説明

電子デバイスの製造方法

【課題】成膜時に生じる反りを緩和しうる電子デバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】まず、4H−SiC基板10の第1面10aの上に、第1タングステン膜11を堆積する。堆積は、基板温度を400℃〜600℃に保持した状態で、スパッタによって行われる。スパッタ後に室温まで冷却すると、基板全体が上方に凹になるように反る。その後、4H−SiC基板10の第2面10bの上に、同じ材質、厚さの第2タングステン膜12を堆積する。4H−SiC基板10に対する,第1,第2タングステン膜11,12の収縮による応力が互いに釣り合い、反りがなくなる。その後、平坦な基板上にレジスト膜Reを形成して、第1タングステン膜11から注入マスク11aを形成する。正確な注入マスク11aを用いて、高い精度で不純物拡散領域15を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造方法に係り、特に、工程中における反りの改善対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板に他の材料を堆積した後、冷却すると、基板と成膜との熱膨張係数差によって、基板が反ることが知られている。つまり、基板と成膜との収縮率差のために、バイメタルと同じ応力が発生し、この応力により、基板が反る。このような基板の反りによって、次の工程を進める上で、種々の不具合が生じる。
【0003】
そこで、基板の反りに起因する不具合を回避する技術として、特許文献1に開示されている方法がある。
同文献の技術では、基板の主面上にダイヤモンド膜を生成した後、基板の裏面を研磨して、平坦化している。その後、基板を基板支持台に搭載して、さらに基板上に、再度ダイヤモンド膜を形成する。このように、ダイヤモンド膜の形成、裏面研磨を繰り返すことにより、厚いダイヤモンド膜を基板上に形成している。
【特許文献1】特開平7−243044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術を用いると、裏面は平坦化されるが、主面は反ったままである。そのために、主面上に形成されるデバイスの要素の精度が悪化するという不具合があった。
【0005】
電子デバイスの各要素は、一般には、設計値からの誤差を±0.5μm以下に抑制する必要がある。たとえば、FETのソース領域などの不純物拡散領域の形成には、±0.1μmの精度を要求されることも多い。
たとえば、基板上に1000℃程度で膜を堆積した後、室温に冷却すると、基板の主面が数十μm〜100μm程度、反ることがある。このような大きな反りがあると、フォトマスクの寸法に、±0.5μmを超える誤差が生じるおそれがある。よって、上記従来の技術を用いても、反りそのものを改善することができず、電子デバイスの精度悪化を防ぐことが困難である。
【0006】
本発明の目的は、製造工程中における成膜時に生じる反りを緩和することが可能な電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子デバイスの製造方法は、基板の第1面上に第1膜を堆積し、第2面上に第2膜を堆積する工程を含んでいる。第1膜と第2膜とは、実質的に等しい線膨張係数を有している。
第1面は、一般に、電子デバイスが動作する領域が設けられる,主面と呼ばれる面である。第2面は、一般に裏面と呼ばれる面である。「実質的に等しい」とは、必要な精度を維持することができる程度の熱膨張係数の差を許容する意である。実際には、第1膜と第2膜とは、同じ材料によって構成されている場合がほとんどである。
堆積する方法には、物理的堆積法(PVD)と、化学的堆積法(CVD)との双方が含まれる。PVDとしては、真空蒸着,スパッタなどがあり、CVDとしては、プラズマCVD,LPCVD,MOCVDなどがある。
電子デバイスとしては、トランジスタ,ダイオード,表面弾性波素子、発光素子,表面電界ディスプレイなどがある。
【0008】
本発明により、基板と第1膜との熱膨張係数差に起因する応力と、基板と第2膜との熱膨張係数差に起因する応力とがほぼ等しくなる。よって、互いに逆向きの応力が釣り合うことで、基板の反りが緩和される。
【0009】
上記第1膜の用途の典型的な例は、注入マスクである。その場合、第2膜を堆積して基板全体をほぼ平坦にしてから、第1膜をパターニングするためのレジストマスクを形成する。これにより、精度のよい注入マスクを用いて、基板へのイオン注入を行なって、不純物拡散領域の精度を高く維持することができる。
ただし、注入マスク以外の各種用途も存在する。たとえば、エピタキシャル成長時に、非成長領域を覆うマスクや、第1膜をゲート電極等の要素そのものとして用いることもできる。
【0010】
SiC基板やGaN基板は、ワイドバンドギャップ材料であり、パワーデバイス用の基板として有用である。ところが、SiC基板やGaN基板には、Si基板に比べて多数の転位が存在する。ディスロケーションフリーと言われるSi基板の転位密度は、1/cm以下である。それに対し、SiC基板には10/cm程度、GaN基板には10/cm程度の高密度の転位がそれぞれ存在する。転位、特に刃状転位が高密度に存在すると、成膜と基板との熱膨張係数差による応力を受けて、反りが生じやすい。
よって、本発明をSiC基板やGaN基板を用いた電子デバイスに適用することにより、より顕著な効果が得られる。
【0011】
2インチ基板では、基板の厚さが0.5mm以下になると、反りが顕著になることがわかっている。よって、基板径に対する基板の厚さの比が、1/100以下である場合に、本発明の顕著な効果が得られる。
【0012】
2インチ基板では、基板の厚さが500μmで、第1膜の厚さが100nm以上になると、基板の反りが顕著になる。よって、第1膜の厚さの基板径に対する比が、1/500000以上である場合に、本発明の顕著な効果が得られる。
【0013】
第1膜および第2膜は、一般には、酸化シリコン,窒化シリコン,ポリシリコン,タングステン,モリブデン,タンタル,タンタルカーバイド,アルミニウム,ニッケルおよび銅のうちから選ばれる少なくとも1つの材料である。
上記材料は、SiC基板やGaN基板を用いた電子デバイスのイオン注入やエピタキシャル成長において、マスクとして用いられる。よって、これらの材料を用いることにより、SiC基板やGaN基板上に形成される電子デバイスの精度が向上する。
【0014】
一般に、2つの膜の熱膨張係数比が、1.3以上である場合に、顕著な反りが生じる。よって、第1膜と基板との線膨張係数比が、1.3倍以上、もしくは、1/1.3以下である場合に、本発明の顕著な効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電子デバイスの製造方法によると、製造工程中における成膜時に生じる反りを緩和して、高精度の電子デバイスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(実施の形態1)
図1(a)〜(e)は、本発明の実施の形態に係る電子デバイスのイオン注入工程を示す図である。
まず、図1(a)に示す工程で、4H−SiC基板10を準備する。4H−SiC基板10は、相対向する第1面10a(主面)と第2面10b(裏面)とを有している。第1面10aおよび第2面10bは、c面({ 0 0 0 1}面)である。SiC基板10は、2インチ径の自立基板であって、その厚さは約400μmである。
【0017】
次に、図1(b)に示す工程で、4H−SiC基板10の第1面10aの上に、第1タングステン膜11を堆積する。堆積は、基板温度を400℃〜600℃に保持した状態で、スパッタによって行われる。第1タングステン膜11の厚さは、後述するイオン注入マスクとして用いるためには、1μm程度必要である。
【0018】
4H−SiC基板10の熱膨張係数は2.2×10−6/Kで、第1タングステン膜11の熱膨張係数は約4.5×10−6/Kである。したがって、スパッタ後に室温まで冷却すると、第1タングステン膜11は、4H−SiC基板10よりも大きく収縮する。その結果、図1(b)に示すように、基板全体が上方に凹になるように反る。本実施の形態の条件では、このときの反り量Bは、100μm以上になる。
【0019】
次に、図1(c)に示す工程で、4H−SiC基板10の第2面10bの上に、第2タングステン膜12を堆積する。第2タングステン膜12の堆積条件,材質,厚さなどは、第1タングステン膜11と同じである。
【0020】
第2タングステン膜12の堆積後、室温まで冷却する。このとき、4H−SiC基板10に対する,第1,第2タングステン膜11,12の収縮による応力同士が釣り合う。その結果、図1(c)に示すように、基板全体の反りはほぼ解消する。
【0021】
次に、図1(d)に示す工程で、第1タングステン膜11の上に、レジストを堆積し、露光によりパターニングする。さらに、レジスト膜Reをエッチングマスクとして、イオンエッチングを行い、注入マスク11aを形成する。その後、レジスト膜Reを除去する。ただし、レジスト膜Reを残しておいてもよい。
【0022】
次に、図1(e)に示す工程で、注入マスク11aを用いて、p型またはn型ドーパントのイオン注入を行なう。これにより、4H−SiC基板10内に不純物拡散領域15(ソース領域,ドレイン領域等)が形成される。イオン注入の際には、4H−SiC基板10を300℃〜400℃に加熱し、加速電圧は400keV程度である。高温でイオン注入するので、注入マスクには、レジスト膜Reだけでなく、ハードマスクが必要である。そのために、SiC基板へのイオン注入の際の注入マスクとしては、タングステン膜がよく用いられる。
【0023】
本実施の形態では、4H−SiC基板10の第1面10a上に第1タングステン膜11を堆積すると、基板全体が上方に反る(図1(b))。しかし、4H−SiC基板10の第2面10b上に第2タングステン膜12を堆積することで、反りが修正される(図1(c))。4H−SiC基板10に対する,第1,第2タングステン膜11,12の収縮による応力同士が釣り合うからである。
【0024】
したがって、平坦な基板上でリソグラフィーを行うことができ(図1(d))、レジスト膜Reの精度を確保することができる。
なお、レジスト膜Reを形成した後に、基板の反りが生じても、電子デバイスの要素の精度に悪影響が生じることはほとんどない。
【0025】
それに対し、上記特許文献1の技術では、図1(b)に示す工程の直後に、フォトリソグラフィーを行うことになる。よって、エッチングマスクとなるレジスト膜の精度が悪化する。
【0026】
ここで、基板の反りについて詳細に説明する。
一般に使用される4H−SiC基板の熱膨張係数は、2.2×10−6/Kである。GaN基板の熱膨張係数は、5.6×10−6/Kである。シリコン基板の熱膨張係数は、2.55×10−6/K(20℃)〜4.34×10−6/K(1000℃)である。
【0027】
一般的な資料によると、イオン注入やエピタキシャル成長の際のマスク部材として汎用される各材料の熱膨張係数は、以下の通りである。
酸化シリコンの熱膨張係数は、約0.51×10−6/Kである。窒化シリコンの熱膨張係数は、約2.6×10−6/Kである。タングステンの熱膨張係数は、約4.5×10−6/Kである。モリブデンの熱膨張係数は、約5.1×10−6/Kである。タンタルの熱膨張係数は、約6.3×10−6/Kである。タンタルカーバイドの熱膨張係数は、約6×10−6/Kである。アルミニウムの熱膨張係数は、約23×10−6/Kである。ニッケルの熱膨張係数は、約12.8×10−6/Kである。銅の熱膨張係数は、約16.8×10−6/Kである。ダイヤモンドの熱膨張係数は、約1.1×10−6/Kである。
【0028】
上述のデータからわかるように、基板材料とマスク材料との組み合わせによって、生じる反りの程度は異なる。しかし、本発明を利用することにより、その組み合わせを問わず、熱膨張係数差に起因する反りをほぼなくすることができる。
【0029】
図2は、4H−SiC基板の片面上にタングステン膜を成膜したときの反り量の例を、表にして示す図である。反りを規定するパラメータは、成膜厚さ(タングステン膜の厚さ)と、基板厚さ(4H−SiC基板の厚さ)としている。実験に用いた4H−SiC基板は、2インチ径である。成膜は、温度500℃で、タングステンをスパッタにより堆積することで、行っている。
【0030】
上述のように、本実施の形態の電子デバイスの不純物拡散領域15の場合、±0.1μm程度の位置精度が要求される。この精度に対応する反りの許容量は、30μm程度である。
【0031】
図2には示されていないが、2インチ基板の場合、基板厚さが500nm以上になると、成膜厚さが100μmで、反り量が30μm以上になる。つまり、基板の厚さの基板径に対する比が、(0.5/50=1/100)以下のときに、本発明を適用する意義が大きい。
【0032】
図2からわかるように、成膜厚さが100nm以上になると、反り量が30μm以上になる。よって、成膜厚さと基板径との比が、(0.1/50×1000=500000)以上のときに、本発明を適用する意義が大きい。
【0033】
上記実施の形態では、本発明の基板を4H−SiC基板10としたが、本発明はこれに限定されるものではない。基板として、4H−SiC基板以外のSiC基板やGaN基板を用いることもできる。また、Si基板や、GaAs基板などを本発明の基板として用いることもできる。ただし、本発明の基板として、SiC基板やGaN基板を用いることにより、以下のような格別の効果が得られる。
【0034】
SiC基板やGaN基板には、Si基板に比べて多数の転位が存在する。ディスロケーションフリーと言われるSi基板の転位密度は、1/cm以下である。それに対し、SiC基板には10/cm程度、GaN基板には10/cm程度の高密度の転位がそれぞれ存在する。転位、特に刃状転位が高密度に存在すると、成膜と基板との熱膨張係数差による応力を受けて、反りが生じやすい。よって、本発明をSiC基板やGaN基板を用いた電子デバイスに適用することにより、より顕著な効果が得られる。
【0035】
成膜の材料は、酸化シリコン,窒化シリコン,ポリシリコン,タングステン,モリブデン,タンタル,タンタルカーバイド,アルミニウム,ニッケルおよび銅などに限定されるものではない。
しかし、上記材料は、SiC基板やGaN基板を用いた電子デバイスのイオン注入やエピタキシャル成長において、マスクとして用いられる。よって、これらの材料を用いることにより、SiC基板やGaN基板上に形成される電子デバイスの精度が向上する。
【0036】
一般に、2つの膜の熱膨張係数比が、1.3以上である場合に、顕著な反りが生じることがわかっている。よって、本発明の第1膜と基板との線膨張係数比が、1.3倍以上、もしくは、1/1.3以下である場合に、本発明を適用する意義が大きい。
【0037】
本発明の電子デバイスとしては、トランジスタ,ダイオード,表面弾性波素子、発光素子,表面電界ディスプレイなどがある。
【0038】
上記開示された本発明の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、トランジスタ,ダイオード,表面弾性波素子、発光素子,表面電界ディスプレイなどの各種電子デバイスの製造工程で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)〜(d)は、実施の形態1に係る電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図2】4H−SiC基板の片面上にタングステン膜を成膜したときの反り量の例を、表にして示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 4H−SiC基板
10a 第1面
10b 第2面
11 第1タングステン膜
11a 注入マスク
12 第2タングステン膜
15 不純物拡散領域
Re レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する第1面と第2面とを有する基板の第1面上に、第1膜を堆積する工程(a)と、
前記第2面上に、第2膜を堆積する工程(b)とを含み、
前記第1膜と第2膜とは、実質的に等しい線膨張係数を有している、電子デバイスの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電子デバイスの製造方法において、
前記工程(b)の後で、前記第1膜の上にレジストマスクを形成する工程(c)をさらに含む電子デバイスの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の電子デバイスの製造方法において、
前記基板は、SiC基板またはGaN基板である、電子デバイスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法において、
前記基板の厚さの基板の直径に対する比は、1/100以下である、電子デバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電子デバイスの製造方法において、
前記第1膜の厚みの基板径に対する比は、1/500000以上である、電子デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法において、
前記第1膜および第2膜は、酸化シリコン,窒化シリコン,ポリシリコン,タングステン,モリブデン,タンタル,タンタルカーバイド,アルミニウム,ニッケルおよび銅のうちから選ばれる少なくとも1つの材料によって構成されている、電子デバイスの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載の電子デバイスの製造方法において、
前記第1膜および第2膜の線膨張係数は、前記基板の線膨張係数の1.3倍以上、もしくは、1/1.3以下である、電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−129938(P2010−129938A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305917(P2008−305917)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】