説明

電動車両のモータロック対策制御装置

【課題】電動車両において、電動モータの回転ロック時の過熱対策のために、ショックを生ずることなしに駆動力制限を行う。
【解決手段】t4でのブレーキ操作およびアクセル操作により、電動モータの回転ロックが発生した場合において、t4から設定時間TM1が経過したt5より、目標モータトルクtTmにモータロック時過熱対策用モータ駆動力上限値uTmおよびモータ要求駆動力vTmの小さい方がセットされ、このtTm=Min(vTm,uTm)が電動モータの駆動力制御に供される。t6まではuTm>vTmのため、tTm=vTmとなり、t6〜t7ではuTm<vTmのため、tTm=uTmとなり、モータ駆動力が上限値uTmを越えることのないよう制限され、過熱防止を図り得る。ところでuTmが車速VSPに応じ高車速ほど大きくなるよう変化することから、t6の直後において、tTmがステップ状に急変せず、ショックを回避し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのみを動力源とする電気自動車や、エンジンおよび電動モータからのエネルギーを用いて走行するハイブリッド車両のような電動車両における電動モータが、回転ロック傾向になった場合でも過熱状態になることのないようにした、電動車両のモータロック対策制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車両においては、電動モータのみによる電気(EV)走行に際し、例えばブレーキペダルを踏み込んだ制動状態でアクセルペダルを踏み込むような操作を行った場合、電動モータが、アクセルペダルの踏み込みにより大負荷を要求されている状態でモータ回転速度を低下、若しくは0にされるモータロック状態に至ることがある。
【0003】
この場合、モータ回転速度が低いにもかかわらず、またはモータ回転速度が0であるにもかかわらず、アクセルペダルの踏み込み(大負荷)に応じた大電流が電動モータへ供給されることとなり、電動モータの各相(U相、V相、W相)、または特定の相へ比較的長い時間に亘って大電流が流れる結果、電動モータが過熱状態にされ、その耐久性を低下される虞がある。
【0004】
かかる電動車両のモータロック対策技術としては一般的に、例えば特許文献1に記載のごとく、モータ回転数が設定値未満になったら、モータ出力トルク(モータ駆動力)の大きさを制限して、電動モータへの供給電流を抑制することで電動モータの過熱を防止するのが普通である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−331646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来は、特許文献1にも明記されている通り、モータ出力トルク(モータ駆動力)の制限値が一定値であるため、また、この制限値を電動モータの過熱防止を全ての回転速度域で確実に実現し得る小さなトルク値(駆動力)に定めなければならないことから、つまり大きなトルク制限をかける必要があるため、以下のような問題を生ずる。
【0007】
つまり従来の技術では、モータ回転数が設定値未満になったモータロック判定時に、モータ出力トルク(モータ駆動力)の大きさを現在の値から、上記の小さな一定の制限値へ一気に低下させることとなる。
従って、モータロック判定時に駆動力が急低下し、急で大きな減速度を乗員に感じさせて不快感を与えるという問題を生ずる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑み、そして、モータロック判定時でも未だ車速が比較的高い間はモータ過熱の虞が少なく、電動モータのロック時における過熱防止用のモータ駆動力制限値も大きくてよいとの事実認識に基づき、
当該モータロック時過熱防止用駆動力制限値を車速に応じて異ならせることにより、モータロック対策時に駆動力が急低下することのないようにし、もって急で大きな減速度を乗員に感じさせて不快感を与えるという上記の問題を解消し得るようにした電動車両のモータロック対策制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明による電動車両のモータロック対策制御装置は、
電動モータの駆動力を車輪に伝達して走行可能な電動車両に対し、
前記電動モータの回転ロック条件が成立したのを判定するモータロック条件成立判定手段と、
該手段によるモータロック条件成立判定時に電動モータの駆動力がモータ駆動力上限値を超えることのないよう、電動モータの駆動力を制限するモータ駆動力制限手段とを設け、
上記のモータ駆動力上限値を、高車速ほど大きくなる値に設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
かかる本発明による電動車両のモータロック対策制御装置によれば、
モータロック条件の成立時に電動モータの駆動力が、高車速ほど大きなモータ駆動力上限値を超えることのないよう、電動モータの駆動力を制限するため、
モータロック対策時に駆動力が車速低下につれて徐々に低下されることとなり、従ってモータロック対策時に駆動力が一気に、停車時の要求制限値へ一気に急低下することがなく、モータロック対策時に急で大きな減速度を乗員に感じさせて不快感を与えるという上記の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例になるモータロック対策制御装置を具えた車両の駆動系およびその制御系を示す概略系統図である。
【図2】図1におけるモータコントローラが実行するモータロック対策制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】ブレーキ操作およびアクセル操作により電動モータが回転ロックを生じた場合において、図2のモータロック対策制御プログラムが実行されたときの動作タイムチャートである。
【図4】図2のモータロック対策制御プログラムにおいて用いるモータロック対策用モータ駆動力上限値の変化特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1は、本発明の一実施例になるモータロック対策制御装置を具えた車両の駆動系およびその制御系を示し、
本実施例において図1における車両は、左右前輪(または左右後輪)1L,1Rを駆動して走行可能な電気自動車とする。
これら左右輪1L,1Rの駆動に際しては、電動モータ(走行動力源)2により、ディファレンシャルギヤ装置を含む減速機3を介して、当該左右輪1L,1Rの駆動を行うものとする。
【0013】
電動モータ2の駆動力制御に際しては、モータコントローラ4が、電源であるバッテリ5の電力をインバータ6により直流−交流変換して、またこの交流電力をインバータ6による制御下で電動モータ2へ供給することで、電動モータ2のトルクをモータコントローラ4での演算結果(後述の目標モータトルクtTm)に一致させるよう、当該電動モータ2の駆動力制御を行うものとする。
【0014】
なお、モータコントローラ4での演算結果(目標モータトルクtTm)が、電動モータ2に回生制動作用を要求する負極性のものである場合、モータコントローラ4はインバータ6を介し電動モータ2に発電負荷を与える。
このとき電動モータ2が回生制動作用により発電した電力は、インバータ6により交流−直流変換してバッテリ5に充電するものとする。
【0015】
モータコントローラ4には、上記の目標モータトルクtTmを演算するための情報として、
電気自動車の対地速度である車速VSPを検出する車速センサ7からの信号と、
運転者によるアクセルペダル踏み込み量であるアクセル開度APO(電動モータ要求負荷)を検出するアクセル開度センサ8からの信号と、
電動モータ2の電流(図1ではU相、V相、W相よりなる三相交流であるから電流iu,iv,iw)を検出する電流センサ9からの信号と、
運転者が車両の走行形態を指令するために行うシフト操作によって選択されたレンジが前進走行(D)レンジ、モータ速度制限(B)レンジ(自動変速機搭載車におけるエンジンブレーキレンジに相当する)、後退走行(R)レンジ、停車(N)レンジ、駐車(P)レンジの何れであるかを検出するレンジセンサ11からの信号と、
ブレーキペダルを踏み込み制動時にONするブレーキスイッチ12からの信号とを入力する。
【0016】
モータコントローラ4は、これら入力情報に応じて電動モータ2を制御するPWM信号を生成し、このPWM信号に応じドライブ回路を通じてインバータ6の駆動信号を生成する。
インバータ6は、例えば各相ごとに2個のスイッチング素子(例えばIGBT等のパワー半導体素子)からなり、駆動信号に応じてスイッチング素子をON/OFFすることにより、バッテリ5から供給される直流の電流を交流に変換・逆変換し、電動モータ2に目標モータトルク対応の電流を供給する。
【0017】
電動モータ2は、インバータ6より供給される交流電流により、これに応じた駆動力(トルク)を発生し、減速機3を通して左右輪1L,1Rに駆動力を伝達する。
また車両走行中、電動モータ2が左右輪1L,1Rに連れ回される所謂逆駆動時は、電動モータ2に発電負荷を与えて電動モータ2に回生制動作用を行わせることで、車両の運動エネルギーを回生してバッテリ5に蓄電する。
【0018】
<モータロック対策制御>
モータコントローラ4は、図2の制御プログラムを実行してモータロック対策制御を遂行することにより上記の目標モータトルクtTmを求め、これをインバータ6へ指令して電動モータ2の駆動力制御に資する。
【0019】
図2のステップS11においては、アクセル開度APO(モータ要求負荷)が、設定アクセル開度A1(設定負荷)以上か否かをチェックし、ステップS12においては、ブレーキスイッチ12がON(制動中)か否かをチェックする。
設定アクセル開度A1は、電動モータ2の回転ロック条件が成立したか否かを判定するのに用いるモータロック条件成立判定用のアクセル開度とする。
従ってステップS11は、本発明におけるモータロック条件成立判定手段に相当する。
【0020】
ステップS11でAPO< A1と判定するか、または、ステップS12でブレーキスイッチ12がOFF(非制動中)と判定する場合、
ブレーキペダルを踏み込んだままアクセルペダルを踏み込んだことによる、つまりブレーキ操作およびアクセル操作による電動モータ2の回転ロック(以下、2操作モータロックと言う)は起きず、2操作モータロック条件が成立していないことから、
ステップS13において、当該2操作モータロック条件が成立した時からの経過時間を計測するタイマTMを0にリセットする。
【0021】
ステップS11でAPO≧ A1と判定し、且つ、ステップS12でブレーキスイッチ12がON(制動中)と判定する場合、
ブレーキペダルを踏み込んだままアクセルペダルを踏み込んだことによる電動モータ2の2操作モータロックが起きる可能性があって、2操作モータロック条件が成立していることから、
ステップS14において、上記タイマTMを歩進(インクリメント)させることにより、当該2操作モータロック条件が成立した時からの経過時間を計測する。
従ってステップS12も、ステップS11と同様、本発明におけるモータロック条件成立判定手段に相当する。
【0022】
ステップS15においては、上記のタイマTM(2操作モータロック条件成立時からの経過時間)が設定時間TM1以上になったか否かをチェックする。
ここで設定時間TM1は、ブレーキペダルを踏み込んだままアクセルペダルをAPO≧A1となるよう踏み込んだ状態において、電動モータ2が過熱状態になることのない限界時間に対応させる。
従ってステップS15も、ステップS11およびステップS12と同様、本発明におけるモータロック条件成立判定手段に相当する。
【0023】
ステップS15でタイマTM≧TM1になったと判定するまでの間は、つまりブレーキ操作およびアクセル操作による2操作モータロックで電動モータ2が過熱直前状態になるよりも前は、制御をステップS17へ進める。
【0024】
このステップS17は、前記のステップS13を実行した後においても選択されるステップで、このステップS17においては、目標モータトルクtTmに、運転状態に応じて以下のごとくに求めた電動モータ2のモータ要求駆動力vTmをセットし、この目標モータトルクtTm=vTmを電動モータ2の駆動力制御に資する。
【0025】
モータ要求駆動力vTmの演算に際しては、先ず図1のセンサ11で検出した選択レンジと、センサ7,8で検出した車速VSPおよびアクセル開度APOとから、運転者が要求している車両の駆動力を求め、これと、減速機3のギヤ比とから、運転者が要求している車両の駆動力を実現するのに必要な電動モータ2の駆動力をモータ要求駆動力vTmと定める。
【0026】
ステップS15でタイマTM≧TM1になったと判定する場合は、つまり電動モータ2が2操作モータロックにより過熱直前状態になった場合は、制御を順次ステップS18およびステップS19へ進める。
【0027】
ステップS18においては、タイマTMを設定時間TM1に保持してこれよりも大きくなることのないようにする。
ステップS19においては、先ずモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmを演算し、このモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmと、ステップS17につき前述したと同様の要領で求めたモータ要求駆動力vTmとの小さい方Min(vTm,uTm)を目標モータトルクtTmとし、この目標モータトルクtTm=Min(vTm,uTm)を電動モータ2の駆動力制御に資する。
従ってステップS19は、本発明におけるモータ駆動力制限手段に相当する。
【0028】
ステップS19におけるモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmは、以下のごとくこれを定める。
【0029】
つまり、上記したブレーキ操作およびアクセル操作による2操作モータロック時においても、電動モータ2が過熱状態になることのないようなモータ駆動力限界値が車速VSPごとに存在することから、
本実施例においては、かかる車速VSPごとのモータ駆動力限界値をモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmと定めるべく、例えば図4に示すマップに基づき車速VSPからモータロック対策用モータ駆動力上限値uTm(図4における車速VSPは絶対値)を検索により求める。
【0030】
かように定めるモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmは、車速VSPが高いほど大きな値であるものは勿論である。
また当該モータロック対策用モータ駆動力上限値uTmは、車速VSPの上昇に対し単調増加するものであるのが好ましい。
なお図4における車速VSP=V1は、アクセルペダルをAPO≧A1となるよう踏み込んだ状態において、電動モータ2が回転ロックし、過熱状態となる限界車速、例えば7km/hに対応させる。
【0031】
<作用効果>
本実施例の図2によるモータロック対策制御によれば、図3のタイムチャートに基づき代表的に説明すると、以下のような作用効果を奏し得る。
【0032】
図3は、アクセル開度APOを瞬時t1から図示のごとくに増大させて、瞬時t2に設定開度A1となし、瞬時t3以後はこの設定開度A1よりも大きな一定値に保つアクセル操作を行ったものの、ブレーキスイッチ12のON,OFF信号から明らかなように瞬時t4〜t7でのブレーキペダル操作による制動で、車速VSPが図示のごとくに時系列変化した場合のタイムチャートである。
【0033】
この間、ステップS17およびステップS19で用いるモータ要求駆動力vTmは、アクセル開度APOおよび車速VSPに応じて図3に示すごとくに求められ、ステップS19で用いるモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmは、車速VSPに応じて図3に示すごとくに求められる。
【0034】
図3の瞬時t1〜t2間においては、アクセル開度APOが設定開度A1未満であるため、図2の制御プログラムがステップS11、ステップS13、ステップS17を含むループを選択し、ステップS13でタイマTMを0にし、ステップS17で目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmをセットする。
【0035】
従って、t1〜t2間においては図3に示す通り、目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmがセットされて、この目標モータトルクtTm=vTmが電動モータ2の駆動力制御に供されることになる。
【0036】
瞬時t2〜t4間においては、アクセル開度APOが設定開度A1以上であることから、ステップS11がステップS12を選択するが、未だ非制動状態であるため、ステップS12が制御を順次ステップS13およびステップS17に進める。
ステップS13で(TM=0)を実行し、ステップS17で目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmをセットする。
【0037】
従ってt2〜t4間においても図3に示す通り、目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmがセットされて、この目標モータトルクtTm=vTmが電動モータ2の駆動力制御に供されることになる。
【0038】
瞬時t4〜t7間においては、アクセル開度APOが設定開度A1以上であり、且つブレーキスイッチ12がON(制動状態)であることから、つまりアクセル操作およびブレーキ操作による2操作モータロック条件が成立していることから、ステップS11がステップS12を選択し、ステップS12が制御を順次ステップS14およびステップS15に進める。
なお、瞬時t4〜t7の制動中は、車速VSPがこの制動により図3の時系列変化をもって低下する。
【0039】
ステップS14ではタイマTMの歩進により、アクセル操作およびブレーキ操作による2操作モータロック条件成立瞬時t4からの経過時間を図3に示すように計測し、
ステップS15では、タイマTM(瞬時t4からの経過時間)が設定時間TM1を示すか否かを、つまり瞬時t5に至ったか否かをチェックする。
【0040】
しかして、タイマTM(瞬時t4からの経過時間)が設定時間TM1を示すようになるよりも前(瞬時t4〜t5の間)であれば、ステップS15がステップS17へ制御を進めることから、このステップS17で目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmがセットされる。
【0041】
従って瞬時t4〜t5間においても図3に示す通り、目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmがセットされて、この目標モータトルクtTm=vTmが電動モータ2の駆動力制御に供されることになる。
【0042】
アクセル操作およびブレーキ操作による2操作モータロック条件成立瞬時t4から設定時間TM1が経過した瞬時t5に、ステップS15が制御を順次ステップS18およびステップS19へ進めるようになる結果、
図3に示すようにタイマTMが設定時間TM1に保持され(ステップS18)、目標モータトルクtTmにモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmおよびモータ要求駆動力vTmの小さい方Min(vTm,uTm)がセットされる(ステップS19)。
【0043】
しかし、t5〜t6間においては未だ図3に示すごとく、車速低下によってもモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmがモータ要求駆動力vTmよりも大きいことから、目標モータトルクtTmに依然としてモータ要求駆動力vTmがセットされ、この目標モータトルクtTm=vTmが電動モータ2の駆動力制御に供されることになる。
【0044】
しかし、車速VSPの更なる低下でモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmがモータ要求駆動力vTmよりも小さくなる瞬時t6以降は、
ステップS19で目標モータトルクtTmにモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmおよびモータ要求駆動力vTmの小さい方Min(vTm,uTm)=uTmがセットされることとなり、この目標モータトルクtTm=uTmが電動モータ2の駆動力制御に供されるようになる。
【0045】
瞬時t7に制動の中止によりブレーキスイッチ12がOFFされると、ステップS12が順次ステップS13およびステップS17を選択するようになり、
ステップS13においてタイマTMが図3に示すごとく0にされ、
ステップS17において目標モータトルクtTmにモータ要求駆動力vTmがセットされ、この目標モータトルクtTm=vTmが電動モータ2の駆動力制御に供されるようになる。
【0046】
このため目標モータトルクtTm=vTmは、本来なら瞬時t7にモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmから一気にモータ要求駆動力vTmへ復帰するところながら、
本実施例においては目標モータトルクtTmを、図2では図示しなかったが所定のレートリミット処理により、瞬時t7より図3に示す所定の時間変化割合でモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmからモータ要求駆動力vTmへと徐々に復帰させ、これによりショックが発生しないようにする。
【0047】
なお瞬時t7に制動が中止されることにより、車速VSPは瞬時t7以降、図3に示すように上昇する。
【0048】
上記した図2,3のモータロック対策制御によれば、アクセル開度APOが設定開度A1以上で、且つ、車両を制動しているブレーキスイッチON状態が、設定時間TM1に亘って継続した瞬時t5に、2操作モータロック条件が成立したと判定し(ステップS11、ステップS12、ステップS14、ステップS15)、このモータロック条件成立時t5より、ステップS12で非制動状態になったと判定する瞬時t7までの間、電動モータ2の目標モータトルクtTmが、モータロック対策用の駆動力上限値uTmを超えることのないよう、電動モータ2の駆動力を制限するため、
電動モータ2への供給電流が、モータロック対策用の駆動力上限値uTmに対応する電流値を越えることのないよう制限されることとなり、電動モータ2が回転ロック傾向によっても過熱状態になるのを確実に防止することができる。
【0049】
しかも、モータロック対策用の駆動力上限値uTmを、上記のモータロック条件が成立しても電動モータ2が過熱状態になることのないモータ駆動力限界値とし、車速VSPに応じて高車速ほど大きくなる図3,4に示すごときものとしたから、
電動モータ2の駆動力制限が開始される瞬時t6の直後における目標モータトルクtTmの経時変化から明らかなように、電動モータ2の駆動力が車速変化につれて徐々に変化されることとなる。
【0050】
このため、モータロック対策時にモータ駆動力がステップ状に一気に低下することがなく、モータロック対策時に急で大きな車速変化を乗員に感じさせて不快感を与えるという前記の問題を解消することができる。
【0051】
また電動モータ2の駆動力制限が終了する瞬時t7においても、目標モータトルクtTmをレートリミット処理により所定の時間変化割合でモータロック対策用モータ駆動力上限値uTmからモータ要求駆動力vTmへと徐々に復帰させるため、ショックが発生するようなことがない。
【0052】
なお本実施例では、モータロック対策用モータ駆動力上限値uTmが前記した通り、また図3に示すごとく車速VSPの上昇に対し単調増加するものであることから、上記の作用効果を一層顕著なものにすることができる。
【0053】
更に本実施例においては、アクセル開度APOが設定開度A1以上で(ステップS11)、且つ、車両を制動しているブレーキスイッチON状態(ステップS12)のみをもって2操作モータロック条件が成立したと判定せず、これら2要件が設定時間TM1に亘り揃っていると判定した瞬時t5に2操作モータロック条件が成立したと判定するため、
電動モータが過熱状態になる直前をもって、2操作モータロック条件が成立したと判定することができ、モータロック対策用の電動モータ2の駆動力制限を必要最小限にし得ることとなる。
【0054】
また、かかる2操作モータロック時にはインバータ6による電動モータ2の過熱保護が入ることが考えられるが、上記のようにアクセル開度APOが設定開度A1以上で(ステップS11)、且つ、車両を制動しているブレーキスイッチON状態(ステップS12)が設定時間TM1以上に亘り継続している時をもって2操作モータロック条件が成立したと判定するため、
インバータ6よりも上位側にあって自由度の高い車両の統合コントローラによる電動モータ2の過熱保護が可能となり、運転者に対しての違和感を軽減することができる。
【0055】
しかも本実施例においては上記の設定時間TM1が前記した通り、2操作モータロック条件が成立した状態のもとで電動モータ2が過熱状態になることのない限界時間に対応する時間であることから、上記の作用効果を一層顕著なものにすることができる。
【0056】
<その他の実施例>
なお上記した実施例では、モータロック対策用モータ駆動力上限値uTmを、2操作モータロック時においても、電動モータ2が過熱状態になることのないような、車速VSPごとのモータ駆動力限界値としたが、
モータロック対策用モータ駆動力上限値uTmはこれに限られるものではなく、図3の瞬時t6におけるモータ駆動力制限の実質的な開始時より、車速VSPの低下に伴って徐々に減少し、前記したモータロック時過熱対策の用をなすようなものであれば任意のものでよい。
【符号の説明】
【0057】
1L,1R 左右駆動輪
2 電動モータ
3 減速機
4 モータコントローラ
5 バッテリ
6 インバータ
7 車速センサ
8 アクセル開度センサ
9 電流センサ
11 レンジセンサ
12 ブレーキスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの駆動力を車輪に伝達して走行可能な電動車両において、
前記電動モータの回転ロック条件が成立したのを判定するモータロック条件成立判定手段と、
該手段によるモータロック条件成立判定時に電動モータの駆動力がモータ駆動力上限値を超えることのないよう、電動モータの駆動力を制限するモータ駆動力制限手段とを具え、
前記モータ駆動力上限値を、高車速ほど大きくなる値に設定したことを特徴とする電動車両のモータロック対策制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両のモータロック対策制御装置において、
前記モータ駆動力上限値は、車速上昇に対し単調増加するものであることを特徴とする電動車両のモータロック対策制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された電動車両のモータロック対策制御装置において、
前記モータ駆動力上限値は、前記モータロック条件が成立しても電動モータが過熱状態になることのない、車速に応じたモータ駆動力限界値であることを特徴とする電動車両のモータロック対策制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された電動車両のモータロック対策制御装置において、
前記モータロック条件成立判定手段は、電動モータへの要求負荷が設定負荷以上で、且つ、車両を制動している状態が設定時間継続した時をもって、モータロック条件が成立したと判定するものであることを特徴とする電動車両のモータロック対策制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された電動車両のモータロック対策制御装置において、
前記設定時間は、電動モータへの要求負荷が前記設定負荷以上で、且つ、車両を制動している状態において、電動モータが過熱状態になることのない限界時間であることを特徴とする電動車両のモータロック対策制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−259601(P2011−259601A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131586(P2010−131586)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】