説明

電動機駆動装置

【課題】リアクトル電流を検出してコンバータの制御に用いるものにおいて、リアクトル電流を精度をより向上させる。
【解決手段】昇圧コンバータが動作中で且つオフセット学習が完了しているときには(S100,S110)、バッテリの充放電電流IbからリアクトルLの電流ILを減じた電流差を補正量ΔILに設定し(S130)、リアクトルLの電流ILとオフセット学習量IL0と補正量ΔILとの和を昇圧コンバータ55の制御に用いるリアクトル電流ILとして設定する(S140)。これにより、リアクトル電流ILの精度をより向上させることができ、ひいては昇圧コンバータ55の制御性をより向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機と、スイッチング素子のスイッチングにより電動機を駆動するインバータと、インバータの母線間に接続されたコンデンサと、充放電可能な二次電池と、リアクトルを有しスイッチング素子のスイッチングにより二次電池の電圧を変換してコンデンサに供給可能なコンバータと、コンデンサの電圧を検出するコンデンサ電圧検出手段と、リアクトルの電流を検出するリアクトル電流検出手段と、を備え、コンデンサの目標電圧と検出されたコンデンサの電圧との偏差と所定の制御ゲインとに基づいてリアクトルの目標電流を演算すると共に演算した目標電流と検出されたリアクトルの電流との偏差に基づいてスイッチング制御信号を生成してコンバータをスイッチング制御する電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電動機駆動装置としては、電動機を駆動するインバータと、インバータの母線間に接続されたコンデンサと、バッテリの電圧を昇圧してコンデンサに供給する昇圧コンバータと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、コンデンサ電圧を検出し、検出したコンデンサ電圧と目標電圧との偏差に基づいてフィードバック制御によりスイッチング制御信号を生成し、生成したスイッチング制御信号により昇圧コンバータをスイッチング制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−252575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コンバータが備えるリアクトルを流れる電流を電流センサにより検出し、検出したリアクトル電流をコンバータの制御に用いるものとすれば、コンデンサに電荷を蓄えるリアクトル電流を直接に制御することができるため、コンバータの制御性をより向上させることができる。しかしながら、コンバータの動作中のリアクトル電流はスイッチングに伴って振動(リプル)が発生するため、検出信号(電流)のサンプリングポイントによっては検出ズレが生じ、信号精度が悪化してしまう。
【0005】
本発明の電動機駆動装置は、リアクトル電流を検出してコンバータの制御に用いるものにおいて、リアクトル電流を精度をより向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動機駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電動機駆動装置は、
電動機と、スイッチング素子のスイッチングにより前記電動機を駆動するインバータと、該インバータの母線間に接続されたコンデンサと、充放電可能な二次電池と、リアクトルを有しスイッチング素子のスイッチングにより前記二次電池の電圧を変換して前記コンデンサに供給可能なコンバータと、前記コンデンサの電圧を検出するコンデンサ電圧検出手段と、前記二次電池の充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、前記リアクトルの電流を検出するリアクトル電流検出手段と、前記コンデンサの目標電圧と前記検出されたコンデンサの電圧との偏差と所定の制御ゲインとに基づく電圧フィードバック制御により前記リアクトルの目標電流を演算すると共に該演算した目標電流と前記検出されたリアクトルの電流との偏差に基づく電流フィードバック制御によりスイッチング制御信号を生成して前記コンバータをスイッチング制御するコンバータ制御手段と、を備える電動機駆動装置において、
前記コンバータ制御手段は、前記コンバータが動作している最中には、前記検出された二次電池の電流から前記検出されたリアクトルの電流を減じた電流差を該検出されたリアクトル電流に加えて該リアクトル電流を補正し、該補正したリアクトル電流を用いて前記コンバータのスイッチング制御信号を生成する手段である
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の電動機駆動装置では、コンバータが動作している最中には、二次電池の電流からリアクトルの電流を減じた電流差をリアクトル電流に加えてリアクトル電流を補正する。そして、コンデンサの目標電圧とコンデンサの電圧との偏差と所定の制御ゲインとに基づく電圧フィードバック制御によりリアクトルの目標電流を演算し、演算したリアクトルの目標電流と補正したリアクトルの電流との偏差に基づく電流フィードバック制御によりスイッチング制御信号を生成してコンバータをスイッチング制御する。これにより、リアクトル電流の精度をより向上させることができる。この結果、リアクトル電流を用いてコンバータを制御することにより、コンデンサの電圧をより高い精度で目標電圧に近づけることができ、コンバータの制御性をより向上させることができる。
【0009】
こうした本発明の電動機駆動装置において、前記コンバータ制御手段は、前記リアクトル電流検出手段に異常が生じているときには、前記電流フィードバック制御を停止し、前記コンデンサの目標電圧と前記検出されたコンデンサの電圧との偏差と前記所定の制御ゲインとは異なる制御ゲインとに基づく電圧フィードバック制御により前記スイッチング制御信号を生成する手段であるものとすることもできる。こうすれば、リアクトル電流検出手段に異常が生じていても、コンデンサの電圧をある程度目標電圧に近づけることができ、電動機を駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータMG1,MG2やインバータ41,42を中心とした電機駆動系の構成図である。
【図3】昇圧コンバータ55の制御ブロック図である。
【図4】リアクトル電流補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】昇圧コンバータ55が昇圧動作を行なっている最中のリアクトル電流の時間変化の様子を示す説明図である。
【図6】電流センサ56に異常が生じているときに適用される昇圧コンバータ55の制御ブロック図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図9】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車420の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータMG1,MG2のパワーコントロールユニットの構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介してキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば周知の同期発電電動機として構成されてプラネタリギヤ30のサンギヤにロータが接続されたモータMG1と、例えば周知の同期発電電動機として構成されて駆動軸36にロータが接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するための駆動回路として構成されたインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52と、インバータ41,42が接続された電力ライン(以下、高電圧系電力ラインという)54aとバッテリ50が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)54bとに接続され電池電圧系電力ライン54bの電圧を昇圧して高電圧系電力ライン54aに供給する昇圧コンバータ55と、電池電圧系電力ライン54bに接続されてバッテリ50を電池電圧系電力ライン54bから遮断可能なシステムメインリレー59と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという。)70と、を備える。
【0013】
インバータ41,42は、図2のモータモータMG1,MG2やインバータ41,42を中心とした電機駆動系の構成図に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜T26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26とにより構成されている。トランジスタT11〜T16,T21〜T26は、高電圧系電力ライン54aの正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側になるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータMG1,MG2の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ41,42に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16,T21〜T26のオン時間の割合を制御することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータMG1,MG2を回転駆動することができる。高電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ57が接続されている。
【0014】
昇圧コンバータ55は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ高電圧系電力ライン54aの正極母線と高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とに接続されており、その接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とにはそれぞれバッテリ50の正極端子と負極端子とが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフ制御することにより、電池電圧系電力ライン54bの電力を昇圧して高電圧系電力ライン54aに供給したり、高電圧系電力ライン54aの電力を降圧して電池電圧系電力ライン54bに供給したりすることができる。リアクトルLと高電圧系電力ライン54aおよび電池電圧系電力ライン54bの負極母線とには平滑用のコンデンサ58が接続されている。
【0015】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流,コンデンサ57の端子間に取り付けられた電圧センサ57aからのコンデンサ57の電圧VH,コンデンサ58の端子間に取り付けられた電圧センサ58aからのコンデンサ58の電圧VL,リアクトルLの端子が接続された電力ラインに取り付けられた電流センサ56からのリアクトル電流ILなどが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタT11〜T16,T21〜T26をスイッチングするためのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチングするためのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0016】
バッテリECU52は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた電流センサ51からの充放電電流Ib,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。バッテリ50の充放電電流Ibを検出するための電流センサ51と上述したリアクトルLの電流ILを検出するための電流センサ56は、それぞれ特性が異なり、実施例では、電流センサ51を高精度型のセンサとして構成し、電流センサ56を高速応答型のセンサとして構成するものとした。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0017】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0018】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードとは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0019】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算すると共に計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定したトルク指令Tm1*,Tm2*と回転数Nm1,Nm2とからなる動作点でモータMG1,MG2を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン54aの目標電圧VH*として設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*,目標電圧VH*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。また、目標電圧VH*を受信したモータECU40は、高電圧系電力ライン54aの電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
【0020】
モータ運転モードでは、HVECU70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定したトルク指令Tm2*と回転数Nm2とからなる動作点でモータMG2を駆動するのに必要な電圧を高電圧系電力ライン54aの目標電圧VH*として設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*と目標電圧VH*とを受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なうと共に高電圧系電力ライン54aの電圧VHが目標電圧VH*となるよう昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
【0021】
実施例のハイブリッド自動車20は、モータ運転モードで運転している最中に、運転者のアクセルペダル83の踏み込みによりバッテリ50からの電力だけでは走行用パワーPdrvを賄うことができないときや、バッテリ50の蓄電割合SOCがエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた閾値以下になったとき、その他、車両の状態がエンジン運転モードに切り替えるために予め定められた状態に至ったときに、エンジン22を始動してエンジン運転モードに移行する。エンジン22の始動は、モータMG1からトルクを出力してエンジン22をモータリングすると共にモータMG1からのトルクの出力により駆動軸36に作用するトルクをモータMG2からのトルクによりキャンセルし、エンジン22のエンジン回転速度Neが予め定められた制御開始回転数に至ったときに燃料噴射制御や点火制御などを開始することにより行なわれる。
【0022】
ここで、昇圧コンバータ55の制御は、図3に示す制御ブロックに従って行なわれる。図3に示す制御ブロックは、目標電圧VH*と電圧センサ57aからのコンデンサ57の電圧VHとの差分ΔVHを演算する差分器60と、演算された差分ΔVHに対してPID制御(比例積分微分制御)を施してリアクトルLの電流指令IL*を生成するフィードバック部61と、生成された電流指令IL*と電流センサ56からのリアクトルLの電流ILとの差分ΔILを演算する差分器62と、演算された差分ΔILに対してPI制御(比例積分制御)を施すフィードバック部63と、コンデンサ58の電圧VL(電池電圧系電力ライン54bの電圧)とコンデンサ57の電圧VH(高電圧系電力ライン54aの電圧)との比とフィードバック部63から出力された信号との差分を演算して昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御するためのデューティ信号Dutyを生成する差分器64と、を備える。なお、差分器64から出力されたデューティ信号Dutyは電流変換器65によりリアクトルLの電流に変換され、変換されたリアクトルLの電流は電圧変換器66によりコンデンサ57の電圧に変換される。
【0023】
次に、実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に昇圧コンバータ55の制御に用いられるリアクトル電流ILを補正する際の動作について説明する。図4は、モータECU40により実行されるリアクトル電流補正ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。
【0024】
リアクトル電流補正ルーチンが実行されると、モータECU40は、まず、昇圧コンバータ55が動作中であるか否か(ステップS100)、オフセット学習が完了しているか否か(ステップS110)、をそれぞれ判定する。ここで、オフセット学習は、例えば、システム起動時にインバータ41,42と昇圧コンバータ55とがシャットダウンされている状態(リアクトルLに電流が流れていない状態)で電流センサ56により検出された電流ILが値0となるよう電流値をオフセットする処理である。昇圧コンバータ55が動作中でないときや、オフセット学習が完了していないときには、リアクトルLの電流ILを補正するのに適した状態でないと判断して、本ルーチンを終了する。一方、昇圧コンバータ55が動作中であり、且つ、オフセット学習が完了しているときには、電流センサ51からのバッテリ50の充放電電流Ibや電流センサ56からのリアクトルLの電流IL,前述したオフセット学習により得られるオフセット学習量IL0を入力する(ステップS120)。ここで、リアクトルLの電流ILは、電流センサ56から所定回数に亘って得られた信号を平均したものを用いたり、電流センサ56から得られた信号に平滑化フィルタを施したものを用いたりすることができる。そして、入力した充放電電流Ibから入力したリアクトルLの電流ILを減じたものを補正量ΔILとして設定し(ステップS130)、入力したリアクトルLの電流ILと入力したオフセット学習量IL0と設定した補正量ΔILとの和を昇圧コンバータ55の制御に用いるリアクトル電流ILとして設定して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。
【0025】
図5に、昇圧コンバータ55が昇圧動作を行なっている最中のリアクトル電流ILの時間変化の様子を示す。リアクトルLの電流ILは、スイッチング1周期(キャリア1周期)におけるトランジスタT32(下アーム)のオン期間では時間と共に上昇し、トランジスタT32のオフ期間では時間と共に下降するため、キャリアの周期に従って振動(リプル)する。電流センサ56は、リアクトル電流の振幅の中央値が検出されるようサンプリングポイントが定められているが、サンプリングポイントにズレが生じると、得られる電流ILに誤差ΔILが含まれる場合がある。実施例では、リアクトルLの電流ILを検出する電流センサ56よりも高精度型のバッテリ50の充放電電流Ibを検出する電流センサ51を用いて、充放電電流IbからリアクトルLの電流ILを減じた電流差ΔILを加えることにより電流ILを補正することにより、電流ILの精度の向上を図っているのである。
【0026】
次に、リアクトルLの電流を検出する電流センサ56に異常が生じているときに動作について説明する。なお、電流センサ56の異常は、例えば、昇圧コンバータ55が動作を停止している状態でインバータ41,42によりモータMG1,MG2を駆動しているときに電流センサ56により検出されるリアクトルLの電流ILと電流センサ51により検出される充放電電流Ibとを比較することにより判定することができる。図6に、電流センサ56に異常が生じているときに適用される昇圧コンバータ55の制御ブロック図を示す。なお、図6の制御ブロックのうち図3の制御ブロックと同一のブロックについては同一の符号を付した。図6の制御ブロックでは、目標電圧VH*と電圧センサ57aからのコンデンサ57の電圧VHとの差分ΔVHを差分器60により演算し、演算された差分ΔVHに対してフィードバック部61BによりPID制御を施し、フィードバック部61Bから出力された信号と値0との差分を差分器62により演算すると共に演算された差分に対して値1のゲインを乗じてフィードバック部63Bにより伝達、即ち、フィードバック部61Bから出力された信号をそのまま通過させ、コンデンサ58の電圧VL(電池電圧系電力ライン54bの電圧)とコンデンサ57の電圧VH(高電圧系電力ライン54aの電圧)との比とフィードバック部63Bから出力された信号との差分を差分器64により演算して昇圧コンバータ55のトランジスタT31,T32をスイッチング制御するためのデューティ信号Dutyを生成することにより行なわれる。即ち、図3の制御ブロックにおける電流フィードバック制御を停止し、フィードバック部61Bによる電圧フィードバック制御だけでスイッチング制御信号を生成して昇圧コンバータ55をスイッチング制御するのである。ここで、図6の制御ブロックを用いて昇圧コンバータ55を制御すると、図3の制御ブロックを用いて昇圧コンバータ55を制御した場合に比して、制御性が悪化し、コンデンサ58の電圧VLの変動が大きくなるため、実施例では、フィードバック部61Bにおける制御ゲインを図3のフィードバック部61における制御ゲインから変更すると共にモータMG2のトルク指令Tm2*に対して最大トルクの制限を施すことにより、コンデンサ58の電圧VLの変動が適正範囲を超えないようにしている。
【0027】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、昇圧コンバータ55が動作中で且つオフセット学習が完了しているときには、電流センサ51からのバッテリ50の充放電電流Ibから電流センサ56からのリアクトルLの電流ILを減じた電流差を補正量ΔILに設定し、リアクトルLの電流ILとオフセット学習量IL0と補正量ΔILとの和を昇圧コンバータ55の制御に用いるリアクトル電流ILとして設定するから、リアクトル電流ILの精度をより向上させることができ、ひいては昇圧コンバータ55の制御性をより向上させることができる。
【0028】
また、実施例のハイブリッド自動車20によれば、リアクトルLの電流を検出する電流センサ56に異常が生じているときには、リアクトルLの電流ILを用いた電流フィードバック制御を停止し、フィードバック部61Bにより制御ゲインを変更して目標電圧VH*とコンデンサ57の電圧VHとの偏差に基づく電圧フィードバック制御だけでスイッチング制御信号を生成して昇圧コンバータ55をスイッチング制御するから、リアクトルLの電流を検出する電流センサ56に異常が生じているときでも昇圧コンバータ55を動作させることができる。
【0029】
実施例のハイブリッド自動車20では、リアクトルLの電流を検出する電流センサ56の異常を判定し、電流センサ56に異常が生じているときには、リアクトルLの電流ILを用いた電流フィードバック制御を停止し、フィードバック部61Bにより目標電圧VH*とコンデンサ57の電圧VHとの偏差に基づく電圧フィードバック制御だけで昇圧コンバータ55をスイッチング制御するものとしたが、こうした電流センサ56が異常時については省略するものとしても構わない。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図7の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を駆動軸が接続された車軸(駆動輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図7における車輪39c,39dに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0031】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、図8の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、図9の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、図10の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を駆動輪38a,38bが接続された車軸とは異なる車軸(図10における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。即ち、エンジンと走行用の動力を出力する電動機とを備えるものであれば如何なるタイプのハイブリッド自動車としてもよいのである。
【0033】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20の形態として説明したが、走行用の動力源として電動機だけを備える電気自動車の形態とするものとしてもよいし、自動車以外の車両の形態としてもよいし、電動機を駆動する電動機駆動装置の形態としてもよい。
【0034】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG2が「電動機」に相当し、インバータ42が「インバータ」に相当し、コンデンサ57が「コンデンサ」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当し、昇圧コンバータ55が「コンバータ」に相当し、電圧センサ57aが「コンデンサ電圧検出手段」に相当し、電流センサ51が「充放電電流検出手段」に相当し、電流センサ56が「リアクトル電流検出手段」に相当し、図3の制御ブロックを実行したり図4のリアクトル電流補正ルーチンを実行するモータECU40が「コンバータ制御手段」に相当する。
【0035】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0036】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、電動機駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
20,120,220,320,420 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、30 プラネタリギヤ、36 駆動軸、37 デファレンシャルギヤ、38a,38b 駆動輪、39a,39b 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 電流センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54a 高電圧系電力ライン、54b 電池電圧系電力ライン、55 昇圧コンバータ、56 電流センサ、57 コンデンサ、57a 電圧センサ、58 コンデンサ、58a 電圧センサ、59 システムメインリレー、60 差分器、61,61B フィードバック部、62 差分器、63,63B フィードバック部、64 差分器、65 電流変換器、66 電圧変換器、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(HVECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330,430 変速機、MG,MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、スイッチング素子のスイッチングにより前記電動機を駆動するインバータと、該インバータの母線間に接続されたコンデンサと、充放電可能な二次電池と、リアクトルを有しスイッチング素子のスイッチングにより前記二次電池の電圧を変換して前記コンデンサに供給可能なコンバータと、前記コンデンサの電圧を検出するコンデンサ電圧検出手段と、前記二次電池の充放電電流を検出する充放電電流検出手段と、前記リアクトルの電流を検出するリアクトル電流検出手段と、前記コンデンサの目標電圧と前記検出されたコンデンサの電圧との偏差と所定の制御ゲインとに基づく電圧フィードバック制御により前記リアクトルの目標電流を演算すると共に該演算した目標電流と前記検出されたリアクトルの電流との偏差に基づく電流フィードバック制御によりスイッチング制御信号を生成して前記コンバータをスイッチング制御するコンバータ制御手段と、を備える電動機駆動装置において、
前記コンバータ制御手段は、前記コンバータが動作している最中には、前記検出された二次電池の電流から前記検出されたリアクトルの電流を減じた電流差を該検出されたリアクトル電流に加えて該リアクトル電流を補正し、該補正したリアクトル電流を用いて前記コンバータのスイッチング制御信号を生成する手段である
ことを特徴とする電動機駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−17299(P2013−17299A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148170(P2011−148170)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】