説明

電圧制御遅延装置およびDLL回路

【課題】 サンプル毎にトランジスタなどの構成素子の特性がばらついたとしても、すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性がばらつきの影響を受け難い電圧制御遅延装置を提供する。
【解決手段】 本発明の電圧制御遅延装置は、入力された制御電圧を電流に変換する電圧電流変換部108を含み、該電圧電流変換部108により変換された電流に比例した制御電流を出力する制御手段と、入力信号を前記制御電流に応じた時間だけ遅延させて出力する遅延手段とを備え、前記電圧電流変換部108は、所定の入力電圧範囲において線形の電圧電流変換特性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御遅延装置およびDLL(Delay Locked Loop)回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路において、クロックやデータをある一定時間遅延させるために電圧制御遅延素子(Voltage Controlled Delay Line:VCDL)が利用される。この電圧制御遅延素子は、入力電圧に応じて決まった遅延時間を発生する。また近年は、擬似的にクロック周波数を上げる目的で多相クロックが多く利用される。その多相クロックを生成する手段としてDLL(Delay Locked Loop)がよく用いられるが、このDLLの内部において多相クロックの位相差となる遅延時間を発生させるのに電圧制御遅延素子が用いられる。
【0003】
図1には、簡単な電圧制御遅延素子の構成が示されている。図1において、ckiは入力クロック、ckoは出力クロック、Vcontは遅延時間制御電圧である。点線で囲まれた単位を電圧制御遅延素子1段と考え、図1は2段接続された構成となっている。ただし1段通過後のckmはckiの反転クロックが出力される。
【0004】
図1のVcontによってPchTr101,102の電流が制御され、該電流が増加すると、ckiに対するckoの遅延時間が短くなる。また逆に、該電流が減少すると、ckiに対するckoの遅延時間は長くなる。また、NchTr103,104はスイッチの動作をし、NchTr103,104のいずれかがオンしている時は該NchTrのドレインノードを引き下げる。
【0005】
図2には、各ノードのクロック波形が示されている。ckiは入力される波形である。また、ckmは電圧制御遅延素子一段の遅延量Δdだけ遅れて反転クロックが出力される。また、ckoはckiよりΔd*2遅れて出力される。遅延時間Δdは遅延時間制御電圧Vcontによりコントロールされる。
【0006】
また、図3には、NchTr側とPchTr側が対称になるようにNchTr側にも可変電流源を設けた構成が示されている。図3の構成の場合、遅延時間制御電圧VcontによりNch側とPch側の電流源Trは同じ電流を流し、ckmやckoの立上り時間と立下り時間が同じとなる。遅延時間制御電圧Vcontを変化させると、それに伴って遅延時間Δdが変化することは図1と同様である。また、PchTr105,106,107はカレントミラーを構成しており、PchTr105がそのマスターとなっている。
【0007】
図4には、制御電圧―遅延時間特性が示されている。図3の構成の場合には、制御電圧が上がるほど遅延時間が短くなる。図4において例えば制御電圧Vcont=Vdの時に遅延時間はTdとなる。
【0008】
以上のような電圧制御遅延素子は半導体集積回路上に搭載される。また昨今の半導体プロセスは90nmプロセスや65nmプロセスといった非常に微細なプロセスが主流となってきている。このように微細なプロセスの場合、デバイス(トランジスタ)の製造精度を上げることが困難であり、製造後のトランジスタには少なからず特性上のばらつきが存在する。例えば複数のサンプル間のTr(トランジスタ)のしきい値ばらつきが3σ=100mVといったように、特にアナログ回路においてはしきい値電圧が大きくばらつくと、その機能を満たせなくなってしまう場合さえありえる。在来の電圧制御遅延素子においては、このトランジスタばらつきによって、例えば同じ制御電圧を入力してもサンプルによって遅延時間が変わってしまう。図5に3種類のサンプル(sample1,sample2,sample3)の電圧制御遅延素子の制御電圧―遅延時間特性を示す。sample1は標準的なサンプル、sample2は遅延時間が短いサンプル(例えばTrのしきい値電圧が低い)、sample3は遅延時間が長いサンプル(例えばTrのしきい値電圧が高い)である。この3種類のサンプルにおいて同一の遅延時間Tdを生成したい場合、入力すべき制御電圧は、それぞれVd1,Vd2,Vd3となる。図5のような制御電圧―遅延時間特性の場合には、制御電圧がサンプル毎に大幅に変わってしまう。また制御電圧に対する遅延時間のゲインも変わっている。このようにサンプルによって電圧制御遅延素子の特性が変わってしまうと、高精度な遅延時間を生成したい場合や、またDLL(Delay Locked Loop)内の遅延素子として使用する場合などには使用しづらいものとなってしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、サンプル毎にトランジスタなどの構成素子の特性がばらついたとしても、すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性がばらつきの影響を受け難い(すなわち、すべてのサンプルにおいて図4のような制御電圧―遅延時間特性にすることの可能な)電圧制御遅延装置およびDLL回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、入力された制御電圧を電流に変換する電圧電流変換部を含み、該電圧電流変換部により変換された電流に比例した制御電流を出力する制御手段と、入力信号を前記制御電流に応じた時間だけ遅延させて出力する遅延手段とを備え、前記電圧電流変換部は、所定の入力電圧範囲において線形の電圧電流変換特性を有していることを特徴とする電圧制御遅延装置である。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の電圧制御遅延装置において、前記電圧電流変換部は、オペアンプ及び抵抗素子を備え、オペアンプのバーチャルショートにより、入力された制御電圧を抵抗素子の抵抗値で決定される電流に変換することを特徴としている。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の電圧制御遅延装置において、前記抵抗素子は、抵抗値が変更可能な可変抵抗となっていることを特徴としている。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置において、前記入力信号は差動信号であり、前記遅延手段は前記差動信号に対応した差動構成となっていることを特徴としている。
【0014】
また、請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路である。
【0015】
また、請求項6記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号を電流信号に変換するチャージポンプ手段と、前記チャージポンプ手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1乃至請求項4記載の発明によれば、入力された制御電圧を電流に変換する電圧電流変換部を含み、該電圧電流変換部により変換された電流に比例した制御電流を出力する制御手段と、入力信号を前記制御電流に応じた時間だけ遅延させて出力する遅延手段とを備え、前記電圧電流変換部は、所定の入力電圧範囲において線形の電圧電流変換特性を有しているので、サンプル毎にトランジスタなどの構成素子の特性が製造誤差などによってばらついたとしても、すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性にほとんどばらつきのない(すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性がトランジスタなどの構成素子の特性のばらつきの影響を受け難い)電圧制御遅延装置を提供することができる。
【0017】
特に、請求項3記載の発明によれば、請求項2記載の電圧制御遅延装置において、前記抵抗素子は、抵抗値が変更可能な可変抵抗となっているので、電圧電流変換部の電圧電流変換ゲイン(電圧電流変換利得)を可変にすることができる(すなわち、所望の電圧電流変換利得を設定することが可能となる)。
【0018】
また、請求項4記載の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置において、前記入力信号は差動信号であり、前記遅延手段は前記差動信号に対応した差動構成となっているので、遅い遅延を生成しようとする場合に、信号の立上り立下りがなまることによって信号振幅が減衰し消滅してしまうことを有効に防止することができる。
【0019】
また、請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路であるので、電圧制御遅延装置において、サンプル毎にトランジスタなどの構成素子の特性が製造誤差などによってばらついたとしても、すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性がほとんどばらつかず、ループゲインがほとんどばらつかないDLL回路を実現することができる。
【0020】
また、請求項6記載の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号を電流信号に変換するチャージポンプ手段と、前記チャージポンプ手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路であるので、電圧制御遅延装置において、サンプル毎にトランジスタなどの構成素子の特性が製造誤差などによってばらついたとしても、すべてのサンプルにおいて制御電圧―遅延時間特性がほとんどばらつかず、ループゲインがほとんどばらつかないDLL回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図6は、本発明に係る電圧制御遅延装置(電圧制御遅延回路)の構成例を示す図である。図6を参照すると、電圧電流変換部108(図6の点線で囲まれたブロック)は、オペアンプ111と、抵抗素子112と、電流源PchTr113とにより構成されている。ここで、オペアンプ111の負入力には、遅延時間制御電圧Vcontが入力され、オペアンプ111の出力は電流源PchTr113のゲートppに接続される。また、電流源PchTr113は、ゲートppの電圧に応じて電流Idを抵抗素子112(抵抗値R)に流し込む。また、抵抗素子112は、一端がGNDに接続され、電流Idによって他端VcontmにId*Rの電位を発生させる。ノードVcontmはオペアンプ111の正入力に接続される。以上のように電圧電流変換部108はオペアンプ111を含んだ負帰還回路となっている。この負帰還作用によりノードVcontmは遅延時間制御電圧Vcontと同電位になるように制御される(バーチャルショート)。
【0023】
また、オペアンプ111のゲインや帯域は、この負帰還ループの安定性や制御精度を考慮して決定される。また、図6には示されていないが、負帰還ループを安定にするための容量やフィルタを適宜追加することができる。オペアンプ111のバーチャルショートによりVcontmとVcontはほぼ同電位となり、Id=Vcont/Rという式が成り立つ。この式により、IdとVcontの間には線形性が成り立ち、そのゲインは1/Rとなる。つまり電圧電流変換特性は抵抗素子112の抵抗値Rで決定され、抵抗素子112のばらつきのみに依存する。
【0024】
図6において、オペアンプ111の出力ノードppを各電流源PchTr114〜117のゲートに接続することにより、各電流源PchTr114〜117のサイズがPchTr113と同じとした場合、それぞれ同じ電流Idを生成する。また、NchTr118〜121はカレントミラーを構成しており、NchTr118がそのマスターとなっており電流Idを折り返している。このようにして、各電圧制御遅延素子にはスイッチングに応じて各電流源Trから電流Idが流れる。
【0025】
図7は電圧制御遅延素子における過渡的な電流の流れを示す図である。なお、図7はノードckmの電位が上昇する場合の図である。図7において、まずckiが立ち下がることにより、PchTr109がオンし、電流源Tr110から電流Idが流れる。ノードckmには次段のゲート容量や配線容量などの寄生容量Cpが存在し、電流Idにより充電される。この電流Idが寄生容量Cpを充電する時間が長いほど遅延時間は長くなり、充電時間が短いほど遅延時間は短くなる。放電時間においても同様である。寄生容量自体のばらつきはそれほど大きくないと仮定すれば、電流Idがサンプルばらつきによらず一定に制御することが出来れば、遅延時間をコントロールすることが出来る。図6においては電圧電流変換部108によってサンプルばらつきによらない電流Idを生成できるため、制御電圧−遅延時間特性がサンプルばらつきに依存しない電圧制御遅延装置(電圧制御遅延回路)を実現することが出来る。例えば図3の電圧制御遅延回路が図5のようなサンプルばらつきとなる場合に、図6のような回路構成にすることによって、トランジスタ特性がサンプルによりばらついたとしても、制御電圧−遅延時間特性は、理想的には図4のようになる。
【0026】
実際にSPICEを使用してシミュレーションした結果を次に示す。
【0027】
シミュレーションに際しては、90nmプロセスのデバイスパラメータを使用し、図3の回路と図6の回路について行った。図3、図6の電圧制御遅延素子のトランジスタサイズは同一とする。図3、図6のそれぞれの回路について、制御電圧Vcontに対する遅延時間をプロットしたグラフを図8、図9に示す。ここで、電圧制御遅延素子の段数は4段構成としている。また、サンプルばらつきとして3種類(typ,slow,fast)の場合についてシミュレーションを行った。slowサンプルのトランジスタはtypサンプルと比較して電流駆動能力的に劣り、fastサンプルはtypサンプルよりも優れている。具体的には例えばしきい値電圧はslowサンプルはtypサンプルよりも約100mV高く、fastサンプルはtypサンプルよりも約100mV低い。図3の回路の制御電圧−遅延時間特性を示す図8を参照すると、サンプルにより遅延時間が大きくばらついていることがわかる。例えば500psの遅延を生成したい場合、typサンプルは制御電圧Vcontとして約0.46V、slowサンプルは約0.67V、fastサンプルは約0.33V入力する必要がある。サンプルによってVcontとしては340mVもばらつくことになる。これに対し、図6の回路の制御電圧−遅延時間特性を示す図9における3種類(typ,slow,fast)のトランジスタばらつきは図8のそれと同様であるが、図9の制御電圧−遅延時間特性は、図8と比較して、かなりばらつきが抑えられている。500psの遅延時間を生成しようとした場合には、typ,fastサンプルともに制御電圧は約0.52V、slowサンプルは約0.58Vと、サンプルによってトランジスタの特性がばらついたとしても60mVの間に収まっている。
【0028】
図10は、図6における電圧電流変換部108の抵抗素子を可変抵抗にした場合の構成を示す図である。図10の回路も基本的に図6と同様の動作であるが、抵抗素子を可変抵抗(Rval)にしたことにより電圧電流変換部122の電圧電流変換ゲイン(利得)を可変にすることが出来る。つまりId=Vcont/Rvalという式が成り立ち、制御電圧−遅延時間特性のゲイン(利得)をRvalの値によって変化させることができる。例えばDLL(Delay Locked Loop)内部でこの電圧制御遅延回路を使用する場合などに、DLLのループゲインに合わせてRvalの値を変えることも可能である。
【0029】
また、図11は、図10の回路において電圧制御遅延素子を差動構成にした場合の電圧制御遅延回路を示す図である。図11において、点線で囲まれたブロック123が差動の電圧制御遅延素子1段である。PchTr124,125は負荷トランジスタであり、NchTr126,127はスイッチトランジスタであり、NchTr150は電流源トランジスタである。特に入力が差動クロックの場合には、図11の回路が使用される。すなわち、図10の場合、あまり遅い遅延を生成しようとすると、立上り立下りがなまることによって信号振幅が減衰し消滅してしまうこともありえる。これに対し、図11のように差動にすることによって、コモンモード電圧は除去され小振幅の場合でも伝送できる可能性は高くなる。
【0030】
また、図12は図6の電圧制御遅延回路をDLLに使用した場合の構成を示す図である。図12において、VCDL(Voltage Controlled Delay Line)128が図6の電圧制御遅延回路であり、制御電圧Vcontが入力されて、入力クロックckiを遅延させるようになっている。また、VCDL128からは、ck0,ck1がループ制御用にリファレンスとして出力され、また、多相クロックckoが生成される。また、XOR129は排他的論理和ゲートであり、ck0,ck1が入力され、その2つのクロックの排他的論理和ckmを出力するようになっている。つまり、ck0,ck1が共に周期Tでduty50%のクロックであり位相がT/4ずれている場合には、ckmとして周期T/2でduty50%のクロックが出力される。また、Filter130はクロックckmが入力され制御電圧Vcontを出力するフィルタである。Vcontを安定した電圧として出力するため、フィルタの帯域としてはクロックckmの周波数に比べて十分低くする必要がある。このように、図12の例では、VCDL128,XOR129,Filter130によって、入力クロックckiから多相クロックckoを出力するDLL回路が構成されている。
【0031】
図13には、図12におけるXOR129の構成例が示されている。図13において132〜134はインバータ、131はマルチプレクサである。マルチプレクサ131は、ck0の正転クロックと反転クロックが入力されるときに、ck1の状態によっていずれかのクロックをckmとして出力するようになっている。図14を用いてこの動作を説明する。図14においてck0,ck1はともに周期Tでduty50%のクロックである。図13の構成により、ck1がLの時にはck0がそのまま出力され、ck1がHの時にはck0の反転が出力される。つまりck0とck1の位相差がT/4の場合、ckmは周期T/2,duty50%のクロックとなる。ckmのdutyが50%の場合にはFilter130通過後の電圧Vcontは安定した状態となる。図15には、Vcontが安定した状態(DLLがロックした状態)での多相クロック出力ckoが示されている。なお、図15では、多相クロック出力ckoが4層の場合を想定しており、VCDL128の電圧制御遅延素子の段数は4段とする。図12のDLLがロックした状態ではck0,ck1の位相差がT/4となっており、つまり電圧制御遅延素子1段の遅延時間がT/4となっている。
【0032】
また、図16は、図6の電圧制御遅延回路をDLLに使用した場合の別の構成例を示す図である。図16において、VCDL135が図6の電圧制御遅延回路であり、制御電圧Vcontが入力されて、入力クロックckiを遅延させるようになっている。また、VCDL135からは、ck0,cknがループ制御用にリファレンスとして出力され、また、多相クロックckoが生成される。また、PD136は位相比較器であり、PD136には、ck0,cknが入力され、その2つのクロックの位相を比較し、その結果によってupb,dn信号を出力するようになっている。また、CP137はチャージポンプであり、upb,dnが入力され、それによって多相クロックcpoを出力するようになっている。また、Filter138はcpoが入力され制御電圧Vcontを生成するフィルタである。Vcontを安定した電圧として出力するため、フィルタの帯域としてはクロックck0,cknの周波数に比べて十分低くする必要がある。このように、図16の例では、VCDL135,PD136,CP137,Filter138によって、入力クロックckiから多相クロックckoを出力するDLL回路が構成されている。
【0033】
図17には、図16におけるPD136の構成例が示されている。図17において、142〜144はインバータ、141はNANDゲート、139,140はFF(フリップフロップ)である。FF139,140は、データ入力部は常にH電位となっており、それぞれck0,cknに従ってH電位を取り込み、rbによってリセットされる。また、NANDゲート141は、FF139,FF140の出力a,bが入力され、rbを出力する。また、ノードa,bは、それぞれ、インバータ142,インバータ143,144を通して、upb,dnとなるが、インバータの段数が異なるのは後述するチャージポンプの構成に対応するためである。
【0034】
図18を用いて図17の動作を説明する。図18にノードck0,ckn,a,b,rb,upb,dnそれぞれの波形を示す。ck0とcknは位相差がΔtであり、立ち上がった時点でそれぞれa,bが立ち上がる。a,bが同時にH電位の状態になると、NANDゲート141によってrbは立ち下がる。rbが立ち下がることによってFF139,140にリセットがかかり、それぞれの出力a,bは立ち下がる。それによってNANDゲート141の出力rbは立ち上がる。よって図18のような波形になる。dnはbの正転がそのまま出力されるが、upbはaの反転が出力される。upbはL状態がアクティブ、dnはH状態がアクティブとすると、upbの方がアクティブ期間がdnよりもΔtだけ長くなっている。つまり、入力されるクロックck0,cknの位相差Δtをそのまま保持して、upbとdnのアクティブ期間の差として取り出している。
【0035】
図19には、図16におけるCP137の構成例が示されている。図19において、チャージポンプは、up用電流源である電流源Ipと、dn用電流源である電流源Inと、up用スイッチトランジスタ145と、dn用スイッチトランジスタ146とによって構成されている。up用スイッチトランジスタ145はpchTrであるため、入力信号としてはupの反転のupbが入力される。つまり、upbがL電位のとき電流源Ipはcpoに電流を流し込み、dnがH電位のとき電流源Inはcpoから電流を引き抜く。電流源Ipと電流源Inの電流値は等しいものとする。
【0036】
図20には、図16のDLL回路のVcontが安定した状態(DLLがロックした状態)でのck0,ckn,upb,dnが示されている。図20において、DLLがロックした状態ではck0,cknの位相は一致(cknの位相がck0よりも周期T遅れた状態)しており、よってupbとdnのアクティブ期間は同じ時間となる。よってチャージポンプによってcpoに流れ込む電荷と引き抜かれる電荷は等しくなり、Vcontは安定した電圧となる。その時、VCDLにおいてck0とcknの間の電圧制御遅延素子の段数がn段であったと仮定すると、T/nの位相差をもつ多相クロックをckoとして出力することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、半導体集積回路に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】簡単な電圧制御遅延素子の構成を示す図である。
【図2】各ノードのクロック波形を示す図である。
【図3】NchTr側とPchTr側が対称になるようにNchTr側にも可変電流源を設けた構成を示す図である。
【図4】制御電圧―遅延時間特性を示す図である。
【図5】3種類のサンプル(sample1,sample2,sample3)の電圧制御遅延素子の制御電圧―遅延時間特性を示す図である。
【図6】本発明に係る電圧制御遅延装置(電圧制御遅延回路)の構成例を示す図である。
【図7】電圧制御遅延素子における過渡的な電流の流れを示す図である。
【図8】図3、図6のそれぞれの回路について、制御電圧Vcontに対する遅延時間をプロットしたグラフを示す図である。
【図9】図3、図6のそれぞれの回路について、制御電圧Vcontに対する遅延時間をプロットしたグラフを示す図である。
【図10】図6における電圧電流変換部の抵抗素子を可変抵抗にした場合の構成を示す図である。
【図11】図10の回路において電圧制御遅延素子を差動構成にした場合の電圧制御遅延回路を示す図である。
【図12】図6の電圧制御遅延回路をDLLに使用した場合の構成を示す図である。
【図13】図12におけるXORの構成例を示す図である。
【図14】図13のマルチプレクサの動作を説明するための図である。
【図15】Vcontが安定した状態(DLLがロックした状態)での多相クロック出力ckoを示す図である。
【図16】図6の電圧制御遅延回路をDLLに使用した場合の別の構成例を示す図である。
【図17】図16におけるPDの構成例を示す図である。
【図18】図17のPDの動作を説明するための図である。
【図19】図16におけるCPの構成例を示す図である。
【図20】図16のDLL回路のVcontが安定した状態(DLLがロックした状態)でのck0,ckn,upb,dnを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
108,122 電圧電流変換部
110 電流源Tr
111 オペアンプ
112 抵抗素子
113〜117 電流源PchTr
118〜121 NchTr
123 差動の電圧制御遅延素子1段
124,125 PchTr
126,127,150 NchTr
128,135 VCDL
129 XOR
130,138 Filter
131 マルチプレクサ
132〜134 インバータ
136 PD(位相比較器)
137 CP(チャージポンプ)
139,140 FF
141 NANDゲート
142〜144 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された制御電圧を電流に変換する電圧電流変換部を含み、該電圧電流変換部により変換された電流に比例した制御電流を出力する制御手段と、入力信号を前記制御電流に応じた時間だけ遅延させて出力する遅延手段とを備え、前記電圧電流変換部は、所定の入力電圧範囲において線形の電圧電流変換特性を有していることを特徴とする電圧制御遅延装置。
【請求項2】
請求項1記載の電圧制御遅延装置において、前記電圧電流変換部は、オペアンプ及び抵抗素子を備え、オペアンプのバーチャルショートにより、入力された制御電圧を抵抗素子の抵抗値で決定される電流に変換することを特徴とする電圧制御遅延装置。
【請求項3】
請求項2記載の電圧制御遅延装置において、前記抵抗素子は、抵抗値が変更可能な可変抵抗となっていることを特徴とする電圧制御遅延装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置において、前記入力信号は差動信号であり、前記遅延手段は前記差動信号に対応した差動構成となっていることを特徴とする電圧制御遅延装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電圧制御遅延装置と、前記電圧制御遅延装置の第1の出力信号と第2の出力信号との位相差を比較する位相比較手段と、前記位相比較手段の出力信号を電流信号に変換するチャージポンプ手段と、前記チャージポンプ手段の出力信号が入力され、前記電圧制御遅延装置の制御電圧を出力するループフィルタとを備え、入力信号と同じ周波数で位相の異なる複数の多相信号を出力することを特徴とするDLL回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−193524(P2008−193524A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27243(P2007−27243)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】