説明

電動式ブレーキ装置

【課題】本発明は、電動式ブレーキ装置に関し、ブレーキモータを動力源として制動力を発生する電動式ブレーキ装置に関し、不必要な電力の消費を抑制することで優れた省電力特性を確保することにある。
【解決手段】ブレーキモータ46〜52を動力源として制動力を発生するブレーキ機構を各車輪に設ける。ストロークセンサ20を用いてペダルストロークSを検出する。通常時には、ペダルストロークSに応じたモータ電流IMを各車輪のブレーキモータ46〜52に供給する。車両が停車しており、かつ、車両を停車状態に維持するために過剰なブレーキ操作が行われている場合には、モータ電流IMを、強制的に、車両を停車させるために必要な最小限のモータ電流に変更する。また、最小モータ電流IMが供給されている状態で車両の停車状態が解除された場合には、モータ電流IMを、最小モータ電流からペダルストロークに応じた値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式ブレーキ装置に係り、特に、ブレーキモータを動力源として制動力を発生する電動式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される電動式ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記従来の装置は、ディスクブレーキを備えている。このディスクブレーキは、ブレーキモータを内蔵する電動キャリパと、車輪と共に回転するディスクロータとにより構成されている。ブレーキモータは、外部から電力が供給されることにより、ディスクロータを挟持する力を発生する。従って、上記従来の装置によれば、ブレーキモータを適当に制御することで、電気的に制動力を発生することができる。
【特許文献1】実開平5−22234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両を運転する運転者は、車両の停車中に長時間にわたってブレーキペダルを踏み込んだ状態に維持する場合がある。この場合、上記従来の装置では、ブレーキモータに継続的に多量のモータ電流が供給されることがある。また、上記従来の装置では、車両の衝突等により例えば電気回路にショートが生じた場合にも、ブレーキモータに継続的に多量のモータ電流が供給されることがある。
【0004】
車両が停車している場合や車両が衝突した後には、車両において大きな制動力を発生させる必要はない。この点、上記従来の装置では、これらの状況下で不必要に多量の電力が消費されてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、不必要に電力を消費することなく適切に制動力を発生する電動式ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は、ブレーキモータを動力源として制動力を発生するブレーキアクチュエータを備える電動式ブレーキ装置において、運転者によるブレーキペダルの操作量に応じて車両において要求される制動力が発生するように前記ブレーキモータに供給されるモータ電流を制御する通常制御手段と、車両が停車したか否かを判別する停車状態判別手段と、前記停車状態判別手段により車両が停車したと判別された後、運転者によるブレーキペダルの操作量が車両の停車を維持するのに必要な停止維持制動力を発生させるための所定値を越えている場合に、前記ブレーキモータへのモータ電流を、前記通常制御手段によるモータ電流よりも小さい前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流に抑制するモータ電流抑制手段と、を備える電動式ブレーキ装置により達成される。
【0007】
この態様の発明において、通常の状況下では、運転者のブレーキ操作量に応じて車両に要求される制動力が発生するように、ブレーキモータに対してモータ電流が供給される。従って、ブレーキ操作によって比較的大きな制動力が要求される場合、多量のモータ電流がブレーキモータに供給される。この場合には、大きな電力消費を伴って大きな制動力が発生する。
【0008】
また、この態様の発明においては、車両が停車した後、運転者によるブレーキペダルの操作量が車両の停車を維持するのに必要な停止維持制動力を発生させるための所定値を越えている場合には、ブレーキモータに供給されるモータ電流を抑制する処理が実行される。ところで、車両の停車中は、車両を停車状態に維持するために必要な制動力を越える制動力を発生させる必要はない。そこで、上記したモータ電流の抑制は、その車両の停車を維持するのに必要な制動力が確保されるように行われる。モータ電流の抑制が上記の如く行われると、車両を停車状態に維持しつつ、消費電力の低減を図ることが可能となる。従って、本発明によれば、車両を停車状態に維持しつつ、車両の挙動に何ら影響を与えることなく優れた省電力特性を実現することができる。尚、「通常制御手段」の実行中は、運転者の制動要求値(ペダルストロークやペダル踏力)とモータ電流との間に予め設定された関係が成立するように(既定のマップに従うように)モータ電流の値が決定される。また、「モータ電流の抑制」は、モータ電流が上記の関係に従って決定される値に比して小さい値に設定されることにより実現される。
【0009】
この場合、上記した電動式ブレーキ装置において、前記モータ電流抑制手段は、前記停車状態判別手段により車両が停車したと判別された後、運転者によるブレーキペダルの操作量が前記所定値を越える継続時間が所定時間に達した場合に、前記ブレーキモータへのモータ電流を、前記通常制御手段によるモータ電流よりも小さい前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流に抑制することとしてもよい。
【0010】
また、上記した電動式ブレーキ装置において、前記モータ電流抑制手段により前記モータ電流が抑制されている状況下で、車両が停車状態から走行状態に切り替わったと判別された場合に、前記モータ電流を前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流から増大させるモータ電流増大手段を備える電動式ブレーキ装置は、停車後に不意に動き始めた車両を早期に停車させるうえで有効である。
【0011】
この態様の発明において、モータ電流を抑制する処理が行われている場合に車両の停車状態が解除され車両が動き始めると、抑制されていたモータ電流を増大させる処理が行われる。車両が停止している状態から不意に動き始めた場合には、車両を早期に停車させることが必要である。従って、抑制されていたモータ電流を増大することとすれば、車両を停車状態に維持するために必要な制動力を越える制動力が発生することで、不意に動き始めた車両を早期に停車させることが可能となる。
【0012】
尚、上記した電動式ブレーキ装置において、前記モータ電流抑制手段によるモータ電流の抑制を一部のブレーキモータでのみ行うこととすれば、かかる一部のブレーキモータの過熱が有効に防止されると共に、電動式ブレーキ装置の省電力特性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両が停車した後にモータ電流の抑制を図ることにより、車両を停車状態に維持しつつ、ブレーキモータの過熱を有効に防止すると共に、車両の挙動に影響を与えることなく優れた省電力特性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を用いて、本発明の具体的な実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の第1実施例である電動式ブレーキ装置のシステム構成図を示す。本実施例の電動式ブレーキ装置は、電子制御ユニット(以下、ECUと称す)10を備えている。本実施例の電動式ブレーキ装置は、ECU10により制御されることにより、ブレーキ操作量等に応じた制動力を発生する。
【0016】
本実施例の電動式ブレーキ装置は、ブレーキペダル12を備えている。ブレーキペダル12は、作動軸14を介してストロークシミュレータ16に連結されている。ブレーキペダル12が運転者によって踏み込まれると、作動軸14がストロークシミュレータ16に進入する。ストロークシミュレータ16は、作動軸14の進入量に応じた反力を発生する。このため、ブレーキペダル12には、ペダルストローク(S)に応じた反力が発生する。
【0017】
ブレーキペダル12の近傍には、ペダルスイッチ18が配設されている。ペダルスイッチ18は、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されている場合にオフ状態を維持し、ブレーキペダル12の踏み込みが行われている場合にオン信号を出力する。ペダルスイッチ18の出力信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、ペダルスイッチ18の出力信号に基づいてブレーキ操作が行われているか否かを判断する。
【0018】
作動軸14には、ストロークセンサ20が配設されている。ストロークセンサ20は、ペダルストロークSに応じた電気信号を出力する。ストロークセンサ20の出力信号は、ECU10に供給されている。ECU10は、ストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークSを検出する。
【0019】
ECU10には、エアバッグECU22が接続されている。エアバッグECU22は、車両の衝突を検知してエアバッグの展開を指令するための電子制御ユニットである。本実施例において、ECU10には、エアバッグECU22が発するエアバッグ展開指令信号が供給される。ECU10は、エアバッグ展開指令信号を受信することにより車両の衝突を検知する。
【0020】
ECU10には、ヨーレートセンサ24、前後加速度センサ26、および横加速度センサ28が接続されている。ヨーレートセンサ24は、車両のヨーレートγに応じた電気信号を出力する。前後加速度センサ26および横加速度センサ28は、それぞれ、車両の前後方向または車幅方向の加速度Gx,Gyに応じた電気信号を発生する。ECU10は、それらの出力信号に基づいて車両の走行状態を検出する。
【0021】
ECU10には、また、車速センサ30〜36が接続されている。車速センサ30〜36は、それぞれ、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、または右後輪RRに配設されている。車速センサ30〜36は、各車輪の速度Vi(i=1,2,3,4)に応じた周期でパルス信号を出力する。ECU10は、各車輪の速度Viに基づいて車両の車速SPDを検出する。
【0022】
ECU10には、更に、駆動回路38,40が接続されている。駆動回路38,40には、それぞれ第1バッテリ42の正極端子または第2バッテリ44の正極端子が接続されている。また、駆動回路38には、右前輪FRに配設されるブレーキモータ46および左後輪RLに配設されるブレーキモータ48が接続されている。一方、駆動回路40には、左前輪FLに配設されるブレーキモータ50および右後輪RRに配設されるブレーキモータ52が接続されている。
【0023】
駆動回路38,40は、第1バッテリ42または第2バッテリ44を電力供給源として、ブレーキモータ46〜52を駆動する回路である。駆動回路38,40は、ECU10から供給される指令信号に応じてブレーキモータ46〜52をそれぞれ独立に制御することができる。
【0024】
左右前輪FL,FRには、ブレーキモータ46,50を動力源とするディスクブレーキが配設されている。また、左右後輪RL,RRには、ブレーキモータ48,52を動力源とするドラムブレーキが配設されている。これらのディスクブレーキおよびドラムブレーキは、ブレーキモータ46〜52の作動状態に応じた制動力を発生する。
【0025】
ブレーキモータ46〜52は、超音波モータで構成されている。すなわち、ブレーキモータ46〜52は、異なる位相で伸縮することにより回転波を発生する複数のPZT素子、および、上記の回転波が発生することにより回転する回転子を備えている。ブレーキモータ46〜52の回転子は、PZT素子が駆動されていない場合、すなわち、モータ電流が供給されていない場合には、回転子に作用する摩擦力により実質的に回転が禁止された状態となる。また、PZT素子にモータ電流が供給されている場合には、回転子にモータ電流に応じた回転トルクが発生する。
【0026】
左右前輪FL,FRに配設されたディスクブレーキ、および、左右後輪RL,RRに配設されたドラムブレーキには、ブレーキパッドと、ブレーキモータ46〜52の回転運動をブレーキパッドの変位に変換する変換機構とが設けられている。上記の変換機構によれば、ブレーキモータ46〜52にモータ電流が供給されている場合に、そのモータ電流に応じた押圧力をブレーキパッドに伝達することができる。また、上記の変換機構によれば、ブレーキモータ46〜52にモータ電流が供給されていない場合に、ブレーキパッドの位置を、モータ電流の供給が停止される以前の位置に保持することができる。
【0027】
左右前輪FL,FRに配設されたディスクブレーキ、および、左右後輪RL,RRに配設されたドラムブレーキは、ブレーキパッドに押圧力が伝達されている場合、その押圧力に応じた制動力を発生する。そして、適当な制動力が発生している状況下でブレーキパッドの位置が固定されると、以後、その制動力を維持する。従って、上述のディスクブレーキおよびドラムブレーキは、ブレーキモータ46〜52にモータ電流が供給されている場合は、そのモータ電流に応じた制動力を発生し、制動力が発生している状況下でモータ電流の供給が停止された場合は、以後、その制動力を維持する。
【0028】
本実施例において、ECU10は、ブレーキペダル12が踏み込まれた場合に、ペダルストロークSに基づいて運転者が要求する制動力を検出する。そして、その制動力と等しい制動力が車両に生ずるように、かつ、前輪の制動力と後輪の制動力とが所定の比率となるように、ブレーキモータ46〜52をそれぞれ制御する。従って、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、前輪および後輪に運転者のブレーキ操作量に応じた適切な制動力を発生させることができる。
【0029】
また、本実施例において、ECU10は、公知のアンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御と称す)や、公知の車両姿勢制御(以下、VSC制御と称す)等の制動力制御を実行する。これらの制動力制御は、車両の走行状態に応じて各車輪に発生させるべき目標制動力を演算し、各車輪の制動力がその目標制動力に一致するようにブレーキモータ46〜52を制御することにより実現される。
【0030】
ところで、車両を運転する運転者は、車両を停車状態に維持するためにブレーキペダル12を踏み込んだ状態で維持する場合がある。かかる状況下では、車両を停車状態に維持するために必要な制動力(以下、停止維持制動力と称す)を越える大きな制動力を発生させる必要はない。しかしながら、運転者の特性によって、このような状況下でブレーキペダル12が不必要に大きく踏み込まれることがある。
【0031】
ECU10は、ペダルストロークSに基づいてモータ電流を制御する。従って、車両の停車中にブレーキペダル12が大きく踏み込まれている場合には、各車輪のブレーキモータ46〜52に、不必要に大きなモータ電流が供給される事態が生ずる。本実施例の電動式ブレーキ装置は、上記の事態が継続している場合に不必要に電力が消費されることを防止すべく、車両の停車が認識された場合にモータ電流を必要最小限の電流値に制御する点に第1の特徴を有している。
【0032】
本実施例の電動式ブレーキ装置において、駆動回路38には、ブレーキモータ46に供給するモータ電流(以下、IM(FR)と記す)を制御する制御回路、および、ブレーキモータ48に供給するモータ電流(以下、IM(RL)と記す)を制御する制御回路が内蔵されている。同様に、駆動回路40には、ブレーキモータ50に供給するモータ電流(以下、IM(FL)と記す)を制御する制御回路、および、ブレーキモータ52に供給するモータ電流(以下、IM(RR)と記す)を制御する制御回路が内蔵されている。
【0033】
本実施例のシステムにおいて、例えば、車両の衝突等に起因してこれらの制御回路にショートが生ずると、各車輪のブレーキモータ46〜52に過剰なモータ電流IM(**)(**;FL,FR,RL,RR)が流通する事態が生ずる。本実施例において、駆動回路38,40は、上記の制御回路とブレーキモータ46〜52との間にリレーユニットを備えている。本実施例の電動式ブレーキ装置は、車両の衝突が検知された場合に、上記のリレーユニットを遮断状態とすることで、過剰なモータ電流IM(**)がブレーキモータ46〜52に流通することを防止する点に第2の特徴を有している。
【0034】
以下、図2を参照して、上述した特徴的機能を実現するための処理の内容について説明する。図2は、第1および第2の特徴的機能を実現すべくECU10が実行するメインルーチンのフローチャートを示す。図2に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動される定時割り込みルーチンである。図2に示すルーチンが起動されると、まずステップ100の処理が実行される。
【0035】
ステップ100では、エアバッグECU22から発せられたエアバッグ展開指令信号が受信されたか否かが判別される。エアバッグ展開指令信号は、車両に衝突が生じてエアバッグを展開する必要がある場合に出力される信号である。従って、エアバッグ展開指令信号が受信された場合には、その後、駆動回路38,40等に、モータ電流IM(**)が過剰に供給される原因となる故障が生じる可能性があると判断できる。本ステップ100でかかる判別がなされた場合には、次にステップ102の処理が実行される。
【0036】
ステップ102では、モータ電流IM(**)の出力を禁止するための処理、具体的には、駆動回路38,40に内蔵されるリレーユニットを遮断状態とする処理が実行される。本ステップ102の処理が実行されると、以後、ブレーキモータ46〜52へのモータ電流IM(**)の供給が禁止される。本ステップ102の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
【0037】
本実施例のシステムにおいて、各車輪に配設されるブレーキ機構は、適当な制動力を発生している状況下でモータ電流IM(**)の供給が停止されると、その後、モータ電流IM(**)の供給が停止される以前の制動力を維持する。従って、上記ステップ102の処理によれば、車両に衝突が生じる以前の制動力を維持しつつ、過剰なモータ電流IM(**)の流通を確実に防止することができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、車両に衝突が生じた場合に、必要な制動力を確保しつつ、不必要な電力の消費を確実に防止することができる。
【0038】
本ルーチンの実行中、上記ステップ100でエアバッグ展開指令信号が受信されていないと判別される場合には、次にステップ104の処理が実行される。ステップ104では、ペダルスイッチ18がオン信号を出力しているか否かが判別される。その結果、ペダルスイッチ18がオン信号を出力していないと判別される場合は、ブレーキ操作が行われていないと判断できる。この場合、以後、何ら処理が行われることなく今回のルーチンが終了される。一方、ペダルスイッチ18がオン信号を出力していると判別される場合には、次にステップ106の処理が実行される。
【0039】
ステップ106では、ストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークSが検出される。ステップ108では、(1)ペダルストロークSが所定値S0を越えており、かつ、(2)車速SPDが“0”であるか否かが判別される。所定値S0は、車両を安定して停車状態に維持するために必要な停止維持制動力を発生するためのペダルストロークである。尚、本実施例において、停止維持制動力は、想定される最大坂路(例えば30%坂路)で車両が安定した停車状態を確保することが可能な値に定められている。
【0040】
ブレーキモータ46〜52は、上記の停止維持制動力を発生させるためのモータ電流IM(**)(以下、最小モータ電流IM(**)MINと称す)を連続的に通電されることができるように設計されている。従って、上記(1)の条件(S>S0)が成立しないと判別される場合は、ブレーキモータ46〜52に過熱等の事態を生じさせることなく、ペダルストロークSに対応するモータ電流IM(**)をブレーキモータ46〜52に連続的に通電させ得ると判断することができる。
【0041】
更に、上記(1)の条件が成立しない場合は、ペダルストロークSに対応するモータ電流IM(**)をブレーキモータ46〜52に供給しても、不要な電力の消費は生じないと判断することができる。このため、上記(1)の条件が成立しない場合は、モータ電流IM(**)をペダルストロークSに対応する値に維持しても何ら不都合な事態は生じないと判断することができる。上記ステップ108で、かかる判別がなされた場合は、次にステップ110の処理が実行される。
【0042】
また、上記(2)の条件(SPD=0)が成立しないと判別される場合は、車両が走行中であると判断できる。車両の走行中は、ペダルストロークSに応じた制動力を発生させることが適切である。このため、上記(2)の条件が成立しない場合は、モータ電流IM(**)をペダルストロークSに応じた値に維持することが適切であると判断できる。上記ステップ108でかかる判別がなされた場合は、上記(1)の条件が成立しない場合と同様に、次にステップ110の処理が実行される。
【0043】
ステップ110では、減量カウンタCREDを“0”にリセットする処理が実行される。減量カウンタCREDは、上記ステップ108の条件(条件(1)および条件(2))が成立する継続時間を計数するためのカウンタである。
【0044】
ステップ112では、各車輪のブレーキモータ46〜52に供給すべきモータ電流IM(**)が演算される。本ステップ112において、モータ電流IM(**)は、ペダルストロークSに基づいて演算される。
【0045】
ステップ114では、上記ステップ112で演算されたモータ電流IM(**)を各車輪のブレーキモータ46〜52に流通させるための処理が実行される。本ステップ114の処理が実行されると、各車輪のブレーキ機構は、ペダルストロークSに応じた制動力を発生する。本ステップ114の処理が終了されると、今回のルーチンが終了される。
【0046】
上記の処理によれば、ペダルストロークSが所定値S0以下である場合、あるいは、車両が走行している場合に、運転者のブレーキ操作量に応じた制動力を発生させることができる。
【0047】
本ルーチンの実行中、上記ステップ108で、条件(1)(S>S0)および条件(2)(SPD=0)の両者が成立すると判別される場合は、車両が停止した後、運転者によって不必要に大きなブレーキ操作が行われていると判断できる。上記ステップ108でかかる判別がなされた場合には、次にステップ116の処理が実行される。
【0048】
ステップ116では、減量カウンタCREDを増加させる処理が実行される。この処理によれば、減量カウンタCREDには、上記ステップ108の条件が成立した後の継続時間が計数される。
【0049】
ステップ118では、減量カウンタCREDの計数値が所定値C0に達しているか否かが判別される。その結果、CRED≧C0が成立しないと判別される場合には、次に上記ステップ112の処理が実行される。一方、CRED≧C0が成立すると判別される場合には、次にステップ120の処理が実行される。
【0050】
ステップ120では、各ブレーキモータ46〜52に対して、最小モータ電流IM(**)MINを供給するための処理が実行される。最小モータ電流IM(**)MINは、上述の如く、停止維持制動力を得るために必要な最も小さいモータ電流IM(**)である。本ステップ120の処理が実行されると、以後、各車輪のブレーキ機構は、停止維持制動力を発生する。本ステップ120の処理が終了すると、今回のルーチンが終了される。
【0051】
上記の処理によれば、車両が停止した後に長時間にわたって運転者が不要に大きなブレーキ操作量を維持する場合に、モータ電流IM(**)を、強制的に最小モータ電流IM(**)MINに抑制することができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、不必要に電力を消費することなく、車両を安定して停車状態に維持することができる。
【0052】
また、上記の処理によれば、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいる状況下で車両が停車状態から走行状態に切り替わった場合に、モータ電流IM(**)を、最小モータ電流IM(**)MINから通常の値に変更させることができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、車両の停車中に後方から他の車両が追突してきた場合にブレーキモータ46〜52に供給するモータ電流IM(**)を大きくすることで、不意に動きだした車両を早期に停車させることが可能となる。
【0053】
また、本実施例において、駆動回路38,40は、上述の如く、ECU10から供給される指令信号に応じてブレーキモータ46〜52をそれぞれ独立に制御することができる。従って、最小モータ電流IM(**)MINは、定められた時間ごとに以下の(1)〜(4)に示す順序にしたがって、ブレーキモータ46〜52に供給される。尚、この制御は、上記したABS制御やVSC制御等の制動力制御に影響を与えないように行われる。
【0054】
(1)左右前輪FL,FRに配設されるブレーキモータ46,50に供給する。(2)左右後輪RL,RRに配設されるブレーキモータ48,50に供給する。(3)右前輪FR,左後輪RLに配設されるブレーキモータ46,48に供給する。(4)左前輪FL,右後輪RRに配設されるブレーキモータ50,52に供給する。
【0055】
上記の順序に従えば、最小モータ電流IM(**)MINが供給されるブレーキモータ46〜52の温度を低下させることができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、ブレーキモータ46〜52の過熱を防止すると共に、不必要に電力を消費することなく、車両を安定して停車状態に維持することができる。
【0056】
尚、車輪の組み合わせは、上記の組み合わせに限らず、左前輪FLと右後輪RRとを一方のペアとし、右前輪FRと左後輪RLとを他方のペアとして、最小モータ電流IM(**)MINを供給してもよいし、あるいは、4輪個別に1つずつ最小モータ電流IM(**)MINを供給してもよい。また、上記の実施例においては、最小モータ電流IM(**)MINを上記した(1)〜(4)の順序に従って供給することとしているが、最小モータ電流IM(**)MINを供給する順序はこれに限定されるものではなく、他の順序によって供給することとしてもよい。
【0057】
ところで、上記の実施例においては、ECU10が、上記ステップ106〜114の処理を実行することにより特許請求の範囲記載の「通常制御手段」が、上記ステップ108およびステップ116〜120の処理を実行することにより特許請求の範囲記載の「モータ電流抑制手段」が、上記ステップ108で車速SPDが“0”であるか否かを判別することにより特許請求の範囲記載の「停車状態判別手段」が、上記ステップ120の処理を実行した後に上記ステップ106〜114の処理を実行することにより特許請求の範囲記載の「モータ電流増大手段」が、それぞれ実現されている。
【0058】
尚、上記の実施例においては、運転者が操作したブレーキペダル12のブレーキ操作量をペダルストロークSに基づいて検出することとしているが、ブレーキ操作量を検出する手法はこれに限定されるものではなく、ブレーキ踏力センサを用いてブレーキ踏力を検出し、そのブレーキ踏力に基づいてブレーキ操作量を検出することとしてもよい。
【0059】
また、上記の実施例においては、車両の衝突が検知された場合に、駆動回路38,40に内蔵されるリレーユニットを遮断状態としてモータ電流IM(**)の供給を停止することとしているが、モータ電流IM(**)の供給を停止する手法はこれに限定されるものではなく、例えば、第1バッテリ42と駆動回路38との間、および、第2バッテリ44と駆動回路40との間にリレーユニットを配設し、車両の衝突が検知された際にそれらのリレーユニットを遮断することでモータ電流IM(**)の供給を停止することとしてもよい。
【0060】
また、上記の実施例においては、車両の停車中に長時間にわたって不要に大きなブレーキ操作量が維持された場合に、モータ電流IM(**)を最小モータ電流IM(**)MINに変更することとしているが、モータ電流IM(**)を抑制する手法はこれに限定されるものではなく、上記の状況が認識される場合に、モータ電流IM(**)を抑制することとしてもよい。
【0061】
更に、上記の実施例においては、条件(1)(S>S0)および条件(2)(SPD=0)の両者が成立すると判別された後に減量カウンタCREDを増加させることとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ペダルスイッチ18がオン信号を出力した後に減量カウンタCREDを増加させることとしてもよい。この場合には、減量カウンタCREDが所定値C0に達した後、条件(1)(S>S0)および条件(2)(SPD=0)の両者が成立すると判別された時点で、モータ電流IM(**)が抑制されることとなる。
【0062】
上述の如く、本実施例において、ブレーキモータ46〜52は、超音波モータで構成されている。このため、大きな制動力を伴って車両が停止している場合に、モータ電流IM(**)を抑制することによれば、以後、何らの電力を消費することなく車両を安定して停車状態に維持するに足る制動力を得ることができる。このため、かかる手法によれば、電動式ブレーキ装置の省電力効果を更に向上させることができる。
【実施例2】
【0063】
次に、図1および図2と共に図3を参照して、本発明の第2実施例について説明する。本実施例の電動式ブレーキ装置は、図1に示す第1実施例の電動式ブレーキ装置において、ブレーキモータ46〜52に代えて直流モータで構成されるブレーキモータ60〜66を用いると共に、ブレーキモータ60〜66に温度センサを配設することにより実現される。
【0064】
ブレーキモータ60〜66は、上述の如く、直流モータで構成されている。このため、本実施例では、ブレーキモータ60〜66にモータ電流が供給された場合、そのモータ電流に比例して回転トルクが発生する。温度センサは、ブレーキモータ60〜66の温度に応じた電気信号を出力する。温度センサは、ECU10に接続されている。ECU10は、その出力信号に基づいて各ブレーキモータ60〜66の温度を検出する。
【0065】
図3は、本実施例の電動式ブレーキ装置が備えるECU10が実行するメインルーチンの一例のフローチャートを示す。本実施例の電動式ブレーキ装置は、ECU10が図2に示す一連の処理に代えて、図3に示す一連の処理を実行することにより実現される。図3に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動される定時割り込みルーチンである。尚、図3において、上記図2に示すステップと同一の処理を実行するステップについては、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0066】
すなわち、図3に示すルーチンにおいては、ステップ106でストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークSが検出された後、次にステップ130の処理が実行される。
【0067】
ステップ130では、温度センサの出力信号に基づいてブレーキモータ60〜66の温度TM が検出される。
【0068】
ステップ132では、(1)ブレーキモータ60〜66の温度TMが所定値T0以上であり、かつ、(2)車速SPDが“0”であるか否かが判別される。所定値T0は、ブレーキモータ60〜66が正常に作動するための最大温度である。
【0069】
上記(1)の条件(TM≧T0)が成立しないと判別される場合には、ブレーキモータ60〜66に過熱等の事態を生じさせることなく、ペダルストロークSに対応するモータ電流IM(**)をブレーキモータ60〜66に連続的に通電させ得ると判断することができる。上記ステップ132でかかる判断がなされた場合は、次に上記ステップ112の処理が実行される。
【0070】
一方、条件(1)(TM≧T0)および条件(2)(SPD=0)の両者が成立すると判別される場合には、次に上記ステップ120の処理が実行される。
【0071】
上記の処理によれば、車両が停止し、かつ、ブレーキモータ60〜66が高温になった場合に、モータ電流IM(**)を、強制的に最小モータ電流IM(**)MINに抑制することができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、不必要に電力を消費することなく、車両を安定して停車状態に維持することができると共に、ブレーキモータの過熱を防止することができる。
【0072】
また、上記の実施例によれば、ブレーキモータ60〜66が低温になった場合、または、車両が動きだした場合に、モータ電流IM(**)を、最小モータ電流IM(**)MINから通常の値に変更させることができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、ブレーキモータ60〜66が低温に戻った場合、または、車両が動きだした場合に、ペダルストロークSに応じた制動力を発生させることができる。
【0073】
ところで、上記の実施例においては、ブレーキモータ60〜66の温度TMに応じてモータ電流を抑制することとしているが、モータ電流を抑制する手法はこれに限定されるものではなく、ブレーキモータ60〜66を駆動する駆動回路38,40の温度に応じてモータ電流を抑制することとしてもよい。
【実施例3】
【0074】
次に、上記図3と共に図4を参照して、本発明の第3実施例について説明する。上述した第2実施例は、温度センサを用いて直接的にブレーキモータ60〜66の温度を検出している。これに対して、本実施例の電動式ブレーキ装置は、ブレーキモータ60〜66に供給されるモータ電流IM(**)を検出することで、ブレーキモータ60〜66の温度を認識する。本実施例は、この点に特徴を有している。
【0075】
図4は、上記の機能を実現すべく、本実施例の電動式ブレーキ装置が備えるECU10において実行される制御ルーチンの一例のフローチャートを示す。図4に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動される定時割り込みルーチンである。図4に示すルーチンが起動されると、まずステップ134の処理が実行される。
【0076】
ステップ134では、ペダルスイッチ18がオン信号を出力していない、すなわち、ペダルスイッチ18がオフ状態を維持している時間が所定の時間を経過しているか否かが判別される。この所定の時間は、ブレーキモータ60〜66へのモータ電流IM(**)の供給が停止状態に切り替わった後、ブレーキモータ60〜66の温度を低下させるための時間である。上記の条件が成立していないと判別される場合は、次にステップ135の処理が実行される。
【0077】
ステップ135では、ストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークSが検出される。
【0078】
ステップ136では、上記ステップ135で検出されたペダルストロークSに基づいて、各車輪のブレーキモータ60〜66に供給すべきモータ電流IM(**)が演算される。
【0079】
ステップ138では、モータ電流IM(**)が所定値I0以上であるか否かが判別される。所定値I0は、ブレーキモータ60〜66に過熱が生じ得る最小のモータ電流である。
【0080】
上記ステップ138で上記の条件(IM(**)≧I0)が成立すると判別される場合は、ブレーキモータ60〜66が過熱し得る大きなモータ電流IM(**)がブレーキモータ60〜66に供給されていると判断できる。上記ステップ138でかかる判別がなされた場合には、次にステップ140の処理が実行される。
【0081】
ステップ140では、上記ステップ136で演算されたモータ電流IM(**)をブレーキモータ60〜66に生じる上昇温度T1に換算する処理が実行される。ブレーキモータ60〜66は、上述の如く、直流モータで構成されている。このため、ブレーキモータ60〜66の温度上昇値T1は、ブレーキモータ60〜66に流通するモータ電流IM(**)の二乗に比例する。従って、具体的には、温度上昇値T1は、次式で表されるように算出される。
【0082】
T1=K0・(IM(**))2 ・・・(1)
ただし、K0は、比例定数である。
【0083】
ステップ142では、ブレーキモータ60〜66の温度TMを、上記ステップ140で換算された値T1だけ増加させる処理が実行される。上記の処理によれば、上記ステップ138の条件が成立した後にブレーキモータ60〜66に供給されるモータ電流IM(**)により、ブレーキモータ60〜66の温度TMが認識される。
【0084】
ステップ144では、ブレーキモータ60〜66の温度TMと認識される値を出力する処理が実行される。
【0085】
上記ステップ138において条件(IM(**)≧I0)が成立しないと判別された場合は、ブレーキモータ60〜66に過熱が生じるほどの大きなモータ電流IM(**)がブレーキモータ60〜66に供給されていないと判断できる。そして、ブレーキモータ60〜66に過熱が生じるほどの大きなモータ電流IM(**)が供給されていない場合は、ブレーキモータ60〜66の温度TMは減少すると判断できる。従って、上記ステップ138でかかる判別がなされた場合には、次にステップ146の処理が実行される。
【0086】
ステップ146では、ブレーキモータ60〜66の温度TMをαだけ減少させる処理が実行される。
【0087】
上記ステップ134でペダルスイッチ18がオフ状態を維持している時間が所定の時間を経過していると判別された場合は、ブレーキ操作が長時間にわたって行われていないと判断できる。この場合、ブレーキモータ60〜66の温度が低下したと判断できる。従って、上記ステップ134でかかる判別がなされた場合には、次にステップ148の処理が実行される。
【0088】
ステップ148では、ブレーキモータ60〜66の温度TMを“0”にリセットする処理が実行される。
【0089】
上記の処理によれば、ペダルストロークSに基づいて演算された、ブレーキモータ60〜66に供給されるモータ電流IM(**)に応じて、ブレーキモータ60〜66の温度を認識することができる。このため、本実施例によれば、上記の処理により認識されたブレーキモータ60〜66の温度TMを、上記図3に示すステップ130に入力することにより、上記第2実施例と同様の効果を得ることができる。
【0090】
また、本実施例においては、ブレーキモータ60〜66の温度を検知する温度センサは設けられていない。このため、本実施例によれば、第2実施例の場合に比して簡素な構成で、第2実施例と同様の効果を得ることができる。
【0091】
ところで、上記の実施例においては、ブレーキモータ60〜66に供給したモータ電流IM(**)を検出することによりブレーキモータ60〜66の温度を認識することとしているが、ブレーキモータ60〜66の温度を認識する手法はこれに限定されるものではなく、ECU10から駆動回路38,40に供給される指令信号によりブレーキモータ60〜66の温度を認識することとしてもよい。
【0092】
また、上記の実施例においては、ブレーキモータ60〜66に供給したモータ電流IM(**)からブレーキモータ60〜66の温度TMを認識することとしているが、モータ電流IM(**)から駆動回路38,40の温度を認識することとしてもよい。
【実施例4】
【0093】
次に、上記図2と共に図5を参照して、本発明の第4実施例について説明する。本実施例の電動式ブレーキ装置は、第2実施例の場合と同様にブレーキモータ60〜66を備えると共に、ECU12が駆動回路38,40に供給する指令信号の指令値に基づいて、ブレーキモータ60〜66または駆動回路38,40に生じる温度を推定する点に特徴を有している。以下、本実施例の特徴点について説明する。
【0094】
図5は、本実施例の電動式ブレーキ装置が備えるECU10が実行するメインルーチンの一例のフローチャートを示す。本実施例の電動式ブレーキ装置は、ECU10が上記図2に示す一連の処理に代えて、図5に示す一連の処理を実行することにより実現される。図5に示すルーチンは、所定時間ごとに繰り返し起動される定時割り込みルーチンである。尚、図5において、上記図2に示すステップと同一の処理を実行するステップについては、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0095】
すなわち、図5に示すルーチンにおいては、ステップ106でストロークセンサ20の出力信号に基づいてペダルストロークSが検出された後、次にステップ150の処理が実行される。
【0096】
ステップ150では、ECU10から駆動回路38,40に供給される指令信号の指示値Rが、ペダルストロークSに基づいて運転者が要求する制動力が車両に生ずるように、かつ、前輪の制動力と後輪の制動力とが所定の比率となるように演算される。
【0097】
ステップ152では、車速SPDが“0”であるか否かが判別される。この条件が成立しない場合は、車両が走行していると判断できる。車両の走行中は、ペダルストロークSに応じた制動力を発生させることが適切である。このため、上記の条件が成立しない場合は、モータ電流IM(**)をペダルストロークSに応じた値に維持することが適切であると判断できる。本ステップ152で上記の条件が成立しないと判別された場合は、次にステップ154の処理が実行される。
【0098】
ステップ154では、減量カウンタCNT1およびCNT2を“0”にリセットする処理が実行される。減量カウンタCNT1は、後述するステップ156の条件が成立する継続時間を計数するためのカウンタである。また、減量カウンタCNT2は、後述するステップ160の条件が成立する継続時間を計数するためのカウンタである。本ステップ154の処理が終了すると、次に上記ステップ112の処理が実行された後、ペダルストロークSに基づいて演算されたモータ電流IM(**)を各車輪のブレーキモータ60〜66に流通させるための処理が実行される。
【0099】
上記ステップ152において、条件(SPD=0)が成立すると判別された場合には、次にステップ156の処理が実行される。
【0100】
ステップ156では、上記ステップ150で入力された指令信号の指示値Rが第1所定値R1以上であるか否かが判別される。第1所定値R1は、短時間でブレーキモータ60〜66に過熱を生じさせ得る最小の指示値である。
【0101】
上記ステップ156で上記の条件が成立すると判別される場合は、車両が停止した後、不必要に過大な指令信号が供給されていると判断できる。この場合、その状態が短時間継続するだけで、ブレーキモータ60〜66に過熱が生じると判断できる。このため、上記ステップ156でかかる判別がなされた場合には、次にステップ158の処理が実行される。
【0102】
ステップ158では、減量カウンタCNT1を増加させる処理が実行される。上記の処理によれば、減量カウンタCNT1には、上記ステップ156の条件が成立した後の時間が計数される。
【0103】
一方、上記ステップ156で上記の条件が成立しないと判別された場合は、短時間ではブレーキモータ60〜66に過熱を生じさせ得ないと判断できる。このため、上記ステップ156でかかる判別がなされた場合には、次にステップ160の処理が実行される。
【0104】
ステップ160では、上記ステップ150で入力された指令信号の指示値Rが第2所定値R2以上であり、かつ、第1所定値R1未満であるか否かが判別される。第2所定値R2は、長時間継続して供給されてもブレーキモータ60〜66に過熱を生じさせないための最大の指示値であり、第1所定値R1より小さい値となるように設定されている。
【0105】
上記ステップ160で上記の条件が成立しないと判別された場合は、指令信号の指示値Rが、ブレーキモータ60〜66に過熱を生じさせない程度の値であると判断できる。このため、上記の条件が成立しない場合は、ペダルストロークSに対応するモータ電流IM(**)をブレーキモータ60〜66に連続的に流通させ得ると判断できる。従って、上記ステップ160でかかる判別がなされた場合には、次に上記ステップ154の処理が実行される。
【0106】
一方、上記ステップ160で上記の条件が成立すると判別された場合は、車両が停止した後、不必要に比較的大きな指令信号が供給されていると判断できる。この場合、その状態が長時間継続すると、ブレーキモータ60〜66に過熱が生じると判断できる。このため、上記ステップ160でかかる判別がなされた場合には、次にステップ162の処理が実行される。
【0107】
ステップ162では、減量カウンタCNT2を増加させる処理が実行される。上記の処理によれば、減量カウンタCNT2には、上記ステップ160の条件が成立した後の時間が計数される。
【0108】
ステップ164では、減量カウンタCNT1の計数値が所定値C1に達している、あるいは、減量カウンタCNT2の計数値が所定値C2に達しているか否かが判別される。所定値C2は、上記ステップ160の条件を満たす指示値Rが上記ステップ156の条件を満たす指示値よりも小さい値であるために、所定値C1より大きな値となるように設定されている。
【0109】
上記ステップ164の処理の結果、CNT1≧C1、または、CNT2≧C2が成立しないと判別された場合は、次に上記ステップ112の処理が実行される。一方、CNT1
≧C1、または、CNT2≧C2が成立すると判別される場合は、次に上記ステップ120の処理が実行される。
【0110】
上記の処理によれば、車両が停止し、かつ、駆動回路38,40に大きな指令信号の指令値Rが継続して供給されている状態を、ブレーキモータ60〜66または駆動回路38,40が高温になる状態であると認識することにより、モータ電流IM(**)を、強制的に最小モータ電流IM(**)MINに抑制することができる。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、不必要に電力を消費することなく、車両を安定して停車状態に維持することができると共に、ブレーキモータの過熱を防止することができる。
【0111】
また、上記の実施例によれば、駆動回路38,40に大きな指令信号の指令値Rが継続して供給されなくなった場合、または、車両が動きだした場合に、モータ電流IM(**)を、最小モータ電流IM(**)MINから通常の値に変更させることができる。駆動回路38,40に大きな指令信号の指令値Rが継続して供給されなくなった場合には、ブレーキモータ60〜66に過熱を生じさせるほどのモータ電流IM(**)は供給されていないと判断できる。また、車両が動きだした場合には、ペダルストロークSに応じた制動力を発生させることが適切である。このため、本実施例の電動式ブレーキ装置によれば、上記の場合に、ペダルストロークSに応じた制動力を発生させることができる。
【0112】
ところで、上記の実施例においては、駆動回路38,40に供給される指令信号の指令値Rの大きさに応じて、モータ電流IM(**)を抑制するまでの所定の継続時間を2段階に分けることとしているが、モータ電流IM(**)を抑制する手法はこれに限定されるものではなく、3段階以上に分けることとしてもよい。この場合、指令信号の指令値Rが大きくなるほど、モータ電流IM(**)を抑制するまでの所定の継続時間は短くなる。
【0113】
また、上記第1〜第4実施例においては、車速SPDが“0”になった場合に車両が停車状態であると判別しているが、車両の停車状態を判別する手法はこれに限定されるものではなく、車両の極低車速(SPD≦3km/h)の状態が所定の時間以上継続した場合に車両が停車状態であると判別することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1実施例の電動式ブレーキ装置のシステム構成図である。
【図2】図1に示す電動式ブレーキ装置において実行されるメインルーチンの一例のフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施例の電動式ブレーキ装置において実行されるメインルーチンの一例のフローチャートである。
【図4】本発明の第3実施例の電動式ブレーキ装置においてブレーキモータの温度を検出すべく実行される制御ルーチンの一例のフローチャートである。
【図5】本発明の第4実施例の電動式ブレーキ装置において実行されるメインルーチンの一例のフローチャートである。
【符号の説明】
【0115】
10 電子制御ユニット(ECU)
12 ブレーキペダル
18 ペダルスイッチ
20 ストロークセンサ
22 エアバッグECU
30〜36 車速センサ
38,40 駆動回路
42 第1バッテリ
44 第2バッテリ
46〜52,60〜66 ブレーキモータ
IM(**)(**;FL,FR,RL,RR) モータ電流
IM(**)MIN(**;FL,FR,RL,RR) 最小モータ電流


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキモータを動力源として制動力を発生するブレーキアクチュエータを備える電動式ブレーキ装置において、
運転者によるブレーキペダルの操作量に応じて車両において要求される制動力が発生するように前記ブレーキモータに供給されるモータ電流を制御する通常制御手段と、
車両が停車したか否かを判別する停車状態判別手段と、
前記停車状態判別手段により車両が停車したと判別された後、運転者によるブレーキペダルの操作量が車両の停車を維持するのに必要な停止維持制動力を発生させるための所定値を越えている場合に、前記ブレーキモータへのモータ電流を、前記通常制御手段によるモータ電流よりも小さい前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流に抑制するモータ電流抑制手段と、
を備えることを特徴とする電動式ブレーキ装置。
【請求項2】
前記モータ電流抑制手段は、前記停車状態判別手段により車両が停車したと判別された後、運転者によるブレーキペダルの操作量が前記所定値を越える継続時間が所定時間に達した場合に、前記ブレーキモータへのモータ電流を、前記通常制御手段によるモータ電流よりも小さい前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流に抑制することを特徴とする請求項1記載の電動式ブレーキ装置。
【請求項3】
前記モータ電流抑制手段により前記モータ電流が抑制されている状況下で、車両が停車状態から走行状態に切り替わったと判別された場合に、前記モータ電流を前記停止維持制動力を発生させるためのモータ電流から増大させるモータ電流増大手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の電動式ブレーキ装置。
【請求項4】
前記モータ電流抑制手段によるモータ電流の抑制を一部のブレーキモータでのみ行うことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項記載の電動式ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−327587(P2006−327587A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245900(P2006−245900)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【分割の表示】特願平10−179191の分割
【原出願日】平成10年6月25日(1998.6.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】