説明

電子ビーム照射装置、及び電子ビーム照射方法

【課題】処理対象に電子ビームを照射することによって、処理対象の洗浄や研磨、処理対象からの付着物の除去等を行う電子ビーム照射装置を提供する。
【解決手段】電子ビーム照射装置1は、負電圧を周期的に発生させる電圧生成器6と、電圧生成器6に接続され、表面が接地された処理対象2に対してインパルスである電子ビーム3を照射するカソード1と、カソード1と処理対象2とを収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能である真空チャンバ50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理対象に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、YAGレーザー等のレーザインパルスを用いて、処理対象の表面の研磨や洗浄等が行われている。具体的には、洗浄する表面に対して、1J/cm程度のエネルギー密度でレーザインパルスを20nm照射する。この高密度エネルギーは、サーモショック(熱衝撃)を洗浄、研磨する物質の表面に起こす。そして、そのエネルギーは、物質の表面で爆発を起こし、音波がその表面上に広がり、膨張波が表面に付着したオイルやペンキ、酸化物、汚れ、付着微粒子などを除去することになる。なお、YAGレーザーについては、例えば、非特許文献1を参照されたい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"レーザー"、[online]、2009年11月28日、[2009年12月8日検索]、ウィキペディア、インターネット<URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B6%E3%83%BC>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のレーザインパルスを用いた表面の洗浄等においては、コストが高く、処理スピードも遅いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、レーザーよりも消費電力が低く、処理スピードの速い、表面の研磨や洗浄等の処理を行う電子ビーム照射装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明による電子ビーム照射装置は、負電圧を発生させる電圧生成器と、電圧生成器に接続され、表面が接地された処理対象に対して電子ビームを照射するカソードと、を備えたものである。
【0007】
このような構成により、処理対象の表面の研磨や洗浄、不純物の剥離等を行うことができる。
【0008】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、前記電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、前記カソードは、前記処理対象に対して電子ビームインパルスを照射してもよい。
【0009】
このような構成により、電子ビームインパルスではない電子ビームを用いた場合よりも効率的に、処理対象の表面の研磨や洗浄、不純物の剥離等を行うことができる。また、例えば、精錬された金属板のカラミン(Calamine)の除去にも用いることができる。また、例えば、原子力産業から排出される放射線に汚染された物質の放射線の洗浄にも使用することができる。また、例えば、タイヤのゴム等を分解してリサイクルするためにも用いることができる。また、例えば、ベルトコンベア等の殺菌にも用いることができる。その殺菌は、電子による物質のイオン化によるDNAの変異が原因となるものである。また、レーザインパルスよりも消費電力が低いため、より低コストで洗浄等の処理を行うことができるようになる。また、レーザインパルスを用いた場合よりも、より速く洗浄等の処理を行うことができるようになる。
【0010】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードと処理対象とを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えてもよい。
このような構成により、真空中において、処理対象に電子ビームインパルスを照射することができる。
【0011】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードと処理対象との間に配置された、電子ビームインパルスが通過可能な孔を有するアノードをさらに備えてもよい。
このような構成により、アノードに設けられた孔によって、電子ビームインパルスを照射する範囲をコントロールすることができる。
【0012】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、処理対象である金属薄板が巻かれている第1のボビンと、第1のボビンから繰り出された金属薄板を巻き取るボビンであり、第1のボビンの軸と平行な軸を有する第2のボビンと、第2のボビンによる金属薄板の巻き取りのために、少なくとも第2のボビンを回転させる回転部と、をさらに備え、カソードは、第1のボビンから繰り出された後であり、第2のボビンに巻かれる前である金属薄板に対して電子ビームインパルスを照射してもよい。
このような構成により、第1のボビンから繰り出され、第2のボビンに巻き取られる前の金属薄板に対して、例えば、洗浄等の処理を行うことができる。
【0013】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードは、第1のボビン及び第2のボビンと平行して回転するものであってもよい。
このような構成により、洗浄、剥離等が行われることによって処理対象から出てきた物質でカソードが汚れたとしても、新しいまだ汚れていない箇所を用いて、電子ビームインパルスの照射を行うことができるようになる。
【0014】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、真空チャンバは、カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、処理対象は、真空チャンバの外部に存在し、カソードは、窓を介して電子ビームインパルスを処理対象に照射してもよい。
【0015】
このような構成により、真空中ではない大気中の処理対象に対して、電子ビームインパルスを照射することができるようになる。そのため、真空チャンバ内に処理対象を入れなくてもよいため、処理対象に関する自由度が高くなる。また、処理対象を大気中に置くことができるため、例えば、処理対象から剥離等された物等を吸引することによって回収することも可能となる。
【0016】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、金属薄膜は、厚さが10から30μmであるチタンの薄膜であってもよい。
このような構成により、この金属薄膜の窓を通して、効率よく電子ビームインパルスを放出することができるようになる。
【0017】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、窓に送風する送風部をさらに備えてもよい。
このような構成により、その送風によって、窓を冷却することができる。
【0018】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードは、処理対象に電子ビームインパルスを集中させて照射できる形状であってもよい。
このような構成により、電子ビームインパルスを所望の位置に集中させることができる。
【0019】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードは、熱カソード、酸化物カソード、またはタンクカソードであってもよい。
また、本発明による電子ビーム照射装置では、カソードは、エクスプローディング(Exploding)カソード、または冷カソードであってもよい。
【0020】
また、本発明による電子ビーム照射装置では、電圧生成器は、インダクションアダー(InductionAdder)タイプであり、200kVから4MVの負電圧であって、20から300nsのインパルスを生成してもよい。
【0021】
また、本発明による電子ビーム照射方法は、電圧を発生させる電圧生成ステップと、電圧生成ステップで生成された電圧を用いて、カソードから表面が接地された処理対象に対して電子ビームを照射する照射ステップと、を備えたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明による電子ビーム照射装置等によれば、レーザインパルスを用いた場合よりも消費電力が低く、処理スピードが速い、表面の研磨や洗浄等の処理を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1による電子ビーム照射装置の構成を示す図
【図2】同実施の形態におけるシリンダ形状のカソードについて説明するための図
【図3】同実施の形態による電子ビーム照射装置の構成の他の一例を示す図
【図4】同実施の形態による電子ビーム照射装置の構成の他の一例を示す図
【図5】同実施の形態における回転するカソードについて説明するための図
【図6】同実施の形態における金属薄板の両面の洗浄について説明するための図
【図7】本発明の実施の形態2による電子ビーム照射装置の構成を示す図
【図8】同実施の形態による電子ビーム照射装置の構成の他の一例を示す図
【図9】同実施の形態による電子ビーム照射装置の構成の他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による電子ビーム照射装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0025】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1による電子ビーム照射装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態による電子ビーム照射装置は、真空中の処理対象に電子ビームを照射することによって、処理対象の表面の洗浄等を行うものである。
【0026】
図1は、本実施の形態による電子ビーム照射装置100の構成を示す図である。本実施の形態による電子ビーム照射装置100は、カソード1と、電圧生成器6と、真空チャンバ50とを備える。
【0027】
電圧生成器6は、電圧を発生する。その発生された電圧は、カソード1に供給される。カソード1は、電圧生成器6に接続され、電圧生成器6から受け取った電圧によって、処理対象2に対して電子ビーム3を照射する。処理対象2は、表面が接地されている。真空チャンバ50は、カソード1と処理対象2とを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能である。真空チャンバ50内は真空に保たれるため、本実施の形態では、真空中で電子ビーム3が照射されることになる。
【0028】
なお、電子ビーム3は、電子ビームインパルスであることが好適である。そのほうが、処理対象2に対する後述する洗浄等の効果が高いからである。したがって、電圧生成器6は、負電圧を周期的に発生するインパルス生成器であってもよい。また、カソード1は、その発生された負電圧が供給され、その負電圧によって、処理対象2に対して電子ビームインパルスを照射してもよい。本実施の形態及び実施の形態2では、主に、電子ビーム3が電子ビームインパルスであり、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について説明する。なお、図1では、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について図示しているが、電圧生成器6がインパルス以外の電圧を生成してもよいことは前述の通りである。
【0029】
カソード1の形状、特に、カソード1が電子ビーム3を照射する面の形状は問わない。カソード1は、例えば、平面形状であってもよく、あるいは、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよい。後者の場合には、例えば、図2で示されるシリンダ形状であってもよく、あるいは、パラボラ形状や、球形状であってもよい。図2は、シリンダ形状のカソード1の形状を説明するための図である。図2(a)は、そのシリンダ形状のカソード1の側面図である。図2(a)において、カソード1は、図の紙面に垂直な方向にカソード1の形状が変化しないものである。すなわち、カソード1の電子ビーム3を照射する面は、円弧を、その円弧を含む円に垂直な方向に延ばした形状となる。図2(b)は、そのシリンダ形状のカソード1の斜視図である。なお、そのシリンダ形状のカソード1の長さ(すなわち、そのシリンダ形状の長さ方向における長さ)は、処理対象2の大きさ等に応じて、適宜、所望の長さにすることができる。なお、そのシリンダ形状のカソード1から照射される電子ビーム3は、そのシリンダ形状の中心線(シリンダ形状が完全な円筒であった場合におけるその円筒の中心軸)に向けられることになる。したがって、処理対象2は、そのシリンダ形状の中心線の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3の照射面がパラボラ形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、そのパラボラ形状の焦点に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その焦点の位置に配置されることが好適である。また、カソード1の電子ビーム3を照射する面が球形状であるとは、その面が全球に近い形状であってもよく、半球の形状であってもよく、半球と全球の間の形状であってもよく、球に占める範囲が半球よりも狭い形状であってもよい。また、カソード1の電子ビーム3の照射面が球形状である場合には、そのカソード1が照射する電子ビーム3は、その球形状の中心に向けられることになる。したがって、処理対象2は、その中心の位置に配置されることが好適である。このカソード1は、比較的大きいものである。そのカソード1の大きさは、例えば、球状の直径以上のサイズであってもよい。
【0030】
また、カソード1の種類は問わない。カソード1は、例えば、熱カソードであってもよく、酸化物カソードであってもよく、またはタンクカソードであってもよい。また、これらの例示した以外の種類のカソード1を用いてもよい。これらのカソードの種類については、すでに公知であり、詳細な説明を省略する。
【0031】
電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給する。なお、本実施の形態では、電圧生成器6がインパルス生成器であり、負電圧を周期的に発生して、カソード1に供給する場合について説明する。その電圧生成器6は、例えば、インダクションアダー(Induction Adder:誘導演算回路)タイプであってもよい。その場合には、電圧生成器6は、200kVから4MVの負電圧であって、20から300nsのインパルスを生成する。誘導演算回路とは、入力信号の振幅の和に比例する出力信号振幅を発生する演算回路である。また、その電圧生成器6がインパルスを生成する周期は、例えば、1000Hzであってもよい。その周期は、通常、200〜8000Hzである。また、電圧生成器6に供給される電力は、直流であってもよく、あるいは、交流であってもよい。なお、交流の高周波電源を使用した場合に、最も効率よく電子ビーム3を生成することができるようになる。
【0032】
また、図1で示されるように、処理対象2の表面は、接地されている。すなわち、処理対象2の表面はアースに接続されていることになる。なお、電子ビーム照射装置100は、処理対象2の表面を接地させるための、アースに接続されている端子を備えていてもよい。そして、そのアースに接続されている端子を処理対象2の表面に接続することによって、処理対象2の表面を接地してもよい。
【0033】
次に、本実施の形態による電子ビーム照射装置100の使用方法について説明する。真空チャンバ50の内部に処理対象2を配置し、その処理対象2の処理を行いたい表面を接地する。そして、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする。そのために用いられる真空ポンプを真空チャンバ50が有してもよい。その後に、電圧生成器6を動作させて、カソード1に対して周期的に負電圧を供給する。すると、カソード1から処理対象2の表面に対して、電子ビーム3が照射される。その電子ビーム3の照射によって、処理対象2の表面を研磨したり、その表面に付着しているニスやペンキ(塗装)等を剥がしたりすることができる。また、その処理対象2が、ガラスやプラスチック、ゴム等の型である場合には、その型を用いた成型後に、その型からガラスやプラスチック、ゴム等を除去する目的で、本実施の形態による電子ビーム照射装置100を用いることもできる。このように、本実施の形態による電子ビーム照射装置100は、例えば、処理対象2の表面における研磨や剥離、洗浄等に用いることができる。これはドライプロセスであり、汚染物質となる廃液等を出さないエコロジーな技術である。
【0034】
従来例のように、レーザーを使用した剥離技術でも、同様な洗浄等の処理を行うことができるが、レーザーを使用した場合には、処理コストが非常に高くなり、また作業能率が悪いというデメリットがあった。それに比べて、本実施の形態による電子ビーム照射装置100では、消費電力が低いため低コストであり、また処理スピードもレーザーの場合に比べて速いものである。
【0035】
この電子ビーム照射装置100を用いることによって、金属表面の研磨や洗浄、油やスラグの付着したセラミックの洗浄や、その油等を剥離すること、ニスやペンキ、錆、カラマインの剥離、航空機のメンテナンス、プラスチックや金属を分解することによるリサイクル等を行うことができる。また、処理スピードが速いため、精錬されたばかりの金属に対して、表面加工の工程の前に表面洗浄研磨を行うこともできる。なお、通常、その表面洗浄研磨のために酸洗いを行うが、本実施の形態による電子ビーム照射装置100を用いることによって、その酸洗いが必要なくなり、その酸洗いの廃液が出ないというメリットもある。このように、公害汚染物質を排出することなく、洗浄等の処理を行うことができる。また、本実施の形態による電子ビーム照射装置100を、表面に付着した微粒子(ミクロ微粒子)の剥離洗浄に用いることもできる。また、本実施の形態による電子ビーム照射装置100を用いて処理した後の表面の洗浄、研磨のレベルの高さは、他の洗浄、研磨の方法よりも遙かに高い。また、剥離や研磨によって排出された粉塵排出物を回収することによって、リサイクルを行うことも可能である。
【0036】
また、表面のアブレーション(abrasion:剥離)では、排出される粉末状物質も、処理された表面も完全に殺菌されている。したがって、本実施の形態による電子ビーム照射装置100を用いることによって、例えば、食品産業などで使われる金属やゴム製のベルトコンベアの完全洗浄と殺菌とを同時に行うことができることになる。
【0037】
また、その他のアプリケーションとして、放射線汚染された機材や建物、その他の物において、放射線汚染された表面の洗浄を行うことができる。この場合にも、前述のように、廃液等が出ないため、廃棄物の減量に大きく貢献することができる。
【0038】
図3は、アノード5をさらに備えた電子ビーム照射装置100の一例を示す図である。図3において、電子ビーム3の照射の際に、カソード1と処理対象2との間にアノード5が配置されている。そのアノード5は、電子ビーム3が通過可能な孔を有するものとする。電子ビーム3は、アノード5の孔を通過して処理対象2に照射されるため、アノード5の孔を所望の形状にすることによって、電子ビーム3を所望の範囲に照射することが可能となる。
【0039】
図4は、処理対象2が金属薄板である場合の電子ビーム照射装置100の一例を示す図である。図4において、電子ビーム照射装置100は、第1のボビン7と、第2のボビン8と、回転部51とをさらに備えている。なお、図4では、真空チャンバ50を省略しているが、カソード1や電圧生成器6、第1及び第2のボビン7,8、回転部51は、真空チャンバ50の内部に存在するものとする。第1のボビン7には、処理対象2である金属薄板が巻かれている。第2のボビン8は、第1のボビン7から繰り出された金属薄板を巻き取るボビンであり、第1のボビン7の軸と平行な軸を有する。回転部51は、第2のボビン8による金属薄板の巻き取りのために、少なくとも第2のボビン8を回転させる。回転部51は、例えば、モータであってもよく、その他の駆動手段であってもよい。また、その回転部51は、第2のボビン8のみを回転させてもよく、あるいは、第1及び第2のボビン7,8を回転させてもよい。前者の場合であっても、後者の場合であっても、第1のボビン7と第2のボビン8との間で、処理対象2である金属薄板がテンションを保つようになっていることが好適である。図4では、カソード1は、第1のボビン7から繰り出された後であり、第2のボビン8に巻かれる前である金属薄板に対して電子ビーム3を照射する。そして、回転部51が第2のボビン8を回転させることによって、金属薄板は、カソード1の長さ方向に対して直角の方向に移動することになり、カソード1は、金属薄板の新しい箇所に電子ビーム3を照射することになる。そして、表面の処理がなされた金属薄板が、第2のボビン8に巻かれていくことになる。なお、処理対象2の金属薄板を接地するために、例えば、図4で示されるように、第2のボビン8を接地してもよく、その他の金属薄板の箇所を接地してもよい。第2のボビン8を接地する場合には、第2のボビン8と、そこにロール状に巻かれている金属薄板とが同電位であることが求められる。また、カソード1は、金属薄板と同じ幅を有していることが好適である。金属薄板の全体に対して電子ビーム3を照射できるようにするためである。また、この場合のカソード1は、エクスプローディング(Exploding)カソードと呼ばれる冷カソードが有利である。
【0040】
なお、図4では、カソード1が固定されている場合について説明したが、カソード1は、第1のボビン7及び第2のボビン8と平行して回転するものであってもよい。図5は、回転するカソード1を有する電子ビーム照射装置100の一例を示す図である。図5(a)では、カソード1は、円筒形になっている。そして、回転しながら電子ビーム3を照射する。このようにすることによって、電子ビーム3の照射によって金属薄板から剥離された物質がカソード1の一部に付着したとしても、そのカソード1が回転すると、剥離物質の付着していない新しいところから電子ビーム3を照射することができるようになる。図5(b)では、カソード1は、金属薄板のベルトの巻かれたベルトコンベアである。そのベルトコンベアのベルトが回転することによって、図5(a)の場合と同様に、剥離物質の付着していない新しいところから電子ビーム3を照射することができるようになる。
【0041】
なお、図5(a)、図5(b)においても、説明の便宜上、真空チャンバ50を省略しているが、カソード1や電圧生成器6、第1及び第2のボビン7,8、真空チャンバ50の内部に存在するものとする。また、回転部51も存在するものとする。また、図5(a)、図5(b)において、カソード1を回転させるための図示しない回転部を電子ビーム照射装置100が備えているものとする。その図示しない回転部は、例えば、モータであってもよく、あるいは、その他の駆動手段であってもよい。
【0042】
また、図5(a)、図5(b)において、カソード1のすべての面を用いて電子ビーム3の照射を行った場合(すなわち、図5(a)であれば、カソード1が1回転した場合、図5(b)であれば、カソード1のベルトが1回転した場合)には、そのカソード1の表面から付着物質を除去してから使用するようにしてもよい。また、その付着物質の除去を、電子ビーム3の照射と並行して行うことによって、絶えず剥離物質の付着していないクリーンな箇所から電子ビーム3の照射を行うことができるようにしてもよい。
【0043】
なお、図4、図5で説明したように、金属薄板に電子ビーム3を照射することによる金属薄板の表面洗浄では、図6で示されるように、電子ビーム3が照射される面と、その面の裏面との表裏両面を一緒に洗浄することができる。すなわち、電子ビーム3の吸収によって起こる圧力波は、薄膜の厚みの中で広がり、表裏両面に反射し、膨張波が起こり、そのようにして両面の付着物16,17が除去されることになる。
【0044】
ここで、本実施の形態の電子ビーム照射装置100による電子ビーム3の照射について、説明する。ダイオード放射の特徴は、電子の加速は非常に短時間tの間にしか起こらない、と言うことである。そして、これはインパルスと呼ばれ、ある特定の反復周波Nを周期的に作り出す。もしカソード1にマイナス電圧をかけたなら、アースに接続された処理対象2やアノード5は、電圧Vに等しく、電流をI、電子ビーム3の平均パワー(出力)をPとすると、そのPの式は、
P=N・I・V・t
となる。Nは、200〜8000Hzである。
【0045】
冷カソードを使用した場合、インパルスは300nsを超すことはできず、ミニマムは20ns程度である。熱カソードを使用した場合は、電子を数マイクロ秒の間、加速することができる。
【0046】
また、電子ビーム3の強さは、空間チャージ現象によってコントロールされ、チャイルド・ラングミュアー(Child?Langmuir)の法則によって値が定まる。この値は、数kAにも達することがある。なお、チャイルド・ラングミュアーの式は、真空中の電極間における電子・イオンの空間電荷制限電流iが、V3/2/dに比例することを示す式である。Vは電極間電圧であり、dは電極の距離である。
【0047】
その電圧Vは、200kVから4MVであり、処理する表面の厚さや、希望する処理スピード等によって異なる値に設定する。アースに接続されたアノードを持ったカソードにおいて、マイナス電極を選択する理由は、実験を通した経験から得られたものであり、一般には、アースに接続された処理表面を操作する方が容易である。
【0048】
電圧Vは、電子エネルギーをコントロールするものであり、電子が処理対象2の表面に食い込む深さをp(cm)とすると、次の関係式が得られる。
p=0.33E/d
【0049】
ここで、Eはエネルギー(MeV)であり、dは処理対象2の密度(g/cm)である。物質の中に電子エネルギーが取り込まれるには圧力波が作用し、この圧力波が研磨する表面、洗浄する表面の物質を除去する作用を起こすが、そのためには、「コンスタントな温度量」という条件がある。言い換えれば、物質が膨張しない程度に、より迅速に物質を温めることが必要となる。これはこの膨張を音速のスピードで行うことで可能になる。すなわち、わりあいに遅いスピードで行うことである。これを実現するためには、
t<p/2C
となる。なお、Cは、電子ビーム3が吸収される物質の中を通る音速である。
【0050】
電子ビーム3のエネルギーについて考える際に、以下の2つのことが想定される。
(1)エネルギーは処理される表面の異物にだけ入る
(2)エネルギーは基本的に処理される物質の中に入る
上記(1)に関しては、自由な表面上の膨張により、処理物破裂が起こり、上記(2)に関しては、物質の中に圧力波が起こり、この圧力波が表面に反射すると膨張波に変わる。処理する表面の付着物も同様にこの膨張を起こす。一般には付着物の粘着性より、この膨張力の方が大きいので、不純物は粉砕され、表面から剥離される。そして、その粉塵は、例えば、吸引してフィルターを通して回収することができ、その場合には、大気中に廃棄されることはない。「ドライ洗浄」「ドライ処理」という呼び名は、このプロセスによるものである。
【0051】
以上のように、本実施の形態による電子ビーム照射装置100によれば、処理対象2に対して電子ビーム3を照射することによって、処理対象2の表面の洗浄は研磨、処理対象2に付着した物質の剥離等を行うことができる。また、処理対象2の殺菌や、処理対象に付着した放射線汚染の洗浄等も行うことができる。レーザインパルスを用いた場合には、このような殺菌や放射線汚染の洗浄を行うことはできない。なお、これらの洗浄を行っても、汚染物等を含む廃液等が発生しないメリットもある。さらに、レーザインパルスを用いた場合と比べて、単位時間あたりの消費電力が約半分になり、処理速度が速く消費電力コストが大幅に削減される。したがって、消費電力コストが減少させることができる。また、電子ビーム3を用いた技術の特徴は、衝撃エネルギーを熱エネルギーに変えることでもあり、電子ビーム3が処理対象2の表面にあたると、衝撃(波)エネルギーが微小時間(ナノセコンド)で熱エネルギーに変わり、それが分子構造を不安定にする条件を作る。それに対して、レーザーなどの他の方法を用いて温度を上げると時間がかかり、また全体が温まってしまう。電子ビーム3を用いた場合には、瞬時に高温にすることができるため、速い処理が可能となる。
【0052】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2による電子ビーム照射装置について、図面を参照しながら説明する。本実施の形態による電子ビーム照射装置は、大気中に存在する処理対象に対して電子ビームを照射するものである。
【0053】
図7は、本実施の形態による電子ビーム照射装置200の構成を示すブロック図である。本実施の形態による電子ビーム照射装置200は、カソード1と、電圧生成器6と、真空チャンバ52とを備える。なお、真空チャンバ52が、接地された窓4を備えており、その窓4を介して放出された電子ビーム3を、真空チャンバ52の外部に存在する処理対象2に対して照射する以外は、実施の形態1と同様であり、その説明を省略することがある。
【0054】
カソード1は、窓4を介して電子ビーム3を処理対象2に照射する。そのカソード1が、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状であってもよいことや、カソード1が、熱カソード、酸化物カソード、またはタンクカソードであってもよいこと、カソード1が、エクスプローディングカソード、または冷カソードであってもよいことは、実施の形態1と同様である。また、カソード1は、プラズマカソードや、酸化熱カソード、ディスペンサー(dispenser)タイプのカソードであってもよい。また、電圧生成器6も、実施の形態1と同様のものである。すなわち、電圧生成器6は、電圧を発生してカソード1に供給するものである。本実施の形態でも、電圧生成器6がインパルス生成器である場合について主に説明する。
【0055】
真空チャンバ52は、電子ビーム3が通過可能な窓4を有する以外、実施の形態1の真空チャンバ50と同様のものである。窓4は、カソード1から出射された電子ビーム3を外部に通過可能な金属薄膜である。その金属薄膜は、例えば、チタンの薄膜であることが好適である。その金属薄膜は、例えば、アルミニウムや、チタンルテニウム(チタンとルテニウムの合金)等のチタン以外の薄膜であってもよいが、アルミニウムの場合には性能が落ちることになる。なお、金属薄膜がチタンの薄膜である場合に、その厚さは、10〜30μmであることが好適である。また、その窓4によって、照射される電子ビーム3のエネルギーの分散を最小限(5〜10%)に抑えることが可能となりうる。また、窓4は、単一素材であってもよく、複合層を有する積層素材であってもよいが、接地するための導電性の層を少なくとも有するものである。なお、図7では、真空チャンバ52の窓4と、それ以外の部分とを区別するために、窓4を他の部分よりも厚く描いているが、これは説明の便宜上であって、通常、窓4のほうが、他の部分よりも薄くなる。後述する図8においても同様である。
【0056】
本実施の形態では、処理対象2は、真空チャンバ52の外部に存在することになる。したがって、実施の形態1の場合のように、処理対象2を真空チャンバ50の中に置いてから、真空チャンバ50の内部雰囲気を真空にする、という処理が必要なくなり、真空チャンバ52の内部雰囲気をはじめから真空にすることができる。その結果、処理対象2に電子ビーム3を照射するまでの時間を短縮することができる。なお、処理対象2は、実施の形態1の場合と同様に、処理の行われる表面が接地されているものとする。また、窓4は、接地されている。
【0057】
図8は、電子ビーム照射装置200の構成の他の一例を示す図である。より高いパワー密度が要求される場合には、図8で示されるように、処理対象2にエネルギーが集中されるように、カソード1の形状を、処理対象2に電子ビーム3を集中させて照射できる形状にしてもよい。なお、そのカソード1の形状(厳密には、カソード1における電子ビーム3を出射する面の形状)に合わせて、窓4の形状も変形させてもよい。すなわち、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4の面とが相似形であってもよい。具体的には、カソード1の電子ビーム3を出射する面と、窓4との距離が均一になるように、窓4の形状を設定してもよい。
【0058】
また、高出力になると、窓4の温度が高くなる。したがって、それを冷却するために、図8で示されるように、電子ビーム照射装置200は、窓4に送風を行う送風部14をさらに備えてもよい。送風部14は、窓4に送風することによって、窓4の温度を下げるものである。送風部14は、高速エアーを窓4に送風してもよい。送風部14は、図8で示されるように、窓4の外側に対して送風することによって、窓4を空冷するものである。
【0059】
図9は、電子ビーム照射装置200の構成の他の一例を示す図である。図9の電子ビーム照射装置200において、処理対象2の表面は、金属ブラシ18によって、アースに接続されている。また、電子ビーム3は、窓4を介して照射される。また、送風部14からは、超高速(例えば、200m/s)のエアーインジェクション(送風)がなされ、窓4を冷却する。本実施の形態による電子ビーム照射装置200のように、大気圧状況に処理対象2が存在する場合には、電圧生成器6としては、Induction Adderタイプのものが好適である。その電圧生成器6において、カソード1に接続された支柱13は、金属管であり、カソード1と反対側の先端はアースに接続される。また、絶縁チューブ20は、例えば、ガラスやセラミック製のものであり、真空チャンバ52内の真空雰囲気の気密性を保つために用いられる。なお、真空チャンバ52は、アースに接続されている。絶縁チューブ20の中心軸に沿って、複数のインダクター(電磁石)11が並べて設置されている。各インダクター11において、積層状の磁気コア12に銅線が巻かれている。その積層状の磁気コア12は、例えば、アモルファス(非結晶質の薄層)が積層されたものであってもよい。各インダクター11への給電は、インパルスジェネレータ10から同軸ケーブル9を介して行われる。例えば、図9では、12個のインダクター11から構成されているため、もし1.2MVの出力を望むのであれば、インパルスジェネレータ10は、インパルスの振幅が100kVであり、電流がカソード1から照射される電流と等しいインパルスを生成する。例えば、その電流は2kAであってもよい。また、同軸ケーブル9のインピーダンスは50Ωであり、インパルスジェネレータ10も同じく50Ωであってもよい。
【0060】
窓4を空冷する送風部14は、フィルターにかけられた圧縮空気や、窒素ガス、ヘリウムガス、水素ガスなどのガス23を、窓4に接するように超高速で循環させてもよい。また、カソード1を取り付けた支柱13は、底の金属板22に接続されている。また、その金属板22と、真空チャンバ52の筐体とをつなぐトラス棒21を介して、戻り電流が流れることになる。カソード1は、熱カソードであり、その熱カソードを温める方法は、ヒータケーブルを、カソード1を支える支柱13の中に通し、アースの電極と、カソード1がインパルスする高電圧で簡単に行うことができる。窓4は、前述のように、10〜30μmのチタンの薄膜を使用し、2〜4cm幅の湾曲したシリンダ形状であってもよい。
【0061】
処理対象2は、前述のように、洗浄や研磨、ペンキやニス、汚染物質等の剥離を行う対象であれば、どのようなものであってもよい。処理対象2は、例えば、ゴムタイヤであり、そのゴムタイヤである処理対象2に電子ビーム3を照射することによって、そのゴムを分解し、カーボンブラックとポリマーとに戻してもよい。
【0062】
以上のように、本実施の形態による電子ビーム照射装置200によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。さらに、実施の形態1のように、処理対象2を真空中に置かなくてもよいため、処理を開始するまでの作業が簡易なものとなり、作業性が向上することになる。また、実施の形態1の場合であれば、真空チャンバ50に入る大きさの処理対象2に対してのみ処理を行うことができたが、実施の形態2の場合には、そのような制限もなくなる。
【0063】
ここで、電子ビーム3を処理対象2に照射することによって、処理対象2を分解する原理について簡単に説明する。特に、処理対象2がゴムタイヤである場合について主に説明する。物質は、原子または分子から構成されているが、その運動エネルギーの状態に応じて、気体、液体、固体に変化する。固体であっても、気体や液体よりは小さいながらも運動エネルギーを持っている。固体では、原子、分子共に整然と配列された結晶構造の状態となっているが、結晶中の分子や原子は結晶格子の位置で前後左右上下に移動(振動)することができる。この振動を熱振動、格子振動と呼ぶ。振動の振動力は熱であるが、絶対零度においても不確定性原理から格子(原子)は、零点振動をしている。
【0064】
調和振動子で構成されている物質に、衝撃運動量が加わり、非調和相互作用の状態(調和振動子のずれ)になることは、物質が分解されることを意味する。上記各実施の形態による電子ビーム照射装置100、200によって電子ビーム3をゴムに照射することによって、硫黄により架橋されたゴムを瞬時に分解し、カーボンブラックとポリマーに戻すことができる。この適切な衝撃運動量(時間を含む)は、適切な値に設定されることが必要である。
【0065】
次に、グリューナイゼン定数について説明する。格子振動の非調和相互作用(調和振動子からのずれ)の影響がディバイ温度θにどのように現れるかを示す物質固有の定数がグリューナイゼン定数Γであり、次式で表される。なお、Vは体積である。
Γ=−d(logθ)/d(logV)
【0066】
次に、ディバイ温度について説明する。ディバイ温度θは、
θ=hν/k
で得られる温度の次元を持つ量である。ここで、hはプランク定数であり、kはボルツマン定数である。そのディバイ温度は、ディバイ比熱モデルで振動子の数が結晶内原子の運動の自由度の総数に等しいとして得られる最大の振動数νを用いて導かれる。
【0067】
秒速5000メートルの電子ビームインパルスに、100〜300ナノセカンドのインパルスのコントロールを行うことで、処理対象2のポリマー分子構造体の連結を切り、より小さな物質にする。最も簡単にこの結合体の腕が切られるのは、ゴム製品に含まれるカーボンやシリカの部分である。すべての連結の腕を切ってしまうと、モノマーに分解される。グリューナイゼンの法則に則ると、
ΔP=Γρε
となる。ここで、ΔPは物質中の圧力増加であり、Γはグリューナイゼン定数であり、ρは密度であり、εは衝撃可能なエネルギー(eV)である。この式は、本願の発明者によって導出されたものである。インパルスは持続時間が無限小のパルスで、数学的にはデルタ関数で表される。この結果、加硫ゴムから天然ゴム、合成ゴム、カーボンブラックなどのリサイクルに必要なエネルギーεは、10kj/kg程度となる。この値も、本願の発明者によって発見されたものである。
【0068】
処理対象2がゴムタイヤである場合に、例えば、電子ビーム3を超高速インパルスでタイヤ表面に照射する。その照射の直径が33mmであったとする。すると、その照射された電子ビーム3はタイヤ表面から数mm程度食い込み、その部分のゴムが破壊され、ゴムとカーボンブラックが顆粒状になって落ちてくる。そのゴム等を微弱真空ポンプ等で吸引し、ゴムとカーボンブラックとを途中で回収し、蒸発ガスを熱交換機で処理し、タイヤに含まれる添加剤、オイルを分離して、オイルは液化オイルとして回収することができる。その他の若干含まれる揮発性ガスは、プラズマ処理機で処理され、有毒な排ガスや二酸化炭素の排出はない。このように、ゴムタイヤを分解する処理は、例えば、ゴムタイヤの金属金網や布類などを取り出すまで、すなわち、タイヤのゴム等が完全に分解されて無くなるまでなされてもよい。
【0069】
なお、前述のように、電子ビーム照射装置100、200によってゴムタイヤのような処理対象2を分解する場合には、その分解後の物質を回収するための図示しない吸引器を電子ビーム照射装置100、200が備えていてもよい。
【0070】
また、上記各実施の形態では、真空チャンバ50、52の内部に電圧生成器6も含まれる場合について主に説明したが、電圧生成器6の全部または一部は、真空チャンバ50、52の外に存在してもよいことは言うまでもない。
【0071】
また、上記各実施の形態において、サーモショック(熱衝撃)による表面の研磨や洗浄を行う場合には、高電子エネルギー(MeV)や、高電流(kA)が必要となる。一方、殺菌を行う場合には、電子エネルギーは小さく(30〜50keV)、電流もそれほど高くない相応な値である。
【0072】
また、上記各実施の形態において、電子ビーム3が、電子ビームインパルスであってもよく、あるいは、電子ビームインパルスではない電子ビームであってもよいことは前述の通りである。なお、電子ビーム3が電子ビームインパルスであるほうが、より好適な効果が得られることも前述の通りである。
【0073】
また、上記各実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、電圧の値や、周波数の値等がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0074】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上より、本発明による電子ビーム照射装置等によれば、例えば、処理対象を洗浄したり研磨したりすることができ、洗浄装置や研磨装置等として有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 カソード
2 処理対象
3 電子ビーム
4 窓
5 アノード
6 電圧生成器
7 第1のボビン
8 第2のボビン
9 同軸ケーブル
10 インパルスジェネレータ
11 インダクター
12 磁気コア
13 支柱
14 送風部
16、17 付着物
18 金属ブラシ
20 絶縁チューブ
21 トラス棒
23 ガス
50、52 真空チャンバ
51 回転部
100、200 電子ビーム照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧を発生させる電圧生成器と、
前記電圧生成器に接続され、表面が接地された処理対象に対して電子ビームを照射するカソードと、を備えた電子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記電圧生成器は、負電圧を周期的に発生させ、
前記カソードは、前記処理対象に対して電子ビームインパルスを照射する、請求項1記載の電子ビーム照射装置。
【請求項3】
前記カソードと前記処理対象とを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備えた、請求項2記載の電子ビーム照射装置。
【請求項4】
前記カソードと前記処理対象との間に配置された、前記電子ビームインパルスが通過可能な孔を有するアノードをさらに備えた、請求項3記載の電子ビーム照射装置。
【請求項5】
前記処理対象である金属薄板が巻かれている第1のボビンと、
前記第1のボビンから繰り出された金属薄板を巻き取るボビンであり、前記第1のボビンの軸と平行な軸を有する第2のボビンと、
前記第2のボビンによる金属薄板の巻き取りのために、少なくとも前記第2のボビンを回転させる回転部と、をさらに備え、
前記カソードは、前記第1のボビンから繰り出された後であり、前記第2のボビンに巻かれる前である金属薄板に対して電子ビームインパルスを照射する、請求項3または請求項4記載の電子ビーム照射装置。
【請求項6】
前記カソードは、前記第1のボビン及び前記第2のボビンと平行して回転するものである、請求項5記載の電子ビーム照射装置。
【請求項7】
前記カソードを内部に収容可能であり、内部雰囲気を真空に保持可能な真空チャンバをさらに備え、
前記真空チャンバは、前記カソードから出射された電子ビームインパルスを外部に通過可能な、金属薄膜である窓を有し、
前記処理対象は、前記真空チャンバの外部に存在し、
前記カソードは、前記窓を介して電子ビームインパルスを前記処理対象に照射する、請求項2記載の電子ビーム照射装置。
【請求項8】
前記金属薄膜は、厚さが10から30μmであるチタンの薄膜である、請求項7記載の電子ビーム照射装置。
【請求項9】
前記窓に送風する送風部をさらに備えた、請求項7または請求項8記載の電子ビーム照射装置。
【請求項10】
前記カソードは、前記処理対象に電子ビームインパルスを集中させて照射できる形状である、請求項2から請求項9のいずれか記載の電子ビーム照射装置。
【請求項11】
前記カソードは、熱カソード、酸化物カソード、またはタンクカソードである、請求項1から請求項10のいずれか記載の電子ビーム照射装置。
【請求項12】
前記カソードは、エクスプローディング(Exploding)カソード、または冷カソードである、請求項2から請求項10のいずれか記載の電子ビーム照射装置。
【請求項13】
前記電圧生成器は、インダクションアダー(Induction Adder)タイプであり、200kVから4MVの負電圧であって、20から300nsのインパルスを生成する、請求項12記載の電子ビーム照射装置。
【請求項14】
電圧を発生させる電圧生成ステップと、
前記電圧生成ステップで生成された電圧を用いて、カソードから表面が接地された処理対象に対して電子ビームを照射する照射ステップと、を備えた電子ビーム照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−145259(P2011−145259A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8309(P2010−8309)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(510016911)有限会社日本テクノバロー (1)
【Fターム(参考)】