説明

電動機駆動装置

【課題】昇圧制御の最中に昇圧回路の異常をより適切に判定する。
【解決手段】昇圧コンバータに昇圧指令がなされているときには(S110)、バッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致しているか否かを判定し(S120)、昇圧コンバータのキャリア1周期に亘ってバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態が継続しているときに(S130)、昇圧コンバータに異常が生じていると判定する(S140)。これにより、昇圧コンバータを制御している最中にも昇圧コンバータの異常を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機と、該電動機を駆動するインバータ回路と、充放電が可能な二次電池と、リアクトルを有し前記二次電池の電圧を昇圧して前記インバータ回路に供給する昇圧回路と、昇圧動作が指示されたときに前記インバータ回路に要求される電圧が作用するよう前記昇圧回路を制御する昇圧制御手段と、前記二次電池を流れる電流である充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、前記昇圧回路のリアクトルを流れる電流であるリアクトル電流を検出するリアクトル電流検出手段とを備える電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機駆動装置としては、並列接続された複数のDC/DCコンバータ(昇圧回路)を備えるものにおいて、DC/DCコンバータの出力電圧を検出する電圧センサを設け、DC/DCコンバータの起動時に電圧センサからの検出値に基づいてコンバータ異常を判定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、DC/DCコンバータの起動時には全てのコンバータが正常な場合と一部のコンバータに異常が発生する場合とではコンバータ出力電圧の変化のスピードが異なることから、電圧センサの検出値の変化の傾きが正常時とは異なるときにコンバータ異常と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−332001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した装置では、電圧センサを用いてDC/DCコンバータの出力電圧を監視することによりコンバータ異常を判定することができるが、DC/DCコンバータの起動時にしかコンバータ異常を判定することができない。コンバータ異常は起動時だけでなく昇圧制御の最中にも生じ得るから、こうした場面でもコンバータ異常を判定できるようにすることが望ましい。ま
【0005】
本発明の電動機駆動装置は、昇圧制御の最中に昇圧回路の異常をより適切に判定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動機駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動機駆動装置は、
電動機と、該電動機を駆動するインバータ回路と、充放電が可能な二次電池と、リアクトルを有し前記二次電池の電圧を昇圧して前記インバータ回路に供給する昇圧回路と、昇圧動作が指示されたときに前記インバータ回路に要求される電圧が作用するよう前記昇圧回路を制御する昇圧制御手段と、前記二次電池を流れる電流である充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、前記昇圧回路のリアクトルを流れる電流であるリアクトル電流を検出するリアクトル電流検出手段とを備える電動機駆動装置において、
前記昇圧回路に対して昇圧動作が指示されているとき、前記検出された充放電電流と前記検出されたリアクトル電流とを比較し、両者の波形が一致しているとみなされる場合に前記昇圧回路に異常が生じていると判定する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の電動機駆動装置では、電動機と、電動機を駆動するインバータ回路と、充放電が可能な二次電池と、リアクトルを有し二次電池の電圧を昇圧してインバータ回路に供給する昇圧回路と、二次電池を流れる電流である充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、昇圧回路のリアクトルを流れる電流であるリアクトル電流を検出するリアクトル電流検出手段とを備え、昇圧動作が指示されたときにインバータ回路に要求される電圧が作用するよう昇圧回路を制御し、昇圧回路に対して昇圧動作が指示されているとき、充放電電流とリアクトル電流とを比較し、両者の波形が一致しているとみなされる場合に昇圧回路に異常が生じていると判定する。これは、昇圧動作が指示されているにも拘わらず昇圧回路から昇圧した電圧が出力されていないときには、充放電電流の波形とリアクトル電流の波形とが一致すると考えられることに基づく。これにより、昇圧制御の最中にも昇圧回路の異常を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としての電動機駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電子制御ユニット40により実行される異常判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】バッテリ電流IBの時間変化の様子を示す説明図である。
【図4】昇圧コンバータ28が正常な場合におけるリアクトル電流ILの時間変化の様子を示す
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としての電動機駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。実施例の駆動装置20は、永久磁石が貼り付けられた回転子と3相コイルが巻回された固定子とからなる同期発電電動機として構成されたモータ22と、モータ22を駆動するインバータ回路24と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ26と、バッテリ26が接続された低圧側とインバータ回路24が接続された高圧側との間で電圧を変換して電力のやり取りが可能な昇圧コンバータ28と、バッテリ26と昇圧コンバータ28との接続と接続の解除とが可能なシステムメインリレーSMRと、バッテリ26の出力端子に取り付けられバッテリ26の充放電電流を検出する電流センサ54と、昇圧コンバータ28のリアクトルLに取り付けられリアクトルLを流れる電流を検出する電流センサ55と、装置全体をコントロールすると共に昇圧コンバータ28の異常を判定する電子制御ユニット40と、を備える。
【0012】
インバータ回路24は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16とにより構成されている。トランジスタT11〜T16は、正極母線32と負極母線34とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータMG1の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。
【0013】
昇圧コンバータ28は、2つのトランジスタT21,T22とトランジスタT21,T22に逆方向に並列接続された2つのダイオードD21,D22とリアクトルLとにより構成されている。2つのトランジスタT21,T22は、それぞれ正極母線32,負極母線34に接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと負極母線34には、それぞれバッテリ26の正極端子と負極端子が接続されている。
【0014】
電子制御ユニット40は、CPU42を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU42の他に処理プログラムを記憶するROM44と、データを一時的に記憶するRAM46と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートと、を備える。この電子制御ユニット40には、モータ22のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ51からの回転位置θmやモータ22の三相コイルのV相,W相の各相に流れる相電流を検出する電流センサ52V,52Wからの相電流Iv,Iw,バッテリ26の端子間に接続された電圧センサ53からの端子間電圧Vb,前述した電流センサ54からのバッテリ電流IB,前述した電流センサ55からのリアクトル電流IL,昇圧コンバータ28の高圧側に接続された平滑用のコンデンサ36の電圧を検出する電圧センサ56からのコンデンサ電圧VHなどが入力ポートを介して入力されている。一方、電子制御ユニット40からは、インバータ回路24のスイッチング素子T11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ28のスイッチング素子T21,T22へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、電子制御ユニット40は、回転位置検出センサ51からの回転位置θmに基づいてモータ22の回転数Nmも演算している。さらに、電子制御ユニット40は、バッテリ26を管理するために、電流センサ54により検出されたバッテリ電流IBの積算値に基づいてバッテリ26から放電可能な蓄電量の全容量に対する割合としての蓄電割合SOCを演算している。
【0015】
こうして構成された実施例の電動機駆動装置20は、モータ22を走行用のモータとして備える電動車両に搭載されており、アクセル開度や車速などに基づいて走行に要求される要求トルクを設定し、設定した要求トルクにより走行するようモータ22が駆動制御される。モータ22の駆動制御は、要求トルクに基づいてモータ22から出力すべきトルクとしてのモータトルク指令Tm*を設定し、設定したモータトルク指令Tm*と回転位置検出センサ51により検出された回転位置θmに基づいて演算されるモータ22の現在の回転数Nmとに基づいて昇圧コンバータ28の昇圧指令であるコンデンサ36の目標電圧VH*を設定し、設定したモータトルク指令Tm*に応じたトルクがモータ22から出力されるようインバータ回路24をスイッチング制御すると共にコンデンサ36の電圧が電圧指令VH*に応じた電圧となるよう昇圧コンバータ28をスイッチング制御する。ここで、インバータ回路24のスイッチング制御は、モータ22から出力すべきトルクとしてのモータトルク指令Tm*に基づいて各相に印加すべき電流指令を設定し、設定した電流指令と電流センサ52V,52Wからの相電流Iv,Iwとの偏差に基づくフィードバック制御により各相に印加すべき電圧指令を設定し、キャリア周波数Fの三角波信号または鋸波信号をキャリア信号として生成し、生成したキャリア信号と設定した電圧指令と比較することによりパルス幅変調信号(PWM信号)を各相毎に生成し、生成したPWM信号を対応するトランジスタT11〜T16に出力することにより行なわれる。また、昇圧コンバータ28のスイッチング制御は、コンデンサ36の目標電圧VH*と現在のコンデンサ電圧VHと偏差に基づいてフィードバック制御により電圧指令を設定し、キャリア周波数Fの三角波信号または鋸波信号をキャリア信号として生成し、生成したキャリア信号と設定した電圧指令とを比較することによりPWM信号を生成し、生成したPWM信号を対応するトランジスタT21,T22に出力することにより行なわれる。
【0016】
次に、こうして構成された実施例の電動機駆動装置20の動作、特に、昇圧コンバータ28の異常を判定する動作について説明する。図2は、実施例の電子制御ユニット40により実行される異常判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、システム起動されてから所定時間(例えば、数msecなど)毎に繰り返し実行される。
【0017】
異常判定ルーチンが実行されると、電子制御ユニット40のCPU42は、まず、電流センサ54からのバッテリ電流IBや電流センサ55からのリアクトル電流ILを入力する(ステップS100)。続いて、昇圧コンバータ28に対して昇圧指令がなされているか否かを判定する(ステップS110)。昇圧指令がなされていないときには、昇圧コンバータ28の異常の判定に適さないため、これで本ルーチンを終了する。一方、昇圧指令がなされているときには、入力したバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致するか否かを判定する(ステップS120)。この判定は、本実施例では、バッテリ電流IBとリアクトル電流ILとの偏差が電流センサ54,55の検出誤差を含む値0を中心とした所定範囲内にあるか否かを判定することにより行なわれる。バッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致すると判定されると、昇圧コンバータ28のキャリア信号の1周期分の時間であるキャリア1周期(スイッチング1周期)が経過したか否かを判定し(ステップS130)、キャリア1周期が経過していないときにはステップS100に戻ってステップS100〜S130の処理を繰り返す。ステップS130でキャリア1周期が経過していると判定されると、バッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態がキャリア1周期に亘って継続しており、バッテリ電流IBの波形とリアクトル電流ILの波形とが一致していると判断し、昇圧コンバータ28に異常(例えば、トランジスタT22の故障や電子制御ユニット40からトランジスタT22に至る信号線の断線などの故障)が生じていると判定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。ステップS130でキャリア1周期が経過していると判定される前にステップS120でバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致していないと判定されると、バッテリIBの波形とリアクトル電流ILの波形とは一致していないと判断し、昇圧コンバータ28は正常であると判定して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。
【0018】
図3に、バッテリ電流IBの時間変化の様子を示し、図4に、昇圧コンバータ28が正常な場合におけるリアクトル電流ILの時間変化の様子を示す。バッテリ26はモータ22の駆動に伴って充放電するため、図3に示すように、バッテリ電流IBはモータ22のパワー変動に依存した周期をもって振動する。一方、昇圧コンバータ28のリアクトルLは、例えば昇圧している場合にはスイッチング1周期におけるトランジスタT22(下アーム)のオン期間では時間の経過と共に上昇しトランジスタT22のオフ期間では時間の経過と共に下降するため、図4に示すように、スイッチング1周期(即ち、キャリア信号の周期)をもって振動する。このように、昇圧コンバータ28が正常に動作していれば、バッテリ電流IBの波形とリアクトル電流ILの波形とは一致しないから、バッテリ電流IBの波形とリアクトル電流ILの波形とが一致しているときには、昇圧コンバータ28に異常が生じていると判定することができるのである。
【0019】
以上説明した実施例の電動機駆動装置20によれば、昇圧コンバータ28に昇圧指令がなされているときには、バッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致しているか否かを判定し、昇圧コンバータ28のキャリア1周期に亘ってバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態が継続しているときに、昇圧コンバータ28に異常が生じていると判定するから、昇圧コンバータ28を制御している最中にも昇圧コンバータ28の異常を判定することができる。
【0020】
実施例の電動機駆動装置20では、昇圧コンバータ28のキャリア1周期に亘ってバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態が継続しているか否かを判定することによりバッテリ電流IBの波形とリアクトル電流ILの波形とが一致するか否かを判定するものとしたが、キャリア1周期を超える期間に亘ってバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態が継続しているか否かを判定するものとしてもよいし、キャリア1周期未満の期間に亘ってバッテリ電流IBとリアクトル電流ILとが一致している状態が継続しているか否かを判定するものとしても構わない。
【0021】
実施例の電動機駆動装置20では、昇圧コンバータ28によりバッテリ26の電圧を昇圧して単一のインバータ回路24に供給するシステムに適用するものとしたが、複数のモータをそれぞれ駆動する複数のインバータ回路を並列接続し、昇圧コンバータによりバッテリの電圧を昇圧して複数のインバータ回路に供給するシステムに適用するものとしてもよい。
【0022】
実施例の電動機駆動装置20では、電動車両に搭載される走行用モータを駆動するものに適用して説明するものとしたが、これに限られず、車両以外の他の移動体に搭載されるモータを駆動するものに適用するものとしてもよいし、据え置き型の装置に搭載されるモータを駆動するものに適用するものとしてもよい。
【0023】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ22が「電動機」に相当し、インバータ回路24が「インバータ回路」に相当し、バッテリ26が「二次電池」に相当し、昇圧コンバータ28が「昇圧回路」に相当し、電流センサ54が「充放電電流検出手段」に相当し、電流センサ55が「リアクトル電流検出手段」に相当する。
【0024】
なお、実施例の要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、実施例の要素をもって課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明のついての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、電動機駆動装置の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
20 電動機駆動装置、22 モータ、24 インバータ回路、26 バッテリ、28 昇圧コンバータ、32 正極母線、34 負極母線、36 コンデンサ、40 電子制御ユニット、42 CPU、44 ROM、46 RAM、51 回転位置検出センサ、52V,52W 電流センサ、53 電圧センサ、54 電流センサ、55 電流センサ、56 電圧センサ、T11〜T16,T21,T22 トランジスタ、D11〜D16,D21〜D22 ダイオード、L リアクトル,SMR システムメインリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、該電動機を駆動するインバータ回路と、充放電が可能な二次電池と、リアクトルを有し前記二次電池の電圧を昇圧して前記インバータ回路に供給する昇圧回路と、昇圧動作が指示されたときに前記インバータ回路に要求される電圧が作用するよう前記昇圧回路を制御する昇圧制御手段と、前記二次電池を流れる電流である充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、前記昇圧回路のリアクトルを流れる電流であるリアクトル電流を検出するリアクトル電流検出手段とを備える電動機駆動装置において、
前記昇圧回路に対して昇圧動作が指示されているとき、前記検出された充放電電流と前記検出されたリアクトル電流とを比較し、両者の波形が一致しているとみなされる場合に前記昇圧回路に異常が生じていると判定する
ことを特徴とする電動機駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−235636(P2012−235636A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103411(P2011−103411)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】