説明

電動把持部材

【課題】簡易な構造であって小型化・軽量化できる筋電義手を提供することを目的とする。
【解決手段】この発明の電動把持部材1は、指部材支持部2と、指部材支持部3に対して往復運動するスライド部材3と、スライド部材3を駆動する電動モータ4と、第1指部材5と、第2指部材6とを有し、電動モータ4によって第1指部材5と第2指部材6を開閉させるもので、第1指部材5と第2指部材6はそれぞれスライド部材3に取り付けられるスライド部材接続部8と指部材支持部2に取り付けられる指部材支持部接続部9を有し、第1指部材5とスライド部材接続部8aおよび指部材支持部接続部9aは一枚の板状部材の折り曲げにより形成されており、第2指部材6とスライド部材接続部8bおよび指部材支持部接続部9bも一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、指状の部材を開閉して物を把持する部材に関し、特に、電動義手に適した把持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、リニアアクチュエータと、リンク機構によりフィンガーを開閉させるようになした電動義手が記載されている。特許文献2には、複合4節リンクと遊星歯車装置により把持体の形状に倣って屈曲伸展運動できるようにし確実な把持姿勢ができるようにし軽量化を図った電動義手が記載されている。また、非特許文献1には、筋電センサ1個を使用し、1枚のポリプロピレンシートを折り曲げて拇指と2,3指が対立位にして3点つまみを行う筋電義手が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−56885号公報
【特許文献2】特開2004−41279号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】東原孝典「シンプルな筋電義手の開発」第16回日本義肢装具士協会学術講演集,p104〜105,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の電動義手では、3種類の大きなリンク部材を相互に回動自在に連結してリンク機構を形成している。このリンク機構についての具体的な説明は乏しいが、図1よりリンク部材は軸受け機構によって連結されていることがわかる。このようなリンクの構成は、大型の機械などには適しているが、小型化・軽量化は困難である。特に、女性や子供用の小さな義手は、小型で軽く作られることが望まれる。特許文献1の電動義手は小型化を目指しているが、遊星歯車装置などを使用した複雑な構造になっている。したがって、コストが高くならざるをえない。
【0006】
一方、非特許文献1の発明は、小型軽量化の可能性を示しており、低価格の筋電義手の実用化を目指すものである。しかし、装飾義手と同様の外観を有する筋電義手のためには、さらなく小型軽量化がのぞまれる。また、物を把持する動作だけではなく、掌が平らなるような状態もできるようになれば、さらに使いやすい筋電義手が実現できる。この発明は、簡易な構造であって小型化・軽量化できる筋電義手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を解決するために、この発明の電動把持部材は、指部材支持部と、指部材支持部に対して往復運動するスライド部材と、スライド部材を駆動する電動モータと、第1指部材と、第2指部材とを有し、電動モータによって第1指部材と第2指部材を開閉させる電動把持部材であって、第1指部材と第2指部材はそれぞれスライド部材に取り付けられるスライド部材接続部と指部材支持部に取り付けられる指部材支持部接続部を有し、
第1指部材とスライド部材接続部および指部材支持部接続部は一枚の板状部材の折り曲げにより形成されており、
第2指部材とスライド部材接続部および指部材支持部接続部も一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている。
第1指部材と第2指部材は一枚の板状部材の折り曲げにより形成されていてもよく、また、別々の板状部材の折り曲げにより形成されていて、スライド部材接続部同士が相互に回転可能に接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明の電動把持部材は、指部材および開閉のための主要な部材が板状部材の折り曲げにより形成されていて、簡易な構造を有する。したがって、小型で軽量に作ることができ、また、コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】電動把持部材の概要を示す正面図である。
【図2】同側面図である。
【図3】筋電センサによる開閉制御を示すグラフである。
【図4】電動把持部材の変形例の概要を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明を実施するための形態について図面に基づいて説明する。図1は電動把持部材の概要を示す正面図、図2は同側面図である。
【0011】
この電動把持部材1は、指部材支持部2と、指部材支持部2に対して往復運動するスライド部材3と、スライド部材3を駆動する電動モータ4と、第1指部材5と、第2指部材6とを有する。本例では電動モータとしては、マクソン社のDCコアレスモータを使用した。
【0012】
指部材支持部2は金属板の折り曲げなどで形成された部材である。板状の中央面2aを有し、その両端部には所定の角度で側板2b,2cが設けられている。図1においては、側板2b,2cはほぼ中央部2aに対して垂直であるが、電動義手に適用する場合、斜めに折り曲げて人体の手の形状を忠実に再現してもよい。側板2b,2cの先端部は、後述の指部材と接続する部位であり、とくに指部材の手の甲の側が取り付けられる。
【0013】
指部材支持部2の中央部には穴があけられており、電動モータ4に接続された回転軸7が通される。スライド部材3は、指部材支持部2の中央面2aに対向して設けられている。ここでは、スライド部材3は、送りねじで形成される。回転軸7の先端付近に雄ネジを設けており、これに送りねじ3を取り付ける。電動モータ4によって回転軸7が回転すると、送りねじ3は回転軸7の長さ方向に沿って移動しスライド部材として作用する。
【0014】
第1指部材5は拇指(親指)に相当するもので、通常は1本の指で形成する。一方、第2指部材6の指は1本でも複数本でもよい。ロボットのハンドとして使用する場合、第2指部材6は1本指でもよい。義手として使用する場合でも1本指でもよいが、第2指・第3指に相当する2本の指を設けてもよい。
【0015】
第1指部材5と第2指部材6はそれぞれスライド部材3に取り付けられるスライド部材接続部8a,8bと指部材支持部2に取り付けられる指部材支持部接続部9a,9bを有する。この発明において、第1指部材5とスライド部材接続部8aおよび指部材支持部接続部9aは一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている。また、第2指部材6とスライド部材接続部8bおよび指部材支持部接続部9cも同様に一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている。板状部材としては、切断・折り曲げ加工が行いやすく、所定の強度を有する板材が使用でき、たとえば、厚さ2mmのポリプロピレンシートなどが、軽量かつ安全な素材として選択できる。
【0016】
指部材5,6の外部、すなわち、甲側および掌側の面は板状部材によって形成されている。そして、内部には2個程度の補強材10が設けられる。ここでは、円筒状の硬質プラスチックをボルトによって板状部材の間に取り付け、指の形状が保たれるようにしている。
【0017】
指部材5,6の掌側の端部には、スライド部材接続部8a,8bが形成されている。そして、この接続部分が折り曲げ線11a,11bとなっていている。この折り曲げ線は、折り曲げ角が自在に変化するようになっている。指部材5,6の甲側の端部には指部材支持部接続部9a,9bが設けられ、この間に形成された折り曲げ線12a,12bにおいても、折り曲げ角が自在に変化するようになっている。さらに、スライド部材接続部8a,8bにおいては、スライド部材3へ取り付けられる部分の近くにも折り曲げ角が自在に変化する折り曲げ線13a,13bが形成されている。
【0018】
したがって、指部材支持部2とスライド部材3は、3つの折り曲げ線11,12,13を介してリンクされていることになる。指部材5,6、スライド部材接続部8a,8bおよび指部材支持部接続部9a,9bによりリンク機構が構成され、スライド部材3の移動によって、指部材支持部2に対する指部材5,6の角度が変化する。スライド部材3が指部材支持部2より遠ざかるときには、指部材5,6は開こうとし、近づくときには指部材5,6は閉じようとする。
【0019】
以上、電動把持部材として機能するための主要な部材のうち、指部材、スライド部材接続部および指部材支持部接続部は一枚の板状部材の折り曲げによって構成されており、指部材支持部も金属板などの折り曲げで形成することができる。とくに図1の例では、第1指部材と第2指部材を一枚の板状部材より形成でき、部品点数が極めて少なく、加工・組み立ても簡単である。したがって、小型・軽量かつ低コストで作成することができる。
【0020】
特に、指部材などをポリプロピレンシートなど合成樹脂板を使用する場合、板材からの切り抜き、折り曲げ加工は容易である。複雑な形状でも自由に切り出すことができ、個々の使用者の指の形状を忠実に再現することができる。折り曲げ線の位置や方向を適宜選択することにより、適切に把持でき、しかも自然に見える指の開閉運動を実現できる。
【0021】
電動把持部材に手の形状の手袋をかぶせ、筋電義手とすることができる。装飾義手用の手袋として、人体の手の外観や触感を忠実に再現したものは普及している。この発明の電動把持部材は小型・軽量に構成できるので、装飾義手用のソケットや手袋の内部に収納できる。したがって、電動義手とは見えにくく、自然な外観を有する。
【0022】
電動モータ4はコンピュータ14によって制御される。ここでは、マイクロコンピュータとしてPIC16F873を使用した。コンピュータを使用することによって、センサの種類や個数、自由度、操作方法などを変更することができる。同一の制御回路を使用しながら、使用者の残存能力に応じた操作方法を選択することができる。複数の操作方法を体験させて、使用者に適したものを選択させることができ、また、訓練によって操作の習熟が進むに従って、新たな操作方法に変更することもできる。
【0023】
ここでは、オットボック社の筋電センサを1個使用する。筋電センサは、筋肉を制御する神経の信号を検知し、電気信号として出力するものである。オットボック社の筋電センサは、6V単一電源で作動し、筋電信号を整流・平滑化して出力信号とし、コンピュータへ直接送信する。
【0024】
筋電センサによる指部材の開閉制御を示すグラフである。指部材の開閉を制御するために、第1の境界値と、それより低い第2の境界値が定められている。筋電センサの出力信号V(t)が第1の境界値より高いときは指部材を開く動作を、第1の境界値と第2の境界値の間では閉じる動作を、第2の境界値より低いときは停止を指示する。さらに、一つ前の出力信号V(t−1)との比較により信号の変化の向きの判断(増減の識別)に基いても、指部材の動作方向を定める。また、出力信号V(t)が境界値を超えてから動作が始まるまでに10msecの遅延時間を設けている。
【0025】
現在、筋電センサは高価であるので、複数個を使用すれば装置全体が高価になる。図3に示すように一個の筋電センサによって開閉両方向の作動を制御することにより、制御部分においてもコストを抑えることができる。
【0026】
上述の筋電センサおよびコンピュータによる制御装置をユーザに適用した例を説明する。このユーザは38歳の女性で左利きであり、20歳のときに労災によって右腕を切断し、右手を喪失している。肘頭より12cmの位置で切断している。
【0027】
右肘自動伸展0°、屈曲100°である。屈筋収縮時に伸筋群の出力信号が見られ、十分に伸筋と屈筋の分別ができなかった。そこで、図3に示すような制御方法に基き、1個の筋電センサで開閉両方向の指部材の制御を行う。
【0028】
まず、筋電義手を装着せず、パソコンを用いた30分程度のトレーニングを行って操作方法を学習し、その後、実際に筋電義手を装着して操作性の確認を行った。操作直後から腕の位置に関係なく、誤動作を生じることなく指部材の開閉を行うことができた。
【0029】
以上、この筋電義手は操作が容易であり、短時間で習得できるので、作成後すぐに使用を開始することもできる。自分の意思で、物の把持、開放を行える。
【0030】
さらに、この発明の変形例について説明する。図4は電動把持部材の変形例の概要を示す正面図であり、指部材支持部およびスライド部材が前述の例と異なっている。この例においては、指部材支持部は2つの部分部材に分かれており、回転軸7を中心に相互に回転可能に取り付けられている。また、指部材支持部も2つの部材に分かれており、回転軸7を中心に相互に回転可能である。したがって、第1指部材と第2指部材が相互に回転することができる。
【0031】
ここでは、手の第2指(人差し指)と第3指(中指)に相当する第2指部材を固定し、拇指に相当する第1指部材を回転可能にする。物の把持をしないときは指部材同士を開いた状態で第1指部材を回転させ、第1指部材が第2指、第3指と概ね同一面になるようすることができる。この回転は、もう一方の正常な手を使って行うことができる。これによって、手が開いた状態が実現できる。紙など薄いシート状のものを掌部で押し付けるとき、第1指部材が妨げにならない。
【符号の説明】
【0032】
1.電動把持部材
2.指部材支持部
3.スライド部材
4.電動モータ
5.第1指部材
6.第2指部材
7.回転軸
8.スライド部材接続部
9.指部材支持部接続部
10.補強材
11.折り曲げ線
12.折り曲げ線
13.折り曲げ線
14.コンピュータ
15.筋電センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指部材支持部と、指部材支持部に対して往復運動するスライド部材と、スライド部材を駆動する電動モータと、第1指部材と、第2指部材とを有し、電動モータによって第1指部材と第2指部材を開閉させる電動把持部材であって、
第1指部材と第2指部材はそれぞれスライド部材に取り付けられるスライド部材接続部と指部材支持部に取り付けられる指部材支持部接続部を有し、
第1指部材とスライド部材接続部および指部材支持部接続部は一枚の板状部材の折り曲げにより形成されており、
第2指部材とスライド部材接続部および指部材支持部接続部も一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている電動把持部材。
【請求項2】
第1指部材と第2指部材が一枚の板状部材の折り曲げにより形成されている請求項1に記載の電動把持部材。
【請求項3】
第1指部材と第2指部材が別々の板状部材の折り曲げにより形成されていて、第1指部材のスライド部材接続部と第2指部材のスライド部材接続部が相互に回転可能に接続されている請求項1に記載の電動把持部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−6133(P2012−6133A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146988(P2010−146988)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(503298690)有限会社高松義肢製作所 (1)
【Fターム(参考)】