電動オイルポンプの制御装置
【課題】エンジンを自動停止制御するとき、変速機構へ電動オイルポンプによって再始動用油圧を供給して再始動時の締結ショックを緩和する機能と、電動オイルポンプの電力消費節減による再始動性を確保する機能とを両立する。
【解決手段】電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流Ibが、変速機構の再始動用油圧を発生させるのに必要な駆動電力に基づいて設定された第1制限値Ib1を超えたときには、操作量の増加を禁止して電源電流Ibの増大を抑制し(S1〜S4→S6〜S8→S5)、電源電流Ibが、再始動性確保のためバッテリ電圧低下を抑制する許容電流値として設定される第2制限値Ib2を超えたときには、操作量を低減する(S1→S2→S9→S5)。
【解決手段】電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流Ibが、変速機構の再始動用油圧を発生させるのに必要な駆動電力に基づいて設定された第1制限値Ib1を超えたときには、操作量の増加を禁止して電源電流Ibの増大を抑制し(S1〜S4→S6〜S8→S5)、電源電流Ibが、再始動性確保のためバッテリ電圧低下を抑制する許容電流値として設定される第2制限値Ib2を超えたときには、操作量を低減する(S1→S2→S9→S5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを一時的に運転停止させる自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構に再始動用の油圧を供給する電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一時停車時に、エンジンのアイドル運転を自動停止するアイドルストップ機構付車両においては、エンジン運転のアイドルストップ後、エンジンに接続された変速機構の作動油圧がエンジン駆動されるオイルポンプの回転低下に伴って低下する。
【0003】
このため、変速機構において無段変速機ではエンジンと変速機構入力軸とを接続する発進用のクラッチ機構、有段自動変速機では変速要素締結用のクラッチ機構が再始動時に締結されるときに、ショックを発生することがあった。
【0004】
そこで、特許文献1には、アイドルストップ機構付車両において、エンジンのアイドルストップ制御中(エンジン停止前)に、エンジンに接続された変速機構に電動オイルポンプから作動油圧を供給し、再始動時の変速機構におけるクラッチ機構締結時のショック(以下、締結ショックという)を緩和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のエンジン再始動時用に変速機構に供給される作動油圧は、走行時に供給される締結用油圧より低めの、締結ショックを緩和できる程度の油圧(以下再始動用油圧という)でよい。
【0007】
しかしながら、変速機の作動油圧を再始動用油圧まで高めるため、電動オイルポンプの駆動モータを目標回転数まで増大すると、ポンプの個体差(性能バラツキ)等により、電源電流が過剰となることがある。
このように、過剰な電源電流が流れると、駆動電源であるバッテリの電圧低下が増大し、再始動性(クランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良、等)が悪化することがあった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためなされたもので、エンジンの自動停止制御中に電動オイルポンプの電源電流を適正に制御することにより、バッテリ電圧の低下を抑制して再始動性を確保しつつ、可能な限り締結ショックを軽減できるようにした電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明は、
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、以下の各手段を含んで構成される。
【0010】
A.前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を検出する電源電流検出手段
B.前記再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力に基づいて前記電源電流の第1制限値を設定する第1制限値設定手段
C.前記電源電流の許容限界として前記第1制限値より大きい第2制限値を設定する第2制限値設定手段
D.前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第1制限値を超え前記第2制限値未満のとき、前記電源電流の増大を抑制するように制御する第1電源電流制限手段
E.前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第2制限値を超えたとき、前記電源電流を前記第2制限値以下に維持するように制御する第2電源電流制限手段
【発明の効果】
【0011】
駆動回路の電源電流値を、大きさの異なる第1制限値,第2制限値と比較しつつ段階的に制限することにより、電流の増大を適正に抑制して再始動性を良好に維持しつつ、可能な限り変速機構への供給油圧を再始動用油圧に近づけて再始動時の締結ショックを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図4】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図5】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図6】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図7】第5実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図8】第6実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図9】第1実施形態において、第1制限値による制限の有無による作用の相違を示すタイムチャート。
【図10】第1実施形態において、恒常的または及び一時的なモータ回転抵抗の増大により第2制限値による制限が行われているときの状態変化を示すタイムチャート。
【図11】第3実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図12】第4実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図13】モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、第5実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図14】モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、第5実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0015】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0016】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0017】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0018】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
【0019】
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0020】
一方、前記機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に電動オイルポンプ8を設ける。該電動オイルポンプは、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0021】
すなわち、一時的に停車してアイドルストップ制御が開始されると、電動オイルポンプ8が駆動されて変速機構20の各部へ作動油を供給する。これにより、前後進切換機構3の前進クラッチの油圧を再始動用油圧以上に維持させた後、エンジン停止を許可してアイドル運転を停止する。
【0022】
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0023】
図2は、上記再始動時用油圧制御の制御システムブロック図を示す。
【0024】
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、油水温度、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。
【0025】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるモータ81の実回転数又は実モータ電流、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0026】
そして、通常は、モータ81の実回転数(実モータ電流)を、目標回転数(目標モータ電流)に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。なお、モータ電流によってフィードバック制御する場合、モータ電流は、センサで検出してもよいが、電源電流とデューティ比とによって算出することもできる。
【0027】
しかし、通常のフィードバック制御を行うだけでは、上述したように電動オイルポンプ8のモータ回転抵抗が増大する異常が発生すると、モータ81の駆動回路82の電源電流が過剰となって、駆動源であるバッテリの電圧が大きく減少し、再始動性が悪化する。すなわち、スタータモータの電力不足によるクランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良(電圧低下によるソレノイド自体の動作不良による)、等の影響がでる。
【0028】
また、電動オイルポンプ8の個体差(性能バラツキ)を考慮して、どの個体でも再始動用油圧を確保できるようにモータ回転数(又はモータ電流)の目標値を高めに設計した場合、特に、バラツキの少ない個体でモータ回転数が過剰に増大して電力を過剰に消費してしまうことがある。
【0029】
そこで、通常のフィードバック制御で設定される操作量を修正し、電源電流が過剰となることを抑制する制御を行う。この制御については、後に詳述する。
【0030】
駆動回路82は、モータ81に駆動信号を出力してモータ81を駆動し、これにより、電動オイルポンプ8が駆動して前記前後進切換機構3の前進クラッチ又は後退ブレーキ及びその他の変速機構20各部に油圧が供給される。この再始動用油圧は、変速機構20各部のクラッチ締結機構を完全に締結する油圧より低圧であり、アイドルストップからの再始動時に締結ショックを緩和するのに十分な大きさに設定すればよい。
【0031】
次に、上記過剰な電源電流を抑制する制御について説明する。
【0032】
第1実施形態に係る制御では、駆動回路82の電源電流Ibを制限するため、第1制限値Ib1と第2制限値Ib2を設定し、実電源電流Ibをこれら2つの電流制限値Ib1,Ib2と比較しつつ、電流の大きさに応じた制御を行う。
【0033】
そして電源電流Ibが第1制限値Ib1以下のときは、通常の制御ゲインを用いて算出される操作量をそのまま用いてモータ回転数(又はモータ電流)をフィードバック制御する。一方、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたとき(かつ第2制限値Ib2未満)は、操作量の増加を禁止するように修正した操作量を用いて制御し、さらに実電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときはときは、操作量を低減するように修正した操作量を用いて制御する。
【0034】
図3は、上記本第1実施形態の制御のフローチャートである。
【0035】
ステップS1では、駆動回路82の電源電圧(バッテリ電圧)VBを読み込み、該電圧VBに基づいて、前記第1制限値Ib1と第2制限値Ib2を設定する。
【0036】
ここで、第1制限値Ib1は、前記再始動用油圧の発生に必要なモータの駆動電力に基づいて設定される。
【0037】
より具体的には、再始動用油圧を得るのに必要なモータ回転数(又は該必要モータ回転数を得るのに必要なモータ電流)は、ポンプ個体差(ポンプ本体やモータの性能バラツキ)を有する。そこで、どの個体でも必要回転数(必要モータ電流)以上となって再始動用油圧を確保できる電力の下限値(下限電力)に、マージン(余裕分)を加えた要求電力が得られる電源電流値として第1制限値Ib1を設定する。
【0038】
本実施形態では、バッテリ電圧(駆動電圧)VBの変動に応じて第1制限値Ib1を以下のように可変に設定する。例えば要求電力が60Wの場合の第1制限値は、電圧VBが12Vのときには5A、電圧VBが10Vのときには6Aとして可変に設定される。
【0039】
このように、バッテリ電圧VBに応じて第1制限値Ib1を可変に設定することにより、バッテリ電圧VBが変化しても要求電力に見合った過不足のない第1制限値Ib1を設定できる。
【0040】
ただし、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第1制限値Ib1を固定値として設定してもよい。
【0041】
一方、第2制限値Ib2は、それ以上の電源電流Ibが流れると、バッテリ電圧の低下が大きく、再始動性を確保するのが難しくなる許容電流の限界値として設定される。
【0042】
ここで、バッテリ電圧VBが低いときは、高いときに比較してバッテリ充電量が小さくバッテリ電圧VBが低下しやすいので、バッテリ電圧VBが低いほど第2制限値Ib2を低い値とするように可変に設定する。ただし、第2制限値Ib2は、第1制限値Ib1より大きい値に維持される。
【0043】
このように、第2制限値Ib2についてもバッテリ電圧VBに応じて可変に設定することにより、該第2制限値Ib2を、バッテリ電圧VBが変化しても再始動時のバッテリ電圧VBを許容レベル以上に保つことができる過不足のない値に設定できる。
【0044】
ただし、第1制限値Ib1同様、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第2制限値Ib2を固定値として設定してもよい。
【0045】
ステップS2では、電流センサ53で検出された実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下であるかを判定する。
【0046】
ステップS2で実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下と判定されたときは、ステップS3へ進み、モータの目標回転数及び実回転数(目標モータ電流及び実モータ電流)に基づいて、例えばPID(比例積分微分)制御によって通常の制御ゲイン(P分,I分,D分)を用いて操作量を演算する。
【0047】
次いで、ステップS4では、実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるかを判定する。
【0048】
ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下と判定されたときは、ステップS5へ進み、ステップS2で演算された操作量を最終の操作量として駆動回路82に出力してフィードバック制御を行う。
【0049】
これにより、適正な応答特性でモータの回転数が速やかに目標回転数(目標モータ電流)に収束され、電動オイルポンプ8から供給される作動油によって、前後進切換機構3の作動油圧が再始動用油圧以上に維持される。この結果、再始動時に前後進切換機構3の前進クラッチの締結ショックを十分に緩和しつつ、バッテリ電圧の低下も抑制されて再始動性が確保され、円滑な再発進を行える。
【0050】
また、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときは、ステップS6へ進み、ステップS3で演算した操作量が、前回演算した操作量より増加したかを判定する。
【0051】
そして、操作量が増加したと判定されたときは、ステップS7へ進んで、最終的な操作量を前回演算した操作量に維持する設定とする。ステップS6で操作量が増加していないと判定されたときは、ステップS8へ進み、今回演算した操作量を最終的な操作量に設定する。このようにして、操作量の増加を禁止する。ステップS7またはステップS8で設定された操作量は、ステップS5で出力される。
【0052】
このように、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときに操作量の増加を禁止することにより、電源電流Ibが増大しないように制限することができる。これにより、消費電力を最小限に抑制しつつ、モータを必要回転数(必要モータ電流)以上に上昇させて、再始動用油圧を確保することができる。
【0053】
図9は、第1制限値Ib1による制限の有無による作用の相違を示す。
【0054】
上述したように、ポンプの個体差により再始動用油圧を確保できるモータの必要回転数(必要モータ電流)にバラツキがあり、どのポンプでも、再始動用油圧を確保できるようにするため、モータの目標回転数(目標モータ電流)を最も必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの該最大の必要回転数(必要モータ電流)より高く設定している。
【0055】
また、再始動用油圧を確保できる消費電力は、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの方が、低いポンプに比較して、回転数(モータ電流)を大きくする必要がある分、増大する。
【0056】
一方、目標回転数(目標モータ電流)でモータを回転する場合で比較すると、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、必要回転数(必要モータ電流)から目標回転数(目標モータ電流)までの上昇分が大きいので再始動用油圧に対して油圧がより高く上昇する。すなわち、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、仕事量が増大することになるので消費電力が増大する。
【0057】
したがって、特に必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータを、電源電流の第1制限値Ib1による制限なく目標回転数(目標モータ電流)までフィードバック制御すると、図9に点線で示すように、実電源電流が第1制限値Ib1を超えて消費電力が大きく損なわれてしまう場合がある。
【0058】
これに対し、本実施形態では、同じく必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータに対し、電源電流Ibを第1制限値Ib1によって制限することにより、図9に実線で示すように、モータ回転数(モータ電流)は、目標回転数(目標モータ電流)より減少するが該ポンプの必要回転数(必要モータ電流)は超える。このため、再始動用油圧を確保できる一方、過剰な回転数上昇が抑制されて消費電力損失を抑制できる。
【0059】
このように、第1制限値Ib1による制限を行うことで、ポンプ個体差があっても、最低限の電力消費で必要回転数(必要モータ電流)以上として再始動用油圧を確保でき、締結ショックを十分に緩和できる。
【0060】
なお、電動オイルポンプからの作動油供給量を検出しつつ、ポンプ個体毎に、再始動用油圧相当の作動油供給量を目標値としてフィードバック制御すれば消費電力を最小に抑えられるが、作動油供給量の検出遅れ等に伴う応答遅れ,実施コスト等を考慮すると実現性に乏しい。この点、本実施形態では、電源電流Ibの制限値による制限を行うことで、消費電力を節減しつつ再始動用油圧を確保できる効果を簡易な制御で得ることができる。
【0061】
また、電源電流Ibが第1制限値Ib1近傍に維持されることで、バッテリ電圧の低下を抑制でき再始動性を確保できることは勿論である。
【0062】
一方、電動オイルポンプのモータ回転抵抗が恒常的又は一時的に増大する異常時には、上記操作量の増加を禁止する制御を行っても、さらに電流が増大して第2制限値Ib2を超えてしまうことがある。
【0063】
このような場合には、ステップS2で電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えていると判定されてステップS9へ進む。
【0064】
ステップS9では、電流超過量に応じて電源電流Ibを強制的に低減させるように以下のように操作量を演算する。
【0065】
まず、電源電流Ibの第2制限値Ib2に対する超過電流量ΔIbを次式(1)により演算する。
【0066】
ΔIb2(>0)=Ib−Ib2・・・(1)
次いで、電源電流Ibを低減するための操作量低減量を次式(2)により演算する。
【0067】
操作量低減量=ΔIb2×ゲイン(>0)・・・(2)
最後に、前回操作量を操作量低減量で補正して、今回の操作量を次式(3)により演算する。
【0068】
操作量=前回操作量−操作量低減量・・・(3)
ステップS9で演算した操作量は、ステップS5で出力される。
【0069】
このように、操作量を低減して電源電流Ibを低減する方向に制御することにより、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えないように制限することができ、これにより、バッテリ電圧VBの低下が抑制されて再始動性を確保することができる。
【0070】
なお、異物によって一時的に回転抵抗増大する異常の場合は、通常は、図10に示すように、異物がモータの回転部や摺動部から離脱すると、回転抵抗の低下により、その後の回転上昇によって必要回転数を超えて再始動用油圧を確保できる。
【0071】
また、恒常的にモータ回転抵抗が大きい異常時には、図10に示すように、電源電流Ibの立ち上がり速度が大きく、第1制限値Ib1を超え、さらに第2制限値Ib2も超えて制限を受けた後、第2制限値Ib2近傍に定常的に維持されることがある。
【0072】
この場合、異常の程度(回転抵抗レベル)が軽度であれば、必要回転数以上のモータ回転数が確保されて、再始動時の駆動力伝達ショックを十分に緩和できることもある。また、必要回転数に達しない場合でも、電源電流Ibが第2制限値Ib2近傍に維持されることで、再始動性を確保しつつ可能な限りモータ回転数を上昇させて、締結ショックを軽減することができる。
【0073】
また、ポンプ個体差が特に大きい場合は、電源電流Ibが第1制限値Ib1によって制限しても第2制限値Ib2まで到達してしまう可能性もある。この場合は、第1制限値Ib1より大きい第2制限値Ib2まで電源電流Ibが増大するから、当然に再始動用油圧は確保され、締結ショックの回避と再始動性確保を両立できる。
【0074】
ところで、モータ電流を目標値としてフィードバック制御する場合は、恒常的な回転抵抗増大の異常時には、モータ電流も電源電流と共に増大するので、目標モータ電流まで増大させたときのモータ回転数は、目標モータ回転数よりは低くなる。すなわち、モータ回転数を目標値としてフィードバック制御した場合に比較すると、回転数が増大しにくい傾向となるが、かかる恒常的な回転抵抗増大の異常時には、モータ回転数の確保より、電源電流の過剰な増大を抑制することを優先すべきである。そして、モータ電流を目標値としてフィードバック制御する場合でも第2制限値Ib2によって、該電流の過剰な増大を抑制できることに変わりないから、特に問題ない。
【0075】
次に第2実施形態について説明する。
【0076】
図4は、第2実施形態の制御のフローチャートである。
【0077】
ステップS1,S2については、第1実施形態と同様である。
【0078】
ステップS2からステップS4へ進んで、実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であると判定されたときは、ステップS3で通常の制御ゲインを用いてPID制御等により操作量を演算、設定した後、ステップS5で該操作量を出力する。
【0079】
これにより、第1実施形態同様に通常のフィードバック制御が行われ、最適な応答性で油圧を上昇させて制御量を目標値に収束させることができる。
【0080】
また、ステップS2で、実電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えていると判定された場合は、ステップS9で電流超過時用の操作量を演算して、該操作量をステップS5で出力する。これにより、一時的または恒常的に回転抵抗が増大する異常時に、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えないように維持する制御が第1実施形態と同様に行われ、再始動時におけるバッテリ電圧VBの低下を抑制して、良好な再始動性を確保することができる。
【0081】
一方、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときは、ステップS6へ進む。
【0082】
ステップS6では、モータ回転数、モータ電流等の目標値が制御量より大きいか、つまり制御量を増大して目標値に近づけるため電源電流Ibを増加させる方向の制御が行われているかを判定する。
【0083】
ステップS6で、目標値が制御量より大きい、つまり電源電流Ibを増加させる方向の制御が行われていると判定されたときは、ステップS7へ進み、該電源電流Ib増大方向の制御ゲインを減少補正する。
【0084】
次いでステップS3へ進んで、上記減少補正された制御ゲインを用いて電流増大方向の操作量を演算し、ステップS5で該操作量を出力する。
【0085】
ステップS6で目標値が制御量以下と判定されたとき、つまり電源電流Ibを増加させない方向の制御時は、そのままステップ3へ進み、通常の制御ゲインを用いて操作量を設定する。
【0086】
電流の増大を禁止すると消費電力は最小限に抑えられるが、応答速度が遅くなるため、エンジンのアイドルストップ制御を開始後、再始動用油圧を確保してアイドル運転を停止させるまでのアイドル運転時間が長引いて燃費が損なわれる。
【0087】
そこで、本実施形態では電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた場合に、電流の増大を禁止することなく、通常より増大速度を遅くしつつ増大を許容する構成とする。これにより、消費電力を節減しつつ、変速機構の油圧をすみやかに上昇させて短時間に再始動用油圧を確保できる。
【0088】
したがって、再始動時の締結ショック緩和効果を確保できると共に、エンジンのアイドル運転時間を短縮して燃費を低減できる。なお、再始動用油圧まで増大したことを検出してエンジン停止させる構成としてもよいが、予め電動オイルポンプの駆動を開始してから再始動用油圧が確保されるまでの時間を実験ないしシミュレータ等で求めておいて、該時間経過後にエンジン運転を停止させる簡易な制御でもよい。
【0089】
以下、第3〜第5実施形態は、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから電源電流Ibの制限を開始するものを示す。
【0090】
第3実施形態では、第1実施形態同様の制御において、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから操作量の増加を禁止する制御を開始する。
【0091】
図5は、第3実施形態の制御のフローチャートである。
【0092】
図3と同様ステップS1〜ステップS4へ進み、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときに、ステップS21に進み、この状態が所定時間経過したかを判定する。ここで、この所定時間は、正常なポンプを本フィードバック制御の応答時間(目標値をステップ変化させたとき制御量が目標値に到達するまでの時間)より少し大きい値に設定される。
【0093】
そして、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、そのままステップS5へ進み、ステップS3で演算した操作量が出力され、通常のフィードバック制御が継続して行われる。
【0094】
一方、ステップS5で、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定された後は、ステップS6以降へ進み、操作量の増加を禁止する制御が開始される。
【0095】
既述したように、電動オイルポンプ(モータ)の応答性を確保するためには、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えることをある程度許容することが望ましい。特にモータがONされた直後の立ち上がり時には、定常時を上回って電源電流Ibが増大するので、かかる電流の増大をできるだけ許容することにより応答性を向上させたい要求がある。
【0096】
一方、応答時間を超える所定時間を経過して定常状態となった後は、異常時を除き電源電流Ibを第1制限値Ib1以上に維持すれば、必要回転数以上が得られ再始動用油圧が確保される。
【0097】
したがって、所定時間経過後に電源電流Ibが第1制限値Ib1を超える場合は、操作量の増加を禁止して電源電流Ibが増加しないように制限し、余分な電力消費を抑える。
【0098】
かかる構成とすることにより、所定時間経過前には電源電流Ibの立ち上がりの増大を許容することで、電動オイルポンプの応答性を高めて、エンジンのアイドルストップ制御開始後、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができる。これにより、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0099】
一方、所定時間経過後に、電源電流Ibの増大を禁止して消費電力を節減できることは、第1実施形態と同様である。
【0100】
その他、電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるときに通常のフィードバック制御を行って最適な応答性で油圧を増大させることができることは、第1、第2実施形態同様である。
【0101】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行ってバッテリ電圧低下を抑制し、再始動性を確保することも、第1、第2実施形態同様である。
【0102】
本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図11に示す。
【0103】
図6は、第4実施形態の制御のフローチャートである。
【0104】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、通常のフィードバック制御が行われ、電源電流Ib増大の制限を行わないことは第3実施形態同様である(ステップS1〜S4→S21→S5)。
【0105】
したがって、第3実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0106】
一方、ステップS21で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定されたときは、ステップS22へ進み、電流超過量に応じて操作量を低減して電源電流Ibを強制的に低減させる制御を行う。該操作量低減制御は、ステップS9で行う演算と同様に以下のように行われる。
【0107】
電源電流Ibの第1制限値Ib1に対する超過電流量ΔIb1を次式(4)により演算する。
【0108】
ΔIb1(>0)=Ib−Ib1・・・(4)
次いで、電源電流Ibを低減するための操作量低減量を次式(5)により演算する。
【0109】
操作量低減量=ΔIb1×ゲイン(>0)・・・(5)
最後に、前回操作量を操作量低減量で補正して、今回の操作量を次式(6)により演算する。
【0110】
操作量=前回操作量−操作量低減量・・・(6)
ステップS22で演算した操作量はステップS5で出力される。
【0111】
本第4実施形態では、電源電流Ibが所定時間経過後も第1制限値Ib1を超えているときに、電源電流Ibを低減させて第1制限値Ib1まで強制的に低減することにより、消費電力節減機能をより高めることができる。
【0112】
その他、電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるときに通常のフィードバック制御を行って最適な応答性で油圧を増大させることができることは、第1〜第3実施形態同様である。
【0113】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第3実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0114】
本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図12に示す。
【0115】
第5実施形態では、第2実施形態同様の制御において、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから電流増大方向制御時に制御ゲインを減少する制御を開始する。
【0116】
図7は、第5実施形態の制御のフローチャートである。
【0117】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、通常のフィードバック制御が行われ、電源電流Ib増大の制限を行わないことは第3,第4実施形態同様である(ステップS1→S2→S4→S21→S3→S5)。
【0118】
これにより、第3,第4実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0119】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第4実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0120】
一方、ステップS21で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定されたときは、ステップS6以降へ進み、目標値が制御量を超える電流増大方向の制御を行うときのみ、制御ゲインを減少して操作量を演算、設定し、電流の増大を抑制する制御を開始する。
【0121】
以下、第5実施形態に特有の作用・効果を説明する。
【0122】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えてから所定時間経過後に、第1制限値Ib1による制限を開始することで、消費電力を節減することは、第3,第4実施形態同様である。しかし、所定時間内に一時的なモータ回転抵抗が増大する異常を生じたときは、モータ回転数の急激な低下により、第1制限値Ib1による制限が強すぎると回転数が回復するのに遅れを生じ、応答性が悪化することがある。
【0123】
本実施形態では、所定時間経過後に電源電流Ib増大方向の制御ゲインを減少しつつも電源電流Ibの増大は許容する弱い制限とすることにより、モータ回転抵抗の一時的な増大時にも応答性を確保することができる。また、制御ゲインを減少する制限を行うことで電源電流Ibの増大速度を遅らせて第2制限値Ib2を超えることを抑制でき、消費電力を節減してバッテリ電圧の低下を抑制しつつ、再始動性を確保することができる。
【0124】
モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図13に示す。
【0125】
次に、第6実施形態について説明する。
【0126】
本実施形態では、第1制限値Ib1と第2制限値Ib2との間に第3制限値Ib3を設置する。そして、第3〜第5実施形態同様、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている状態が所定時間を経過する前は、基本的には電流増大の制限を開始しないが、該所定期間中でも、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときには、電流増大の制限を行うようにしたものである。
【0127】
図8は、第6実施形態のフローチャートである。
【0128】
第3実施形態同様に、ステップS1〜ステップS4において、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている(ただし、第2制限値Ib2未満)と判定された後、ステップS31へ進んで、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えているかを判定する。
【0129】
第3制限値Ib3を超えていないと判定された場合は、ステップS21以降へ進んで、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている状態が所定時間を超える前は電源電流Ibの制限は行わず、所定時間を超えた後、操作量の増加を禁止する制御を開始する。
【0130】
これにより、第3〜第5実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0131】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第5実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0132】
一方、ステップS31で電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えていると判定された場合は、ステップS6を迂回してステップS7以降へ進み、直ちに操作量の増加を禁止する制御を実行する。
【0133】
一時的な回転抵抗増大によってモータ回転数が急激に低下すると、電源電流Ibが急激に上昇して第2制限値Ib2を大きく超えてしまう場合がある。この場合、第2制限値Ib2を超えてから操作量を低減する処理を行っても、応答遅れのため電源電流Ibを速やかに第2制限値Ib2以下に制限することが難しい。
【0134】
本実施形態は、かかる事態に対処するもので、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときには、操作量の増加を禁止して電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えることを抑止することにより、消費電力を極力節減することができる。
【0135】
モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図14に示す。
【0136】
なお、本実施形態では、所定時間経過後に電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときに、操作量の増加を禁止する例を示したが、一点鎖線で示すように、操作量を低減して電源電流Ibを第1制限値Ib1まで低減させる実施形態、あるいは、電源電流増大方向の制御ゲインを減少する実施形態としてもよい。
【0137】
また、所定時間内で電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときの電源電流Ibの制限についても同様であり、操作量の低減、電流増大方向の制御ゲインの減少に代えてもよい。
【0138】
以上示した実施形態は、変速機構として発進用クラッチ機構及び無段変速機を有したものに適用したが、有段の自動変速機に適用してもよい。この場合、自動変速機内の変速要素のクラッチ機構の締結油圧を電動オイルポンプから供給される作動油によって再始動用油圧に制御する際に、本発明を適用することによって、同様の効果が得られる。
【0139】
また、減速走行時にブレーキ操作を行って車速一定以下となったときにエンジンの運転を自動停止させ、ブレーキ操作を解除しアクセル操作を行ったときにエンジンを再始動するエンジン自動停止制御がある。かかる、エンジン自動停止制御中に電動オイルポンプによって変速機構の作動油圧を再始動用油圧以上に確保する制御としたものにも、本発明を適用することができ、同様の効果を得られる。
【0140】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0141】
(イ)
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1制限値は、前記駆動回路の電源電圧が高いときは低いときより小さい値に設定される。
【0142】
再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力は、前記駆動回路の電源電圧と電源電流との積で定まり、駆動回路の電源電圧が高い(低い)ときは、必要な電源電流が小さい(大きい)ので、これに伴って第1制限値も小さい値に設定することができる(大きい値に設定する必要がある)。
【0143】
したがって、上記(イ)の構成とすれば、第1制限値を過不足なく適切な値に設定できる。
【0144】
(ロ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1制限値は、前記駆動回路の電源電圧が高いときは低いときより高い値に設定される。
【0145】
電源電圧が高い(低い)ときは、同一の電源電流を通電消費したときの電圧低下が小さく(大きく)、それだけ許容電流、すなわち、第2制限値Ib2を大きく設定することができる(小さく設定する必要がある)。
【0146】
したがって、上記(ロ)の構成とすれば、第2制限値を過不足なく適切な値に設定できる。
【0147】
(ハ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流の増大を禁止する制御である。
【0148】
(ハ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えてからは、それ以上に電流が増大することが抑制されるので、その抑制分の消費電力を節減できる。
【0149】
(ニ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流を低減する制御である。
【0150】
(ニ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えると電源電流を低減する制御によって電源電流が第1制限値まで低減させることができ、消費電力をより節減できる。
【0151】
(ホ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流増大方向の制御ゲインを減少する制御である。
【0152】
(ホ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えると、電源電流増大方向の制御ゲインを減少して、電源電流の増大速度を減少することにより消費電力を節減できる一方、電流の増大をある程度許容することによって応答性を高めて再始動用油圧へ速やかに近づけることができる。したがって、エンジンを速やかに自動停止させてエンジン運転時間を短縮でき燃費を改善できる。
【0153】
(ヘ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ホ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第2電源電流制限手段により電源電流を前記第2制限値以下に維持する制御は、電源電流を低減する制御である。
【0154】
(ヘ)の構成とすれば、電源電流が第2制限値を超えたときには電源電流を低減する制御によって電源電流を第2制限値まで低減させることができ、駆動電圧低下を十分に抑制して再始動性を確保することができる。
【0155】
(ト)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ヘ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ回転数を目標値としてフィードバック制御される。
【0156】
(ト)の構成とすれば、電動オイルポンプからの供給油圧を再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を目標値として設定して、良好な制御を行うことができる。
【0157】
(チ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ヘ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ電流を目標値としてフィードバック制御される
(チ)の構成とすれば、電動オイルポンプからの供給油圧を再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を得られるモータ電流を目標値として設定して、良好な制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0158】
1…エンジン、3…前後進切換機構、4…無段変速機、5…CVTコントロールユニット、6…調圧機構、7…機械式オイルポンプ、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、53…電流センサ、81…モータ、82…駆動回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを一時的に運転停止させる自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構に再始動用の油圧を供給する電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一時停車時に、エンジンのアイドル運転を自動停止するアイドルストップ機構付車両においては、エンジン運転のアイドルストップ後、エンジンに接続された変速機構の作動油圧がエンジン駆動されるオイルポンプの回転低下に伴って低下する。
【0003】
このため、変速機構において無段変速機ではエンジンと変速機構入力軸とを接続する発進用のクラッチ機構、有段自動変速機では変速要素締結用のクラッチ機構が再始動時に締結されるときに、ショックを発生することがあった。
【0004】
そこで、特許文献1には、アイドルストップ機構付車両において、エンジンのアイドルストップ制御中(エンジン停止前)に、エンジンに接続された変速機構に電動オイルポンプから作動油圧を供給し、再始動時の変速機構におけるクラッチ機構締結時のショック(以下、締結ショックという)を緩和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−293649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種のエンジン再始動時用に変速機構に供給される作動油圧は、走行時に供給される締結用油圧より低めの、締結ショックを緩和できる程度の油圧(以下再始動用油圧という)でよい。
【0007】
しかしながら、変速機の作動油圧を再始動用油圧まで高めるため、電動オイルポンプの駆動モータを目標回転数まで増大すると、ポンプの個体差(性能バラツキ)等により、電源電流が過剰となることがある。
このように、過剰な電源電流が流れると、駆動電源であるバッテリの電圧低下が増大し、再始動性(クランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良、等)が悪化することがあった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題を解決するためなされたもので、エンジンの自動停止制御中に電動オイルポンプの電源電流を適正に制御することにより、バッテリ電圧の低下を抑制して再始動性を確保しつつ、可能な限り締結ショックを軽減できるようにした電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明は、
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、以下の各手段を含んで構成される。
【0010】
A.前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を検出する電源電流検出手段
B.前記再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力に基づいて前記電源電流の第1制限値を設定する第1制限値設定手段
C.前記電源電流の許容限界として前記第1制限値より大きい第2制限値を設定する第2制限値設定手段
D.前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第1制限値を超え前記第2制限値未満のとき、前記電源電流の増大を抑制するように制御する第1電源電流制限手段
E.前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第2制限値を超えたとき、前記電源電流を前記第2制限値以下に維持するように制御する第2電源電流制限手段
【発明の効果】
【0011】
駆動回路の電源電流値を、大きさの異なる第1制限値,第2制限値と比較しつつ段階的に制限することにより、電流の増大を適正に抑制して再始動性を良好に維持しつつ、可能な限り変速機構への供給油圧を再始動用油圧に近づけて再始動時の締結ショックを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図4】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図5】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図6】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図7】第5実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図8】第6実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図9】第1実施形態において、第1制限値による制限の有無による作用の相違を示すタイムチャート。
【図10】第1実施形態において、恒常的または及び一時的なモータ回転抵抗の増大により第2制限値による制限が行われているときの状態変化を示すタイムチャート。
【図11】第3実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図12】第4実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図13】モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、第5実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【図14】モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、第5実施形態による制御時の状態変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0015】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0016】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0017】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0018】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
【0019】
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0020】
一方、前記機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に電動オイルポンプ8を設ける。該電動オイルポンプは、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0021】
すなわち、一時的に停車してアイドルストップ制御が開始されると、電動オイルポンプ8が駆動されて変速機構20の各部へ作動油を供給する。これにより、前後進切換機構3の前進クラッチの油圧を再始動用油圧以上に維持させた後、エンジン停止を許可してアイドル運転を停止する。
【0022】
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0023】
図2は、上記再始動時用油圧制御の制御システムブロック図を示す。
【0024】
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、油水温度、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。
【0025】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるモータ81の実回転数又は実モータ電流、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0026】
そして、通常は、モータ81の実回転数(実モータ電流)を、目標回転数(目標モータ電流)に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。なお、モータ電流によってフィードバック制御する場合、モータ電流は、センサで検出してもよいが、電源電流とデューティ比とによって算出することもできる。
【0027】
しかし、通常のフィードバック制御を行うだけでは、上述したように電動オイルポンプ8のモータ回転抵抗が増大する異常が発生すると、モータ81の駆動回路82の電源電流が過剰となって、駆動源であるバッテリの電圧が大きく減少し、再始動性が悪化する。すなわち、スタータモータの電力不足によるクランキング回転数低下、点火エネルギ量低下、変速機内油圧制御ソレノイドの制御不良(電圧低下によるソレノイド自体の動作不良による)、等の影響がでる。
【0028】
また、電動オイルポンプ8の個体差(性能バラツキ)を考慮して、どの個体でも再始動用油圧を確保できるようにモータ回転数(又はモータ電流)の目標値を高めに設計した場合、特に、バラツキの少ない個体でモータ回転数が過剰に増大して電力を過剰に消費してしまうことがある。
【0029】
そこで、通常のフィードバック制御で設定される操作量を修正し、電源電流が過剰となることを抑制する制御を行う。この制御については、後に詳述する。
【0030】
駆動回路82は、モータ81に駆動信号を出力してモータ81を駆動し、これにより、電動オイルポンプ8が駆動して前記前後進切換機構3の前進クラッチ又は後退ブレーキ及びその他の変速機構20各部に油圧が供給される。この再始動用油圧は、変速機構20各部のクラッチ締結機構を完全に締結する油圧より低圧であり、アイドルストップからの再始動時に締結ショックを緩和するのに十分な大きさに設定すればよい。
【0031】
次に、上記過剰な電源電流を抑制する制御について説明する。
【0032】
第1実施形態に係る制御では、駆動回路82の電源電流Ibを制限するため、第1制限値Ib1と第2制限値Ib2を設定し、実電源電流Ibをこれら2つの電流制限値Ib1,Ib2と比較しつつ、電流の大きさに応じた制御を行う。
【0033】
そして電源電流Ibが第1制限値Ib1以下のときは、通常の制御ゲインを用いて算出される操作量をそのまま用いてモータ回転数(又はモータ電流)をフィードバック制御する。一方、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたとき(かつ第2制限値Ib2未満)は、操作量の増加を禁止するように修正した操作量を用いて制御し、さらに実電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときはときは、操作量を低減するように修正した操作量を用いて制御する。
【0034】
図3は、上記本第1実施形態の制御のフローチャートである。
【0035】
ステップS1では、駆動回路82の電源電圧(バッテリ電圧)VBを読み込み、該電圧VBに基づいて、前記第1制限値Ib1と第2制限値Ib2を設定する。
【0036】
ここで、第1制限値Ib1は、前記再始動用油圧の発生に必要なモータの駆動電力に基づいて設定される。
【0037】
より具体的には、再始動用油圧を得るのに必要なモータ回転数(又は該必要モータ回転数を得るのに必要なモータ電流)は、ポンプ個体差(ポンプ本体やモータの性能バラツキ)を有する。そこで、どの個体でも必要回転数(必要モータ電流)以上となって再始動用油圧を確保できる電力の下限値(下限電力)に、マージン(余裕分)を加えた要求電力が得られる電源電流値として第1制限値Ib1を設定する。
【0038】
本実施形態では、バッテリ電圧(駆動電圧)VBの変動に応じて第1制限値Ib1を以下のように可変に設定する。例えば要求電力が60Wの場合の第1制限値は、電圧VBが12Vのときには5A、電圧VBが10Vのときには6Aとして可変に設定される。
【0039】
このように、バッテリ電圧VBに応じて第1制限値Ib1を可変に設定することにより、バッテリ電圧VBが変化しても要求電力に見合った過不足のない第1制限値Ib1を設定できる。
【0040】
ただし、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第1制限値Ib1を固定値として設定してもよい。
【0041】
一方、第2制限値Ib2は、それ以上の電源電流Ibが流れると、バッテリ電圧の低下が大きく、再始動性を確保するのが難しくなる許容電流の限界値として設定される。
【0042】
ここで、バッテリ電圧VBが低いときは、高いときに比較してバッテリ充電量が小さくバッテリ電圧VBが低下しやすいので、バッテリ電圧VBが低いほど第2制限値Ib2を低い値とするように可変に設定する。ただし、第2制限値Ib2は、第1制限値Ib1より大きい値に維持される。
【0043】
このように、第2制限値Ib2についてもバッテリ電圧VBに応じて可変に設定することにより、該第2制限値Ib2を、バッテリ電圧VBが変化しても再始動時のバッテリ電圧VBを許容レベル以上に保つことができる過不足のない値に設定できる。
【0044】
ただし、第1制限値Ib1同様、簡易的には電動オイルポンプの駆動を許容できるバッテリ電圧VBの許容下限値に対応する第2制限値Ib2を固定値として設定してもよい。
【0045】
ステップS2では、電流センサ53で検出された実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下であるかを判定する。
【0046】
ステップS2で実電源電流Ibが第2制限値Ib2以下と判定されたときは、ステップS3へ進み、モータの目標回転数及び実回転数(目標モータ電流及び実モータ電流)に基づいて、例えばPID(比例積分微分)制御によって通常の制御ゲイン(P分,I分,D分)を用いて操作量を演算する。
【0047】
次いで、ステップS4では、実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるかを判定する。
【0048】
ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下と判定されたときは、ステップS5へ進み、ステップS2で演算された操作量を最終の操作量として駆動回路82に出力してフィードバック制御を行う。
【0049】
これにより、適正な応答特性でモータの回転数が速やかに目標回転数(目標モータ電流)に収束され、電動オイルポンプ8から供給される作動油によって、前後進切換機構3の作動油圧が再始動用油圧以上に維持される。この結果、再始動時に前後進切換機構3の前進クラッチの締結ショックを十分に緩和しつつ、バッテリ電圧の低下も抑制されて再始動性が確保され、円滑な再発進を行える。
【0050】
また、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときは、ステップS6へ進み、ステップS3で演算した操作量が、前回演算した操作量より増加したかを判定する。
【0051】
そして、操作量が増加したと判定されたときは、ステップS7へ進んで、最終的な操作量を前回演算した操作量に維持する設定とする。ステップS6で操作量が増加していないと判定されたときは、ステップS8へ進み、今回演算した操作量を最終的な操作量に設定する。このようにして、操作量の増加を禁止する。ステップS7またはステップS8で設定された操作量は、ステップS5で出力される。
【0052】
このように、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときに操作量の増加を禁止することにより、電源電流Ibが増大しないように制限することができる。これにより、消費電力を最小限に抑制しつつ、モータを必要回転数(必要モータ電流)以上に上昇させて、再始動用油圧を確保することができる。
【0053】
図9は、第1制限値Ib1による制限の有無による作用の相違を示す。
【0054】
上述したように、ポンプの個体差により再始動用油圧を確保できるモータの必要回転数(必要モータ電流)にバラツキがあり、どのポンプでも、再始動用油圧を確保できるようにするため、モータの目標回転数(目標モータ電流)を最も必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの該最大の必要回転数(必要モータ電流)より高く設定している。
【0055】
また、再始動用油圧を確保できる消費電力は、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプの方が、低いポンプに比較して、回転数(モータ電流)を大きくする必要がある分、増大する。
【0056】
一方、目標回転数(目標モータ電流)でモータを回転する場合で比較すると、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、必要回転数(必要モータ電流)から目標回転数(目標モータ電流)までの上昇分が大きいので再始動用油圧に対して油圧がより高く上昇する。すなわち、必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプの方が、必要回転数(必要モータ電流)が高いポンプより、仕事量が増大することになるので消費電力が増大する。
【0057】
したがって、特に必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータを、電源電流の第1制限値Ib1による制限なく目標回転数(目標モータ電流)までフィードバック制御すると、図9に点線で示すように、実電源電流が第1制限値Ib1を超えて消費電力が大きく損なわれてしまう場合がある。
【0058】
これに対し、本実施形態では、同じく必要回転数(必要モータ電流)が低いポンプのモータに対し、電源電流Ibを第1制限値Ib1によって制限することにより、図9に実線で示すように、モータ回転数(モータ電流)は、目標回転数(目標モータ電流)より減少するが該ポンプの必要回転数(必要モータ電流)は超える。このため、再始動用油圧を確保できる一方、過剰な回転数上昇が抑制されて消費電力損失を抑制できる。
【0059】
このように、第1制限値Ib1による制限を行うことで、ポンプ個体差があっても、最低限の電力消費で必要回転数(必要モータ電流)以上として再始動用油圧を確保でき、締結ショックを十分に緩和できる。
【0060】
なお、電動オイルポンプからの作動油供給量を検出しつつ、ポンプ個体毎に、再始動用油圧相当の作動油供給量を目標値としてフィードバック制御すれば消費電力を最小に抑えられるが、作動油供給量の検出遅れ等に伴う応答遅れ,実施コスト等を考慮すると実現性に乏しい。この点、本実施形態では、電源電流Ibの制限値による制限を行うことで、消費電力を節減しつつ再始動用油圧を確保できる効果を簡易な制御で得ることができる。
【0061】
また、電源電流Ibが第1制限値Ib1近傍に維持されることで、バッテリ電圧の低下を抑制でき再始動性を確保できることは勿論である。
【0062】
一方、電動オイルポンプのモータ回転抵抗が恒常的又は一時的に増大する異常時には、上記操作量の増加を禁止する制御を行っても、さらに電流が増大して第2制限値Ib2を超えてしまうことがある。
【0063】
このような場合には、ステップS2で電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えていると判定されてステップS9へ進む。
【0064】
ステップS9では、電流超過量に応じて電源電流Ibを強制的に低減させるように以下のように操作量を演算する。
【0065】
まず、電源電流Ibの第2制限値Ib2に対する超過電流量ΔIbを次式(1)により演算する。
【0066】
ΔIb2(>0)=Ib−Ib2・・・(1)
次いで、電源電流Ibを低減するための操作量低減量を次式(2)により演算する。
【0067】
操作量低減量=ΔIb2×ゲイン(>0)・・・(2)
最後に、前回操作量を操作量低減量で補正して、今回の操作量を次式(3)により演算する。
【0068】
操作量=前回操作量−操作量低減量・・・(3)
ステップS9で演算した操作量は、ステップS5で出力される。
【0069】
このように、操作量を低減して電源電流Ibを低減する方向に制御することにより、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えないように制限することができ、これにより、バッテリ電圧VBの低下が抑制されて再始動性を確保することができる。
【0070】
なお、異物によって一時的に回転抵抗増大する異常の場合は、通常は、図10に示すように、異物がモータの回転部や摺動部から離脱すると、回転抵抗の低下により、その後の回転上昇によって必要回転数を超えて再始動用油圧を確保できる。
【0071】
また、恒常的にモータ回転抵抗が大きい異常時には、図10に示すように、電源電流Ibの立ち上がり速度が大きく、第1制限値Ib1を超え、さらに第2制限値Ib2も超えて制限を受けた後、第2制限値Ib2近傍に定常的に維持されることがある。
【0072】
この場合、異常の程度(回転抵抗レベル)が軽度であれば、必要回転数以上のモータ回転数が確保されて、再始動時の駆動力伝達ショックを十分に緩和できることもある。また、必要回転数に達しない場合でも、電源電流Ibが第2制限値Ib2近傍に維持されることで、再始動性を確保しつつ可能な限りモータ回転数を上昇させて、締結ショックを軽減することができる。
【0073】
また、ポンプ個体差が特に大きい場合は、電源電流Ibが第1制限値Ib1によって制限しても第2制限値Ib2まで到達してしまう可能性もある。この場合は、第1制限値Ib1より大きい第2制限値Ib2まで電源電流Ibが増大するから、当然に再始動用油圧は確保され、締結ショックの回避と再始動性確保を両立できる。
【0074】
ところで、モータ電流を目標値としてフィードバック制御する場合は、恒常的な回転抵抗増大の異常時には、モータ電流も電源電流と共に増大するので、目標モータ電流まで増大させたときのモータ回転数は、目標モータ回転数よりは低くなる。すなわち、モータ回転数を目標値としてフィードバック制御した場合に比較すると、回転数が増大しにくい傾向となるが、かかる恒常的な回転抵抗増大の異常時には、モータ回転数の確保より、電源電流の過剰な増大を抑制することを優先すべきである。そして、モータ電流を目標値としてフィードバック制御する場合でも第2制限値Ib2によって、該電流の過剰な増大を抑制できることに変わりないから、特に問題ない。
【0075】
次に第2実施形態について説明する。
【0076】
図4は、第2実施形態の制御のフローチャートである。
【0077】
ステップS1,S2については、第1実施形態と同様である。
【0078】
ステップS2からステップS4へ進んで、実電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であると判定されたときは、ステップS3で通常の制御ゲインを用いてPID制御等により操作量を演算、設定した後、ステップS5で該操作量を出力する。
【0079】
これにより、第1実施形態同様に通常のフィードバック制御が行われ、最適な応答性で油圧を上昇させて制御量を目標値に収束させることができる。
【0080】
また、ステップS2で、実電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えていると判定された場合は、ステップS9で電流超過時用の操作量を演算して、該操作量をステップS5で出力する。これにより、一時的または恒常的に回転抵抗が増大する異常時に、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えないように維持する制御が第1実施形態と同様に行われ、再始動時におけるバッテリ電圧VBの低下を抑制して、良好な再始動性を確保することができる。
【0081】
一方、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときは、ステップS6へ進む。
【0082】
ステップS6では、モータ回転数、モータ電流等の目標値が制御量より大きいか、つまり制御量を増大して目標値に近づけるため電源電流Ibを増加させる方向の制御が行われているかを判定する。
【0083】
ステップS6で、目標値が制御量より大きい、つまり電源電流Ibを増加させる方向の制御が行われていると判定されたときは、ステップS7へ進み、該電源電流Ib増大方向の制御ゲインを減少補正する。
【0084】
次いでステップS3へ進んで、上記減少補正された制御ゲインを用いて電流増大方向の操作量を演算し、ステップS5で該操作量を出力する。
【0085】
ステップS6で目標値が制御量以下と判定されたとき、つまり電源電流Ibを増加させない方向の制御時は、そのままステップ3へ進み、通常の制御ゲインを用いて操作量を設定する。
【0086】
電流の増大を禁止すると消費電力は最小限に抑えられるが、応答速度が遅くなるため、エンジンのアイドルストップ制御を開始後、再始動用油圧を確保してアイドル運転を停止させるまでのアイドル運転時間が長引いて燃費が損なわれる。
【0087】
そこで、本実施形態では電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた場合に、電流の増大を禁止することなく、通常より増大速度を遅くしつつ増大を許容する構成とする。これにより、消費電力を節減しつつ、変速機構の油圧をすみやかに上昇させて短時間に再始動用油圧を確保できる。
【0088】
したがって、再始動時の締結ショック緩和効果を確保できると共に、エンジンのアイドル運転時間を短縮して燃費を低減できる。なお、再始動用油圧まで増大したことを検出してエンジン停止させる構成としてもよいが、予め電動オイルポンプの駆動を開始してから再始動用油圧が確保されるまでの時間を実験ないしシミュレータ等で求めておいて、該時間経過後にエンジン運転を停止させる簡易な制御でもよい。
【0089】
以下、第3〜第5実施形態は、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから電源電流Ibの制限を開始するものを示す。
【0090】
第3実施形態では、第1実施形態同様の制御において、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから操作量の増加を禁止する制御を開始する。
【0091】
図5は、第3実施形態の制御のフローチャートである。
【0092】
図3と同様ステップS1〜ステップS4へ進み、ステップS4で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えていると判定されたときに、ステップS21に進み、この状態が所定時間経過したかを判定する。ここで、この所定時間は、正常なポンプを本フィードバック制御の応答時間(目標値をステップ変化させたとき制御量が目標値に到達するまでの時間)より少し大きい値に設定される。
【0093】
そして、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、そのままステップS5へ進み、ステップS3で演算した操作量が出力され、通常のフィードバック制御が継続して行われる。
【0094】
一方、ステップS5で、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定された後は、ステップS6以降へ進み、操作量の増加を禁止する制御が開始される。
【0095】
既述したように、電動オイルポンプ(モータ)の応答性を確保するためには、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えることをある程度許容することが望ましい。特にモータがONされた直後の立ち上がり時には、定常時を上回って電源電流Ibが増大するので、かかる電流の増大をできるだけ許容することにより応答性を向上させたい要求がある。
【0096】
一方、応答時間を超える所定時間を経過して定常状態となった後は、異常時を除き電源電流Ibを第1制限値Ib1以上に維持すれば、必要回転数以上が得られ再始動用油圧が確保される。
【0097】
したがって、所定時間経過後に電源電流Ibが第1制限値Ib1を超える場合は、操作量の増加を禁止して電源電流Ibが増加しないように制限し、余分な電力消費を抑える。
【0098】
かかる構成とすることにより、所定時間経過前には電源電流Ibの立ち上がりの増大を許容することで、電動オイルポンプの応答性を高めて、エンジンのアイドルストップ制御開始後、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができる。これにより、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0099】
一方、所定時間経過後に、電源電流Ibの増大を禁止して消費電力を節減できることは、第1実施形態と同様である。
【0100】
その他、電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるときに通常のフィードバック制御を行って最適な応答性で油圧を増大させることができることは、第1、第2実施形態同様である。
【0101】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行ってバッテリ電圧低下を抑制し、再始動性を確保することも、第1、第2実施形態同様である。
【0102】
本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図11に示す。
【0103】
図6は、第4実施形態の制御のフローチャートである。
【0104】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、通常のフィードバック制御が行われ、電源電流Ib増大の制限を行わないことは第3実施形態同様である(ステップS1〜S4→S21→S5)。
【0105】
したがって、第3実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0106】
一方、ステップS21で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定されたときは、ステップS22へ進み、電流超過量に応じて操作量を低減して電源電流Ibを強制的に低減させる制御を行う。該操作量低減制御は、ステップS9で行う演算と同様に以下のように行われる。
【0107】
電源電流Ibの第1制限値Ib1に対する超過電流量ΔIb1を次式(4)により演算する。
【0108】
ΔIb1(>0)=Ib−Ib1・・・(4)
次いで、電源電流Ibを低減するための操作量低減量を次式(5)により演算する。
【0109】
操作量低減量=ΔIb1×ゲイン(>0)・・・(5)
最後に、前回操作量を操作量低減量で補正して、今回の操作量を次式(6)により演算する。
【0110】
操作量=前回操作量−操作量低減量・・・(6)
ステップS22で演算した操作量はステップS5で出力される。
【0111】
本第4実施形態では、電源電流Ibが所定時間経過後も第1制限値Ib1を超えているときに、電源電流Ibを低減させて第1制限値Ib1まで強制的に低減することにより、消費電力節減機能をより高めることができる。
【0112】
その他、電源電流Ibが第1制限値Ib1以下であるときに通常のフィードバック制御を行って最適な応答性で油圧を増大させることができることは、第1〜第3実施形態同様である。
【0113】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第3実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0114】
本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図12に示す。
【0115】
第5実施形態では、第2実施形態同様の制御において、実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過してから電流増大方向制御時に制御ゲインを減少する制御を開始する。
【0116】
図7は、第5実施形態の制御のフローチャートである。
【0117】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過する前は、通常のフィードバック制御が行われ、電源電流Ib増大の制限を行わないことは第3,第4実施形態同様である(ステップS1→S2→S4→S21→S3→S5)。
【0118】
これにより、第3,第4実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0119】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第4実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0120】
一方、ステップS21で実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えた状態が所定時間を経過したと判定されたときは、ステップS6以降へ進み、目標値が制御量を超える電流増大方向の制御を行うときのみ、制御ゲインを減少して操作量を演算、設定し、電流の増大を抑制する制御を開始する。
【0121】
以下、第5実施形態に特有の作用・効果を説明する。
【0122】
実電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えてから所定時間経過後に、第1制限値Ib1による制限を開始することで、消費電力を節減することは、第3,第4実施形態同様である。しかし、所定時間内に一時的なモータ回転抵抗が増大する異常を生じたときは、モータ回転数の急激な低下により、第1制限値Ib1による制限が強すぎると回転数が回復するのに遅れを生じ、応答性が悪化することがある。
【0123】
本実施形態では、所定時間経過後に電源電流Ib増大方向の制御ゲインを減少しつつも電源電流Ibの増大は許容する弱い制限とすることにより、モータ回転抵抗の一時的な増大時にも応答性を確保することができる。また、制御ゲインを減少する制限を行うことで電源電流Ibの増大速度を遅らせて第2制限値Ib2を超えることを抑制でき、消費電力を節減してバッテリ電圧の低下を抑制しつつ、再始動性を確保することができる。
【0124】
モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図13に示す。
【0125】
次に、第6実施形態について説明する。
【0126】
本実施形態では、第1制限値Ib1と第2制限値Ib2との間に第3制限値Ib3を設置する。そして、第3〜第5実施形態同様、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている状態が所定時間を経過する前は、基本的には電流増大の制限を開始しないが、該所定期間中でも、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときには、電流増大の制限を行うようにしたものである。
【0127】
図8は、第6実施形態のフローチャートである。
【0128】
第3実施形態同様に、ステップS1〜ステップS4において、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている(ただし、第2制限値Ib2未満)と判定された後、ステップS31へ進んで、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えているかを判定する。
【0129】
第3制限値Ib3を超えていないと判定された場合は、ステップS21以降へ進んで、電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えている状態が所定時間を超える前は電源電流Ibの制限は行わず、所定時間を超えた後、操作量の増加を禁止する制御を開始する。
【0130】
これにより、第3〜第5実施形態同様、可能な限り電動オイルポンプの応答性を高めて、変速機構の油圧を速やかに再始動用油圧まで上昇させることができ、再始動時の締結ショックを良好に軽減できると共に、エンジンのアイドル運転時間を十分短縮して燃費を改善できる。
【0131】
同じく、電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えたときに電源電流Ibを低減させる制御を行って再始動性を確保することも、第1〜第5実施形態同様に行われる(ステップS1→S2→S9→S5)。
【0132】
一方、ステップS31で電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えていると判定された場合は、ステップS6を迂回してステップS7以降へ進み、直ちに操作量の増加を禁止する制御を実行する。
【0133】
一時的な回転抵抗増大によってモータ回転数が急激に低下すると、電源電流Ibが急激に上昇して第2制限値Ib2を大きく超えてしまう場合がある。この場合、第2制限値Ib2を超えてから操作量を低減する処理を行っても、応答遅れのため電源電流Ibを速やかに第2制限値Ib2以下に制限することが難しい。
【0134】
本実施形態は、かかる事態に対処するもので、電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときには、操作量の増加を禁止して電源電流Ibが第2制限値Ib2を超えることを抑止することにより、消費電力を極力節減することができる。
【0135】
モータ回転抵抗の一時的な増大を生じた場合の、本実施形態による制御時の状態変化の様子を、図14に示す。
【0136】
なお、本実施形態では、所定時間経過後に電源電流Ibが第1制限値Ib1を超えたときに、操作量の増加を禁止する例を示したが、一点鎖線で示すように、操作量を低減して電源電流Ibを第1制限値Ib1まで低減させる実施形態、あるいは、電源電流増大方向の制御ゲインを減少する実施形態としてもよい。
【0137】
また、所定時間内で電源電流Ibが第3制限値Ib3を超えたときの電源電流Ibの制限についても同様であり、操作量の低減、電流増大方向の制御ゲインの減少に代えてもよい。
【0138】
以上示した実施形態は、変速機構として発進用クラッチ機構及び無段変速機を有したものに適用したが、有段の自動変速機に適用してもよい。この場合、自動変速機内の変速要素のクラッチ機構の締結油圧を電動オイルポンプから供給される作動油によって再始動用油圧に制御する際に、本発明を適用することによって、同様の効果が得られる。
【0139】
また、減速走行時にブレーキ操作を行って車速一定以下となったときにエンジンの運転を自動停止させ、ブレーキ操作を解除しアクセル操作を行ったときにエンジンを再始動するエンジン自動停止制御がある。かかる、エンジン自動停止制御中に電動オイルポンプによって変速機構の作動油圧を再始動用油圧以上に確保する制御としたものにも、本発明を適用することができ、同様の効果を得られる。
【0140】
更に、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0141】
(イ)
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1制限値は、前記駆動回路の電源電圧が高いときは低いときより小さい値に設定される。
【0142】
再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力は、前記駆動回路の電源電圧と電源電流との積で定まり、駆動回路の電源電圧が高い(低い)ときは、必要な電源電流が小さい(大きい)ので、これに伴って第1制限値も小さい値に設定することができる(大きい値に設定する必要がある)。
【0143】
したがって、上記(イ)の構成とすれば、第1制限値を過不足なく適切な値に設定できる。
【0144】
(ロ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1制限値は、前記駆動回路の電源電圧が高いときは低いときより高い値に設定される。
【0145】
電源電圧が高い(低い)ときは、同一の電源電流を通電消費したときの電圧低下が小さく(大きく)、それだけ許容電流、すなわち、第2制限値Ib2を大きく設定することができる(小さく設定する必要がある)。
【0146】
したがって、上記(ロ)の構成とすれば、第2制限値を過不足なく適切な値に設定できる。
【0147】
(ハ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流の増大を禁止する制御である。
【0148】
(ハ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えてからは、それ以上に電流が増大することが抑制されるので、その抑制分の消費電力を節減できる。
【0149】
(ニ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流を低減する制御である。
【0150】
(ニ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えると電源電流を低減する制御によって電源電流が第1制限値まで低減させることができ、消費電力をより節減できる。
【0151】
(ホ)
請求項1〜請求項3、又は(イ),(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第1電源電流制限手段による電源電流の増大を抑制する制御は、電源電流増大方向の制御ゲインを減少する制御である。
【0152】
(ホ)の構成とすれば、電源電流が第1制限値を超えると、電源電流増大方向の制御ゲインを減少して、電源電流の増大速度を減少することにより消費電力を節減できる一方、電流の増大をある程度許容することによって応答性を高めて再始動用油圧へ速やかに近づけることができる。したがって、エンジンを速やかに自動停止させてエンジン運転時間を短縮でき燃費を改善できる。
【0153】
(ヘ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ホ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記第2電源電流制限手段により電源電流を前記第2制限値以下に維持する制御は、電源電流を低減する制御である。
【0154】
(ヘ)の構成とすれば、電源電流が第2制限値を超えたときには電源電流を低減する制御によって電源電流を第2制限値まで低減させることができ、駆動電圧低下を十分に抑制して再始動性を確保することができる。
【0155】
(ト)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ヘ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ回転数を目標値としてフィードバック制御される。
【0156】
(ト)の構成とすれば、電動オイルポンプからの供給油圧を再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を目標値として設定して、良好な制御を行うことができる。
【0157】
(チ)
請求項1〜請求項3、又は(イ)〜(ヘ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置において、前記モータは、モータ電流を目標値としてフィードバック制御される
(チ)の構成とすれば、電動オイルポンプからの供給油圧を再始動用油圧以上に維持できるモータ回転数を得られるモータ電流を目標値として設定して、良好な制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0158】
1…エンジン、3…前後進切換機構、4…無段変速機、5…CVTコントロールユニット、6…調圧機構、7…機械式オイルポンプ、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、53…電流センサ、81…モータ、82…駆動回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を検出する電源電流検出手段と、
前記再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力に基づいて前記電源電流の第1制限値を設定する第1制限値設定手段と、
前記電源電流の許容限界として前記第1制限値より大きい第2制限値を設定する第2制限値設定手段と、
前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第1制限値を超え前記第2制限値未満のとき、前記電源電流の増大を抑制するように制御する第1電源電流制限手段と、
前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第2制限値を超えたとき、前記電源電流を前記第2制限値以下に維持するように制御する第2電源電流制限手段と、
を含んで構成される電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
第1電源電流制限手段は、前記電源電流の増大を抑制する制御を、前記電源電流値が前記第1制限値を超えた後、所定時間遅らせて開始する請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記第1制限値と前記第2制限値との中間の値として第3制限値を設定し、前記電源電流が該第3制限値を超えたときは、前記所定時間の経過前でも前記電源電流を制限する制御を行う第3電源電流制限手段を設けたことを特徴とする請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項1】
エンジンの自動運転停止制御中に、該エンジンに接続される変速機構の作動油圧を、電動オイルポンプからの供給油圧によって再始動用油圧以上に維持させる電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプを駆動するモータの駆動回路の電源電流を検出する電源電流検出手段と、
前記再始動用油圧の発生に必要な前記モータの駆動電力に基づいて前記電源電流の第1制限値を設定する第1制限値設定手段と、
前記電源電流の許容限界として前記第1制限値より大きい第2制限値を設定する第2制限値設定手段と、
前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第1制限値を超え前記第2制限値未満のとき、前記電源電流の増大を抑制するように制御する第1電源電流制限手段と、
前記電源電流検出手段によって検出された電源電流値が、前記第2制限値を超えたとき、前記電源電流を前記第2制限値以下に維持するように制御する第2電源電流制限手段と、
を含んで構成される電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
第1電源電流制限手段は、前記電源電流の増大を抑制する制御を、前記電源電流値が前記第1制限値を超えた後、所定時間遅らせて開始する請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記第1制限値と前記第2制限値との中間の値として第3制限値を設定し、前記電源電流が該第3制限値を超えたときは、前記所定時間の経過前でも前記電源電流を制限する制御を行う第3電源電流制限手段を設けたことを特徴とする請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−190900(P2011−190900A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58884(P2010−58884)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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