説明

電動車両

【課題】使い勝手を損なうことなく、クラッチオフ時における電動車両1の増速を抑制する。
【解決手段】電動車両1は、駆動モータ32と、駆動モータ32からの駆動力を駆動輪22に伝達する駆動軸24と、駆動モータ32及び駆動軸24間の駆動連結を断接するクラッチ35と、少なくとも駆動モータ32及び駆動軸24間の駆動連結が切断されているときに駆動軸24の回転によって駆動される発電機41と、発電機41からの電力供給を受けて、駆動モータ32及び駆動軸24間の駆動連結が切断されているときに駆動軸24に対し制動力を付与する、磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキ5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば小型電動カート等の電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、電動車両の一例として小型電動カートが開示されている。この小型電動カートの駆動系は、駆動源であるモータと、モータに対して駆動連結されかつ、当該モータからの駆動力を駆動輪に伝達する駆動軸と、モータ及び駆動軸間の駆動連結を断接するクラッチと、を備えて構成されている。当該クラッチは、クラッチレバーによって手動操作可能に構成されており、通常の走行時にはクラッチによってモータ及び駆動軸間の駆動連結を接続状態(クラッチをオン)にして、モータからの駆動力を駆動軸を介して駆動輪に伝達することによってカートを走行させる一方、クラッチレバーの操作によりモータ及び駆動軸間の駆動連結を切断状態(クラッチをオフ)にすることによって、例えば車庫に駐車する場合等において、小型電動カートを手押しによって走行させることができるようになっている。
【特許文献1】特開2000−24046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、クラッチをオフにしたときには、駆動輪及び駆動軸が自由に回転することが可能になるため、例えば下り坂等において手押し走行しているときに、小型電動カートの自重による加速度によってカートの速度が増速してしまい、その速度を制御しきれなくなる場合がある。
【0004】
これに対し特許文献1に開示された小型電動カートでは、クラッチをオフにしているときに駆動軸の回転数をセンサにより検知して、所定の回転数以上になったときにはクラッチを強制的にオンにして、小型電動カートを停止させる技術が開示されている。
【0005】
しかしながらこの技術は、小型電動カートを停止させてしまうと共に、クラッチを強制的にオンに変更してしまうことから、例えば下り坂において手押し走行しているときには、カートの速度が所定速度以上になる毎に小型電動カートが停止すると共に、手押し走行を再開しようとしたときには、クラッチレバーを一々操作しなければならず、使い勝手が悪いという不都合がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、使い勝手を損なうことなく、クラッチオフ時における電動車両の増速を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電動車両は、駆動モータと、前記駆動モータに対して駆動連結されかつ、当該駆動モータからの駆動力を駆動輪に伝達する駆動軸と、前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結を断接するクラッチと、少なくとも前記クラッチによって前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が切断されているときに前記駆動軸の回転によって駆動される発電機と、前記発電機からの電力供給を受けて、前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が切断されているときに前記駆動軸に対し制動力を付与する、磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキと、を備えている。
【0008】
クラッチによって駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が接続されているとき(クラッチがオンのとき)には、駆動モータからの駆動力が駆動軸を介して駆動輪に伝達され、それによって電動車両が走行する。
【0009】
一方、クラッチによって駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が切断されているとき(クラッチがオフのとき)には、駆動輪及び駆動軸が自由に回転することになり電動車両を手押しにて走行させることが可能になる一方で、例えば下り坂等において、手押し中の電動車両の速度が、意に反して増速してしまう場合がある。
【0010】
これに対し前記の構成では、少なくともクラッチがオフのときには、駆動軸の回転によって発電機が駆動されることによって、当該発電機により発電が行われると共に、発電機によって発電された電力が、磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキに供給される。電磁ブレーキは、電力供給を受けて駆動軸に対し制動力を付与することになる。ここでこの構成では、駆動軸の回転数が高まるほど、換言すれば電動車両の速度が高速になればなるほど、発電機の発電量が増大し、電磁ブレーキに供給される電力も増大する。これによって電磁ブレーキが駆動軸に対して付与する制動力も増大する。従ってこの構成では、例えば下り坂等において電動車両の速度が増速するような状況においても、速度に応じた制動力が自動的に得られるため、駆動軸及び駆動輪の回転数が増大し続けることが抑制されて、駆動軸及び駆動輪の回転数を略一定の回転数に留めることが可能となる。その結果、電動車両の速度が増速してしまうことが抑制される。
【0011】
そうして、電動車両の速度の増速時にクラッチをオンにして車両を停止させることがないため、所定の制限速度以下に抑制された状態で、電動車両の手押し走行を継続することが可能であり、電動車両の使い勝手を損なうことも回避される。
【0012】
また、電動車両の速度が増速しないときには制動力も増大しないため、例えば平地等においても、電動車両を手押しにて走行させることも容易に行い得る。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によると、少なくともクラッチがオフのときに駆動軸の回転によって発電機が駆動されると共に、その発電機からの電力が磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキに供給されて駆動軸に制動力が付与されることによって、例えば下り坂等において電動車両の速度が増速するような状況においても、速度に応じた制動力が駆動軸に付与され、電動車両の速度を所定の速度以下に抑制することができる。しかも、速度制御においてクラッチ操作が伴う車両の停止を行わないため、電動車両の手押し走行をそのまま継続することができ、使い勝手を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
図1は、電動車両の例としての、乗用の小型電動カート1の概略構成を示している。尚、図1は、電動カート1に含まれる各部の配設位置を特定する図ではなく、各部の機能的なつながりを示す図である。
【0016】
この電動カート1は、操舵輪としての1つの前輪21と、駆動軸24に連結された駆動輪としての2つの後輪22,22とを備えた、一人乗りの3輪カートである。しかしながら、電動カート1は3輪に限定されるものではなく、例えば4輪等であってもよく、また、その電動カート1の大きさや、その乗車可能人数等の構成については特に限定されるものではない。
【0017】
前輪21には、詳細な図示は省略するが、操舵ハンドルが連結されており、この操舵ハンドルには、アクセルレバー、ブレーキレバー等の各種の操作レバーが取り付けられている。操舵ハンドル、アクセルレバー及びブレーキレバー等を総称して、ここでは操作部23と呼ぶことにする。
【0018】
操作部23は制御部31に対して電気的に接続されていて(一点鎖線の矢印参照)、アクセルレバー等の操作に応じた操作信号を、制御部31に向かって出力する。制御部31は、操作部23からの操作信号を受け、その操作信号に応じて例えば駆動モータ32の制御を行う(一点鎖線の矢印参照)。
【0019】
駆動モータ32は、バッテリ33に対して電気的に接続されかつ(太実線の矢印参照)、当該バッテリ33からの電力供給を受けて駆動する。駆動モータ32の出力軸(図示省略)は、減速歯車機構34を介して駆動軸24に駆動連結されており、これによって駆動モータ32の駆動力が、歯車機構34及び駆動軸24を介して後輪22に伝達されるようになる。
【0020】
歯車機構34は、当該歯車機構34と駆動モータ32との駆動連結を断接するクラッチ35を含んでおり、このクラッチ35は、クラッチレバー36を手動操作することによって断接(オフ・オン)されるように構成されている。歯車機構34にはまた、発電機41が取り付けられており、これによって発電機41は、歯車機構34を介して駆動軸24に対し駆動連結されるように構成されている。この発電機41と駆動軸24との間の駆動連結は、少なくとも駆動モータ32と駆動軸24との間の駆動連結が切断されているときに、接続されるものである。例えば前記クラッチレバー36の手動操作によって駆動モータ32と駆動軸24との間の駆動連結が切断されることに応じて、発電機41と駆動軸24との間の駆動連結が接続される一方、駆動モータ32と駆動軸24との間の駆動連結が接続されることに応じて、発電機41と駆動軸24との間の駆動連結が切断されるように構成してもよい。こうした駆動連結を断接するための構成は、公知の種々の構成を採用することが可能である。
【0021】
駆動軸24には、電磁ブレーキ5が取り付けられており、この電磁ブレーキ5は発電機41に対して電気的に接続されている(太実線の矢印参照)。このことにより、電磁ブレーキ5は、前記発電機41からの直流電力の供給を受けるようになっている(発電機41と電磁ブレーキ5との間に整流器を介設してもよいし、発電機41が整流器を含んでいてもよい)。
【0022】
電磁ブレーキ5は、磁気粘性流体を利用したブレーキであって、駆動軸24に対して制動力を付与する。図2に示すように、電磁ブレーキ5は、駆動軸24に外挿されるアウタ部材51と、アウタ部材51内に配設されるインナ部材52とを含んで構成されている。
【0023】
アウタ部材51は、円筒状の周壁における両端の開口が端壁によって閉塞されることによって構成された容器状の部材である。このアウタ部材51は、その内部に磁気粘性流体53を封入する。アウタ部材51の各端壁には、その中心位置に駆動軸24が貫通して配設される貫通孔511が形成されており、この貫通孔511内には、駆動軸24を回転可能に支持する軸受512とアウタ部材51内をシールするためのシール部材513とがそれぞれ配設されている。アウタ部材51の周壁には、その内周面から、径方向の内方に向かって突出するように、複数枚の(図例では3枚の)ディスク514が、周壁に一体となるように設けられている。3枚のディスク514は、アウタ部材51の筒軸方向に等間隔を空けて配設されていると共に、各ディスク514は、周壁における内周面に沿ってその全周に亘って延びることで環状に形成されている。それによって、各ディスク514における径方向の中心側には、インナ部材52が内挿される孔が形成されることになる。
【0024】
インナ部材52は、駆動軸24に対し外嵌されて、その駆動軸24と回転一体に構成される部材であり、概略円柱状の本体部521と、複数枚の(図例では4枚の)ディスク522とを有して構成されている。本体部521は、駆動軸24に対し外嵌される部分であり、その内部には、磁場生成手段としてのコイル54が配設されている。このコイル54に対して、発電機41からの直流電流が供給されることによって、アウタ部材51内の磁気粘性流体53に対して磁場が与えられる。
【0025】
ディスク522は、本体部521と回転一体となるように設けられており、4枚のディスク522は、本体部521の上端から下端の間において、上下方向に互いに等間隔を空けて配設されている。各ディスク522は、本体部521の外周面から径方向の外方に向かって突出するように設けられており、各ディスク522の外周縁は、アウタ部材51の周壁の内周面に対し、所定の隙間を空けて位置している。アウタ部材51のディスク514と、インナ部材52のディスク522とは、上下方向に交互となるように配設され、そのアウタ部材51のディスク514とインナ部材52のディスク522との間に、磁気粘性流体53が充填される隙間が形成されることになる。
【0026】
磁気粘性流体53は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体である。磁性粒子は、磁化可能な金属材料からなる。金属材料に特に制限はないが、軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金を例示することができる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。採用する分散媒の種類に応じて、磁性粒子に対し、その分散媒と親和性の高い表面改質を施すようにすればよい。こうすることで、磁性粒子の分散安定性が高まる。例えば疎水性のシリコーンオイルを分散媒として採用する場合、磁性粒子にはカップリング剤による表面改質を施すことが好ましい。磁気粘性流体53にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0027】
以上のような構成の電磁ブレーキ5では、コイル54に直流電流を供給することによって磁場が生成され、アウタ部材51のディスク514とインナ部材52のディスク522との隙間に充填されている、磁気粘性流体53の粘度が高くなる。その結果、ディスク514,522間のせん断応力が増大し、回転駆動する駆動軸24に制動力が付与されることになる。
【0028】
この構成の電動カート1では、通常の走行を行うときには、クラッチレバー36の操作によってクラッチ35をオンにし、それによって、駆動モータ32と駆動軸24との間の駆動連結を接続した状態にする。その状態で、操作部23におけるアクセルレバーを操作することにより、制御部31を通じて駆動モータ32が駆動制御されることで、その駆動モータ32の駆動力が、歯車機構34及び駆動軸24を介して後輪22に伝達され、それによって電動カート1が走行することになる。
【0029】
一方、駆動モータ32を停止した状態で、クラッチレバー36の操作によってクラッチ35をオフにしたときには、駆動モータ32と駆動軸24との間の駆動連結が切断されるため、後輪22及び駆動軸24が自由に回転するようになる。この状態では、電動カート1を手押しで走行させることが可能になる。
【0030】
クラッチ35をオフにして電動カート1を手押し走行可能にしている状態では、例えば下り坂等において、電動カート1の自重による加速度によって、その速度が意図に反して増速してしまう虞がある。これに対し、本実施形態に係る電動カート1では、クラッチ35をオフにしているときには、発電機41と駆動軸24との間の駆動連結が接続されているため、駆動軸24の回転に伴い発電機41が駆動し、それによって発電が行われるようになる。発電機41によって発電された電力は、電磁ブレーキ5のコイル54に直流電流として供給され、それによって前述したように、駆動軸24に制動力が付与されるようになる。このようにしてクラッチ35をオフにしているときには、電磁ブレーキ5による制動力が駆動軸24に付与され得るため、電動カート1の速度が増速してしまうことを抑制することができる。特に電磁ブレーキ5に電力を供給するための発電機41を、駆動軸24に対して駆動連結していることにより、駆動軸24の回転数に応じた量の発電が行われ、それが電磁ブレーキ5に供給されることになる。このことは、駆動軸24の回転数が高いほど、発電量が増大し、その結果、電磁ブレーキ5から駆動軸24に付与される制動力も増大することを意味する。こうして、電動カート1の速度に応じた制動力が、駆動軸24に付与されることによって、前述したように下り坂等の電動カート1の速度が増速してしまうようなときにでも、電動カート1の速度を所定の速度以下に抑制することができる。
【0031】
ここで、前記電磁ブレーキ5の特性としては、コイル54への供給電流が所定電流以下においては制動力がほとんど発生せず、所定電流を超えた以降は、その供給電流値に応じて制動力が増大するような特性であることが望ましい。こうすることで、例えば平地において電動カート1を手押し走行しているときには、電磁ブレーキ5の制動力がほとんど発生せずに手押し走行を容易に行い得る一方、電動カート1の速度が所定以上に増速したときには、電磁ブレーキ5による制動力が駆動軸24に付与されることで、電動カート1の増速を確実に抑制することが可能になる。
【0032】
こうして前記構成の電動カート1では、その手押し走行時の速度制御に関し、クラッチ操作によって電動カート1を停止させることを行わないため、速度の増大を抑制しつつ、手押し走行を継続することができる。その結果、電動カート1の使い勝手を大幅に向上させることができる。
【0033】
尚、発電機41と電磁ブレーキ5との間に可変抵抗器を介設してもよい。可変抵抗器の抵抗値を変更することによって、発電機41による発電量に対し、電磁ブレーキ5に供給される電流値を変更することができるから、前記クラッチオフ時(手押し走行時)における電動カート1の制限速度を変更することが可能になる。
【0034】
また、必要に応じてバッテリ33からの電力も電磁ブレーキ5に供給するような構成としてもよい。また、発電機41による余剰の発電電力を、バッテリ33の充電に利用する構成としてもよい。
【0035】
また、本発明は、電動カートに限らず、例えば小型の運搬車や車椅子等の、手押し走行を行い得る車両に対して広く適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明は、例えば電動カート等の、手押し走行を行い得る電動車両について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】電動カートの構成を示すブロック図である。
【図2】磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 電動カート(電動車両)
22 後輪(駆動輪)
24 駆動軸
32 駆動モータ
35 クラッチ
41 発電機
5 電磁ブレーキ
53 磁気粘性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、
前記駆動モータに対して駆動連結されかつ、当該駆動モータからの駆動力を駆動輪に伝達する駆動軸と、
前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結を断接するクラッチと、
少なくとも前記クラッチによって前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が切断されているときに前記駆動軸の回転によって駆動される発電機と、
前記発電機からの電力供給を受けて、前記駆動モータ及び駆動軸間の駆動連結が切断されているときに前記駆動軸に対し制動力を付与する、磁気粘性流体を利用した電磁ブレーキと、を備えている電動車両。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−158946(P2010−158946A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1474(P2009−1474)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】