説明

電子部品固定治具及び電子部品の加工方法

【課題】 密着層の密着力を高めることなく電子部品の脱落、反り、変形等を防止することのできる電子部品固定治具及び電子部品の加工方法を提供する。
【解決手段】 剛性を有する基板1と、基板1の表面に積層されて複数のフレキシブル基板10を着脱自在に保持する密着層3と、基板1の複数の取付孔2に着脱自在に圧入され、密着層3に保持されたフレキシブル基板10を位置決め固定する複数の変形防止ピン20とを備える。基材の取付孔2に対する変形防止ピン20の密接力が加熱雰囲気の温度が高温の場合には増大し、加熱雰囲気の温度が低温の場合には減少するので、リフロー炉の加熱により密着層3の密着力が低下しても、フレキシブル基板10の脱落を有効に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリングが困難な電子部品、例えばフレキシブル基板等を搭載固定したり、作業効率の効率化のために電子部品を固定する電子部品固定治具及び電子部品の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板(FPCともいう)は、例えばポリイミドや銅箔等の積層により製造され、硬質プリント基板と同様の工程を通じて複数の実装部品が実装されるが、薄くて機械的なハンドリングが困難であるという特徴があるので、作業に際しては電子部品固定治具(ワークボードともいう)上に予め固定される。
この種の電子部品固定治具は、図5や図6に示すように、平坦な基板1の表面に、複数のフレキシブル基板10を着脱自在に保持する密着層3が積層形成されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記において、フレキシブル基板10に実装部品を実装する場合には、先ず、電子部品固定治具の密着層3にフレキシブル基板10を保持させてその表面にはペーストはんだを塗布し、フレキシブル基板10に複数の実装部品を搭載する。そして、リフロー炉に電子部品固定治具と共にフレキシブル基板10をセットし、輻射や熱風等の方法を通じて適温に加熱(例えば250℃前後)し、フレキシブル基板10のペーストはんだを溶融させてソルダリングすれば、フレキシブル基板10に複数の実装部品を実装することができる。
【特許文献1】特開2002‐338916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における電子部品固定治具は、以上のように構成され、リフロー炉の熱風加熱等により雰囲気の温度が高温になると、密着層3の密着力が低下してしまうので、フレキシブル基板10が脱落したり、吹き飛ばされてしまうという問題がある。また、フレキシブル基板10がポリイミドや銅箔等からなる複数の材料により多層構造に製造されるので、リフロー炉の加熱に伴い、各材料の線膨張係数の差が反りとして発現され、フレキシブル基板10の周縁部等が図6のように1〜2mmも上方に反ったり、変形してしまうおそれが少なくない。
【0005】
このような問題を解消する手段としては、常温下の密着層3の密着力を向上させる方法が考えられるが、この場合には、電子部品固定治具からフレキシブル基板10を剥離する作業がきわめて困難になるし、剥離に際してフレキシブル基板10が反ったり、実装部品の脱落を招くという大きな問題が新たに生じることとなる。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、密着層の密着力を高めることなく、電子部品の脱落、反り、変形等を防止することのできる電子部品固定治具及び電子部品の加工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、剛性を有する基材と、この基材に設けられて電子部品を着脱自在に保持する密着層と、基材の取付凹部に着脱自在に略隙間なく挿入され、密着層に保持された電子部品を位置決め固定する変形防止ピンとを含んでなることを特徴としている。
【0008】
なお、変形防止ピンの少なくとも周面を取付凹部に密接する耐熱性のエラストマーとし、基材の取付凹部に対する変形防止ピンの密接力を、雰囲気の温度が高温の場合には増大させ、雰囲気の温度が低温の場合には減少させることが好ましい。
また、変形防止ピンの上部を幅方向に伸ばして電子部品に引っかかる係止部とすることができる。
【0009】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし3いずれかに記載の電子部品固定治具を使用して電子部品に加工を施す方法であって、
電子部品固定治具の密着層に電子部品を保持させた後、加熱装置に電子部品固定治具と共に電子部品を供給するまでの間に、電子部品固定治具の取付凹部に変形防止ピンを略隙間なく挿入して密着層に電子部品を位置決め固定することを特徴としている。
【0010】
なお、電子部品固定治具の密着層に保持させた電子部品にはんだを供給し、電子部品に実装部品を搭載するとともに、電子部品固定治具の取付凹部に変形防止ピンを略隙間なく挿入して密着層に電子部品を位置決め固定し、その後、加熱装置に電子部品固定治具と共に電子部品を供給し、電子部品のはんだを溶融させてソルダリングすることができる。
【0011】
ここで、特許請求の範囲における電子部品は、少なくとも可撓性のフレキシブル基板、高密度フレキシブル基板、薄い基板、薄い部品、半導体部品等からなり、単数複数いずれでも良い。密着層は基材に単数複数設けられる。また、取付凹部は、切り欠き、貫通した孔、貫通しない穴等からなり、基材に形成されているのであれば、密着層に形成されていても良いし、そうでなくても良い。
【0012】
変形防止ピンは、基材の線膨張係数よりも大きい線膨張係数の材料、例えば変形可能な樹脂やゴム等を使用して少なくとも周面が形成される。この変形防止ピンの周面以外の部分については、樹脂やゴム等を使用して形成できるが、金属等を使用して形成することもできる。変形防止ピンの形状は、ブシュ形、リベット形、円柱形、逆円錐形、逆円錐台形、角柱形、逆角錐形、逆角錐台形、断面略J字形、断面略L字形、断面略T字形等とされる。さらに、低温には、高温以外の常温が含まれる。
【0013】
本発明によれば、加熱により密着層の密着力が低下しても、摩擦や膨張等を利用して取付凹部にきつく取り付けられる変形防止ピンが電子部品を固定するので、電子部品の密着層からの脱落等を防止することができる。また、基材に変形防止ピンが固定されるのではなく、基材に対して取り付け取り外しが可能なので、電子部品にはんだや接着剤等を設けて加工する際に支障を来たすことが少ない。
【0014】
また、本発明によれば、電子部品固定治具の密着層に電子部品を保持させてから、電子部品にはんだや接着剤等を塗布したり、各種の実装部品を搭載等することにより加工した後、加熱装置に電子部品固定治具と共に電子部品を供給するまでの間に、取付凹部に変形防止ピンを略隙間なく挿入して密着層に電子部品を固定する。これにより、取付凹部に対する変形防止ピンの密接力が雰囲気の温度が高温の場合に増大して変形防止ピンを抜けにくくするので、例え加熱により密着層の密着力が低下しても、電子部品が吹き飛ばされたり、変形すること等を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、密着層の密着力を高めることなく、電子部品の脱落、反り、変形等を防止することができるという効果がある。
また、変形防止ピンの上部を幅方向に伸ばして電子部品に引っかかる係止部とすれば、変形防止ピンの電子部品に対する接触領域が拡大するので、電子部品の脱落等をより有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における電子部品固定治具は、図1や図2に示すように、剛性を有する基板1と、この基板1の表面に積層されてフレキシブル基板10を保持する密着層3と、複数の取付孔2・4にそれぞれ取り外し可能に圧入され、密着層3に保持されたフレキシブル基板10を位置決め固定する複数の変形防止ピン20とを備えている。
【0017】
基板1は、例えば0.5〜10mmの厚さを有するアルミニウム、ステンレス、マグネシウム、セラミック、プラスチック、繊維強化プラスチック、ガラス等を使用して平坦な板に形成され、フレキシブル基板10に悪影響を及ぼさない箇所、具体的には周縁部に複数の取付孔2が貫通して穿孔される。この基板1には、図示しないが、フレキシブル基板10用の位置決めピン、作業テーブルに位置合わせするためのピン等が固定して設けられる。ここで、例えばアルミニウム(A5052)、ガラエポの線膨張係数は、それぞれ3×10−6/℃、2×10−5/℃である。
【0018】
密着層3は、例えば耐熱性のシリコーン系ゴムやフッ素系ゴム等のエラストマーを使用して所定の厚さの平面略帯形に形成され、複数のフレキシブル基板10を着脱自在に密着固定する。この密着層3は5〜1000μmの厚さに形成されるが、これは、厚さが5μm未満の場合には、密着力が低下してフレキシブル基板10の密着が困難になるからである。逆に、厚さが1000μmを超える場合には、厚さの精度を維持することが困難になるからである。また、密着層3の周縁部には、直下の取付孔2に連通する取付孔4が貫通して穿孔される。
【0019】
各フレキシブル基板10は、例えばポリイミド、ポリエステル、銅箔、すずめっき、接着層等の多層化により屈曲可能に製造され、必要に応じてスルーホールが形成されるとともに、一般的には周囲に複数の位置決め孔(図示せず)が貫通して穿孔されたり、切り欠きが形成される。
【0020】
各変形防止ピン20は、基板1の線膨張係数よりも大きい線膨張係数の材料を使用して膨張可能なリベット形に成形され、半径外方向に張り出した頭部がフレキシブル基板10の周囲の位置決め孔に係止する係止部21とされており、加熱雰囲気の温度が高温になるにしたがい膨張する。
【0021】
変形防止ピン20の材料としては、例えばシリコーン系ゴム、フッ素系ゴム、ポリイミド等があげられる。このような変形防止ピン20は、密着層3に保持されたフレキシブル基板10の位置決め孔、密着層3の取付孔4を順次貫通して基板1の取付孔2に着脱自在に密嵌され、フレキシブル基板10を係止部21により押圧して位置決め固定する。ここで、例えばシリコーン系ゴムやフッ素系ゴムの室温域から250℃の範囲における線膨張係数は、1〜5×10−4/℃である。
【0022】
上記において、多層構造のフレキシブル基板10に実装部品を実装する場合には、先ず、電子部品固定治具の密着層3に複数のフレキシブル基板10を押圧して密着保持させ、フレキシブル基板10の表面にペーストはんだをメタルマスクを介してスクリーン印刷する。こうしてペーストはんだをスクリーン印刷したら、常温下で各フレキシブル基板10の表面に複数の実装部品をマウンタにより搭載するとともに、電子部品固定治具の複数の取付孔2・4に変形防止ピン20をそれぞれマウンタにより密嵌し、密着層3に複数のフレキシブル基板10を位置決め固定する。
【0023】
そして、加熱装置であるリフロー炉に電子部品固定治具と共に複数のフレキシブル基板10をセットし、遠赤外線、対流、熱風等の方法を通じて適温に加熱し、フレキシブル基板10のペーストはんだを溶融させてソルダリングすれば、フレキシブル基板10に複数の実装部品を実装することができる。
【0024】
変形防止ピン20は、基板1の線膨張係数よりも線膨張係数が大きいので、加熱に伴い膨張して取付孔2・4にきつく圧接し、密着層3に複数のフレキシブル基板10を強固に固定して反り、変形、脱落、吹き飛びを有効に防止する。ソルダリングが終了し、低温になると、元の寸法に復元して取付孔2の下方から容易に取り外し可能になる。ソルダリングされたフレキシブル基板10は、冷却、洗浄、検査工程等を経た後、梱包される。
【0025】
上記構成によれば、取付孔2・4に対する変形防止ピン20の密接力が加熱雰囲気の温度が高温の場合には増大し、加熱雰囲気の温度が低温の場合には減少して変形防止ピン20を抜けやすくするので、例えリフロー炉の熱風加熱等により密着層3の密着力が低下しても、簡易な構成でフレキシブル基板10の脱落や吹き飛ばされるのをきわめて有効に防止することができる。また、フレキシブル基板10が材料の線膨張係数の差により反ろうとしても、フレキシブル基板10の周縁部等が反ったり、変形してしまうおそれを有効に排除することができる。
【0026】
また、密着層3の密着力を向上させる必要がないので、電子部品固定治具からフレキシブル基板10を剥離する作業が困難になることがなく、剥離に際してフレキシブル基板10が反ったり、実装部品の脱落を招くこともない。さらに、基板1に変形防止ピン20が予め固定されるのではなく、基板1に対して着脱自在なので、フレキシブル基板10にペーストはんだをスクリーン印刷する際に支障を来たすのを抑制防止することができる。
【0027】
なお、上記実施形態では基板1に取付孔2を単に穿孔したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、取付孔2の内面に凹凸を形成して変形防止ピン20を抜けにくくしたり、取付孔2・4と変形防止ピン20の接触面をそれぞれ粗く形成して抜けにくくしても良い。また、密着層3は、微粘着層でも良いし、そうでなくても良い。
【0028】
また、図3に示すように変形防止ピン20を断面略逆L字形に成形したり、図4に示すように金属を使用して断面略逆円錐台形に形成し、この変形防止ピン20の周面を耐熱性のゴム22により被覆しても良い。さらに、フレキシブル基板10の表面に、ペーストはんだではなく、ペーストの接着剤等を塗布しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る電子部品固定治具の実施形態を示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る電子部品固定治具の実施形態における変形防止ピンの取り付け前の状態を示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る電子部品固定治具の他の実施形態における変形防止ピンを示す断面説明図である。
【図4】本発明に係る電子部品固定治具の他の実施形態における変形防止ピンを示す断面説明図である。
【図5】従来の電子部品固定治具を示す断面説明図である。
【図6】従来の電子部品固定治具の問題点を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 基板(基材)
2 取付孔(取付凹部)
3 密着層
4 取付孔
10 フレキシブル基板(電子部品)
20 変形防止ピン
21 係止部
22 耐熱性のゴム(耐熱性のエラストマー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性を有する基材と、この基材に設けられて電子部品を着脱自在に保持する密着層と、基材の取付凹部に着脱自在に略隙間なく挿入され、密着層に保持された電子部品を位置決め固定する変形防止ピンとを含んでなることを特徴とする電子部品固定治具。
【請求項2】
変形防止ピンの少なくとも周面を取付凹部に密接する耐熱性のエラストマーとし、基材の取付凹部に対する変形防止ピンの密接力を、雰囲気の温度が高温の場合には増大させ、雰囲気の温度が低温の場合には減少させるようにした請求項1記載の電子部品固定治具。
【請求項3】
変形防止ピンの上部を幅方向に伸ばして電子部品に引っかかる係止部とした請求項1又は2記載の電子部品固定治具。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれかに記載の電子部品固定治具を使用して電子部品に加工を施す電子部品の加工方法であって、
電子部品固定治具の密着層に電子部品を保持させた後、加熱装置に電子部品固定治具と共に電子部品を供給するまでの間に、電子部品固定治具の取付凹部に変形防止ピンを略隙間なく挿入して密着層に電子部品を位置決め固定することを特徴とする電子部品の加工方法。
【請求項5】
電子部品固定治具の密着層に保持させた電子部品にはんだを供給し、電子部品に実装部品を搭載するとともに、電子部品固定治具の取付凹部に変形防止ピンを略隙間なく挿入して密着層に電子部品を位置決め固定し、その後、加熱装置に電子部品固定治具と共に電子部品を供給し、電子部品のはんだを溶融させてソルダリングする請求項4記載の電子部品の加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−245205(P2006−245205A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57542(P2005−57542)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】