2を算出し、W2電流検出部46のAD値に基づいてW2コイル16に通電される電流値である電流検出値Iw2を算出する。
【0036】
マイコン51では、電流検出回路52により算出される電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、およびIw2、レゾルバ55により検出された回転角信号に基づいて算出されるモータ10の回転角度θe等に基づいてフィードバック演算を行い、モータ10の駆動に係る電流指令値を算出する。そして、算出された電流指令値に基づき、駆動回路54を介して第1インバータ部20のMOS21〜26および第2インバータ部30のMOS31〜36のオンおよびオフの切り替えを制御する。これにより、コイル11〜16への通電が制御されることにより、モータ10の駆動が制御される。
【0037】
マイコン51の機能ブロック図を図4および図5に示す。図4に示すように、マイコン51は、三相二相変換部62、制御器63、二相三相変換部64、デューティ算出部65、三角波比較部66、および、シフト方向特定部67等を有している。
【0038】
図4および図5に基づき、マイコン51における制御処理を説明する。
三相二相変換部62は、電流検出回路52にて算出された電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ10の回転角度θeを読み込み、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqを算出する。
【0039】
制御器63では、操舵トルクに基づいて算出されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとから、電流フィードバック制御演算を行い、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を算出する。より詳細には、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとの電流偏差ΔId、および、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとの電流偏差ΔIqを算出し、電流指令値Id*、Iq*に追従させるべく、電流偏差ΔId、ΔIqが0に収束するように電圧指令値Vd*およびVq*を算出する。
二相三相変換部64では、制御器63で算出された電圧指令値Vd*、Vq*、および、モータ10の回転角度θeに基づき、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。
【0040】
デューティ算出部65では、図5に示すように、振幅算出部651にて、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅が算出される。シフト量算出部652では、振幅算出部651にて算出された三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の振幅に基づいて、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のシフト量が算出される。そして、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*、シフト量算出部652にて算出されたシフト量、シフト方向特定部67にてセットされる切替フラグ、および、コンデンサ電圧Vcに基づき、第1インバータ部20の駆動に係るU相デューティDu1、V相デューティDv1、W相デューティDw1、および、第2インバータ部30の駆動に係るU相デューティDu2、V相デューティDv2、W相デューティDw2を算出し、各相デューティDu1、Dv1、Dw1、Du2、Dv2、Dw2をレジスタに書き込む。なお、各相デューティDu1、Dv1、Dw1、Du2、Dv2、Dw2の算出については、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*をデューティに変換した後にシフト量の算出を行ってもよい。
シフト方向特定部67におけるシフト方向特定処理については後述する。
【0041】
そして三角波比較部66では、算出された第1インバータ部20の駆動に係るU相デューティDu1、V相デューティDv1、W相デューティDw1と、PWM基準信号Pとを比較することにより、MOS21〜26のオン/オフ信号を算出する。
詳細には、U相デューティDu1とPWM基準信号Pとを比較し、U相デューティDu1がPWM基準信号P以上のとき、U1上MOS21がオンされ、U1下MOS24がオフされる。U相デューティDu1がPWM基準信号P未満のとき、U1上MOS21がオフされ、U1下MOS24がオンされる。また、V相デューティDv1とPWM基準信号Pとを比較し、V相デューティDv1がPWM基準信号P以上のとき、V1上MOS22がオンされ、V1下MOS25がオフされる。U相デューティDv1がPWM基準信号P未満のとき、V1上MOS22がオフされ、V1下MOS25がオンされる。さらにまた、W相デューティDw1とPWM基準信号Pとを比較し、W相デューティDw1がPWM基準信号P以上のとき、W1上MOS23がオンされ、W1下MOS26がオフされる。W相デューティDw1がPWM基準信号P未満のとき、W1上MOS23がオフされ、W1下MOS26がオンされる。
【0042】
また、算出された第2インバータ部30の駆動に係るU相デューティDu2、V相デューティDv2、W相デューティDw2と、PWM基準信号Pとを比較することにより、MOS31〜36のオン/オフ信号を算出する。
詳細には、U相デューティDu2とPWM基準信号Pとを比較し、U相デューティDu2がPWM基準信号P以上のとき、U2上MOS31がオンされ、U2下MOS34がオフされる。U相デューティDu2がPWM基準信号P未満のとき、U2上MOS31がオフされ、U2下MOS34がオンされる。また、V相デューティDv2とPWM基準信号Pとを比較し、V相デューティDv2がPWM基準信号P以上のとき、V2上MOS32がオンされ、V2下MOS35がオフされる。V相デューティDv2がPWM基準信号P未満のとき、V2上MOS32がオフされ、V2下MOS35がオンされる。さらにまた、W相デューティDw2とPWM基準信号Pとを比較し、W相デューティDw2がPWM基準信号P以上のとき、W2上MOS33がオンされ、W2下MOS36がオフされる。W相デューティDw2がPWM基準信号P未満のとき、W2上MOS33がオフされ、W2下MOS36がオンされる。
【0043】
なお、本実施形態では、三角波比較部66の処理はマイコン51内の電気回路で処理されている。この処理は、ソフトウェアによる処理であっても、ハードウェアによる処理であってもどちらでもよい。
【0044】
第1インバータ部20の駆動に係る第1の電圧指令信号としての第1デューティ指令信号D1は、U1コイル11に印加される電圧に係るU相デューティDu1、V1コイル12に印加される電圧に係るV相デューティDv1、およびW1コイル13に印加される電圧に係るW相デューティDw1の3つの正弦波信号から構成される。第2インバータ部30の駆動に係る第2の電圧指令信号としての第2デューティ指令信号D2は、U2コイル14に印加される電圧に係るU相デューティDu2、V1コイル15に印加される電圧に係るV相デューティDv2、およびW2コイル16に印加される電圧に係るW相デューティDw2の3つの正弦波信号から構成される(図6参照)。
【0045】
本実施形態では、第1デューティ指令信号D1の中心値Dc1(以下、適宜「第1デューティ中心値Dc1」という。)および第2デューティ指令信号D2の中心値Dc2(以下、適宜「第2デューティ中心値Dc2」という。)の一方を出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcよりも下側にシフトし、他方を出力中心値Rcよりも上側にシフトすることにより、コンデンサ50のリップル電流を低減している。また、本実施形態では、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の振幅に応じて、出力中心値Rcからのシフト量を可変としている。
【0046】
ここで、第1デューティ中心値Dc1を出力中心値Rcよりも下側にシフトし、第2デューティ中心値Dc2を出力中心値Rcよりも上側にシフトする場合を図6に基づいて説明する。
本実施形態では、出力可能なデューティ範囲は、電源電圧の0%〜100%であり、出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcは、50%である。なお、本実施形態では、バッテリ70の電圧は12Vであり、出力可能なデューティ範囲を電圧に換算すると、0V〜12Vまで出力可能であり、出力中心値Rcは6Vに対応している。また、PWM基準信号Pの周波数は20kHzである。なお、第1インバータ部20の駆動に係るPWM基準信号Pと第2インバータ部30の駆動に係るPWM基準信号Pは、同一のまたは位相の等しい三角波信号を用いる。また、第1デューティ指令信号D1の振幅と第2デューティ指令信号D2の振幅とは等しい。なお、ここでは第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2は、いずれも正弦波信号(すなわちAsinδ+Bで表される。)であるので、振幅は各指令信号の最大値から最小値を減じた値を2で除した値(すなわちA)が振幅である。
【0047】
図6(a)に示すように、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下である場合、すなわち第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトしたときの第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rmin以上である場合、第1デューティ指令信号D1は、最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように、第1デューティ中心値Dc1を出力中心値Rcから下側にシフトする。
【0048】
一方、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下である場合、すなわち第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトしたときの第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmax以下である場合、第2デューティ指令信号D2は、最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように、第2デューティ中心値Dc2を出力中心値Rcから上側にシフトする。
【0049】
図6(b)に示すように、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%である場合、第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトすると、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1は、出力可能なデューティ範囲の下限値Rminと一致する。このとき、第1デューティ中心値Dc1は、出力中心値Rcを基準として、出力可能なデューティ範囲の25%分下側にシフトしている。すなわち、このときの第1デューティ中心値Dc1は、Rc−25=25%である。
【0050】
また、第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトすると、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2は、出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxと一致する。このとき、第2デューティ中心値Dc2は、出力中心値Rcを基準として、出力可能なデューティ範囲の25%分上側にシフトしている。このとき、第2デューティ中心値Dc2は、Rc+25=75%である。
【0051】
図6(c)に示すように、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1を下側にシフトすると、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminより小さくなる。第1デューティ指令信号D1が出力可能なデューティ範囲を超えると、出力電圧に歪みが発生する。そこで、第1デューティ指令信号D1の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、すなわち第1デューティ指令信号D1の最大値Dmax1が出力中心値Rcとなるように第1デューティ中心値Dc1をシフトしたときの第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminより小さくなる場合、第1デューティ指令信号D1の最小値Dmin1が出力可能なデューティ範囲の下限値Rminと一致するように、第1デューティ中心値Dc1をシフトする。
【0052】
また、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2を上側にシフトすると、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2は、出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxより大きくなる。デューティ指令信号D2が出力可能なデューティ範囲を超えると、出力電圧に歪みが発生する。そこで、第2デューティ指令信号D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、すなわち第2デューティ指令信号D2の最小値Dmin2が出力中心値Rcとなるように第2デューティ中心値Dc2をシフトしたときの第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxより大きくなる場合、第2デューティ指令信号D2の最大値Dmax2が出力可能なデューティ範囲の上限値Rmaxと一致するように、第2デューティ中心値Dc2をシフトする。
【0053】
第1デューティ指令信号D1では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下の場合、第1デューティ中心値Dc1は、振幅が大きくなるに従って出力中心値Rcから下方向に離れるようにシフトされる。また第1デューティ指令信号D1では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第1デューティ中心値Dc1は、振幅が大きくなるに従って、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%のときの第1デューティ中心値Dc1から出力中心値Rcに近づく方向にシフトされる。
【0054】
第2デューティ指令信号D2では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下の場合、第2デューティ中心値Dc2は、振幅が大きくなるに従って出力中心値Rcから上方向に離れるようにシフトされる。また第2デューティ指令信号D2では、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%より大きい場合、第2デューティ中心値Dc2は、振幅が大きくなるに従って、振幅が出力可能なデューティ範囲の25%のときの第2デューティ中心値Dc2から出力中心値Rcに近づく方向にシフトされる。
【0055】
すなわち本実施形態では、デューティ指令信号D1、D2の振幅に応じて、第1デューティ中心値Dc1のシフト量(図10中に記号「M1」で示した。)および第2デューティ中心値Dc2のシフト量(図10中に記号「M2」で示した。)を可変にしている。このような構成は、デューティ指令信号D1、D2の振幅が出力可能なデューティ範囲の25%以下のときに特に有効である。
【0056】
ここで、第1デューティ指令信号D1を出力中心値Rcから下側にシフトし、第2デューティ指令信号D2を出力中心値Rcから上側にシフトした場合のコンデンサ電流を図7に基づいて説明する。なお、図7(a)は第1インバータ部20とコンデンサ50との関係を示し、図7(b)は第2インバータ部30とコンデンサ50との関係を示している。また、図7中においては、出力中心値Rcの記載は省略した。
【0057】
図7(a)に示すように、PWM基準信号Pが全ての相の第1デューティ指令信号D1を上回っている期間または下回っている期間において、コンデンサ50は充電される。一方、PWM基準信号Pが第1デューティ指令信号D1の間に位置する期間において、コンデンサ50は放電する。
また、第1デューティ指令信号D1を下側にシフトした場合、PWM基準信号Pの山側におけるコンデンサ50の充電期間が比較的長く、コンデンサ50の放電期間はPWM1周期の谷側に寄っている。
【0058】
図7(b)に示すように、PWM基準信号Pが全ての相の第2デューティ指令信号D2を上回っている期間または下回っている期間において、コンデンサ50は充電される。一方、PWM基準信号Pが第2デューティ指令信号D2の間に位置する期間において、コンデンサ50は放電する。
また、第2デューティ指令信号D2を上側にシフトした場合、PWM基準信号Pの山側におけるコンデンサ50の充電期間が比較的短く、コンデンサ50の放電期間が比較的中央に寄っている。また、PWM基準信号の谷側における充電期間が比較的長い。
【0059】
すなわち、デューティ指令信号を下側にシフトした場合と上側にシフトした場合とでは、有効電圧ベクトルおよびゼロ電圧ベクトルの発生タイミングが異なっているため、コンデンサ50が充電される期間と放電する期間とにずれが生じる。そのため、PWM基準信号Pに位相差がない場合、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下側にシフトし、他方を上側にシフトすることにより、コンデンサ50の充電タイミングと放電タイミングとにずれが生じるので、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。なお、デューティ指令信号D1、D2の振幅が小さいとき、第1デューティ指令信号D1と第2デューティ指令信号D2とが重ならないようにシフトすれば、コンデンサ50は、一方のインバータ部により放電されているとき、他方のインバータ部により充電される。
なお、デューティ指令信号D1、D2を上側または下側にシフトしたとしても、線間電圧が変わらなければ、巻線組18、19に印加される電圧は変わらない。
【0060】
ところで、第1デューティ指令信号D1、D2の中心値を出力中心値Rcから上側または下側にシフトした場合、上MOSがオンされる時間と下MOSがオンされる時間とが異なる。
図8(a)に示すように、第1デューティ指令信号D1を下側にシフトすると、例えばW1下MOS26は、W1上MOS23と比較して、オンされている時間が長くなる。U1下MOS24とU1上MOS21、V1下MOS25とV1上MOS22についても同様である。
一方、図8(b)に示すように、第2デューティ指令信号D2を上側にシフトすると、例えばU2上MOS31は、U2下MOS34と比較してオンされている時間が長くなる。V2上MOS32とV2下MOS35、W2上MOS33とW2下MOS36についても同様である。
【0061】
出力可能なデューティ範囲の中心からのデューティ指令信号D1、D2のシフト量が大きくなるにしたがって、上MOSがオンされている時間と下MOSがオンされている時間との差は大きくなる。対になる上MOSと下MOSとでオンされている時間が異なると、電流積算値が変わるため、上MOSと下MOSとで熱損失に偏りが生じる。
そこで、上MOSと下MOSとの電流積算値が同じになるように、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向を適宜入れ替えることが好ましい。
【0062】
本実施形態では、電力変換装置1を電動パワーステアリング装置100に適用している。ステアリングホイール91は左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものは右に戻す操作が行われる。なお、車両直進中には、巻線組18、19への通電はほとんど行われないが、車庫入れ等の据え切り作動時においては通電量が多くなる。また、据え切り作動時においては、ステアリングホイール91を右に操舵する時間と左に操舵する時間とが略等しくなる。
そこで本実施形態では、通電量が多くなる据え切り作動時においてステアリングホイール91を右に操舵する時間と左に操舵する時間とが略同じになる特性を利用し、ステアリングホイール91の操舵状態に応じて第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向を切り替え、上MOSと下MOSとの通電量を略同じにすることによりMOS21〜26、31〜36ごとの熱損失の偏りを低減している。
【0063】
本実施形態によるシフト方向特定処理を図9に示すフローチャートに基づいて説明する。なお、図9に示すシフト方向特定処理は、図4および図5中のシフト方向特定部67にて実行される処理である。
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、デフォルトとして切替フラグ=1をセットする。切替フラグ=1であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態であるものとする。なお、切替フラグ=0であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態であるものとする。
また、切替カウンタをリセットする。なお、切替カウンタは、q軸電流Iqの正負が入れ替わってからの時間を計時するためのものである。本実施形態ではカウンタを用いているが、タイマ等によって計時してもよい。
【0064】
S102では、U1コイル11の電流検出値Iu1、V1コイル12の電流検出値Iv1、およびW1コイル13の電流検出値Iw1を読み込む。また、U2コイル14の電流検出値Iu2、V2コイル15の電流検出値Iv2、およびW2コイル16の電流検出値Iw2を読み込む。さらにまた、モータ10の回転角度θeを読み込む。
【0065】
S103では、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づき、実電流値としてのq軸電流Iqを算出する。q軸電流Iqは、以下の式(1)にて算出される。
Iu=Iu1+Iu2
Iv=Iv1+Iv2
Iw=Iw1+Iw2
【数1】
【0066】
S104では、q軸電流Iqが0以上か否かを判断する。q軸電流Iqが0未満であると判断された場合(S104:NO)、すなわちq軸電流Iqが負である場合、S109へ移行する。q軸電流Iqが0以上であると判断された場合(S104:YES)、すなわちq軸電流が正である場合、S105へ移行する。
【0067】
S105では、切替フラグ=1か否かを判断する。切替フラグ=1であると判断された場合(S105:YES)、S108へ移行する。切替フラグ=1でないと判断された場合(S105:NO)、すなわち切替フラグ=0である場合、S106へ移行する。
S106では、切替カウンタをインクリメントする。
【0068】
S107では、切替カウンタのカウント値が所定値以上か否かを判断する。本実施形態では、所定値は10とする。ここでの判断処理は、q軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過したか否かを判断している。切替カウンタのカウント値が所定値未満であると判断された場合(S107:NO)、すなわちq軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過していない場合、S102へ戻る。切替カウンタのカウント値が所定値以上であると判断された場合(S107:YES)、すなわちq軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過した場合、S108へ移行する。
【0069】
S108では、切替フラグ=1とする。また、切替カウンタをリセットし、S102へ戻る。なお、q軸電流Iqが正、かつ、切替フラグ=1(S104:YES、かつ、S105:YES)の後に移行した場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態が継続される。また、q軸電流が正、切替フラグ=0、かつ、切替カウンタのカウント値が所定値以上(S104:YES、S105:NO、かつ、S107:YES)の後に移行した場合、q軸電流Iqが負から正となってから所定時間が経過しているので、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態へ切り替えるべく、切替フラグ=1とする。
【0070】
q軸電流Iqが0未満であると判断された場合(S104:NO)に移行するS109では、切替フラグ=0か否かを判断する。切替フラグ=0であると判断された場合(S109:YES)、S112へ移行する。切替フラグ=0でないと判断された場合(S109:NO)、すなわち切替フラグ=1である場合、S110へ移行する。
S110では、切替カウンタをインクリメントする。
【0071】
S111では、切替カウンタのカウント値が所定値以上か否かを判断する。本実施形態では、所定値は10とする。ここでの判断処理は、q軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過したか否かを判断している。切替カウンタのカウント値が所定値未満であると判断された場合(S111:NO)、すなわちq軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過していない場合、S102へ戻る。切替カウンタのカウント値が所定値以上であると判断された場合(S111:YES)、すなわちq軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過した場合、S112へ移行する。
【0072】
S112では、切替フラグ=0とする。また、切替カウンタをリセットし、S102へ戻る。なお、q軸電流Iqが負、かつ、切替フラグ=0(S104:NO、かつ、S109:YES)の後に以降した場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態が継続される。また、q軸電流が負、切替フラグ=1、かつ、切替カウンタのカウント値が所定値以上(S104:NO、S109:NO、S111:YES)の後に以降した場合、q軸電流Iqが正から負となってから所定時間が経過しているので、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態へ切り替えるべく、切替フラグ=0とする。
【0073】
すなわち、本実施形態では、q軸電流Iqが正のとき第1状態、q軸電流Iqが負のとき第2状態としている。なお、q軸電流Iqは、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づいて算出されているため、各センサの検出ノイズ等の影響を受ける。本実施形態では、q軸電流Iqが0付近であるときに検出ノイズ等の影響を受けてq軸電流Iqの正負が頻繁に入れ替わることにより、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2のシフト方向の切り替えが頻繁に起こるのを避けるため、q軸電流Iqが正から負、または、負から正に切り替わってから所定時間経過後に、シフト方向を切り替えている。これにより、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0074】
ここで、車庫入れ動作を模擬し、ハンドルエンド位置である右端または左端に当てた状態、すなわち巻線組18、19に最大電流が通電された状態でモータ10の回転を停止させた状態と、ステアリングホイール91を右端から左端へ操舵する据え切り作動とを繰り返す試験(以下、「発熱試験」という。)について述べる。約150秒の発熱試験では、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下方向にシフトし、他方を上方向にシフトした状態を継続した場合、MOS21〜26、31〜36の最高温度と最低温度との差が20〜30℃程度であった。一方、本実施形態のように、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行った場合、上MOS21〜23、31〜33と、下MOS24〜26、34〜36との温度差がほとんどなかった。また、本実施形態のように、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行った場合、第1デューティ指令信号D1および第2デューティ指令信号D2の一方を下方向にシフトし、他方を上方向にシフトした状態を継続した場合と比較して、最も温度の高かったMOSの温度が約10℃低くなった。
【0075】
これにより、MOS21〜26、31〜36の発熱を放熱するための放熱部材(例えばヒートシンク等)を小型化することができ、装置全体を軽量化することができる。また、MOS21〜26、31〜36での発熱量は、抵抗値に比例する。また、抵抗値はチップ面積に反比例する。本実施形態のように第1状態と第2状態との切り替えを行い、第1状態と第2状態との切り替えを行わない場合と同等の温度上昇を許容するとすれば、MOS21〜26、31〜36のチップ面積を小さくすることが可能であり、コストを低減することができる。
【0076】
以上詳述したように、本実施形態の電力変換装置1は、ステアリングホイール91に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置100のモータ10の各相に対応するコイル11〜13から構成される第1巻線組18およびコイル14〜16から構成される第2巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置である。電力変換装置1は、第1インバータ部20および第2インバータ部30と、コンデンサ50と、マイコン51と、を備える。第1巻線組18に対応して設けられる第1インバータ部20は、コイル11〜13の各相に対応するMOS21〜26を有する。また、第2巻線組19に対応して設けられる第2インバータ部30は、コイル14〜16の各相に対応するMOS31〜36を有する。コンデンサ50は、第1インバータ部20および第2インバータ部30に接続される。マイコン51は、第1巻線組18に印加される電圧に係る第1デューティ指令信号D1および第2巻線組19に印加される電圧に係る第2デューティ指令信号D2に基づいてMOS21〜26、31〜36のオンおよびオフを制御する。これにより、モータ10の巻線組18、19に供給される電力が制御されることにより、モータ10の駆動が制御される。
【0077】
また、マイコン51は、第1デューティ中心値Dc1が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態と、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態と、をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替える。
【0078】
本実施形態では、デューティ指令信号D1、D2の一方を出力中心値Rcの下側にシフトし、他方を出力中心値Rcの上側にシフトしている。これにより、第1インバータ部20および第2インバータ部30の一方によるコンデンサ50の充電および放電のタイミングと、他方によるコンデンサ50の充電および放電のタイミングとをずらすことができるので、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。
また、それぞれのインバータ部20、30の駆動に係るデューティ指令信号D1、D2のシフト方向をステアリングホイール91の操舵状態に応じて切り替えているので、MOS21〜26、31〜36ごとのオン時間の差を小さくすることでき、MOS21〜26、31〜36ごとの熱損失の偏りを低減することができる。
【0079】
特に、本実施形態では、電力変換装置1を、電動パワーステアリング装置100に適用している。ステアリングホイール91は、左右に操舵されるが、車両の走行を考えれば、必ず直進状態が存在する。すなわち、右に操舵されたものは左に戻す操作が行われ、左に操舵されたものを右に戻す操作が行われる。特に、通電量が多くなる車庫入れ等の据え切り作動時においては、ステアリングホイール91が右方向に操舵される時間と左方向に操舵される時間とが略等しくなる。本実施形態では、このような電動パワーステアリング装置100の使われ方を考慮し、ステアリングホイール91の操舵状態に応じてデューティ指令信号D1、D2のシフト方向を切り替えている。これにより、デューティ指令信号D1、D2が上側にシフトされる時間と下側にシフトされる時間との差を小さくすることができるので、MOS21〜26、31〜36におけるオン時間の差が小さくなり、熱損失の偏りを低減することができる。
【0080】
また、本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵トルクに基づき、巻線組18、19に通電される電流に係る電流指令値Id*、Iq*を算出する。また、マイコン51では、電流指令値Id*、Iq*に基づいて巻線組18、19に通電された実電流値であるq軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替える。すなわち、第1状態と第2状態とは、操舵トルクに基づく値であるq軸電流に基づいて切り替えられている、といえる。MOS21〜26、31〜36での発熱量は、通電量に応じて変化するので、操舵トルクに基づく値であるq軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替えることにより、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを適切に低減することができる。また、本実施形態では、MOS21〜26、31〜36に実際に通電された電流積算値を算出することなく、MOS21〜26、31〜36における発熱を略均等にすることができるので、演算負荷を低減することができる。また、高価なマイコン等を用いる必要がないので、コストを低減することができる。
【0081】
また、マイコン51では、第1状態または第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(図9中のS107:NO、または、S111:NO)、第1状態または第2状態の他方から一方への切り替えを行わない。すなわち、第1状態から第2状態への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(S107:NO)、第2状態から第1状態への切り替えを行わない。また、第2状態から第1状態への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合(S111:NO)、第1状態から第2状態への切り替えを行わない。すなわち、本実施形態では、第1状態および第2実施形態の一方から他方への切り替えに係る時間的な不感帯を有している、といえる。これにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0082】
さらにまた、本実施形態では、第1デューティ中心値Dc1の出力中心値Rcからのシフト量M1は、第1デューティ指令信号D1の振幅に応じて可変であり、第2デューティ中心値Dc2の出力中心値Rcからのシフト量M2は、第2デューティ指令信号D2の振幅に応じて可変である。これにより、MOS21〜26、31〜36ごとのオン時間の差を小さくし、適切に熱損失の偏りを低減することができる。
なお、本実施形態では、q軸電流Iqが正のとき第1状態、負のとき第2状態としたが、q軸電流Iqが正のとき第2状態、負のとき第1状態としてもよい。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態による電力変換装置は、シフト方向特定処理が第1実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。
本実施形態によるシフト方向特定処理を図10に示すフローチャートに基づいて説明する。
S201では、デフォルトとして切替フラグ=1をセットする。第1実施形態と同様、切替フラグ=1であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態であり、切替フラグ=0であるとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態であるものとする。
【0084】
S202では、図9中のS102と同様、U1コイル11の電流検出値Iu1、V1コイル12の電流検出値Iv1、およびW1コイル13の電流検出値Iw1を読み込む。また、U2コイル14の電流検出値Iu2、V2コイル15の電流検出値Iv2、およびW2コイル16の電流検出値Iw2を読み込む。さらにまた、モータ10の回転角度θeを読み込む。
【0085】
S203では、図9中のS103と同様、電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ回転角度θeに基づき、実電流値としてのq軸電流Iqを算出する。q軸電流Iqは、上記の式(1)にて算出される。
【0086】
S204では、q軸電流Iqが第1の閾値以上か否かを判断する。本実施形態では、第1の閾値は1[A]とする。q軸電流Iqが第1の閾値未満であると判断された場合(S204:NO)、S206へ移行する。q軸電流Iqが第1の閾値以上であると判断された場合(S204:YES)、S205へ移行する。
【0087】
S205では、切替フラグ=1とし、S202へ戻る。すなわち、切替フラグ=1が既にセットされている場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態を継続する。また、切替フラグ=0であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態へ切り替えるべく、切替フラグ=1とする。
【0088】
q軸電流Iqが第1の閾値未満であると判断された場合(S204:NO)に移行するS206では、q軸電流Iqが第1の閾値未満である第2の閾値以下か否かを判断する。本実施形態では、第2の閾値は−1[A]とする。q軸電流Iqが第2の閾値より大きいと判断された場合(S206:NO)、S202へ戻る。q軸電流Iqが第2の閾値以下であると判断された場合(S206:YES)、S207へ移行する。
【0089】
S207では、切替フラグ=0とし、S202へ戻る。すなわち、切替フラグ=0であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態が継続される。また、切替フラグ=1であった場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態から、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態へ切り替えるべく、切替フラグ=0とする。
【0090】
本実施形態では、q軸電流Iqが第1の閾値である1A以上のとき第1状態、q軸電流Iqが第2の閾値である−1A以下のとき第2状態としている。また、q軸電流Iqが−1Aより大きく1A未満である場合、直前の第1状態または第2状態を継続し、第1状態および第2状態の一方から他方への切り替えを行わない。これにより、各センサの検出ノイズ等の影響を受けてq軸電流Iqがばたついたとしても、第1の閾値と第2の閾値とを異なる値として所謂ヒステリシスを設けることにより、実質的に不感帯を有しているのと同じ効果が得られ、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。これにより、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、q軸電流Iqが第1の閾値以上のとき第1状態、第2の閾値以下のとき第2状態としたが、q軸電流Iqが第1の閾値以上のとき第2状態、第2の閾値以下のとき第1状態としてもよい。
【0091】
(第3実施形態)
第3実施形態による電力変換装置では、シフト方向特定処理が上記実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。本実施形態では、q軸電流Iqに替えて、ステアリングホイール91の操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が右方向に操舵されているとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態とし、ステアリングホイール91が左方向に操舵されているとき、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態とする。
【0092】
ステアリングホイール91の操舵方向に基づくデューティ指令信号D1、D2のシフト方向の切り替えについて、図11に基づいて説明する。なお、図11(c)中においては、第1状態を「+1」、第2状態を「−1」として示した。
ここでは、運転者によりステアリングホイール91が操舵され、操舵角度θsが図11(a)の如く推移したものとする。
【0093】
期間A1、A2、A3において、図11(a)に示すように、操舵角度θsが増加しているとき、図11(b)に示すように、ステアリングホイール91は、運転者により右方向に操舵されることにより、右方向に回転している。このとき、図11(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態としている。
【0094】
一方、期間B1、B2において、図11(a)に示すように、操舵角度θsが減少しているとき、図11(b)に示すように、ステアリングホイール91は、運転者により左方向に操舵されることにより、左方向に回転している。このとき、図11(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態としている。
【0095】
本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵角度θsを算出している。また、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えている。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを適切に低減することができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、ステアリングホイール91が右方向に操舵されているときに第1状態とし、左方向に操舵されているときに第2状態としたが、左方向に操舵されているときに第2状態とし、右方向に操舵されているときに第1状態としてもよい。
【0096】
また、本実施形態では、マイコン51では、ステアリングホイール91の操舵角度θsに応じた操舵角信号を取得する操舵角センサ95により検出される操舵角信号に基づいて操舵角度θsを算出している。これにより、操舵角度θsを直接的に算出することができる。
【0097】
(第4実施形態)
第4実施形態による電力変換装置では、シフト方向特定処理が上記実施形態と異なっているので、シフト方向特定処理を中心に説明し、他の構成等については説明を省略する。
本実施形態では、ステアリングホイール91の操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側である場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態とし、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より左側である場合、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ指令信号Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態とする。
【0098】
ステアリングホイール91の転舵位置に基づくデューティ指令信号D1、D2のシフト方向の切り替えについて、図12に基づいて説明する。なお、図12(c)中においては、第1状態を「+1」、第2状態を「−1」として示した。
ここでは、運転者によりステアリングホイール91が操舵され、操舵角度θsが図12(a)の如く推移したものとする。
【0099】
期間A11において、図12(a)に示すように、操舵角度θsが0以上であるとき、図12(b)に示すように、ステアリングホイール91の転舵位置は中心より右側である。このとき、図12(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも下側にシフトされ、第2デューティ中心値Dc2が出力中心値Rcよりも上側にシフトされる第1状態としている。
【0100】
一方、期間B11において、図12(a)に示すように、操舵角度θsが0未満であるとき、図12(b)に示すように、ステアリングホイール91の転舵位置は中心より左側である。このとき、図12(c)に示すように、第1デューティ中心値Dc1が出力中心値Rcよりも上側にシフトされ、第2デューティ指令信号Dc2が出力中心値Rcよりも下側にシフトされる第2状態としている。
【0101】
本実施形態では、マイコン51は、ステアリングホイール91の操舵状態である操舵角度θsを算出する。また、マイコン51では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心から右側にある場合と左側にある状態とで第1状態と第2状態とを切り替える。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36における熱損失の偏りを低減することができる。
また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
なお、本実施形態では、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側であるときに第1状態とし、左側であるときに第2状態としたが、右側であるときに第2状態とし、左側であるときに第1状態としてもよい。
【0102】
(他の実施形態)
(ア)電流指令値に基づくシフト方向の切り替え
上記第1実施形態および第2実施形態では、q軸電流Iqに基づいて第1状態と第2状態とを切り替えたが、他の実施形態では、q軸電流Iqに替えて、巻線組18、19に通電される電流に係る電流指令値、例えばq軸電流指令値Iq*に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えてもよい。このようにしても上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。また、電流指令値は、一般的に操舵トルク0Nm付近に対してアシスト電流の不感帯を有しているので、各センサの検出ノイズ等の影響を受けることなく、安定して第1状態と第2状態との切り替えを行うことができる。
【0103】
(イ)操舵トルクの方向に基づくシフト方向の切り替え
また、他の実施形態では、操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えるようにしてもよい。例えば、右方向の操舵トルクが検出された場合に第1状態とし、左方向の操舵トルクが検出された場合に第2状態とする。また、右方向の操舵トルクが検出された場合に第2状態とし、左方向の操舵トルクが検出された場合に第1状態としてもよい。このようにしても、上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。
【0104】
(ウ)回転電機の回転方向に基づくシフト方向の切り替え
また、他の実施形態では、操舵トルクに基づいて駆動されるモータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替えてもよい。モータ10の回転方向は、操舵トルクの方向と略一致するので、モータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態との切り替えを行っても、上記実施形態と同様、MOS21〜26、31〜36の熱損失の偏りを適切に低減することができる。
なお、モータ10の回転方向は、上記実施形態のようにレゾルバ55のセンサ値により検出することができる。レゾルバ以外の回転角センサを用いてもよい。また、回転角センサを設けず、所謂センサレスの構成とし、マイコン51における推定回転数演算により検出してもよい。
【0105】
なお、モータ10の回転方向は、操舵トルクの方向と一致しない場合がある。例えば走行中の左折時に左方向にステアリングホイール91を切って旋回し、左折が終了してステアリングホイール91を中央に戻す場合、車両の旋回軌道を調整するべく、運転者がステアリングホイール91をゆっくり戻すことがあり、このような場合にはモータ10の回転方向と操舵トルクの方向とが一致しない。ただし、このような動作は、時間的に数秒程度と短いこと、走行中の上記のような動作時のアシスト電流は、停止時のアシスト電流の約1/3と小さいことから、MOS21〜26、31〜26の発熱量に及ぼす影響は僅かであるので、問題視する必要がない。
【0106】
(エ)シフト方向特定処理
上記第3実施形態では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91が右方向に操舵されている場合と左方向に操舵されている場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えていた。他の実施形態では、第1実施形態のように、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよい。また例えば操舵方向を操舵角速度に基づいて判断するように構成し、第2実施形態のように、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
【0107】
また、上記第4実施形態では、操舵角度θsに基づき、ステアリングホイール91の転舵位置が中心より右側である場合と左側である場合とで、第1状態と第2状態とを切り替えていた。他の実施形態では、第1実施形態のように、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよい。また、第2実施形態のように、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
【0108】
さらにまた、電流指令値に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合、操舵トルクに基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合、または、モータ10の回転方向に基づいて第1状態と第2状態とを切り替える場合についても同様に、所定時間が経過したと判断された後に第1状態と第2状態との切り替えを行うようにしてもよいし、第1状態と第2状態との切り替えに係る第1の閾値と第2の閾値とを異なる値としてヒステリシスを設けるようにしてもよい。
このように構成することにより、第1状態と第2状態との切り替えが頻繁に行われるのを避けることができる。
【0109】
なお、図9中のS105〜S107の処理を省略し、S104にて肯定判断された場合、S108へ移行するようにしてもよい。また、S109〜S111の処理を省略し、S104にて否定判断された場合、S112へ移行するようにしてもよい。
また、図10中のS206の処理を省略し、S204にて否定判断された場合、S207へ移行するようにしてもよい。
さらにまた、上記実施形態では、デューティ指令信号の振幅に応じてシフト量を可変としたが、他の実施形態では、デューティ指令信号の中心値の出力中心値からのシフト量を可変とせず、所定量(例えば出力可能なデューティ範囲の25%)としてもよい。
【0110】
(オ)回転角センサ
上記実施形態では、回転角センサとしてレゾルバを用いていたが、他の実施形態ではレゾルバ以外の回転角センサとしてもよい。また、回転角センサを設けず、所謂センサレスの構成とし、マイコン51にて推定回転数演算を行ってもよい。
(カ)操舵角センサ
上記実施形態では、操舵角センサのセンサ値に基づいて操舵角度θsを算出した。他の実施形態では、操舵角センサを設けず、マイコンにてモータの回転角度を取得し、取得されたモータの回転角度に基づいて操舵角度を算出するようにしてもよい。これにより、操舵角度を検出するためのセンサ等を省略することができるので、部品点数を低減することができる。
【0111】
(キ)変調処理
上記実施形態では、デューティ指令信号は、正弦波信号であったが、電圧利用率を向上すべく、2相変調処理または3相変調処理を行うことにより、中性点電圧操作を行ってもよい。例えば、以下のような変調処理を行ってもよい。
(i)最も小さい相のデューティが所定の下限値となるように、最も小さい相のデューティから所定の下限値を差し引いた値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(ii)最も大きい相のデューティが所定の上限値となるように、最も大きい相のデューティから所定の上限値を差し引いた値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(iii)全ての相のデューティに3次高調波を加算してもよい。
(iv)最も大きい相のデューティと最も小さい相のデューティとの平均値を全ての相のデューティから減算してもよい。
(v)所定の下限値を下回るデューティを所定の下限値から差し引いた値、または、所定の上限値を上回るデューティから所定の上限値を差し引いた値を、全ての相のデューティから減算してもよい。
【0112】
このような変調処理を行うことにより、電圧利用率を向上することができる。また、一方のインバータ部において上記(i)の変調処理を行い、他方のインバータ部において上記(ii)の変調処理を行う、といった具合に、それぞれのインバータ部において異なる変調処理を行ってもよい。特に、一方のインバータ部において上記(i)の変調処理を行い、他方のインバータ部において上記(ii)の変調処理を行うことにより、コンデンサ50のリップル電流を低減することができる。
また、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*において変調処理を行った後にデューティに変換してもよいし、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*をデューティに変換した後に変調処理を行ってもよい。
【0113】
(ク)電流検出部の位置
電流検出部の位置の例を図13に示す。なお、図13中においては、第1インバータ部20のMOS21〜26および第1巻線組18のみを示し、第2インバータ部および第2巻線組等の構成は省略している。また、図13(a)は、図3と対応している。
【0114】
図13(a)に示すように、電流検出部41〜43は、下MOS24〜26のグランド側に設けることができる。また、図13(b)に示すように、W下MOS26とグランドとの間の電流検出部43を省略してもよい。この例のように、n相のうちの1相の電流検出部を省いても電源電流との差分により全ての相の電流を検出することができる。すなわち、3相であれば2ヶ所、5相であれば4ヶ所、といった具合である。また、電流検出部を省く相は、いずれの相であってもよい。
また、図13(c)に示すように、電流検出部41〜43は、上MOS21〜23の電源側に設けることができる。また、図13(d)に示すように、W上MOS23と電源との間の電流検出部43を省略してもよい。n相のうちの1相の電流検出部を省く点については、図13(b)にて説明したのと同様である。
【0115】
図13(e)に示すように、電流検出部41〜43は、上MOS21〜23と下MOS24〜26のそれぞれの接続点と、対応するコイル11〜13との間に設けることができる。また、図13(f)に示すように、W上MOS23とコイル13との間の電流検出部43を省略してもよい。n相のうちの1相の電流検出部を省く点については、図13(b)にて説明したのと同様である。
また、図13(g)に示すように、第1インバータ部20のバッテリ70の正極側のブリッジ回路分岐点とバッテリ70の正極との間に1つの電流検出部47を設けてもよい。この場合、電流検出部47では、図13(c)のように上MOS側に設けられた電流検出部41〜43による電流検出値の合計値を検出する。
さらにまた、図13(h)に示すように、第1インバータ部20のグランド側のブリッジ回路分岐点とグランドとの間に1つの電流検出部48を設けてもよい。この場合、電流検出部48では、図13(a)の電流検出部41〜43による電流検出値の合計値を検出する。
【0116】
(ケ)電流検出部の種類
上記実施形態では、電流検出部としてシャント抵抗を用いたが、他の実施形態では、ホール素子等を用いてもよい。特に、図13(e)、(f)に示す位置に電流検出部を設ける場合、シャント抵抗に替えてホール素子を用いることが好ましい。
【0117】
ところで、図13(a)、(b)の位置に電流検出部としてシャント抵抗を設ける場合、PWM基準信号の山側において、全ての下MOS24〜26がオンとなっているときに電流検出部41〜43に通電される電流(以下、「山側電流」という。)は、第1巻線組18に通電される電流と一致するので、この山側電流を巻線電流として検出する。一方、PWM基準信号の谷側において、全ての下MOS24〜26がオフになったときに電流検出部41〜43に通電される電流(以下、「谷側電流」という。)は、シャント抵抗やアンプ回路の温度変化による巻線電流の補正に用いられる。
【0118】
すなわち、電流検出部としてシャント抵抗を用いる場合、PWM基準信号の山側または谷側において、全ての下MOS24〜26がオンになる期間または全ての下MOS24〜26がオフになる期間を確保する必要がある。また、シャント抵抗によって電流を検出する場合、リギングが収束する時間(例えば、4.5μ秒)、MOS21〜26のオン/オフの切り替えを行わないホールド時間を確保する必要がある。そこで、電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づき、出力可能なデューティ範囲を決定してもよい。すなわち、上記実施形態では、0%〜100%を出力可能なデューティ範囲としていたが、他の実施形態では、例えば7%〜93%を出力可能なデューティ範囲としてもよい。また、例えば0%〜93%を出力可能なデューティ範囲とするといった具合に、巻線電流の補正が不要である場合には、出力可能なデューティ範囲の上限値のみを電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づいて決定してもよい。
【0119】
また、図13(c)、(d)の位置に電流検出部としてシャント抵抗を設ける場合、PWM基準信号の谷側において、全ての上MOS21〜23がオンとなっているときに電流検出部41〜43に流れる谷側電流が第1巻線組18に流れる電流と一致するので、谷側電流を巻線電流として検出する。一方、PWM基準信号の山側において、全ての上MOS21〜23がオフとなっているときに電流検出部41〜43を流れる山側電流は、シャント抵抗やアンプ回路の温度変化による巻線電流の補正に用いられる。
【0120】
そこで、PWM基準信号の山側または谷側において、全ての上MOS21〜23がオンになる期間または全ての上MOS21〜23がオフになる期間を確保すべく、電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づき、出力可能なデューティ範囲を決定してもよい。例えば、7%〜93%を出力可能なデューティ範囲としてもよい。また例えば、7%〜100%を出力可能なデューティ範囲とするといった具合に、巻線電流の補正が不要である場合には、出力可能なデューティ範囲の下限値のみを電流検出部において電流を検出するのに要する時間に基づいて決定してもよい。
これにより、電流検出部により巻線組に通電される電流を適切に検出することができる。
【0121】
さらに、ブートストラップ方式のゲート駆動回路では、所定周期毎に全ての下MOS24〜26をオンする必要がある。そのため、出力可能なデューティ範囲の上限値を100%にすることができない。そこで、ゲート駆動回路構成に基づいて出力可能なデューティ範囲の上限値を決定してもよい。
なお、第1インバータ部20および第1巻線組18の電流検出について説明したが、第2インバータ部30および第2巻線組19の電流検出についても同様である。
【0122】
(ク)モータの構成
上記実施形態では、図14(a)に模式的に示すように、2系統のインバータ部が1つのモータ10を駆動していた。他の実施形態では、図14(b)に模式的に示すように、2系統のインバータ部がそれぞれ別のモータを駆動するように構成してもよい。すなわち、電力変換装置3では、第1インバータ部120が第1モータ110を駆動し、第2インバータ部130が第2モータ111を駆動する、といった具合である。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0123】
1・・・電力変換装置
10・・・モータ(回転電機)
11〜16・・・コイル(巻線)
18・・・第1巻線組(巻線組)
19・・・第2巻線組(巻線組)
20・・・第1インバータ部(インバータ部)
21〜26・・・MOS(スイッチング素子)
30・・・第2インバータ部(インバータ部)
31〜36・・・MOS(スイッチング素子)
40・・・電流検出部
50・・・コンデンサ
51・・・マイコン(制御部)
55・・・レゾルバ
70・・・バッテリ
90・・・ステアリングシステム
91・・・ステアリングホイール(操舵部材)
92・・・ステアリングシャフト
94・・・トルクセンサ
95・・・操舵角センサ
96・・・ピニオンギア
97・・・ラックギア
98・・・タイヤ
100・・・電動パワーステアリング装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置の回転電機の各相に対応する巻線から構成される2つの巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置であって、
前記巻線の各相に対応するスイッチング素子を有し、前記巻線組ごとに設けられるインバータ部と、
前記インバータ部に接続されるコンデンサと、
一方の前記巻線組に印加される電圧に係る第1の電圧指令信号および他方の前記巻線組に印加される電圧に係る第2の電圧指令信号に基づいて前記スイッチング素子のオンおよびオフを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1の電圧指令信号の中心値が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値よりも下側にシフトされ、前記第2の電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも上側にシフトされる第1状態と、前記第1の電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも上側にシフトされ、前記第2電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも下側にシフトされる第2状態と、を前記操舵部材の操舵状態に応じて切り替えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、前記巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出し、
前記電流指令値に基づいて前記巻線組に通電された実電流値に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、前記巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出し、
前記電流指令値に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づいて駆動される前記回転電気の回転方向に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出し、
前記操舵角度に基づき、前記操舵部材が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出し、
前記操舵角度に基づき、前記操舵部材の転舵位置が中心から右側である場合と左側である場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記回転電機の回転角度を取得し、取得された前記回転角度に基づいて前記操舵角度を算出することを特徴とする請求項6または7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵角度に応じた操舵角信号を検出する操舵角センサにより検出される前記操舵角信号に基づいて前記操舵角度を算出することを特徴とする請求項6または7に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1状態または前記第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合、前記第1状態または前記第2状態の他方から一方への切り替えを行わないことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記第2状態から前記第1状態への切り替えに係る第1の閾値と、前記第1状態から前記第2状態への切り替えに係る第2の閾値とは、異なる値であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第1電圧指令信号の中心値の前記出力中心値からのシフト量は、前記第1電圧指令信号の振幅に応じて可変であり、
前記第2電圧指令信号の中心値の前記出力中心値からのシフト量は、前記第2電圧指令信号の振幅に応じて可変であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項1】
操舵部材に補助トルクを付与する電動パワーステアリング装置の回転電機の各相に対応する巻線から構成される2つの巻線組を有する多相回転電機の電力変換装置であって、
前記巻線の各相に対応するスイッチング素子を有し、前記巻線組ごとに設けられるインバータ部と、
前記インバータ部に接続されるコンデンサと、
一方の前記巻線組に印加される電圧に係る第1の電圧指令信号および他方の前記巻線組に印加される電圧に係る第2の電圧指令信号に基づいて前記スイッチング素子のオンおよびオフを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1の電圧指令信号の中心値が出力可能なデューティ範囲の中心値である出力中心値よりも下側にシフトされ、前記第2の電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも上側にシフトされる第1状態と、前記第1の電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも上側にシフトされ、前記第2電圧指令信号の中心値が前記出力中心値よりも下側にシフトされる第2状態と、を前記操舵部材の操舵状態に応じて切り替えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、前記巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出し、
前記電流指令値に基づいて前記巻線組に通電された実電流値に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、前記巻線組に通電される電流に係る電流指令値を算出し、
前記電流指令値に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づき、左方向の操舵トルクが検出された場合と右方向への操舵トルクが検出された場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵状態である操舵トルクに基づいて駆動される前記回転電気の回転方向に基づいて前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出し、
前記操舵角度に基づき、前記操舵部材が左方向に操舵されている場合と右方向に操舵されている場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記操舵部材の操舵状態である操舵角度を算出し、
前記操舵角度に基づき、前記操舵部材の転舵位置が中心から右側である場合と左側である場合とで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記回転電機の回転角度を取得し、取得された前記回転角度に基づいて前記操舵角度を算出することを特徴とする請求項6または7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記操舵部材の操舵角度に応じた操舵角信号を検出する操舵角センサにより検出される前記操舵角信号に基づいて前記操舵角度を算出することを特徴とする請求項6または7に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1状態または前記第2状態の一方から他方への切り替えが行われてから所定時間が経過していない場合、前記第1状態または前記第2状態の他方から一方への切り替えを行わないことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記第2状態から前記第1状態への切り替えに係る第1の閾値と、前記第1状態から前記第2状態への切り替えに係る第2の閾値とは、異なる値であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記第1電圧指令信号の中心値の前記出力中心値からのシフト量は、前記第1電圧指令信号の振幅に応じて可変であり、
前記第2電圧指令信号の中心値の前記出力中心値からのシフト量は、前記第2電圧指令信号の振幅に応じて可変であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−161154(P2012−161154A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18490(P2011−18490)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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