説明

電動車両の制御装置

【課題】クリープトルク制御中、車両が走行を開始してもクリープトルクの変動を抑えることで、走行フィーリングの悪化を防止する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、モータジェネレータと、車両停止判定手段と、補正用勾配演算手段と、目標クリープトルク演算手段と、を備える。モータジェネレータは、アクセル足離し操作時にタイヤに付与するクリープトルクを制御する。補正用勾配演算手段は、車両停止が判定されたとき、停止判定時の推定勾配をクリープトルクの補正用勾配として保存し、車両停止から走行へ移行しても所定時間を経過するまでは保存した補正用勾配の値を固定する。目標クリープトルク演算手段は、車速に基づく基本クリープトルクに、補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源に有するモータジェネレータによりアクセル足離し時のクリープトルクを制御する電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両のクリープトルク制御装置としては、速度検知手段により検知可能な車速の絶対値の下限値以下において、推定される路面勾配の変化量を制限するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。これにより、速度検知手段により検知された回転速度が、車両が動き出してから数km/hになるときに出力されて、回転速度の微分値が急激に変動しても、推定される路面勾配の変化量は制限される。そのため、推定される路面勾配が急激に変動することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−185070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電動車両のクリープトルク制御装置にあっては、常に演算している推定勾配を使っているため、車両が走り始めた時に推定勾配が変動すると、クリープトルクも変動し、これにより車両も振動して走行フィーリングが悪化する、という問題がある。
すなわち、車速検知可能速度以下のときは、推定される路面勾配の変化量を制限しても、車速検知可能速度以上で加速すると推定勾配も変動する可能性が残る。また、急減速して車速検知可能速度以上でブレーキオフした時などは、推定勾配のズレも大きく、所望のクリープトルクが得られないことがある。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、クリープトルク制御中、車両が走行を開始してもクリープトルクの変動を抑えることで、走行フィーリングの悪化を防止することができる電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両の制御装置は、モータジェネレータと、車両停止判定手段と、補正用勾配演算手段と、目標クリープトルク演算手段と、を備える手段とした。
前記モータジェネレータは、駆動源に設けられ、アクセル足離し操作時に駆動輪に付与するクリープトルクを制御する。
前記車両停止判定手段は、車両の停止を判定する。
前記補正用勾配演算手段は、車両停止が判定されたとき、停止判定時の推定勾配を前記クリープトルクの補正用勾配として保存し、車両停止から走行へ移行しても所定時間を経過するまでは保存した前記補正用勾配の値を固定する。
前記目標クリープトルク演算手段は、車速に基づく基本クリープトルクに、前記補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算する。
【発明の効果】
【0007】
車両停止が判定されたとき、補正用勾配演算手段において、停止判定時の推定勾配がクリープトルクの補正用勾配として保存され、車両停止から走行へ移行しても所定時間を経過するまでは保存された補正用勾配の値が固定される。そして、目標クリープトルク演算手段において、車速に基づく基本クリープトルクに、補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクが演算される。
例えば、クリープ制御中、常に演算している推定勾配を使っていると、車両が走行開始したときに推定勾配が変動すると、目標クリープトルクは、車速に基づく滑らかな変化に推定勾配による変動分が加わり、ドライバーが意図しない前後加速度が発生する。
これに対し、補正用勾配の値が固定されている間、補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数が一定値を保つため、クリープ制御の目標値である目標クリープトルクは、車速に基づく基本クリープトルクの滑らかな変化に沿ったトルクとなる。
この結果、クリープトルク制御中、車両が走行を開始してもクリープトルクの変動を抑えることで、走行フィーリングの悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレインを示すパワートレイン構成図である。
【図2】実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。
【図3】実施例1の統合コントローラを示す演算ブロック図である。
【図4】実施例1の制御装置で用いられる定常目標トルクマップ(a)とMGアシストトルクマップ(b)を示すマップ図である。
【図5】実施例1の制御装置で用いられるエンジン始動停止線マップを示すマップ図である。
【図6】実施例1の制御装置で用いられるバッテリSOCに対する走行中要求発電出力を示す特性図である。
【図7】実施例1の制御装置で用いられるエンジンの最良燃費線を示す特性図である。
【図8】実施例1の自動変速機における変速線の一例を示す変速マップ図である。
【図9】実施例1の統合コントローラにて実行される補正用勾配演算処理の構成と流れを示すフローチャートである。
【図10】補正用勾配演算処理における制動力判定を示す制動力判定図である。
【図11】実施例1の統合コントローラにて実行される車両停止判定処理の構成と流れを示すフローチャートである。
【図12】実施例1の統合コントローラにて実行される目標クリープトルク演算処理の構成と流れを示すフローチャートである。
【図13】基本クリープトルクとクリープカット補正係数と登坂時クリープトルク補正係数による目標クリープトルクの演算処理構成を示す演算ブロック図である。
【図14】クリープカット補正係数の演算処理構成を示す演算ブロック図である。
【図15】登坂時クリープトルク補正係数の演算処理構成を示す演算ブロック図である。
【図16】平坦路において実施例1のクリープトルク制御を行ったときの制動力・車速・車両停止判定・補正係数・クリープトルクの各特性を示すタイムチャートである。
【図17】登坂路において実施例1のクリープトルク制御を行ったときの制動力・車速・勾配・車両停止判定・補正係数・クリープトルクの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電動車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両のパワートレインを示すパワートレイン構成図である。以下、図1に基づきパワートレイン構成を説明する。
【0011】
実施例1のハイブリッド車両は、図1に示すように、エンジン1と、モータジェネレータ2と、自動変速機3と、第1クラッチ4と、第2クラッチ5と、ディファレンシャルギア6と、タイヤ7,7(駆動輪)と、を備えている。つまり、エンジンと1モータ・2クラッチを備えたパワートレイン構成であり、走行モードとして、第1クラッチ4の締結によるHEVモードと、第1クラッチ4の解放によるEVモードと、を有する。
【0012】
前記エンジン1は、その出力軸とモータジェネレータ2(略称MG)の入力軸とが、トルク容量可変の第1クラッチ4(略称CL1)を介して連結される。
【0013】
前記モータジェネレータ2は、その出力軸と自動変速機3(略称AT)の入力軸とが連結される。
【0014】
前記自動変速機3は、その出力軸にディファレンシャルギア6を介してタイヤ7,7が連結される。
【0015】
前記第2クラッチ4(略称CL2)は、自動変速機3のシフト状態に応じて異なる変速機内の動力伝達を担っているトルク容量可変のクラッチ・ブレーキによる締結要素のうち、1つを用いている。これにより自動変速機3は、第1クラッチ4を介して入力されるエンジン1の動力と、モータジェネレータ2から入力される動力を合成してタイヤ7,7へ出力する。
【0016】
前記第1クラッチ4と前記第2クラッチ4とには、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できる湿式多板クラッチ等を用いればよい。このパワートレイン系には、第1クラッチ4の接続状態に応じて2つの運転モードがあり、第1クラッチ4の切断状態では、モータジェネレータ2の動力のみで走行するEVモードであり、第1クラッチ4の接続状態では、エンジン1とモータジェネレータ2の動力で走行するHEVモードである。
【0017】
そして、パワートレインには、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転センサ10と、モータジェネレータ2の回転数を検出するMG回転センサ11と、自動変速機3の入力軸回転数を検出するAT入力回転センサ12と、自動変速機3の出力軸回転数を検出するAT出力回転センサ13と、が設けられる。
【0018】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両の制御システムを示す制御システム構成図である。以下、図2に基づいて制御システム構成を説明する。
【0019】
実施例1の制御システムは、図2に示すように、統合コントローラ20と、エンジンコントローラ21と、モータコントローラ22と、インバータ8と、バッテリ9と、ソレノイドバルブ14と、ソレノイドバルブ15と、アクセル開度センサ17と、ブレーキ油圧センサ23と、SOCセンサ16と、を備えている。
【0020】
前記統合コントローラ20は、パワートレイン系の動作点を統合制御する。この統合コントローラ20では、アクセル開度APOとバッテリ充電状態SOCと、車速VSP(自動変速機出力軸回転数に比例)と、に応じて、運転者が望む駆動力を実現できる運転モードを選択する。そして、モータコントローラ22に目標MGトルクもしくは目標MG回転数を指令し、エンジンコントローラ21に目標エンジントルクを指令し、ソレノイドバルブ14,15に駆動信号を指令する。
【0021】
前記エンジンコントローラ21は、エンジン1を制御する。前記モータコントローラ22は、モータジェネレータ2を制御する。前記インバータ8は、モータジェネレータ2を駆動する。前記バッテリ9は、電気エネルギーを蓄える。前記ソレノイドバルブ14は、第1クラッチ4の油圧を制御する。前記ソレノイドバルブ15は、第2クラッチ5の油圧を制御する。前記アクセル開度センサ17は、アクセル開度(APO)を検出する。前記ブレーキ油圧センサ23は、ブレーキ油圧(BPS)を検出する。前記SOCセンサ16は、バッテリ9の充電状態を検出する。
【0022】
図3は、実施例1の統合コントローラ20を示す演算ブロック図である。以下、図3に基づいて統合コントローラ20の構成を説明する。
【0023】
前記統合コントローラ20は、図3に示すように、目標駆動トルク演算部100と、モード選択部200と、目標発電出力演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を備えている。
【0024】
前記目標駆動トルク演算部100は、図4(a)に示す目標定常駆動トルクマップと、図4(b)に示すMGアシストトルクマップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPから、目標定常駆動トルクとMGアシストトルクを算出する。なお、アクセル開度APOが0の場合、図13に示す目標クリープコースト駆動力テーブルから目標駆動力を演算して、現在のギヤ比から要求駆動トルクを演算する。目標定常駆動トルクマップと目標クリープコースト駆動力テーブルの間は、アクセル開度APOで補間して算出する。例えば、目標定常駆動トルクマップは、所定のアクセル開度APO以上のみで使用し、所定のアクセル開度APOと所定のAPO=0との間を補完する。
【0025】
前記モード選択部200は、図5に示す車速毎のアクセル開度で設定されているエンジン始動停止線マップを用いて、運転モード(HEVモード、EVモード)を演算する。エンジン始動線とエンジン停止線は、エンジン始動線(SOC高、SOC低)とエンジン停止線(SOC高、SOC低)の特性に代表されるように、バッテリSOCが低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に低下する特性として設定されている。
ここで、エンジン始動処理は、EVモード状態で図5に示すエンジン始動線をアクセル開度APOが越えた時点で、第2クラッチ5を半クラッチ状態にスリップさせるように、第2クラッチ5のトルク容量を制御する。そして、第2クラッチ5がスリップ開始したと判断した後に第1クラッチ4の締結を開始してエンジン回転を上昇させる。エンジン回転が初爆可能な回転数に達成したらエンジン1を燃焼作動させ、モータ回転数とエンジン回転数が近くなったところで第1クラッチ4を完全に締結する。その後、第2クラッチ5をロックアップさせてHEVモードに遷移させることをいう。
【0026】
前記目標発電出力演算部300は、図6に示す走行中発電要求出力マップを用いて、バッテリSOCから目標発電出力を演算する。また、現在の動作点から図7で示す最良燃費線までエンジントルクを上げるために必要な出力を演算し、前記目標発電出力と比較して少ない出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0027】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと目標定常トルク,MGアシストトルクと目標モードと車速VSPと要求発電出力とを入力する。そして、これらの入力情報を動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比とCL1ソレノイド電流指令を演算する。
【0028】
前記変速制御部500は、目標CL2トルク容量と目標変速比とから、これらを達成するように自動変速機3内のソレノイドバルブを駆動制御する。図8に変速制御で用いられる変速線マップの一例を示す。車速VSPとアクセル開度APOから現在の変速段から次変速段をいくつにするか判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
【0029】
図9は、実施例1の統合コントローラ20にて実行される補正用勾配演算処理の構成と流れを示すフローチャートである(補正用勾配演算手段)。以下、図9の各ステップについて説明する。
【0030】
ステップS1では、図11に示すフローチャートにおいて、車両停止判定=ONであるか否かを判断する。YES(車両停止判定=ON)の場合はステップS2へ進み、NO(車両停止判定=OFF)の場合はステップS5へ進む。
【0031】
ステップS2では、ステップS1での車両停止判定=ONであるとの判断に続き、制動力判定がON(前回)⇒OFFであるか否かを判断する。YES(制動力判定がON⇒OFF)の場合はステップS3へ進み、NO(制動力判定がONまたはOFF)の場合はステップS5へ進む。
ここで、制動力判定は、図10に示すように、制動力の閾値として第1閾値aと第2閾値b(第2閾値b<第1閾値a)を決める。そして、第1閾値a以上の制動力が付与された後、第1閾値aより小さな値である第2閾値b未満まで制動力が解除されたとき、制動力判定がON(前回)⇒OFFとなって、制動力判定条件が成立する。
【0032】
ステップS3では、ステップS2での制動力判定がON⇒OFFであるとの判断に続き、そのときに計算により得られている推定勾配を、補正用勾配としてその値をラッチ(保存)し、ステップS4へ進む。
ここで、推定勾配は、例えば、停車中の勾配判定値(CL2の保護制御で使用している値)の過去2秒間の平均値を計算することで取得する。
【0033】
ステップS4では、ステップS3での補正用勾配のラッチに続き、タイマーカウントを開始し、リターンへ進む。
【0034】
ステップS5では、ステップS1での車両停止判定=OFFであるとの判断、あるいは、ステップS2での制動力判定がONまたはOFFであるとの判断に続き、ラッチされている補正用勾配が、補正用勾配≦0であるか否かを判断する。YES(補正用勾配≦0)の場合はステップS6へ進み、NO(補正用勾配>0)の場合はステップS8へ進む。
【0035】
ステップS6では、ステップS5での補正用勾配≦0、つまり、平坦勾配または下り坂勾配であるとの判断に続き、ステップS4にて開始されたタイマーカウントをリセットし、ステップS7へ進む。
【0036】
ステップS7では、ステップS6でのタイマーカウントリセットに続き、補正用勾配を、補正用勾配=0に設定し、リターンへ進む。
【0037】
ステップS8では、ステップS5での補正用勾配>0、つまり、登坂勾配であるとの判断に続き、ステップS4にて開始されたタイマーカウント値が制限開始閾値を超えているか否かを判断し、もしくは、車速が制限開始車速を超えているか否かを判断する。YES(タイマー>制限開始閾値、もしくは、車速>制限開始車速)の場合はステップS10へ進み、NO(タイマー≦制限開始閾値、かつ、車速≦制限開始車速)の場合はステップS9へ進む。
【0038】
ステップS9では、ステップS8でのタイマー≦制限開始閾値、かつ、車速≦制限開始車速であるとの判断に続き、ラッチされている補正用勾配の値を書き換えることなく前回値を保持し、リターンへ進む。
【0039】
ステップS10では、ステップS8でのタイマー>制限開始閾値、もしくは、車速>制限開始車速であるとの判断に続き、タイマー>制限開始閾値のとき、制限時間に達するまでの時間間隔の間でラッチ推定勾配(=補正用勾配)を0%まで徐々に下げ、リターンへ進む。また、車速>制限開始車速のとき、制限車速に達するまでの車速間隔の間でラッチ推定勾配(=補正用勾配)を0%まで徐々に下げ、リターンへ進む。
【0040】
図11は、実施例1の統合コントローラ20にて実行される車両停止判定処理の構成と流れを示すフローチャートである(車両停止判定手段)。以下、図11の各ステップについて説明する。
【0041】
ステップS21では、車両停止判定(前回)=OFFであるか否かを判断する。YES(車両停止判定=OFF)の場合はステップS22へ進み、NO(車両停止判定=ON)の場合はステップS26へ進む。
【0042】
ステップS22では、ステップS21での車両停止判定=OFFであるとの判断に続き、選択されている走行モードがEVモードであるか否かを判断する。YES(EVモード)の場合はステップS23へ進み、NO(HEVモード)の場合はステップS30へ進む。
【0043】
ステップS23では、ステップS22でのEVモード選択時であるとの判断に続き、車速がEV車両停止判定閾値(例えば、1km/h、HEV車両停止判定閾値より小さな値)以下であるか否かを判断する。YES(車速≦EV車両停止判定閾値)の場合はステップS24へ進み、NO(車速>EV車両停止判定閾値)の場合はステップS28へ進む。
【0044】
ステップS24では、ステップS23での車速≦EV車両停止判定閾値であるとの判断に続き、タイマーカウントを開始し、ステップS25へ進む。
【0045】
ステップS25では、ステップS24でのタイマーカウント開始に続き、タイマーカウント値が、EV時判定時間閾値(例えば、0.5sec、HEV時判定時間閾値より小さな値)以上であるか否かを判断する。YES(タイマー≧EV時判定時間閾値)の場合はステップS27へ進み、NO(タイマー<EV時判定時間閾値)の場合はステップS26へ進む。
【0046】
ステップS26では、ステップS21での車両停止判定=ONであるとの判断、あるいは、ステップS25でのタイマー<EV時判定時間閾値であるとの判断に続き、車両停止判定の前回値を保持し、リターンへ進む。
【0047】
ステップS27では、ステップS25でのタイマー≧EV時判定時間閾値であるとの判断に続き、車両停止判定を、車両停止判定=ONに設定し、リターンへ進む。
【0048】
ステップS28では、ステップS23での車速>EV車両停止判定閾値であるとの判断に続き、車両停止判定を、車両停止判定=OFFに設定し、ステップS29へ進む。
【0049】
ステップS29では、ステップS28での車両停止判定=OFFの設定に続き、タイマーカウントをリセットし、リターンへ進む。
【0050】
ステップS30では、ステップS22でのHEVモード選択時であるとの判断に続き、車速がHEV車両停止判定閾値(例えば、3km/h、EV車両停止判定閾値より大きな値)以下であるか否かを判断する。YES(車速≦HEV車両停止判定閾値)の場合はステップS31へ進み、NO(車速>HEV車両停止判定閾値)の場合はステップS35へ進む。
【0051】
ステップS31では、ステップS30での車速≦HEV車両停止判定閾値であるとの判断に続き、タイマーカウントを開始し、ステップS32へ進む。
【0052】
ステップS32では、ステップS31でのタイマーカウント開始に続き、タイマーカウント値が、HEV時判定時間閾値(例えば、1sec、EV時判定時間閾値より大きな値)以上であるか否かを判断する。YES(タイマー≧HEV時判定時間閾値)の場合はステップS34へ進み、NO(タイマー<HEV時判定時間閾値)の場合はステップS33へ進む。
【0053】
ステップS33では、ステップS32でのタイマー<HEV時判定時間閾値であるとの判断に続き、車両停止判定の前回値(OFF)を保持し、リターンへ進む。
【0054】
ステップS34では、ステップS32でのタイマー≧HEV時判定時間閾値であるとの判断に続き、車両停止判定を、車両停止判定=ONに設定し、リターンへ進む。
【0055】
ステップS35では、ステップS30での車速>HEV車両停止判定閾値であるとの判断に続き、車両停止判定を、車両停止判定=OFFに設定し、ステップS36へ進む。
【0056】
ステップS36では、ステップS35での車両停止判定=OFFの設定に続き、タイマーカウントをリセットし、リターンへ進む。
【0057】
図12は、実施例1の統合コントローラ20にて実行される目標クリープトルク演算処理の構成と流れを示すフローチャートである(目標クリープトルク演算手段)。以下、図12の各ステップについて説明する。
【0058】
ステップS41では、車速とギヤ比により基本クリープトルクを演算し、ステップS42へ進む。
ここで、基本クリープトルクは、車速と目標クリープコースト駆動力テーブルに基づいて目標クリープ駆動力または目標コースト駆動力を算出する。目標クリープコースト駆動力テーブルには、図13に示すように、車速ゼロの時に最も大きな正の目標クリープ駆動力で、車速の上昇と共に低下し、ある車速を超えると負の目標コースト駆動力になる特性を設定している。また、ギヤ比に基づき駆動輪へのファイナルギヤ比を算出する。そして、基本クリープトルクを、
基本クリープトルク=目標クリープ駆動力/(ファイナルギヤ比/タイヤ動半径)
の式により算出する。
【0059】
ステップS42では、ステップS41での基本クリープトルクの演算に続き、ラッチした推定勾配である補正用勾配により登坂時クリープトルク補正係数を演算し、ステップS49へ進む。
ここで、登坂時クリープトルク補正係数は、図15に示すように、補正用勾配が0〜cまでは「1」とし、補正用勾配がc〜dの間は、補正用勾配の上昇にしたがって比例的に上昇する値(1以上の値)とし、補正用勾配がd〜になると、上限固定値とする。つまり、クリープ駆動力となる上り勾配ではクリープトルクを上げる補正係数とし、コースト駆動力となる下り勾配ではクリープトルクを下げる補正係数とする。
【0060】
ステップS43では、基本クリープトルクの演算と並行に、補正用勾配とブレーキ制動力により車両停止時にクリープトルクを低下させるクリープカット補正係数を演算し、ステップS44へ進む。
ここで、クリープカット補正係数は、図14に示すように、基本的に、車両停止判定後、ブレーキ制動力(ブレーキ踏力)が所定の制動力まで踏み込まれている場合には、1から徐々に低下させる特性により与える。そして、ブレーキ制動力(ブレーキ踏力)が所定の制動力より小さい復帰制動力閾値eまで戻された場合には、徐々に元の値(=1)まで増加させる特性により与える。このとき、車両停止判定後における補正用勾配(=推定勾配)が大きい登坂路であるほど、前記復帰制動力閾値eを補正用勾配に応じて大きな値e’により与える。また、このクリープカット補正係数は、EVモード選択時にはゼロの値(クリープトルク=0)まで低下させるが、HEVモード選択時にはクリープトルクがゼロより大きい正の値となる係数値まで低下させるようにしている。
【0061】
ステップS44では、ステップS43でのクリープカット補正係数の演算に続き、車両停止判定=ONであるか否か、もしくは、クリープカット補正係数(前回)<1であるか否かを判断する。YES(車両停止判定=ON、もしくは、クリープカット補正係数<1)の場合はステップS45へ進み、NO(車両停止判定=OFF、かつ、クリープカット補正係数≧1)の場合はステップS48へ進む。
【0062】
ステップS45では、ステップS44での車両停止判定=ON、もしくは、クリープカット補正係数<1であるとの判断に続き、クリープカット補正係数(前回)が、今回のクリープカット補正係数を超えているか否かを判断する。YES(クリープカット補正係数(前回)>クリープカット補正係数)の場合はステップS46へ進み、NO(クリープカット補正係数(前回)≦クリープカット補正係数)の場合はステップS47へ進む。
【0063】
ステップS46では、ステップS45でのクリープカット補正係数(前回)>クリープカット補正係数であるとの判断に続き、今回のクリープカット補正係数まで減少側の変化率を使って徐々に低下させ、ステップS49へ進む。
【0064】
ステップS47では、ステップS45でのクリープカット補正係数(前回)≦クリープカット補正係数であるとの判断に続き、今回のクリープカット補正係数まで増加側の変化率を使って徐々に上昇させ、ステップS49へ進む。
【0065】
ステップS48では、ステップS44での車両停止判定=OFF、かつ、クリープカット補正係数≧1であるとの判断に続き、今回のクリープカット補正係数を、クリープカット補正係数=1とし、ステップS49へ進む。
【0066】
ステップS49では、ステップS42,S46,S47,S48での補正係数の演算に続き、目標クリープトルクを、
目標クリープトルク=基本クリープトルク×クリープカット補正係数×登坂時クリープトルク補正係数
の式により算出し、リターンへ進む。なお、上記目標クリープトルクの演算式を、演算ブロックで表したのが図13である。
【0067】
次に、作用を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置における作用を、「補正用勾配演算作用」、「車両停止判定作用」、「目標クリープトルク演算作用」、「平坦路におけるクリークトルク制御作用」、「登坂路におけるクリークトルク制御作用」に分けて説明する。
【0068】
[補正用勾配演算作用]
平坦勾配あるいは下り勾配による路面にて、アクセル足離し操作後、ブレーキ踏み込み操作により車両停止する。その後、車両発進を意図し、車両停止状態でブレーキ操作量を戻すときの補正用勾配演算作用を説明する。
【0069】
ブレーキ戻し操作により制動力判定がON⇒OFFになったとき、図9のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。ステップS3では、制動力判定がON⇒OFFになったときの推定勾配が、補正用勾配の値としてラッチされ、ステップS4では、タイマーカウントが開始される。
【0070】
次に、制動力判定がOFFになると、平坦勾配あるいは下り勾配による路面であるため、補正用勾配≦0%となる。したがって、図9のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS5→ステップS6→ステップS7→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、タイマーカウントがリセットされ、ステップS7では、補正用勾配が、補正用勾配=0に設定される。
【0071】
一方、登坂勾配による路面にて、アクセル足離し操作後、ブレーキ踏み込み操作により車両停止する。その後、車両発進を意図し、車両停止状態でブレーキ操作量を戻すときの補正用勾配演算作用を説明する。
【0072】
ブレーキ戻し操作により制動力判定がON⇒OFFになったとき、図9のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。ステップS3では、制動力判定がON⇒OFFになったときの推定勾配が、補正用勾配の値としてラッチされ、ステップS4では、タイマーカウントが開始される。
【0073】
次に、制動力判定がOFFになると、登坂勾配による路面であるため、補正用勾配>0%となる。したがって、図9のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS5→ステップS8→ステップS9→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、ステップS8の補正用勾配の保持解除条件が成立せず、タイマー≦制限開始閾値、かつ、車速≦制限開始車速の走行開始域状態である間は、ステップS9において、補正用勾配の前回値が保持され、補正用勾配は一定値に保たれる。
【0074】
そして、ステップS8の補正用勾配の保持解除条件が成立すると、図9のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS5→ステップS8→ステップS10→リターンへと進む流れが繰り返される。つまり、ステップS10において、タイマー>制限開始閾値になったときには、制限時間に達するまでの時間間隔の間でラッチ推定勾配(=補正用勾配)が0%まで徐々に下げられる。また、車速>制限開始車速になったときには、制限車速に達するまでの車速間隔の間でラッチ推定勾配(=補正用勾配)が0%まで徐々に下げられる。
【0075】
上記のように、車両停止状態から走行開始域のクリープ制御中において、補正用勾配が一定値に保たれ、これに伴ってクリープトルクの登坂時クリープトルク補正係数が固定されるので、走行フィーリングの悪化を招くクリープトルクの変動が起きない。
【0076】
また、補正用勾配を一定値に保った後、所定時間経過した後、あるいは、所定車速に達した後は、補正用勾配を徐々にゼロまで下げ、登坂時クリープトルク補正係数を1に戻すようにしている(図15参照)。
したがって、第2クラッチ5(CL2)を使って発進するハイブリッド車両において、大きなクリープトルクを出し続けて走行すると、第2クラッチ5(CL2)の温度が上昇し、第2クラッチ5(CL2)の耐久性を悪化させる。そこで、時間制限や車速制限をつけることで、第2クラッチ5(CL2)の発熱を防止することができる。また、ブレーキをオフしてアクセル踏むまでの時間は、クリープトルクを補正して大きなトルクを出させることで、登坂でも車両がずり下がることは無い。
【0077】
[車両停止判定作用]
EVモードの選択時における車両停止判定作用を説明する。まず、車速がEV車両停止判定値を上回っている減速中は、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS28→ステップS29→リターンという流れが繰り返され、車両停止判定OFFが保持される。
【0078】
そして、車速がEV車両停止判定値以下まで減速すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS26→リターンという流れが繰り返される。すなわち、ステップS23の停止判定車速条件の成立に基づき、ステップS24にてタイマーカウントが開始されるが、ステップS25の停止判定時間条件が成立しないことで、ステップS26へ進み、前回値である車両停止判定OFFが保持される。
【0079】
そして、ステップS25の停止判定時間条件が成立すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24→ステップS25→ステップS27→リターンという流れが繰り返される。すなわち、ステップS27において、車両停止判定がOFFからONに切り替えられる。
【0080】
HEVモードの選択時における車両停止判定作用を説明する。まず、車速がHEV車両停止判定値を上回っている減速中は、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS30→ステップS35→ステップS35→ステップS36→リターンという流れが繰り返され、車両停止判定OFFが保持される。
【0081】
そして、車速がHEV車両停止判定値以下まで減速すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS30→ステップS31→ステップS32→ステップS33→リターンという流れが繰り返される。すなわち、ステップS30の停止判定車速条件の成立に基づき、ステップS31にてタイマーカウントが開始されるが、ステップS32の停止判定時間条件が成立しないことで、ステップS33へ進み、前回値である車両停止判定OFFが保持される。
【0082】
そして、ステップS32の停止判定時間条件が成立すると、図11のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS30→ステップS31→ステップS32→ステップS34→リターンという流れが繰り返される。すなわち、ステップS34において、車両停止判定がOFFからONに切り替えられる。
【0083】
上記のように、車両停止判定は、EVモードの選択時であるかHEVモードの選択時であるかにかかわらず、同じように、停止判定車速条件が成立し、停止判定時間条件が成立すると、車両停止判定をONとする。ただし、EVモードの選択時であるかHEVモードの選択時であるかで、車速のEV車両停止判定閾値(例えば、1km/h)とHEV車両停止判定閾値(例えば、3km/h)を異ならせている。そして、継続時間のEV時判定時間閾値(例えば、0.5sec)とHEV時判定時間閾値(例えば、1sec)を異ならせている。
【0084】
その理由は、第2ラッチ5(CL2)をロックアップしたEVモードは、モータ回転数を使って精度良い車速が検出可能なので、車両停止の判定時間を短くできる。一方、HEVモードは、第2ラッチ5(CL2)をスリップさせているので、モータ回転で車速を演算できず、車速センサを使うことになるが、精度が悪く判定時間を長くする必要があることによる。
【0085】
[目標クリープトルク演算作用]
目標クリープトルクは、図12のフローチャートにしたがって、
目標クリープトルク=基本クリープトルク×クリープカット補正係数×登坂時クリープトルク補正係数
の式により算出される。以下、基本クリープトルクの演算作用と、登坂時クリープトルク補正係数の演算作用と、クリープカット補正係数の演算作用を説明する。
【0086】
基本クリープトルクは、ステップS41において、車速とギヤ比により演算される。つまり、車速と目標クリープコースト駆動力テーブル(図13)に基づいて、目標クリープ駆動力を算出すると、
基本クリープトルク=目標クリープ駆動力/(ファイナルギヤ比/タイヤ動半径)
の式により基本クリープトルクが求められる。
【0087】
登坂時クリープトルク補正係数は、ステップS42において、ラッチした推定勾配である補正用勾配により登坂時クリープトルク補正係数が演算される。つまり、登坂時クリープトルク補正係数は、図15に示すように、補正用勾配が0〜cまでは「1」とし、補正用勾配がc〜dの間は、補正用勾配の上昇にしたがって比例的に上昇する値(1以上の値)とし、補正用勾配がd〜になると、上限固定値とされる。
【0088】
クリープカット補正係数は、ステップS43において、補正用勾配とブレーキ制動力により車両停止時にクリープトルクを低下させる補正係数として演算される。つまり、クリープカット補正係数は、図14に示すように、基本的に、車両停止判定後、ブレーキ制動力(ブレーキ踏力)が所定の制動力まで踏み込まれている場合には、1から徐々に低下させる特性により与えるようにしている(ステップS44→ステップS45→ステップS46)。そして、ブレーキ制動力(ブレーキ踏力)が所定の制動力より小さい復帰制動力閾値eまで戻された場合には、徐々に元の値(=1)まで増加させる特性により与えるようにしている(ステップS44→ステップS45→ステップS47)。このとき、車両停止判定後における補正用勾配(=推定勾配)が大きい登坂路であるほど、前記復帰制動力閾値eが補正用勾配に応じた大きな値e’により与えられる。
【0089】
すなわち、燃費向上のために所定の制動力までブレーキが踏まれている場合には、クリープトルクを徐々に低下させ、制動力が所定の制動力より小さい復帰制動力閾値eまでブレーキが戻された場合には、クリープトルクを徐々に元の値まで増加させる。しかし、急な登坂路ではクリープトルクが立ち上がるのが遅れ、車両がずり下がる場合がある。そこで、急な登坂路ではクリープトルクを復帰させる復帰制動力閾値eを勾配が急なほど、大きな値とすることで、急な登坂路ではクリープトルクの立ち上がりを早くさせることで車両ずり下がりを防止する。
【0090】
また、このクリープカット補正係数は、EVモード選択時にはゼロの値(クリープトルク=0)まで低下させるが、HEVモード選択時にはクリープトルクがゼロより大きい正の値となる係数値まで低下させるようにしている。
したがって、HEVモード選択時は、低車速域において第2クラッチ5(CL2)をスリップさせた状態でクリープトルクを出す。このため、車両停止時に0トルクまでクリープトルク指令を下げるとクラッチ油圧指令が小さくなり過ぎて、第2クラッチ5(CL2)のリターン圧以下となり、クリープトルクを増やそうとした時に油圧の応答が著しく悪化するのを防止できる。
【0091】
[平坦路におけるクリークトルク制御作用]
平坦路におけるクリークトルク制御作用を、図16に示すタイムチャートに基づいて説明する。
【0092】
時刻t1にて車両が停止すると、時刻t1から少し遅れた時刻t2にて車両停止判定がOFFからONに変更される。このとき、平坦路であることで補正用勾配=0とされ、登坂時クリープトルク補正係数は1とされる(図15)。したがって、目標クリープトルクが、目標クリープトルク=基本クリープトルク×クリープカット補正係数の式により算出されることになる。つまり、クリープカット補正係数は、図16の矢印Aに示すように、時刻t2から時刻t3までの間でブレーキ制動力に応じた変化率で目標まで下げられる。これにより、クリープトルクも時刻t2から時刻t3までの間で低下する。
【0093】
そして、時刻t4にてブレーキ制動力が、復帰制動力閾値eまで戻されると、クリープカット補正係数は、図16の矢印Bに示すように、時刻t4から時刻t5までの間でブレーキ制動力の低下に応じた変化率で元の1まで上昇する。これにより、クリープトルクも時刻t4から時刻t5までの間で増加し、その後、クリープ走行することができる。
【0094】
[登坂路におけるクリークトルク制御作用]
登坂路におけるクリークトルク制御作用を、図17に示すタイムチャートに基づいて説明する。
【0095】
時刻t1にて車両停止判定がOFF⇒ONになると、平坦路停止の場合と同様に、時刻t1からクリープカット補正係数が低下し、クリープトルクも低下する。そして、図17の矢印に示す時刻t2にてブレーキが所定値まで戻され、制動力判定がOFF⇒ONになると、推定勾配が補正用勾配(1以上の値)としてラッチされ、時刻t4まで補正用勾配が維持される。したがって、目標クリープトルクが、目標クリープトルク=基本クリープトルク×クリープカット補正係数×登坂時クリープトルク補正係数の式により算出されることになる。つまり、クリープカット補正係数と登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせた補正係数は、図17の矢印Dに示すように、時刻t2から時刻t3までの間で急激な上昇勾配により1を超える値まで上昇する。これにより、クリープトルクも時刻t2から時刻t3までの間で増加する。さらに、制限時間もしくは制限車速となる時刻t4までは、登坂路においてずり下がることのない走行を確保するように、高いクリープトルクが維持されることになる。
【0096】
そして、時刻t4になると、その後、図17の矢印Eに示すように、時刻t4から時刻t5までの間で補正用勾配が徐々に勾配0%まで戻され、補正係数が徐々に1に戻される。これに伴い、クリープトルクも時刻t4以降、徐々に低下する。
【0097】
すなわち、登坂路での停車からの発進時、十分なクリープトルクを確保する制御を行わない場合は、図17の矢印Fに示すように、クリープトルクの不足により車両がずり下がる。これに対し、実施例1では、登坂時クリープトルク補正係数により、発進直前の時刻t2から時刻t3までの間でクリープトルクを増加させ、さらに、発進走行する時刻t3から時刻t4まで高いクリープトルクを維持する制御が行われる。このため、登坂路停車からの発進において、車両がずり下がることのなく、変動のない高いクリープトルクにより発進走行性能が確保される。
【0098】
次に、効果を説明する。
実施例1のハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0099】
(1) 駆動源に設けられ、アクセル足離し操作時に駆動輪(タイヤ7,7)に付与するクリープトルクを制御するモータジェネレータ2と、
車両の停止を判定する車両停止判定手段(図11)と、
車両停止が判定されたとき、停止判定時の推定勾配を前記クリープトルクの補正用勾配として保存し、車両停止から走行へ移行しても所定時間を経過するまでは保存した前記補正用勾配の値を固定する補正用勾配演算手段(図9)と、
車速に基づく基本クリープトルクに、前記補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算する目標クリープトルク演算手段(図12)と、
を備える。
このため、クリープトルク制御中、車両が走行を開始してもクリープトルクの変動を抑えることで、走行フィーリングの悪化を防止することができるができる。
【0100】
(2) 前記補正用勾配演算手段(図9)は、車速が閾値以下の状態が所定時間以上継続しているという車両停止判定条件(ステップS1)と、第1閾値以上の制動力が付与された後、第1閾値aより小さな値である第2閾値b未満まで制動力が解除されたという制動力判定条件(ステップS2)と、が成立すると、2つの条件成立時の補正用勾配を、前記クリープトルクの推定勾配として保存する(ステップS3)。
このため、(1)の効果に加え、クリープトルク制御中、車両が走行を開始する直前からクリープトルクの変動を抑えることで、確実に走行フィーリングの悪化を防止することができる。
【0101】
(3) 前記補正用勾配演算手段(図9)は、前記補正用勾配の保存を開始してからの経過時間が制限開始閾値を超えると、制限時間に達するまでの間で前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻す(ステップS8→ステップS10)。
このため、(1)または(2)の効果に加え、クラッチ(第2クラッチ5)を使って登坂路発進する際、時間によりクリープトルクを制限することで、クラッチ(第2クラッチ5)の発熱を防止し、クラッチ耐久信頼性の向上を図ることができる。
【0102】
(4) 前記補正用勾配演算手段(図9)は、前記補正用勾配の保持を開始してからの車速が制限開始車速を超えると、制限車速に達するまでの間で前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻す(ステップS8→ステップS10)。
このため、(1)または(2)の効果に加え、クラッチ(第2クラッチ5)を使って登坂路発進する際、車速によりクリープトルクを制限することで、クラッチ(第2クラッチ5)の発熱を防止し、クラッチ耐久信頼性の向上を図ることができる。
【0103】
(5) 車両停止判定後、かつ、所定の制動力までブレーキ踏まれている場合にクリープトルクを徐々に低下させ、制動力が前記所定の制動力より小さい復帰制動力閾値eまでブレーキが戻された場合にクリープトルクを徐々に元の値まで増加させるクリープカット補正係数演算手段(図12のステップS43〜ステップS48)と、を備え、
前記クリープカット補正係数演算手段(図12のステップS43〜ステップS48)は、車両停止判定後の推定勾配を保存し、前記復帰制動力閾値eを推定勾配が大きくなるほど大きい値とし、
前記目標クリープトルク演算手段(図12)は、車速に基づく基本クリープトルクに、前記クリープカット補正係数と前記登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算する(ステップS49)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、制動力停車時にクリープトルクをカットすることにより燃費の向上を図ることができると共に、急な登坂路でクリープトルクの立ち上がりを早くさせることで、登坂路からの発進時に車両ずり下がりを防止することができる。
【0104】
(6) 前記補正用勾配演算手段(図9)は、前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻す際、制限時間または制限車速に達するまでの間で保存した推定勾配を徐々に0%まで下げる(ステップS10)。
このため、(3)〜(5)の効果に加え、クリープトルクの勾配補正制御と車両停止後のクリープトルク低下制御の二つの制御の初期化を同時にすることが可能となり、制御が簡素化されるので、コスト低下を図ることができる。
【0105】
(7) 前記電動車両は、走行モードとして、前記モータジェネレータ2のみを駆動源として走行するEVモードと、前記モータジェネレータ2とエンジン1を駆動源として走行するHEVモードと、を有するハイブリッド車両であり、
前記クリープカット補正係数演算手段(図12のステップS43〜ステップS48)は、EVモードを選択しているとき、クリープトルクをゼロトルクまで低下し、HEVモードを選択しているとき、クリープトルクをゼロより大きい正の値のトルクまで低下する。
このため、(5)の効果に加え、HEVモード選択時、低下させたクリープトルクを増加しようとしたとき、HEVモードの低車速域でスリップ締結される第2クラッチ5(CL2)の油圧応答が著しく悪化するのを防止することができる。
【0106】
(8) 前記車両停止判定手段(図11)は、所定車速以下の状態が所定時間を経過すると車両が停止したと判定する手段であり、前記所定車速と前記所定時間を、EVモードとHEVモード毎に設定し、EVモードの方がHEVモードより所定車速を小さく、所定時間を短くする(ステップS23,S25,S30,S32)。
このため、(7)の効果に加え、EVモード選択時における短時間での車両停止判定を達成しながら、HEVモード選択時における精度の良い車両停止判定を確保することができる。
【0107】
以上、本発明の電動車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0108】
実施例1では、第2クラッチCL2を、有段式の自動変速機ATに内蔵した摩擦要素の中から選択する例を示した。しかし、自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設けても良く、例えば、モータ/ジェネレータMGと変速機入力軸との間に自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設ける例や、変速機出力軸と駆動輪の間に自動変速機ATとは別に第2クラッチCL2を設ける例も含まれる。
【0109】
実施例1では、HEVモードとEVモードを切り替えるモード切り替え手段として、第1クラッチ4を用いる例を示した。しかし、HEVモードとEVモードを切り替えるモード切り替え手段としては、例えば、プラネタリギア等のように、クラッチを用いることなくクラッチ機能を発揮するような差動装置や動力分割装置を用いる例としても良い。
【0110】
実施例1では、本発明の制御装置をハイブリッド車両に対し適用した例を示した。しかし、駆動源にモータジェネレータを有する電気自動車や燃料電池車、等の他の電動車両に対しても適用することができる。また、実施例1で示した1モータ・2クラッチのハイブリッド車両以外の駆動系形式によるハイブリッド車両に対しても勿論適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 エンジン
2 モータジェネレータ
3 自動変速機
4 第1クラッチ
5 第2クラッチ
6 ディファレンシャルギア
7 タイヤ(駆動輪)
8 インバータ
9 バッテリ
10 エンジン回転センサ
11 MG回転センサ
12 AT入力回転センサ
13 AT出力回転センサ
14,15 ソレノイドバルブ
16 SOCセンサ
17 アクセル開度センサ
20 統合コントローラ
21 エンジンコントローラ
22 モータコントローラ
23 ブレーキ油圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に設けられ、アクセル足離し操作時に駆動輪に付与するクリープトルクを制御するモータジェネレータと、
車両の停止を判定する車両停止判定手段と、
車両停止が判定されたとき、停止判定時の推定勾配を前記クリープトルクの補正用勾配として保存し、車両停止から走行へ移行しても所定時間を経過するまでは保存した前記補正用勾配の値を固定する補正用勾配演算手段と、
車速に基づく基本クリープトルクに、前記補正用勾配に基づく登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算する目標クリープトルク演算手段と、
を備えることを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両の制御装置において、
前記補正用勾配演算手段は、車速が閾値以下の状態が所定時間以上継続しているという車両停止判定条件と、第1閾値以上の制動力が付与された後、第1閾値より小さな値である第2閾値未満まで制動力が解除されたという制動力判定条件と、が成立すると、2つの条件成立時の補正用勾配を、前記クリープトルクの推定勾配として保存することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車両の制御装置において、
前記補正用勾配演算手段は、前記補正用勾配の保存を開始してからの経過時間が制限開始閾値を超えると、制限時間に達するまでの間で前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻すことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載された電動車両の制御装置において、
前記補正用勾配演算手段は、前記補正用勾配の保持を開始してからの車速が制限開始車速を超えると、制限車速に達するまでの間で前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻すことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載された電動車両の制御装置において、
車両停止判定後、かつ、所定の制動力までブレーキ踏まれている場合にクリープトルクを徐々に低下させ、制動力が前記所定の制動力より小さい復帰制動力閾値までブレーキが戻された場合にクリープトルクを徐々に元の値まで増加させるクリープカット補正係数演算手段と、を備え、
前記クリープカット補正係数演算手段は、車両停止判定後の推定勾配を保存し、前記復帰制動力閾値を推定勾配が大きくなるほど大きい値とし、
前記目標クリープトルク演算手段は、車速に基づく基本クリープトルクに、前記クリープカット補正係数と前記登坂時クリープトルク補正係数を掛け合わせることで目標クリープトルクを演算することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項6】
請求項3から請求項5までの何れか1項に記載された電動車両の制御装置において、
前記補正用勾配演算手段は、前記登坂時クリープトルク補正係数を元の1に戻す際、制限時間または制限車速に達するまでの間で保存した推定勾配を徐々に0%まで下げることを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載された電動車両の制御装置において、
前記電動車両は、走行モードとして、前記モータジェネレータのみを駆動源として走行するEVモードと、前記モータジェネレータとエンジンを駆動源として走行するHEVモードと、を有するハイブリッド車両であり、
前記クリープカット補正係数演算手段は、EVモードを選択しているとき、クリープトルクをゼロトルクまで低下し、HEVモードを選択しているとき、クリープトルクをゼロより大きい正の値のトルクまで低下することを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載された電動車両の制御装置において、
前記車両停止判定手段は、所定車速以下の状態が所定時間を経過すると車両が停止したと判定する手段であり、前記所定車速と前記所定時間を、EVモードとHEVモード毎に設定し、EVモードの方がHEVモードより所定車速を小さく、所定時間を短くすることを特徴とする電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−90442(P2012−90442A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235178(P2010−235178)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】