説明

電動パワーステアリング装置

【課題】システムの信頼性を維持すると共に、車両の走行状況に応じた適切な操舵フィーリングが得られる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】操舵力補助装置は、電動モータ12、モータ駆動回路26A,26B及び制御手段11を全て独立して2個有し、電動モータ12はステータのティースに同一極性でモータ特性の異なる巻線を2個有する。このモータ特性は、高速回転/低トルク特性及び低速回転/高トルク特性であり、車両の走行状態によって選択できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)は操舵補助力が車両の走行状態に応じたアシスト特性となるように電動モータを制御している。
【0003】
例えば、この電動モータを制御する方法として弱め界磁制御がある。これは、車速が所定値未満の場合のみ弱め界磁制御が行われ、車速が所定値以上の場合は弱め界磁制御が行われない(例えば、特許文献1)。これにより、車両の走行中の操舵に対してモータ特性は線形が維持され、指令値どおりのモータ出力が得られる。このため、走行中の操舵フィーリングは向上する。一方、車両の停車時や低速走行時には弱め界磁制御が働き、必要なトルクが得られるので、適切なアシスト力を確保することができる。
【0004】
また、出力特性の異なる2つの電動モータを車両のステアリングホイールから転舵輪に至るステアリング系の異なる部位に配置し、それぞれ電動モータを車両の走行状態に応じて個別に制御することにより、例えば、高速走行時には出力の小さい電動モータのみで操舵補助し、比較的低速での走行時には、出力の大きい電動モータのみで操舵補助する(例えば、特許文献2)。これにより、車両の走行状態に応じて操舵補助力を簡単に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−068769号公報
【特許文献2】特開2005−247214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来例のように、一つの電動モータの出力特性を車両の走行状態により、頻繁に変化させた場合、急峻なトルク変化によるモータ発熱や振動により部品の劣化を招き、システムの信頼性の低下を招く虞もあり、場合によっては、操舵フィーリングを低下させることも考えられる。また、一つの電動モータで制御するため、電力供給線の断線や駆動回路の接点故障等によって電動モータの何れかの相(U、V、Wの何れか)に通電不良が生じた場合に、直ちにシステムを停止しなければならないという問題がある。
【0007】
また、出力特性の異なる2つの電動モータを車両のステアリングホイールから転舵輪に至るステアリング系の異なる部位に配置した場合、2つの電動モータの取り付けられている部位が異なるため、2つの電動モータの切り替え時に操舵フィーリングに違和感を生じる虞がある。その他に、2つの電動モータを取り付けるスペースが必要になり、搭載の自由度が少なくなるという問題がある。
以上の点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、システムの信頼性を維持すると共に、車両の走行状況に応じた適切な操舵フィーリングが得られる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、前記アシスト力を発生する電動モータと、前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、前記モータ駆動回路を制御する制御手段とを備えるとともに、前記電動モータはマグネットを有するロータと、巻線を巻回すティースを有するステータとを備え、前記操舵力補助装置は、前記電動モータ、前記モータ駆動回路及び前記制御手段を全て独立して2個有し、前記電動モータは前記ステータに同一極性でモータ特性の異なる巻線を2個有すること、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、電動モータのステータに設けた同一極性でモータ特性の異なる2個の巻線のそれぞれを、2個の独立したモータ駆動回路及び制御手段により制御することができる。
その結果、システムの信頼性が維持でき、車両の走行状況に応じた適切な操舵フィーリングが得られる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記モータ特性は、高速回転/低トルク特性及び低速回転/高トルク特性であること、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、モータ特性を高速回転/低トルク特性または、低速回転/高トルク特性にできる。
その結果、車両の走行状況に応じたモータ特性で制御できるので、適切な操舵フィーリングが得られる。即ち、車速が中速または高速時で、大きなモータ回転数が必要な場合(例えば緊急操舵時)には高速回転/低トルク特性で制御し、一方、車速が低速または停止時で、大きな出力トルクが必要な場合(例えば据え切り時)には低速回転/高トルク特性により制御できる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記電動モータは、前記ステータのティースに低速回転/高トルク特性の巻線を巻回すとともに、前記電動モータのロータと、前記低速回転/高トルク特性の巻線との間の前記ステータのティースに、高速回転/低トルク特性の巻線を巻回したこと、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、ティースの剛性が高い反ロータ側の箇所に低速回転/高トルク特性の巻線を巻回するので、低速回転/高トルク特性で、モータコイルに大きな出力トルクを発生してもモータから発生する音、振動を抑制できる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記制御手段は、前記電動モータの一方のみを駆動して
いる場合には、他方の前記電動モータの三相を相開放すること、を要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、三相を相開放されたモータコイルには回生電流が流れないので、
回生ブレーキが働かず、回生ブレーキによる操舵フィーリングの低下が防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、システムの信頼性を維持すると共に、車両の走行状況に応じた適切な操舵フィーリングが得られる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】モータの概略構成図。
【図3】システム特性図。
【図4】EPSの電気的構成を示すブロック図。
【図5】動力線閉開放部の構成図。
【図6】CPUの機能構成を示すブロック図。
【図7】第1系統システム異常判定部の構成図。
【図8】第2系統システム異常判定部の構成図。
【図9】第1系統システムの通電不良相検出の処理手順を示すフローチャート図。
【図10】第2系統システムの通電不良相検出の処理手順を示すフローチャート図。
【図11】第1、2系統システム特性制御モード判定の処理手順を示すフローチャート図。
【図12】第1、2系統動力線閉開放部の処理手順を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更される。
【0020】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0021】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ12は、減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結されている。EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速機構13により減速してコラムシャフト3aに伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
【0022】
ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15、及びモータ回転角センサ33が接続されている。ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V、及びモータ回転角θを検出する。例えば、本実施形態のトルクセンサ14は、一対のレゾルバが図示しないトーションバーの両端に設けられたツインレゾルバ型のトルクセンサである。また、ECU11は、これらの検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、モータ12への駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ10の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0023】
次に、本実施形態のEPS1における電気的(モータ、動力系)構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、独立した二系統の第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bを同一のステータ22に巻回することにより形成されている。具体的には、第1系統モータコイル21A(21ua、21va、21wa)及び第2系統モータコイル21B(21ub、21vb、21wb)は、ステータ22の各ティース23(23u,23v,23w)に対して、それぞれ、その対応する相(U,V,W)毎に巻回されている。そして、これらの各ティース23(23u,23v,23w)の径方向内側には、回転自在に支承されたロータ24が設けられている。
【0024】
即ち、本実施形態のモータ12は、二系統の第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに共通のステータ22及びロータ24を有しており、ロータ24は、上記のように各ティース23(23u,23v,23w)に巻回された第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bが発生する起磁力に基づいて回転する。そして、本実施形態のECU11は、これらの第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。
【0025】
第1系統モータコイル21Aと制御信号出力部31(後述する)は、図3(A)で示す第1系統システム特性を生成する。該第1系統システム特性は、横軸をモータトルク、縦軸をモータ回転数で表した場合、図示したような低回転/高トルク型となる。これにより、低回転/高トルク型のモータ12として機能させることができる。
また、第2系統モータコイル21Bと制御信号出力部31(後述する)は、図3(B)で示す第2系統システム特性を生成する。該第2系統システム特性は、同じく横軸をモータトルク、縦軸をモータ回転数で表した場合、図示したような高回転/低トルク型となる。これにより、高回転/低トルク型のモータ12として機能させることができる。
【0026】
なお、この第1系統システム特性と第2系統システム特性との関係は、第1系統システム特性の最大出力トルクをT1、最大モータ回転数をN1、第2系統システム特性の最大出力トルクをT2、最大モータ回転数をN2とした場合、T1≧T2及びNI≦N2の関係で表すことができる。
そして、第1系統システム特性は車速が低速または停止(例えば据え切り)時で、大きな出力トルクが必要な場合に有効であり、第2系統システム特性は車速が中速または高速時で、大きなモータ回転数が必要な場合(例えば緊急操舵)時に有効である。
【0027】
また、図2に示すように、高トルクを出力する第1系統モータコイル21Aは、各ティース23(23u,23v,23w)の反ロータ24側に巻回されている。
これは、各ティース23(23u,23v,23w)のロータ24側の剛性よりも、反ロータ24側の剛性の方が高いので、第1系統モータコイル21Aが大きな出力トルクを発生してもティースの振動を抑制でき、またモータの発生する音、振動も抑制できるからである。
【0028】
なお、大きな出力トルクを発生するためには、太いモータコイルが必要であるが、第1系統モータコイル21Aを各ティース23(23u,23v,23w)の反ロータ24側に巻回するので組み立て時の作業性も向上できる。
【0029】
次に、本実施形態のECU11は、図4に示すように、上記第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに対応して独立に設けられた第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bとを有している。また、これらの第1系統モータ駆動回路26A、第2系統モータ駆動回路26Bに対して、それぞれ独立に、第1系統制御信号Smc_a, 第2系統制御信号Smc_bを出力する第1プリドライブ回路47とを備えている。
【0030】
詳述すると、第1系統モータ駆動回路26Aは、第1系統動力線28A(28ua,28va,28wa)と、第1系統動力線閉開放部(40,41,42)及び第1系統動力線28AA(28uaa,28vaa,28waa)とを介して第1系統モータコイル21Aに接続されている。
また、第2系統モータ駆動回路26Bは、第2系統動力線28B(28ub,28vb,28wb)と、第2系統動力線閉開放部(43,44,45)及び第2系統動力線28BB(28ubb,28vbb,28wbb)とを介してを介して第2系統モータコイル21Bに接続されている。
【0031】
次に、上記第1系統動力線閉開放部(40,41,42)及び、第2系統動力線閉開放部(43,44,45)について説明する。第1系統動力線閉開放部(40,41,42)は、第1系統動力線28A(28ua,28va,28wa)の三相の各相にそれぞれ接続されている。また、第2系統動力線閉開放部(43,44,45)は、第2系統動力線28B(28ub,28vb,28wb)の三相の各相にそれぞれ接続されている。
【0032】
詳述すると、上記第1系統動力線閉開放部40は、図5に示すように、半導体スイッチング素子であるMOS−FETを2個直列に接続して構成される。
一方のMOS−FETを第1スイッチSW1、他方のMOS−FETを第2スイッチSW2とすると、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2とは、ソース-ドレイン間が第1系統動力線28A(28ua)に直列に設けられ、第2プリドライブ回路48(図4参照)の第1系統動力線閉開放出力信号PWM2_aが上記第1スイッチSW1と第2スイッチSW2のゲートに接続されている。そして、残りの第1系統動力線閉開放部41,42も同様な構成となっている。
【0033】
また、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2とは、それぞれの寄生ダイオードの向きが互いに反対になるように直列に接続されている。このため、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2がオープンとなっても、モータ12への電流の流入も流出も防止できる。
【0034】
次に、上記第2系統動力線閉開放部43は、上記第1系統動力線閉開放部40と同じく図5に示すように、半導体スイッチング素子であるMOS−FETを2個直列に接続して構成される。
一方のMOS−FETを第1スイッチSW1、他方のMOS−FETを第2スイッチSW2とすると、第1スイッチSW1と第2スイッチSW2とは、ソース-ドレイン間が第1系統動力線28B(28ub)に直列に設けられ、第2プリドライブ回路48(図4参照)の第2系統動力線閉開放出力信号PWM2_bが上記第1スイッチSW1と第2スイッチSW2のゲートに接続されている。そして、残りの第2系統動力線閉開放部44,45も同様な構成となっている。
【0035】
CPU27は、上記第2プリドライブ回路48を介して、第1系統動力線閉開放部40、41、42の第1スイッチSW1と第2スイッチSW2のゲートに第1系統動力線閉開放出力信号PWM2_aを、第2系統動力線閉開放部43、44、45の第1スイッチSW1と第2スイッチSW2のゲートに第2系統動力線閉開放出力信号PWM2_bを出力する。第1スイッチSW1と第2スイッチSW2は、第1系統動力線閉開放出力信号PWM2_a及び第2系統動力線閉開放出力信号PWM2_bにおけるオン信号期間中においては、オン状態(ソース-ドレイン間が導通状態)となり、オフ信号期間中においては、オフ状態(ソース-ドレイン間が遮断状態)となる。
【0036】
本実施形態では、図3(A)で示す第1系統システム特性(低回転/高トルク型)を生成する場合には、第1系統動力線閉開放部(40,41,42)を全てオン/オフ制御し、第2系統動力線閉開放部(43,44,45)を全てオフ制御とする。こうすることによって、三相を相開放された第2系統モータコイル21Bには回生電流が流れないので、回生ブレーキが働かず、回生ブレーキによる操舵フィーリングの低下が防止できる。
【0037】
また、図3(B)で示す第2系統システム特性(高回転/低トルク型)を生成する場合には、第2系統動力線閉開放部(43,44,45)を全てオン/オフ制御し、第1系統動力線閉開放部(40,41,42)を全てオフ制御とする。こうすることによって、三相を相開放された第1系統モータコイル21Aには回生電流が流れないので、回生ブレーキが働かず、回生ブレーキによる操舵フィーリングの低下が防止できる。
【0038】
尚、本実施形態では、第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bには、直列接続されたスイッチング素子対を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータが採用されており、CPU27から第1プリドライブ回路47を介して出力される第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bは、その各相アームのオンduty比を規定する。
【0039】
そして、本実施形態のECU11は、これらの第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bに基づき第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bが出力する駆動電力を、それぞれ独立に、その対応する第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに供給する構成となっている。
【0040】
次に、本実施形態のEPS1における電気的(制御系)構成について説明する。
図6に示すように、本実施形態のCPU27は、目標アシスト力に対応するモータトルクを発生させるべく、モータ12に対する電力供給の基礎指令Iq*を生成するアシスト制御部30と、その基礎指令Iq*に基づいて、上記二系統の第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bを第1プリドライブ回路47を介して出力する制御信号出力部31とを備えている。
【0041】
更に、図6に示すように、CPU27には、EPS1に何らかの異常が生じた場合に、該異常の態様を特定するための異常検知部50(異常検出手段)を備えている。
【0042】
そして、異常検知部50からの出力である第1系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_a(後述する)及び第2系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_b(後述する)と、車速Vから第1系統システム特性か、第2系統システム特性かを判定する制御系統判定部53とを備えている。
【0043】
詳述すると、本実施形態では、指令手段としてのアシスト制御部30は、上記トルクセンサ14により検出される操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づいて、上記目標アシスト力に対応した電流指令値を演算する。具体的には、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きなアシスト力が発生するような電流指令値を演算する。そして、アシスト制御部30は、この操舵トルクτ及び車速Vに基づく電流指令値を、そのモータ12に対する電力供給の基礎指令Iq*として制御信号出力部31に出力する。
【0044】
一方、制御信号出力手段を構成する制御信号出力部31には、第1系統動力線28Aと、第2系統動力線28Bに通電される第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bと、モータ12の回転角θ及び制御系統判定部53から出力される第1系統システム状態フラグFLG1(後述する)及び第2系統システム状態フラグFLG2(後述する)が入力される。
【0045】
尚、第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bは、それぞれ、第1系統動力線28Aと、第2系統動力線28Bに設けられた第1系統電流センサ32A(32ua、32va、32wa)、第2系統電流センサ32B(32ub、32vb、32wb)により独立に検出される一方、モータ12の回転角θは、共通の回転角センサ33により検出される。
【0046】
そして、制御信号出力部31は、これらの各状態量及び上記アシスト制御部30が出力する基礎指令Iq*に基づき電流フィードバック制御を実行することにより、第1プリドライブ回路47を介して、上記第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bに対応した第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bを出力する。
【0047】
さらに詳述すると、制御信号出力部31は、第1系統モータ駆動回路26A、第1系統モータコイル21A及び第1系統動力線28Aに対応する第1系統電流制御部35A及び第1系統PWM変換部36Aと、第2系統モータ駆動回路26B、第2系統モータコイル21B及び第2系統動力線28Bに対応する第2系統電流制御部35B及び第2系統PWM変換部36Bとを備えている。
【0048】
また、制御信号出力部31は、上記アシスト制御部30から入力された基礎指令Iq*を、第1系統電流制御部35Aと、第2系統電流制御部35Bに入力する。そして、第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a、モータ12の回転角θ及び制御系統判定部53からの第1系統システム状態フラグFLG1を第1系統電流制御部35Aに、第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_b、モータ12の回転角θ及び制御系統判定部53からの第2系統システム状態フラグFLG2を第2系統電流制御部35Bに入力する。そして、第1系統電流制御部35Aと、第2系統電流制御部35Bは入力された状態量に基づいて、それぞれ、独立に電流フィードバック制御を実行する。
【0049】
具体的には、第1系統電流制御部35Aと、第2系統電流制御部35Bは、制御系統判定部53から入力された第1系統システム状態フラグFLG1または、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」の場合(アシスト制御実行)には、その対応する第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bを、モータ12の回転角θに従うd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換する(d/q変換)。
【0050】
また、上記q軸電流指令値Iq*は、q軸軸電流指令値として入力される(d軸電流指令値は「0」)。そして、第1系統電流制御部35Aと、第2系統電流制御部35Bは、そのd/q座標系における電流フィードバック制御の実行により得られるd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を、三相の交流座標上に写像することにより(d/q逆変換)、それぞれ、第1系統各相電圧指令値Vu*_a、Vv_a*、Vw_a*及び第2系統各相電圧指令値Vu_b*、Vv_b*、Vw_b*を演算する。
【0051】
そして、第1系統PWM変換部36Aと、第2系統PWM変換部36Bは、それぞれ、第1系統電流制御部35Aと、第2系統電流制御部35Bから入力される第1系統各相電圧指令値Vu*_a、Vv_a*、Vw_a*及び第2系統各相電圧指令値Vu_b*、Vv_b*、Vw_b*に基づいて、第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bに対する第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bを第1プリドライブ回路47を介して、出力する構成になっている。但し、上記第1系統システム状態フラグFLG1または/及び第2系統システム状態フラグFLG2が「0」の場合には、上記アシスト制御を実行しない。
【0052】
次に、上記異常検知部50の構成を、図7〜図10を用いて詳細に説明する。
まず、異常検知部50には、モータ12の第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_b、及び回転角速度ω、並びに第1系統duty指令値αx_a,第2系統duty指令値αx_b,等が入力される。
【0053】
そして、異常検知部50は、これら各状態量に基づいて、モータ12への電力供給系統における異常、具体的には、過電流の発生、或いは動力線(モータコイルを含む)の断線やモータ駆動回路の接点不良等に起因する通電不良相の発生等を検出する。
【0054】
異常検知部50は、図7に示す第1系統異常判定部50_aと、図8に示す第2系統異常判定部50_bとで構成されている。
第1系統異常判定部50_aは、第1系統のX_a相(X=U,V,W)の通電異常を判定するX_a相通電異常判定部51_aと、X_a相通電異常判定部51_aで判定したX_a相通電正常・異常判定結果を記憶するX_a相通電正常・異常判定記憶部52_aで構成されている。
【0055】
例えば、X_a相通電正常・異常判定記憶部52_aはメモリアドレス100a番地に第1系統U相通電正常・異常判定状態フラグStmu_aの内容が記憶されている(状態フラグStmu_aが「0」の場合は、第1系統U相通電が正常状態を、状態フラグStmu_aが「1」の場合は、第1系統U相通電が異常状態をあらわす)。
【0056】
同様に、メモリアドレス101a番地に第1系統V相通電正常・異常判定状態フラグStmv_aの内容が記憶され、メモリアドレス102a番地に第1系統W相通電正常・異常判定状態フラグStmw_aの内容が記憶されている。そして、X_a相通電正常・異常判定記憶部52_aで記憶したStmx_aの状態を制御系統判定部53へ出力する。
【0057】
更に、第2系統異常判定部50_bは、第2系統のX_b相(X=U,V,W)の通電異常を判定するX_b相通電異常判定部51_bと、X_b相通電異常判定部51_bで判定したX_b相通電正常・異常判定結果を記憶するX_b相通電正常・異常判定記憶部52_bで構成されている。
【0058】
そして、X_b相通電正常・異常判定記憶部52_bはメモリアドレス100b番地に第2系統U相通電正常・異常判定状態フラグStmu_bの内容が記憶されている(状態フラグStmu_bが「0」の場合は、第2系統U相通電が正常状態を、状態フラグStmu_bが「1」の場合は、第2系統U相通電が異常状態をあらわす)。
【0059】
同様に、メモリアドレス101b番地に第2系統V相通電正常・異常判定状態フラグStmv_bの内容が記憶され、メモリアドレス102b番地に第2系統W相通電正常・異常判定状態フラグStmw_bの内容が記憶されている。そして、X_b相通電正常・異常判定記憶部52_bで記憶したStmx_bの状態を制御系統判定部53へ出力する。
【0060】
次に、第1系統異常判定部50_aのX_a相通電異常判定部51_aで実施されるX_a通電不良判定方法を図9を用いて説明する。
例えば、通電不良相発生の検出は、X_a相の相電流値Ix_aが所定電流値Ith以下(|Ix_a|≦Ith)、且つ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αx_aが所定電流値Ith及び判定対象範囲を規定する所定回転角速度値ω0に対応する所定範囲(αLO≦αx_a≦αHI)にない状態が継続するか否かにより行なわれる。
【0061】
尚、この場合において、上記X_a相電流値Ix_aの閾値となる所定電流値Ithは「0」近傍の値に設定され、回転角速度ωの閾値となる所定回転角速度値ω0は、モータの基底速度(最高回転数)に相当する値に設定される。そして、duty指令値αx_aに関するduty閾値(αLO、αHI)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αx_aが取り得る下限値よりも小さな値、及び上限値よりも大きな値に設定されている。
【0062】
即ち、図9のフローチャートに示すように、X_a相通電異常判定部51_aは、検出されるX_a相電流値Ix_a(絶対値)が所定電流値Ith以下であるか否かを判定し(ステップ101)、所定電流値Ith以下である場合(|Ix_a|≦Ith、ステップ101:YES)には、続いて回転角速度ω(絶対値)が所定回転角速度値ω0以下であるか否かを判定する(ステップ102)。
【0063】
そして、回転角速度ωが所定回転角速度値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップ102)には、duty指令値αx_aが上記の所定範囲(αLO≦αx_a≦αHI)内にあるか否かを判定し(ステップ103)、所定範囲内にない場合(ステップ103:NO)には、該X相に通電不良が生じているものと判定し、X_a相通電正常・異常判定記憶部52_aに「1」を書き込む(X_a相通電不良、Stmx_a=1、ステップ104)。
【0064】
そして、X_a相通電異常判定部51_aは、相電流値Ix_aが所定電流値Ithよりも大きい場合(|Ix_a|>Ith、ステップ101:NO)、回転角速度ωが所定回転角速度値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップ102:NO)、又はduty指令値αx_aが上記所定範囲内にある場合(αLO≦αx_a≦αHI、ステップ103:YES)には、X_a相は正常であると判定し、X_a相通電正常・異常判定記憶部52_aに「0」を書き込む(X_a相正常、Stmx_a=0、ステップ105)。
【0065】
つまり、X_a相(U,V,W相の何れか)に通電不良(断線)が生じた場合、当該相のX_a相電流値Ix_aは「0」となる。ここで、X_a相の相電流値Ix_aが「0」又は「0に近い値」となる場合には、このような断線発生以外にも以下の二つのケースがあり得る。
【0066】
・モータの回転角速度ωが基底速度(最高回転数)に達した場合
・電流指令自体が略「0」である場合
この点を踏まえ、本実施形態では、先ず、判定対象であるX_a相の相電流値Ix_aを所定電流値Ithと比較することにより、当該相電流値Ix_aが「0」であるか否かを判定する。そして、断線時以外に相電流値Ix_aが「0」若しくは「0に近い値」をとる上記二つのケースに該当するか否かを判定し、当該二つのケースに該当しない場合には、X_a相に断線が発生したものと判断する。
【0067】
即ち、相電流値Ix_aが「0」近傍の所定電流値Ith以下となるほどの回転角速度ω(基底速度)ではないにも関わらず、極端なduty指令値αx_aが出力されている場合には、当該X_a相に通電不良が生じているものと判定することができる。そして、本実施形態では、第1系統異常判定部50_aが、当該X_a相の各相について、上記判定を実行することにより、通電不良が発生した相を特定する構成となっている。
【0068】
尚、説明の便宜のため図9のフローチャートでは省略したが、上記判定は、電源電圧がモータ12を駆動するために必要な規定電圧以上である場合を前提として行なわれる。そして、最終的な異常検出の判定は、所定ステップ104において通電不良が生じているものと判定される状態が所定時間以上継続したか否かにより行なわれる。
【0069】
次に、第2系統異常判定部50_bのX_b相通電異常判定部51_bで実施されるX_b通電不良判定方法を図10を用いて説明する。
例えば、通電不良相発生の検出は、X_b相の相電流値Ix_bが所定電流値Ith以下(|Ix_b|≦Ith)、且つ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αx_bが所定電流値Ith及び判定対象範囲を規定する所定回転角速度値ω0に対応する所定範囲(αLO≦αx_b≦αHI)にない状態が継続するか否かにより行なわれる。
【0070】
尚、この場合において、上記X_b相電流値Ix_bの閾値となる所定電流値Ithは「0」近傍の値に設定され、回転角速度ωの閾値となる所定回転角速度値ω0は、モータの基底速度(最高回転数)に相当する値に設定される。そして、duty指令値αx_bに関するduty閾値(αLO、αHI)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αx_bが取り得る下限値よりも小さな値、及び上限値よりも大きな値に設定されている。
【0071】
即ち、図10のフローチャートに示すように、X_b相通電異常判定部51_bは、検出されるX_b相電流値Ix_b(絶対値)が所定電流値Ith以下であるか否かを判定し(ステップ201)、所定電流値Ith以下である場合(|Ix_b|≦Ith、ステップ201:YES)には、続いて回転角速度ω(絶対値)が所定回転角速度値ω0以下であるか否かを判定する(ステップ202)。
【0072】
そして、回転角速度ωが所定回転角速度値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップ202)には、duty指令値αx_bが上記の所定範囲(αLO≦αx_b≦αHI)内にあるか否かを判定し(ステップ203)、所定範囲内にない場合(ステップ203:NO)には、該X相に通電不良が生じているものと判定し、X_b相通電正常・異常判定記憶部52_aに「1」を書き込む(X_b相通電不良、Stmx_b=1、ステップ204)。
【0073】
そして、X_b相通電異常判定部51_bは、相電流値Ix_bが所定電流値Ithよりも大きい場合(|Ix_b|>Ith、ステップ201:NO)、回転角速度ωが所定回転角速度値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップ202:NO)、又はduty指令値αx_bが上記所定範囲内にある場合(αLO≦αx_b≦αHI、ステップ203:YES)には、X_b相は正常であると判定し、X_b相通電正常・異常判定記憶部52_bに「0」を書き込む(X_b相正常、Stmx_b=0、ステップ205)。
【0074】
つまり、X_b相(U,V,W相の何れか)に通電不良(断線)が生じた場合、当該相のX_b相電流値Ix_bは「0」となる。ここで、X_b相の相電流値Ix_bが「0」又は「0に近い値」となる場合には、このような断線発生以外にも以下の二つのケースがあり得る。
【0075】
・モータの回転角速度ωが基底速度(最高回転数)に達した場合
・電流指令自体が略「0」である場合
この点を踏まえ、本実施形態では、先ず、判定対象であるX_b相の相電流値Ix_bを所定電流値Ithと比較することにより、当該相電流値Ix_bが「0」であるか否かを判定する。そして、断線時以外に相電流値Ix_bが「0」若しくは「0に近い値」をとる上記二つのケースに該当するか否かを判定し、当該二つのケースに該当しない場合には、X_b相に断線が発生したものと判断する。
【0076】
即ち、相電流値Ix_bが「0」近傍の所定電流値Ith以下となるほどの回転角速度ω(基底速度)ではないにも関わらず、極端なduty指令値αx_bが出力されている場合には、当該X_b相に通電不良が生じているものと判定することができる。そして、本実施形態では、第2系統異常判定部50_bが、当該X_b相の各相について、上記判定を実行することにより、通電不良が発生した相を特定する構成となっている。
【0077】
尚、説明の便宜のため図10のフローチャートでは省略したが、上記判定は、電源電圧がモータ12を駆動するために必要な規定電圧以上である場合を前提として行なわれる。そして、最終的な異常検出の判定は、所定ステップ204において通電不良が生じているものと判定される状態が所定時間以上継続したか否かにより行なわれる。
【0078】
本実施形態では、ECU11は、この異常検知部50における異常判定の結果に基づいて、モータ12の制御モードを切り替える。具体的には、異常検知部50は、上記のような通電不良検出を含む異常判定の結果を第1系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_a及び第2系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_bとして制御系統判定部53に出力する。
【0079】
制御系統判定部53は上記第1系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_a及び第2系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_bと、別に入力される車速Vに基づきモータ12の制御モードを切り替える。
【0080】
詳述すると、この制御モードには、第1系統システムでアシスト制御を行うと同時に、第2系統モータの三相を開放する「第1系統システムアシスト制御モード」、第2系統システムでアシスト制御を行うと同時に、第1系統モータの三相を開放する「第2系統システムアシスト制御モード」、第1、2系統モータの三相を開放する「アシスト停止モード」の3つがある。
【0081】
さらに詳述すると、制御系統判定部53は、異常検知部50の出力する第1系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_a及び第2系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグStmx_bが共に正常な場合には、車速Vと所定車速値V0の大小を比較する。
【0082】
そして、車速Vが所定車速値V0以下(車両低速)の場合には、第1系統システムでアシスト制御を行うと同時に、第2系統モータの三相を開放する「第1系統システムアシスト制御モード」を設定する。また、車速Vが所定車速値V0より大きい(車両中・高速)の場合には、第2系統システムでアシスト制御を行うと同時に、第1系統モータの三相を開放する「第2系統システムアシスト制御モード」を設定する。
【0083】
そして、上記第1系統システムまたは、第2系統システムのどちらかのシステムが異常の場合には、残った正常なシステムでのアシスト制御を続けるとともに、両方のシステムが異常となった場合には、第1、2系統モータの三相を開放する「アシスト停止モード」を設定する。
【0084】
上記、3つの制御モードを切り替える制御系統判定部53の処理を図11のフローチャート図に基づいて詳細に説明する。
【0085】
制御系統判定部53は、先ず車速V、第1系統X相通電正常・異常判定状態フラグStmx_a及び第2系統X相通電正常・異常判定状態フラグStmx_bを読み込む(ステップ301)。続いて、第1系統X相通電正常・異常判定状態フラグStmx_aが「1」か否かを判定する(ステップ302)。
【0086】
次に、ステップ302において、第1系統X相に通電不良発生相がなしと判断した場合(ステップ302:NO)、第2系統X相通電正常・異常判定状態フラグStmx_bが「1」か否かを判定する(ステップ303)。次に、ステップ303において、第2系統X相に通電不良発生相がなしと判断した場合(ステップ303:NO)、車速Vが所定車速値V0以下か否かを判定する(ステップ304)。
【0087】
次に、ステップ304において、車速Vが所定車速値V0より大きい場合(ステップ304:NO)、第1系統モータの三相を開放(FLG1=0:ステップ305)し、第2系統システムでアシスト制御を設定(FLG2=1:ステップ306)し、処理を終わる。
【0088】
また、ステップ304において、車速Vが所定車速値V0以下の場合(ステップ304:YES)、第2系統モータの三相を開放(FLG2=0:ステップ307)し、第1系統システムでアシスト制御を設定(FLG1=1:ステップ308)し、処理を終わる。
【0089】
次に、ステップ303において、第2系統X相に通電不良発生相がありと判断した場合(ステップ303:YES)、第2系統モータの三相を開放(FLG2=0:ステップ307)し、第1系統システムでアシスト制御を設定(FLG1=1:ステップ308)し、処理を終わる。
【0090】
次に、ステップ302において、第1系統X相に通電不良発生相がありと判断した場合(ステップ302:YES)、第2系統X相通電正常・異常判定状態フラグStmx_bが「1」か否かを判定する(ステップ309)。次に、ステップ309において、第2系統X相に通電不良発生相がなしと判断した場合(ステップ309:NO)、第1系統モータの三相を開放(FLG1=0:ステップ310)し、第2系統システムでアシスト制御を設定(FLG2=1:ステップ311)し、処理を終わる。
【0091】
そして、ステップ309において、第2系統X相に通電不良発生相がありと判断した場合(ステップ309:YES)、第1系統モータの三相を開放(FLG1=0:ステップ312)すると共に、第2系統モータの三相を開放(FLG2=0:ステップ313)し、処理を終わる。
【0092】
次に、上記第1系統システム状態フラグFLG1及び第2系統システム状態フラグFLG2と、図4で記述した第2プリドライブ回路48の出力である第1系統動力線閉開放出力信号PWM2_a及び第2系統動力線閉開放出力信号PWM2_bの関係を図12のフローチャート図に基づいて詳細に説明する。
【0093】
まず、第1系統システム状態フラグFLG1が「1」か否かを判定する(ステップ401)。そして、第1系統システム状態フラグFLG1が「1」でない場合(ステップ401:NO)、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」か否かを判定する(ステップ402)。そして、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」でない場合(ステップ402:NO)、第1、2系統モータ共三相を開放(PWM2_a:オフ制御、PWM2_b:オフ制御:ステップ403)し、処理を終わる。
【0094】
次に、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」の場合(ステップ402:YES)、第1系統モータの三相を開放及び第2系統システムでアシスト制御(PWM2_a:オフ制御、PWM2_b:オン/オフ制御:ステップ404)を設定し、処理を終わる。
【0095】
また、第1系統システム状態フラグFLG1が「1」の場合(ステップ401:YES)、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」か否かを判定する(ステップ405)。そして、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」でない場合(ステップ405:NO)、第1系統システムでアシスト制御を設定、及び第2系統モータの三相を開放(PWM2_a:オン/オフ制御、PWM2_b:オフ制御:ステップ406)し、処理を終わる。
【0096】
次に、第2系統システム状態フラグFLG2が「1」の場合(ステップ405:YES)、第1、2系統モータ共三相を開放(PWM2_a:オフ制御、PWM2_b:オフ制御:ステップ403)し、処理を終わる。
【0097】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
操舵力補助装置は、モータ、モータ駆動回路及び制御手段を全て独立して2個有し、電動モータはステータのティースに同一極性でモータ特性の異なる巻線を2個有する。
即ち、モータのステータに設けた同一極性でモータ特性の異なる2個の巻線のそれぞれを、2個の独立したモータ駆動回路及び制御手段により制御することができるので、車両の走行状況に応じ、高速回転/低トルク特性及び低速回転/高トルク特性のモータ特性を選択することで、適切な操舵フィーリングが得られる。また、2個の独立したモータ、モータ駆動回路及び制御手段により各第1系統システム、第2制御システムを構成するので、EPSシステムとしての信頼性を低下させない。
更に、第1系統システム、第2制御システムのどちらかのシステムに異常が生じた場合には、残りの正常なシステムでの操舵が可能となる。
【0098】
その他に、モータはステータのティースに同一極性でモータ特性の異なる巻線を2個有する構成であるので、省スペース化が可能となる。また、電力供給線の断線や駆動回路の接点故障等によってモータの何れかの相に通電不良が生じた場合でも、継続操舵が可能になる。
【0099】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
本実施形態では、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化したが、EPS以外の用途に用いられるモータ制御装置に具体化してもよい。
【0100】
本実施形態では、ステータのティースに低速回転/高トルク特性の巻線を巻回すとともに、モータのロータと、低速回転/高トルク特性の巻線との間のステータのティースに更に、高速回転/低トルク特性の巻線を巻回したが、ステータのティースに高速回転/低トルク特性の巻線を巻回すとともに、モータのロータと、高速回転/低トルク特性の巻線との間のステータのティースに更に、低速回転/高トルク特性の巻線を巻回してもよい。
【0101】
本実施形態では、第1、2系統動力線閉開放部には、半導体スイッチング素子であるMOS−FETを2個直列に接続して構成した。しかし、これを1個のリレーで構成しても勿論よい。
【0102】
本実施形態では、操舵力補助装置に、モータ、モータ駆動回路及び制御手段を全て独立して2個有することとしたが、3個以上有しても勿論よい。
【符号の説明】
【0103】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、
3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、6:タイロッド、7:転舵輪、
10:EPSアクチュエータ、11:ECU、12:モータ、13:減速機構、
14:トルクセンサ、15:車速センサ、
21A:第1系統モータコイル、21B:第2系統モータコイル、
22:ステータ、23:ティース、24:ロータ、
26A:第1系統モータ駆動回路、26B:第2系統モータ駆動回路、
27:CPU、28A:第1系統動力線、28B:第2系統動力線、
30:アシスト制御部、31:制御信号出力部、
32A:第1系統電流センサ、32B:第2系統電流センサ、
33:モータ回転角センサ、35A:第1系統電流制御部、35B:第2系統電流制御部、36A:第1系統PWM変換部、36B:第2系統PWM変換部、
40,41,42:第1系統動力線閉開放部、
43,44,45:第2系統動力線閉開放部、
47:第1プリドライブ回路、48:第2プリドライブ回路、50:異常検知部、
50_a:第1系統異常判定部、50_b:第2系統異常判定部、
51_a:X_a相通電異常判定部、51_b:X_b相通電異常判定部、
52_a:X_a相通電正常・異常判定記憶部、
52_b:X_b相通電正常・異常判定記憶部、
53:制御系統判定部、
V:車速、V0:所定車速値、τ:操舵トルク、θ:モータ回転角、
Smc_a:第1系統制御信号、Smc_b:第2系統制御信号、
PWM2_a:第1系統動力線閉開放出力信号、
PWM2_b:第2系統動力線閉開放出力信号、
Iu_a、Iv_a、Iw_a:第1系統各相電流値、
Iu_b、Iv_b、Iw_b:第2系統各相電流値、
Ix_a:第1系統X相電流値、Ix_b:第2系統X相電流値、Ith:所定電流値、
αx_a:第1系統X相duty指令値、αx_b:第2系統X相duty指令値、
αLO、αHI:duty閾値、ω:モータ回転角速度、ω0:所定モータ回転角速度値、
T1、T2:最大出力トルク、N1、N2:最大モータ回転数、
Stmx_a:第1系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmu_a:第1系統U相通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmv_a:第1系統V相通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmw_a:第1系統W相通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmx_b:第2系統X相(X=U,V,W)通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmu_b:第2系統U相通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmv_b:第2系統V相通電正常・異常判定状態フラグ、
Stmw_b:第2系統W相通電正常・異常判定状態フラグ、
FLG1:第1系統システム状態フラグ、
FLG2:第2系統システム状態フラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、
前記アシスト力を発生する電動モータと、
前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記モータ駆動回路を制御する制御手段とを備えるとともに、
前記電動モータはマグネットを有するロータと、巻線を巻回すティースを有するステータとを備え、
前記操舵力補助装置は、前記電動モータ、前記モータ駆動回路及び前記制御手段を全て独立して2個有し、
前記電動モータは前記ステータに同一極性でモータ特性の異なる巻線を2個有する
こと、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記モータ特性は、高速回転/低トルク特性及び低速回転/高トルク特性であること、
を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記電動モータは、前記ステータのティースに低速回転/高トルク特性の巻線を巻回すとともに、
前記電動モータのロータと、前記低速回転/高トルク特性の巻線との間の前記ステータのティースに、高速回転/低トルク特性の巻線を巻回したこと、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電動モータの一方のみを駆動している場合には、他方の前記電動モータの三相を相開放すること、
を特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−90383(P2012−90383A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233197(P2010−233197)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】