説明

電動工具

【課題】電動工具の大型化は抑えながら、スイッチング素子の冷却効率を高める。
【解決手段】本発明の電動工具は、胴部ハウジング30内に、ロータ6を筒型のステータ7で囲んで成るモータ1と、ロータ6の回転を制御するスイッチング素子11を有する回路基板10と、スイッチング素子11から伝熱される放熱部材12と、冷却風を生じさせる冷却ファン9と、冷却風が通過する冷却風路Rとを備える。冷却風路Rは、放熱部材12の中央側部分から外周部分へと流れた後に、回路基板10の前面を経由して流れるように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを備えた電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具においては、小型で高寿命なブラシレスモータが好適に用いられる。ブラシレスモータを用いる場合、スイッチング素子を設けた回路基板が必要となり、このスイッチング素子が発熱を生じることから、冷却対策が要求される。
【0003】
特許文献1には、スイッチング素子の発熱が伝導される放熱部材を備え、この放熱部材に冷却風を当てることで、スイッチング素子を冷却させるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−357371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の電動工具のように、放熱部材に冷却風を当てるだけでは、スイッチング素子の冷却効率として不十分な場合がある。この場合、スイッチング素子自身からの放熱性を高めることも考えられるが、その場合にはスイッチング素子の配置をコンパクト化することが困難となり、装置全体の大型化を招く。
【0006】
本発明は前記問題点に鑑みて発明したものであって、装置全体の大型化は抑えながら、スイッチング素子の冷却効率を高めることのできる電動工具を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の電動工具を、下記構成を具備したものとする。
【0008】
本発明の電動工具は、胴部ハウジング内に、筒型のステータでロータを囲んで成るブラシレスモータと、前記ロータの回転を制御するスイッチング素子を有する回路基板と、前記スイッチング素子から伝熱される放熱部材と、冷却風を生じさせる冷却ファンと、前記冷却風が通過する冷却風路とを備え、前記冷却風路を、前記放熱部材の中央側から外周側へと流れた後に、前記回路基板の前記ブラシレスモータ側を向く面を経由して流れるように形成したものである。
【0009】
前記冷却風路は、前記回路基板の前記ブラシレスモータ側を向く面を経由した後に、前記ステータと前記ロータの隙間を経由して流れるように形成することが好ましい。
【0010】
また、前記胴部ハウジング内に、前記ロータに固着される回転軸を回転自在に支持するベアリングと、このベアリングを保持するベアリング保持部とを更に備え、前記冷却風路を、前記ベアリング保持部を通過するように形成することも好ましい。
【0011】
また、前記放熱部材は、前記冷却風路中の流れ方向に沿った突条部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、装置全体の大型化は抑えながら、スイッチング素子の冷却効率を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の電動工具の胴部を示す水平断面図である。
【図2】同上の電動工具の斜視図である。
【図3】同上の電動工具の一部破断した側面図である。
【図4】同上の電動工具内に収容されるモータブロックの斜視図である。
【図5】図4のモータブロックからベアリングと放熱部材と外した状態を示す斜視図である。
【図6】同上の放熱部材の背面図である。
【図7】同上の放熱部材の変形例の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。本発明の一実施形態の電動工具は、図1〜図3に示す可搬式の電動ドリルドライバ50である。
【0015】
電動ドリルドライバ50は、胴体部分の外郭をなす胴部ハウジング30を有し、この筒型の胴部ハウジング30内に、モータ収容スペースS1と機構収容スペースS2を一連に形成している。このモータ収容スペースS1内には、駆動源となるブラシレスモータ1(以下、単に「モータ1」という。)が配置される。機構収容スペースS2内には、動力伝達機構2が配置され、モータ1と同軸上で連結される。
【0016】
胴部ハウジング30の先端部には、先端工具(図示せず)を保持するチャック部3を備えている。動力伝達機構2は遊星減速装置を用いて形成され、チャック部3が保持した先端工具に対して、モータ1の動力を伝達する。更に、胴部ハウジング30の外周部には、トルクリミッターの調整ハンドル4を設けている。
【0017】
胴部ハウジング30からは、把持部ハウジング31が延設されている。この把持部ハウジング31の付け根部分に、トリガスイッチ25と正逆切替レバー26を設けている。把持部ハウジング31の先端部分には、モータ1への電力供給を制御する制御回路5を収容している。把持部ハウジング31の先端面には、二次電池を内蔵した電池パック32が着脱自在に装着される。電池パック32内の二次電池は、トリガスイッチ25を介して、制御回路5やモータ1に電力を供給する。
【0018】
なお、本明細書中においては、モータ1に対して動力伝達機構2が位置する方向を前側、その逆側を後側とする。また、胴部ハウジング30から把持部ハウジング31が延設される側を下側、その逆側を上側とし、この上下方向と前後方向に直交する方向を、左右方向とする。
【0019】
モータ1は、マグネットを保持するロータ6と、コイルを保持するステータ7とを備え、ロータ6を円筒型のステータ7で囲んで配置される。ロータ6の中心には、回転軸8が貫通固定されている。ステータ7が保持するコイルへの通電を制御することで、電磁力によりロータ6と回転軸8が一体に回転駆動される。
【0020】
回転軸8は、ロータ6やステータ7より前方にまで突出しており、その前端部分において動力伝達機構2に連結される。また、回転軸8の前方に突出した部分には、冷却ファン9を固定している。この冷却ファン9は、冷却風を発生させるための遠心ファンであり、回転に伴って後方スペースにある空気を前方に引き込み、径方向外側にむけて放出する。
【0021】
回転軸8は、ロータ6やステータ7より後方にも突出しており、その後端部において、ベアリング13に回転自在に支持される。後述の回路基板10や放熱部材12の中心部には、回転軸8を挿通させる貫通孔内を設けている。
【0022】
回路基板10は、複数のスイッチング素子11を、その後面上に寝かせた姿勢で実装させている。スイッチング素子11は、ステータ7が保持するコイルへの通電を制御することによって、ロータ6の回転を制御するものである。回路基板10は、モータ1の後端面に対してその前面が一定のスペースを保ちながら対向するように、モータ1に固定される。回路基板10の後方には、板状の放熱部材12が更に固定される。この放熱部材12の前面と複数のスイッチング素子11との間には、両者12,11の間に空気層が生じないように、柔軟性のある伝熱体を挟み込む。
【0023】
図4にも示すように、モータ1、回転軸8、冷却ファン9、回路基板10、放熱部材12及びベアリング13は、モータブロック40として一体に組立てられ、胴部ハウジング30内のモータ収容スペースS1に収容される。図5に示すものは、図4のモータブロック40からベアリング13と放熱部材12を外したものである。
【0024】
図1に示すように、胴部ハウジング30の後端部には、ベアリング13を保持するための円筒型のベアリング保持部14を、一体に形成している。また、胴部ハウジング30の後端部の、ベアリング保持部14を囲む箇所には、風路R1が形成されている。この風路R1は、吸気口15からベアリング保持部14の外周を経てモータ収容スペースS1の後端につながるように、断面L字状に形成されている。風路R1の上流端にある吸気口15は、胴部ハウジング30の後端部の左右両側面に開口している。また、風路R1の下流端にある出口17は、ベアリング保持部14の先端部を囲む位置にて、前方のモータ収容スペースS1にむけて開口している。
【0025】
モータ収容スペースS1内にモータブロック40が収容された状態において、放熱部材12の中央側部分(中心にある貫通孔の近傍部分)は、風路R1の出口17と対向して位置する。また、スイッチング素子11を挟んだ状態で並設される回路基板10と放熱部材12においては、両部材10,12の外周縁と胴部ハウジング30内面との間に、冷却風通過のためのスペースを確保している。冷却風を胴部ハウジング30外に排出するための排気口18は、冷却ファン9の径方向外側の位置に設けている。
【0026】
したがって、モータ1の前方に位置する冷却ファン9が回転すると、この回転によって冷却風が発生する。冷却風は、胴部ハウジング30内に形成された冷却風路Rを、後方から前方へと順次通過する(図1中の矢印参照)。冷却風路Rは、吸気口15とこれより前方の排気口18とを連通させる一連のスペースから成る。
【0027】
具体的には、冷却風路Rは、胴部ハウジング30の後端部に貫通形成した風路R1と、放熱部材12の中央側部分からこの放熱部材12及び回路基板10の周縁を迂回するように設けた風路R2と、ロータ6とステータ7の隙間19から成る風路R3と、この隙間19と排気口18をつなぐように設けた風路R4とが、後方から前方へと連続したものである。
【0028】
冷却風路Rを流れる冷却風は、まず吸気口15を通じて風路R1内に導入され、風路R1中において、筒型のベアリング保持部14の外側面を通過する。このとき、ベアリング保持部14及びベアリング13の冷却が行われる。
【0029】
風路R1の出口17から風路R2内に吐出された冷却風は、風路R2内にて放熱部材12の後面の中央側部分に当り、放熱部材12の後面に沿って中央側から径方向外側へと移動し、放熱部材12と回路基板10の外周縁を迂回しながら前方へと移動する。その後、冷却風は、回路基板10の前面に沿って径方向内側へと移動し、風路R3に至る。風路R3を通過して前方の風路R4に至れば、冷却ファン9を経て、排気口18から胴部ハウジング30外に排出される。
【0030】
前記冷却風路Rを冷却風が通過する際に、この冷却風は、放熱部材12の後面を中央側から外周側へと通過して熱を奪うだけでなく、スイッチング素子11が実装される回路基板10の前面(即ち、スイッチング素子11を実装する面の裏面)を外周側から中央側へと移動することによっても熱を奪う。したがって、放熱部材12と回路基板10に挟まれるスイッチング素子11は、両側から効果的に冷却される。さらに、この冷却風はロータ6とステータ7の隙間19を通過するので、モータ1内部についても効果的に冷却される。
【0031】
更に、図6にも示すように、放熱部材12の後面には突条部20を形成している。この突条部20は、左右方向を長手方向とする突条を、上下方向に所定の隙間をあけながら多数形成したものである。各突条は、冷却風路Rのこの箇所での流れ方向と沿うように、後面の中央側から外周側にむけて伸びている。したがって、この突条部20が放熱部材12上での冷却風をガイドして流れを円滑にし、更に、放熱面積の増大によって冷却効率を向上させる。
【0032】
この突条部20は、図7に示すような放射状の構造であってもよい。この構造では、放熱部材12の後面の中央部から放射状に伸びるように、多数の突条を形成している。
【0033】
以上、説明したように、本発明の一実施形態の電動工具である電動ドリルドライバ50は、胴部ハウジング30内に、筒型のステータ7でロータ6を囲んで成るモータ1と、ロータ6の回転を制御するスイッチング素子11を有する回路基板10と、スイッチング素子11から伝熱される放熱部材12と、冷却風を生じさせる冷却ファン9と、冷却風が通過する冷却風路Rとを備える。そして、冷却風路Rを、放熱部材12の中央側から外周側へと流れた後に、回路基板10のモータ1側を向く面(回路基板10の前面)を経由して流れるように形成している。
【0034】
したがって、この電動ドリルドライバ50では、放熱部材12側に加えて回路基板10側からも、冷却風によってスイッチング素子11を効率的に冷却することができる。そして、このようにして冷却効率を向上させたことにより、スイッチング素子11自体の放熱性はそれほど必要でなくなり、結果的に、多数のスイッチング素子11を省スペースで配置することが可能となる。
【0035】
また、この電動ドリルドライバ50では、冷却風路Rを、回路基板10のモータ1側を向く面(回路基板10の前面)を経由した後に、ステータ7とロータ6の隙間19を経由して流れるように形成している。
【0036】
これにより、モータ1内部を効果的に冷却することも可能となっている。
【0037】
更に、胴部ハウジング30内には、ロータ6に固着される回転軸8を回転自在に支持するベアリング13と、このベアリング13を保持するベアリング保持部14とを更に備え、冷却風路Rを、ベアリング保持部14を通過するように形成している。
【0038】
これにより、ベアリング保持部14やこれが保持するベアリング13を、効果的に冷却することも可能となっている。
【0039】
更に、放熱部材12は、冷却風路R中の流れ方向に沿った突条部20を有する。
【0040】
これにより、冷却風をガイドしながら効率的に放熱を行うことが可能となっている。
【0041】
以上、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、適宜の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ブラシレスモータ
6 ロータ
7 ステータ
8 回転軸
9 冷却ファン
10 回路基板
11 スイッチング素子
12 放熱部材
13 ベアリング
14 ベアリング保持部
20 突条部
30 胴部ハウジング
31 把持部ハウジング
50 電動ドリルドライバ
R 冷却風路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部ハウジング内に、筒型のステータでロータを囲んで成るブラシレスモータと、前記ロータの回転を制御するスイッチング素子を有する回路基板と、前記スイッチング素子から伝熱される放熱部材と、冷却風を生じさせる冷却ファンと、前記冷却風が通過する冷却風路とを備え、前記冷却風路を、前記放熱部材の中央側から外周側へと流れた後に、前記回路基板の前記ブラシレスモータ側を向く面を経由して流れるように形成したことを特徴とする電動工具。
【請求項2】
前記冷却風路を、前記回路基板の前記ブラシレスモータ側を向く面を経由した後に、前記ステータと前記ロータの隙間を経由して流れるように形成したことを特徴とする請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記胴部ハウジング内に、前記ロータに固着される回転軸を回転自在に支持するベアリングと、このベアリングを保持するベアリング保持部とを更に備え、前記冷却風路を、前記ベアリング保持部を通過するように形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記放熱部材は、前記冷却風路中の流れ方向に沿った突条部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−196745(P2012−196745A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63609(P2011−63609)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(509119153)パナソニックESパワーツール株式会社 (107)
【Fターム(参考)】