説明

電動パワーステアリング装置

【課題】中空シャフトをラックハウジングに対して軸方向に移動可能に支持するとともに、中空シャフトのがたつきを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、中空シャフトとしてのモータシャフト16を回転可能に支持する第1の軸受18の軸方向両端にそれぞれ設けられ、第1の軸受18をラックハウジング5に対して軸方向に弾性支持する弾性部材34と、第1の軸受18の外周に設けられ、径方向への変位を規制した状態で第1の軸受18を支持する支持部材41とを備えた。そして、モータシャフト16を、第1の軸受18が弾性部材34を弾性変形させつつ支持部材41に対して摺動するとともに、第2の軸受が軸方向に移動することにより、ラックハウジング5に対して軸方向に移動するように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラック軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する中空シャフトを有し、同中空シャフトの回転をボール螺子機構によりラック軸の往復動に変換することによって操舵系にアシスト力を付与する所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
こうしたEPSにおいて、多くの場合、中空シャフトは、その一端側がラジアル荷重及びスラスト荷重を受ける軸受によって回転可能に支持されるとともに、その他端側がラジアル荷重を受ける軸受によって回転可能に支持されている。そして、スラスト荷重及びラジアル荷重を受ける軸受は、ラックハウジング内に軸方向移動が規制された状態で設けられ、ラジアル荷重を受ける軸受は、ラック軸を収容するラックハウジング内に軸方向移動が許容された状態で設けられている。なお、ラジアル荷重を受ける軸受の外周にはOリング等が設けられており、同軸受は径方向に弾性支持されている。これにより、例えば車両の走行に伴う振動等によって軸受がラックハウジングに接触して異音が発生することが防止されている(特許文献1、第2図参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−213280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなEPSにおいて、アシスト力の付与が開始される前の微小な範囲での操舵では、中空シャフトがモータにより駆動されないため、運転者が付与する操舵力によってボール螺子機構を介して中空シャフトを回転させつつ、ラック軸を軸方向移動させることになる。つまり、操舵開始時には、ラック軸の軸方向移動によってボール螺子機構を作動させて中空シャフトを回転させることになるため、運転者が比較的大きな操舵力を付与する必要がある。
【0006】
そこで、例えば図7に示すように、上記スラスト荷重及びラジアル荷重を受ける軸受71の外輪71bの軸方向両端にそれぞれ弾性部材72を設けて軸受71をラックハウジング73に対して軸方向に弾性支持するとともに、軸受71の外周にOリング74を設けて軸受71を径方向に弾性支持する。そして、弾性部材72及びOリング74を弾性変形させることにより、中空シャフト75を軸受71と一体でラックハウジング73に対して軸方向に移動可能に構成することが考えられる。これにより、中空シャフト75を回転させずに、ラック軸76が微小量だけ軸方向移動できるようになり、操舵開始時の操舵フィーリングを向上させることが可能となる。
【0007】
しかし、同図に示す構成では、中空シャフト75の両端の外周がゴム材料からなるOリング74を介して支持されることになり、中空シャフト75の径方向の支持剛性が低くなるため、中空シャフト75ががたつき易くなる。その結果、ステアリング操作時に、軸受71が中空シャフト75とともに傾斜し、同軸受71がラックハウジング73の内周面に押し付けられて引っ掛かったような状態となることがある。そして、この状態からステアリングを切り戻すと、軸受71の引っ掛かりが外れてその姿勢が戻る際に、瞬間的にラック軸76を往復動させるのに必要な操舵力が低下し、操舵フィーリングの低下を招く虞があった。また、中空シャフト75がモータのロータを構成する場合には、中空シャフト75ががたつくことで、ラックハウジング73の内周に固定されたステータとの間のギャップが変化してしまい、例えばコギングトルクの増大等を招く虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、中空シャフトをラックハウジングに対して軸方向に移動可能に支持するとともに、中空シャフトのがたつきを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、軸方向に往復動可能に支持されたラック軸と、前記ラック軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する中空シャフトと、前記ラック軸が収容されるラックハウジングに対して前記中空シャフトを回転可能に支持する複数の軸受とを備え、前記中空シャフトの回転を前記ラック軸の往復動に変換することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置において、前記各軸受の少なくとも一つの軸方向両端にそれぞれ設けられ、該軸受を前記ラックハウジングに対して軸方向に弾性支持する弾性部材と、弾性支持された前記軸受の外周に設けられ、径方向への変位を規制した状態で該軸受を支持する支持部材とを備え、前記中空シャフトは、前記支持部材と前記ラックハウジング及び弾性支持された前記軸受との少なくとも一方とが互いに摺動することにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動するように設けられたことを要旨とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、軸方向に往復動可能に支持されたラック軸と、前記ラック軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する中空シャフトと、前記ラック軸が収容されるラックハウジングに対して前記中空シャフトを回転可能に支持する複数の軸受とを備え、前記中空シャフトの回転を前記ラック軸の往復動に変換することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置において、前記各軸受の少なくとも一つの軸方向両端にそれぞれ設けられ、該軸受を前記中空シャフトに対して軸方向に弾性支持する弾性部材と、弾性支持された前記軸受の内周に設けられ、径方向への変位を規制した状態で該軸受を支持する支持部材とを備え、前記中空シャフトは、前記支持部材と前記中空シャフト及び弾性支持された前記軸受との少なくとも一方とが互いに摺動することにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動するように設けられたことを要旨とする。
【0011】
上記各構成によれば、中空シャフトは、支持部材と同支持部材の径方向内側及び外側に配置される部材(ラックハウジング及び軸受、又は中空シャフト及び軸受)の少なくとも一方とが互いに摺動することにより、弾性部材を変形させつつ、ラックハウジングに対して軸方向に移動するようになる。これにより、ラック軸を中空シャフトと一体で微小量だけ軸方向に移動させることができるため、アシスト力の付与が開始される前の微小な範囲でも大きな操舵力が必要とならず、操舵開始時の操舵フィーリングを向上させることができる。また、支持部材は、摺動により中空シャフトのラックハウジングに対する軸方向への移動を許容するものであるため、Oリング等のように弾性変形により中空シャフトの移動を許容するものに比べ、剛性を高くすることができ、軸受の径方向への変位をしっかりと規制することが可能となる。つまり、中空シャフトの径方向の支持剛性を向上させることが可能となり、中空シャフトのがたつきを抑制することができる。さらに、請求項1の構成では、軸受の内輪が中空シャフトに対して固定されるため、同内輪が中空シャフトに対して軸方向に移動可能となる構成に比べ、安定して中空シャフトを支持することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記支持部材には、径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、前記支持部材は、前記バネ状部の弾性力に応じた摺動抵抗を発生させることを要旨とする。
【0013】
ここで、支持部材を剛体とする構成では、例えば支持部材の寸法が僅かでも異なると、支持部材と同支持部材の径方向内側及び外側に配置される部材との間に作用する圧力(面圧)が大きく変化し、摺動抵抗が大幅に変化する。この点、上記構成によれば、バネ状部が弾性変形して生じる弾性力に応じて摺動抵抗が発生するため、例えば支持部材の寸法が僅かに異なっても、支持部材と同支持部材の径方向内側及び外側に配置される部材との間で発生する摺動抵抗が大幅にばらつくことを抑制できる。また、長期に亘る使用により支持部材等が摩耗しても、径方向のがたつきが発生することを抑制できる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記支持部材の摺動面は、低摩擦係数を有するように表面処理されたことを要旨とする。
【0015】
上記構成によれば、支持部材と同支持部材の径方向内側及び外側に配置される部材の少なくとも一方とが円滑に摺動するようになり、操舵開始時の操舵フィーリングをより向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、中空シャフトをラックハウジングに対して軸方向に移動可能に支持するとともに、中空シャフトのがたつきを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示す断面図。
【図2】一実施形態の第1の軸受近傍の拡大断面図。
【図3】一実施形態の支持部材の斜視図。
【図4】別例の支持部材の斜視図。
【図5】別例の第1の軸受近傍の拡大断面図。
【図6】別例の第1の軸受近傍の拡大断面図。
【図7】従来のスラスト荷重及びラジアル荷重を受ける軸受近傍の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を所謂ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、ステアリング操作により回転するピニオン軸2と、ピニオン軸2の回転に応じて軸方向に往復動することにより転舵輪(図示略)の舵角を変更するラック軸3とを備えている。
【0019】
詳述すると、EPS1は、略円筒状のラックハウジング5を備えており、ラックハウジング5内にラック軸3が挿通されている。なお、ラックハウジング5は、略円筒状に形成されたセンターハウジング6と、センターハウジング6の一端側(図1における右側)に固定されたギアハウジング7と、センターハウジング6の他端側(図1における左側)に固定されたエンドハウジング8とからなる。そして、ラック軸3は、ギアハウジング7に設けられたラックガイド9、及びエンドハウジング8に設けられた図示しないブッシュ(すべり軸受)により、その軸方向に沿って往復動可能に支持されている。また、ラックハウジング5内には、ピニオン軸2がラック軸3と斜交する状態で回転可能に支持されており、ラック軸3は、ラックガイド9によって付勢されることによりピニオン軸2と噛合されている。なお、ピニオン軸2の一端には、ステアリングシャフトが連結されており、その先端にはステアリングホイール(ともに図示略)が固定されている。そして、ステアリング操作に伴いピニオン軸2が回転し、その回転がラック軸3の往復動に変換されることにより、転舵輪の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0020】
また、EPS1は、その駆動源となるモータ11と、モータ11の回転をラック軸3の往復動に変換するボール螺子機構12を備えている。
モータ11は、センターハウジング6の内周に固定されるステータ14と、ステータ14の内側に回転可能に設けられるロータ15とを備えたブラシレスモータとして構成されている。ロータ15は、中空円筒状のモータシャフト16、及びモータシャフト16の外周に固定されるマグネット17を有しており、モータシャフト16は、その両端近傍に設けられた第1及び第2の軸受18,19によりラックハウジング5に対して回転可能に支持されている。なお、モータ11は、モータシャフト16内にラック軸3が挿通されることにより、ラック軸3と同軸に配置されている。
【0021】
ボール螺子機構12は、ラック軸3に形成された螺子部21、モータシャフト16の内周に固定されたボール螺子ナット22、及びこれら螺子部21とボール螺子ナット22との間に介在された複数のボール23により構成されている。
【0022】
具体的には、ボール螺子ナット22は略円筒状に形成されており、ボール螺子ナット22の内周及び螺子部21の外周には、それぞれ螺子溝が形成されている。各ボール23は、これら対向する各螺子溝により構成された螺旋状の転動路内に転動可能に設けられており、螺子部21及びボール螺子ナット22は、各ボール23を介して螺合されている。これにより、各ボール23は、ラック軸3とボール螺子ナット22(モータシャフト16)との間の相対回転に伴い、その負荷を受けつつ転動路内を転動する。そして、各ボール23の転動によってラック軸3とボール螺子ナット22との軸方向の相対位置が変化することにより、モータシャフト16の回転がラック軸3の往復動に変換され、操舵系にアシスト力が付与されるようになっている。すなわち、本実施形態では、モータシャフト16が中空シャフトに相当する。
【0023】
次に、モータシャフトの支持構造について詳細に説明する。
図1において拡大して示すように、第2の軸受19には、単列のボール軸受が採用されている。そして、第2の軸受19は、センターハウジング6(ラックハウジング5)内に軸方向移動が許容された状態でモータシャフト16を回転可能に支持しており、ラジアル荷重を受けるようになっている。
【0024】
詳しくは、モータシャフト16におけるエンドハウジング8側の端部には、その外径が第2の軸受19の内輪19aの内径と略等しく形成された固定部31が形成されている。そして、モータシャフト16は、固定部31が内輪19aに圧入されることにより第2の軸受19に固定されている。また、第2の軸受19の外輪19bは、その外径がセンターハウジング6の内径よりも僅かに小さく形成されている。これにより、第2の軸受19は、センターハウジング6に対する軸方向への移動が許容された状態で、モータシャフト16を回転可能に支持している。なお、外輪19bの外周には、第2の軸受19を径方向に弾性支持するOリング32が設けられている。
【0025】
一方、図2に示すように、第1の軸受18には、複列のボール軸受が採用されている。そして、第1の軸受18は、その軸方向両端に設けられた弾性部材34により、ギアハウジング7(ラックハウジング5)に対して軸方向に弾性支持された状態で、モータシャフト16を回転可能に支持しており、ラジアル荷重及びスラスト荷重を受けるようになっている。
【0026】
詳しくは、モータシャフト16におけるギアハウジング7側の端部には、その外径が第1の軸受18の内輪18aの内径と略等しく形成された固定部35が形成されている。固定部35の外周における先端側には、螺合部35aが形成されている。そして、モータシャフト16は、固定部35が第1の軸受18の内輪18aに圧入され、螺合部35aにナット36が螺合されることにより第1の軸受18に固定されている。
【0027】
ギアハウジング7の内周には、その内径が第1の軸受18の外輪18bの外径よりも大きく形成された円環状の収容凹部37が形成されている。収容凹部37の内周における先端側には、螺合部37aが形成されている。そして、第1の軸受18は、その外輪18bの軸方向両端にそれぞれ弾性部材34を配置した状態で収容凹部37内に収容されるとともに、螺合部37aにナット39が螺合されることにより、ギアハウジング7に対して軸方向に弾性支持されている。
【0028】
弾性部材34は、ゴム材料からなる円環状の弾性体により構成されており、外輪18bとギアハウジング7、及び外輪18bとナット39との間で軸方向に圧縮されている。また、外輪18bの両端面と収容凹部37及びナット39の各端面との間には、軸方向の隙間が設けられている。これにより、第1の軸受18は、同隙間の範囲でギアハウジング7に対して軸方向に移動し、ナット39の端面又は収容凹部37の端面に当接することにより、軸方向移動が規制されてスラスト荷重を受けるようになっている。
【0029】
そして、第1の軸受18の外周には、第1の軸受18の径方向への変位を規制しつつ、その外輪18bを摺動可能に支持する支持部材41が設けられており、モータシャフト16は、外輪18bが支持部材41に対して摺動することにより、弾性部材34を弾性変形させつつ、ギアハウジング7に対して軸方向に移動するように設けられている。
【0030】
詳述すると、図2及び図3に示すように、支持部材41は、帯状の金属板(例えば、バネ鋼等)を第1の軸受18の周方向に延びる略C字状に湾曲させたリング本体42を備えており、リング本体42には、径方向に弾性変形可能な複数のバネ状部43が形成されている。そして、支持部材41は、バネ状部43が径方向に圧縮された状態で、ギアハウジング7の収容凹部37の内周面と第1の軸受18の外輪18bの外周面との間に配置されており、バネ状部43の弾性力に応じた摺動抵抗が発生するようになっている。
【0031】
バネ状部43は、リング本体42から径方向内側に突出した略四角錐台形状にそれぞれ形成されている。また、バネ状部43は、リング本体42の軸方向両端部にそれぞれ設けられるとともに、周方向に間隔を空けて複数設けられている。そして、バネ状部43における外輪18bに対して摺動する摺動面としての先端面43aは、低摩擦係数を有するように表面処理されている。具体的には、先端面43aには、例えばPOM(ポリアセタール)やPTFE(ポリ四フッ化エチレン)等の自己潤滑性の高い樹脂がコーティングされている。さらに、支持部材41(バネ状部43)は、外輪18bとの接触面積(各先端面43aの面積の合計)がギアハウジング7との接触面積(リング本体42の外周面から各バネ状部43分を差し引いた面積)よりも十分に小さくなるように形成されている。
【0032】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)モータシャフト16を、第1の軸受18が弾性部材34を弾性変形させつつ支持部材41に対して摺動するとともに、第2の軸受19が軸方向に移動することにより、ラックハウジング5に対して軸方向に移動するように設けた。これにより、ラック軸3をモータシャフト16と一体で微小量だけ軸方向移動させることができるため、アシスト力の付与が開始される前の微小な範囲でも大きな操舵力が必要とならず、操舵開始時の操舵フィーリングを向上させることができる。
【0033】
また、支持部材41は、金属材料からなるとともに、摺動により第1の軸受18のラックハウジング5に対する軸方向への移動を許容するものであるため、Oリング等のように弾性変形により第1の軸受18の移動を許容するものに比べ、剛性を高くすることができ、第1の軸受18の径方向への変位をしっかりと規制することが可能となる。つまり、モータシャフト16の径方向の支持剛性を向上させることが可能となり、モータシャフト16のがたつきを抑制することができる。これにより、一方向にステアリング操作してから、ステアリングを切り戻す際に、瞬間的にラック軸3を往復動させるのに必要な操舵力が低下することを防止できる。また、本実施形態では、モータシャフト16のがたつきが抑制されることで、ステータ14とマグネット17との間のギャップが変化することを防いで、例えばコギングトルクの増大を抑制できるため、支持部材41を設ける効果は大である。さらに、第1の軸受18の内輪18aがモータシャフト16に対して固定されるため、内輪18aがモータシャフト16に対して軸方向に移動可能となる構成に比べ、安定してモータシャフト16を支持することができる。
【0034】
(2)支持部材41に、径方向に弾性変形可能なバネ状部43を形成し、バネ状部43の弾性力に応じた摺動抵抗を第1の軸受18との間に発生させるようにした。
ここで、支持部材41を剛体とする構成では、例えば支持部材41の寸法が僅かでも異なると、支持部材41と第1の軸受18との間に作用する圧力(面圧)が大きく変化し、摺動抵抗が大幅に変化する。この点、上記構成によれば、バネ状部43が弾性変形して生じる弾性力に応じて摺動抵抗が発生するため、例えば支持部材41の寸法が僅かに異なっても、支持部材41と第1の軸受18との間で発生する摺動抵抗が大幅にばらつくことを抑制できる。また、長期に亘る使用により支持部材41等が摩耗しても、径方向のがたつきが発生することを抑制できる。
【0035】
(3)バネ状部43の先端面43aが低摩擦係数を有するように表面処理したため、第1の軸受18を円滑に摺動させることができ、操舵開始時の操舵フィーリングをより向上させることができる。
【0036】
(4)支持部材41の外輪18bとの接触面積が、支持部材41のギアハウジング7との接触面積よりも十分に小さくなるように支持部材41を形成したため、支持部材41との接触面積が大きいギアハウジング7に作用する面圧が過大になることを抑制でき、ギアハウジング7の長寿命化を図ることができる。
【0037】
(5)バネ状部43をリング本体42の軸方向両端部にそれぞれ設けたため、モータシャフト16が傾斜することを効果的に抑制できる。
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
【0038】
・上記実施形態では、バネ状部43を略四角錐台形状に形成したが、これに限らず、例えば図4に示すように、リング本体42の軸方向に延びる突条状に形成してもよい。また、リング本体42の周方向に延びる突条状や半球状等、径方向に弾性変形可能であれば、バネ状部43はどのような形状であってもよい。さらに、バネ状部43をリング本体42の軸方向中央部にのみ設けてもよい。
【0039】
・上記実施形態では、先端面43aが低摩擦係数を有するように施す表面処理として、自己潤滑性の高い樹脂をコーティングしたが、これに限らず、例えば鏡面加工を施してもよい。また、先端面43aに表面処理を施さなくてもよい。さらに、表面処理の有無を問わず、例えば先端面43aにグリースのような潤滑剤を塗布してもよい。
【0040】
・上記実施形態では、第1の軸受18の外輪18bの軸方向両端にそれぞれ弾性部材34を設けるとともに、外輪18bの外周に支持部材41を設けた。しかし、これに限らず、例えば図5に示すように、第1の軸受18の内輪18aの軸方向両端にそれぞれ弾性部材34を設けるとともに、内輪18aの内周に支持部材41を設け、モータシャフト16を、第1の軸受18が支持部材41に対して摺動することにより、ラックハウジング5に対して軸方向に移動するように設けてもよい。なお、図5に示す例では、第1の軸受18の内輪18aの内径は、モータシャフト16の固定部35の外径よりも大きく形成されている。また、外輪18bの外径は、収容凹部37の内径と略等しく形成されており、第1の軸受18は、収容凹部37内に圧入されることにより、ギアハウジング7に固定されている。さらに、支持部材41には、そのリング本体42から径方向外側に突出する複数のバネ状部43が形成されている。
【0041】
・上記実施形態では、支持部材41にバネ状部43を設けたが、これに限らず、バネ状部43を設けず、支持部材を剛体して構成してもよい。例えば図6に示す例では、支持部材51は、円筒状に形成されており、支持部材51内には、第1の軸受18が圧入されている。また、第1の軸受18の外輪18bが摺動する摺動面としての支持部材51の内周面51aは、低摩擦係数を有するように表面処理されている。
【0042】
・上記実施形態では、弾性部材34をゴム材料からなる弾性体により構成したが、これに限らず、例えば皿バネ等のバネ部材により弾性部材34を構成してもよい。
・上記実施形態では、第1の軸受18が支持部材41に対して摺動することにより、モータシャフト16がラックハウジング5に対して軸方向に移動するようにした。しかし、これに限らず、支持部材41がギアハウジング7に対して摺動することにより、又は第1の軸受18が支持部材41に対して摺動するとともに支持部材41がギアハウジング7に対して摺動することにより、モータシャフト16がラックハウジング5に対して軸方向に移動するようにしてもよい。
【0043】
・上記実施形態では、支持部材41のリング本体42を略C字状に形成したが、これに限らず、円環状(O字状)に形成してもよい。
・上記実施形態では、支持部材41の第1の軸受18の外輪18bとの接触面積が、ギアハウジング7との接触面積よりも小さくなるように支持部材41を形成したが、これに限らず、支持部材41の第1の軸受18の外輪18bとの接触面積が、ギアハウジング7との接触面積以上となるようにしてもよい。
【0044】
・上記実施形態では、第1の軸受18に複列のボール軸受を採用したが、これに限らず、例えば単列のボール軸受等の他の軸受を採用してもよい。同様に、第2の軸受19に、例えば複列のボール軸受等の他の軸受を採用してもよい。
【0045】
・上記実施形態では、第2の軸受19をラックハウジング5内に軸方向移動が許容された状態で設けたが、これに限らず、第2の軸受19をラックハウジング5内に軸方向移動が規制された状態で設けるとともに、第2の軸受19がモータシャフト16を軸方向に相対移動可能な状態で支持するようしてもよい。
【0046】
・上記実施形態において、第2の軸受19の外周にOリング32を設けず、第2の軸受19の外周又は内周に支持部材を設け、第2の軸受19が同支持部材に対して摺動することによりモータシャフト16が軸方向に移動するようにしてもよい。
【0047】
・上記実施形態では、本発明を、中空シャフトとしてのモータシャフト16がラック軸3と同軸に配置された同軸ラックアシスト型のEPS1に具体化した。しかし、これに限らず、所謂ラッククロス型やラックパラレル型等、ハウジング外部に設けられたモータにより、ラック軸の挿通された中空シャフトを駆動する形式のEPSに具体化してもよい。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記中空シャフトが前記モータのロータを構成するモータシャフトであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。上記構成によれば、中空シャフトのがたつきが抑制されることで、例えばコギングトルクの増大を抑制できるため、請求項1又は2のように支持部材を設ける効果は大である。
【符号の説明】
【0049】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ラック軸、5…ラックハウジング、11…モータ、12…ボールネジ機構、16…モータシャフト、18…第1の軸受、18a,19a…内輪、18b,19b…外輪、19…第2の軸受、34…弾性部材、41,51…支持部材、43…バネ状部、43a…先端面、51a…内周面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に往復動可能に支持されたラック軸と、前記ラック軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する中空シャフトと、前記ラック軸が収容されるラックハウジングに対して前記中空シャフトを回転可能に支持する複数の軸受とを備え、前記中空シャフトの回転を前記ラック軸の往復動に変換することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置において、
前記各軸受の少なくとも一つの軸方向両端にそれぞれ設けられ、該軸受を前記ラックハウジングに対して軸方向に弾性支持する弾性部材と、
弾性支持された前記軸受の外周に設けられ、径方向への変位を規制した状態で該軸受を支持する支持部材とを備え、
前記中空シャフトは、前記支持部材と前記ラックハウジング及び弾性支持された前記軸受との少なくとも一方とが互いに摺動することにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動するように設けられたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
軸方向に往復動可能に支持されたラック軸と、前記ラック軸が挿通されるとともにモータ駆動により回転する中空シャフトと、前記ラック軸が収容されるラックハウジングに対して前記中空シャフトを回転可能に支持する複数の軸受とを備え、前記中空シャフトの回転を前記ラック軸の往復動に変換することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置において、
前記各軸受の少なくとも一つの軸方向両端にそれぞれ設けられ、該軸受を前記中空シャフトに対して軸方向に弾性支持する弾性部材と、
弾性支持された前記軸受の内周に設けられ、径方向への変位を規制した状態で該軸受を支持する支持部材とを備え、
前記中空シャフトは、前記支持部材と前記中空シャフト及び弾性支持された前記軸受との少なくとも一方とが互いに摺動することにより、前記ラックハウジングに対して軸方向に移動するように設けられたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記支持部材には、径方向に弾性変形可能なバネ状部が形成され、
前記支持部材は、前記バネ状部の弾性力に応じた摺動抵抗を発生させることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記支持部材の摺動面は、低摩擦係数を有するように表面処理されたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103696(P2013−103696A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250937(P2011−250937)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】