説明

電動圧縮機

【課題】電動圧縮機の車両搭載性の向上を図る。
【解決手段】車両空調用冷凍サイクル装置に適用される電動圧縮機であって、ハウジング10と、ハウジング10内に設けられて冷媒を吸入圧縮する圧縮機構20と、ハウジング10内に設けられて電力供給により動力を発生させる電動モータ30と、電動モータ30から圧縮機20に動力を伝達するシャフト31と、ハウジング10に固定されるとともに、シャフト31を回転可能に支持する主軸受19とを備え、電動モータ30は、ハウジング10に固定されたステータ32、およびステータ32内を回転するロータ33を含んで構成され、ロータ33は、シャフト31の軸方向の一端側に連結されてシャフト31と一体に回転するように構成され、主軸受19は、ロータ33の径方向内側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両空調用の冷凍サイクル装置に適用される電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両空調用の冷凍サイクル装置に適用される圧縮機は、例えば特許文献1に記載のように、車両エンジンからベルトを介して動力が伝達されるプーリと、プーリからの動力により駆動する圧縮機構とから構成されるエンジン駆動式圧縮機が採用されていた。
【0003】
ところで、近年、エンジンによる環境への影響を低減するといった観点等から、ハイブリッド自動車等において、エンジンの駆動力が不必要な時にエンジン停止させている。しかし、エンジン駆動式圧縮機では、エンジン停止とともに圧縮機も停止するため、車両用空調装置の圧縮機としてエンジン停止中等においても作動可能な電動圧縮機の開発が種々行なわれている(例えば、特許文献2〜4)。
【0004】
ここで、特許文献2では、電動圧縮機の主要構成である圧縮機構、電動機、駆動回路をシャフトの軸方向に並べて配置する構成が開示され、特許文献3では、電動圧縮機の駆動回路を圧縮機構、電動機とは別に配置する構成が開示され、さらに、特許文献4では、電動圧縮機の駆動回路をモータハウジングの側面に配置する構成が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−40931号公報
【特許文献2】特許第3976512号
【特許文献3】特許第3966008号
【特許文献4】特開2004−1622618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2〜4に記載の電動圧縮機の体格は、従来のエンジン駆動式圧縮機に比べて、電動モータ(電動機)の分だけ軸方向(シャフトの軸方向)の寸法が長くなっている。ここで、特許文献2〜4に記載の電動モータは、ハウジングに固定されたステータの内側にロータを配置する構造であり、圧縮機構を駆動するトルクを確保するために、ステータやロータといった構成部品を、これ以上軸方向に短くすることが難しいといった課題がある。このように、電動圧縮機では、従来のエンジン駆動式圧縮機に比べて軸方向の寸法が長くなり、車両への搭載性が悪いといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、電動圧縮機の車両搭載性の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、従来の電動圧縮機における軸方向寸法の短縮を阻害する要因を検討した。この検討により、以下のことが分かった。すなわち、従来の電動圧縮機では、ロータの内周面とシャフトの外周面とを密着させた状態で連結しているため、シャフトを回転可能に支持する主軸受をロータの両側(シャフトの両端)に設ける構成となっていた。さらに、シャフトのクランク部を支持する旋回軸受、カウンタバランス、およびシャフトの主軸受が、互いに干渉することを避ける必要から、旋回軸受、カウンタバランス、シャフトの主軸受等をシャフトの軸方向に直列に並べて配置される構成となっていた。このような電動圧縮機内の構成配置が、電動圧縮機における軸方向寸法の短縮を阻害する要因となっていることが分かった。
【0008】
そこで、本発明の請求項1に記載の発明では、車両空調用冷凍サイクル装置に適用される電動圧縮機であって、ハウジング(10)と、ハウジング(10)内に設けられて冷媒を吸入圧縮する圧縮機構(20)と、ハウジング(10)内に設けられて電力供給により動力を発生させる電動モータ(30)と、電動モータ(30)から圧縮機(20)に動力を伝達するシャフト(31)と、ハウジング(10)に固定されるとともに、シャフト(31)を回転可能に支持する主軸受(19)とを備え、電動モータ(30)は、ハウジング(10)に固定されたステータ(32)、およびステータ(32)内を回転するロータ(33)を含んで構成され、ロータ(33)は、シャフト(31)の軸方向の一端側に連結されてシャフト(31)と一体に回転するように構成され、主軸受(19)は、ロータ(33)の径方向内側に配置されていることを特徴とする。
【0009】
このように、電動圧縮機(2)のシャフト(31)を支持する主軸受(19)をロータ(33)の径方向内側に配置することで、従来の電動圧縮機の如く、シャフトを支持する主軸受と電動モータとが軸方向に直列に並んで配置される構成に比べて、電動圧縮機(2)の軸方向(シャフト(31)の軸方向)の寸法を短縮することができる。その結果、従来の電動圧縮機に比べて、電動圧縮機(2)の軸方向の寸法を大幅に短縮することができ、電動圧縮機(2)の車両搭載性を大幅に向上させることができる。
【0010】
具体的には、請求項2に記載の発明のように、請求項1に記載の発明において、ハウジング(10)には、圧縮機構(20)と電動モータ(30)との間を仕切る仕切り壁部(17)が設けられており、仕切り壁部(17)における電動モータ(30)側の端面には、シャフト(31)におけるロータ(33)と連結された一端側に向かうとともに、シャフト(31)の外周面に沿って突出する円筒状の突出部(26)が形成され、主軸受(19)は、突出部(26)の内周面に設けられてシャフト(31)を回転可能に支持する構成とすることができる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、主軸受(19)は、仕切り壁部(17)からシャフト(31)におけるロータ(33)と連結された一端側にまで延出するように配置されることを特徴としている。
【0012】
このように、主軸受(19)をシャフト(31)の軸方向に延出させる構成とすることで、主軸受19によるシャフト31の軸受幅を拡大することができる。従って、ロータ(33)の回転によってシャフト(31)に作用する回転モーメント等を主軸受(19)のみで吸収することが可能となり、シャフト(31)に作用する回転モーメント等を低減することができる。その結果、シャフト(31)を主軸受(19)のみで支持することが可能となり、従来の電動圧縮機の如く、シャフトをシャフト両端に配置した一対の主軸受で支持する構成に比べて、電動圧縮機(2)の軸方向の寸法を短縮することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の発明において、ステータ(32)は、ステータコア(322)およびステータコア(322)に巻き付けられたコイル(323)を有し、シャフト(31)は、シャフト(31)におけるロータ(33)と連結された一端側の反対方向の他端側が突出部(26)を介してハウジング(10)内の圧縮機構(20)側に延出し、シャフト(31)における他端には、その回転中心から径外方側に偏心した位置にクランク部(31a)が設けられ、圧縮機構(20)は、クランク部(31a)により旋回駆動される可動部(22)、およびハウジング(10)に固定された固定部(21)を有し、可動部(22)の旋回により冷媒を吸入圧縮するように構成され、クランク部(31a)は、可動部(22)の旋回運動を受ける旋回軸受(24)を介して可動部(22)に連結され、クランク部(31a)と旋回軸受(24)との間には、可動部(22)がシャフト(31)周りに旋回する際に、シャフト(31)に作用する遠心力を相殺するためのカウンタバランス(23)を介在させており、カウンタバランス(23)のウェート部(23a)は、ステータ(32)におけるステータコア(322)からシャフト(31)の軸方向に突出するコイルエンド部(323a)に対応する部位の径方向内側に設けられていることを特徴とする。
【0014】
このように、カウンタバランス(23)をステータ(32)におけるコイルエンド部(323a)に対応する部位の径方向内側に配置することで、カウンタバランス(23)とステータ(32)におけるコイルエンド部(323a)に対応する部位との干渉を避けることができる。これにより、カウンタバランス(23)をステータ(32)の径方向内側に配置することができ、従来の電動圧縮機の如く、ステータとカウンタバランスとが軸方向に直列に並ぶように配置した構成に比べて、電動圧縮機(2)の軸方向の寸法を短縮することができる。なお、コイルエンド部(323a)は、ステータコア(322)に巻き付けられたコイル(323)におけるステータコア(322)から軸方向にはみ出した部位に相当している。
【0015】
また、請求項5に記載の発明のように、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の発明において、主軸受(19)をすべり軸受で構成することができる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図3に基づいて説明する。本発明に係る電動圧縮機は、ハイブリッド車両やアイドルストップ車両(アイドリング時にエンジンを停止させる車両)等の空調用冷凍サイクル装置の圧縮機に適用されるものである。
【0018】
まず、車両空調用の冷凍サイクル装置1の主要構成について図1に基づいて説明する。ここで、図1は、車両空調用の冷凍サイクル装置の模式図である。
【0019】
図1に示すように、車両空調用の冷凍サイクル装置1は、エンジンルーム内に配置される電動圧縮機2を有して構成されている。電動圧縮機2は、後述する蒸発器6下流側の冷媒を吸入圧縮するもので、内蔵する電動モータ30により圧縮機構20が駆動される。電動圧縮機2の詳細については後述する。
【0020】
電動圧縮機2の吐出側は、凝縮器3入口側に接続されている。この凝縮器3は、エンジンルーム内にてエンジン8と車両フロントグリル(図示せず)との間に配置されており、電動圧縮機2から吐出された冷媒と送風ファン(図示せず)により送風された外気と熱交換させて、冷媒を冷却する熱交換器である。
【0021】
凝縮器3の出口側は、気液分離器4の入口側に接続されている。気液分離器4は、凝縮器3で冷却された冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離するものである。気液分離器4の液相冷媒出口側は、膨張弁5に接続されている。
【0022】
膨張弁5は、気液分離器4で分離された液相冷媒を減圧膨張させるとともに、膨張弁5出口側から流出する冷媒の流量を調整するものである。なお、膨張弁5は、電動圧縮機2と後述する蒸発器6間の冷媒温度を検出する感温筒5aを有しており、電動圧縮機2に吸入される冷媒の温度と圧力とに基づいて圧縮機吸入側冷媒の過熱度を検出し、この過熱度が予め設定された所定値となるように弁開度を調整している。
【0023】
膨張弁5の下流側は、蒸発器6に接続されている。蒸発器6は、空調ユニットの空調ケース7内に配置されており、膨張弁5にて減圧膨張された冷媒と空調ケース7内に配置された送風ファン(図示せず)によって送風された送風空気とを熱交換させる熱交換器である。
【0024】
ここで、空調ケース7に設けられた周知の内外気切替箱(図示せず)から吸入された車室内の空気(内気)または車室外の空気(外気)が送風機(図示せず)により空調ケース7内を車室内へ向かって送風される。この送風空気は、蒸発器6を通過した後に、ヒータユニット(図示せず)を通過して吹出口から車室内に吹き出すようになっている。
【0025】
蒸発器6の下流側は、電動圧縮機2の後述する冷媒吸入口(図示せず)と接続されており、蒸発後の冷媒は再び電動圧縮機2に流入する。このように、冷凍サイクル装置1では、圧縮機2→凝縮器3→気液分離器4→膨張弁5→蒸発器6→電動圧縮機2の順で冷媒が循環するようになっている。
【0026】
次に、電動圧縮機の構成の詳細について図2、図3に基づいて説明する。図2は本実施形態に係る電動圧縮機の軸方向断面図、図3は本実施形態のインバータ装置の回路構成図である。
【0027】
図2に示すように、電動圧縮機2は、冷媒を吸入および吐出する圧縮機本体(ハウジング)10、圧縮機本体10内に吸入された冷媒を圧縮する圧縮機構20、圧縮機構20を駆動する電動モータ30、電動モータ30を駆動制御するインバータ装置(駆動回路)40等を備えている。ここで、本実施形態の電動圧縮機2は、圧縮機本体10内に圧縮機構20、電動モータ30、およびインバータ装置(駆動回路)40が、同軸上に直列に並んで配置されている。
【0028】
本実施形態の圧縮機本体10は、例えば、アルミ合金材料からなり、圧縮機構20および電動モータ30が収納される本体ハウジング11とインバータ装置40が収納される回路ハウジング12で構成されている。
【0029】
ここで、本体ハウジング11は、蒸発器6下流側の冷媒を吸入する冷媒吸入口(図示せず)が回路ハウジング12側(図中右側)の側面に形成された円筒状の中間ハウジング111、凝縮器3側に冷媒を吐出する冷媒吐出口112aが形成された吐出側ハウジング112からなる。
【0030】
本体ハウジング11の中間ハウジング111の一端側は、回路ハウジング12にボルト等の締結手段(図示せず)で連結されている。また、中間ハウジング111の他端側は、ボルト13により吐出側ハウジング112に連結されている。
【0031】
ここで、回路ハウジング12の一端側(中間ハウジング111と連結された側)には、回路ハウジング12内と中間ハウジング111内との間を仕切る第1仕切り壁12aが一体に形成されている。
【0032】
また、回路ハウジング12の他端側は、閉鎖板14によって閉鎖されている。この閉鎖板14は、ボルト等の締結手段(図示せず)により回路ハウジング12に固定されている。回路ハウジング12内は、第1仕切り壁12aおよび閉鎖板14によって後述するインバータ装置40を収納する回路収納部12bが形成されている。
【0033】
本体ハウジング11の中間ハウジング111は、その内部に圧縮機構20と電動モータ30との間を仕切る第2仕切り壁17が設けられている。この第2仕切り壁17が、本発明の仕切り壁部に相当している。
【0034】
この第2仕切り壁17の電動モータ30側の端面には、その端面からシャフト31の回路ハウジング12側の一端に向かうとともに、シャフト31の外周面に沿って突出する円筒状の突出部26が形成されている。
【0035】
ここで、シャフト31は、回路ハウジング12側の一端(図中右側端)において後述するロータ33と連結されている。そのため、突出部26は、第2仕切り壁17の電動モータ30側の端面からシャフト31とロータ33の連結部位に向かって突出していることとなる。なお、シャフト31の一端側におけるロータ33との連結部からシャフト31の他端側の間に隙間が形成され、突出部26がシャフト31とロータ33との隙間に延在するように設けられている。
【0036】
また、突出部26の内周面には、シャフト31を回転可能に支持するすべり軸受19が設けられている。このすべり軸受19は、シャフト31の径方向に作用する荷重を支持するジャーナル軸受であり、シャフト31を回転可能に支持する主軸受を構成している。
【0037】
具体的には、すべり軸受19は、第2仕切り壁17の電動モータ30側端面の中央部からシャフト31とロータ33の連結部位側にまで延出するように配置されている。これにより、主軸受19によるシャフト31の軸受幅を拡大することができる。従って、ロータ33の回転によってシャフト31に作用する回転モーメントをすべり軸受19のみで吸収することが可能となり、シャフト31に作用する回転モーメントの低減が可能となる。
【0038】
また、すべり軸受19は、電動モータ30の内部(後述するステータ32、ロータ33の径方向内側)に設けられている。換言すれば、シャフト31の径方向から見た場合に、ステータ32、ロータ33、およびすべり軸受19は、互いに重なるように配置されている。
【0039】
ここで、第2仕切り壁17に形成された突出部26は、内部が中空となっており、突出部26を介して中間ハウジング111における圧縮機構20側と電動モータ30側とが連通している。この突出部26の内部を介して、シャフト31におけるロータ33に連結された一端(図中右側の端部)の反対方向の他端(図中左側の端部)が圧縮機構20側に延出している。
【0040】
また、第2仕切り壁17には、圧縮機構20に冷媒を供給するための供給孔(図示せず)が形成されている。本体ハウジング11の吐出側ハウジング112は、第2仕切り壁17の供給孔等を介して中間ハウジング111内に連通している。
【0041】
ここで、吐出側ハウジング112の側面(周面)には、冷媒吐出口112aが設けられている。そして、冷媒吐出口112aには、オイルセパレータ112bが設けられている。このオイルセパレータ112bにより圧縮機構20から吐出された冷媒中に含まれるオイルを分離して、オイル戻し流路(図示せず)を介して冷媒吸入口等に戻すようになっている。
【0042】
次に、本実施形態の圧縮機構20は、周知のスクロール型の圧縮機構を用いており、中間ハウジング111内の吐出側ハウジング112側に配置された固定スクロール部材(固定部)21、固定スクロール部材21と第2仕切り壁17との間に配置された可動スクロール部材(可動部)22等からなる。
【0043】
固定スクロール部材21は、焼き嵌めにより中間ハウジング111および吐出側ハウジング112に固定されている。固定スクロール部材21は、円盤状の基板21a、基板21aの一端面から突出した渦巻状のスクロール歯部21bからなる。一方、可動スクロール部材22は、円盤状の基板22a、基板22aの一端面から突出した渦巻状のスクロール歯部22bからなる。
【0044】
固定スクロール部材21と可動スクロール部材22とは、スクロール歯部21b、22bが、互いに噛み合わされているとともに、各スクロール歯部21b、22bの先端面が相手のスクロール部材21、22の基板21a、22aと当接されている。
【0045】
したがって、固定スクロール部材21の基板21aおよびスクロール歯部21bと、可動スクロール22の基板22aおよびスクロール歯部22bとにより、冷媒を圧縮する圧縮室20aを区画形成している。
【0046】
また、固定スクロール部材21の略中央には、吐出側ハウジング112内に連通する冷媒吐出用の貫通孔21cが設けられている。ここで、中間ハウジング111の側面に形成された冷媒吸入口から導入された冷媒は、中間ハウジング111内の冷媒流路(図示せず)→第2仕切り壁17の供給孔(図示せず)→圧縮室20a→貫通孔21cへと流れ、吐出側ハウジング112の冷媒吐出口112aから吐出されるようになっている。
【0047】
なお、中間ハウジング111内の冷媒流路は、冷媒吸入口から導入された低温の冷媒が第1仕切り壁12aに沿って流れるように配置され、第1仕切り壁12aを介して、インバータ装置40を冷却するようになっている。
【0048】
また、可動スクロール部材22における基板22aの他端面の中央部には電動モータ30側に延びるボス部22cが設けられている。このボス部22cの内周側に、可動スクロール部材22の旋回運動を受ける旋回軸受24が設けられている。
【0049】
この旋回軸受24に支持されるシャフト31の一端側(図中左側)に設けられたクランク部31aが、ボス部22cにて可動スクロール部材22に連結されている。ここで、クランク部31aは、シャフト31の回転中心から径外方側に偏心した位置に設けられている。
【0050】
ここで、シャフト31(クランク部31a)には、可動スクロール部材22がシャフト31周りを旋回する際に遠心力が作用するため、シャフト31の回転バランスが崩れる。そのため、遠心力を相殺するためのカウンタバランス23を、クランク部31aと旋回軸受24の間に介在させている。
【0051】
具体的に、カウンタバランス23は、重りとなるウェート部23aを有しており、このウェート部23aにより、シャフト31に作用する遠心力を相殺している。ここで、ウェート部23aは、旋回軸受24の外側であるボス部22cの外周側に配置されている。
【0052】
さらに、カウンタバランス23は、後述するステータ32におけるコイルエンド部323aの径方向内側に配置されている。つまり、シャフト31の軸方向から見た場合に、カウンタバランス23とコイルエンド部323aとが、重複するように配置されている。
【0053】
また、可動スクロール部材22と第2仕切り壁17との間には、可動スクロール部材22に形成された円環孔25aと、第2仕切り壁17に突設され、円環孔25aに沿って移動可能なピン25bとからなる周知の自転防止機構25が設けられている。この自転防止機構25により可動スクロール部材22は、シャフト31の回転とともに自転せずにシャフト31周りを公転(旋回)することとなる。
【0054】
次に、電動モータ30について説明すると、本実施形態の電動モータ30は、インナロータ型電動モータを採用している。
【0055】
電動モータ30は、シャフト31、中間ハウジング111に対して固定された円筒状のステータ32、およびステータ32の内周に所定のギャップ(間隙)を介して配置されたロータ33からなる。ここで、本実施形態の電動モータ30は、U相、V相、W相からなるブラシレスDCモータを用いている。
【0056】
上記ステータ32は、ステータコア(鉄心)322、ステータコア322の外周に巻き付けられた各相のコイル(巻線)323を有している。ここで、ステータコア322の外周側には、図示しない複数のスロット(溝部)が設けられ、この複数のスロットに各相のコイル323が巻回されている。なお、ステータ32は、焼き嵌めにより中間ハウジング111に固定されている。
【0057】
本実施形態のコイル323は、コイルエンド部323aが、ステータコア322においてシャフト31の軸方向の両端側からはみ出している。なお、コイルエンド部323aは、ステータコア322に巻き付けられたコイル323におけるステータコア322から軸方向にはみ出した部位を言う。
【0058】
次に、ロータ33は、シャフト31と一体に回転するように、シャフト31の回路ハウジング12側の端部にキー部材34を介して連結されている。ここで、上述のようロータ33とシャフト31との間には、ロータ33とシャフト31との連結部位からシャフト31の他端側に亘って隙間が形成され、当該隙間に突出部26が延在している。
【0059】
ロータ33は、内周面の一端がシャフト31とキー部材34を介して連結されるとともに、外周面がステータ32の内周面と対向するように形成された円環状の保持部331、および保持部331の外周面に保持されるロータ磁極332を有している。
【0060】
このロータ磁極332は、永久磁石等で構成されている。また、ロータ磁極332は、保持部331端部の周方向に交互に異なる磁極を有しており、所定のギャップ(間隙)を介してステータ32の外周に対向するように配置されている。
【0061】
ここで、電動圧縮機2にスクロール型の圧縮機構20を採用する際には、可動スクロール部材22の旋回運動により崩れたシャフト31の回転バランスを調整するため、上述のカウンタバランス23に加えて、ロータ33にバランスウェートを設ける場合がある。
【0062】
本実施形態では、ロータ33の保持部331における回路ハウジング12側に面する外面、および吐出側ハウジング13側に面する外面のそれぞれにバランスウェート333を設ける構成としている。
【0063】
次に、インバータ装置40は、電動モータ30の駆動を制御するもので、回路ハウジング12の回路収納部12b内に配置されている。インバータ装置40は、電動モータ30内のロータ33の回転位置によって電流を流すステータ32のコイル323を切替えるモータ駆動回路41、モータ駆動回路41に供給する電流を制御する制御回路42、電動モータ30へ電気的に接続するための出力端子43等からなる。
【0064】
このモータ駆動回路41の最も発熱するパワー素子41aは、回路ハウジング12の第1仕切り壁12aに直接取り付けられ、吸入冷媒により第1仕切り壁12aを介して冷却される。また、制御回路42は、空気層44を介して冷却される。
【0065】
また、出力端子43は、回路ハウジング12の第1仕切り壁12aにおけるステータ32に対応する部位に形成された貫通孔12dを介して、電動モータ30のステータ32へ電気的に接続されている。
【0066】
ここで、インバータ装置40の回路について説明すると、例えば、図3に示すように、車両搭載のバッテリ等の直流電源44からコンデンサ45を介して供給される電流を、一対の直列に接続された半導体スイッチング素子46(UとX、VとY、WとZ)からなるモータ駆動回路41により、三相交流モータのU相、V相、W相用の電流として取り出して、電動モータ30に供給する。そして、主制御装置(空調装置のECU)47からの指令によって、電動モータ30に供給する電流を制御回路42によって制御している。
【0067】
上記構成の電動圧縮機2において、インバータ装置40から電動モータ30のステータ32に電流が供給されると、電動モータ30のロータ32がステータ32の内側を回転し、圧縮機構20が駆動する。
【0068】
圧縮機構20の駆動により、中間ハウジング111に形成された冷媒吸入口から冷媒が導入される。そして、中間ハウジング111内の冷媒流路および供給孔を介して圧縮機構20内に冷媒が供給され、圧縮機構20で冷媒が圧縮される。圧縮機構20で圧縮された冷媒は、固定スクロール部材21の貫通孔21cを介して吐出側ハウジング112の冷媒吐出口から吐出される。
【0069】
以上説明したように、本実施形態の電動圧縮機2は、電動圧縮機2のシャフト31を支持するすべり軸受(主軸受)19をロータ33とシャフト31との間の隙間に配置することで、従来の電動圧縮機の如く、シャフトを支持する主軸受と電動モータとが軸方向に直列に並んで配置される構成に比べて、電動圧縮機2の軸方向(シャフト31の軸方向)の寸法を短縮することができる。
【0070】
また、すべり軸受19をシャフト31の軸方向に延出するように配置することで、すべり軸受19によるシャフト31の軸受幅を拡大することができる。従って、ロータ33の回転によってシャフト31に作用する回転モーメントをすべり軸受19のみで吸収することが可能となり、シャフト31に作用する回転モーメントを低減することができる。その結果、シャフト31をすべり軸受19のみで支持することが可能となり、従来の電動圧縮機の如く、シャフトをシャフト両端に配置した一対の主軸受で支持する構成に比べて、電動圧縮機2の軸方向の寸法を短縮することができる。
【0071】
さらに、カウンタバランス23をステータ32の径方向内側に配置することができるため、従来の電動圧縮機の如く、ステータとカウンタバランスとが軸方向に直列に並ぶように配置した構成に比べて、電動圧縮機2の軸方向の寸法を短縮することができる。
【0072】
さらにまた、本実施形態によれば、従来の電動圧縮機に比べて、電動圧縮機2の軸方向寸法を短縮することで、圧縮機本体10に必要となる材料を削減等によるコストダウン、電動圧縮機2の重量低減等も図ることができる。
【0073】
このように、本実施形態の電動圧縮機2では、電動圧縮機2の車両搭載性を大幅に向上させることができる。そのため、エンジン駆動式の圧縮機の軸方向寸法と同程度の寸法にまで電動圧縮機2の体格を短縮することも可能となり、エンジンルーム内のレイアウト変更等の煩雑な作業を伴うことなく電動圧縮機2の搭載が可能となる。
【0074】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、以下のように種々変形可能である。
【0075】
(1)上述の実施形態では、圧縮機構20、電動モータ30、インバータ装置40をシャフト31の軸方向に直列に並べて連結しているが、これに限定されるものではない。例えば、インバータ装置40を本体ハウジング11の側面(シャフト31の径方向の外周面)等に配置する構成であってもよい。
【0076】
(2)上述の実施形態では、電動圧縮機2のシャフト31を回転可能に支持する主軸受をすべり軸受19で構成する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、主軸受としてニードルベアリング(針状ころ軸受)や玉軸受等を採用してもよい。
【0077】
(3)上述の実施形態では、電動圧縮機2は、内蔵する電動モータ30により圧縮機構20を駆動する例について説明したが、圧縮機構20を駆動する電動モータ30を内蔵したあらゆる電動圧縮機に適用してもよい。例えば、電動モータ30に加え、エンジン8によっても圧縮機構20を駆動可能な電動圧縮機(ハイブリッド型)等に適用してもよい。
【0078】
(4)上述の実施形態では、圧縮機構20としてスクロール型の圧縮機構を用いる例について説明したが、これに限定されるものではなく、ベーン型の圧縮機構等その他の圧縮機構を有する電動圧縮機に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施形態に係る車両空調用冷凍サイクル装置の模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る電動圧縮機の軸方向断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るインバータ装置の回路構成図である。
【符号の説明】
【0080】
2 電動圧縮機
10 圧縮機本体(ハウジング)
11 本体ハウジング
12 回路ハウジング
19 すべり軸受(主軸受)
20 圧縮機構
21 固定スクロール部材(固定部)
22 可動スクロール部材(可動部)
23 カウンタバランス
24 旋回軸受
30 電動モータ
31 シャフト
32 ステータ
33 ロータ
40 インバータ装置(駆動回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両空調用冷凍サイクル装置に適用される電動圧縮機であって、
ハウジング(10)と、
前記ハウジング(10)内に設けられて冷媒を吸入圧縮する圧縮機構(20)と、
前記ハウジング(10)内に設けられて電力供給により動力を発生させる電動モータ(30)と、
前記電動モータ(30)から前記圧縮機(20)に前記動力を伝達するシャフト(31)と、
前記ハウジング(10)に固定されるとともに、前記シャフト(31)を回転可能に支持する主軸受(19)とを備え、
前記電動モータ(30)は、前記ハウジング(10)に固定されたステータ(32)、および前記ステータ(32)内を回転するロータ(33)を含んで構成され、
前記ロータ(33)は、シャフト(31)の軸方向の一端側に連結されて前記シャフト(31)と一体に回転するように構成され、
前記主軸受(19)は、前記ロータ(33)の径方向内側に配置されていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記ハウジング(10)には、前記圧縮機構(20)と前記電動モータ(30)との間を仕切る仕切り壁部(17)が設けられており、
前記仕切り壁部(17)における前記電動モータ(30)側の端面には、前記シャフト(31)における前記ロータ(33)と連結された一端側に向かうとともに、前記シャフト(31)の外周面に沿って突出する円筒状の突出部(26)が形成され、
前記主軸受(19)は、前記突出部(26)の内周面に設けられて前記シャフト(31)を回転可能に支持していることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記主軸受(19)は、前記仕切り壁部(17)から前記シャフト(31)における前記ロータ(33)と連結された一端側にまで延出するように配置されることを特徴とする請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記ステータ(32)は、前記ステータコア(322)および前記ステータコア(322)に巻き付けられたコイル(323)を有し、
前記シャフト(31)は、前記シャフト(31)における前記ロータ(33)と連結された一端側の反対方向の他端側が前記突出部(26)を介して前記ハウジング(10)内の前記圧縮機構(20)側に延出し、
前記シャフト(31)における他端には、その回転中心から径外方側に偏心した位置にクランク部(31a)が設けられ、
前記圧縮機構(20)は、前記クランク部(31a)により旋回駆動される可動部(22)、および前記ハウジング(10)に固定された固定部(21)を有し、前記可動部(22)の旋回により冷媒を吸入圧縮するように構成され、
前記クランク部(31a)は、前記可動部(22)の旋回運動を受ける旋回軸受(24)を介して前記可動部(22)に連結され、
前記クランク部(31a)と前記旋回軸受(24)との間には、前記可動部(22)が前記シャフト(31)周りに旋回する際に、前記シャフト(31)に作用する遠心力を相殺するためのカウンタバランス(23)を介在させており、
前記カウンタバランス(23)のウェート部(23a)は、前記ステータ(32)における前記ステータコア(322)から前記シャフト(31)の軸方向に突出するコイルエンド部(323a)に対応する部位の径方向内側に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記主軸受(19)は、すべり軸受であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90855(P2010−90855A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263504(P2008−263504)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】